(過去レコ)後立山横断(猿倉〜白馬岳〜祖母谷〜唐松山荘〜八方池)
- GPS
- --:--
- 距離
- 42.8km
- 登り
- 5,308m
- 下り
- 4,721m
コースタイム
- 山行
- 11:50
- 休憩
- 0:50
- 合計
- 12:40
天候 | 21日=快晴 22日=快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2010年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
|
写真
感想
北アルプスの鹿島槍ヶ岳(もしくは針ノ木岳)から、北へ延びる稜線を後立山連峰と言う。
最近は、略して後立(ごたて)とも言われるようだ。
富山県側から見て、立山の後ろにあるから。
国内で屈指の大峡谷・黒部川へ通じる登山道は、黒四ダムより下流の信州側では、白馬村から欅平へ通じる2本のルートがある。信州と越中の国境はこの後立の稜線上にある。
8月21日(土)〜22日(日)、後立を越えてこのルートを歩く。
21日=猿倉(1230m)〜白馬岳(2932m)〜祖母谷温泉(780m)
22日=祖母谷温泉〜唐松岳頂上山荘(2620m)〜八方池山荘(1850m)・・・ ゴンドラリフトはっぽう駅
20日(金)は午後から寝て、夜10時前に家を出る。
高速道をゆっくり走り、日にちが変わってから料金所を出る。
白馬岳の登山口・猿倉には午前2時前に着く。
広い駐車場はほぼ満杯、もう起きている人もいる。
歩き出すにはちょっと早いが、朝まで仮眠する気はない。
食事をして、2時05分スタートする。
私より数分早くスタートした単独行の男性もいた。
猿倉荘前で休んでいたので追い抜く。
上空はよく晴れており、満天の星空。
ミルキーウェイもよく見え、市街地では絶対に見られない星くずの競演のなかに、流れ星を探しながら歩く。
しばらくは林道歩きなので、上空を見上げながらでも歩き損ねて転落することもない。
白馬尻小屋から15分余り、大雪渓に差し掛かる。
滅多に使うことのない1セット150gの超軽量アイゼンを着ける。
猿倉荘で抜いた単独行の男性がやって来た。
どこまで行くのか聞くと、白馬岳とのこと。
白馬岳までなら、何もこんなに早くから出なくても・・・・と思う。
アイゼンは着けないで上がるという。
まぁ、滑っても滑落するほどではないが、アイゼン無しではツルツル滑って歩きにくい。
雪渓の表面はクラストしている所があり、アイゼンを着けていても2〜3回滑って手を突いた。
1時間弱で大雪渓を上がり切る。
東の空が濃いオレンジ色に染まり出し、日の出が間近に迫る。
刻々と変化する色合いに、大地の躍動を感じる瞬間だ。
やがて、雲の全くない地平線上が裂け、高妻・乙妻山の左から荘厳な太陽が全貌を現す。
山の上で眺める神秘的で神々しい御来迎は、いつ見ても心が奪われ、筆舌に尽くしがたい光景だ。
葱平(ねぶかっぴら)は、まだ多くの高山植物が咲き誇っている。
写真を撮っていると、上から単独行の青年が下りてくる。
朝の挨拶を交わした後、彼曰く、「めっちゃ、早いですねぇ」〜この言い方は一般登山者ではなく、山小屋のスタッフらしかった。
白馬岳頂上宿舎の下の水場で小休止する。
スタートしてから水は飲んでいないが、日中の暑い時間ではないので、のども渇いてない。
2軒の山小屋で泊まり、遅くスタートした人達に混じって、6時25分、白馬岳頂上にに立つ。
立山〜剱は勿論、白山や八ヶ岳、富士山も見えている。
日本海にほど近いこの山から、日本列島を横断し、駿河湾に裾野を広げる富士山が見えることは驚異的だ。
白馬岳は4回目だが、今回の展望が一番素晴らしい。
矢張り、夏山の展望はガスが湧く前の早朝に限る。
予定より大幅に早く白馬岳に登頂したので、この後、頂上宿舎の裏手にある丸山と、白馬岳の陰で悲しいほどに存在感の薄い旭岳へも行ってみる。
ほとんどの登山者が北か南へ分散するなかで、旭岳の上から、清水岳(しょうずだけ・2603m)方面へ行く5人のパーティーが見える。
白馬から祖母谷へは距離が非常に長いので、下りといえども歩く人は多くない。全く人に会わないとしたら心細いものがある。
少人数でもいい、誰かと行き会い、その出会いがたとえ一期一会であろうとも、山を楽しむ者同志がひとつの山にいることは心強い。
そして、言葉を交わすことによって、『私も頑張るから、あなたも頑張って下さい』という気持ちになる。
山を歩く者同志が交感するオーラに励まされて元気を取り戻す。
5人パーティーには、清水平の手前で追いつく。
向こうから話しかけてくる。
「旭岳へ登っていた方ですか?」
私が5人を見下ろしていた時、彼らも私に気が着いていたのだ。
「今日は祖母谷温泉ですか?」
私、「はい、そうです」
「私達もそうです。宜しくお願いします」
こちらが言うべき言葉を先に言われてしまう。
清水岳のピークは、登山道から100m余り北へそれる。
折角だから行ってみる。
平らな山頂で、白馬岳や雪倉岳の展望が良い。
5人パーティーは清水岳のピークへは行かず、先に祖母谷へ下って行ったが、途中のお花畑の中で腰を降ろして弁当を広げていた。
以後、この方々とは小屋まで会わないままとなる。
遅咲きの高山植物が咲き乱れる中、展望の良い急坂の尾根を下り、ダケカンバの灌木帯から針葉樹の樹林帯へと変わる。
展望がなくなり、山腹をトラバースするような道を延々と下り続ける。
一ヶ所だけ鎖場があった。
他に、急坂には所々ロープを引いてあるが、無くても歩行に支障はない。
根曲がり竹の生える幅の狭い斜面を横切るような所が多く、山道につきものではあるが、アップダウンも意外に多い。
下りとは言え、決して歩き易い道ではなく、この歩きにくさに比べれば、今朝の大雪渓の登りがハイキングだったように思える。
現在地を示す道標類は全くなく、今どこを歩いているのかも分からない。
地図にある“百貫ノ大下り”らしい所も、所々過激な下りだ。
高度計を見て、まだ1000mも下るのかと思うとウンザリ・・・
下るにつれ、気温は高くなり、体中が汗でべとべとする。
水場で、肩から手首までの長袖をびしょ濡れに濡らす。
しばらくはヒンヤリして気持ちがいい。
木の間から、眼下に林道が見え、ホッと一息。
林道を15分ほど歩いた後、ほうほうの体(てい)の極みで、午後2時45分、祖母谷温泉へ辿り着く。
猿倉を出てから12時間40分(19.8km)、白馬岳と丸山に遊び、旭岳からの下りに取り付いてから6時間半が経っていた。
標高差1700mを登り、2200m弱を下ったことになる。
このルートを、登りに歩くなら標準コースタイム9時間半を、余裕を持って歩ける脚力が必要であろう。
途中に山小屋はなく、避難小屋が1軒あるのみだから。
部屋で少し横になりたいところだが、室内はとっても暑い。
祖母谷温泉小屋には山小屋としての看板が掛かっている。
エアコンがないのは仕方がないとしても、電気は引いているのだから扇風機くらいはあって欲しい。
小屋内に内風呂、敷地内の一段下がった所にテン場と男女別の露天風呂がある。
女性用の露天風呂は周囲をしっかり目隠しされていて、露天とは言い難い。
男性用は脱衣所に庇があるだけで、小屋横のベンチから湯船は丸見え。
どうせ入るなら解放感抜群の天然風呂がいい。
2〜300m離れた所の河原の露天風呂へ行く。
川底から湯が湧き出している所はお尻がやけどしそうに熱いが、湧き出してない所は真水の冷たさだ。
自分でかき混ぜて入るしかないが、流れがあるので丁度いい湯加減になることがない。
かき混ぜるのが面倒臭くなって、沢の本流に首まで浸かる。
最初は冷たかったが、身体が慣れるとずっと入ったままでも平気。
夕食は6時から、畳の広間で横長の座卓を取り囲む。
食事中も、猛烈な暑さで、汗が顔中を流れ落ちる。
お椀に汗が垂れないよう、腕を前に差し出して食べる。
あちこちから、暑い暑いのつぶやきが聞こえる。
食べ終わると大急ぎで外へ飛び出し、水をごくごくと飲む。
食事も美味しく、小屋の管理人さんもいい方なのだが、蒸し風呂のような座敷での食事には閉口した。
小屋は祖母谷と祖父谷の合流点にあり、どちらも水量が多く、 沢音がかなりうるさい。
薬師沢小屋も黒部本流と薬師沢の合流点だが、祖母谷温泉ほどうるさくはない。
ここで、4年前の遭難事故を簡単に記しておく。
2006年10月7日(土)、3連休の初日、祖母谷温泉小屋を5時10分にスタートし、白馬山荘を目指した福岡県からのツアー登山7人パーティーの内、4人が白馬山荘を目前にして凍死するという事故が発生した。
祖母谷温泉では小雨だったが、清水岳辺りから天候が急変し、猛吹雪となった。
立って歩けないほどの烈風になぎ倒され、パーティーは分裂し、次々と倒れた人達は再び起き上がることなく息を引き取った。
その日、白馬岳の吹き溜まりでは一晩で3mもの、前代未聞の初雪を記録した。
一旦牙をむいた山の恐ろしさがどんなものか、体験してみないと分からないと言う山ヤはいないだろう。
だが悲しいことに、このような事故の教訓はどれだけ生かされているのだろうか?歳月の流れが事故の怖さを風化させるのだろうか?
百花繚乱の天上のパラダイスが、僅か1ヶ月半後に積雪3mの冬山と化す現実を直視すべきだと思う。
深夜、ザーザーという音で幾度か目を覚ますが、長時間効く睡眠導入剤の効果で、すぐまた眠る。
一瞬、雨かと思うがすぐ沢音だと分かる。
午前4時頃、起床。
8時間以上は眠ったので、昨日の疲れは解消している。
朝食は7時からであり、まだ皆さんが眠っているらしい。
そっと身支度して、4時10分に出る。
祖母谷温泉から唐松岳山荘までの標高差は1840m、結構な登りだ。
祖母谷と祖父谷に架かる二つの大きな橋を渡り、祖父谷の支流・南越沢に沿って山奥へ入る。
大きな岩がゴロゴロしていて、足元は滑りやすい。
白馬岳へ上がるルートと比較して、唐松岳へのルートは荒れているのではないかと心配だったが、それほど荒れてはいない。
鉄梯子が4本続く急坂の地面は林だが、凄い急斜面だ。
ルートは基本的に尾根通しで、両側は鋭く切れ落ちており、転落すれば一巻の終わり。
大木の根が地上を縦横に這う。つまづいたり滑ったりして転べば、転落の可能性がある。
根元の直径が2m近くはありそうな巨樹が所々にある。
人間からすれば、気の遠くなるような長い歳月を風雪に耐えて生きて来た巨樹たちに、生命力の逞しさを感じる。
林相が針葉樹からダケカンバに変わり、餓鬼山(2128m)に着く。
西側の展望が良く、白馬の旭岳から鹿島槍までがよく見える。
2600m〜2800mのピークを連ねる後立の稜線は、2100m台の山から見上げると、さながら巨大な壁のようだ。
標高僅か1500mくらいの谷底に雪渓が残る。
厳冬期は、左右と上方から雪崩れた圧雪が谷を埋め尽くすことだろう。
黒部峡谷の大規模な雪崩は“ほう”と呼ばれ、昔から恐れられている。
餓鬼山から大黒鉱山跡までは標高差260mほどの下りとなる。
折角登って来たのに、また大きな下りかぁ・・・・・
結局、今日も累積標高差は軽く2000mを越える。
途中のやせ尾根で立山〜剱の稜線がよく見え、展望をカメラに収めていたら、先方から20代後半と思われる二人の美人がやって来た。
内、一人は下肢を登山タイツでビシッと決めた、スポーツイントラのスタイル。
東京の高尾山界隈に出没する今はやりの山ガールとは一線を画している。
この先の登山道はどうなのか、祖母谷温泉の露天風呂はどうだったのかと、元気な声で次々と聞いてくる。
祖母谷温泉の敷地内の露天風呂には入らなかった。
河原の露天風呂に入っただけと答えたが、若い女性が入るには勇気が要りそう。
登山道は、餓鬼山〜唐松岳山荘間はそれまでと一変し、危険な所はない。
ただ、唐松岳山荘直下はガレ場のトラバースで、随所に鎖が張られている。
この日、唐松岳山荘までに行き会ったのは餓鬼山避難小屋泊まりの単独行の青年、餓鬼山の前後で中年カップル1組、高年の単独行男性、若い女性2人連れの計6人であった。
山荘まで上がると、信州側はガスで真っ白な世界。
五竜岳は見えていたが、北側の天狗ノ頭以北は見えず。
唐松岳までは行かず、山荘裏の丘で小休止後、八方池山荘まで歩き、2本のリフトと小さなゴンドラを乗り継いで下山し、猿倉行きの最終バスで登山口へ戻る。
帰路、猿倉から5.5kmの『小日向の湯』でさっぱりし、帰途に就く。
★★★山行記録投稿=2018年11月8日★★★
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する