ヤマレコなら、もっと自由に冒険できる

Yamareco

記録ID: 1993260
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

北穂−大キレット&誤算の南岳新道

2019年08月23日(金) ~ 2019年08月25日(日)
情報量の目安: S
都道府県 長野県 岐阜県
 - 拍手
体力度
8
2~3泊以上が適当
GPS
22:55
距離
37.1km
登り
2,484m
下り
2,885m
歩くペース
標準
0.91.0
ヤマレコの計画機能「らくルート」の標準コースタイムを「1.0」としたときの倍率です。

コースタイム

1日目
山行
2:06
休憩
0:20
合計
2:26
12:56
12:59
1
13:00
13:01
5
13:15
13:16
44
14:00
14:01
5
14:06
14:20
5
2日目
山行
5:34
休憩
1:32
合計
7:06
7:14
15
8:04
8:14
16
8:30
34
9:04
9:13
45
9:58
9:59
37
10:36
10:39
2
10:41
11:27
138
13:45
13:58
12
14:10
14:20
0
3日目
山行
11:01
休憩
1:09
合計
12:10
6:31
55
7:26
7:28
49
飛騨泣き
8:17
8:19
18
A沢のコル
8:37
8:38
107
10:25
10:45
87
12:12
12:14
114
14:08
14:10
40
南沢出合
14:50
15:10
46
槍平小屋
15:56
16:06
1
16:07
73
17:20
17:30
33
18:03
27
18:30
11
AKU
天候 【23日】晴れ時々曇り 【24日】晴れ後曇り 【25日】晴れ時々曇り
過去天気図(気象庁) 2019年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
■往路:立川ー松本ー新島々-(バス)-上高地
■復路:新穂高-(バス)-平湯-(高速バス)-新宿
コース状況/
危険箇所等
・北穂南陵は涸沢小屋の脇からひたすら一本調子の急坂が続く。振り返れば涸沢カールの景色が素晴らしいが、ガスると辛さが募りそう。
・大キレットは高度感があるものの、高所への耐性とある程度の岩場歩きの経験があれば、整備は良好なので通行可能(ただし落ちれば死ぬ所多数)
・南岳新道は植生のある下部の木段がほとんど破損し、かえって歩きにくいなど整備状況が非常に悪くなっている。我々が極端に遅かったのは事実だが、山と高原地図(12年度版)のコースタイム2時間45分で下るのは困難だと思う。
その他周辺情報 ■新穂高温泉「深山荘(しんざんそう)」は川辺の露天風呂が有名ですが、飛騨牛の付く料理もなかなか。下山後の日帰り入浴も可能です。
予約できる山小屋
槍平小屋
【23日】上高地・梓川畔から岳沢カールと穂高連峰が全部見えた
2019年08月23日 12:44撮影 by  DSC-HX90V, SONY
1
8/23 12:44
【23日】上高地・梓川畔から岳沢カールと穂高連峰が全部見えた
アップ。奥穂は左の三角峰・ロバの耳の右にある大小の山型の右、かすかな出っ張り部分
2019年08月23日 12:44撮影 by  DSC-HX90V, SONY
1
8/23 12:44
アップ。奥穂は左の三角峰・ロバの耳の右にある大小の山型の右、かすかな出っ張り部分
ズーム最大で山頂の祠と方位盤を視認。肉眼ではムリ
2019年08月23日 12:51撮影 by  DSC-HX90V, SONY
1
8/23 12:51
ズーム最大で山頂の祠と方位盤を視認。肉眼ではムリ
河童橋と明神岳。金曜ながら観光客もたくさんいた
2019年08月23日 12:48撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/23 12:48
河童橋と明神岳。金曜ながら観光客もたくさんいた
河童橋から焼岳
2019年08月23日 12:58撮影 by  DSC-HX90V, SONY
1
8/23 12:58
河童橋から焼岳
時間があるので自然探勝路を辿ると、足元にイワナが
2019年08月23日 13:15撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/23 13:15
時間があるので自然探勝路を辿ると、足元にイワナが
明神橋で槍沢の登山道に戻る
2019年08月23日 13:58撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/23 13:58
明神橋で槍沢の登山道に戻る
本日のお宿・徳沢ロッジ
2019年08月23日 15:08撮影 by  DSC-HX90V, SONY
1
8/23 15:08
本日のお宿・徳沢ロッジ
小さいながらきれいな部屋と施設でした
2019年08月23日 15:26撮影 by  DSC-HX90V, SONY
2
8/23 15:26
小さいながらきれいな部屋と施設でした
お猿も訪れます(2階客室窓より)
2019年08月23日 16:04撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/23 16:04
お猿も訪れます(2階客室窓より)
【24日】出発から1時間、横尾で橋を渡る。左奥に前穂
2019年08月24日 08:11撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 8:11
【24日】出発から1時間、横尾で橋を渡る。左奥に前穂
屏風岩
2019年08月24日 08:57撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 8:57
屏風岩
本谷橋で給水休憩
2019年08月24日 09:04撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 9:04
本谷橋で給水休憩
遥かに涸沢カールと小屋が見えてきた
2019年08月24日 09:59撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 9:59
遥かに涸沢カールと小屋が見えてきた
振り向けば東大天井岳の山並み
2019年08月24日 10:12撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:12
振り向けば東大天井岳の山並み
足元には高山植物。ヨツバシオガマかな
2019年08月24日 10:13撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:13
足元には高山植物。ヨツバシオガマかな
ミヤマアキノキリンソウ
2019年08月24日 10:13撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:13
ミヤマアキノキリンソウ
ミヤマキンバイにしては葉が違うような?
2019年08月24日 10:15撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:15
ミヤマキンバイにしては葉が違うような?
ザイテングラートと(かすかに)穂高岳山荘
2019年08月24日 10:18撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/24 10:18
ザイテングラートと(かすかに)穂高岳山荘
モミジカラマツ?
2019年08月24日 10:19撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:19
モミジカラマツ?
涸沢カールの雪渓と前穂山頂
2019年08月24日 10:25撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:25
涸沢カールの雪渓と前穂山頂
雲を湧き出す前穂山頂をアップ
2019年08月24日 10:26撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:26
雲を湧き出す前穂山頂をアップ
涸沢小屋へ
2019年08月24日 10:34撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:34
涸沢小屋へ
ラーメンで昼食。バックは前穂のギザギザ
2019年08月24日 10:46撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 10:46
ラーメンで昼食。バックは前穂のギザギザ
ここから南陵急登。背後は屏風の耳と遠く常念岳
2019年08月24日 11:25撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 11:25
ここから南陵急登。背後は屏風の耳と遠く常念岳
ハクサンフウロ
2019年08月24日 11:32撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 11:32
ハクサンフウロ
ザイテングラートを遠望
2019年08月24日 11:48撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 11:48
ザイテングラートを遠望
シモツケソウとトリカブトとアザミによる若干地味なお花畑
2019年08月24日 11:51撮影 by  DSC-HX90V, SONY
1
8/24 11:51
シモツケソウとトリカブトとアザミによる若干地味なお花畑
涸沢カール、涸沢ヒュッテと前穂
2019年08月24日 12:12撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/24 12:12
涸沢カール、涸沢ヒュッテと前穂
急登の先にようやく見えてきた北穂山頂
2019年08月24日 12:22撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 12:22
急登の先にようやく見えてきた北穂山頂
振り向けば蝶槍(左)と蝶ヶ岳
2019年08月24日 12:28撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 12:28
振り向けば蝶槍(左)と蝶ヶ岳
その左は常念岳、東大天井岳への稜線
2019年08月24日 13:18撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 13:18
その左は常念岳、東大天井岳への稜線
やっと北穂南北峰の分岐到着
2019年08月24日 14:05撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 14:05
やっと北穂南北峰の分岐到着
北峰山頂から横尾方面を見下ろす。ガスってきた
2019年08月24日 14:21撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 14:21
北峰山頂から横尾方面を見下ろす。ガスってきた
山頂直下の北穂高小屋到着
2019年08月24日 14:23撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/24 14:23
山頂直下の北穂高小屋到着
【25日】朝は雨だったが徐々に晴れそうな雰囲気に
2019年08月25日 06:26撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 6:26
【25日】朝は雨だったが徐々に晴れそうな雰囲気に
大キレット降下開始。あんな所行くの?との後悔先に立たず
2019年08月25日 06:40撮影 by  DSC-HX90V, SONY
4
8/25 6:40
大キレット降下開始。あんな所行くの?との後悔先に立たず
常念岳のシルエットを見て心を落ち着ける
2019年08月25日 06:56撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 6:56
常念岳のシルエットを見て心を落ち着ける
足元のトウヤクリンドウでさらに心和む
2019年08月25日 07:14撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 7:14
足元のトウヤクリンドウでさらに心和む
でも、こんな下りですぐ神経が昂る
2019年08月25日 07:23撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 7:23
でも、こんな下りですぐ神経が昂る
4連ステップの一部が見える。飛騨泣きか
2019年08月25日 07:24撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 7:24
4連ステップの一部が見える。飛騨泣きか
4連ステップの難所からはるか上になった北穂小屋を仰ぐ
2019年08月25日 07:28撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 7:28
4連ステップの難所からはるか上になった北穂小屋を仰ぐ
笠ヶ岳方面
2019年08月25日 07:28撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 7:28
笠ヶ岳方面
滝雲の名残が獅子鼻から離れていく
2019年08月25日 07:34撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 7:34
滝雲の名残が獅子鼻から離れていく
全て見えた。左が長谷川ピーク
2019年08月25日 07:43撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 7:43
全て見えた。左が長谷川ピーク
やっと飛騨泣きを過ぎて一休み
2019年08月25日 08:12撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 8:12
やっと飛騨泣きを過ぎて一休み
イワツメグサ
2019年08月25日 08:19撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 8:19
イワツメグサ
単独ステップを踏み越えて長谷川ピーク。お尻ムズムズ
2019年08月25日 08:38撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 8:38
単独ステップを踏み越えて長谷川ピーク。お尻ムズムズ
「Hピーク」撮影中
2019年08月25日 08:39撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 8:39
「Hピーク」撮影中
ようやく獅子鼻が迫って、ここから登り返し
2019年08月25日 09:35撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 9:35
ようやく獅子鼻が迫って、ここから登り返し
イワギキョウ
2019年08月25日 09:48撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 9:48
イワギキョウ
振り向けば遥か大キレットの彼方の北穂高岳
2019年08月25日 09:53撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 9:53
振り向けば遥か大キレットの彼方の北穂高岳
ウサギギク
2019年08月25日 10:12撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 10:12
ウサギギク
南岳山荘到着。大キレットを過ぎたとたんにガス
2019年08月25日 10:22撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 10:22
南岳山荘到着。大キレットを過ぎたとたんにガス
南岳新道は中央の尾根に上るルート
2019年08月25日 10:55撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 10:55
南岳新道は中央の尾根に上るルート
この細い急な尾根をそのまま下る
2019年08月25日 11:35撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 11:35
この細い急な尾根をそのまま下る
遠くに鷲羽岳
2019年08月25日 11:41撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 11:41
遠くに鷲羽岳
はるか下に槍平小屋が見えて安心したのは早かった
2019年08月25日 11:41撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 11:41
はるか下に槍平小屋が見えて安心したのは早かった
急勾配の木段はほとんど壊れ、クマザサで道は見えず
2019年08月25日 13:29撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 13:29
急勾配の木段はほとんど壊れ、クマザサで道は見えず
ようやく南沢へ。このガレ沢を渡るとやっと勾配が緩む
2019年08月25日 14:09撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 14:09
ようやく南沢へ。このガレ沢を渡るとやっと勾配が緩む
槍平小屋前の登山口の注意書き。本当に「通行困難」です
2019年08月25日 14:50撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 14:50
槍平小屋前の登山口の注意書き。本当に「通行困難」です
滝谷の滝と雪渓を横目に急ぐ
2019年08月25日 16:04撮影 by  DSC-HX90V, SONY
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8/25 16:04
滝谷の滝と雪渓を横目に急ぐ
予定から2時間遅れてようやく白出沢出合
2019年08月25日 17:20撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 17:20
予定から2時間遅れてようやく白出沢出合
ロープウェー駅前から迎えの車で深山荘へ。日も暮れて、疲れた・・・
2019年08月25日 18:45撮影 by  DSC-HX90V, SONY
8/25 18:45
ロープウェー駅前から迎えの車で深山荘へ。日も暮れて、疲れた・・・
撮影機器:

装備

個人装備
ヘッドランプ 予備電池 1/25000地形図 ガイド地図 筆記具 保険証 飲料 ティッシュ バンドエイド タオル 携帯電話 雨具 防寒着 ストック 水筒 時計 緊急保温シート 着替え
共同装備
GPS ツェルト 計画書 非常食

感想

 一日ごとに歩行時間が倍になるようなコース設定が失敗その1。下山の南岳新道の現状をヤマレコで研究しなかったのが失敗その2。足慣らしの八ヶ岳でこけまくり、下りは用心で爪繰るような足運びになったAlps165ことDr.エモンの低速と、そんな低速で腿がパンパンになった当方の脚力低下が失敗その3。望外の好天で景色は楽しめたが、反省点のある山行となった。
【23日】 雨模様の天気予報が直前で変わって、秋雨前線が南下して松本盆地は晴れていた。新島々駅から女性のガイドさんが乗るようになったバスで上高地に至り、昼食を採ってから出発した。横尾が満室とのことで、「奴隷船の雑魚寝は嫌だ」というDr.の提案で一つ手前の徳沢ロッジを予約した。
 時間があり過ぎるので、河童橋を渡って明神館まで自然探勝路を歩くことにする。梓川の河畔に出ると、雲は多いのに岳沢カールと吊尾根が全容を見せていた。前日までの雨のせいか、探勝路周辺の小川は結構水位が高い。そんな水の中をのぞき込むと、大きなイワナが2,3匹逃げもせず近くを泳いでいた。
 一部木道を直している所は並行する林道を通り、気が付けば明神橋。渡って明神館で本来の登山道に合流した。この先も二、三回登り坂がある程度で、車の通れる道が続く。意外とあっけなく初日の行程を終了。この距離では当然ではある。
 徳沢ロッジは、静かにジャズの流れる心地よい宿だった。アコモデーションは「旅館」の範疇か。風呂も石鹸とシャンプーありで、夕食のご飯が異様に固めの炊き上がりだったのが玉に瑕だった。
【24日】 6時半からの朝食を食べて出発。今日も北穂までだから、さほど急ぐ必要はない・・・というか、あんまり急ぐと最後の登りに差支える。土曜とあって、横尾は大勢の登山者でにぎわっていた。橋を渡り、屏風岩を巻いて行く登山道を行く。今日は誰も取りついていないようだ。やがて前方頭上に北穂が見えた。
 本谷橋でひと休み。岩と岩を結ぶ板橋と立派な吊り橋の二つが架かっている。水を補給してひと登りすると、遠く涸沢カールが見えてきた。S字ガレからは涸沢の小屋も見える。振り返れば東大天井岳のたおやかな稜線がそびえている。雪渓が見えた所が涸沢ヒュッテと涸沢小屋への道の分岐だった。左前方を見上げると吊尾根から前穂が一望できた。前穂の切っ先から雲が湧いている。頂上は風もあるようだ。
 右後方に屏風岩の影から常念岳が見えてきた。腹も減ったので涸沢小屋でランチ休憩。ここではスマホがドコモではなくauが通じる。ラーメンとソフトクリームで腹を満たして、いよいよ北穂高岳への急登に挑んだ。初めから急坂で、それが延々と続く。梯子や鎖も現れ、標高も高くなって息が切れる。70歳代見当の元気な女性グループを追い抜いたころ、ようやく頂上が見えてきた。振り向けば涸沢カールが指呼の元で、穂高岳山荘に至るザイテングラートの道もよく見える。
 南峰と小屋のある北峰との分岐に着いた頃、急速にガスが増えてきた。じきに頂上というのに間が悪い。最後のひとアルバイトで登頂した時は、下方の一部を除いてガスに包まれてしまった。しばらく待ったが、眺望は戻りそうもないのですぐ下にある北穂高小屋に投宿。
 おりしもこの日はDr.の誕生日で、涸沢小屋の若い女性従業員も偶然同じ誕生日だと喜び合ったところだった。そこで、コーヒーと持参のパウンドケーキをおごって、地上3100mのテラスでささやかなお祝いをした。これでパッと霧が晴れてくれれば言うことなしなのだが、そうはうまくいかず、寒くなったのですごすごと自分らの猊屋”(区画)へ引き上げた。
 山に来ると眠り病になるDr.は速やかに沈没。先ほどのベテラン女性グループが隣の「ドーム」という個室に到着し、初めは元気いっぱいに話していたが、すぐにおとなしくなった。結局、夕食の呼び出しにもノックされるまで反応がなく、強烈な登高に相当消耗したようだ。
【25日】 4時半に明かりがついた。外をさぐると、なんと雨。危ないので南陵へそのまま折り返すことを考えなくてはならない。暗澹として朝食を採っていると、「雨あがった」の声が聞こえた。隣に座ったくだんのベテラン女性陣から分けてもらったおかずでパワーを補給し?、ガスの晴れるのを待つ。
 6時を回り、裏の山頂の様子を見てみる。そろそろ出発しないと下山時間に差し支えるが、振り仰ぐ空がわずかに青く、一瞬だが笠ヶ岳方面のガスが切れた。雨雲レーダーにも次の雲はないので、予定通り出発を決断。6時半、居合わせた登山者の「大キレットですか? お気をつけて」の声に送られて文字通りの急降下を開始した。
 初めは岩の急斜面に足がすくむ思いがしたが、だんだんと慣れてくる。やがてガスが晴れ始め、滝雲のような雲の流れがキレットを乗り越えていくのが見えた。それにしても、どこまで下るのかと言いたいほど下降する。前回7年前に逆行した時、この辺りはガスと雨で何も様子が分からなかった。
 朝日の当たりだした槍沢側から飛騨側にルートが移ると、冷たい風が吹き寄せて途端に寒くなる。岩に固定した4つのステップと水平に張った鎖を頼りにその飛騨側へ尾根をまたぎ越し、鎖と短い杭を駆使して岩を回り込むのが飛騨泣きの核心部。足元の谷底はなるべく見ないようにするのが得策だ。
 ふと振り向くとDr.が遅れ気味。足場を助言してあげるのだが、転ぶまいと慎重の上にも慎重を重ねている。南岳側から越えてきた登山者とすれ違うようになり、進路を譲るためにさらに時間を使ってしまう。まあ、落ちたら一巻の終わりだから待つしかない。A沢のコルで一息つき、もう一つの難所・長谷川ピークに挑んだ。
 雲はすっかり消えて、獅子鼻に至るキレットの全容が見渡せる。飛騨泣きに比べると危険は少ない感じだが、ナイフリッジを右へ左へ移りながら乗り越していくので、高度感は凄まじい。やがて岩に一つだけ固定したステップが現れ、「Hピーク」の文字が見えた。
 ここまで来れば、後は徐々にコースの難易度は落ちていく。次々と登山者と擦れ違いながら鼻歌気分で進んでいくと、うっかり動物の糞を踏んでしまい、慎重居士と化していたDr.に笑われた。ルートの真ん中にいくつもマーキングしていたので不覚を取った。猿だろうか。
 岩石を積み重ねたような区間に至ると、獅子鼻が眼前にのしかかるように迫り、いよいよ最後の登り返しとなる。梯子と鎖でそれなりに体力を要するため、スピードが落ちた。700ヘクトパスカル程度の気圧だと、当方の肺は働きが不十分になるらしい。喘ぎ喘ぎ最後の木段区間を詰めるとなだらかな稜線が見え、すぐその手前に南岳小屋があった。
 やれやれと見渡すと、たちまち濃いガスがやってきて、ショータイムは終わりとばかりに周囲を覆い隠してしまった。飛騨側からは冷たく噴き上げる風が募りだす。大キレットを渡るのに、コースタイムを大幅に上回る4時間近くを使ってしまった。先を急ぎたい気持ちを抑えてリュックを降ろし、大休止。この分だと降りてから槍平小屋で昼食を採るどころか、途中でフリーズドライ食品を湯で戻す暇もなさそうなので、昼は行動食で済ますことにした。
 20分休んで綿入れを着込み再出発。初めはなだらかだったが、すぐに急傾斜となり、小規模なカール地形のガラ場を急降下する。見下ろすと、最後はカールを斜めに横切って西尾根に乗るルートのようだ。何人かが登って来たが、一様に消耗した様子なのが気になる。
 西尾根は、初めに平均台のような木道があるハイマツの痩せ尾根だった。やがて岩場の下りとなり、疲れた脚に負荷をかける。森林限界の下に出て、尾根から外れて灌木の生える山腹を辿りだしたのを喜んだのは、大きな間違いだった。足元にはごろた岩が散らばり、ところどころ歩けないほど壊れた木の梯子や木段の残骸が行く手をはばむ。
 登りの人の苦労が知れたが、下る場合は転倒防止に非常な神経を使わざるを得ず、Dr.の歩行速度が目に見えるほど落ちた。たちまち昼が近づき、小休止でカロリーメイトを頬張る。Dr.は「腹が減らない」と何も口にしないので心配した。飴玉を渡して、2人で飴をしゃぶりなら下山を再開した。
 この間も次々と登山者に出会ったが、誰に聞いても「ずっとこんな感じの道です」と疲れた様子で答える。午後1時を回って最後に行き合った若い女性3人は、「この先、クマザサに覆われて道が見えません。そこに壊れたハシゴがあったりしてとても危ないです」と教えてくれた。また、南沢を渡った先の最後のコースは比較的なだらかとのこと。まだ難所があるのかと気落ちしたが、実態はクマザサ区間の方が、いざとなれば笹につかまることもできるため、ずっと歩きやすかった。この程度が「危なかった」とすると、彼女らは無事に南岳小屋に辿り着けたのか心配になる。
 再び普通の植生の森に戻る。Dr.は爪繰るように足場を選んでは一歩ずつ下りて行くスタイルで、大変な時間を要している。彼にペースを合わせてゆっくり足を出すのは、負荷がかかり過ぎるのでやりたくない。勢いオトシブミのようにちょっと歩いては止まりを繰り返して時間調整することになり、こちらも結構消耗した。
 南沢の横断地点に着いた時は、いい加減いやになっていた。おぼつかない足取りのDr.を励ましてガレ沢を渡り、森の中を歩くことさらに30分余り、やっとのことで槍平小屋に到着した。登山口に「老朽化で通行困難な区間がある」などと書いた注意書きがあったが、上の下山口にそうした注意喚起はなかったようだ。
 少し休ませてほしいというDr.の希望に応えてベンチで休憩を取った。すでに午後3時を回り、食事休憩を抜いていながら計画より2時間も遅れている。新穂高温泉の到着見込みは6時半。せめて林道になる白出沢出合までは少しでも早く着かないとまずい。
 できる限りのスピードで右俣谷沿いの林の道を歩いたが、次々と若い下山者に抜かれた。やがて後続も槍平に泊まる擦れ違いの人の姿も絶え、太陽が西の山の端に隠れる寸前、なんとか白出沢出合に到着することができた。
 さあ、後は歩きやすい林道となってDr.の歩調も軽快さを取り戻したが、気が付けば午後5時半と伝えた新穂高温泉深山荘の到着予定時刻になっている。午後6時、穂高平でやっとスマホの電波が入ったので遅れる旨を伝えた。すると、しばらくして「迎えの車を出す」との連絡が。日もとっぷり暮れて脚もきつくなってきた頃、前方の新穂高ロープウエー駐車場前の道路に宿の車のヘッドライトを見つけた時は、まさに地獄に仏の気分だった。

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上高地から横尾経由槍ヶ岳ピストン!
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