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Yamareco

記録ID: 5869423
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

北穂高岳・槍ヶ岳

2023年08月22日(火) ~ 2023年08月25日(金)
情報量の目安: S
都道府県 長野県 岐阜県
 - 拍手
GPS
80:00
距離
41.9km
登り
2,452m
下り
2,443m
天候 おおむね晴れ。時々小雨
過去天気図(気象庁) 2023年08月の天気図
アクセス
利用交通機関:
電車 バス
コース状況/
危険箇所等
大キレットは、岩場より中途半端な岩混じり部分の人為落石に要注意。なるべく人の少ない時に行きたい。
横尾山荘付近から前穂
横尾山荘付近から前穂
2日目。目指す北穂が見えた
2日目。目指す北穂が見えた
昔遡った本谷右俣
昔遡った本谷右俣
前穂〜涸沢岳はガス
前穂〜涸沢岳はガス
北穂だけ晴れ
障害物が
5年ぶりの涸沢小屋で一息
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5年ぶりの涸沢小屋で一息
いよいよ
もう秋の花
南稜取付き点が近づく
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南稜取付き点が近づく
涸沢がはるか下に。遠景は蝶ヶ岳
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涸沢がはるか下に。遠景は蝶ヶ岳
南稜の登り
東稜が険しい
もう少し!
テント場付近
壁の下を巻く
お盆後の主役はトウヤクリンドウ
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お盆後の主役はトウヤクリンドウ
何も見えず
頂上から松濤岩
東稜を見下ろす
お決まりの写真
奥穂はガスの中
いざ出発
滝谷を見下ろす
すごい光景が続く
すごい光景が続く
飛騨泣き、だったかな
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飛騨泣き、だったかな
あれを越えるのか!?
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あれを越えるのか!?
本谷左俣のカール
本谷左俣のカール
長谷川ピークと
振り返る
南岳へ続く稜線
底は平和な道
ドロミテ風
大キレット終了!
大キレット終了!
南岳小屋
中岳への道
西側斜面。下方に槍平小屋
西側斜面。下方に槍平小屋
中岳頂上
大喰岳頂上
槍ヶ岳山荘に着いた
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槍ヶ岳山荘に着いた
槍沢(左)と大喰岳
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槍沢(左)と大喰岳
4日目。常念山脈の向こうに八ツ、富士山、南ア
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4日目。常念山脈の向こうに八ツ、富士山、南ア
水晶岳から白馬岳まで
水晶岳から白馬岳まで
北アの中心部
槍の影が写る
小槍を従え
氷河が作った壁と花
氷河が作った壁と花
圧倒される大空間
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圧倒される大空間
稜線が高くなっていく
稜線が高くなっていく
槍沢に沿って
南岳が見えた。あそこを歩いたと思える幸せ
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南岳が見えた。あそこを歩いたと思える幸せ
ちと早いが・・

感想

 登山ができるのももうそれほど長くはないと思う時、ここだけは登っておきたいという山の筆頭が槍穂高縦走、大キレット越えだった。どこから遠望してもそれと分かる顕著なスカイラインなだけに、行き損ねたという悔しさで眺めることにはなりたくない。今年の最大目標として常に念頭に置いていた。
 実際に計画を考えた時、岩場の処理には不安はなかったが、問題は全体の行程の長さに体力と膝が持つか、という点だった。負担軽減のため、日程は余裕をもって朝発の3泊とし、お金で軽量化を買うと割り切ることにした。小屋で弁当を頼むことにして行動食の携行をカット、コーヒーはインスタントのアイスで我慢することにしてガスコンロもカット。非常時用には固形燃料を購入した。高校時代以来のヘルメットは亀裂が入っていることもあり、最新の軽い物に買い替えた。さらに、ヘッドランプのケース、熊鈴、かみそり、キーホルダーといった小物まで削減に努めた。7月に西穂高で岩慣れを行い、直前には富士山で標高差1500mの想定登山をして準備をしたうえで本番に臨んだ。

8月22日(火) 晴れ
上高地バスターミナル12:20〜横尾山荘15:35
 5年ぶりのバスターミナルを出発。明神までは観光地だが、それでも森と水は美しい。徳沢では、楽しみにしていた小屋前の水流が枯れているのにびっくり。今夏の少雨の影響か。催しがあるのか、男女の高校山岳部のパーティが目に付き、微笑ましい。横尾までは陽射しが強く疲れる。梓川の水量も少ないように見えた。横尾山荘は改築されてきれいになっている。風呂もあるそうだが、ここから上高地の処理場まで流しているとは思えないのでやめにした。槍沢の河原で前穂東壁を眺めながらビールで英気を養う。

8月23日(水) 晴れ後曇り一時雨
横尾山荘6:00〜涸沢小屋9:01/9:30〜北穂高小屋12:11
 今日は標高差1500mの登りなので、気を引き締めて出発。涸沢小屋までは前回の逆コースなので気楽だ。静かな針葉樹の森の気を味わいながら歩く。本谷橋から標高を上げていくと、以前に遡った横尾本谷右俣(報告あり)の沢筋が見下ろせて懐かしい。涸沢に出ると、前穂から奥穂、涸沢岳の上部は雲がかかっているが、目指す北穂だけが青空を背景に全身をさらしている。涸沢小屋直下の石畳には猿の群れが居座っており、気持ち良いものではない。前半が順調に終わり、ホッとしてテラスで周囲の山肌を眺める。雪渓も一かけら位しか残っていなかった。 
 いよいよ初めての北穂へのコースに踏み込む。右手のガレ沢に沿って草むらの中を登っていく。トリカブトや黄色の秋の花が季節を惜しむように咲いている。やがて積み重なった大石地帯を左に斜上し、鎖場を経て南稜への取り付きとなる。ヘルメットを着用し、ハイマツの尾根を急登していけば、涸沢ヒュッテの建物がどんどん下になっていく。いつしか周囲はガスが立ち込めてきて、それほど厚い雲とは思えないのに水滴が顔に当たるようになった。道は岩がちになり、手を使う場所もあるが、危険を感じるようなことはなかった。ガスの切れ目から、あれが東稜のゴジラの背?と思われる岩稜が覗く。時間がずれているのかすれ違う人も少なく、ひとり山に向かい合うのが楽しい。意外に早く3000m地点の標識が現れ、あとわずかと元気が出る。やがて行く手におぼろに岩塔の影が浮かび、稜線近しの雰囲気が漂う。テント場を過ぎれば、南峰を通過したのか分からないうちに、スポッと頂上に飛び出した。地味な標識が立つだけの頂上は全く展望はなかったが、第一関門を抜けた安堵を一人味わう。
 小屋に入った後、ひとしきり夕立のような強い雨が降ったが、夕方に上がったので、缶ビール片手にサンダル履きで頂上に上がり(こういうことができるのがとても良かった)、見え隠れする松濤岩や東稜を眺めて過ごした。 

8月24日(木) 晴れ後曇り一時雨
北穂高小屋5:35〜A沢コル6:36〜南岳小屋8:41/8:47〜槍ヶ岳山荘11:57
 午前中は晴れて午後から雨というのがこのところのパターンらしく、今日も空は晴れているが、周囲の山には湿っぽい雲がかぶっている。出発前に再度北穂の頂上に登り、奥穂には雲がかかってしまっていたが、目指す槍ヶ岳と大キレットの様相を初めて見ることができた。
 小屋の下からすぐに急下降だが、案外普通の道だ。振り返れば小屋がどんどん遠ざかり、滝谷の岩壁のすさまじいとしか言いようのない光景に圧倒される。深く切れ込んだ谷底もはるかに遠い。ナイフリッジが次々と出てくるが、ペンキマークを辿ればさして困難もなくクリヤしていける。垂壁をコルの底に降り立てば「飛騨泣き」の標識。男性の身長があれば、こんなものかと思う程度だった。安心したのもつかの間、行く手のガスの中から天を衝く牙のようなピークが現れ、どう見ても巻くのではなく越えていくようなので気圧される。A沢のコルで一息。ここまでは順調だ。
 いよいよ問題の長谷川ピークに取り付く。ナイフリッジの左側をトラバースする箇所で、足を踏み外せば100m落ちる数歩があり、そこだけは怖かったが、その後は遠望したほどの厳しさはなかった。ピークを越えれば山場は終わりだ。南岳の岩壁と、その真ん中に聳えるツルムが日本離れした眺めだ。右側には本谷左俣カールが伸びやかに広がり、北穂池らしい池も望まれるが、あそこに行くのは憧れで終わりそうだ。道は岐阜県側の斜面を巻き、普通のアルプスの縦走路の雰囲気になる。心軽く歩いて行けば後方に陰鬱な北穂の壁が遠くなる。精神衛生的には北上して正解だった。北穂では随分降りた気がしたが、南岳の登り返しは意外にあっけなく、2段のハシゴを経て岩塔の間をジグザグに登っていくと、行く手になだらかな稜線のラインが見え、大キレット通過が終了したことを知った。想像していたほどの怖さはなかったとは言え、難場を越えた安堵と気抜けが湧き上がった。
 後は楽しい稜線漫歩だ。ハイマツの尾根道にはイワギキョウが咲き、この夏の見納めと名残りを惜しむ。中岳の手前でおにぎりの弁当タイム。雪田は全く消えていて、花畑もない。石を伝う中岳の登りは疲れのせいか長く感じ、ポツポツと雨粒も落ちてきた。こういう天気なので雷鳥が出てくることを期待したが、見られなかった。大喰岳までは近く感じた。頂上が縦走路から少し離れており、ガスの中で進路が分かりづらく右往左往してしまった。飛騨乗越を過ぎればすぐにテント場の中に入り、ゴール間近の元気が出る。間もなく、山荘の影が霧の中に浮かび上がってきた。この日は行き交う人が10人ほどしかいなかったのは良くもあったが意外だった。
 ビールの強烈な誘惑を振り切って、速攻で2回目の登頂に向かう。最後のハシゴはキレットのものより高度感がありよほど怖かった。小屋前のテラスで、ここまでとは大違いの賑やかさに戸惑いながら、缶ビールを傾けて充実感に浸った。

8月25日(金) 快晴
槍ヶ岳山荘5:50〜横尾山荘10:57〜小梨平14:40〜上高地バスターミナル16:20
 前の2泊と違って密状態で暑苦しく、ほとんど寝られず不快な朝となってしまった。しかし天気はすっきりした快晴で、雲海の上に浅間、八ツ、富士山、南アが浮かび、また飛騨沢へ少し降りると北ア中心部から後立山、妙高火打までの山並みを一望できた。名残惜しいが、帰るためには第三関門の長い長い下りをこなさなければならない。再訪を期して槍沢の道へと踏み込む。氷河が削り出した岩壁や、名残りの花々に目を留めながら、切ない気持ちの混じる下山の歩みだ。槍沢と大喰沢が合わさる辺りの大空間には圧倒される。週末だからか、お盆過ぎでも登ってくる人は多い。灌木帯に入ると、寝不足と疲労のためか腹が気持ち悪くなり、打ち上げのビールが飲めるか心配になったが、槍沢ロッジまで下り着いて先が見えてからは回復した。沢の音に癒されながら、再び針葉樹の森の世界に戻れば、気持ちも自然と落ち着いてくる。右手にずっと立ちはだかっていた横尾尾根が高度を下げ、末端の丘が見えてきた。丘の下には横尾山荘=ビールがある。周回の出発点に戻り、山は実質的に終わりだ。行動中はアルコールは摂らないことにしているが、今回ばかりは例外にしようと決めていた。ほどなく山荘の建物が見えた時、嬉しさより一抹の寂しさがあった。

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