八ヶ岳 阿弥陀南陵 単独行・日帰り
- GPS
- 12:25
- 距離
- 14.9km
- 登り
- 1,273m
- 下り
- 1,401m
コースタイム
天候 | 午前晴れと曇りが行ったり来たり 昼過ぎから吹雪 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2014年12月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
P3基部へ上がるときの傾斜、トラバース、ルンゼ、P4トラバース |
写真
感想
ずっと思っていた阿弥陀南陵に、ようやく行って来ました。
八ヶ岳連峰、赤岳横岳についで三番目に高い、2805m。
一般ルートでは何度か行ってまして、最初、初めて八ヶ岳に登りにきたときは、中岳のコルから阿弥陀岳頂上へ突き上がる道が、クライミングっぽくてとても楽しくドキドキしたのを覚えてます。
その阿弥陀岳のバリエーションルートの阿弥陀岳南陵というのを、前から行きたい行きたいと思っていたのでした。
二年前、クライミングスクールの先生や先輩方に連れられて途中まで行ったのが、最初。その時は天候不良で、途中の立場山まででした。
去年も計画していましたが、大雪が降って中止。
今回は三度目の挑戦でした。
一度目はテントを背負って一泊二日で行く行程でした。でもそれは人も大勢いたし、宴会込みなので。
今回は、単独行なので、荷物を減らしテント・シュラフなどのテン泊用具は持って行きませんでした。ガスとバーナー、ツェルトとレスキューシートを、万一のビバーク装備として持ち、最近は毎回持って行っている一眼レフカメラも持って行きませんでした。とにかく、ライト&ファストで。
レンタカーで東京を9時過ぎに出発、12時過ぎ、船山十字路に到着しました。
阿弥陀南陵は冬季の人気コース(みたい)なので、車がたくさん停まっているかと思いましたが、見た感じはぼくのだけでした。
車の温度計では外気温はマイナス七度とのこと。あまり冷えていません。車中泊用に持っていた夏用シュラフにくるまり、5:50に目覚ましをセットし、寝ました。
12月6日 早朝
寒くて早めに目が覚めるだろうとのつもりもあったのですが、夏用シュラフなのにぜんぜん暖かく眠れ、目覚ましで目が覚めました。
蒙古タンメン中本の激辛なカップ麺と、おにぎり一つを食べ、それから出発の準備。
六時過ぎ、もうかなり明るくなってます。
朝も、たいして冷えているようには感じません。6:35出発。
林道を下って行き、7:15、旭小屋に到着。
荷物を置き、ここでトイレをすまします。
ここでアイゼン装着。ピッケルも持ちます。今シーズン、初めて。
ぼくはアイゼンとピッケルが大好きです。これさえあればどこでも行けるという、明らかに誇大な錯覚が、ぼくを鼓舞してくれます。
旭小屋の左奥から樹林に入り、立場山への急登を登って行きます。
踏み跡はしっかりしています。踏み跡を外れると、雪はけっこう深いので、先行者の踏み跡はとてもありがたく感じます。それでも、雪が降って初めてここを歩いた人は苦労してラッセルしたはずなので、それを思うと申し訳なく感じます。
「きょうも、ぼくは、ラッセルどろぼう」そんな言葉を呟いたりして。
樹林帯の急登は、景色も見えないのでやっぱり面白くはなく、「はやくつかないかな、はやくつかないかな」くたびれながら思います。
二時間も登ったころ、坂は平たんな尾根に変わりました。
9:21 立場山の山頂標識の地点につきます。
二年前は、このあたりにテントを張り、みんなで大宴会をしたことを懐かしく思い出します。その時は、宴会をしている時点で翌朝の天気は希望が持てないことがわかっていたので、みんなやけくそで飲めや歌えの大騒ぎでした。
今日はここでは立ち止まらず、ずっとこのまま阿弥陀岳の頂上まで行くのです。
猪熊さんのヤマテン(山岳専門天気予報)では、「日中は風がやや落ち着く見込み。中腹以下では晴れ間。稜線の雲は取れにくい見込み。朝までと夜は雪が降る時間も」とのことでした。
二年前の天気を思い出してみます。その時と比べれば、確かに今日は風がありません。このまま行けそうです。
アオナギは快晴でした。二年前は、ここまでは来て、引き返したのです。
ここからは権現岳などが見えるはずなのですが、霧なのか雲なのか、今日は見えません。
そのまま樹林帯をさらに登って行きます。
10:35
前方に、トポ図に書かれる「無銘峰」が見えてきました。
無銘峰の奥に、P3、そして真白い階段状の山が見えました。P4とか阿弥陀山頂と思われます。 ここから無銘峰までも、また急登でした。
無銘峰のてっぺんからP3までは、ひらけて見晴らしの良い尾根でした。
風は、気にならない程度に吹いていて、時おり雪が混じります。
遠くの景色は、見えたり隠れたり。雲なのか霧なのか。
少し待つと、大天狗小天狗が特徴的な赤岳が見えたりしました。
これから行くP3・P4なども、キラキラと輝いて、とても心躍る光景でした。
しかし、このあたりからすこしずつ天気が悪くなってきて、写真を撮る余裕がなくなってきました。
無銘峰からP3まではすぐなのですが、たまに吹雪くと目標物が見えなくなり、足元すら不安になります。
このあたりから、踏み跡は無くなりました。雪と風で覆い隠れてしまうのでしょう。地形図を見ながら進みます。
P3基部に近づきました。
吹雪いて何も見えなくなったり、一瞬吹雪がやんで目の前に巨大なピークが現れたり。
それを繰り返しながら、P3の基部に近づきます。当時の写真を見ると青空が映っていますが、それは一瞬で、だいたいは真っ白なのです。
P3の基部まで来ました。巨大な岩山がそびえたっています。手はたくさんありそうで、天気良くて身軽な恰好なら、クライミングで登るのはさほど困難ではないように見えました。しかし・・・。
基部にあるというルートを示すプレートは、探しましたが雪で埋まっているのでしょう、見当たりませんでした。
P3は直接岩を登るルートと、左にトラバースをしてルンゼから登るルートがあることになっています。実際に来てみないとわからないと思ってましたが、こう吹雪いて風もある中で、岩には雪もあり、足は雪山用登山靴にアイゼン、手袋にザックという鈍重なかっこうで、岩登りをしようという気にはなりませんでした。そして何よりも単独なので、ビレイ(確保)してくれる人もいないし・・・・。
ルンゼへのトラバースルートを探しました。P3の基部を左に回って行けばいいのです。が。
吹雪いていて、斜面の様子がよく見えません。
「ここをトラバースすればいいのかな???もっといい感じのルートは無いかな?」
ありません。 吹雪いてきたせいでよく見えないのです。滑って落ちたらどこまでも堕ちていくんだろうなあということだけは、想像できます。そのため、斜面に足を踏み入れる勇気が出ません。その奥のあるだろうルンゼが、ここからは見えないので、ここを行くべきかどうかが、半信半疑なのです。
P3の基部にあるというルートを示すプレートを、もう一度探してみました。雪の下に隠れているはずなのです。ピッケルや手で雪を掘り起こしましたが、見つかりません。
すると、一本のワイヤーが雪の中から出てきました。
このワイヤーが、ここからP3左下の斜面奥まで、ずーっと伸びているようです。
これがここにあるのなら、間違いないようです。
さっきから踏み跡のないところを歩いてきていたので正しいルートに来ているかとても不安だったのですが、これでホッとしました。
このワイヤーを見つけたのが12:28。ここでもたもたしたせいで、ずいぶん時間をロスしてしまいました。
ハーネスを付け、カラビナをワイヤーにかけ、トラバースを開始。
ほどなく、ルンゼに到着。ルンゼって、見上げて日本語で描写すると「谷」みたいな。ほかの人の山行記録を見ると、ガリーって書いていたりもします。
ワイヤーは登り口までで、上まではありませんでした。あったのかもしれませんが、探しましたが見つかりませんでした。
傾斜はたいしてありません。たいしてありませんが、踏み外したら滑り台のように下まで堕ちちゃう程度には、ちゃんと傾斜しています。「50度くらい」とみなさんおっしゃいますが・・・・。
だから絶対に堕ちれません。
登り口にあるリングボルトにロープを通し、わっかにしました。でもリングボルトは見るからに古いもので、とても落下を止められるようには思えません。堕ちちゃ、ダメなのです。
そんで、登攀を始めました。
登り口のところだけ1・5メートルほどがほぼ垂直で、しかも氷がツルツルに凍り付いています。
ピッケルを上に刺し、アイゼンをザクザクと氷面につき刺し、ルンゼに入り込みます。
ルンゼは、雪の下が草付になっているところと、凍り付いてつるつるになっているところがあります。氷のところは、もう、アイスクライミングの要領です。ダブルアックスじゃなく、シングルアックスですが。シングルアックスでのアイスクライミング方法は、前シーズンに先生に習いました。一回しか教えてもらってませんが、その時の間隔を思い出しました。なんだかとても懐かしい感じがしました。
先生、ありがとう。
少し登っていくとこのルンゼの要領もわかり始めました。先に前方の雪を手で掃って落とし、草付かツルツルの氷かを確認し、草付を選んで行くと楽だとわかりました。
この間、次第に吹雪は強くなっていったようです。猪熊さん、「朝と夜は雪が降るかも」ぐらいの予報だったのに、めちゃめちゃ吹雪いています。吹雪くと、景色も空間も白くなるんで、地形が見えにくくなって、本当に怖いんですよね。メガネにも雪がつくし。
ルンゼの2ピッチ目か3ピッチ目、左足のふくらはぎが吊りました。
「あ! ってってててててて!!!」
ピッケルに両手でつかまり、右足に体重を移します。
左足を、バランスを崩さない程度に振り、痛みが去るのを待ちました。
しかし、痛みは去りません。
そうやってると、今度は右足のふくらはぎもピキピキしてきました。
「わ、やばい、・・・っててててててて!!」
治りかけの左足で雪面に蹴りこんでアイゼンを固定、左足に体重を移動し、右足を上げ、ぶらぶら。
ふーーー。
そうしたら、当然左足も、またピキピキしてきます。
「いてててって、ちょっと待って・・・・・・!!!」
山でこむら返りなんて、今までほとんどありません。これはきっと、連続的な激しい運動による血中の電解質の欠乏や低温のためなんだろうなと思いました。
不安定な姿勢でなんとか安定しながら、右手でポケットをまさぐり、チョコレートを一個取り出しました。こむら返りはNaやMgの欠乏が原因とか言いますが、今ほかに食べるものがないのでチョコレートを口にします。
でも、こむら返りは治りません。
「いてて、いてててて」
でも、就寝中に起きたようなものほど痛くはなかったので、我慢しながら痛みを押し通して登りました。
垂壁でなくて本当に良かったと思いました。
そのような感じで、登攀の途中いろいろありましたが、いろいろやってなんとか上まで上がりました。
ルンゼを上がりきりますと、そこは吹雪で真っ白で、空間と地形との区別もできない世界でした。
気温があまり低くなかったことだけが幸いでしたが、地形図やトポ図を見ながら「ルンゼをのぼったら左にP4があるはず」と探すのですが、P4が見当たらないのです。
かまわず左に行こうとすると、崖に出て落ちそうになったりしました。もしかするとルンゼの登りの時に変なふうにルートを取ってしまい、変なところへ出たのかもしれないなと思いました。
とにかくP4が見当たらないのです。P4どころか、視界は全部真っ白で何にも見えないのですが。
ちょっと、これは、仕方がないなと思いました。 動き回るほうが危ないかなと思いました。白くて地形が見えにくいし、風のせいで、突っ立っていても寒いですし。
小さな岩があったので、その下の雪をピッケルで穴を掘り、そこに銀マットを置いて座り込んで、ツェルトをかぶりました。
風が遮断されると、とても暖かく感じます。ホッとしました。ホッとしたからか、急にガタガタ全身に震えが来ました。寒いようです、ずいぶん。
ザックからダウンジャケットを出して着こみ、水筒に入れてあった熱いお湯を飲みました。身体の震えはまだ収まりません。 ここまで登ってくる間にもお湯は飲んでいたので、水筒の中身はそうたくさんはありませんでした。
ガスとバーナーを出して火をつけ、シェラカップに雪を取り、お湯を沸かしました。
ガスの火が付くと、狭いツェルトの中が暖かくなり、ほーーーーっとため息をついてしまいました。
雪を取り、お湯を沸かし、飲み、ツェルトの穴から外を覗きます。視界は真っ白いままです。それを数回、繰り返します。 コーヒーを飲みたかったのですが、粉コーヒーを車に忘れてきてしまったのが、小さなショックでした。でも、ガスやバーナーを忘れることに比べれば、小さなことです。
お湯を飲んで、身体は少し温まってきました。吹雪は、相変わらずです。
雪の怖さを、毎冬経験しています。ホワイトアウト。
本当の100%のホワイトアウトは、前後左右だけでなく上下の感覚さえおかしくなるほど恐ろしいものだそうです。上下の間隔がおかしくなるので、吐き気までするそうです。僕の経験しているのはそこまでではありませんが、吹雪のせいで何も見えなくなるのは同じです。そのたびに「こわいなこわいなー」って思うのですが、また冬山に来て、また同じことをしています。馬鹿じゃないでしょうか。
「今日はこのままここでビバーク?」
うわぁ嫌だなぁと思いましたが、動けないなら仕方がありません。夜はものすごい寒いだろうけど、ガスも食べ物もあるから、死にはしないだろうと思いました。
うわぁ、でも、とても嫌だなぁと思いました。冬のビバークって、本当にものすごく寒いのです。
そのあと、会社の上司のことを思い出しました。この秋の御嶽山の噴火災害以来、山に登るときは会社(の上司)に報告するという規則ができてしまいました。その上司に、「日帰りで八ヶ岳の阿弥陀岳って山に登ってきます」と言ってありました。今日、夜帰宅の報告がなければ、上司が心配して何かするかもとも思ったのです。
ポケットから会社携帯を取り出し、電源を入れてみました。辛うじて電波が入るようです。メールを打ちました。「帰宅は明日になるかもしれません」。しかしメールは送信できませんでした。電波が弱いようです。
会社携帯が電波が入るということは、自分のスマホも電波が入るかもしれません。AUなのですが。こちらも辛うじて電波がうっすら立ちました。
「阿弥陀南陵 P4」と入れて、検索をかけてみました。手がかりを探せるかもしれないと思ったのです。
ところが、何か出るかどうかというところで、「バッテリーを充電してください」という信じられない表示が出、スマホは電源が切れてしまいました。すぐに予備のバッテリーと交換してみました。しかし、それも同じ結果でした。寒さでバッテリーが落ちちゃうようなのです。
呆れました。この八ヶ岳の今日の阿弥陀岳よりも寒い地域は、日本中にも世界中にもいくらでもあるだろうに、この程度でバッテリーが落ちるようならスマホなんて使えないだろ!と、頭に来ました。カシオの、GzONEというアウトドアに特化した携帯なのに、です。 今日なんてまだマイナス10度にもなってないのに。
腹が立つと腹が減るので、羊羹一個、チョコレートひとかけらを口にします。羊羹はね、チョコレートより良いんですよ。しっとりしていて喉がよけいに乾いたりしません。冬山の羊羹は本当に美味しい。
そんな寒い寒いことを数十分やってました。
ふと、突然、周りがあかるくなったのです。太陽が顔を出したのかもしれません。
急いでツェルトの穴から外を覗きました。
すると、太陽は出ていませんでしたが、一瞬吹雪が弱まったようでした。慌てて首をひねり360度に目を向けます。
すると。
ルンゼを登ったところから見て右側に、巨大な岩がそびえているのが見えました。ほかの方角には何もありません。その方角だけに、おそらくP4と思われる岩山があったのです。
方角としては疑問が残ります。でも、さっき左に行ってみて何もなかったのです。この巨大な岩山がP4に違いないと、思いました。ほかには無いはずなのですから。
その岩山は、自分が今いる場所からほんの20メートルほどのところに見えました。20メートルって本当に至近です。それがさっきまで見えなかったのです。
そして、その岩山を見つけて5秒もしないうちに、また始まった吹雪のためにその岩山は見えなくなってしまいました。また、ホワイトアウト。
「あれがP4だ!!」
慌てて準備を始めました。ガスとシェラカップをしまい、ツェルトをそのままザックにつめ。まだ寒いのでダウンは着たままザックを背負いました。
「あれを左にトラバースして登って行けば、頂上につながる!!」
岩山が消えた方角に向かい、岩山の基部まで来ました。
吹雪の中、岩山を見上げます。これを直登するのは、今日は無理と思いました。疲れちゃってるし、風もあるので。
これを左に斜面をトラバースしていきます。
このトラバースもP3の時と同じで、斜面の下はどこまでも落ちていて真っ白で何も見えません。滑っちゃいけません。堕ちちゃいけません。P3の時はありがたいワイヤーがありましたが、ここP4では見つけられませんでした。
慎重に慎重にアイゼンとピッケルを動かします。
(下山したら、たいへんだったこと、みんなに教えなくちゃ・・・)
余計なことを考えてました。今は集中しないと、下山できなくなってしまいます。
トラバースの途中なのか終点なのか、、どうやらここを上に登って行けるかな?????というところにつきました。
少しへこんでおり、フカフカの雪がたくさんあり、ここを登って行くと上まで行けそうです。
これ以上ギリギリなトラバースを続けるのが嫌だったのが本当の気持ちですが、ここから上に行けるだろうと、そこに取り付き、登り始めました。
登り始めるとうまく使えそうな岩も現れ、楽にガシガシ登って行くことができました。雪がけっこう厚く積もっており、それがあるせいで登りやすかったり登りにくかったりするのですが、雪の下に岩が隠れているので一つ一つ確認しながら、でもガシガシ登って行きました。
するといったん広いテラス状(?)のところに出ました。そしてそこからもまた上に雪と岩がそびえています。まだ登らなきゃいけないのか、まだつかないのか。
時計の高度計を見ました。2800。
どれほど正確かわかりませんが、頂上はもう少しのようです。
左手のピッケルを上に刺し込み、右足アイゼン、左足アイゼンの順で雪面に足を刺し、右手は雪を掴み、左手、右足、左足、身体を持ち上げて、その繰り返し。
岩がうまくあって、それを右手で抱えるように掴んだのを覚えています。
そして左足右足を上げ、左手のピッケルを上に叩き込み身体を持ち上げ、右足、左足・・・・・。
それを繰り返すと、ようやく平たんな雪面に出ました。
「あーーー!ほんとについたーーーー!!」
思わず叫んでしまいました。
白い白い空間の真ん中あたりに、黒い棒が立ってるのが見えました。山頂でした。
間違いなく阿弥陀岳の山頂でした。
実は、「全然違う、予想もしていないところに出てしまう絶望感」を、心の奥底で覚悟していたのです。「実は違った」と言うのは、今までの山行でもありましたので。まして、この右も左も見えない真っ白な中での山行です、目的地にちゃんとつけるのは「奇跡」とさえ思いました。
阿弥陀岳、ようやく登頂できました。
もう、満足です。
もう、下りるだけです。
もう、おりたい。
一刻も早く下りたい。
この時、15時20分。
予定よりずいぶん遅くなってしまいました。登頂まで9時間弱かかったことになります。
下山開始です。
尾小屋尾根のほうに行くと、雪が多くラッセルが必要なようでした。
あと二時間もすれば日が落ちて真っ暗になります。御小屋尾根も中央稜も歩いたことが無いので、この吹雪で視界が悪い中では、道迷いは必至と思われました。そのため、
「美濃戸におりよう」
と決めました。
標識の「赤岳」を示す方角に行くと、中岳のコルへの下り口はすぐわかりました。ここからは先行者の踏み跡が割としっかりとついていて、吹雪の中でもそれがわかりました。
下りの雪は、楽でありがたいです。中岳のコルには落ちるように下りて行きました。
そこから行者小屋へ。
16時9分、行者小屋につきました。ようやく人の世界に帰ってきました。
テントがたくさんあります。
「幕営者の方はお金払ってくださいねー」みたいな、のんきな放送までかかっています。
ここまでくれば、目をつぶっても帰れます(ウソ)。
ここから、赤岳鉱泉、北沢を経て、美濃戸、美濃戸口に下りてきました。
行者小屋から南沢へ下りるルートは、アップダウンが激しくて疲れるので敬遠したのです。
途中で日は落ち、真っ暗になりました。ヘッドライトをつけて歩きました。
19時前に美濃戸口の八ヶ岳山荘に到着。
阿弥陀南陵に行ってきたことを言うと、真っ先に頂上付近の雪や天気のことを聞かれました。この日はほかでもずいぶん雪が降ったようなのです。
たいへんにおなかがすいたので、カレーライスの大盛りを頼みました。
全部で約12時間半の行程でした。
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