南アルプス/仙丈ヶ岳
- GPS
- --:--
- 距離
- 8.5km
- 登り
- 1,062m
- 下り
- 1,145m
コースタイム
9:00 北沢峠着 仙丈ケ岳登山口発
9:10 1合目通過
9:40 3合目通過
9:50 4合目通過
10:08 5合目 大滝頭 5分休憩
10:30 高度2600m地点 ハイマツ帯に突入(森林限界)
11:00 小仙丈ケ岳山頂 10分休憩 高度2855m 720Hpa 15℃
12:05 仙丈ケ岳山頂 高度3033m 704Hpa 10℃
13:00 下山開始
過去天気図(気象庁) | 2011年06月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
予約できる山小屋 |
|
写真
感想
南アルプス/仙丈ケ岳
単独
6月14日の午前0時頃、中央高速道路の駒ヶ根インターチェンジを降りた時点で未だ迷っていました。
狎臂罐嘘戮謀个襪?栗沢山に登るか?
栗沢山はメジャーではないと思うのですが、甲斐駒ケ岳の対面に位置し、甲斐駒ケ岳の摩利支天はもちろんのこと、鳳凰三山・白根三山・仙丈ケ岳の展望が素晴らしい良い山です。標準コースタイムも北沢峠から仙水峠経由で4時間程度で廻って来れますし、時間に余裕があればアサヨ峰までプラス往復2時間で快適な森林限界の稜線歩きが出来ます。
対して仙丈ケ岳は標準コースタイム7時間強(往路/小仙丈ケ岳・復路/藪沢新道)。ハイキングとしてはちょっと長いですが、なんとかなりそうな行程。しかしっ!問題は始発のバスが北沢峠に到着するのは午前9時・・・最終バスが北沢峠を午後4時発・・・そうです!中7時間しかないのです。420分1本勝負になるんです。もし、この最終バスに乗り遅れた場合は、北沢峠の長衛荘に泊まって、翌朝10時発の始発バスで帰るか、北沢峠から仙流荘までの林道を6時間かけて自分の足で降りるしかありません。実際問題、翌日は仕事・・・しかもデスクワーク山積の日・・・しかも他のスタッフは皆休みで一人営業の日・・・。絶対に帰らねばいけません!
これが迷う理由でした。
駒ヶ根IC近くのローソンで食料調達している時も、仙流荘の駐車場で仮眠に入る前もずっとどちらにしようか考えていました。
6月15日の午前7時、自家用車の後部座席で目覚める。天気はまずまず。快晴では無いけれど雨は心配なさそう。ここから仙丈ケ岳は見えないので、いけるかどうかの判断は出来ません。トイレと歯磨きに仙流荘の外のトイレに向かいました。すると、去年いろいろお話したことがある山登りする運転手さんがバスの出発の準備をしていました。
「あはようございます!」
「ああどーも!」
「仙丈ケ岳の雪はどうですか?」
「小仙丈ケ岳のあたりは残雪があるようですよ」
爐△襪茲Δ任広瓩箸い事は本人のレポートではないし、いつのことだかわからないし・・・。
そこで聞かれても答えにくい定番の質問をひとつ
「今日、日帰りするのは無謀ですか?」
一緒に歩いた事はありませんから相手の力量が分かるハズもなく、明確な答えがし難いと言う嫌がられる質問ナンバーワンです。私としては「一般的には?」という意味合いで聞いてみただけです。最終的に判断しなければならないのは自分自身ですし、責任も全て自分で持たなければならないからです。
「ん〜・・・若いから大丈夫じゃないですか?」
聞いておいてなんですが、
それはそれで答えとしては受け取り難い定番の回答です(笑)
ですが、私としては一般的に「問題外に危険です」という意味合いには取れませんでした。むしろ、運転手さんの目の奥に「Youやっちゃいなよ」的な背中を押す何かを見たのです。去年も南アルプス1年生の私に鋸岳の具体的な登山ルートを一生懸命教えてくれました。その時も
「鋸岳はまだ無理っす!」
と言った私に
「イケますイケます!」
と謙虚なのかイケイケなのか・・・ノリ的には好きです(笑)
6月15日 仙流荘(戸台)駐車場 気温18℃ 914Hpa
午前8時発の始発のバスに乗りました。6月15日は戸台から直接北沢峠に林道バスが乗り入れるシーズン初日です。私はこの日を約7ヶ月待ちわびていました。7月16日からは平日でも午前5時から始発が出ますが、あと1ヶ月は待っていられません(笑)。丁度休日と重なったので、嬉しくて溜まりませんでした。ですから「何処へ行くのか?」は大して重要な事ではありませんでした。北沢峠を越える・・・南アルプスの中に踏み入ることが重要だったのです。ですから取り敢えずバスに乗ったもののどちらにしようか迷っているのです。始発のバスの乗客は2台分でした。当然追加のバスが出ますので問題ありません。乗客は釣り人半分、山登り半分といった感じでした。思いのほか釣り客が多いことに驚きました。やはり初日の方が魚がスレてないからでしょうか?
バスが走り出し、林道を走り始めてもまだ迷っていました。
「甲斐駒は去年登ったし・・・仙丈とコースタイムは大差ないし・・・栗沢山は去年登ったけど、他の山の残雪の具合を偵察するのに最適だし・・・可能であれば仙丈に登りたい・・・高度3000m超えだし・・・まだ登ったことないし・・・ん〜・・・」
バスの運転手さんの簡単なガイドも上の空で、毎回食い入るように見つめる鋸岳の鹿窓もチラ見しただけでした。段々高度が増すにつれて駒ケ岳や仙丈ケ岳が近くなって大きく見える。双方とも車窓から見る限りは残雪は確認できない。しかも、この程度ならあったところでコースタイムに影響はなさそう・・・。結局北沢峠の手前の大平山荘に着く直前まで悩んでいました。すると、近くに座っていた70歳前後と思われる女性二人組みがおもむろに立ち上がり、大平山荘で下車した。
「決めたっ!仙丈に登ろう」
人生の大先輩である方が「今日はイケる」と思ってここで降りたのなら「私もイケる」と思ったからです。
どちらにしようか迷ってはいましたが、栗沢山と仙丈ケ岳の2万5千分の1地図は用意してありますし、昨日までにさんざんインターネッツで「仙丈ケ岳 日帰り」で検索しまくって予習していました。大平山荘で降りる人の99%は藪沢新道で仙丈ケ岳に向かうハズですし、この日は大平山荘も馬の背ヒュッテも仙丈小屋も営業していませんので、先ほど下車したお二人も100%日帰りでしょう。装備の感じからまさかの仙丈ケ岳乗り越えの両股小屋ということもなさそうです。ただ、ザックの煤けた感じからかなりのエキスパートと見受けました。
「だが、俺ならイケる!」
そう思いました。
北沢峠 794Hpa 12℃
バスが北沢峠に到着し、乗客がぞろぞろ降りた後、私はバス停のテントの下で最終的なコース確認をしました。登山口はすぐ横です。
私は意を決して仙丈ケ岳の登山道に突入しました。颯爽と・・・。
しかしっ!
ストックが・・・ナッシング!?
どうやら先ほどバス停に置き忘れたようです。
あわてて引き返すと、同じバスに乗ったイケメンの同い年くらいの好青年がストックを握り締めてこちらに向かってダッシュしてきてくれました。
「有難うございますっ!」
(内心)「お恥ずかしいぃ〜・・・」
そして、もう一度歩き出しました。
「ん!?そー言えば鈴をセットしよう」と
ザックの後ろに手を伸ばすと
「ないっ!僕の熊に金棒DXちゃんが・・・ないぃ〜〜〜!!」
どの時点から無くしたのか検討がつきませんが、少なくとも自家用車から担ぎ出した瞬間は存在していたのです。「チリン!」と鳴ったのは覚えています。
今となってはアレが最後の別れの音だったか・・・。
私は心の中で爛曠織襯離劵リ瓩鮴鴇Г靴覆ら、トボトボと歩き出しました。
※熊に金棒DXは鳴るようにしたり鳴らさないようにできる熊除けの鈴で、普段は鳴らないようにしてザックの外側の底部にカラビナで引っ掛けてあったのです。
熊に金棒DXを失った私は、彼女に振られたような気持ちのまま仙丈ケ岳登山口から1合目までの山道を歩いています。私の人生のテーマは「潔く」ですから、ホタルノヒカリを歌い終わったらきっぱり忘れることにしました。
1合目から2合目まではやや急な登りです。アイドリング無しでいきなり登り始めたのでちょっとだけ辛いです。2合目から3合目は平坦で広く歩きやすい道です。少しづつ息を整えて落ち着くと、周りのシラビソが目に入ってきて、南アルプスに来たことを実感できました。
「来て良かったなぁ〜」としみじみしました。3合目から5合目は急登です。といっても、手を使う機会はありません。体力だけで充分です。特に気をつける箇所もありませんでした。ただ、3合目を過ぎた辺りから、登山道を外れた日陰には部分的に残雪があります。登山道は乾いていました。まだ・・・。5合目の狢臑貽瓩亘寨菠岐点ですから広いスペースが作ってありますし、立派な看板があります。
馬の背方面への道の入り口はトラロープで封鎖されていました。5合目を過ぎてからは「○合目」とい標識を見つけることは出来ませんでした。高度2600mを過ぎた頃、ちょっとした広場があると共に、ハイマツ帯に突入しました。森林限界です。
私はここを歩くために冬も山歩きをしています。森林限界を歩く事が私の山の醍醐味なんです。ハイマツ帯の稜線は西も東もガスっていて何も見えません。時折伊那側から猛スピードでガスが流れてきます。地上から見れば雲の中です。
「俺って南アルプスと相性悪いのかな・・・」
一般的な地上の天気予報では倏澑の晴れ間瓩噺世辰討い燭里法△笋辰僂蟶Fもガスに包まれている・・・。
でも、道そのものはガスったり晴れたりしていますので、歩く事に支障はありません。
高度2700m地点に残雪の急斜面が待ち構えていました。
斜面の直下まで来ると、最近出来たっぽいツボ足の跡が一直線に伸びていました。辺りを見回しても他に道はありません。取り敢えず一歩を踏み込んでみると、シャーベット状ではありますが、結構雪が閉まっていましたので軽アイゼン無しでもイケそうでした。この斜面は25mほどあり、積雪は50cmほどありそうですから全部解けるのにまだ1ヶ月くらい掛かりそうでした。雪が無ければ何でもないタダの急斜面です。半分ほど登ったところで振って写真を数枚撮りました。同時に後から3人ほど登ってきているのを確認しました。この斜面は仮に滑って下まで落ちても死ぬような斜度や高さではありません。残り半分はサクサクとキックステップで上りました。
午前11時ジャストに小仙丈ケ岳に到着しました。
甲斐駒ケ岳はガスに包まれていますが、北岳と間ノ岳の西面が良く見えました。両峰とも高度3200m弱ですからここより随分高く見えます。残念ながら東側はガスに包まれています。時折ガスが流れてバットレスの一部がチラっと見えましたが、まだまだ雪がビッシリ張り付いているようです。来週の連休には、今年初のテント山行として1泊2日の北岳ピストンを予定していましたが、やめました。少なくとも快適に過ごせそうには見えなかったからです。
小仙丈ケ岳の山頂は非常に展望が良いです。ぶっちゃけこれを書いている今、思い返すと「ここで引き返しても良かったかな」と思います。小仙丈ケ岳の山頂まで来ると仙丈ケ岳まで行かないことが罪とさえ思えますが、展望だけならココでも充分です。ただ、私が予定している復路は仙丈ケ岳の向こう側にありますので、行かない訳にはいきません。
小仙丈ケ岳から仙丈ケ岳への稜線に目をやると、快適な尾根道が見えます。目算では距離的にも標準コースタイム通りに到着できそうです。この時点で2時間。ここから1時間。往路3時間。コースタイムより1時間早く進行しています。
「やった!確実に終バスに間に合う!」
そう思いました。この時点では・・・。
取り敢えず、往路3時間を目指して小仙丈ケ岳を出発しました。
小仙丈ケ岳から仙丈ケ岳への道はまず下ってから登り返して手前のピークから平行に歩いて最後にひと登りです。この辺りは高度2800mありますので高所が半年振りだったからなのか若干息苦しかったです。心臓の鼓動が高鳴るとちょっと立ち止まって呼吸を整えます。中2週間ほど山に登りに行けなかったのと、久しぶりに急いで3時間歩き詰めているからか、汗もかきました。風も強いし、気温は10度近くまで落ちているし、ちょっと立ち休憩しただけで寒いです。山頂までのほんのわずかな急登で、ハムストリングが悲鳴を上げ始めていました。
しかし、本格的に痛くなる前に山頂に到着しました。
展望は小仙丈ケ岳と大して変わりません。相変わらず甲斐駒ケ岳はガスに包まれ、かろうじてうっすらと摩利支天が見えました。北岳と間ノ岳も手前半分しか見えず、今シーズンの早い段階で登るつもりの塩見岳方面もまるっきり雲の中です。残雪の具合を確認しておきたかったのですが仕方がありません。中央アルプス方面も、ほんの少しガスが途切れた瞬間に稜線がみえますが、それがどの山なのか判別できるほどは見せてくれません。
私のお決まりの儀式として山頂の看板にストックをぶら下げて、バックパックを根元にセットし、人物なしの記念写真を1枚だけ撮りました。
結局往路は3時間10分程度かかり、1時間余裕を作ることが出来ました。取り敢えず湯を沸かし、麓のコンビニで買った新発売の爛掘璽奸璽疋レー&チーズ瓩覆詁清のカップヌードルに注ぎ、唯一売っていた、倏澆舛蠅瓩鶚瓩里にぎりをラーメンの蓋の重しにしながら暖めました。家から持ってきたチーズを頬張りながら、3分待ち、高度3000mの一人ぼっちのランチを食べました。あとから3人ほど登って来ましたが、広い山頂エリアに散開して陣取っていましたので、会話はありませんでした。きっと皆さん疲れてもいるのでしょう。本当ならここで他の方の復路の予定を聞いておけば、もっと楽に下山できたのかも知れません。
私は食べ終わると、さっさと荷物をバックパックに詰め込んで、未だ見ぬ藪沢新道への降下点に向かって歩き出しました。
歩き出して15mほどで、雪によって踏み後は絶たれていました。雪の上にも踏み跡と確認できるものはありませんでした。私は心の中で
「そんなハズはないっ!」
と吐き捨てて、時折見え隠れしている緑色の誘導ロープを探しながら下り始めました。
最後の降雪日から誰も仙丈小屋経由で登ってきていないのか・・・?
見下ろせば、ガスの切れ間に仙丈小屋が目視できます。
「結果的にあそこまで行けば問題ない」
そう思いました。
コレを書いていると言うことは当然無事に帰ってきた訳ですが、2011年6月15日の藪沢新道の下りは死の危険さえ感じ、バスのタイムリミットという時限装置も発動し、生きた心地がしたのは大平山荘の手前2kmくらいの区間だけでした。
細かく立ち止まって時間やメモや写真を撮った往路とは違い、復路に余裕の二文字はほぼありませんでした。ですから、狎臂羮屋甅倏呂稜悒劵絅奪騰甅狎齋未離レバス甅狹仍各擦陵融辧米擦噺世ζ擦呂△蠅泙擦鵑任靴燭)瓩亮命燭楼貔擇△蠅泙擦鵝K榲に危険な時は、メモも写真もありません。そういう経験ないですか?
午後1時に仙丈ケ岳の山頂から下山開始し、たった15m歩いただけで道がなくなりました。かろうじて誘導用の緑色のロープが見え隠れしています。
下り始めは眼下に仙丈小屋が見えていました。高度で50mほど下降すると、ハイマツも雪に埋もれ、ただ雪の斜面が目の前に広がっていました。ここも雪さえなければ何てこと無い場所だと思います。しかし、足元は真っ白・・・益々濃くなったガスで四方八方真っ白・・・ついには100mも離れていないハズの仙丈小屋の方向でさえも分からなくなりました。
「しまった!・・・小屋の方向だけでも見ておけば良かった・・・ガクッ・・・」
ちょっと立ち止まってガスが晴れるのを待ちました。チラっと小屋の屋根が見えました。直ぐに下るべき雪面をイメージしました。あと50mほど下らなければ小屋の立っている平地に辿り付けません。目を凝らすと小屋の裏手に高山植物保護用と思われる歩行者向けのガイドロープが見えました。踏み跡は見渡す限りありません。私はカカトを雪面に蹴り込みながら一直線に下りました。
仙丈小屋に着くと、地図を見ながら下山道の取り付けを探しました。地図上では小屋の裏手から道が伸びているように見えたので、小屋が閉まっているのを確認しながら裏手に回りました。道はありません。ちょっと興奮気味だったような気もしたので小屋に設置してあるベンチに腰掛けて冷静さを取り戻そうと小屋の入り口の方に廻ると、小屋の2階部分のテラスにイケメンのお兄さんが立っていました。多分管理人さんです、
「こんにちは!」
「こんにちはぁ〜!」
「下山する道はどっちですか?」
「そっちですよ」
教えてもらった方向を見ると、普通に緑色のガイドロープが見えました。
「有難うございます!」
小屋の直ぐ脇に、雪の下から勢い良く流れ出す水が見えました。ここより上はありませんので、多分藪沢の源流のひとつと思われます。
小屋の直下はガイドロープがあるので道に迷いませんでした。安心し始めた時、ひとつの疑問が脳裏に浮かびました。
「!?・・・そう言えば大平山荘で降りていったあの二人組みとすれ違っていない・・・」
この時点で午後1時30分頃だったので、ちょっと心配になりました。
更に下ると広い雪原にでました。この辺りの雪上には古い踏み跡が幾筋か残っていましたので、不安はありませんでした。シャーベット状ではありましたが、雪はよく締っていたので埋まることはなく、意図せずグリセードしたのをキッカケに、何だか楽しくなってきて、雪上をアイススケートするように滑って下ることが出来ました。海面が波打っているような雪面でしたので、ずっと滑り続ける訳にはいかず、時折歩きながら下りました。雪原が終わり、背の低い樹木に囲まれれるようになった頃、あの大平山荘で下車した女性二人組みとすれ違いました。
「こんにちは!」
「こんにちは!(向こうはハモリ)」
・・・話のキッカケは忘れました・・・
「もう頂上に行ってきたの?」
「はい」
「あと30分くらいで小屋に着きそう?」
「いえっ・・・30分以上掛かると思います」
「(藪沢新道と比べて)向こうの道はどうだった?」
「こっちよりは全然マシです」
「そーなんだ・・・」
「日帰りですよね・・・?」(念の為聞いてみた)
「そうだよ」(やっぱり・・・)
「長衛荘ですか?」(この時間から山頂に行って下ったら何時になるんだ?)
「そうだよ、あなたは?」
「私は今日中に麓に降ります」
・・・途中の会話は詳しく覚えていません・・・
「この先は沢伝いに行けば危ないところはないよ。ただ、道は見えないから適当に歩いてきたけど・・・踏み後残してきたから・・・ウンヌンカンヌン」
「アブナイトコハナイヨ・・・」
「アブナイトコハナイヨ・・・」
「アブナイトコハナイヨ・・・」
何故かそこだけ私の脳内で木霊しました。
下り始めてからずっと銀世界だったので、この先の雪渓が心配だったのですが少し安心しました。
そして別れた・・・
大丈夫だっただろうか?ちょっとどころかかなり結構心配だったけど、小屋にお兄さんが居ることは報告したので、何かしらのアドバイスは貰えると思いました。
今思えば、あのお二人もかなりの手練とお見受けしたが、すれ違った時間から換算する大平山荘から5時間半・・・おそらく山頂まで早くても1時間半くらい・・・雪を考慮すると2時間掛かる気もする・・・そうなると往路7時間以上・・・急いで向こうの道を下っても2時間は掛かるハズ・・・長衛荘到着は最速でも午後5時・・・最悪午後7時になるかも・・・ガクガクブルブル・・・。
私自身もお二人とすれ違ってからタイムリミットの心配が再浮上してきました。
それから少しペースアップして下りました。
突然分岐の標識が現れて・・・狠扱命憩鮫瓩諒源を確認。2万5千分の1地図で現在地を再確認しました。小仙丈ケ岳山頂から見えていた馬の背ヒュッテの位置から想像すると、もう通過しても良い頃だと思ったからです。地図によるとやはりもうすぐ馬の背ヒュッテが見えてくるハズです。
谷の右岸にそそり立つ斜面は小仙丈ケ岳で、新緑のハイマツ帯がここからみると芝生の広場のように見えます。冬場に歩いた低山の笹原よりも、やはり
「ハイマツはいいっ!」
と少しモチベーションを取り戻して、
道の両脇に高さ2m程のネットが張り巡らされた道を歩きながら
「何だこのネット・・・!?・・・何除け!?」
などと考えながら馬の背ヒュッテを目指して下りました。
馬の背ヒュッテは今期の営業前です。全ての入り口・窓などに木の板が嵌められており、完璧に侵入者を拒絶していました。冬期の入り口は見当たりませんでした。仙丈小屋の方が設備的には充実しているという印象を受けましたし、向こうは冬期の入り口やトイレもあったので親近感が持てました。
特に用は無いので先を急ぎました。馬の背ヒュッテの近辺だけ特に歩道の両脇に高々とネットが張り巡らされていました。結局何の為だったのだろう・・・。
5分程下ると、藪沢の谷の本流らしきポイントに下り立ちました。半分雪に埋もれた道標には狢臑貽瓩諒源があることから往路で休憩したポイントへ通じていることが分かりますが、通行止めになっていたことも納得できます。道はありません。あるのはただの雪壁です。
私が辿るべき道は谷を下りていく方向ですから簡単です。ですが、道といえるものはほんの5mほどあっただけで、その先はひたすら雪渓が広がっています。地図によると左岸に登山道があるはずですが、雪に埋まって形跡すらわかりません。すれ違ったお二人の踏み跡はハッキリしていませんが、とにかくここを下っていくことだけは間違いなかったので、出来る限り人間の踏み跡を意識して歩きました。
段々この雪渓歩きに慣れた頃、安心感が出てきたので爛轡螢察璽畢瓩靴堂爾襪海箸砲靴泙靴拭お尻の下にオールウェザーブランケットを敷いて、河原の堤防でのダンボール滑りの要領です。最初は快適に滑ることが出来ました。所々斜度によって減速してしまうこともありましたし、落石や両岸から落ちてきた木の枝が進路を阻んでいたので、止まらざるを得ない箇所もあり、良く滑れても30mくらい、短いと5mで停止するという事を繰り返していました。結局時間を短縮できたのかどうかも分からない微妙な滑降タイムでした。
次第に雪渓の面が荒れていました。落石や枝などが増え、雪面は茶色がかってきました。シリセードできなかったのでしばらく歩いていたのですが、前方にクレバスのような雪の割れ目がいくつか見えてきました。最初は割れ始めのような簡単に乗り越えられるものでしたから、進路は変えずに跨いで超えていました。しかし、下るにつれて割れ目が大きくなってきました。
初めて身の危険を感じ始めたのは、左岸にあった大きめのクレバスの中を雪解け水が結構な速さで流れているのを見た時です。多分近寄っただけで雪を踏み抜いてしまうでしょう。落ちるだけなら死にませんが、トンネル状になった箇所を踏み抜けば、雪渓の下の天然のトンネルウォータースライダーに飲み込まれてしまいそうだったからです。急に怖くなりました。大きく迂回しようと右岸に向かって歩き出すと、岸際の雪も随分解け始めており、岸に移動するのにジャンプしないと届かないほどでした。つまり雪渓が谷の中で浮島の様になっているのです。しかも登山道らしき段差もないし、両岸とも急斜面でとても歩けるような状態ではありません。ですが、とにかくこの雪渓の上に乗っていることが怖くなったので、何とか跨げるほどの位置を探して右岸に移動しました。その時のことです。雪渓の方を振り返ると、先ほどここに乗り移る為に最終的に踏み込んでいた場所でさえも、横から見ると随分解けていて、いつ踏み抜いてもおかしくない状態でした。私は更にゾっとしました。気を落ちすかせる為に、何とかそのガレ場の急斜面に腰を下ろして煙草を吸いながら雪渓の状態を冷静に観察しました。高度はまだ2400m台。あと高度で500mは下らなければなりません。地図で確認しても距離的にも復路全工程の半分くらいしか進んでいません。時間は2時を廻っていました。
「あと2時間・・・」
こんなコンディションでなければ馬の背ヒュッテから大平山荘までの下りの標準コースタイムは1時間40分ですから、ここからなら1時間ほどでバス停に辿り着けるハズです。
しかし、ルートを観察しつつ慎重に危険箇所を回避しながら歩くとなると・・・。
往路で持っていた余裕はここで微塵も無くなりました。でも下るしかありません。道は間違っていないのですから・・・。ただ雪に埋もれているだけ・・・。
段々別の疑問が沸いてきました。
・すれ違ったお二人はこの辺りをどのように通過したのか?
・この辺も含めて特に「危険な箇所はない」と言ったのか?
何となくだけど「ちょっと岸から離れて遠回りした・・・」と言っていたような気もする。でも、
「結局岸沿いが正解だからどんどん降りていけば問題ない」と言ったような気がする・・・。
というか、見渡す限り切り立った谷のガレ場が続いているだけで迂回できるようなところもない・・・。
何れにしても、あの場面で「こっちは危ないから引き返した方が無難だよ」と言われてもそうしたかどうかは微妙だし・・・このルートを選択したのは自分なのだから全て自分で解決しなければならないのが犹貝瓠ΑΑΑ
「行くしかねぇ〜!」
私は立つことさえままならないガレた斜面を横に移動し始めました。数十メートルは所々川の流れや河原の大きな石が剥き出しになっていて、雪渓を歩くことは危険極まりないコンディション。もう少し行けば反対側の左岸に歩道らしき段差が見える。20〜30mくらい平行移動して、何とか渡渉できそうな地点までガレ場を3mほど降下して、何とか左岸の登山道に取り付きました。この道もそれ程長くは続いていませんでしたが、丁度道が途切れる辺りになると、再度雪渓のコンディションが良くなり、クレバスなども無く、充分歩行可能になりました。しかし、散々危険箇所を見てきたので安心はできません。ストックで雪面を突き刺しながら慎重に下りました。
そして遂に大平山荘へと続く樹林帯の登山道の取り付けに到達したのです。時間は午後3時。地図で距離を確認すると残り1kmくらい。
「帰れる・・・今日中に・・・」
下り始めて初めてホっとした瞬間でした。
すぐに大滝がチラっとみえるちょっとした広場に出ました。地元の学生さんが取り付けた看板に書かれた文句に苦笑いしながらも、あえて思惑通りに覗いてみました。看板の先は絶壁で何もありません。左に大滝の一部が見えているだけです・・・。
「覗かなくても見えてるじゃん!」
と、誰も居ない薄暗い樹林帯の広場でひとりツッ込み・・・。
念の為写真を1枚撮って歩き出しました。大平山荘に到着するまでは気を抜いてはいけないと自分に言い聞かせながら・・・。
そこからは気持ちのよい樹林帯の水平の山道を歩きました。ちょっと怖い場面もありましたが、やはり南アルプスは最高です。この藪沢新道も、夏のクソ暑い時期に来れば涼しい樹林帯と涼しい河原を歩いてゆける良い道でしょう。河原の道で時折水浴びしながら登れば青春を味わえるでしょう。ただ、ちょっと早かった。私には・・・。
そんな事をぼんやり考えながらペースを上げて歩きました。
午後2時20分。遂に大平山荘に到着。山荘は閉まっています。もしかしたら土日は営業しているのかも知れません。そこまでは調べていませんでした。
私は大平山荘の前のアスファルトの林道で狢腓了瓩砲覆辰匿欧泙靴拭
「間に合ったぁ〜」
もう安心です。ここにさえ居れば林道バスに拾ってもらえます。結局ここまで温存していたローソンの爛▲鵐鼻璽淵牒瓩鯔膨イ辰燭蝓⊃瓦らリラックスして煙草を吸っていると、
午後2時5分。定刻通りにバスが来ました。最終のバスは1台だけでしたが、釣り人も含めてほとんど始発バスの乗客でした。バスの座席に腰掛けて帰りはどこの温泉に入っていこうかぼんやり考えていました。
午後5時前。バスは仙流荘に到着しました。いつもの通り自動販売機で大塚製薬の爛泪奪銑瓩鯒磴辰謄咼織潺鵐船磧璽検
結局仙流荘のお風呂に入ってから帰りました。
おわり(全部読んで頂けたのなら嬉しいです)
<あとがき>
※仙丈ケ岳は残雪も無く行動可能時間が7時間以上あればとても快適なハイキングができる良い山です。時間に限りがあるなら無理せずに小仙丈ケ岳止まりでも充分楽しめると思います。
※藪沢新道は様々な百名山のガイドブックに載っている一般登山道です。しかし、雪渓の雪解けが加速している今回のような時期は危険だと思います。谷沿いを下っていくだけなので大まかなルートを見失うことはありませんが、登山道自体は雪で埋もれて確認できませんし、慎重にライン取りしないと雪渓を踏み抜いて大変な事になる可能性があります。落下によって死に至る危険性はありませんが、最悪雪の下の雪解け水の川に吸い込まれたら助からないでしょう。ある程度の経験がないと見た目だけで危険地帯は判別できないと思います。ストックを雪面に突き刺して確認しながら歩くとコースタイムは大幅に伸びてしまいます。
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