【南ア】除山(2041m)松の田(1651m)
- GPS
- 10:08
- 距離
- 11.1km
- 登り
- 1,464m
- 下り
- 1,445m
コースタイム
- 山行
- 8:43
- 休憩
- 1:25
- 合計
- 10:08
◆除山の「松の田三角点ルート」は、登りに限ると思う。だが、壁を登って行き詰まれば、仕切り直すには、戦略を求められるかもしれない。
◆多くを学んだ山行だった。地図上からは読み取れない危険個所があること。ベーシック装備とはどうあるべきか。事前の過去ログ予習は、ワクワク感と引き換えだ。安全対策と冒険心を両立させるにはどうしたらいいのか? 現場での慎重な判断と大胆不敵の行動とは? 撤退する勇気と攻めの登山が折り合うポイントとは?
過去天気図(気象庁) | 2021年07月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
<釜沢ゲート〜湯折ゲート〜登山口>
釜沢にはゲートがあって、いきなり通せんぼだ。リサーチ不足を恨んだが、とりあえず歩いてみる。ところが、この林道がかなり悪い。ごっそり出水に持っていかれてる。
土砂崩れ、崩落、落石、地盤のズレ、倒木、山肌の流失、ありとあらゆる荒廃が進行中だった。
ひとつひとつクリアしていくが、これ以上進むのを迷うシーンもあった。小渋川ルートを利用して南アルプスの主脈をめざす人や、小日影山と除山をセットで狙う人は、当面、山行を控えた方が良さそうだ。
僕は、この時点で当初の登頂計画を諦めた。タイム・リミットを決めて行動しよう。
崩壊地のたびごと、高巻きを繰り返して歩くから、時間もかかる。途中、三基の石碑と、ダムの竣工碑があった。正面には奥茶臼からつながる稜線が伸びている。崩壊地の厳しさとは真逆の、平和な青空が不思議だ。
時間をかけて、湯折のゲートに到着した。やっとの思いで、小渋の湯跡のコンクリ廃屋を過ぎ、トンネルに差しかかった。当初の取りつきとして、トンネルを越えた先を予定していた。しかし、林道の被災状況からすれば、ここを登山口とすべきだろう。
<登山口〜除山>
沢の右岸にハングする岩を左に斜上して、尾根芯を求める。急こう配の尾根をトレースしていく。細尾根、岩塊、急登。慌てても仕方ない。偵察山行と心得ながら、植生や野鳥観察に潤いをさがして登っていく。
樹間を透かしても、展望はすぐれない。荒川前岳あたりと、奥茶臼尾根の前衛が見えるくらい。やがて、小日影山がのぞいた。
上部で地形が複雑になったが、登りはルート判断しなくていいから楽チンだ。明るい草つきが迫ると、目の前の盛り上がりが、一升瓶のある2128だった。
小日影山を捨て、除山にターゲットを絞る。ここから急降下だ。コルから登り返して二つ目のピークが、除山だった。
何もない山頂。それが価値あるものに思えるのはなぜだろう。地味なシラビソ林、朽ちた木の株、苔むした三角点。それが、そこにあるすべてだった。
休憩している間も、頭のポンコツ・コンピュータは計算を続ける。さあ、どうする?導き出した答えは、ピストンではなく、周遊プランだった。
・・・自分の計画の立て方にはこだわりがあって、過去ログを検索しすぎないようにしている。ワクワク感がなくなるからだ。その分、手持ちの装備、現地における判断が、重要になってくる。その半面、撤退・失敗のリスクも高くなる。それでも、山歩きの原点を味わえるという点においては、得るものも多い。
登山の事前準備において大切なのは、ある意味、現地までのカー・ナビゲーションや、登山口の確認だったりする。山のルート情報がネット上にあふれる時代にあっては、「山は登れて当然」ということになる。そんな時代だからこそ、不確定要素の多いアドベンチャー的な要素の多い登山は、野性味あふれてて魅力的にうつる。
<除山〜1830m地点>
そんな生意気な気持ちで臨むから、必然的に痛い目にあう。順調に高度を下げてきたのだが、南尾根から西尾根に切り換えるポイントで行き詰まった。等高線のぎっしり詰まった西側は、地図上に表記のない断崖になっていた。何らかの方法で尾根を乗り換えないと、次の展開がない。山頂から下ってきた南尾根は湯オレ沢に直行だし、このまま下っても、解決の糸口はない。
西尾根との接続点に戻り返す。岩の間をのぞき込むと、眼下に小さな岩棚がある。あろうことか、ヤバい位置にピンクテープが揺れている。心に白波が立った。まさかだよ。ここを下るのか? テラスの下が全く見えない。
間違いは一切許されない場面だった。崖っぷちに寄せたところでスリップしたら、即アウト。ビレイしてくれる人もいないのに、ここをソロで下降するのは、暴挙のニオイがした。しかも、ここはほとんど人の立ち入らない深山だ。
鋭い目で突破口を探して行き来する。そして目を見はった。そこには、絶妙にロープがかけれられていた。だが、そいつは、古ぼけてケバだっている。こんなものに、とても命を預けるわけにはいかない。
<ピンチ!!>
どうする!? 判断に厳しい圧力のかかる場面だった。選択肢は、ここを下るか、除山に戻り返すか、の二拓だった。戻り返す体力・・・微妙すぎる。
ザックの底の細引きロープを取り出してみる。6mm×10m(6mmという直径を選んでいるのには理由があるけど紙面がないので省略します)。しかも、たった一つの手持ちのカラビナは、なんと安全環なしだった。これで何ができる??
二人いれば、上でセルフビレイを取った確保者にサポートしてもらえる。あるいは、8弌20mのロープがあれば、ソロでも懸垂下降ができる。
仮定の話はやめよう。今日は、簡易ハーネスを作るためのテープスリングも、安全環つきのカラビナも、ディセンダ―(ATC・ルベルソ・エイト環など)やサブバイルすら持っていない。
背に腹は代えられない。手持ちの道具を使って、可能な限りの安全を手に入れよう。しかしだよ、ロープ長10mというのはどうなんだ。ダブルで使うことになるし、ノット(結び目)を作ることを考えると、有効長はさらに短くなる。それでも、支点をつなぎながら、ピッチを切って崖を下るしかなかった。
<1830m地点〜松の田〜釜沢ゲート>
慎重に行こう。ロープを使って壁を下り、バンドを伝い、小尾根を乗り越す。リスキーな場面をクリアしたと思っても、次から次へと課題を突きつけられる。細尾根の脇がスパッと切れ落ちていて、気が抜けない。支点となる木を探す。木がなければ、土から木の根を掘り起こし、ロープを通す。分散支点など取れないから、支点の選択には細心の注意を払った。
下降しては、ロープを回収し、巻き直しては、次の危険個所に移動する。そんな作業を倦(う)むことなく繰り返して、ようやく松の田三角点に到着した。ひとまず安心。もっとも幸運なシナリオに恵まれたことに、心から感謝しよう。
さあ、下山を続けよう。
シカやリスの歓迎(警戒?)を受けながら高度を落としていく。エゾハルゼミの鳴き声がヒグラシに変わる頃、パラダイスにも思える林道へと降り立った。
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