橡洞(月夜沢峠より往復) [本州横断シリーズ]
- GPS
- 12:10
- 距離
- 20.0km
- 登り
- 1,173m
- 下り
- 1,156m
コースタイム
天候 | 晴れのち曇りのち雪 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2011年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
・松本ICで下り上高地方面へ進み、奈川渡から寄合渡、そして川浦集落をすぎてやがてゲートへ。ゲートは閉まっており、1mほどの積雪。そこから赤田沢沿いの林道にヘアピンで入る。その奥にある牧舎まで除雪されているが、そのあとは除雪がされておらず牧舎の下のヘアピンカーブのところに車を停める。牛の臭い?がするが、そこで休憩することとした。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
2月に続いて本州横断シリーズである。今回は、しっかりした雪面を求めて、月夜沢峠直下の赤田沢より月夜沢峠まで林道を歩き峠より本州横断分水嶺の橡洞までを往復した。「橡」(とち)は珍しい字であるが「栃」と同じ読み・意味である。国土地理院1/25000地形図「寄合渡」図幅によると北面には栃洞沢(こちらの方は「橡」ではなく「栃」の字を利用している)が流下している。地名の起こりとして沢の名前が先かピークの名前が先に起きたのかは不明。なお北面には林道が走っており山深さはないが、訪れるもののほとんどない孤高の山である。 5:00起床。無言で朝飯を食う。出発前に装備を確認するがH20氏はSnowshoeは持参しないという。 5:50 発。すぐにツボ足では無理と判断し戻ってスノーシューを持参することにする。これが正解だった。 6:00 再出発。 8:10月夜沢峠着。積雪1m。途中の月夜沢林道には雪まくりがたくさんあった。特殊な条件でしかできない珍しいモノらしい。長年雪山もやっているが、これを見たのは初めてである。峠は南風が強い。前穂高が霞んでいる。高曇りだ。だれかの足跡がひとつ、鎌が峰から来てそのまま月夜沢峠を経て橡洞方面にあがっていっている。単独行だ。すごい!と思いつつ誰もこないこの場所に仲間をみつけたような気分になりほっとする。 8:15発。快適な尾根。クラストしていたりソフトな雪面だったりと交互に現れる。 9:00着。 本谷頭前衛峰の肩。H2O氏もストックだす。風がある。バナナ・コーヒーを食す。 9:10発。手前のピークには若干の雪庇が発達している。本谷頭から右手の尾根をとり大下り。約170mの下り。下る途中で転び、スノーシューが雪面に突き刺さってひどく難渋する。足が攣りそうになる。 10:00 最低コル・1769m着。美しいコルだが、橡洞が遠い。南風。 10:15発。ゆるやかに登る。 11:40 ・1992着。目の前に橡洞が見える。 11:50発。ゆるやかに下り、すぐに最低コル。そこから一段あがりさらに一段あがってピーク。 12:20 橡洞着。ピークの木の枝に先のないストックがかけられている。三角点は雪の下。 12:35 橡洞発。 13:45 ・1769着 南風が強い。目の前に鉢盛山。 13:55 ・1769発。 15:05 本谷頭(△1937.0)の西方前衛峰肩ピーク着。雪が降り始める。 15:15 本谷頭発。 15:45 月夜沢峠通過。疲れてフラフラである。 途中で休んだら眠ってしまった。先に行っていたH2O氏が黒砂糖をくれた。それを食べたら少し元気になった。感謝! 18:10 赤田沢林道駐車場着。 ・今回は中央高速道路の諏訪SAの中の温泉を利用した。 料金は595円。比較的空いていた。 |
写真
感想
・林道は長い。朝は、クラストしているが、夕方は腐り歩くのに難渋する。
・なお月夜沢林道は、車の通行は夏期でも無理。各所で崩壊している。
・月夜沢峠は、好展望台。穂高連峰や御嶽の展望が期待できる。
・月夜沢峠からは稜線沿いに快適な尾根が続く。
・本谷頭の手前は、若干ヤブが濃いが問題にはならない。
・本谷頭は快適なピーク。ここから大下り(170m)の標高差を下る。
・コルからは、ゆるやかな尾根が橡洞まで広がっている。
・この尾根はゆるやかなところが多く、ガスが出ていると迷いやすい可能性がある。GPSを持参するか、地形図をよく読んでいく必要がある。
・橡洞のピークには先の折れたストックが枝にかかっており、よい目印になる。
・このあたりは、奈川自然案内人の会が精通している。会では毎年3/下に野麦峠スキー場を利用した鉢盛山へのスノーシューツアーを企画している。(ただしH23年は、震災の影響もあり中止したとのこと。(電話番号は0263-79-2645)
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<記録>
日暮れの月夜沢林道はどこまでも続いていた。
陽はとうに山向こうに沈み、春のものではない残光のかけらを寒々としたこの谷に灰白色にばらまいていた。
山腹に穿(うが)たれた横一条の白い林道はどこまでも続いていて、尾根の鼻先を回りこんでは、どこまでも残酷なへビのように蜿蜒とくねっていた。
この道は、小川と朝陽の中を嬉々として登ってきた道だ。
積もった雪は堅くクラストし、歩きはどこまでも軽かった。
それが今は何ということだ。
歩くごとに雪面は深く沈み、沈んでは引き上げ、そしてまた沈む。
疲れた…。先ほどまで30m先を歩いていた小川は、もうすでに100m以上離れてしまっていた。林道だから遭難する心配もない…休むか。もうふらふらだ。
ザックを無雑作に放り出しその上にどっかと座った。
いや、上かどうかも覚えていない。
とにかく背中を伸ばすと気持ちがすーっとした。
背中を丸めておんなじ姿勢でずっと歩いてきたからだろうな・・・なんて思っているうちにいつしか眠った。
わずか5分ほどだろう。
はたと目が覚めて、一瞬自分がどこにいて何をやっているのかがわからなかった。
目の前の「通行注意」と書いた看板が半分以上雪に埋もれている――を訝しく思ったほどだった。
眠ってしまったことにようやく気が付いた。いけない…小川が待っている。
先を急がねば…むくむくと立ち上がって幼児のような歩みを始めた。
沈んでは引き上げ引き上げては沈み。
小川と一緒に歩いてきた本州横断のふみあと――雨が降り雪が解ければ消えてしまうそれが、心の中では、歳月を経過するたびに深く残っている気がする。
乗鞍岳を眺めればそこには、頂上でザイルを使って下ったことや、道を失ってテントを張ったり、あるいは、御嶽を見て「富士山だ!」と叫んだ小川の姿が、脳裏の映像に浮かんでくる。
昨年5月は、野麦峠から岐阜百山である鎌が峰を経て月夜沢峠まで縦走した。
鎌が峰の映像では、頂上の広い雪原をアイゼンを団子にして下った光景が出てくるし、高度が下がってヤブに苦しめられ、転倒して一瞬宙に浮いたときに無上の幸福を感じるといった経験も映画のようだ。
今年の2月、境峠から橡洞までを往復した。複雑な地形に尾根を拾いながらの山行だったが、手つかずの地形に獣たちの足跡と自分たちのものを重ねたり、雪がつくる自然のオブジェに歓喜の声を上げたりして進んだ。
それにより、横断のトレースも橡洞から境峠まで延びることになった。
その欠落部分である月夜沢峠と橡洞の間を埋める“穴埋め”山行だったが、いささか軽く考えていたのかもしれない。
高度もない。
林道も走っている。
月夜沢峠の林道は、ふきのとうを摘みながら下った林道だ。
この一年間、毎日、会食がありトレーニングもせずに飲んだくれると不摂生は甚だしかった。
それがアルピニスト小川との足取りの差に確実に表れていた。
去年の5月、月夜沢峠は、完全に土が露出していた。
橡洞に続く尾根を眺めると雪はなく笹が繁茂していた。
今から考えればあれはあれで行かなくて良かった。
敗北感があったけれども、あれで行っても笹漕ぎに苦しめられるだけで到達できたかどうかは疑問だ。
そのことを小川に話すとそう思うと言った。
今回の月夜沢峠は違った。
1m以上の雪が積もり、鎌が峰に続く尾根も、橡洞に続くそれも笹はでてはいるが、おおむね、雪に覆われていて快適な雪面を提供していた。
なんとそこには、先蹤者の足跡――それも単独行者――まであった。
他にも来る人がいる。
それだけで、心細さが紛れるような気がした。
ここを歩くのは日本で3人だけですねと小川とにやりと笑いあった。
この分水嶺…尾根のわずか南に降った雨はそのまま谷を滑りおち木曽川となって名古屋まで旅する。
わずか北に降った水滴は梓川となり、犀川、千曲川と名前を変え最後は信濃川となって新潟で日本海の一滴となる。ちょっとした違いが、雨の一生を違わせてしまう。
そんな分水嶺は偉大であり、また無情であり無常でもある。
そして偉大さに接しながら山旅を続けること。それは、小気味良い快感なのだ。
だから訪なうものを魅了してやまないのだ。
分水嶺の左側に雪庇のでた雪面を進むと、やがて疎林のすばらしい斜面となり、△1937.5本谷ノ頭の衛星峰とも言うべき1910mのピークのその肩ピークに到達する。
等高線では1890mと読める。
そこで一本を取った。
前衛峰から本谷頭までは若干、密林部分があるが、通過に困るほどではない。
本谷頭で迷うことなく南東の尾根を取るが、そこからは、標高差170mの大下りとなる。
すべてが、疎林であり通行に支障はない。
倒木をまたいだり、迂回したりするが、快適な斜面である。
コル・1769は素敵な鞍部だった。
自分が進もうとすると「ちょっとちょっと…」と待ったがかかる。
被写体をけがすなという写真家・小川のリマークである。
舌打ちを軽くしながら写真を撮り終えるのを待つ。
そこからは広い尾根を少しずつ高度を上げながら、そして歓喜の声を上げながら登り・1769mに至る。
目の前に目指すピーク橡洞が見える。
今日は調子が出ない。
小川に先行してもらい、そのトレースを黙々と追う歩きとなる。
一旦20mほどくだりゆるやかに登るとそこが目的地、
橡洞のピークだった。
300%自然の世界。
山名表示も指導標も一切ない、手つかずのピーク。
まずもって処女地だ。
唯一ピークであることを示すのは、枝に誰かがかけた先の折れたストックが一本だった。
小川がそれを無言で指差した。
そう、2月に来たときにもそれが唯一のピークを示す手がかりだったのだ。
ピークでは“この前と同じように”だった。
直前までラッセルをしてくれた小川がどうぞといって、この前と同じように自分に先にピークを踏ませてくれた。
この前と同じように抹茶オーレを作ってくれたが、この前と同じようにおいしかった。
この前と同じように愚妻に携帯から電話をした。
今回は通じなかったのが少し違っていたことかも知れない。
ピークにはわずか15分ほどしかいなかった。帰りは長い。
少しずつ天気が悪くなりかけていた。
170mの登りを前にして、林道に下るか?との考えもよぎったが、トレース通り戻ることにして、その登りに喘いだ。
最初に一本をとったピークで小休憩を取って下り始めると、眼前には御嶽から鎌が峰、乗鞍に広がる山並みの大伽藍が雪雲に覆われはじめていた。
あっという間に乗鞍や御嶽は視界から消え、近くの尾根さえも隠すように無数の雪が風花になって顔に吹き付けてきた。
ふと我に返った。
朝6時から始まった長い一日を反芻しながら一歩、また一歩と足を踏み出す。
林道はまだ続く。
ただ一つの“希望”は一歩踏み出せば確実に一歩だけ、クルマに近づくということだ。
そんな単純なことを朦朧とした意識の片隅で考えながら、夢遊病者のようにして月夜沢林道を下った。
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