霞沢岳・徳本峠から島々谷へ
- GPS
- 56:00
- 距離
- 28.3km
- 登り
- 1,447m
- 下り
- 2,218m
コースタイム
- 山行
- 3:05
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 3:05
- 山行
- 9:28
- 休憩
- 0:27
- 合計
- 9:55
- 山行
- 6:35
- 休憩
- 0:10
- 合計
- 6:45
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2015年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
写真
感想
霞沢岳を知ったのは、山を始めた中学生の頃だ。家にあった日本アルプスの写真集に八衛門沢を正面にした写真が載っており、解説の「霞沢という名に魅かれる」とあるとおりその名前と、道がないというところに心引かれた。その後、徳本峠からの登山道が作られ、永く気に掛かっていたが、この五連休の絶好機に積年の宿題を片付ける気になった。
(19日) 天気:晴れのち曇り
出発の日に安保法「成立」となったのには何とも意気阻喪させられるが、今後のためにエネルギー補充と思って出かける。上高地までは8月の焼岳以来一か月の間もなく、こんなことはあまりない。初めは観光客も多いが、明神を過ぎると急に静かになる。すぐに右に折れて徳本峠への道に入る。徳本峠は大学生の時に島々側から歩いていて、約30年振りとなる。稜線は雲が掛かっているが、岳樺らしい黄色が混じり、すでに秋の気配がある。次第に道は傾斜を増し、二つ三つの流れを横切り、深山の雰囲気に入っていく。路傍の苔の上には草の葉が黄色い模様を浮かび上がらせている。やがて道が水平になると、小屋が姿を現す。事前に電話した時、「テントは予約不要。一杯になったことはないから。」と言っていたが、そのお姉さんが「張るところがないので、裏の平地に張ってくれ、自家発がうるさいけど」だと。仕方なく発電機から最も遠いところに張る。ビールを一本空けてから展望台に穂高を見に行く。秋の穂高はすっかり茶色の装いだった。その後も、後続の方が増えて、ヘリポートの四分の一ほどが埋まった。
(20日) 天気:晴れ
発電機は19時に止まったので実害はなかった。ぜいたくな連泊なので遅めの出発。ジャンクションピークへはいきなりジグザグの急登で、朝一番にはきつい。時々金色の朝陽が差し込む森の中をゆっくり登る。道はそれほど歴史が長くないとは思えないほどしっかり踏まれ、全くの一般道だ。東側の展望が開けるところからは、島々谷を埋めた雲海がまぶしく輝くのが望めた。傾斜が緩むと、小さな草むらが混じり、立ち枯れたリンドウが秋の風情だ。ピークとは言えない平坦な頂上を過ぎると、薄暗い針葉樹林の下りとなり、ぬかるんだところもあるが困るほどではない。樹間を透かして朝陽に照らされた霞沢岳の大きな山体が見えるが、まだまだ遠い。池を見送ると尾根らしくなってくる。黄色みを帯びた岳樺や、先のほうが紅葉したナナカマド、名前を知らないが赤く丸い葉っぱの灌木が入り混じり、陽光のもと初秋の爽やかさが満ち溢れる道だ。左は雲海の上に乗鞍や御嶽山が青い。
いよいよK1ピークの登りにかかる。右手は穂高が朝とは角度を変えて上半身?を覗かせ、行く手にはハイマツの濃緑をまとった稜線が近づいてくる。背中を日にあぶられるので中々苦しい。傾斜は増し、手を使う場面もある。石が浮いているので先行者や下りの人がいる時は要注意だ。唐突にピークに飛び出すと、周囲の展望に言葉もない。盟主奥穂を中央に、前穂、西穂が左右を固めて均衡のとれた形を作り、岳沢の奥の岩壁は真正面に全貌をさらしている。この場所からしか見られない展望を願いどおりに眺めることができ、幸福感に浸る。前月の記憶も新しい西穂山荘から焼岳への稜線や、中尾峠から笹の中を下るトレール、果ては一浴した温泉旅館まで眼下に見え嬉しい。大滝山から蝶ガ岳にかけての茫洋とした連なりと、さらにその先の常念から大天井に続くゆったりとした山脈もまた、何か旅ごころを誘う。腹ごしらえをしてもうひと頑張りだ。ハイマツの尾根道を楽しみながら進む。もう花はないが、コケモモの真紅の粒が岩肌に散りばめたようだ。人がたかっているK1の頭がどんどん低くなる。名残りのリンドウが咲く草むらのすぐ上が頂上だった。頂上は露地が4畳半くらいで狭く、人が続々と来るので「入れ替え制」だ。南側は乗鞍がほとんど雲に隠れてしまったのが残念だが、雲海を背に2553m峰は存在感がある。
そんな状況でゆっくりもできず写真だけ撮って頂上を後にする。聞こえてきた会話によればここは二百名山なのだそうで、北アの秘峰のイメージはもう昔のことになったらしい。長年の憧れを満足すべく、帰りは立ち止まって景色をじっくり眺め、写真を撮りながらゆっくりと歩く。東側からガスが湧き上がって真昼の太陽にまばゆい。K1でもまた座り込んで時を過ごしていると、雲に隠れていた笠ヶ岳が顔を出した。これだけ見るべきものを見尽くしたら、再度訪れることもないだろう。
テント場でビールを飲みたい気持ちとの均衡が破れ、帰途につく。K1の急傾斜は石を落とさないよう慎重に下る。尾根歩きになると、さすがに疲れが出て小さな登り返しがしんどい。ジャンクションピークからのつづら折りの下りを膝を労りながらようやく終えて、小屋に帰り着いた。テント場は、裏のヘリポートも一杯になっている。落ち着かないので、大滝山方面へ少し上がり、森の中でビールを味わう。
(21日) 天気:晴れ
上高地をゆっくり散策して温泉に入る案の誘惑は強かったが、やはり連休の雑踏の中で終えるのは忍びなく、島々に下ることにした。穂高に別れを告げ、岳樺のさわやかな林の中をジグザグを切って下っていく。歴史ある道だけに斜度も手ごろで歩きやすい。針葉樹が混じるようになると「力水」の水場だ。間もなく流れに沿うようになり、沢音を道連れにしっとりした森の中の歩きが続く。時々クルミだか橡の実だかが割られてたくさん落ちているので、猿がいるのだろう。何回か沢を渡るが、一か所丸太2本のかけ橋は心臓に悪かった。滝状を見るとすぐに岩魚留小屋(休業中)の前に出る。30年前に、ここがあるうちにと思って泊まった小屋だ。オレンジのランプの光に照らされた薄暗い天井と、煙り臭かったことだけがかすかに記憶に残っている。扉は閉ざされているが、建物は意外としっかりしていて懐かしい限りだ。
やがて両岸が迫り、桟道も出てくる。昔はもっと危なげだったような気がするが、今のはしっかりしており不安はない。「離れ岩」の前後が最も渓谷美が楽しめるところだ。中間点のベンチでコーヒータイム。持参の2万5千図のこの辺りに「めし」と×点が記されていて、30年前もここで昼飯を食べたのかと笑えてしまう。この先で、斜面が崩壊した後を何か所かトラバースする。踏まれてはいるが、降雨中は足元が緩くなると思うので要注意だ。明るい広葉樹やヒノキの林が出てきて終わりの近さを感じる。戻り橋の下に幕営によさそうな川原を見つけ、温泉代わりに手ぬぐいで体の汗をぬぐう。石碑を過ぎ、急に車が見えて二股の広場に出た。静かな山旅ができ、このルートを選んで正解だった。また来ても良いなと思う。
後は、延々と砂利道歩き。猿の群れが前を横切ったり、一度遠くなった水流がまた脇に戻ってきたりでさほど退屈ではなかった。やっと島々宿に付き、本日一日の伴侶だった島々谷川の流れと別れを告げる。バス停の周りでビールを探すが、役所の前に自販機があるわけもなく、すぐにバスも来てしまったので、余韻を味わう間もなく乗り込んだ。新島々駅でそそくさと着替えを済ませ、発車5分前にやっとビールにありつくことができた。
(総括)
永く気になっていた山にようやく登ることができ、満足感のある山行だった。これほど一般的になる前に来られれば、より良かったとも思うが・・。これからは徳本峠小屋でテントを使う場合は到着が遅くなりすぎないよう行程に工夫が必要かもしれない。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
miyamakoさん、はじめまして。
徳本峠越え、1日あとの20日から歩きました。徳本峠のテント場、すごい混雑している話で、1日目は徳沢でキャンプ、2日目の朝に徳本峠で撤収されているテントを見計らってテントを張り、霞沢往復しました。アップダウンが結構あって結構しんどいですね。
ではまた、何処かの山にて。
kuboyanさん、コメントありがとうございます。霞沢岳往復もさぞ賑やかだったでしょう。徳本峠のテント場、一杯になったことはないと言っていたけど、この特異な暦と、個室テント流行りの影響なのでしょうね。グループらしい方々も含めてほとんど一人用テントでしたから。徳本峠越えは本当にしみじみとした良いルートですが、あの丸太橋はこの山行の核心部でした。
同年輩のようですので、末永く楽しみましょう。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する