鷹ノ巣山 入奥沢中腹道から稲村岩尾根へ
- GPS
- 07:23
- 距離
- 11.3km
- 登り
- 1,450m
- 下り
- 1,435m
コースタイム
天候 | 曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2013年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
|
コース状況/ 危険箇所等 |
登りは取り付き箇所が不明確で、崩落箇所も多数あり。 |
写真
感想
初めてのヤマレコへの投稿です。宜しくお願い致します。言わずもがなの事ではありますが、最初に注意事項をば。
・本記録の登りのルートである入奥沢中腹道は現在一般登山道ではありません。
・この道を通るには、地形図やコンパス等の装備の他、地形図から現在位置の地形を把握する能力、一面の落ち葉から道を見出す能力が必要になります。
・おまけに後述のように地形図も当てにはなりません。
・GPSログは携帯電話の簡易機能なので、特に沢沿いで結構ずれています。実際より下方に記録される傾向があるようです。
昨年8月の事。宮内茂雄氏の名著「奥多摩」や松浦隆康氏の「バリエーションハイキング」で紹介された古道「入奥沢中腹道」を登りで挑戦したものの、地図読みの失敗による道迷いと小滑落を繰り返し、入奥沢本沢の次の沢で30分以上迷い、敗退した。
この道は下りに取られる事が多いようで、前掲の松浦氏の著作やネットでの記録を見ても、下りの情報ばかりだった。奥多摩のマイナールートの紹介では比肩するもののないブログ「花のひかり」でも今年の一月に行かれているようだが、やはり下りだった。
奥多摩駅から峰谷行のバスは巨大な荷物を持った学生グループや個人で満杯だった。峰谷から奥集落までは車道と山道を組み合わせた短絡路をとった。山中での道探しに時間を温存する為、早足で進み、46分で奥集落の最上部の林道へ到着した。なお地形図ではその林道終点より2つ手前のヘアピンカーブで山に入るようになっているが、実際には林道は更に奥へ伸びており、林道終点付近から取り付く方が正しい。
浅間尾根への登山口を通過し、更に進むと写真1のような立派な階段が山側である左手に現れる。谷側にも階段があり、GPSで確認する限り地形図の登山道とも重なるので、ここが昔からの登山口かもしれない。但し谷側の道は殆ど失われている。
入山準備をし、取り付いた。階段を登ると踏み跡は不鮮明だが確かに道がある。だが2箇所ほど大きく崩落しており、高巻きを強いられた。階段の個所から数十メートルも行かないところにある崩落箇所では、それを避ける形で林道からはっきりした道が残っており、そちらから取り付いた方が余程安全だった(写真2)。林道終点からも行けなくはないが、標高差が広がって20m程になり、ガレているので、避けたほうが良いだろう。
そこからは踏み跡もあり、赤テープも稀にあるので、地形図を読んでいればそう迷わない。ただ標高1050m付近で支尾根を跨ぐ際、跨ぐ前と後で大きく方向転換しているので、気をつける必要がある。上を見ていれば道は見えるが、前回はうっかりしてここで直進して迷ってしまった。入奥沢本流までは標高1100mあたりでただひたすら巻いて進む。
前掲の「奥多摩」では、この道は奥集落の人々が水根(日原だったかもしれない)に行く際に麓から回るよりは榧の木尾根を超えた方が近いから拓いたものだと推測している。山と里が分かちがたく結びついていた古に、この同じ道を草鞋を履いて歩いていた人がいる。少なくとも榧の木尾根支尾根の麓までは出来るだけ標高差を抑えたルートになっており、昔の知恵が感じられる。
人気がない。踏み跡はあるが、廃道の侘しさしか感じない。人ごみを避けてマイナールートに来たにも拘らず、心細くなるとは我ながら身勝手だ。たまに見かける花に慰められる。
不意に上の方から重量物が動く音。何かの気配。広い窪を見上げると、何かいるような気がする。先程からの心細さもあって、熊ならどうしようという気持ちに捕らわれた。ここで何かあったら、誰がそれを知るだろう。一応友人に行き先は知らせたが。
落ち葉を巻き上げ、音を立てて歩いたりと実に無駄な事をする。しばらく進むと道の上に直径30cm程もある真っ黒な糞に蝿がたかっていた。迷った末写真は撮らなかったが、あれはカモシカのものだったかもしれない。
入奥沢が近づくにつれ、崖は険しくなり、道は不鮮明になる。特に沢を超える際、その先が分かり難い。赤テープも見当たらないが、険しいところでは古いトラロープがあり、目印になる。但し古いものなので身を預けるのは避けた。慎重に進めばそれ程危険ではない。途中昔の指導票が見つかり、道が間違っていない事を確信する。
入奥沢本流に着いた。見事なワサビ田跡だ。昔はここまで生活範囲だったのだ。水をたらふく飲み、生き返った。前回はここで沢を超えた先の道を見つけるのに難儀し、時間を浪費した。地形図だと10m程高巻いているが、実際には沢数メートル下がったところに赤テープがあり、その先に道もある。小さな尾根を超えると古い立派な石垣に守られた道になる。
次の沢が前回敗退した地点だ。地形図を確認しながら慎重に進む。地形図だと次の沢へは進まずに高度を100mも上げる事になっているので、そのような道を探す。だが先程の立派な石垣は平坦で、そこから道を伸ばして考えるとどうにも極端だ。古道が100mも直登するはずもないから、九十九折の道なのだろうと推測し、目を凝らす。この辺りは下草が消えており、確かにそういう道があるように思える。
もう一つの選択肢もある。前掲の「バリエーションハイキング」やネットでの先達の記録を読むと、この地点から地形図の登山道からは離れるルートをとっていた。この沢は標高を変えずに渡り、次の東西に伸びる尾根で九十九折に登るというものだ。それなら今の地点で対岸に道が見えるはずなので、そちらにも目を凝らす。道らしきものが見えるような、気がする。ただどうせなら地形図にある古道を進んでみたい。
下から上の道は見つけづらいが、上から見ればどちらかのルートは見つかるはずだ。そう考えとりあえずよじ登ったが、足元が崩れ、近くの丸太を巻き添えにしながらズルズルと2m程滑り落ちた。あーあ。去年も同じ場所で落ちたなあ。
高巻きは諦めて対岸に見えた道らしきものを探し、不安定な斜面を並行に進むが、また崩れる。沢に落ちて前を見ると―――あった。沢の真ん中の細い立ち木に赤テープだ。その先に、はっきりと道もある。結局入奥沢本流もこちらの沢も、登りから見れば沢を数メートル下りた地点に道の先を見つける事になるのだ。どちらも崩落が進んでいて沢の周りの道は消えている。踏み跡も見つからない。
見つけた道の先に立派な石垣が見つかった。既に地形図の登山道からは大きく離れている。という事は地形図は古道を辿ったものではないという事になる。実際そこからは立派な道で、山腹をひたすら九十九折に進んで行く。前回の失敗を偉く簡単に克服した事に満足しながら、振り返った。
石垣の存在と道の付け方、踏まれ方を考えると、こちらが古道であるのはまず間違いない。最初は地形図が古道に一致し、今の登山道は近年新たにつけられたものだと考えていたが、そうではなかった。それでは地形図の方の道は何なのか。廃道化する前、一般登山道だった時代に一時的に使われていたのだろうか。それならば上の合流地点で痕跡があるかもしれないと思い、登った先でGPSで現在位置を確認して合流地点らしいところで振り返るも、カヤトばかりで痕跡は見つけられなかった。
九十九折の道はただただきつい。これまでの巻き道から一転して250mを登り詰める。昼前になり腹が減ってきたので補給したいが、立ち止まると蝿や虻が10匹以上もまとわりついて鬱陶しい。やむを得ずペースを落として急かされるようにして登った。道ははっきりしているので、地形図は確認しなかった。向かうべき方角と周りの地形を把握していれば、迷う事は無い。
登るにつれ、下草が消え、栂や楢の木とカヤトばかりとなった。鷹ノ巣山山頂付近と似た植生だ。目標が近い事を感じる。次第に右手から長大な榧の木尾根が見えてきた。昨年榧の木尾根を下った際にこちらへの道を遮断するロープを見たが、今度はこちらから眺める番だ。その景色を想像しながら進む。相当ペースを落としながらも、遂にそのロープが目に入った。やり遂げた。
もう蝿もごく少なくなったので、尾根道との合流地点で満足感を味わいながら休んだ。鷹ノ巣山山頂を目指すか降りるか考えたが、まだ正午を過ぎたところで、標高差はあと230m程、西から迫っているはずの低気圧もそれ程早く来そうにないので、ゆっくり進む事にした。石尾根に合流すると鷹ノ巣山山頂直下で昼休みを終えて下る人々とすれ違い、挨拶の波状攻撃に遭う(半分は返せなかったが)。「頑張れ!」の励ましが嬉しい。足を轢きずって13時過ぎに山頂に着いた。いつもの事ながらきつい奴だ。鷹ノ巣山は。
山頂は昼のピークを過ぎたようで、先客は二組だけだった。南斜面に座ると、榧の木尾根と浅間尾根に囲まれた入奥沢が正面に見える。あの中を辿ってきたのだ。残り物で拵えた粗末極まりない昼飯も、達成感と共に味わうと実に美味かった。
下りは岩尾根をとった。降り始めたところで5人程のパーティと出会う。
「頂上はもうすぐですか」
「すぐですよ。今見えているこれがそれです」
「ありがとうございます。今見えているこれが頂上だって」
良い役をもらった!偽ピークは本当に疲れますからね。
時間はあるので、ゆっくり下りた。先を急ごうにも、新緑の鮮やかさが足を止める。2時間弱をかけて稲村岩の取り付きに到着。真新しいトラロープが張り巡らされていた。慎重に降りていくと、バスの時間が気になってきた。16時17分に間に合わす為、最後の巳の戸沢の登り返しを走り、なんとか間に合った。最後が一番疲れたかもしれない。二度のずり落ち以外は転けることもなく、充実した山行となった。
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