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記録ID: 21146
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積雪期ピークハント/縦走
槍・穂高・乗鞍

木曽御嶽山・継母岳(椹谷山から国境尾根)

2003年03月14日(金) ~ 2003年03月16日(日)
 - 拍手
GPS
56:00
距離
35.8km
登り
2,519m
下り
2,511m

コースタイム

3月14日名古屋(6:40)→下呂(8:40-9:00)→椹谷林道ゲート(10:30ー11:00)→尾根取り付き標高1400m(14:30)→椹谷山(17:40)→山頂やや東イグルーC1(18:00)
3月15日起床(6:30)→椹谷山頂やや東イグルーC1(11:00)→上俵山のやや東イグルーC2(15:40)
3月16日上俵山のやや東イグルーC2(6:00)マイナス7度C→標高2350mシートラ(9:30)→継母岳(11:30-12:00)→継母岳東のコルからスキー開始(12:30)→尺ナンゾ谷出会い滝の上(14:00)→デポ回収(14:30)→1830西の林道(17:30-40)→椹谷山尾根とりつき(21:10)→椹谷林道ゲートのドムネラス号(23:00)→厳立公園(24:00)→美濃松原宅(02:00)
天候 3月14日晴れ
3月15日雪→晴れ
3月16日晴れ→雨
過去天気図(気象庁) 2003年03月の天気図
アクセス
ファイル
(更新時刻:2018/09/10 13:11)

感想

五万分の一「御嶽山」は内地では最高の一枚だ、とは松原君のセリフだ。長大な濁河川、王滝川流域の本州離れした広い無人地帯が誘いをかける。信濃、飛騨国境稜線上、標高2000m付近の広い溶岩台地に目を付けた。久しぶりの北大山岳部風山行はこうだ。飛騨小坂町の濁河川支流椹谷(さわらたに)林道から椹谷山で国境にあがり、木曽檜と針葉樹林でいっぱいの溶岩台地の果ての御嶽山目指してひたすら前進、細く切れた国境リッジをたどって御岳連山の孤高の頂、継母岳から尺ナンゾ谷をスキー滑降、針葉樹林に戻って長ーい林道をスキーで下る。
(一日目・晴れ:稜線へ)
下呂駅前で待ち合わせ。ここ数年御岳西面の沢に通い慣れた松原くんのドムネラス号(ただの軽自動車)は凍ってツルツルの林道を快進撃する。結局兵衛谷分岐のゲート(標高950m)まで入れた。歩き出すとすぐに雪、順調な滑り出しだ。スキーをひっぱったりシール登行にしたりで椹谷山の一つ西のポコから北西に延びる尾根に取り付く(標高1400m)。林道脇のせせらぎで水がおいしい。

1500あたりからは密生する小タンネの密林が波状に現れ、僕も松っちゃんも藪漕ぎラッセルには効力大の130センチスキーで戦う。この長さは潜らず、ひっかからずで、具合がいい。1600あたりから椹谷北西尾根に斜めにトラバースして植林と思われる明るいカラマツ林を越え、山頂直下になると、針葉樹の巨木林に入る。ここは下藪もなく、気の間隔も充分で気持ちの良い所だ。おそらく林業の影響を受けていないか、古い時代に再生したのだろう。明らかに林の格が違う。椹谷山山頂はそんな巨木林の中。夕焼けの御嶽山が見たくて国境稜線に上がってきたが既に日没。

十三夜の月に青く染まった御嶽山が見える、山頂やや東の稜線上にイグルーを作る。所要時間は四〇分ほど、これまでの最短時間だ。焚き火でマーボーご飯。御嶽山までの距離がはるかだ。この間がすべて針葉樹林。信州側王滝川源流域も飛騨側も、人の灯りが一切見えない。こんなに広い無人地帯が本州の真ん中にまだあったとは。火をみながら焼酎で夜更かしする。

(二日目・雪:雪降る針葉樹林)
イグルーの隙間から粉雪が少し舞い込む。今日は天気も悪いので朝九時の天気図までとった後、ゆっくり出発して樹林帯を歩く。なたね梅雨前線に沿った低気圧の通過だ。王滝川側の急斜面を右に見ながら延々タンネの森を進む。スキーなのでラッセルもほとんど無い。背中にうっすら汗をかけばウラジロモミの梢の下で軒を借り、腰を下ろす。降る雪はなかなか大きな六角結晶で体が濡れる事もない。

針葉樹林を延々歩いて目指す山に向かうこんな山行は、山岳部一年目最初の正月山行、十勝連峰を思い出す。富良野のフレベツから一週間近くこんな風に無人の針葉樹林を進んでカムイサンケナイ川から登ったトムラウシの向こうには、更に広大な大雪山が広がっていた。一つの山頂に至るためだけの、無上の贅沢な楽しみだ。

目を奪う見事な針葉樹林はまだら状に現れる。上俵山のやや南、やはり見事な針葉樹林の中、カラカラに枯れた立木がたくさんあるところで今日のイグルーを作る。午後四時の天気図をとる。小さな高気圧が来ている。明日は晴れだ。なんと良い天気の巡り合わせか。宵にはガスも薄くなり樹間から継母岳、摩利支天山の岩峰がちらりちらり見える。なかなかドドーンと姿を見せない。近づけば樹林で見えず、離れれば前山で見えず。なかなか姿を見せないのが御嶽山の金看板だ。月光の針葉樹林は以外や明るい。足元の雪面に揺れる針葉樹の影がきれいだ。紅い焚き火にあぶった安いチーズが本当にうまい。今夜はブラックニッカ。

(三日目・晴れのち雪のち雨:山頂へ、そして十七時間行動)
もはや朝の定番、マルタイ棒ラーメンにネギたくさんを食べて出発。イグルーは稜線から少しはずしたところに作ったので、帰りに荷物を回収しやすいよう最低コルにシュラフなどをデポして出発。国境稜線を忠実に継母岳を目指す。樹林帯のラッセルは昨日に続きそれほど無し。

やがて樹林がまばらになると標高2350mあたりでスキーを担ぎ、アイゼンに替える。天気は快晴だ、顔が灼けそうだ。白山の山頂が春霞の上に顔を出し、乗鞍や笠ヶ岳が見渡せる。椹谷山から延々歩いてきた針葉樹林が一望。ここまでの水平距離はおよそ一万メートル、その間シカ、キツネ、ウサギの足跡を見たのみ。三浦岳からの尾根との合流点が三峰、その上が二峰、山頂が一峰と呼ばれている。三峰と二峰のコルは信州側の地獄谷を見下ろすあまり落ち着かない休憩点だ。二峰の岩稜を直登するか脇の急な雪面を行くか思案していたら、松っちゃんがあっさりと「飛騨側大きくトラバースしましょう」あっそうか、その手があったか。かなりカキンカキンに凍っているがアイゼンの爪は刺さる。僕らザイル無しの「鼻ツマミ」パーティーは、下手に岩の周りを行くよりそれがいい。距離500-600mほどの滑り台風大雪面を本峰目指す。アイゼンの爪は各足山側四本ずつ効かしてスッタカスッタカ登って行く。先の丸くなった僕のピッケルは時々はじかれる。高度感は結構なものだが慣れてしまった。山頂の手前100mほどは細い岩稜になっていて、最後の最後に楽しませてくれた。

山頂は御嶽山本峰と対峙して聳える塔の様な場所だ。北大雪の愛別岳や八ヶ岳の阿弥陀岳を思い出させる。グレープフルーツをピッケルのブレードでまっぷたつにして食べた。こんな風にして食べる果物の味は無上の味わいだ。舌や喉や、脳の奥の方で果汁の味を覚える。さっきまで晴れ渡っていたのがウロコ雲が空一面に広がりだし、もう高曇りだ。ここまでは良い天気であったことに感謝する。

標高差100mほどの東側急斜面を後ろ向きに降りて広いコルに降り立つ。広いコルからはスキーを履いて滑降しようとするが、傾斜がほとんどないのに横滑りさえ効かないほどのツルツルだ。仕方ないので五分ほどスキーを引っ張って降り、吹き溜まりの粉雪が多少増えたあたりから尺ナンゾ谷への滑降スタート。硬いクラストの上に粉雪のクッションが乗って適当に制動をかけてくれるので快適にターンが決まる。この冬新調の革二重登山靴(BOREAL G1)がビンディング(DIAMIR)と相性悪くなくて良かった。滑降はわずか一時間たらずで標高2000mの最低コル下にたどり着く。出会いの手前で10mの滝があったが、スキーをぶん投げて右岸を巻いて降りた。小雪が降り始めた。天気の変化が早い。なたね前線上の次の低気圧でも来たのだろうか。

最低コルへ登り返して荷物を回収し上俵山を越え、往路のトレースと別れて北北西の尾根(標高点1830)を目指して緩斜面を滑る。この森が今回最高美の巨木林だった。松っちゃん期待の「千年斧イラズ」かどうかは解らないが、相当年季の入った針葉樹林だ。スキーに都合良い傾斜と樹林間隔で、しかも延々続く。この樹林でのスキーが最も充実のひとときだった。地形図を読図しながら見通しの利かない樹林帯を滑る、不安と期待がその醍醐味のなんとも懐かしい北海道的山行だ。本当に十勝の山麓に来たようだ。

読図どおり標高点1830南の崖記号の滝(20m)の上に出た。右岸の尾根に乗り、適当な所で沢に降りたが沢は所々水が開いていた。いつしか雪は雨に変わっていた。微妙なスノーブリッジをなんとかつないで椹谷シン谷の林道(標高1630m)にたどり着く。五時半。夏に松っちゃんがこの林道を全部歩いて下った時は三時間だったので今回はスキーで早いと見て二時間を見込んでいた。下山連絡は7時をメドにしていたのでちょっと遅刻気味だ。そぼ降る雨が体を濡らし始めた。

林道の時間読みを大いに誤った。初日に取り付いた標高1400mまでは登り返しもあり、まったくスキー滑降無しで三時間半かかり、更にその後は滑降術を駆使しても二時間たっぷりかかった。この間雨は降り続き、滝壺飛び込みレベルの濡れっぷりに寒風がびゅーびゅー吹きまくった。せめてもの救いは万に一つの望みをつないで午後七時半、林道登り返し最高点で携帯電話がつながった事だ。明日の仕事の予定をデスクと何喰わぬ顔でうち合わせし、家にもあと三時間後に下山する旨を連絡できた。腰を下ろすと濡れた下着が肌に動いて冷たいので、時折立ち止まったままギンビスとチョコレートをほおばる。松っちゃんのくれる特大チョコバーがありがたい。それに連日の焚き火のおかげで水には困らないのが救いだ。シューベルトの「魔王」を頭の中に響かせながらひたすら前進し、体の芯まで冷え切ってしまってドムネラス号に戻ったのが十一時。厳立(がんだて)公園のあずまやで家に電話が通じ、乾いた非常用下着に着替えできたのが十二時。美濃の松原宅へ帰還が午前二時、風呂で体温回復させて、えびすビールで床に就いたのが三時。翌朝は直接ザックを背負って小牧空港のヘリポートへ。

最後の林道の印象が猛烈すぎるが、トータルして完成度の高い、思い出に残る山行になった。樹林、イグルー、焚き火、シートラ・ノーザイル、尖った貴重なピーク、無人地帯、長大林道と、どれをとっても僕たち好み、他の人ではなしえない計画立案と貫徹だ。たった三日で為し得た強気も不可欠だった。

今シーズン初めは御嶽から。飛騨・信濃との国境を成す溶岩台地の尾根を辿ってトンガリピークの継母岳へ。徹頭徹尾、会心の物語を展開することができた。人里離れた原生な姿を留める森を抜け、森林限界からはアイゼンを軋ませて緊張感有る時を過ごし、計算外に時間を掛けた林道下山と、三日間盛り沢山の内容豊かな旅となった。
 濁河温泉からのワンデイアタックも時間的には充分出来ようが、それはもう我々のストーリーとはかけ離れた別のものだ。
 <米山氏の記録有り(きりぎりす9に掲載済み)>。

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