雄山山頂から御前谷・タンボ平
![情報量の目安: S](https://yamareco.info/themes/bootstrap3/img/detail_level_S2.png)
![都道府県](/modules/yamainfo/images/icon_japan.png)
![](https://yamareco.info/include/imgresize.php?maxsize=90&crop=1&fname=%2Fuploads%2Fypd13cf5add67aea4.png)
- GPS
- 08:34
- 距離
- 9.3km
- 登り
- 884m
- 下り
- 1,344m
コースタイム
※御前谷からの滑走は2名です
天候 | 3日 : 午後から雨で停滞。夕方快晴。 4日 : 晴れのち曇り 5日 : 小雪、強風。 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
黒部平からはロープウェイ+トロリーバス |
コース状況/ 危険箇所等 |
一ノ越〜雄山 : 岩と雪、軽アイゼンで親子連れが登ってくるなど、上から石や人が落ちてくるリスクもあり、ある意味運に委ねているかも。ピッケル+アイゼンで登攀。別の単独者が実際落石を起こしてる人もいました。 雄山〜御前谷〜タンボ平 : エキスパート以外の入山は極めて危険、またエキスパートでも単独は避けるべきコースです。雪の状況も慎重に見極めてください。 |
写真
軽装備の人も多く、注意が必要。軽アイゼンで登って、滑り落ちて他の人にぶつかり、滑落死させたらどうなるのか、想像できないのでしょう。
同日、別パーティーの1名が滑落死されました。
感想
山岳会の例会で雷鳥沢テント泊、雄山から御前谷に山スキーでドロップインしてきました。
もともとの計画では3日と5日にも登る予定でしたが、3日は雨、5日は雪と強風で中止。実質4日のみの行動となりました。
今回は6人のパーティー、山スキーが4名、歩行が2名です。4日から合流した2名は山スキーです。
合流した2名を除くと私が最年少(笑)、諸先輩方の豊かな経験に基づいた話を聞けることは大変有意義でした。
初日の3日は9:20に立山駅からの室堂行き直通バスを予約済みで、駅に到着してから1時間ほど準備しながら待っての乗車です。GWですからガンガン臨時便が出て行きます。
10kg以上の荷物と1m以上のスキーは別途300円が必要、わざわざ計量する必要もないくらいのザック。共同装備の食料を追加で詰め込んで30kg近くになっていたと思います。
室堂ターミナルは人・人・人。観光客も多いですが、登山者も多いです。山スキー比率もかなり高いです。登山届けを出すよう呼びかけをされてましたが、あまりの人の多さ、無届で入山された方も相当数あったのではないかと思われます。入山にはビーコンは必携なのですが、これも徹底できているわけではなく各自の管理に任されています。
天気は曇り。予報では午後から雨が降るかも?ということでした。重いザックを背負ってのスキーは拷問、ちょっとバランスを崩すとそのまま回避できずに転倒。起き上がるには再度ザックを下ろしスキーも外さないといけません。こんな重装備でスキーでの稜線歩きなど危険ですから、アタック時は日帰り装備とするのが普通です。
雷鳥沢の幕営地は結構賑わってますが、まだスペースはありました。5人用と3人用のテントを設営したところで雨が降り始めました。仕方がないので停滞して宴会です。
夕方になると雨も止んできましたが、ガスってて視界は余りありません。時々外をチェックしていると、視界が晴れだし、その後に何と一気に晴れ渡りました。雲海上の別天地です。
時刻は夕方5:30でしたが、これは一本滑らないとということで30分ほどシールで登ります。しかし時間とともに雪もカチカチになって、滑るころにはガリガリの残念な結果に。景色がよかったのでよしとしましょう。
今回の例会は、食事もお酒も豊富で、消費しきれずに少し持ち帰るくらいでした。何とも贅沢なことです。
夜も快晴でかなり冷え込み、テント内のヘルメットが凍るくらいでした。シュラフカバーをするのを忘れて寝たため、朝方は寒くて目が覚めました。
2日目は5/4は快晴。雪は前日の雨もあってカチカチです。午後から緩んでくれることに期待して、いきなりクトーを装着してのシール歩行でまずは一ノ越を目指します。
途中で、室堂からの登山ルートから誰かが叫んでいます。何があったのか把握できませんでした。少し進むと、固い斜面に大量の鮮血の跡があり、滑落事故があったことを示しています。血の跡はどうやら雄山山頂あたりからずっと続いており、遺留品もあるようなのでそのまま斜面を直登して調べることにしました。
まずは手袋のインナー、その上方にはアウターが。そして更に上にはスキーと思われるものが1本横たわっていました。遺留品の回収は警察の立会いが原則ですので、そのままにして証拠写真だけ撮影しておきます。実際には単独事故の場合は遺留品の回収は行われないことが多いようで、後日に遺族関係者が回収ということになるでしょう。
これ以上登ると斜度が強まり、こちらの滑落のリスクが高まるので途中までとし、予定通り一ノ越を目指します。
一ノ越でメンバーが揃うのを待ち、リーダーと私のみスキーを担ぎ、残りの方はスキーをデポしての雄山アタックです。風が強く、雪の状態が固いままなので山頂からの滑降は相当なスキルが必要と判断した結果です。
雄山へのルートは固い雪と岩、アイゼンとピッケルでの登攀です。時々、軽アイゼンと登山靴という装備の人も見かけ、上から人が落ちてこないかが一番の心配事です。有名どころの山ではどうしてもこういうことになるのでしょうけども・・・。
途中、メンバーが体調不良を訴えたため、軽めのザックの方と荷物を交換してもらい、休憩の後再アタックとなりました。酸素が少ないのでどうしても体力を要求されるところです。
強風の中無事に全員が雄山登頂を果たし、雄山神社にお神酒を捧げます。(私は強風で危険なので先に戻りましたが)
さて、予定の御前谷滑降をどうするか?滑落事故が起きるくらい固い斜面でしたが、午後になって僅かに表面が緩み出し、最初の斜度も50〜60°程度なので行ける自信はありましたが、リーダーの判断待ちとします。
リーダーの判断は「大丈夫だろう」ということで、行くことになりました。先にリーダーがドロップイン、ターンを切ると固い雪がバラバラと崩れ落ちていきます。その後に私がドロップイン、高速スキーヤー(単にターンが緩いだけ)なのでリーダーを追い越し、超急斜面をコントロールして滑る絶頂感で雄叫びを上げながらガンガン降りていきます。バラバラと落ちる固い雪とどちらが速い?と競争するような滑走です。
途中で休憩しようにも斜度が強すぎて待機すると危険なので、そのまま斜度が35°くらいに緩むまで一気に滑ります。
とにかく長い斜面、標高差にして750mは下らないといけません。途中、運悪くリーダーの板が外れて落ちていきました。最初は事態を把握できませんでしたが、よく見ると確かにリーダーの板が一本しかありません。斜面の下はデブリが堆積しているので、そこで止まっていることを期待して私が見に行くことにしました。
30mほど下ったところで板が横転して止まっており、シールを貼って板を担いで登り返します。上からもリーダーが下りてきて遭遇、事なきを得ました。
この御前谷はそのまま下っていくと滝が出てくるので、道具でも人でも落ちるともう終わりです。実際、スノーボーダーが板を外して登り返してたところを滑落して滝に転落するという死亡事故が過去にあったところです。
そういう意味では極めてリスクの高いルートなので、絶対に自信のある方でない限りは御前谷に入るべきではありません。
さて、2270m辺りでトラバースを開始し、タンボ平まで向かいます。GPSで小まめに場所を確認し、トラバースすることにします。雪もここまでくると完全にザラメになっており、特に問題はありません。
長い長いトラバースで、ロープウェイの電力線が見えてくるといよいよタンボ平が近いのですが、それにはある程度の登り返しが必要です。しかも斜度は70°くらいある斜面です。シールは使えませんし、下手に板を落とそうものなら拾いに行くこともできないくらい深い谷です。下りることも横に移動することも許されず、ただこの急斜面を登るしか手段はありません。
リーダーは板を外してツボ足とし、私は板を落とすのを警戒してカニ歩きで登ります。緊張と登りのために喉がカラカラになりますが、飲み物を飲むような余裕はありません。カニ歩きだとずっと右足に負担がかかるのですが、それを回避するには絶妙なバランスで立つ必要があり、逆に怖くて休息にもなりません。
30mほどの登り返しの最後は垂直の雪の壁です。ここはツボ足のリーダーが先行して突破。私のカニ歩きでは突破不能、リーダーに手を掴んでもらった状態で、スキーのまま左足を上げて壁の上に足を持って行き、そこから残った体を少しずつ上に移動してようやく突破できました。
この時にスキー板に力がかかるとビンディングが開放して板が転落する危険があります。山スキーの場合、核心部の通過では板が外れることが絶対に許されないため、そのようなときはビンディングを開放しないようにして(ツアーモードにロック)滑ります。幸い今回もそうしていたので、開放する心配はありませんでした。
このように、自らの足の骨折と板の滑落を天秤にかける場面があるのが山スキーです。それに不安があれば、そういう心配のないコースのみの計画を立ててもらって入山するようにしましょう。
さて核心部の突破が終わり、ロープウェイが見えてきました。もうここからはタンボ平に滑り込み、ロープウェイの黒部平駅まで行くだけです。入り口の斜度はかなりありますが、完全にザラメになった雪ですし、落ちてもタンボ平で安心です。唯一、雨が雪の上を流れてできる溝が深く、平地は結構滑りにくかったですが・・・。
ロープウェイからは丸見えなので、都度手を振ると乗客の方も相手してくれます。こちらは達成感満点ですし(笑)
黒部平まで少しの登り返しを経て、観光客が時間待ちをしている黒部平駅に異端児登場!という感じで現れ、大観峰行きのロープウェイに乗車します。幸い待ち時間もありませんでした。大観峰からはトロリーバス、こちらも待ち時間なし。逆方向は混雑していましたが。
ようやく室堂ターミナルに戻り、シール歩行の後雷鳥沢まで無事に帰還しました。(雷鳥荘で温泉に入りました◎)
夜はエクストリームスキーの話、滑落事故の話などをしながら夕食です。
最終日、朝4時半に起床しますが、小雪が降り出し登山は中止。朝食の後撤収して室堂に戻ります。
強風と霰というかなり厳しい条件、さらなる遭難事故がなければと願いつつ、美女平行きのバスに乗り込みました。
繰り返しになりますが、入山記録があるからと言って御前谷に入っても大丈夫というものではありません。雪の状態によって条件は大幅に変わり、場合によっては核心部の突破不能で下山不能になる可能性も十分にあります。
その場合は来た道を戻って急斜面を登り返し、夕暮れでビバーク、翌日帰還ということになります。それが可能な体力と装備は最低限持ち合わせておいてください。バックカントリーで大自然の中を滑走、という楽しみの裏には常に、決死のサバイバルに直面するリスクがあるということを覚えていただければと思います。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する