岩手山 冬季 御神坂沢〜洞ヶ沢〜大崩谷(仮称) 継続登攀
- GPS
- 56:00
- 距離
- 19.2km
- 登り
- 2,581m
- 下り
- 2,657m
コースタイム
岩手山というプリンに、スプーンでひとすくいしたような地形だ。
あの渓底を歩きたい。そもそもがそういう計画だった。
ついでなら・・
我が家から見上げるその岩手山の真正面には,まるで棟方志功が三角刀を押し込んだような深い渓が「ぐぐぐぐっ」と音を立てるように彫り込まれており、かねがねそこも歩いてみたいとも思っていた。御神坂沢という。
その左岸尾根を歩く岩手山御神坂登山コースには渓底を見下ろすことが出来る小鞍部があり、そこから見える御神坂大滝は、瀑布と言ってもいい。そこの冬姿はやはり夢想を膨らませる。
そして、岩手最難の沢と言われている洞ヶ沢が岩手山の北面に切り込んでいる。その沢の冬の遡行について昭和の40年代に記されたという古文書のような記録を読んでから、「どうにかならないものか、、、」という煩悶とした気持ちが何年も続いていた。
いっそのこと、それらをつなげてみよう。
過去天気図(気象庁) | 2015年03月の天気図 |
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写真
感想
3月22日。いつものように昨夜ははしゃぎすぎて1時間遅れで御神坂駐車場に到着。ドミノのように堰堤を立ち並べて御神坂沢が大口を開けている。その堰堤を避けるようにスキーでしばらく尾根を進み、渓底に降り立つ直前、いっこが樹林帯の急斜面を数メートル滑落するものの怪我も無く全員が最後の堰堤の上に降り立つ。
幅20mぐらいの広川原。ここからスキー遡行が始まった。
尾根の上なら照りつける太陽がさぞかし暑いと思われるが、渓の中はほどよい寒さを保ち気分がいい。イメトレの中で想定していた諸々の危険も、少なくとも川床の陥落の可能性は薄いという手応えに気を良くし、ぐいぐいと高度を稼いでいく。
やがて行く手を立ちはだかるように巨岩塊が横たわる。御神坂大滝。遠目にはえらいこと迫力のある滝だったが、近くで見るとこんなものかという気にもなる。しょぼい。この火山特有のあばた状の岩肌にうっすらと氷柱がこびりついている大滝の右岸を高巻く。
やがて沢は両側が狭まるゴルジュ状になるが、雪の詰まったそれは夏のような暗さや圧迫感とは異なり、異星に降り立ったかのような不思議な感覚をもたらしてくれた。芸術品と言ってもいい。所々出てくる自然の洞窟も、この季節は獣の集会場のような風情でいろいろな動物の足跡も楽しめる。
ゴルジュを抜け、沢はカールのような様相を呈してくる。だだっ広く広がる崩壊地。
見上げる鬼ヶ城がなかなか遠く、最後はついにスキーを脱いでの急斜面を這い上がると、唐突という感じで岩手山頂上とそこに連なる屏風尾根が翼を広げた白鷲のように視界に飛び込んできた。
夜は平笠不動避難小屋付近の平坦地にルンペン小屋を設営して、性懲りも無く酒を浴びる。
翌朝も快晴。今日は核心部の洞ヶ沢。スキーをデポし、アイゼン・ピッケルを装備して洞ヶ沢左岸尾根の1292m付近より急斜面を転がり落ちるように沢底へ降り立つ。名にし負う洞ヶ沢は火山性山地の北面の沢らしく、静かに暗く、そして狭い。しかし、そこに降り積もった雪が延々と続くゴルジュを化粧し、今まで見たことの無い世界を私たちに提供してくれた。いつ足元の雪が崩れるか不安なへつりから始まり、スコップを振り回しての滝の乗り越し、つま先を蹴り込んでふくらはぎを震わせながら急上昇するルンゼ、藪漕ぎのごとくラッセルしながら高巻く直登不可能な氷瀑、、、そして何よりも、「この屈曲を越えれば何が出てくるんだろう・・・」という沢登り特有のストーリー性。薄暗いゴルジュの中から見上げる細長い青空が、自分たちが沢の中にいるという実感を強めさせてくれるのは快感。
やがて、最後の急登を強引に登り切ると、サクッという感じで広々としたダケカンバの森に出た。こりゃいい気分の終わり方だよ。
夜は十数年ぶりの小屋泊まり。いっこは初めてだと言っていた。もちろん、小便一滴こぼすのにも気を遣う山小屋というものは、まった不便だと言うことを再確認しただけの夜になった。
荒天が予想された翌日の早朝、岩手山南東渓の下降を予定しているものの、小屋の2階の入り口を開けると外は猛吹雪。夏尾根を下降するか、予定通りに南東渓を下降するかを思案する。
ふもとの鞍掛山から見上げるたびにそこを歩く自分と、その自分に襲いかかる危険を幾度となくイメージしていた。全層雪崩・新雪表層雪崩、なによりすり鉢状の大崩落地での一斉集中雪崩などを想定し続けていたので、いやが上にも緊張が高まる。
朝食を平らげ、小屋から出てスキーを履く頃には見通しがきいてきた。西側の空はどんより重い色をしていたが、東の空は青空も散らばり見通しは明るい。
追い風に追われるように不動平小屋をスキーで出発してすぐに八合目避難小屋。すぐ東側には南東渓の頭が崩落地の入り口として明るく開けている。
スキーをアイゼンに履き替え、ストックをピッケルに持ち替えアンザイレンをしてゆっくりと足を踏み込む。カラコルムで培った氷河歩行のノウハウが活かされ、いっこを先頭にグイグイ下る。途中、やや緩く感じた場所でアイゼンをスキーに履き替え渓底まで一気に下っていった。
最後は鞍掛山の南麓を、スキーを履いたままぐるっと回り込んで鞍掛山の駐車場へ到着。
終わってみれば春山残雪の延長だったような気にもなるが、このタイミングで無ければ行けないことも実感。ただ、この継登は今回のように力量がある程度そろったメンバーと天候の幸運があってこそ成功したと思える。その上で、全身全知を使い切った心地よさがあるいい山行だったと思えた。
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