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Yamareco

記録ID: 6033787
全員に公開
沢登り
東海

【奥美濃】揖斐川源流・赤谷 稜線まで完全遡行(源頭大滝を越えて展望の権現山へ)

2023年10月07日(土) ~ 2023年10月08日(日)
 - 拍手
GPS
32:00
距離
33.7km
登り
1,166m
下り
1,151m

コースタイム

1日目
山行
7:50
休憩
0:40
合計
8:30
7:30
30
塚トイレ広場(駐車地)
8:00
8:00
20
赤谷に入渓
8:20
8:20
30
イチン谷出合
8:50
8:50
130
道谷出合
11:00
11:40
90
舟木平を探索
13:10
13:10
50
タンド谷出合
14:00
14:00
80
中ツ又出合
15:20
15:20
40
ミト谷出合
16:00
幕営地(ミト谷出合から40分ほど進んだ河原)
2日目
山行
9:30
休憩
0:00
合計
9:30
6:00
120
幕営地(ミト谷出合から40分ほど進んだ河原)
8:00
8:00
60
林道塚線の交差地点を通過
9:00
9:00
70
赤谷源頭大滝
10:10
10:10
60
権現山(△1143.4m)
11:10
11:10
260
林道塚線に降り立つ
15:30
塚トイレ広場(駐車地)
天候 10/7 晴れ 10/8曇りのち雨
過去天気図(気象庁) 2023年10月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
・ 国道417号線の塚白椿トンネル西詰にある塚トイレ広場に駐車(駐車スペースはかなり広い)。
・ 高倉峠に通じる林道塚線は現在も土砂崩れの復旧工事中で,塚トイレ広場前の橋に車止めがあり,車での進入は不可。
コース状況/
危険箇所等
 揖斐川源流・赤谷(あかんだに)は,3枚の地形図にまたがるほどの長大な流域を持った谷で,穏やかに蛇行を繰り返す美しい清流をゆったり遡行できる奥美濃の秀渓として有名だが,遡行自体は林道が谷をまたぐウソ越で終了してしまうことがほとんど。今回はさらに遡行を継続し,稜線まで詰め上げてみた。源頭ではちょっとびっくりするほどのスケールの岩壁を擁した大滝や,素晴らしい展望の山頂が出迎えてくれました。
 ついでに,「おとら」という美女が住んでいたという伝説の残る「舟木平」もちょっと探索。
(赤谷源頭に関しては,「山にでかける日」のtsutomuさん,「大人の水遊び」のもんりさんの記録に触発されました。ありがとうございます!)

【赤谷(揖斐川源流)】
・ 基本的には穏やかで美しい平流が続く谷で,遡行難度は高くないが,通過のポイントは以下の3点(はあくまで稜線まで詰め上げる場合)。
 …源劵滝の難所…イチン谷出合とタンド谷出合の中間くらいにある淵と滝が連続する箇所。右岸枝谷(銚子洞)から落ちる10mほどの美しいスダレ滝の前を急角度で右折すると,まず両側を高い壁で挟まれた淵。この淵は,右岸の水面付近(特に水面下)にわずかに足場がつながっているので,そこをヘツリ抜けることができる(上に登りすぎると行き詰るので注意)。しかし,最後の最後に足場がない箇所が出てくるので,そこは上から垂れているトラロープを手掛かりに大股開きで強引に通過する必要がある。盛夏ならもちろん泳ぎでの突破も楽しい。次に2段4mほどの滝(これが銚子ヶ滝。「男銚子(おぢょうし)・女銚子(めぢょうし)」とも言うらしい)が出てくるが,これは左岸巻きで通過。
◆|罐痛出合を過ぎたあたりのミニゴルジュ…胸まで淵に浸かって突破するか,右岸高巻きで通過できる(かなり藪が激しいが,懸垂不要で歩いて谷に戻れる)。今回は淵の中に流木が沈んでおり,それを足場にして容易に通過できた。
 赤谷源頭大滝…赤谷源頭(左俣)の標高950m付近に現れる大滝。滝自体は15mほどで水量も少ないが,滝の両側に聳え立つ岩壁が物凄く,壮観の一言。今回は左岸巻きしたが,壁は途切れることなく続いており,最終的にブッシュ登攀を強いられた。壁を乗り越えた後は谷は穏やかになり,歩いて谷底に戻れる(tsutomuさんは右岸巻きされているが,こちらもなかなか苦労する様子)。なお,大滝前後に現れる小滝群は全て直登可能なので,赤谷の長い平流歩きで異常亢進してしまった滝登り欲を遺憾なく満たしてください。
・ この谷は,少なくとも銚子ヶ滝の難所までは釣り人の入渓も多いので,無用なトラブルにならないよう,早い時刻に入渓することをお勧めします。(今回の山行でも,この時期なのに2人の釣り人に出会ったが,穏やかな方々だったので先に行かせてもらえた)

【下山路について】
・ 今回詰め上げた越美国境稜線の権現山(△1143.4m)からは,稜線沿いに高倉峠(正確に言うと,高倉峠から100mほど林道を岐阜側に下った地点)まで踏み跡があり,それを辿って下山できる。藪っぽくはあるが,マーキングもあり踏み跡自体もしっかりしている。ただ,P1047にて,北側のP892m方面に向かう踏み跡と分岐してからは,やや藪が濃くなるので注意。
・ 現在,林道塚線が通行止めのため,高倉峠から駐車地の塚トイレ広場までは延々と歩くしかない状況。将来的に林道が復旧すれば,高倉峠付近に自転車をデポするなり車を一台停めておくなりの手段が取れる。
塚トイレ広場に車を停めて出発。
塚トイレ広場に車を停めて出発。
高倉峠に通じる林道塚線は,塚トイレ広場の目の前の橋にこのとおり車止めがあり,未だに通行止め。昨年までなら車で行けた赤谷出合まで,ぼちぼち歩く。
高倉峠に通じる林道塚線は,塚トイレ広場の目の前の橋にこのとおり車止めがあり,未だに通行止め。昨年までなら車で行けた赤谷出合まで,ぼちぼち歩く。
ちなみに,長らくトンネル工事を行っていた冠山峠道路は,11/19(日)に開通予定! 「通年通行可能」なこの道路の開通は,この山域での冬季登山の様相を一変させるだろう(「遠い山」というイメージが薄れることは,少し寂しくもあるが…)。
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ちなみに,長らくトンネル工事を行っていた冠山峠道路は,11/19(日)に開通予定! 「通年通行可能」なこの道路の開通は,この山域での冬季登山の様相を一変させるだろう(「遠い山」というイメージが薄れることは,少し寂しくもあるが…)。
問題の土砂崩れ箇所。土砂自体は既に撤去されているが,法面の吹き付け工事中なので,一般車両の通行を禁じているようだ(地元の車両は既に通行している様子)。
問題の土砂崩れ箇所。土砂自体は既に撤去されているが,法面の吹き付け工事中なので,一般車両の通行を禁じているようだ(地元の車両は既に通行している様子)。
赤谷出合に到着。長大な赤谷流域への玄関口だ。いつ来ても,ここに立つとワクワクする。才の谷橋の東詰付近から河原に降りる踏み跡があるので,そこから出合に降りる。
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赤谷出合に到着。長大な赤谷流域への玄関口だ。いつ来ても,ここに立つとワクワクする。才の谷橋の東詰付近から河原に降りる踏み跡があるので,そこから出合に降りる。
赤谷の遡行開始。水量は少なめの様子。膝丈程度の渡渉を繰り返しながら,ゆっくり谷を遡っていく。やはりいつ来ても赤谷はいいなぁ。
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赤谷の遡行開始。水量は少なめの様子。膝丈程度の渡渉を繰り返しながら,ゆっくり谷を遡っていく。やはりいつ来ても赤谷はいいなぁ。
イチン谷出合通過。
イチン谷出合通過。
さらに道谷出合を通過(影になって見にくいが,右が道谷,左が赤谷)。
さらに道谷出合を通過(影になって見にくいが,右が道谷,左が赤谷)。
道谷出合を過ぎると,大きなサワグルミやトチノキ,ミズナラが増えてきて,林相がぐっと良くなる。
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道谷出合を過ぎると,大きなサワグルミやトチノキ,ミズナラが増えてきて,林相がぐっと良くなる。
滝もない,ゴルジュもない,ただ悠々とした清流と深い森があるだけ。だがそれがいい。
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滝もない,ゴルジュもない,ただ悠々とした清流と深い森があるだけ。だがそれがいい。
「永遠に引き延ばされた散歩」,そんな文句が頭に浮かぶ。
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「永遠に引き延ばされた散歩」,そんな文句が頭に浮かぶ。
大分歩いたところで,目の前に大きな滝が見えてきた。銚子洞と呼ばれる右岸枝谷にかかる美しい滝だ。赤谷本流はこの滝の前を急角度で右折し,ここからちょっとした難所が始まる。(ちなみに,この滝の前で釣り人に出会った。ここで引き返されるとのこと。こちらの存在に気付かない相手に「こんにちは!」といきなり挨拶したので,めちゃくちゃ驚かれてしまった。すみません…。)
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大分歩いたところで,目の前に大きな滝が見えてきた。銚子洞と呼ばれる右岸枝谷にかかる美しい滝だ。赤谷本流はこの滝の前を急角度で右折し,ここからちょっとした難所が始まる。(ちなみに,この滝の前で釣り人に出会った。ここで引き返されるとのこと。こちらの存在に気付かない相手に「こんにちは!」といきなり挨拶したので,めちゃくちゃ驚かれてしまった。すみません…。)
ここまで概ね穏やかな河原歩きだったのだが,ここから急に岩が張り出し,やや険しい渓相に。
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ここまで概ね穏やかな河原歩きだったのだが,ここから急に岩が張り出し,やや険しい渓相に。
そして目の前に現れるのが,この美しい淵。穏やかな赤谷にあって,この先の最深部に進む資格があるかどうか,遡行者を試す唯一の関門のようなものだ。盛夏なら泳いで突破が手っ取り早いのだが,流石にもうかなり水が冷たいので,ヘツリ抜けることに。
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そして目の前に現れるのが,この美しい淵。穏やかな赤谷にあって,この先の最深部に進む資格があるかどうか,遡行者を試す唯一の関門のようなものだ。盛夏なら泳いで突破が手っ取り早いのだが,流石にもうかなり水が冷たいので,ヘツリ抜けることに。
ヘツリ抜けた後に撮影。この右岸の壁の水面付近(水面のちょっと上〜水面下)にうまいこと足場がつながっており,そこを慎重にヘツリ抜けることができる。ただ,最後の最後でブランクセクションが出てきてしまうので,そこは写真にも写っているトラロープを掴んで大股開きで強引に越える必要あり。(前回遡行時は,トラロープにつられて高く登りすぎてしまい,行き詰って苦労した…)
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ヘツリ抜けた後に撮影。この右岸の壁の水面付近(水面のちょっと上〜水面下)にうまいこと足場がつながっており,そこを慎重にヘツリ抜けることができる。ただ,最後の最後でブランクセクションが出てきてしまうので,そこは写真にも写っているトラロープを掴んで大股開きで強引に越える必要あり。(前回遡行時は,トラロープにつられて高く登りすぎてしまい,行き詰って苦労した…)
淵を抜けた後に現れるのが,この銚子ヶ滝(2段4mくらい)。上段,下段の滝をそれぞれ「男銚子(おぢょうし)」「女銚子(めぢょうし)」とも呼ぶらしい。この滝は左岸巻き。それほど難しくないが,それなりに急斜面なので注意。
淵を抜けた後に現れるのが,この銚子ヶ滝(2段4mくらい)。上段,下段の滝をそれぞれ「男銚子(おぢょうし)」「女銚子(めぢょうし)」とも呼ぶらしい。この滝は左岸巻き。それほど難しくないが,それなりに急斜面なので注意。
巻き終えて,銚子ヶ滝の落ち口から。下からは見えないが,やはり2段の滝になっている。
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巻き終えて,銚子ヶ滝の落ち口から。下からは見えないが,やはり2段の滝になっている。
しばらく岩盤質の谷が続くが,通過は容易。
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しばらく岩盤質の谷が続くが,通過は容易。
やがて谷は穏やかさを取り戻し,周囲の美しい樹林を眺めながら悠々と行く。
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やがて谷は穏やかさを取り戻し,周囲の美しい樹林を眺めながら悠々と行く。
そしてしばらく行くと,左岸から流入するこの枝谷が舟木谷。この舟木谷の周囲には,「舟木平」と呼ばれるちょっと不思議な地形が広がっている(地形図で言うと,タンド谷出合のやや下流側,P584mの小さな丘のある平)。ここでこの枝谷にちょっとだけ入り,舟木平に寄り道。
そしてしばらく行くと,左岸から流入するこの枝谷が舟木谷。この舟木谷の周囲には,「舟木平」と呼ばれるちょっと不思議な地形が広がっている(地形図で言うと,タンド谷出合のやや下流側,P584mの小さな丘のある平)。ここでこの枝谷にちょっとだけ入り,舟木平に寄り道。
ここが舟木平。舟木平には「おとら」と言う名の美しい娘が住んでいたという伝説が残っており,深い谷間にここだけ穏やかな地形が広がっているという不思議さも相まって,一度探索してみたいと思っていた場所だった。
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ここが舟木平。舟木平には「おとら」と言う名の美しい娘が住んでいたという伝説が残っており,深い谷間にここだけ穏やかな地形が広がっているという不思議さも相まって,一度探索してみたいと思っていた場所だった。
「美濃徳山の地名」には「果樹や石垣が残っている」という気になる記述もあり,ちょっとウロウロしてみたが,確かに一部,写真のように線上に石が積み重なったように見える箇所もあり,石垣に見えないこともない…。ここに「おとら」さんの家があったのだろうか?(ちなみに,果樹についてはそれらしい木は発見できず)
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「美濃徳山の地名」には「果樹や石垣が残っている」という気になる記述もあり,ちょっとウロウロしてみたが,確かに一部,写真のように線上に石が積み重なったように見える箇所もあり,石垣に見えないこともない…。ここに「おとら」さんの家があったのだろうか?(ちなみに,果樹についてはそれらしい木は発見できず)
ここもそれっぽいような…。石積みの上の土地は平らに均されており,確かに住居跡の石垣に見えなくもない。今は秘境にしか思えない赤谷も,昔はムツシ(焼畑地)などがあったようなので,出作り小屋があったのかもしれない。そう,信じられないが,こんな奥地に…。
ここもそれっぽいような…。石積みの上の土地は平らに均されており,確かに住居跡の石垣に見えなくもない。今は秘境にしか思えない赤谷も,昔はムツシ(焼畑地)などがあったようなので,出作り小屋があったのかもしれない。そう,信じられないが,こんな奥地に…。
人の痕跡を求めて,さらに舟木平をぶらつく。地形図で想像していたよりも,かなり面積の広い平だ。藪もそれほどでもなく,結構歩きやすい。
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人の痕跡を求めて,さらに舟木平をぶらつく。地形図で想像していたよりも,かなり面積の広い平だ。藪もそれほどでもなく,結構歩きやすい。
と,驚いたことに,錆び錆びの古い林業用ワイヤーを発見! 今では信じがたいことだが,こんな赤谷の深いところまで伐採が入っていたのだろうか? どうやって切り出した木を搬出していたのだろう。興味津々である。(となると,さきほどの石垣らしき石積みも,けっこう近代に入ってからの植林小屋だった可能性も出てくる)
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と,驚いたことに,錆び錆びの古い林業用ワイヤーを発見! 今では信じがたいことだが,こんな赤谷の深いところまで伐採が入っていたのだろうか? どうやって切り出した木を搬出していたのだろう。興味津々である。(となると,さきほどの石垣らしき石積みも,けっこう近代に入ってからの植林小屋だった可能性も出てくる)
さらに,舟木平にちょこんと存在し,気になる小山であるP584にも登ってみた。この小さな丘は「美濃徳山の地名」によると「宮山」とも呼ばれていたそうで,頂上にお宮の跡でもあったら面白いな,と思っていたのだが,なんもなかった。まあ当然か…。
さらに,舟木平にちょこんと存在し,気になる小山であるP584にも登ってみた。この小さな丘は「美濃徳山の地名」によると「宮山」とも呼ばれていたそうで,頂上にお宮の跡でもあったら面白いな,と思っていたのだが,なんもなかった。まあ当然か…。
舟木平の探索を打ち切り,赤谷本流に戻って遡行再開。残念ながら,おとらさんには会えませんでした!(当たり前か)
舟木平の探索を打ち切り,赤谷本流に戻って遡行再開。残念ながら,おとらさんには会えませんでした!(当たり前か)
こんな小滝は時々出てくるものの,穏やかな谷のそぞろ歩きが続きます。
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こんな小滝は時々出てくるものの,穏やかな谷のそぞろ歩きが続きます。
淵も時々出てくるが,泳ぐ必要はなく,ヘツリや渡渉で通過できる。
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淵も時々出てくるが,泳ぐ必要はなく,ヘツリや渡渉で通過できる。
タンド谷出合通過。タンド谷は,2mほどのこじんまりした滝となって出合っている。
タンド谷出合通過。タンド谷は,2mほどのこじんまりした滝となって出合っている。
タンド谷出合から中ツ又出合までの区間は,赤谷でもかなり深い位置のはずなのだが,意外にもあまり大木が見られず,それほど印象的な林相ではない。理由はよくわからないが…。
タンド谷出合から中ツ又出合までの区間は,赤谷でもかなり深い位置のはずなのだが,意外にもあまり大木が見られず,それほど印象的な林相ではない。理由はよくわからないが…。
中ツ又出合の少し手前に,河原が広く開けたところがある。数年前の前回遡行時は,ここで幕営した。焚き木も豊富で魅力的なのだが,今回はまだまだ時間の余裕があるので,先に進むことにする。
中ツ又出合の少し手前に,河原が広く開けたところがある。数年前の前回遡行時は,ここで幕営した。焚き木も豊富で魅力的なのだが,今回はまだまだ時間の余裕があるので,先に進むことにする。
中ツ又出合を通過(左が中ツ又,右が赤谷本流)。さすがに中ツ又は大きな支流なので,ここで赤谷の水量がぐっと少なくなる。
中ツ又出合を通過(左が中ツ又,右が赤谷本流)。さすがに中ツ又は大きな支流なので,ここで赤谷の水量がぐっと少なくなる。
中ツ又出合を過ぎると,すぐにこのミニゴルジュ帯が現れる。短いが,ただではこの谷から還さんぞ,と言わんばかりの険しい面構えだ。
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中ツ又出合を過ぎると,すぐにこのミニゴルジュ帯が現れる。短いが,ただではこの谷から還さんぞ,と言わんばかりの険しい面構えだ。
前回遡行時は右岸を高巻いて濃い藪に苦労したが,今回は水線沿いに進んでみると,普通なら泳がされそうな淵の中に,おあつらえ向きに流木が沈んでいるのを発見。天祐!とばかりに流木に乗っかり,その上をそろそろと歩いて,激流の淵を渡る。
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前回遡行時は右岸を高巻いて濃い藪に苦労したが,今回は水線沿いに進んでみると,普通なら泳がされそうな淵の中に,おあつらえ向きに流木が沈んでいるのを発見。天祐!とばかりに流木に乗っかり,その上をそろそろと歩いて,激流の淵を渡る。
淵を越えたところ。
淵を越えたところ。
あとの滝や淵は,簡単にヘツリ抜けられる。ミニゴルジュを越えてから振り返って撮影。
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あとの滝や淵は,簡単にヘツリ抜けられる。ミニゴルジュを越えてから振り返って撮影。
中ツ又からミト谷の区間は,樹林が美しい。特に右岸の笹ヶ峰東尾根側が秀逸。いつか歩いてみたい尾根だ。
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中ツ又からミト谷の区間は,樹林が美しい。特に右岸の笹ヶ峰東尾根側が秀逸。いつか歩いてみたい尾根だ。
特に太いミズナラが多い。
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特に太いミズナラが多い。
太いミズナラといえば,アレが出てないかな? と目につく木の周りを探してみたが,残念ながら出会えず。でもこれだけミズナラの古木があれば,真剣に探せばきっと見つかるでしょう。
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太いミズナラといえば,アレが出てないかな? と目につく木の周りを探してみたが,残念ながら出会えず。でもこれだけミズナラの古木があれば,真剣に探せばきっと見つかるでしょう。
水量は少なくなるものの,美しい谷が続く。
水量は少なくなるものの,美しい谷が続く。
ミト谷出合を通過。ミト谷を過ぎると,過去に上流側から伐採が入ったのか,林相が少し寂しくなる。赤谷の最深部を過ぎ,少しずつ林道が近づいてくるのを感じる。
ミト谷出合を通過。ミト谷を過ぎると,過去に上流側から伐採が入ったのか,林相が少し寂しくなる。赤谷の最深部を過ぎ,少しずつ林道が近づいてくるのを感じる。
ミト谷出合を過ぎ,このまま歩き続けると林道に出てしまいそうだったので,適当な河原で遡行を打ち切り,タープを張る。嬉しいことに良く乾いた流木も豊富で,焚火起こしもはかどった。
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ミト谷出合を過ぎ,このまま歩き続けると林道に出てしまいそうだったので,適当な河原で遡行を打ち切り,タープを張る。嬉しいことに良く乾いた流木も豊富で,焚火起こしもはかどった。
日が落ちると谷中はかなり冷え込み,夏用のペラペラのシュラフしか持ってこなかったこともあり眠れるか不安だったが,よく燃える焚火のおかげで暖かい夜を過ごせた。焼酎の心地よい酔いの中で,焚火のはぜる音と小さな獣が周囲を動き回る物音に聞き入りながら,次第に眠りに入っていった。
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日が落ちると谷中はかなり冷え込み,夏用のペラペラのシュラフしか持ってこなかったこともあり眠れるか不安だったが,よく燃える焚火のおかげで暖かい夜を過ごせた。焼酎の心地よい酔いの中で,焚火のはぜる音と小さな獣が周囲を動き回る物音に聞き入りながら,次第に眠りに入っていった。
翌朝,一晩お世話になった泊まり場に一礼して,遡行再開。いきなり深い釜を持つ小滝が現れるが,難なく小さく巻いて通過。
翌朝,一晩お世話になった泊まり場に一礼して,遡行再開。いきなり深い釜を持つ小滝が現れるが,難なく小さく巻いて通過。
意外にも岩の張った美しい滝場が断続的に出てくる。
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意外にも岩の張った美しい滝場が断続的に出てくる。
しかしそのうち谷は開けて,右岸には廃林道が見えてくる。
しかしそのうち谷は開けて,右岸には廃林道が見えてくる。
しばらく歩くと,廃林道がかなり低い位置に降りてきて,谷と並走するようになるが,この廃林道,けっこう藪っぽいうえに崩れている箇所も多く,この段階では谷底を歩いたほうが捗る。
しばらく歩くと,廃林道がかなり低い位置に降りてきて,谷と並走するようになるが,この廃林道,けっこう藪っぽいうえに崩れている箇所も多く,この段階では谷底を歩いたほうが捗る。
廃林道も出てきて終了ムードが漂うが,時々こんなサワグルミの立ち並ぶ爽やかな区間もあり,なかなか捨て置けない。
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廃林道も出てきて終了ムードが漂うが,時々こんなサワグルミの立ち並ぶ爽やかな区間もあり,なかなか捨て置けない。
そして大分歩いたところで,巨大な土管が転がる地点。地形図で言うと,大川谷(赤谷源流の左俣)を分けたあと,林道が谷をまたぐ地点だ。通常は,ここで廃林道に上がり,ウソ越に出て遡行終了とすることが多い。しかし,今回は赤谷を稜線まで詰め上げることが目的なので,そのまま遡行を継続する。
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そして大分歩いたところで,巨大な土管が転がる地点。地形図で言うと,大川谷(赤谷源流の左俣)を分けたあと,林道が谷をまたぐ地点だ。通常は,ここで廃林道に上がり,ウソ越に出て遡行終了とすることが多い。しかし,今回は赤谷を稜線まで詰め上げることが目的なので,そのまま遡行を継続する。
あれほどの豊かな水量を誇った赤谷も,ここまで来るとさすがに単なる小川のような風情。これを見たら,もうこの谷は終わり,と思いたくなるのが普通だろう。しかし,目の前の風景からは想像もできないが,この先の源頭に,驚くような地形が待っているはずなのだ。
あれほどの豊かな水量を誇った赤谷も,ここまで来るとさすがに単なる小川のような風情。これを見たら,もうこの谷は終わり,と思いたくなるのが普通だろう。しかし,目の前の風景からは想像もできないが,この先の源頭に,驚くような地形が待っているはずなのだ。
すぐに高倉峠に通じる林道塚線の橋が頭上に現れ,その下を通過。
すぐに高倉峠に通じる林道塚線の橋が頭上に現れ,その下を通過。
うっ,堰堤か…。右岸を高巻く。ちなみにもう一つ堰堤が出てくるが,それも右岸巻き。
うっ,堰堤か…。右岸を高巻く。ちなみにもう一つ堰堤が出てくるが,それも右岸巻き。
しばらくはヤブ沢然とした荒れた感じで,ややうっとおしい沢歩きが続くが…
しばらくはヤブ沢然とした荒れた感じで,ややうっとおしい沢歩きが続くが…
標高870m二俣を左に入ると,急に沢床に岩が張ったようになり,渓相が良くなる。
標高870m二俣を左に入ると,急に沢床に岩が張ったようになり,渓相が良くなる。
と,突然,右岸側に高々とそびえる岩塔が! 急にアルペンチックな雰囲気が漂い始めた。
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と,突然,右岸側に高々とそびえる岩塔が! 急にアルペンチックな雰囲気が漂い始めた。
岩塔の足元は狭いゴルジュのようになっており,小滝が連続して行く手を阻む。
岩塔の足元は狭いゴルジュのようになっており,小滝が連続して行く手を阻む。
赤谷本流の長い平流歩きで滝登り欲が溜まりに溜まっていたこともあり,水の冷たさも構わず,嬉々として直登。
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赤谷本流の長い平流歩きで滝登り欲が溜まりに溜まっていたこともあり,水の冷たさも構わず,嬉々として直登。
小滝ばかりではあるが,登れる滝が続いて面白い。
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小滝ばかりではあるが,登れる滝が続いて面白い。
と,目の前にひときわ明るい空間が開けたと思ったら,そこに大きな滝が! これが赤谷の源頭大滝か!
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と,目の前にひときわ明るい空間が開けたと思ったら,そこに大きな滝が! これが赤谷の源頭大滝か!
大滝の直下から。大滝と言っても,滝自体の水量は少なく,高さも15mほどではあるが…
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大滝の直下から。大滝と言っても,滝自体の水量は少なく,高さも15mほどではあるが…
しかしこの滝の凄さは,むしろ周囲を取り巻く岩壁のスケールの大きさだろう。藪っぽい壁ではあるが,かなりの高さの壁が滝の左右に立ち並んでいる。
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しかしこの滝の凄さは,むしろ周囲を取り巻く岩壁のスケールの大きさだろう。藪っぽい壁ではあるが,かなりの高さの壁が滝の左右に立ち並んでいる。
あの岩塔,めっちゃトガってんなー
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あの岩塔,めっちゃトガってんなー
この大滝,登れる人は直登もできそうだが,大人しく岩壁が若干低そうに見えた左岸から巻き始める。写真は巻きながら眺めた大滝の岩壁帯。穏やかな赤谷の奥にこんな地形が隠れているとはにわかに信じられない,なかなか迫力ある景観だ。おそらく,地質的には冠山の南壁に連なる岩盤なのだろう。
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この大滝,登れる人は直登もできそうだが,大人しく岩壁が若干低そうに見えた左岸から巻き始める。写真は巻きながら眺めた大滝の岩壁帯。穏やかな赤谷の奥にこんな地形が隠れているとはにわかに信じられない,なかなか迫力ある景観だ。おそらく,地質的には冠山の南壁に連なる岩盤なのだろう。
あそこまで巻けば,壁が途切れてるかも,と思っていた地点まで巻き上り,その先を覗き込むと…うぉい,まだ壁が続いてるよ!
あそこまで巻けば,壁が途切れてるかも,と思っていた地点まで巻き上り,その先を覗き込むと…うぉい,まだ壁が続いてるよ!
壁を巻きおおせるのは到底無理らしいと判明した今,取りうる道はこの壁を直登することのみ…。少しでも容易なルートを探して壁の基部をしばらく右往左往したあと,なるべくブッシュの多いラインに取りついて登っていく。短い距離だがさすがに高度感があり,緊張した。
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壁を巻きおおせるのは到底無理らしいと判明した今,取りうる道はこの壁を直登することのみ…。少しでも容易なルートを探して壁の基部をしばらく右往左往したあと,なるべくブッシュの多いラインに取りついて登っていく。短い距離だがさすがに高度感があり,緊張した。
壁を登り切ると,頂部はシャクナゲのひどい藪…。いや,藪はどうでもいいけどさ,その向こうはどうなってるの? 降りられるの?
壁を登り切ると,頂部はシャクナゲのひどい藪…。いや,藪はどうでもいいけどさ,その向こうはどうなってるの? 降りられるの?
ありがたいことに,壁の向こう側で谷は急に穏やかさを取り戻しており,さほど苦労せずに谷底に降り立てた。ほっとする瞬間。
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ありがたいことに,壁の向こう側で谷は急に穏やかさを取り戻しており,さほど苦労せずに谷底に降り立てた。ほっとする瞬間。
もういい加減稜線に近づいているはずなのだが,tsutomuさんの記録の通り,谷底は藪っぽさはほとんどなく,快適に歩いて行くことができる。
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もういい加減稜線に近づいているはずなのだが,tsutomuさんの記録の通り,谷底は藪っぽさはほとんどなく,快適に歩いて行くことができる。
ここまで来ても,まだまだ小滝が出てくるのが嬉しい。
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ここまで来ても,まだまだ小滝が出てくるのが嬉しい。
そして周囲はいつしか,越美国境の美しいブナの森に包まれ始める。
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そして周囲はいつしか,越美国境の美しいブナの森に包まれ始める。
稜線直下まで藪のないはっきりとした沢形が続き,藪の越美国境稜線とは思えないほどの快適な詰めとなった。
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稜線直下まで藪のないはっきりとした沢形が続き,藪の越美国境稜線とは思えないほどの快適な詰めとなった。
稜線に出ると,越美国境らしい,素晴らしいブナの森。しかも,藪も薄い!
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稜線に出ると,越美国境らしい,素晴らしいブナの森。しかも,藪も薄い!
フィナーレの権現山はすぐそこのはず。権現山に近づくと,やや濃い笹藪が現れたが,それも長くは続かない。
フィナーレの権現山はすぐそこのはず。権現山に近づくと,やや濃い笹藪が現れたが,それも長くは続かない。
空が大きく開けたと思うと,急に明るい切り開きに飛び出した。権現山(△1143.4m)の山頂に到着。
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空が大きく開けたと思うと,急に明るい切り開きに飛び出した。権現山(△1143.4m)の山頂に到着。
三等・藤倉。
権現山自体は,残雪期に金草岳から周回して来たことがあるが,噂通り,無雪期も藪の越美国境に似合わぬ素晴らしい眺望! 写真は金草岳アップ。
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権現山自体は,残雪期に金草岳から周回して来たことがあるが,噂通り,無雪期も藪の越美国境に似合わぬ素晴らしい眺望! 写真は金草岳アップ。
冠山から能郷白山にかけて。
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冠山から能郷白山にかけて。
写真だとちょっと見にくいけど,福井市街から日本海の眺めも良く見える。
写真だとちょっと見にくいけど,福井市街から日本海の眺めも良く見える。
壁小屋丸と笹ヶ峰。
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壁小屋丸と笹ヶ峰。
そして釈迦嶺。あの山の裾野を,ぐるりとここまで廻ってきたわけだ。
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そして釈迦嶺。あの山の裾野を,ぐるりとここまで廻ってきたわけだ。
そして,これから下山する高倉峠方面の眺め。
ひとつの遡行の終わりには山頂がなければならないなんて決まりは全然ないけれど,やはり明確な終わりがある山行は良いものだ。権現山の明るい山頂と素晴らしい眺望が,今回の赤谷遡行に素敵なフィナーレを添えてくれた。
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そして,これから下山する高倉峠方面の眺め。
ひとつの遡行の終わりには山頂がなければならないなんて決まりは全然ないけれど,やはり明確な終わりがある山行は良いものだ。権現山の明るい山頂と素晴らしい眺望が,今回の赤谷遡行に素敵なフィナーレを添えてくれた。
さて,下山。権現山から高倉峠までは明瞭な踏み跡があり,やや藪っぽいものの,それを辿ることができる。(以前,blackさん・reiさん・maripoさんパーティの記録を読んだことがあり,安心して辿れるわけです。ありがとうございます。)
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さて,下山。権現山から高倉峠までは明瞭な踏み跡があり,やや藪っぽいものの,それを辿ることができる。(以前,blackさん・reiさん・maripoさんパーティの記録を読んだことがあり,安心して辿れるわけです。ありがとうございます。)
P1047mからはやや藪の密度が増すが,マーキングもあるし藪の下の踏み跡はしっかり続いているので,それほど困難はない。
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P1047mからはやや藪の密度が増すが,マーキングもあるし藪の下の踏み跡はしっかり続いているので,それほど困難はない。
高倉峠手前の笹原は,ススキの銀の穂が波打ち,美しかった。
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高倉峠手前の笹原は,ススキの銀の穂が波打ち,美しかった。
林道に着地。(高倉峠から100mほど岐阜側に下った地点。一応,登り口にピンクテープもあるが,かなり藪っぽいので見つけにくいかも。)
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林道に着地。(高倉峠から100mほど岐阜側に下った地点。一応,登り口にピンクテープもあるが,かなり藪っぽいので見つけにくいかも。)
高倉峠に寄り道。秋の高倉峠は,一面のススキの波に包まれていた。
高倉峠に寄り道。秋の高倉峠は,一面のススキの波に包まれていた。
福井側の眺め。
塚の駐車地まで林道をぼちぼち歩いて下っていく。林道塚線は長い通行止めが続き,荒れがひどくなっている。この路盤欠損も,年々広がっている気が…。まあ,歩く分には大丈夫だけど。
塚の駐車地まで林道をぼちぼち歩いて下っていく。林道塚線は長い通行止めが続き,荒れがひどくなっている。この路盤欠損も,年々広がっている気が…。まあ,歩く分には大丈夫だけど。
いいかげん長い林道だが,下り基調だし,周囲をキョロキョロ眺めながら歩くのでそんなに退屈しない。今日,越えてきた赤谷源頭大滝の岩壁帯も林道から見えていた。あのどこかを登ったんだなぁ…。
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いいかげん長い林道だが,下り基調だし,周囲をキョロキョロ眺めながら歩くのでそんなに退屈しない。今日,越えてきた赤谷源頭大滝の岩壁帯も林道から見えていた。あのどこかを登ったんだなぁ…。
ん? なんかにょっきり岩塔が立ってるけど,あれ,何!?(ソバコ又の西隣の谷(アジミ谷)の奥に見えました。)
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ん? なんかにょっきり岩塔が立ってるけど,あれ,何!?(ソバコ又の西隣の谷(アジミ谷)の奥に見えました。)
4時間ほどの歩行で,やっと昨日の入渓地点である,赤谷出合に戻ってきた。また来るよ! と赤谷の流れに手を振りながら通り過ぎる。
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4時間ほどの歩行で,やっと昨日の入渓地点である,赤谷出合に戻ってきた。また来るよ! と赤谷の流れに手を振りながら通り過ぎる。
塚の駐車場に戻って来たころには,しとしとと雨が降り出していた。
塚の駐車場に戻って来たころには,しとしとと雨が降り出していた。

装備

備考 ・ この谷はぬめりがかなり強いので,フェルト底の沢靴を強く推奨。
・ ウソ越で遡行終了する場合はハーネス・下降器・ハーケン等の登攀具は不要(なんならロープも不要)だが,今回のように稜線まで詰め上げる場合は,源頭大滝周辺がかなり険しいので,ロープ等は携行したほうが良い。

感想

 昨年11月に道谷源流にあるというオホタルビの滝を探索した際,ウソ越と釈迦嶺をつなぐ稜線から,対岸の谷にかなりの規模を岩壁帯を見つけ,未知の大滝発見か? と色めき立った。しかし後日,「大人の水遊び」のもんりさんからのありがたい情報提供により,その時見つけた岩壁帯の大滝は赤谷源流に存在するもので,既に「山にでかける日」のtsutomuさん(左俣遡行)及びもんりさん自身(右俣遡行・左俣下降)により登られていることが判明した。tsutomuさん,もんりさんの記録を読み,あの赤谷の源頭に,まさかこんなにスケールの大きな岩壁を擁する大滝と,藪のない素敵なブナの森の源流,そして眺めの良い山頂があったなんて,と驚かされた。
 単純に行ってみたいと思った。だが,ここは大好きな赤谷に敬意を表して,赤谷源頭だけを歩くのではなく,徳山ダムの出合から稜線まで完全遡行で抜けてみたいと思った。赤谷自体は何年か前に一泊二日で(通常の遡行終了点とされている)ウソ越まで遡行済みだったが,あの美しい谷なら何度遡行してもいい。
 それに,そもそも,前回の赤谷遡行では,(赤谷が素晴らしい谷であることは言うまでもないのだが)一点だけ心残りと言うか,残念に思った点があった。それは,伝統的に,この谷の遡行が林道と交差するウソ越で終了するものとされており,あれだけ素晴らしかった本流遡行が,最終的に土管の転がる荒れ果てた廃林道で寂しく終わってしまう…という,竜頭蛇尾というか,とにかく尻すぼみの感が拭えなかった点だ。まあ,下山路のことを考えると,ウソ越で遡行終了しておくのが合理的なのは明らかだし,ウソ越周辺のあの荒れようを見て,「この先遡っても,もう何もあるまい」と考えてしまうのはごく自然なのだが。
 しかし,もし赤谷が,これまで遡行の終了点とされていたウソ越のさらに奥に,上述したような魅力的な源頭を持っているとしたら…。何となく終結部が物足りなかった赤谷遡行に,印象的なコーダを付け加えることができるかもしれない。
 そして今回の遡行。赤谷は,やはり前回と変わらぬ温和な渓谷美をもって再訪者を迎え入れてくれた。延々と蛇行を繰り返す青と緑の回廊のような赤谷の流れを奥へ奥へと歩いて行くと,「永遠に引き延ばされた散歩」という言葉が自然に頭に浮かんでくる。まあ永遠とまでいかなくても,2日間もかかる散歩なんて,何とも贅沢ではないか。
 そして目的の源頭では,大滝が想像していた以上のスケールの岩壁を従えて出迎えてくれた。試みた左岸巻きでは岩壁をかわし切ることさえできず,短いブッシュ登攀となり少し緊張したが,登りながら俯瞰する岩壁帯は壮観の一言で,穏やかなはずの赤谷遡行にピリリと厳しい,(やや大袈裟かもしれないが)アルペンチックとも言える風貌を与えてくれた。美しいブナの森と短い藪漕ぎを経て登り出た権現山は,藪の越美国境と思えないほどの素晴らしい眺望で,思い出深い奥美濃や越美の山々を眺め渡すことができる,静かな山頂だった。
 ひとつの遡行の最後には山頂がなければならない,なんて決まりはないけれど,やはり明確な終わりのある山行は良いものだ。渡りを間近に控えたイワツバメが飛び交う山頂から,延々と遡ってきた深い谷間の辺りを眺めて,改めて良い二日間だったと思った。
 
【余談: 舟木平について】
 今回の遡行の途中で寄り道した舟木平。タンド谷出合のやや下流,地形図で言うとP584の記載のある川沿いの平坦地ですが,この平に「おとら」という名前の美しい娘が住んでいたという旧徳山村の伝説があるそうです。「美濃徳山の地名」には,果樹や屋敷跡が残っている,ともある。今回の探索では石垣の跡?に見えなくもない石積みを見つけましたが,ここにおとらさんが住んでいたのでしょうか。「〽男銚子・女銚子は暗くて通る,舟木平は星明り…」という民謡も残っているそう。星明りの舟木平は,さぞかし静かで寂しい場所だったことでしょう。

【さらに余談】
 今回の遡行で分かったことがもう一つ。どうやら一日で赤谷をウソ越まで抜けることは十分可能そう(水量が平水以下の場合)。この谷をそんなに早足で駆け抜けて,果たして楽しいかどうかは疑問ですが…。

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コメント

大滝はテルくんの泣きが入ったやつなので、はっきりと記憶しております
登ったんですねー
巻いたにしても、すごいわ〜
敬意を表して出合からなんて、超人ぶりをいかんなく発揮なさって、敬服しっぱなしです
私も昨日徳山のお沢で遊んできましたが、hillwandererさんの10分の1くらいの遡行距離でした(笑)
 舞滝ロスに罹患中のもんり より
2023/10/16 6:26
moriman1971さん
私の方は2日間かかってますから〜
それにしても、テルくんはあの岩壁帯をどうやって降りたんでしょうか…。すごいな〜
舞滝、見れば見るほど凄い滝ですね。長年の憧れの地に到達した後って、しばらく放心状態になりますよね。第二、第三の舞滝が現われることを祈って!
2023/10/16 20:44
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