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Yamareco

記録ID: 1723578
全員に公開
山滑走
白山

厳冬期白山(白峰から楽々新道)救助報告書

2019年02月03日(日) [日帰り]
 - 拍手
GPS
22:38
距離
37.5km
登り
2,914m
下り
2,433m

コースタイム

日帰り
山行
18:07
休憩
1:41
合計
19:48
22:00
0
白峰ゲート
2:31
3:14
145
5:39
114
7:33
57
8:30
8:50
7
9:12
9:21
325
14:46
14:48
56
15:44
15:56
161
18:37
18:52
107
20:39
岩間休憩舎ビバーク開始
天候 快晴のち風雪と雨
過去天気図(気象庁) 2019年02月の天気図
アクセス
利用交通機関:
自家用車
中宮ゲートにカーデポ
登りルートはいつものように白峰スタート
2019年02月02日 23:30撮影 by  Canon PowerShot G7 X, Canon
5
2/2 23:30
登りルートはいつものように白峰スタート
六万橋もガードレールより積雪が多かった
2019年02月03日 00:59撮影 by  Canon PowerShot G7 X, Canon
5
2/3 0:59
六万橋もガードレールより積雪が多かった
別当出合。
雪は多いが去年よりは少ない。
2019年02月03日 02:31撮影 by  Canon PowerShot G7 X, Canon
6
2/3 2:31
別当出合。
雪は多いが去年よりは少ない。
別当出合の鳥居
2019年02月03日 03:08撮影 by  Canon PowerShot G7 X, Canon
7
2/3 3:08
別当出合の鳥居
甚之助避難小屋。
去年は1月の時点で埋まっていた。
2019年02月03日 05:13撮影 by  Canon PowerShot G7 X, Canon
3
2/3 5:13
甚之助避難小屋。
去年は1月の時点で埋まっていた。
今年のモンスターはいまいち小ぶりな様子
2019年02月03日 05:49撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
3
2/3 5:49
今年のモンスターはいまいち小ぶりな様子
エコーラインで夜が明けてきた。
長い長い夜だった。
2019年02月03日 06:27撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
5
2/3 6:27
エコーラインで夜が明けてきた。
長い長い夜だった。
振り返れば別山の絶景
2019年02月03日 06:33撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 6:33
振り返れば別山の絶景
かなり早立ちしたせいもあり、室堂手前でようやく夜明けを迎える。
2019年02月03日 06:37撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
5
2/3 6:37
かなり早立ちしたせいもあり、室堂手前でようやく夜明けを迎える。
別山を背に弥陀ヶ原を超えていく
2019年02月03日 06:52撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
6
2/3 6:52
別山を背に弥陀ヶ原を超えていく
いよいよ御来光タイム
2019年02月03日 06:54撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
11
2/3 6:54
いよいよ御来光タイム
御嶽山からの御来光
2019年02月03日 06:54撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 6:54
御嶽山からの御来光
室堂からの美しい景色
2019年02月03日 06:58撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 6:58
室堂からの美しい景色
雪原に朝日を拝む。眠くて辛くて仕方なかったが朝日を浴びると目覚めるのは不思議なものです。
2019年02月03日 06:59撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 6:59
雪原に朝日を拝む。眠くて辛くて仕方なかったが朝日を浴びると目覚めるのは不思議なものです。
室堂到着
2019年02月03日 07:02撮影 by  NIKON D5600, NIKON CORPORATION
4
2/3 7:02
室堂到着
祈祷殿
2019年02月03日 07:22撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
6
2/3 7:22
祈祷殿
別山バックに室堂とガンさん。昨年同時期はほぼ埋まっていたような記憶
2019年02月03日 07:37撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 7:37
別山バックに室堂とガンさん。昨年同時期はほぼ埋まっていたような記憶
ピーク直下。はるか下方に著しくペースダウンしている私
2019年02月03日 07:42撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
10
2/3 7:42
ピーク直下。はるか下方に著しくペースダウンしている私
逆くの字を行く
2019年02月03日 07:52撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 7:52
逆くの字を行く
山頂直下の岩場にて
2019年02月03日 08:10撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
6
2/3 8:10
山頂直下の岩場にて
ゴール!
2019年02月03日 08:07撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:07
ゴール!
念入りなお参り1
2019年02月03日 08:17撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:17
念入りなお参り1
念入りなお参り2。私もわずかな時間を割いてお参りした。そのご利益で五体満足に生還できたと思っている。
2019年02月03日 08:10撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:10
念入りなお参り2。私もわずかな時間を割いてお参りした。そのご利益で五体満足に生還できたと思っている。
御前峰から滑走開始
2019年02月03日 08:51撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:51
御前峰から滑走開始
大汝峰方面へまずは滑降
2019年02月03日 08:55撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:55
大汝峰方面へまずは滑降
怪しいレンズ雲が出てきた…
2019年02月03日 08:52撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:52
怪しいレンズ雲が出てきた…
滑りは何とか同ペースでついていけた私
2019年02月03日 08:58撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 8:58
滑りは何とか同ペースでついていけた私
御手水鉢でシール装着
2019年02月03日 09:17撮影 by  NIKON D5600, NIKON CORPORATION
4
2/3 9:17
御手水鉢でシール装着
御手水鉢から七倉山に登り返し。この直後にはぐれてしまった。
2019年02月03日 09:27撮影 by  NIKON D5600, NIKON CORPORATION
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2/3 9:27
御手水鉢から七倉山に登り返し。この直後にはぐれてしまった。
火の御子峰。厳冬期の佇まいも美しい
2019年02月03日 09:55撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 9:55
火の御子峰。厳冬期の佇まいも美しい
天気は急速に悪化していく
2019年02月03日 11:11撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 11:11
天気は急速に悪化していく
小桜平非難小屋。私が下降尾根選択ミスらなければビバークしたかも
2019年02月03日 11:23撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 11:23
小桜平非難小屋。私が下降尾根選択ミスらなければビバークしたかも
最後の核心 導水管尾根。急斜面で降雨後の雪崩に注意
2019年02月03日 13:29撮影 by  Canon EOS Kiss X7, Canon
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2/3 13:29
最後の核心 導水管尾根。急斜面で降雨後の雪崩に注意

感想

※ルート、コースタイムはS君のものになります。

2月3日の日曜日は当初の予報では気温高めの曇り〜雨予報だったため平湯、白川郷あたりを行先の候補としていたが、数日前から午前中だけ晴れる予報に変わりこれは滅多にないチャンスということで2月の白山詣に行くことになった。
メンバーはYSHR先生、大魔人さん、パクのいつもの3人と久しぶりに地獄軍団横浜支部のS君も参戦することになった。
S君は当初北海道へ遠征する予定だったようだが、我々が白山に行くと聞いて急遽こちらに転進する流れになったようだ。
今回は登りはオーソドックスに白峰から御前峰を目指すというものだが、下山は1月にYSHR先生が初挑戦した楽々新道経由で一里野を目指すルートを計画した。

予報では午前9時くらいまでは晴れるがその後低気圧の通過に伴い急激に風雨が激しくなるとのこと。
これまでの実績ベースでは白峰〜別当出合まで5時間程度、御前峰までは10時間程度かかる可能性があるので0時スタートでは山頂時点で天候の悪化が予想される。
ということで今回は1時間前倒しで23時白峰スタートという計画を立てた。
下山予定の一里野に一旦全員集合、スタート地点の白峰まではパクと自分の車2台で移動した。

白峰からはいつもの感じでフライングスタートとなったが22時にパクとS君が先行してスタート、約15分遅れでYSHR先生、大魔人さんと自分が2人を追いかける形でスタートした。

それにしても先行したパクとS君のペースが異常に速い。
自分は最後尾で2人を追いかけたが全く追いつけず、11km歩いた先にある市ノ瀬手前のトンネルでようやく二人を捉えた。
パクはともかくS君も昨年の厳冬期白山を一緒に登った経験があり、マラソンまでこなす体力の持ち主なので納得のパフォーマンスだった。
その後も引き続き別当出合まで2人が引っ張ってくれて、フルラッセルであったにも関わらずスタートから4時間ちょいというハイスピードで林道歩きを終えた。

別当出合の休憩舎で大休止をしたらいつも通り吊橋渡りとなる。
吊橋にはこのところの暖かさのせいかほとんど雪がなかったが、凍結の可能性があったので念のためスキーのまま渡ることにした。
橋を渡ったら大魔人さんを先頭に石畳をクリア、その後も交代でラッセルしながら甚之助避難小屋を目指した。

甚之助避難小屋に差し掛かったあたりからS君の様子が何かおかしい。
南竜のトラバース下(アイスモンスター地帯)でパクと二人でS君を待つが、立ち止まったり動かなくなったり…なかなか来ない。
どうやら風邪をぶり返したようで体調が悪化したようだ。
パクがS君に引き返すことを打診したようだが行けるということだったのでそのまま室堂を目指した。

エコーラインを歩いている途中でお日の出タイム。
今回は22時スタートだったので8時間にも及ぶ長い長い夜が今まさに明けようとしていた。
オレンジ色に染まった空と乗鞍、御嶽のシルエットに感動しながら今日白山に来て良かったと思った。

室堂でいつものように地獄装備に換装。
ここから上は風も強くなり難易度がワンランクアップする。
ここでも後続のS君を待つ…30分くらい待っただろうか、ようやく姿が見えてホッとした。

次はいよいよ山頂アタック。
視界は良いし気温もこの時期にしては高めなので割とすんなりと登頂できた。
しかし風は強い…山頂で写真を撮ったら奥宮でお参り、風を凌ぎながらS君を待つ。ここで30分くらい待っただろうか。
それでもS君は根性で登頂を果たした。さすがである。

次はいよいよスキー滑走。
いつもなら室堂方面へ滑ってそのまま別当出合〜市ノ瀬まで登り返しなく一気に滑り降りるのだが今回は楽々新道を目指すので大汝方面へ降りていく。
登り返しは2回ほど残っているが、大した登り返しではないので体調に不安が残るS君も問題ないだろう。(こういう判断が結果的に遭難を招いた)

まずはカチカチの御前峰北面をトラバース気味に滑って大汝峰へ。
大汝峰も凍ったシュカブラ地帯を巻いて御手水鉢まで一旦降りる。
S君も体調不良を感じさせないような滑りでついてきてくれた。
自分もそうだが登りと滑りは別腹なのだろう。

問題はそこから先だった。

御手水鉢で再びシールを装着して七倉山まで登り返す。
YSHR先生を先頭に大魔人さん、自分、パク、そしてS君の順番だ。
ほぼ同じタイミングで御手水鉢をスタートして七倉山までの登り返しはほんの80m程度、大した登りじゃない。
少しずつS君が遅れてくるが姿は見えていた。
七倉山頂に到着すると地吹雪を伴う強風が我々を待ち構えていた。四塚山と同じくやはりここは風が強い。
S君を待ちつつ滑走準備にかかるがシールに風で飛ばされてきた雪が付着して装着に苦労する。
そうこうしているうちに15分ほど経過、たったこれだけの登りなのにS君が来ないのはおかしい。
YSHR先生と大魔人さんは様子見を兼ねて先に2415P手前のコルまで滑走、自分とパクが残ってしばらくS君を待ったが一向に現れないので来た道を少し戻ってみたもののS君の姿は見つけられなかった。
そうこうしているうちに雲行きはどんどん怪しくなり地吹雪で斜面の様子も見えずホワイトアウト状態になってきた。
S君とはぐれてしまったようだ。
しかも七倉山という場所が最悪だった。
七倉山は楽々新道、加賀禅定道、釈迦新道と大汝峰への道の4本のルートが交わるいわば南北白山をつなぐ交差点と呼べる場所で、姿が見えなくなったS君がとった行動の可能性も4通りとなる。
体調不良のため室堂に戻った可能性、間違えて釈迦新道、加賀禅定道へ向かった可能性、そして視界がない中我々とは別のアプローチで楽々新道へ先に降りた可能性…4つの選択肢の中から最後の選択肢である先に楽々新道へ降りた可能性に賭けてパクとYSHR先生たちを追って先へ進んだ。

2415P手前のコルまで向かいYSHR先生達と合流したがS君はいなかった…
パクが再度七倉山に戻ってS君を捜索しようとしたが風もどんどん強くなり天気の悪化が顕著だったため楽々新道へ引き返した。
自分より遥かに経験豊富なS君なら絶対大丈夫、自分ならもし迷ったら来た道を戻って室堂から戻る!GPSもある。そう信じて後ろ髪を引かれながら楽々新道を下り始めた。

冬の楽々新道は初めてだった。
夏は定番コースでいつも歩いている道だが冬の光景は全く異なっていた。
お気に入りの小桜平まで滑り込んだが気分は晴れない。この場所は今回の山旅で一番来たかった場所だったのだが今は何よりもS君のことが心配だ。
気分が晴れないまま楽々新道を下山、ホワイトロードを経て車がデポされている一里野ゲートまで戻った。

デポしておいた大魔人さんの車で白峰まで向かう途中、YSHR先生から連絡が入った。
やっとS君と連絡が取れたとのこと、なんと七倉山から一旦加賀禅定道方面へ向かい、そこから楽々新道へトラバースして降りてきたということだった。
自分たちがS君を探していた時に丁度加賀禅定道方面に向かっていたということなのだろう。
その後ビンディングが壊れて片足で見返り坂を下りているとのこと。楽々新道は電波が入りづらいが確かに見返り坂は数少ない通信ポイントのひとつだ。
片足で時間はかかるだろうしビバークの可能性もあるがS君なら問題ない、あとは降りるだけだと安心した。

だが、その先に再び落とし穴が待ち受けていた。
なんとS君は小桜平から岩間道へ入り岩間温泉元湯まで降りてしまったとのこと。
無雪期なら林道を歩いて一里野まで歩けないことはないが、今の時期、しかもこの大雨の中では雪崩の巣に飛び込むようなものだ。
そうなると後は岩間道を小桜平まで登り返して楽々新道から新岩間温泉に戻るという選択肢しかない。
岩間道から小桜平までの登り返しは標高差1,000m、無雪期の自分の脚でも3時間半程度かかっている。
ここを体調不良+疲労困憊のS君が、片足スキーなりツボ足で登り返すというのは不可能だ。

何とか自力下山を…と検討したが救助要請を行うしか選択肢はなかった。
救助要請して翌日は天候が悪かったためヘリは飛べなかったようだが、2日後の朝無事にS君は救助された。

今回の遭難事故を受けて、自分の中で反省すべき点を整理しておきたい。
・天候悪化が見込まれる時は時間的に余裕をもった山行計画にする。(今回も天候悪化がなければもう少し余裕をもって捜索ができた)
・体調不良の際は潔く引き返す。仲間が体調不良の時も同様。
・極力仲間が視界から消えないように考慮する。(特に体調不良等、弱い立場の仲間がいた場合)
・はぐれた場合の行動をあらかじめ確認しておく。

ただ、自分の場合強力な仲間と行動を共にしているものの、意識は常に単独登山だと思っている。
何があっても仲間には迷惑をかけない、自力で登頂して下山するという覚悟で山に登っている。
だが、仲間に何かあったら自分の力の限り助けたい。

以前、冬の加賀禅定道へ行ったときにシールトラブルで歩けなくなったことがあった。
あろうことかテーピングを忘れ、シールを固定する手段も失って途方に暮れていたいた時に先行していた大魔人さんが戻ってテーピングを渡してくれた。
大魔人さんがいなければツボ足ラッセルとなりどれだけ下山に時間がかかったかわからない。
依存はしないが、仲間のためにできることは何でもやる、そういうパートナーでありたいと思う。

今回、不幸中の幸いで無事S君が戻ってくれてよかった。
彼の経験や力がなければ更に悪い結果になっていたかもしれない。
あの時こうしてくればS君を助けられたのではないか…色々と反省点は思い浮かぶがこの経験は今後の山スキー人生に活かしていきたいと思う。

最後に、警察その他救助に携わっていただいた関係者の方々に深くお詫びと感謝を申し上げます。
そして関係各所と連携し、S君の救助にご尽力いただいたYSHR先生に感謝したいと思います。

一部の報道にもありましたように先日白山ではぐれてしまったS君が昨日無事ヘリで救出されました。警察、消防関係の方々には多大なご迷惑をおかけしてしまい誠に申し訳ありませんでした。この場をお借りしてお詫び申し上げます。

彼が無事救出されて事の真実がわかるまでは憶測で発言することは控えていました、昨日S君に会って様々な不可解な点がようやく氷解しましたので様々な反省からこの件に触れたいと思います。

当初自分と大魔人、がんちゃん、パクの4名でこのコースをたどる予定でした。前日になって横浜のS君から日曜の山行に是非参加させて頂けないかとの連絡が入りました。S君とは今シーズン一度も山行を共にしておらず同行を認めるか悩みましたが、山行翌日医院で検査を受けたいという話もあり快諾することにしました。

S君はH大山スキー部OBで冬山登山歴は20数年、現在トライアスロンも行う強者で過去に
厳冬期白山ワンディ、槍ヶ岳ワンディ、オートルートワンディなど過激な山行も同行しており経験、体力的には問題ないと考えていました。
僕たちのグループは基本的には万が一の時でも単独で判断行動をできることを条件としていました。

当日は午前中は天気は良いものの午後から天候は急変するとのことであり、できれば午前中には楽々新道を抜けて山行を終わるつもりでした。そのため白峰出発は深夜22時とこれまでないくらい早い設定にしてそれこそ山頂で御来光を拝むくらいの気持ちで頑張ろうと思っていました。

白峰から別当出合いまでの長い林道もこれまでではありえないくらいのハイペース、4時間少々で駆け抜けました。先発したパクとS君がほとんど先頭でラッセルして二人共随分調子が良いなと思っていました。別当出合で休憩して砂防新道を大魔人が先頭でラッセルして順調に白山を目指していました。甚之助手前頃からS君のペースがガクッと遅くなり出したのがわかりました。遅れるS君を心配して体調が悪ければ引き返すことも考えたらと何度か勧めましたが、本人は問題ないからと言うことでそのまま先を急ぎました。

室堂でもS君以外は先に到着して彼が来るまで待ってみんなで一緒に御前峰に向かいました。すでに山頂はかなり強風が吹いていましたが奥社の陰に隠れて遅れるS君を30分ほど待っていました。皆無事に登頂して後は七倉山まで100mほどの登り返しを経てからはほぼ問題なく滑り一辺倒なのでS君も全く問題ないだろうと思っていました。僕を先頭に御前峰から一気に御手水鉢まで滑り込んでシールを装着してわずか標高差100m程度の七倉山に登り返していました。登り返しはわずかで20分もあればいけます。

この頃から少し雲が出はじめて風も強くなります。やはりルートを知った僕を先頭に後続4人が続いていきます。やはり最後尾はS君でしたが山頂までの半分くらいまで確認していてあと見通しの良い僅かの距離なので先の4名は七倉山頂でS君を待っていました。御前峰と違って七倉山頂は吹きさらしで猛烈な風が吹いていてとても長居できる状態ではなく、とりあえず僕が降りるべき安全なコース取りで清浄ヶ原の七倉の視界のよく効く場所で待機していました。七倉山頂ではがんちゃんとパクが遅れるS君を待つという段取りでしたが一向にS君は現れずしびれを切らした二人が最後に目視したすぐ下まで降りて探しに行ったが見当たらずまるで神隠しかと思ったようです。

S君はもちろんGPSも地図も持っていますから七倉山頂がわからないはずがなくましてや山頂まで僅かな距離でクトーもいらない緩い斜面だったため滑落するとも思えず一体どこに消えたのか皆目見当がつかずこの時点で自分の判断で楽々新道を諦めて室堂に引き返してより安全なコースで帰還したのだろうと考えました。実際のところはルートを外れて加賀禅方面に入り込んでいてお互いに目視できない関係にあったようです。

結局パクもがんちゃんもS君が引き返したと判断して清浄が原まで降りてきました。この時点ではぐれてしまいましたが、清浄が原でも万が一を考え七倉がよく見え得る場所で待機していました。やはりS君は一向に現れることがなく引き返したと思わざるを得ない状況でした。それでも万が一ということを考えて益々悪化する一方の天候の中一番元気なパクにもう一度念の為七倉山に登り返して見てきてくれるように依頼しましたが、風が強くなる一方で七倉の登り返しは氷化斜面ガリガリで危険なため途中で引き返えさせました。

はぐれた時点で全く危険な地形はなく滑落はありえない。彼の行動を予想した場合これ以上は無理と室堂へ引き返すというシュミレーションが最も考えやすかった。清浄が原に下ってここでも万が一と言うことでかなり待った。望遠レンズで山頂付近も見ていたが人影はずっとなかった。この時点で山頂付近はガスってきたが七倉山全貌は見えた。楽々に来るなら必ず見えてよいはずだ。しかし見えなかった。もう引き返したと判断する以外なかった。

本当はそれを確認して僕たちは下山したかった。ただ猛烈に天候が悪化する中ガリガリの七倉山に登り返すのはあまりにも危険だった。パクに登り返させたがガリガリ斜面で難儀しているのが見て取れた。皆体は冷え切っている。風も強く間もなくガスで視界がなくなるのは明白でこれ以上メンバーを危険な場所にとどまらせるわけにはいかなかった。

GPSもあるし雪洞も掘れるおまけに室堂は冬季小屋もあるし電波も届く、S君のキャリアーからすれば全く問題ない、そこに怪我をしている仲間を置き去りにするわけではない。あとはS君自身に任せるほか選択肢はなかった。

そう切り替えて僕はメンバーをすばやく安全圏に導くことを優先した。清浄が原から見返り坂は視界がないととても危険だとわかっていた。右は雪庇が出来て崖になっている。早く抜けたかった。しかし時間をロスし過ぎたため徐々に視界がなくなりやはり危険な状況になってしまった。先頭の僕はすんでのところで雪庇から谷へ落ちかけた。やばかった。気がついたら雪庇の端っこにいて谷が覗いていた。落ちたらただでは済まなかった。S君も多分この辺りで雪庇から落ちていた。

それほど状況は悪くなっていた。あのまま清浄が原にとどまっていたらメンバー全員を更に危険に晒す羽目になったと僕は思った。小桜平避難小屋に着いて初めてもう大丈夫だと安堵した。

小桜平避難小屋あたりでS君にもう一度連絡を試みるもやはり取れず。僕たちは順調に楽々新道を下山して導水管尾根からホワイトロードに抜けて中宮ゲートに着いたのは午後二時頃、この時S君から初めて携帯が入りビンディングの調子が悪くて今楽々新道の見返り坂を片足で下っているとのことであった。室堂に戻ったと思っていたS君が楽々を降りているのも驚いたがとにかく無事でいてくれて安堵した。後に清浄が原で彼は雪庇から落ちてしまいこの際ビンディングを破損したと言うことであった。

ビンディングの不調なら何とかテーピングしてだましだまし頑張って見るように促したら何とか大丈夫ということで無理をせず安全第一でとりあえず小桜平避難小屋でビバークを勧めた。その後もずっと連絡を取りながら無事帰還できるようにアドバイスをしていたが、彼の話では今日中に自力で戻れるだろうということだった。新岩間温泉まで行けば建物の陰で安全にビバークできるだろうから問題ないし楽々新道はずっと僕たちのトレースもあるのでただそれを追えば良いと伝えた。

ただ彼は避難小屋は見当たらずトレースもはっきりしないということだったが何とか無事に登山口の林道に着いたと連絡してきてこれで一安心と安堵した。その後導水管尾根のやり取りをしていたが少し話が合わないので詳しい現在地を再確認したら彼は何と楽々新道と岩間道を勘違いして岩間道に降りていてまたびっくりしてしまった。GPSも地図もありながらまして先日の僕の楽々新道の記録も読みながら岩間道に降りていて、多分半分パニックになって正しい判断が出来なかったのだと思った。

岩間道から先の林道は雪崩の巣で絶対にこの時期入ってはいけない、安全に帰還するなら登り返して楽々を降りて導水管尾根を下るしかない。彼にそれが可能か問い合わせたが補修用のテープも使い果たして登り返す体力も尽き無理だということだった。この時点で彼を救うただ一つの方法はヘリの救助しかなくてとにかく岩間休憩舎にとどまってヘリを待つように伝えた。携帯が繋がるということで彼に詳しい状況を警察に伝えさせて、その後僕からも警察とやり取りを続けて何とか無事救出させるその一点で帰還を待つしかなかった。

当日は休憩舎の軒下でビバーク、翌日幸い岩間休憩舎の中に入ることが出来、なかには食料、シュラフ、マット、ロウソクなどを使用できて随分救われたという話であった。翌日はヘリは飛べなかったが翌々日晴れてS君は無事ヘリで救出され中央病院に搬送、検査データーの異常はあったが僕の自宅に来てもらい休息してもらっているのが現状です。

この記録以外に彼が体験したことも多いので是非彼にも記録を載せてもらい同じ過ちが起きないように他山の石として頂くつもりである。今回の件で多くの方にご迷惑をおかけしまして誠に申し訳ございませんでした。心から感謝とお詫びを申し上げます。

当時のタイムスケジュール

22.05 510m 白峰ゲート発
0.55 830m 市ノ瀬
2.31 1240m 別当出合
5.20 1970m 甚ノ助ヒュッテ
7.06 2470m 室堂
8.03 2702m 白山山頂
8.51 2702m 白山山頂発
9.08 2459m 御手水鉢
9.35 2557m 七倉山
11.30 2006m 小桜平避難小屋
13.09 800m  新岩間温泉
14.12 550m 中宮ゲート

この場をお借りして、山行記録および遭難経緯の報告を行いたいと考えています。このたびは多くの方々にご心配とご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
以下の記録は事実と当時の判断について記します。僭越ながら読者の方々には再発防止という視点でご覧いただければ幸いです。
なお私は途中の体力低下およびパーティからはぐれたなどの経緯から写真撮影の余裕がなく、私の経緯に関する写真情報が無い点ご承知おきください。

今回は厳冬期に白峰から白山山頂を経由し、楽々新道を下山するという過去に記録のない山計画である。
メンバーはYSHR先生、大魔人さん、ガンさん、パク、そして私の5名である。
私は横浜在住でありなかなか同行できるチャンスが無いのだが、今回の計画をお聞きして是非にと参加を申し出た。
2/21(土)深夜22時に白峰ゲートをパクと私で先行出発
ここまでの早い出発は初めてだが、翌日は低気圧が日本海を通過するため北陸周辺は昼頃から15時くらいにかけて雨または降雪が確実であることから設定された適切な時間でもある。
パクとは初対面だが過去の山行、日ごろのトレーニングなど話題はつきず、眠くて単調な林道歩きも悪くない。雪は沈降気味でラッセルは終始くるぶしくらい程度。
ただ私自身は1年ぶりの厳冬期白山で気がはやり、特に市ノ瀬までオーバースピード気味だったと今となっては考えている。若い者には負けられないという気持ちもあった。
別当出合まで4時間15分だった。昨年同時期が5時間だったことを考えるとやはりハイスピードだ。
恐怖の一本橋を通過し、続く石畳の難所は大魔人さんの職人的なルート取りでスルスルとパーティーは高度を上げていく。
ただ、私自身はこのあたりから経験したことのない疲労感というか脚が出ない状態になっていく。一昨日の風邪をなおしてきたとはいえ、体力も低下していたのだろうか。これはエネルギー枯渇と低体温気味になってきたのかと考え、いつもより多くテルモス湯とゼリー飲料を補給する。おかげで幾分ましになったが普段と比べれば格段にペースダウンだ。
今日の山行はスピード勝負であり、パーティーの速度を落とすことに非常に申し訳ないと思いつつ、ただピークからのスキー滑降は過去の経験から斜面状況に応じ骨格メインの荷重や重心移動中心のターンを使い分ければ遅れることは無いと考え、パクからの引き返し提案も押し返してしまった。
結局、私のスローペースで室堂でもかなりお待たせし、さらにピーク到着も皆に遅れること30分でなんとか到着した。
ピークから大汝峰へ滑り込み、シールを貼りなおしてから御手水鉢方面へトラバースと登りを交えて七倉山を目指す。私はこのちょっとした登りで大きく遅れ、ボウル状地形を回りこんだ先の尾根地形に出た時点でパーティの姿と一切のトレースを見失った。
地形から察するにここからトラバースしたとは考えづらい。しかし尾根を登り上げたとすれば何らかのトレースがあるだろうし、しばらく目を凝らして尾根や稜線を見渡しても姿は見えない。逡巡しつつも西の方角を見渡すと灰色の低い雲が近づいている。これ以上遅れることで天候悪化につかまりたくないという焦り、さらにトラバース方向の斜面にトレースと思しき痕を見たことからトラバースを開始する。パーティ先行者はトラバースと登りを交えて七倉山の肩あたりを目指したものと考えた。
結局、選んだ斜面は非常にトラバースしづらく徐々に高度を落とさざる得ない状況になる。加賀禅に合流する手前でさすがにこれはマズいと考え、七倉山方向へシール登行することにする。この時点でパーティとはぐれて相当時間も経過しており、心配かけていることは明白だったので携帯のショートメッセージで現在位置と目指す方向を送信した。
七倉手前の肩に出るまでも相当時間を費やしたと思う。
そこからはシールを剥ぎ、パーティーに合流すべく楽々新道方面の尾根に滑り込んだ。
2415地点手前のコルまで辿りつき、地形特性からパーティは必ずこのコルを経由したはずと考え、必死にコルを左右に移動してトレースを探した。さらに七倉山ピークと2415まで見渡せる状況であったことから何とか人影は見えないかと凝視を繰り返した。それでも手がかりはなく、この頃から風雪が強くなり始めたためにトレースが消えてもおかしくはないと考えた。目を凝らすとストックリングや石突と思しき穴もある。このようにはぐれてしまった場合、対応は難しいところだが天候悪化が間近に迫っている状況では各自下山が唯一選択肢と判断を決めた。
なお後でYSHR先生から聞いたところ、皆は七倉山と清浄ガ原の二手に分かれて相当時間を私の到着待ちで過ごしたという事だった。ガンさんやパクは引き返してもくれたらしいがどうしても私の姿を見つけられなかったり、大魔人さんも望遠レンズで探しまわってくれていたようだ。しかしながら急速に悪化する気象条件のもと、これだけ待っても探しても現れない以上は私が白峰方面へ引き返したとしか判断せざる得ず、私の自力下山に委ねて楽々新道を下降したという事だった。
ここから下る尾根はYSHR先生らは何度もトレースされているが私は初見である。視界が効かなく前に下る尾根の地形を頭に入れておこうと稜線の端に近づいた。視界が悪かったこともあり、思いのほか雪庇に近づいている。これはヤバイと直感的に戻ろうとした動いた瞬間に幅2メートルはあろうかという雪庇が足元からバスっと鈍い音を立てて崩れた。雪庇落下に続くことコンマ数秒後に私も足元から着地。こんな雪庇に下敷きにされたら絶対に死んでしまうと恐怖を感じる間もなく崩壊したブロックに誘発された雪崩に巻き込まれ始めた。マズい、埋められない様に泳ごう、いや口元のエアポケット確保か。そんなことを一瞬考えつつも視界のすぐ先はルンゼ地形の端でそこは雪崩れてないことに気づく。そっちに近づこうと手足を動かしつつ、幸いにも50mほど流された地点でほぼ埋まらずに雪崩は止まった。雪まみれだがGPSはじめ装備は失っていない。しかしスキー片方のビンディングヒールピースが台座金属パーツを残して吹っ飛んでいる。しかもトゥピースはテックビンディングのレバーが上がりきった状態からさらに荷重がかかったようでどうしても解放方向に戻らない。つまりピンが閉じきった状態でブーツを入れられないのだ。
この先は下る尾根側面がしばらく急峻な崖地形であり、ずっと雪庇が続いている。つまり流された急峻なルンゼを上り返し、かつ2メートルはあろうかという雪庇を越えるしか道はない。それを認識すると同時に自分が遭難の域に入っていることを自覚した。なんとか気持ちだけは負けないように絶対に下山するんだ。自分にそう言い聞かせ60度くらいの雪をツボで登り返す。幸いにもルンゼ右端を辿れば一箇所だけ50cmくらいの小雪庇がある。この状況でいちばんリスクの低いルートと考え必死になって登り返す。最後はスコップで雪庇をそっと小さく砕いて尾根に戻ることができた。時計を見ると雪庇落下から1時間が経過していた。
ここからは片足スキーで単独下山しなければならない。強風にあおられつつも見返り坂付近まで到着するとガラケーに着信が入る。YSHR先生からだ。いそいでコールバックして現在地を伝えると同時にいくつかのアドバイスを受ける。ちなみに私は職業柄ガラケーとアイフォーンを常時携帯し、どちらもドコモ本体契約回線だがガラケーの方が山岳地帯で圧倒的に電波をキャッチしてくれる。今山行では両端末を持ち合わせていたので電波をキャッチしやすく、後の岩間休憩舎では両端末がかろうじて圏内だったことからバッテリー確保の点で非常に心強かった。
アドバイスの一つに沿って応急処置でブーツとスキー板をテーピングでグルグルと巻きつけ、心もとない固定ながらだましだまし両足スキーで下山する。しかし一人で固定したテーピングはどうしても緩く、次第に外れてしまった。この時は単独の非力さを改めて実感した。仲間がいればテーピングはもっとたくさんあるし、他人に巻いてもらえば強固に固定できるからだ。
ガラケーSMSに下降ルートのアドバイスも入ってくる。その中には新岩間温泉付近の通称「導水管尾根」の下降方法もあった。このアドバイスを冷静に地形図と照らし合わせれば下るべき楽々新道は明白だった。しかしどうしたことか私は山行前にチェックした同ルートの記録を見たときになぜか岩間休憩舎に下る尾根を楽々新道と思い込んでいたようだ。その思い込み、さらに焦りもあったろう。手持ちの地形図には導水管記号がはっきりと記されてるのに疑いもせず、岩間休憩舎方向の尾根を必死で下降した。真っ暗になる前になるべく林道まで降りなければ。その一心で板一本の斜滑降やスノーボード的滑走でどんどん高度を落とす。途中で交換したGPSバッテリーも残量が不安になってきたので低消費電力モードに移す。この状況でGPS不可になれば極めて危険だ。なお途中で木の洞穴、雪の段差も見かけてビバークも考慮したが結果として見送った。今日は湿雪と雨で濡れ鼠であるためこれ以上濡れるかもしれない場所でビバークすることは深刻な低体温症になると恐れたためだ。せめて人工物の下で確実に雨風をしのげる場所でビバークしたい、あわよくば林道の状態次第では今夜中の自力下山ができないかとも考えたためだ。
やっとたどり着いた真っ暗な岩間休憩舎付近は不気味な風景だった。今夜はこの休憩舎の軒先でビバークの心積もりだ。しかし万一にも林道で下山できないかと考え500mほど進んだが、高低差100m以上はあろうかという幅100mほどのブッ立ち斜面に林道がかろうじて通されている。当然だが雪で覆われもやは林道ではなくただの急斜面だ。下にはざぶざぶと水流がある。こんなところ絶対に通過できない。ここに至って導水管尾根が現れないことを思い出し、地形図と照らし合わせて下山尾根を間違えたことに気づく。SMSでも下降尾根を間違えているぞとメッセージが来た。今夜ビバークしても、単独でスキー片方の状況ではとても下ってきた急な尾根を登り返すのは一日かかってもたどり着く計算は立たない。この時点で生きて帰るにはヘリ救助しかないと判断し119救助要請を行った。遭難の経緯や怪我の状態、および現在地の緯度経度情報をなんどかの通話で交わした後、50cmほどの軒下でビバークを開始した。エマージェンシーシートとツェルトをかぶりザック腰掛ビバークだ。全身ずぶぬれだが温存してきたインナー手袋とガイドフィンガーを着用すると気持ちに余裕も生まれた。わずかに残ったテルモスの湯をチビリと飲んだり、メタ燃料を燃やして暖を得た。あまり食欲はなかったが行動食の残りを食べた。こういうシチュエーションでは様々なことが億劫になりがちだ。それが体の冷えと体力減衰ひいては凍傷を招くと考え、定期的に姿勢を変えたり末端部を冷やさないように足踏みや手のひらであちこちのマッサージを繰り返す。おそらく気温はマイナス数度程度だったのも幸いしたろう。かなり寒かったがウトウトと覚醒を繰り返しつ4日(月)朝を迎えた。
あいにくヘリが飛べそうな気象条件ではない。そこで近くにある素掘りの岩間温泉で体を温められないかと考えた。しかし残念なことに熱すぎて入れず、おそらく底部から源泉が入れられているのだろう水や雪をどれだけ埋めても体を入れることはできなかった。それでも備え付けられた桶でジャブジャブと体に浴びせたら幾分温まり、気分転換にもなった。
休憩舎に戻り、雪囲いをよく観察すると取り外せることが分かった。昨夜は疲れと諦めで中に入ることなど考えもしなかった。これはと思い雪囲いを外し、休憩所スペースにもぐりこむ。寒いことに変わりないが屋根のある8畳ほどのスペースに居られるのは全然異なる。しかし夜中に胃腸を冷やしたせいか時折ひどい下痢に悩まされる。数時間前に食べた行動がそのまま排泄されているようだ。この状況は非常にショックだった。なんとか胃腸を暖められないかと硫黄臭のすくない温泉をテルモスに詰めて少しずつ飲むことにした。温泉成分の副作用は分からないが内臓の保温を優先することとした。
夕方まで変わり映えしない天気に諦めと期待を繰り替えし、ときどき起こる激しい震えで体が冷え始めていることを自覚する。このままじっとして体温を下げ続けてはまずいと考え、8畳ほどの屋内をとにかくグルグルと歩き回り、ストレッチも入れて最低限の発熱をさせる、をひたすら繰り返した。ときおり襲われる下痢のたびに屋外に出ては体力を奪われるとも考え、室内でビニール袋に排泄した。
16時頃に県警山岳救助隊長との定期連絡で林道から向かった救助がやはり不可能だったこと、今日はヘリが飛ばないことを知る。
落胆も大きかったが、反面なんとかするしかない、何とかなるさという心境だった。しかし屋内とはいえ食べ物をあまり受け付けなくなった身体でもう一晩ビバークするのはかなり危険に思えた。そのとき小屋内部奥の施錠されたトイレスペースを思い出した。脚立もあったので上から覗き込めばなにかあるんじゃないか。そう考えて見渡すとデポされた食料、固形燃料、夏用シュラフ、マット、防寒着などがある。脚立越しにトイレに入り中から解錠してこれらデポ品を確認した時、絶対に生きて帰れると確信できた。
ここまでの状況を県警山岳救助隊長に連絡したうえで暖かい食事とシュラフで安心して眠りにつくことができた。
目覚めたときには5日(火)7時前だった。すでに定期連絡時間をとうに過ぎている。いそいで電話してみると救助ヘリが7時22分頃に到着すべく離陸したばかりだと知らされた。
安堵するとともに小屋の中を整理しなきゃいけない。慌ててパッキングし、小屋内を片付け、排泄物などゴミをやっとまとめようかというときにヘリが到着し、隊員の方に名前を呼ばれた。
以降は雪囲いを元通りにし、隊員の指示に従うまま防災ヘリに救助していただくことができた。本当にありがたかった。
病院に搬送され、様々な検査を施されたが問題なかった。担当医に頼み込んでYSHR先生宅で一晩お世話になることも許可された。
五体満足で生還することが出来た。
私は仕事の一部で過去の重大工場災害を分析することがある。共通するのは当事者となった方々は事故前後でモノの見方がまったく変わるというコメントだ。それまで何気なく見てきた事象だったのが事故後は「いつか見た危険な光景」に見えるという意味だ。
本来は事故に遭遇せずとも事故例を研究して学ぶべきだろう。擬似的に体感することでヤバいパターンを認識しておくということだ。私もそう考えて様々な遭難に関わる本を読んできた。しかし私は典型的な遭難パターンの兆候をひとつひとつ見過ごし、最終的に進退窮まってしまった。
以上、長文となってしまったが事実や判断に至る描写をリアルにお伝えし、皆様にも擬似体験と他山の石としていただければと考えています。
僭越ながらあえて簡潔に教訓を記せば以下のとおりです。
1.体力を過信しない。体調や計画を踏まえた慎重なペース配分。もしもパーティを遅らせるほどの体力低下なら勇気をもって引き返す判断
2.はぐれたらむやみに移動しない。はぐれた位置に戻る。特にはぐれた地点からの下降はとりかえしのつかない結果となり得る。
3.視界不良時の行動は周囲の状況をくれぐれも注意して行うこと。様々な障害物や段差(雪庇)で深刻な怪我を負ったり、ギアの破損につながる。
4.下降尾根の選択と現在位置の確認は慎重に行うこと。これも選択ミスがとりかえしのつかない結果となる。

以上、末筆ながら救助でお世話になりました石川県警山岳救助隊の皆様、航空消防防災航空隊はじめ皆々様には改めて感謝申し上げます。また多くのご心配とご迷惑おかけしましたこと改めて深くお詫び申し上げます。

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コメント

ありがとうございます
はじめまして。詳細なレコ掲載ありがとうございます。事故、遭難防止に役立たせて頂きます。何よりもご無事で良かったです。
2019/2/7 8:05
Re: ありがとうございます
コメントありがとうございました。記録はありのままを書きました。当事者の私が申し上げる立場なのか若干不安に思いますが、皆様のお役に立てられたら幸いです。
2019/2/7 22:32
無事に帰るという事とは?
緊張して読ませてもらいました。ご無事でなによりです。

私もつい先日、遭難騒ぎを起こしてしまいました。
仕事がら工場勤めで安全を部下に教える立場にいる人間が
不安全行動をとるという失態を犯してしまいました。
(単に連絡が取れなかっただけなのですが言い訳ですね)

どんな状況でもそうなのですが、不本意な結果にならないように
「危険を予知して行動する事、自分の体は自分で守る」
がもっとも大切で、どう危険を予知するかは、過去の災害事例を
元に学んでいく他ないんでしょうかね。
2019/2/9 21:33
Re: 無事に帰るという事とは?
ttnakayan様
メッセージありがとうございました。
いまの私が申し上げられる立場なのか不安に思いますが、ご指摘のとおり何が危険なのか予め知る事は不可欠と考えています。
今回、4点ほどの具体的な危険を提示させていただきました。
不遜ながら付け加えるとすれば、月並みな言葉ですが、謙虚に準備を怠らないことだと強く認識致しました。
2019/2/10 17:08
応援しています。
S様 応援しています。
北陸白山での出来事、パーティの皆さんの、報告、メッセージ、ブログ熟読させて頂きました。凹むような事は全く無いと思いますがリベンジを応援、期待しています。
昨日、H先生の医院に検査に行きました。一言、ひと握りの名を名乗らずの誹謗中傷をする人を相手せずに 多くの毎日「前向きさ、勇気、元気」をもらっている読者が応援してる事 伝えようかと思いましたが!何時もに増して元気そうで安心しました。
2019/2/13 21:46
Re: 応援しています。
Kadota様
ご連絡ならびにメッセージありがとうございました。
強く前向きに進んでいきたいと歳を重ねる毎に思うようになりました。
遭難の事は正面から向き合い、今後も活動続けたいと考えてます。
2019/2/14 8:23
YouTubeの動画で紹介されていて知りました。

ここまで詳しい情報をありがとうございます。
遭難後の行動などもとても参考になりました。
ご無事で何よりでした。
2024/5/12 23:53
プロフィール画像
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