赤谷山 (剱岳北方稜線早々棄権)
- GPS
- 22:28
- 距離
- 37.5km
- 登り
- 4,254m
- 下り
- 4,313m
コースタイム
天候 | 14日 午前中快晴、午後曇りのち雨、夜快晴 15日 午前中快晴、正午より稜線はガス、ブナクラ谷界隈は晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2017年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
工事車両出入り口のゲートをくぐってから暫く林道を歩きますと、工事関係者の宿舎の前で道が二つに分かれます。ブナクラ谷方面は、向かって左側になります。筆者は右を歩いて少しロスしました。 正しい道を進むと、終盤道が左に折れるところがあります。ここにマークがあるので、林道から外れます。外れるとすぐに枯れ沢+最初の渡渉点になります。 ブナクラ谷の登りで渡渉箇所が3箇所現れます。また渡渉箇所以外に登山道が川と化している箇所が結構あります。出来ればかさばりますが濡らしてもいい靴+靴下を一組用意した方が良いでしょう。 稜線に出て暫くすると雪渓が現れます。中には45度近い斜度の箇所もあり、アイゼン+ピッケルは必携でした。 雪渓はまだ十分な厚さがありましたが、スノーブリッジも随所に見られ、しかも刻々とやせていくと思うので、これからは危険かもしれません。その代わりではないですが、雪渓からの雪解け水が川になっているので、結果的にはブナクラ谷で無理に水を担ぐ必要はありませんでした。むろん稜線の雪渓が刻々とやせていくのでどこまで頼れるかはわかりません。 赤谷山までは、基本的には踏み跡が明瞭なほか、テープマークも充実しております。ただ、雪渓の横断(1箇所は登下降)で、特に復路では、どこへ向かって良いかわかりにくい箇所があるので、正しく記録しておく必要があります。筆者は復路で取り付きがわからなくなり、散々うろうろした挙句に往路のGPSの記録を元に正しいルートに戻ることが出来ました。 赤谷山から先のルートは筆者の実力では見つけられませんでした。山頂から白萩山へ向けて、雪渓を下りきるところまではテープを見つけられたのですが、そこまででした。 赤谷山までの踏み跡は明瞭ですが、踏み跡の上にかぶさる藪が、藪こぎほどではありませんが、案外うるさいです。特に雨が降っているときは、空から降る雨よりも、藪に付いた雨水で衣服が濡れました。筆者はこの藪からの雨水が足伝いにどっさり靴の中に入り、ふやけた足の皮がはがれて復路で難儀しました。 |
その他周辺情報 | 馬場島までの車での往復途中にある みのわ温泉・テニス村で立ち寄り湯が可能です。9-21時営業。 http://bunspo-namerikawa.jp/minowa |
写真
装備
備考 | 登はん具一式(ヘルメット、ハーネス、エイト環、安全環つきカラビナ2個、ワイヤーゲートカラビナ数枚、スリング数本(120cm)、ザイル50m) 12本爪アイゼン、ピッケル ダウンジャケット&パンツ、シュラフカバー、ツエルト、目だし帽 サングラス、手袋 ペットボトルの水、行動食10日分 日焼け止め、絆創膏(傷フィルム) スマホ(GPS) |
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感想
剣岳の北方稜線へ行くために、番場島から赤谷山経由で縦走することを思いついた。
自宅から番場島山荘までは車を600km近く走らせなければならない。登山以前にこれが課題だった。新穂高まで車で走って槍ヶ岳など目指したときには、決まって高山病に悩まされたものだ。これに懲りてきつい登山のときは車は避けてバスを利用するようになっていた。それがさらに長い距離を車で移動するのだから、行程は余裕を見なければならない。想定する日数より2日長い5日間を当てて、体調によっては番場島で朝寝してから歩きだそうと考えた。
実際には朝寝まで持たなかった。上信越道、長野道に入ったところで早くも眠くなり、仮眠を取っては移動する有様、最後は北陸道のXXで仮眠を取ったときには外が明るくなり始めた。
夜が明けてしまったことは悪いことばかりではない。明るくなってからのアプローチの山道のドライブは楽しいし、安全だ。今まで走り慣れている茨城や、上高地周辺の山道とは、具体的にどうとはいえないがまるで違う雰囲気の道を走っていくのは面白い。木が生えて道が狭くてそばを渓流が走っているのは、どこでも見慣れた光景なはずなのに、何か違う。
そのうち前方に剣岳の稜線が目に飛び込み、思わず感動して写真撮影のために車を止めてしまった。これも夜が明けたことの僥倖のひとつだ。
平日入りしたので馬場島山荘駐車場はがらがらだった。仮眠を何度も取りつつの運転だったので、到着後直ちに出発した。剣の山域は初めてだったので、序盤は意欲満々で歩いたが、勢い余って池ノ谷方面に歩いてしまいあわてて引き返す場面もあった。
しかし、こうした意欲は序盤で徐々にそがれてしまった。第一に水に行く手をさえぎられた。林道を外れて枯れ沢を過ぎると、いきなり渡渉となった。靴を脱がずにいけるかいけないかのぎりぎりの距離である。ところどころ飛び移れるところもあるのだが、岩が浮いているかもしれないと、危険を冒す気にもなれず。まず第一渡渉点で上流へひと歩きし、そこから川沿いのバランスのあまり良くない草薮のなかを、登山道まで戻らねばならなかったのだ。この薮が、普段あまり見ない巨大な葉の草からなっていた。潅木と違い、力をかけると大きさの割りにもろくぽっきりと折れるので、通行に安心できない。
また登山道自体が雪解け水によって川と化しているところもあった。あまりコースを外れて道迷いしたくもないことと、靴の仲間で濡らす川ではなかったのでそのまま歩けたのだが、この川歩きが結果的に靴内の浸水に多少影響していた可能性もある。
結局ブナクラ峠に至るまでに同様の渡渉がもう2回ほどあった。真夏に入山することがあまり無く、雪解け水を計算に入れなかったことに対して見事にお灸をすえられた。
ブナクラ峠から稜線へ乗ってしまえば快適な尾根歩きだと思っていたら、必ずしもそうではなかった。雨が降り出すと、笹や潅木がせり出した登山道は泥のついた水を容赦なく体に降り注いだ。もう汗でずぶぬれの自分は、雨水は暫く経てばすぐ乾くと高をくくり、また雨具を着ることで結局汗で内側からずぶぬれになるからと、雨具を身につけないで歩いたのだった。結果何が起きたか。雨水が山パンツの下にはいた股引を伝って靴の中に入っていったのだ。渡渉であれほど神経質に靴のなかを濡らさぬようにしたのに、登山の終盤は歩くごとにぐちゃぐちゃ音がするほどに靴を濡らしてしまった。
また稜線にはところどころ雪渓が残りルートをわかりづらくしていた。雪渓を使って近道をしようとしたところ、大岩にぶつかり、そこまでは予定通りだったが大岩を攀じて稜線に出ようとするとその先が難しくて進めず、結局ルートに戻ることを強いられた。そんな遠回りとルートファインディングに時間を取られたので、なかなか山頂にはたどり着けなかった。薮の尾根を登って、ピークだろうと思ったところに雪渓が現れ、雪渓をよじると、また薮に覆われかけた登山道をたどる。
登山道自体は難しくないが右側は急斜面で、不注意になった登山者を飲み込もうと待ち構えている。油断はできない。所々道が崩落しかかっており、登山道をそれてよじる必要のある箇所もわずかながらあった。
雨が降り出すと、雪渓の表面からおびただしい湯気が発生し、ガスとして視界をふさいでいく様子がすさまじかった。
そうしたガスの中、イワカガミとニリンソウのお花畑で少しだけ心を和まされたところで、赤谷山山頂のお地蔵様に到着した。お地蔵様の裏は巨大な雪田となっていた。この時点ですでに5時半。暗くなるまでにビバーク地点を決めなければならないが、頂上雪田の周辺は融雪と雨のせいでぬかるんでおりあまりよろしくない。もう少し進んでビバーク地を探そうとした。
まずは雪田に入らないルートを探そうと辺りをうろうろすると、近くの茂みにシュラフがあった。中に、何か入っている様子。恐る恐る近づいてみる。きちんと中身を確かめはしなかったが、シュラフの長さと、出張り方から、何かがデポしてあるのだろうということで引き返した。ちょっと勇気がなかったか。さてシュラフは見つかったが道は見つからない。尾根筋は完全に薮になっている。あまり歩きたくないが、また雪渓歩きだ。頂上雪田にアイゼンで降りて先を詰めていった。果たしてテープが見つかり。頂上雪田を越えると、白萩山へ続くと思しき尾根筋へ、尾根伝いに残雪が伸びている。登山道が尾根伝いにあるならば、この残雪の末端まで行くことは容易だろう。
残雪の末端まで行くと、小ピークがあり、潅木と斜面の間に、踏み跡だろうか、平らでかつ砂地の部分があり、今夜のビバーク地とした。午後6時半ごろ。薮からの雨水で体が濡れていたので、ダウンは着ないまま雨具を着込み、さらにツエルトにくるまってビバークした。ヘルメットはそのまま枕になるのでかぶったままだ。ダウンを着なくてもとりあえず寒くなかったところは夏山だ。
横になると枕元に何か鳥の骨のようなものが飛び出している。何かつながっているようだ。一瞬ぎょっとしたが、疲れていたし、今更どうしようもないので眠った。夜半に確かめてみたところ、木の根だった。デポシュラフで少し怖がりになっていたのと、山に入ったとき特有の、変な神経のとがり方がこんな勘違いを起こさせたのだろう。
悪天候を心配していたが、夜になって完全に晴れた。ツエルトをめくると、いつものように銀河を含めた無数の星が見下ろしている。剣方面は地形のせいで見えないが、後立連峰のシルエットは目に入る。鹿島槍辺りのコルに明かりが見える。山小屋があるのだろうか
(あとで、そこにキレット小屋があることを知った)。
ツエルトを被ってもうひと眠りしていると、ツエルト越しに外が明るい。夜明けかと思って布をめくると月が出ていた。山では月明かりが頼りになることは経験済みだが、朝日と勘違いしたことは初めてだ。もう少し寝よう。
明け方、結構体が冷えてきた。前日雨で濡れていたし薄着だから当然だ。しかも、今回はいてきた股引は発熱素材といいながら経験的には体を冷やす素材だったことを思い出した。日中歩くにはそれが好都合だったが、ビバークには裏目に効いてしまった。起きて体を動かすなどして、間もなくやってくる夜明けを待った。
ビバーク地では蚊と同時にブユにも悩まされた。日中はもちろんのこと、夜間でもツエルトの周りを飛び回り、刺す場所を探し回るのだった。あらかじめ虫除けをかねて塗りこめていた日焼け止めはそれなりの役目を果たしてくれたのだが汗をこする際に拭いたこめかみが、いわゆる耳なし芳一状態になっており、見事に刺されてしまった。
4時過ぎに起床した。天気はいい。後立の稜線がくっきりと見え、間もなく日が出てくる様子が伺われた。
雨でふやけた靴の中の足の具合は悪そうだ。ルートが見つからずに万一撤退になった場合、来た道を引き返さなければならない。5日間の登山の二日目だからまだ時間はあるが、靴擦れのせいで普通のスピードで歩けるかどうかわからず、何とか普通に引き返せるビバーク地点をゴールとして引き返すこととした。
雨交じりの中不気味なガスを上げる雪渓も朝日に朱に染まりながら輝く様子は美しい。前日夕方たどった雪渓を赤谷山山頂へ引き返した。そして雪渓から振り返ると裏剣の荒々しい姿が目に入った。岩稜好きにはたまらない光景だ。中でも美しかったのは、赤谷山山頂雪田越し、そして山頂近くのイワギキョウとニリンソウの紅白の花畑越しから見た裏剣だった。また、白萩山、赤ハゲ、白ハゲの峰々も目に入り、一瞬縦走の継続を思い立ったほどだが、この足の状態ではハードな縦走は続けられないだろう。山頂で足の状態を確かめると、両かかとの皮が、傷用フィルム1枚ではカバーしきれないほどはがれていたし、両親指付け根も危ない。それぞれフィルムで覆い応急処置をして下山に取り掛かった。
下山は来た道をたどるだけと甘く見ていた。雪渓の踏み跡が見事に消失していたのだ。ルートはテープ頼み。そしてヤマツツジの鮮やかなピンク色はしばしばテープマークと勘違いさせられた。雪渓を下りきらねばならないところを、トラバースルートを探して登ったり降りたり、やっと下りきることに気づいて通過した後は、今度はトラバースしなければならない所を下りきろうとして、景色の違いに道間違いに気づき、登り返してトラバースの入り口を探すも、どこでもいけそうで少し突っ込むと薮こぎになったり。強引に焦げないほどの薮でもなかったが、道迷いを悪化させないときには力づくはやめたほうが良かろう。かなり急な、そして夏の日差しに腐り始めた雪渓を登ったり降りたりしてもどうしても入り口が見つからず、最後は前日に残したGPSのログを読み出して、現在位置とのずれから、薄い踏み跡を発見し、100mほどのトラバースに1時間もかけてようやく往路のルートに戻ることができた。
間もなくブナクラ峠だ。そしてその向こうに残雪と新緑をまとった猫又山、毛勝三山が見えた。裏剣の荒々しさとはまた異なる美しい山容だ。靴擦れの痛みを一瞬忘れさせてくれた。
途中単独の方と、おそらく剣まで目指すであろう若手の4名ほどのパーティー(リーダー女性?)とすれ違い、暫くしてブナクラ峠まで引き返した。二日目は好天で、撤退、道迷いと靴擦れという痛手はあったが、気持ちのいい山歩きだった。
ブナクラ峠で傷フィルムを交換し、新しい乾いた靴下に履き替えた。靴自体の濡れがひどいので、乾いた靴下の効果はあまり高くなかったが。さ、ここからはもう一息だ。
大きな岩を乗り移りながら時折クライムダウンする序盤は、疲労の中の暑さもあって思いのほかはかどらなかった。樹林帯の中に入ったときには多少ほっとしたほどだが、次の敵は川と化した登山道と、雪解け水の通路が作った偽のルート。偽のルートには一回完全にはめられてしまった。逆に川の登山道はテープマークがなければ、果たして自信を持ってたどることができただろうか。
途中、靴の中でふやけた左足薬指の爪を靴下に引っ掛けて傷めてしまった。
担ぎやすい中型のグレゴリを持ってきたはずだが、ベルトが妙に肩に食い込み、体を後ろに引っ張る感じで、下山の割には元気が出なかった。
3回の渡渉は、これだけ靴が濡れた状態ではそれほど神経質にならず、靴全体が水没しない程度の場所を選んだ。
3回目の渡渉を終え、枯れ沢をケルンを目指して通過すれば、林道だ。
この林道からゲートまで、そしてゲートから馬場島までのただの林道がどれだけ暑く長かったことか。往路の軽快さがうそのようだった。
かくしてぼろぼろになって馬場島に逃げ帰り、そのまま一目散で温泉施設「みのわ温泉・テニス村」へ車を急がせた。開館時間が9時までには救われ、空いている脱衣所で暫く横になれたが、実は休憩できる大広間があったので、そちらで休むのが正解であった。
筆者は親戚が富山にいるので、横になりながら聞く富山弁に、親戚が入館しているのかという錯覚を覚えて、面白かった。
登山靴を履いたままで入館したが、靴擦れが痛くてそれをはいて車に戻れず、温泉でサンダルを借りて車に戻り、移動用の運動靴に履き替えて再度旅館に戻らねばならなかった。
一見すると散々な山行きにも見えるが、いろいろ学ぶ点があったし、稜線の景色と星空、月明かり、そして山のシルエットは美しかった。下から上に上るにつれて花の季節が変わる様子も今まであまり経験のなかったことで、いい山行きだったと思う。
今後は、渡渉と、靴を脱ぐ場面用、そして足を休ませる目的で軽量のサンダル、靴擦れ予防(早めの靴下交換、テーピング?)などの手を打って入山することとしよう。思いザックを時たま担いで体を慣らしておくことも忘れずに、、、。
(追記)
温泉で日よけ止めを全部落としたあと、途中で寄ったコンビニでヤブカを一匹乗せてしまい、帰路で散々刺されてしまい、下山後はぶゆよりもそちらのかゆみで苦労した。
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