中央アルプス/千畳敷〜空木岳
- GPS
- 32:00
- 距離
- 19.2km
- 登り
- 1,124m
- 下り
- 2,926m
過去天気図(気象庁) | 2012年08月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
写真
感想
中央アルプス/千畳敷から空木岳 単独 小屋泊
<前日〜菅の台バスセンター>
中央アルプスという山域は、私にとってとても親近感があります。幼少期に家族で積雪の千畳敷まで生まれて初めてロープウェイに乗った思い出・・・冬期に行く低山から見える白い稜線の連なり・・・中央自動車道から間近に見える屏風の様にそそり立つ峰々・・・南アルプスから見えるアップダウンの多い険しそうな稜線・・・。しかし、頻繁に見るその連なりの中で実際にピークに立った事があるのは空木岳だけでした。
先ず、
狠羆アルプスの主稜線上でテントを張って良いのは頂上山荘前のみ
次に
爛蹇璽廛ΕДいあるので徒歩1時間程度でテント場に着いてしまうのでそもそも宿泊する必要が無いし・・・かと言ってわざわざ歩いて登ろうとは思えない・・・ロープウェイであっさり同じ場所に到達しちゃう人いるのに・・・
最大は
爛蹇璽廛ΕДい和燭の観光客に利用されているので混雑する瓩箸両霾鵑多い。
これらの点から何だかんだ言いながら利用しなかった駒ケ岳ロープウェイでしたが、前回の3日間の山行を終えた今、
「次こそは楽勝お気楽山行!」
というテーマを立て、
「近くて、歩行距離が短くて、荷物が少なくて済む」
という条件が当てはまる山を考えると結局今まで後回しにし続けていた爛蹇璽廛ΕДね用の千畳敷から空木岳までの縦走瓩箸いΔ海箸砲覆蠅泙靴拭
同じ中央アルプスの南部である牋貌畧逎瀬猗、空木岳から南駒ケ岳経由の越百山までの縦走瓩箸いΕ魁璽垢發△蝓△海譴郎シーズン始めにClimb_likeさんと一緒に行くハズでしたが悪天候為中止したのでリベンジするという事も考えましたが、このコースは歩行距離が長い・・・。
「今回は楽したいし・・・」
という事で、混雑上等!ロープウェイ利用コースにしました。楽だから・・・。
でも、実際は決して楽ではありませんでした。右膝もクラッシュしましたし・・・。
8月19日(前日)
仕事を終えて一目散に帰路に着き、途中のスーパーのパン屋さんでフランスパンと惣菜パンを購入し、自宅に帰るとすぐに水シャワーとパッキングをし、奥様に登山計画書の写しを提出し、
近所のGSで給油し、東海環状自動車道の豊田東ICから高速道路に入り、中央自動車道の駒ケ岳PAで夕食を食べ、駒ヶ根IC下車後、一番近いローソンで食料を買い足し、菅の台バスセンターの有料駐車場にピットインしたのは午前0時前でした。
この駐車場を利用するのは初めてです。事前にインターネッツで調べたところ、ここもシーズン中は非常に混雑という事だったので心配でしたが、お盆過ぎの平日だった為か駐車率は10%程度でした。夜中も利用できる水洗トイレもありますし、自動販売機もありますし、駐車料金は1回500円瓩箸いΕ▲丱Ε箸弊瀋蠅覆里納崔翡馭匹了笋砲蝋ヅ垤腓任后C鷦崗譴貌場する際に自動ゲートの前の料金徴収機に500円を投入するとバーが開きます・・・爐匹Δ勝中へ瓠ΑΑ
以上です。駐車券はありません。帰りは自動ゲートの前で一時停止するとゲートが開くシステムです。
この駐車場から直接ロープウェイに乗るわけではなく、ここからバスでロープウェイ乗り場まで移動し、乗り換えてロープウェイに乗車するというシステムです。というのも、ロープウェイ駅より随分手前から一般車輌通行止めとなっているからです。
翌日の始発バスは6:12です。携帯電話のアラームを5時にセットし、仮眠に入りました。
このバス停の駐車場は高度800m台しかないので、朝方は暑くて何度も起きてしまいました。しかも寝汗でぐっしょり・・・。虫も街と変わらないほどいたので窓は開けられないし・・・。秋までの車中泊はこの点に注意しなくてならないと思いました。
8月20日(1日目)
5:00
携帯電話のアラームで目覚めると、辺りはまだ暗いのにバス停のベンチにはすでに複数の観光客がいます。
「早くね?まだ1時間以上バス待つの・・・?」
などと思いつつ、前日に買っておいた惣菜パンをコーヒーで胃に流し込み、トイレに行って帰ってくると、チケット売り場が開店していてそこにも数人の列が・・・。
「・・・もしかして・・・俺・・・出遅れてね・・・?」
と少し焦ってきたので、すぐに行動着に着替え、バス停の列に並びました。
バス停にはベンチがありますが座れるのは20程度でしょうか?(数えてない)
私は30人目くらいに並んでいました。並んでいる人も、その辺でウロウロしている人も含めて80%位の人は完全な観光者でした。ザックも持っていないほどの軽装です。おそらく千畳敷に
高山植物を見に来た人のでしょう。
6時になるとあっと今に私は列の半分くらいになるほどの行列に成長していました。
この時点での駐車率はそれでも60から70%程度でした。
6:12
定刻通りにバスが入ってきて、私は何とか1番目のバスに乗ることが出来ました。バス停の係りの人が並んでいる人数を数えて臨時バスの台数を無線で連絡していたので、2番目以降のバスに乗ったとしても大した時間差は無いと思いました。
初めて乗るバス・・・満員の車内・・・私の山行が一気に始まった感じでした。
<菅の台BC〜檜尾岳>
爐靴蕕喨伸瓩離蹇璽廛ΕДけ悗脳茲蟯垢┐任后2罅垢両茲辰浸枠バスの乗客が即ちロープウェイの最初の乗客でした。駅構内で数分待っただけでロープウェイへの搭乗が始まりました。私は人の流れに乗っていただけで始発のロープウェイに乗ることが出来ました。このロープウェイは2つの機材?箱?が交互に行ったり来たりし、20分間隔で運行しています。ですから、こればっかりは始発に乗ることが出来て幸運でした。車内?(車輪はないので違うかな・・・)は朝の通勤ラッシュ時の満員電車と同じようにすし詰め状態です。
自動アナウンスで観光案内が流れているので言われた方を見たかったのですが、身動きが出来ないので景色どころの騒ぎではありません。この空間には7分間閉じ込められます。
千畳敷の駅に着くと、そこはもう高度2600m台の森林限界地点です。
1時間弱で高度差2000m近く移動するので体調が心配でしたが、特に問題ありませんでした。
こればかりは個人差がありますので観光で行かれる時には、しらび平駅で1.2本遅らせて乗車する事もアリだと思いますし、稜線まで登るならば千畳敷で十分体を慣らしてから出発されるほうが安全かと思います。
私は駅の外の登山ポストに計画書を投函し、数十年振りの千畳敷の風景を何枚か写真に撮り、念の為最終トイレタイムを取り、登山口の祠で手を合わせ、
7:06
千畳敷を出発しました。
しっかり整備された登山道をゆっくり登りました。
7:26
極楽平に到着しました。
ここが中央アルプスの主稜線上です。振り返れば小さくなった千畳敷のロープウェイ駅・・・更に
振り返れば、何度も日帰りしようと計画したものの未だに登っていない犹安岳(さんのさわだけ)瓠ΑΑΡΔ砲肋さいながらに険しく尖った宝剣岳・・・左は丘があるのでこれから歩く稜線は未だ見えません。
私は正面の三沢岳にしばらく見とれました。主稜線とは吊り尾根で繋がりつつも孤高の姿で聳える2846mの山。今年中の積雪前か例年の融雪後には登りたいと思います。
そして南方に続く稜線上の登山道に進路を取り、目の前の丘にあがりました。そこでやっと、今日1日掛けて歩くルートの全貌を目視にて確認しました。目的地は遥か彼方に聳える犇木岳(うつぎだけ)瓠ΑΑΔ里舛腓辰伐爾了馨屋犇霾ヒュッテ(こまほうひゅって)瓩任后
「・・・意外に遠いぞ・・・アップダウンも相当ありそうだし・・・」
勿論、地形図で何度も確認していますし、インターネットや数冊の百名山ガイドブックで下調べはしてあるので知識はあるのですが、資料によってコースタームに差がありますし、やはり実際そこに立って自分の目で見た上で自分の経験と体力に照らし合わせてみないと分からないものです。
「でも、今夜は小屋泊まりだし・・・楽勝楽勝・・・♪」
と歩き出しました。
すぐに最初の下り坂に到達します。おそらく狹臈通爾瞭瓩世隼廚い泙后というのも、中央アルプスの主稜線上にはいくつものピークがあるのですが、地名が刻まれた柱も少ないですし、
看板もないのです。
下った分は当然登り返さなくてはなりません。ロープウェイを降りた千畳敷は高度2600m強・・・初めて稜線に立った極楽平は2820m・・・最終ピークである空木岳は2863m・・・駒峰ヒュッテはその直下の2800m位・・・つまり極楽平と駒峰ヒュッテの高度はほぼ同じなので、目の前の島田娘の頭からの長い下り坂は次の濁沢大峰までにいくらか登って取り返し、次に下ればまた取り返し・・・と、今日はそれの繰り返しなのです。
でも、空は快晴、目的地はくっきりと見え、大好きな森林限界に続く稜線の一本道。
ルンルン気分で下りました。
そして登り返して
8:30
濁沢大峰のピーク(高度2711m)
小型トラックほど立て程の大きさの岩がひしめき合っていました。ピークと思われる地点に木柱が立っていましたが、地名は消えてしまったのか元々書かれていなかったのどうかも分かりませんでした。地形図と照らし合わせて判断しました。1時間歩いたので休憩しました。気付くと伊那方面からガスが沸いてきていました。
8分休憩し、アンパンを一つ食べました。
次のピークは獻愴岳(ひのきおだけ)瓩任后
山頂近くに避難小屋を有する高度2727mの山です。
私はこの檜尾岳も楽しみにしていました。
この時点では伊那谷からガスが沸いては来るものの、稜線は越えられずに立ち消えていたので上空も進行方向も見通しが良かったですし、木曽方面はドピーカンでした。
岩場やちょっとした鎖場などありましたが、緊張するような箇所も無く快適な稜線歩きを続けて
9:35
檜尾岳のピークに立ちました。
赤い屋根のかまぼこ型のかわいい避難小屋も肉眼で見ることが出来て感無量でした。
いつかは泊まってみたいと思っていましたが、実際に来てみると距離的には実に中途半端です。
ロープウェイに乗り遅れて昼頃千畳敷についてしまうような時は丁度良いかも知れません。ただ、あそこには雨水タンクがあるだけで天然水の水場が無いので、必要な水は担いで来なければなりません。その労力と見合うかどうか・・・。
そんなことを考えながら、歩いてきた方向やこれから進む方向を観察しながら13分休憩しました。
<檜尾岳〜木曽殿山荘>
9:48
檜尾岳を出発しました。
するとすぐ先の稜線上で何かが動きました。猿です。
1匹かと思ったら4匹の家族と別の1匹がいました。探せばもっと居たかも知れません。
私は以前釣りキチだった頃、山の野池で猿に威嚇された経験が何度かあるので、少し身構えながら目を合わせないようにしつつ相手の動きに気を配っていました。猿たちは登山道上に座ったり歩いたりしていたので、どうしよう無く私はゆっくり近づく形になりましたが、どうやら大半は小猿でしたし、1mほど近づいた時点で向こうが道を開けたり逃げていったのでアクシデントにはありませんでした。猿は集団で居るときは強気になって人間をナメる時があるのでドキドキしました。
檜尾岳から次の熊沢岳の間に2708mと2680mのピークがあるのですが、この辺りのどこかの下り坂でアクシデントが起きました。
右足を何かに取られて、前のめりに転んだのです。突然の出来事にびっくりしましたし、右足を急に何かで引っ掛けて(あるいは岩に挟まった?)、バランスを崩している途中、今度は急に
右足が開放されたので、受身を取れないままヘッドダイビングの要領で前へ・・・顔はハイマツの海に顔を突っ込み、まるで溺れている様な状態に・・・。それでも落下する力が残っていたので私は必死にハイマツを掴んでブレーキをかけました。ここまで一瞬の出来事でした。体が止まった瞬間は「助かったぁ〜!」と嬉しかったですが、ふと我に返ると倒れた時に右膝を強く突いたようで痛みました。私はこういう時を恐れて厚手のオールシーズンのアルパインパンツを履いているのですが、それでも膝はザクロの様にクラッシュし、久しぶりの流血です・・・。
「もうすぐ40なのに何やってんだ・・・小学生じゃあるまいし・・・」
膝の打ち身&流血・・・前のめりに転んだ精神的ショック・・・。しばらくズボンの裾をめくって、呆然と傷口を観察していました。すると後から来た人が見ていたようで
「大丈夫ですか・・・」
とかなり心配そうに声を掛けてくださいました。私はこの程度の怪我なら何とか歩行可能状態までもっていける応急用品を持っていたので
「大丈夫っス・・・大丈夫っス」
と迷惑をかけないように必死で答えました。
とりあえずティッシュに水を含ませて傷口を綺麗にしました。でも、血が止まらない箇所があったので、気を落ち着けながら何度もふき取りました。擦り剥いているだけでなく、強く打ち付けたので傷口全体も腫れていました。幸い傷は深く無かったですし、数分で出血は止まったので、今度は黄色の薬品付きのガーゼで傷を消毒しました。これが良く効いたのかある程度傷口が乾いたので、今度はキズパワーパットというハイテク絆創膏を張りました。最大のサイズですが、ギリギリ出血箇所をカバーできたので助かりました。この商品には山歩きで何度も助けられています。傷口に使用するのは初めてですが、靴擦れなどで皮が剥けてもコレさえ張っておけば帰りに温泉に入っても沁みませんし、何より痛みがすぐに和らぎます。今回すり傷に張ってみても効果は十分でした。
更に冷静になって落ちそうになった斜面を見ると、傾斜こそキツかったもののハイマツの海になっているので滑落するような場所ではなかったので良かったです。山歩きを始めてから転んだ事自体が初めてでしたが、ザレ地やガレ地や岩場で同じ事が起きたら死んでいたかも知れません。二度と起こさないように気を引き閉めます。
この時点で30分近くロスしたので、歩行を再開しました。
膝を深く曲げると絆創膏が剥がれそうなので、岩を乗り越えたり膝を持ち上げたりする箇所ではぎこちない動きしか出来なくなりました。また、そういう時に限って攀じ登らないといけないショートクライミングゾーンが現れるものです。低山なら完全に鎖かロープがフィックスされているよう箇所・・・しかも長い・・・5m近く岩を掴んで岩に足を掛けて攀じ登らないと通過できない・・・当然膝を深く曲げないと先には進めない・・・
「というか、さっきすれ違った若いカップルのおねいさんの方も・・・集団で歩いていたオフクロくらいの年齢のアマゾネス軍団もここを通過してきたのか・・・もし、カミさん連れてきていたら恐怖で発狂するだろうな・・・」
などと思いながら、必死で攀じ登りました。
そんな感じで大なり小なり通過に苦労する箇所もありましたが、
11時近くに、何とか熊沢岳の山頂エリアまで進みました。そこは巨石が積み重なる特徴的なエリアで、まるで
「神々の積み木」のようです・・・言ってる場合か・・・。
自動車ほどの大きな岩の上で休憩と傷口の手当てをしました。
ズボンの裾を捲ると、やっぱりキズパワーパットでも抑えきれない血がはみ出ていました。出血で浮いたのか・・・汗で多少剥がれたのかは分かりませんが捲れている箇所もあったので、一度剥がしました。動かなければ出血は無かったので、もう一度薬付きガーゼで傷口を綺麗にしてから乾かして新しいものを張りました。更に剥がれないように下り用に持ってきた爛丱鵐謄螢鵐汽檗璽拭辞瓩鯀着しました。その後、翌日まで張りっぱなしでも大丈夫でした。やはりラモス氏は正しかったようです。
その後、
11:22
木柱に「熊沢岳」と書かれた場所を通過しました。この頃、四方八方にガスが立ち込めていました。雨が降るような感じではなかったのでまだマシでしたが、やはり傷口は傷むし右足をかばって変な歩き方になるので疲れは倍増・・・この辺りからテンションは完全にエンプティーでした。
それでも先に行くしかないので歩き続け
12:59
東川岳のピークまでやってきました。あとはここを下れば猝攸湘損柿顱覆そとのさんそう)瓩反緇譴あります。目的地までもそこから1時間強です。
東川岳からの下りは大変急でした。伊那側は崩落しているようでしたがガスで見えないので余計に怖いです。足場も悪く、よく滑るザレ場で浮石も多く慎重に下りました。
13:20
何とか木曽殿山荘の広場のベンチに辿りつきました。まさに猖身創痍瓩任靴拭私のHPは10程度だったと思います。
<木曽殿山荘〜駒峰ヒュッテ>
13:20
ザックを下ろして煙草を一服吸いました。
「何とか生きてるなぁ〜・・・」
大げさな話ではなく、それくらい追い込まれていました。でも、この山荘で旅を終える事は出来ないのです。何故ならWEBでは有名な木曽殿山荘の鉄則
「要予約」
があるからです。怪我をしていても追い払われたとか・・・何とか泊めてもらったけど扱いが・・・とか・・・人の感想ですから真意は定かではありませんが個人的にはパスしたい場所です。
でも、今夜お世話になる予定の駒峰ヒュッテには天然水の水場はないですが、ここにはあります。正直、冷静になってしまうと一歩も無駄に歩きたくない状況でしたが駒峰ヒュッテは完全な営業小屋ではないので100%管理人さんがいるとは限りません。そうなると水がないという致命的な状況に陥るのでここで3ℓ汲んで担ぎ上げるしかありません。水パック1.5ℓとハイドレーションパック1.5ℓを両手に持ち、木曽殿山荘の前を通過させて頂き、看板によると「水場まで8分」。樹林帯のほぼ水平の山道を無心で下りました。大体看板の表示通りの場所に犁礎腓領録絖瓩箸い水場がありました。岩を伝って流れ出ている水源のような場所でした。この日の水量は写真の通りです。十分でした。冷たくて無味でした。
そして来た道を戻り、広場でザックにパッキングして煙草をもう一服しました。
今から挑む急登の標高差は約360m・・・コースタームで1時間10分と書いてある本もあれば1時間30分と書かれた物もあります。
「今の足の状態でもコツコツ歩けば2時間・・・2時間我慢すれば・・・それ以上は歩かなくて良いんだ・・・。」
その一心だけ念じて空木岳山頂への急登に取り付きました。
あっという間に山荘が小さく見える所まで登りました。
「この道、角度こそ急だけど足場も悪くないし・・・とてつもない高度感もない・・・いける・・・いけるぞ・・・」
そう思いました。精神が麻痺し始めていたのかも知れません。
木曽殿山荘から空木岳山頂への登山道にはいつくかの偽ピークがあるという知識は予習していましたから、腕時計の高度計を何度も見ては進行状況を確認しました。私の経験上、いくつかの山行で偽ピークに一喜一憂し、心を折った経験があるからです。この時、
「今、心が折ったら全てそこで終わる・・・」
そういう危機的状況に陥らないように自動的に自己防衛本能が働いていたのかも知れません。
出血こそ止まっているものの、右膝の打撲の痛みは確実に継続しています。その右足をかばったり、崩れやすいバランスを安定させようと普段使わない筋肉を使って全身が疲労していたハズなのに、脳は異常なほど研ぎ澄まされた感じになっていて、妙に冷静な判断と思考が出来ていたと今になって思います。
前半部分の偽ピークは「登りきったら、その向こうにまた別のピークが聳えている」というよりも、「ピークっぽく見えていた地点に到達する頃には、もう少し上にピークが伸びた・・・かのように連続する」といった感じでした。どっちにしてもあまり期待せずに高度計で確かめながら淡々と登っていたので精神的ダメージはありませんでした。それに、冷静に右斜面(この時は南方)を見ると、ガスの切れ間に違う尾根が見えていて、今見えているピークに続く手前の尾根より明らかに大きい尾根がずっと向こうの高い位置まで伸びていました。その時点で「今取り付いている尾根は偽ピークのものだ・・・」と判断できました。
最初に高度2700m付近まで登り詰めた頃、上空のガスが晴れてきて、空木岳の北斜面が見えました。こちらは到底一般登山者が取り付けられるような場所ではありません。険しい岩壁があるだけです。でも、その先の緩やかな岩尾根に目指す駒峰ヒュッテが見えました。自分の位置より数十メートル高度は上ですし、ここからは山頂を経由しないと辿り着けないのですが、この時は瞬間的に元気が出ました。
「今回も無事に帰れそうだ・・・」
心からそう思いました。
その後また南斜面に移ったのでヒュッテは見えなくなりましたが、上空は明るくて時間的にも多少余裕があることが実感できましたので安心して大きな岩の上で休憩しました。しかし、その後歩き出して直ぐ、急に巨石のデパートみたいなエリアになりました。怪我してなかったら、こういったアスレチック的な場所は大好物なのですが、右膝を高く上げられないので恐怖すら感じる時間に突入したのです。南斜面の随分先(水平に数百メートル、高さ数十メートル先)に山頂の木柱があるのが見えたので、ゴールが近付いていることは間違いありませんが、岩が大きすぎて先が見えず、間を縫うように歩き、時には岩と岩を跨いだり、鎖があっても割りと難易度のある数メートルの岩壁の登攀があったりと動作内容の割にその距離が縮まらないので辛い時間でした。そして、
15:20(時計は見なかったのでヒュッテ到着時間から逆算)
空木岳山頂高度2863mに到達しました。
しかし、一度も立ち止まることなくそのまま駒峰ヒュッテの方へ降りてゆきました。とにかく1秒でも早く目的地に着きたかったのでしょう。正直、どういう心境だったのか記憶にありません。そして、
15:40
遂にこの日の最終目的地であり宿泊地の駒峰ヒュッテに到着しました。2年振りでした。
<駒峰ヒュッテ>
15:40
2年振りに今夜の宿泊地である駒峰ヒュッテに到着しました。
前回は10月の中旬で、週末には小屋閉まりだという時期でしたので、管理人さんも不在でしたし、宿泊客も私一人でした。夜はとても寒く、異常なほどに人恋しい感情に苛まれた記憶があります。
でも、今回は随分賑やかでした。私が到着した時には既に何人かの方がウッドデッキのテーブルで缶ビールを飲んでいるのが見えました。缶ビールを買えたと言うことは管理人さんがいるということです。
メインの玄関は山頂方面に面している分厚く重い木のスライドドアです。このヒュッテの構造は熟知しているのでノックしたところで反応が無い事は知っていましたが、マナーですのでノックして、
「こんにちはぁ〜!」
と入っていきました。下駄箱に登山靴を置いて、1階に入っていきました。そこにも既に数人の先客がいました。私が受付に向かってもう一度声を掛けると、年配の女性の管理人さんがいらっしゃいました。私は封筒から小分けしておいた3500円を出して支払いました。職場の純正封筒なので爛▲奪廛覘瓩箸いΕ蹈瓦印刷してあり、管理人さんもそれを見て「クスリ・・・」。掴みはOKです(笑)
その後で早速2階の寝床に向かいました。2階には既に先客さんたちの寝袋が敷き詰められ、私は丁度1箇所だけ開いていた収納庫の扉の前にザックを置いて、そこで荷物を展開し、寝袋を出して寝床を確保し、ウールの肌着に着替えてました。そして、乾かしたいものだけ持って1階の受付に戻り、缶ビール(350ml/500円)を購入し、外のウッドデッキで飲みました。まだ日が出ていたので少しくらいは乾くかと期待したのですが、少し暖かくなった程度で結局日暮れまでには乾きませんでした。
もう1回2階の寝床に戻り、右膝の手当てをし、夕食の食材と道具を持ってまたウッドデッキのテーブルに座り、とりあえずいつでも温かいものが飲めるようにテルモス用の500ccのお湯を作りました。それからまたテーブルに肘をついて今日歩いてきた稜線をぼぉ〜っと眺めていました。時折駒ヶ根の街の方や空木岳山頂を眺めながらとにかくぼんやりしていました。
5時前から夕食を作り始めました。今晩はフランスパンとキーマカレー(レトルト)と赤ワインです。ちなみに赤ワインはオシャレっぽい演出ではなく、レトルトカレーをアルミコッヘルに直接開けて、直火で温めると焦げ付くと思ったので水分を追加して延ばすつもりで投入しました。赤ワインはナルゲンの125mlのボトルに入れてきました。半分近くカレーに投入したらちょっとシブい風味が出てしまいました。おまけにキーマカレー自体が辛かったので泣きそうなくらい不味かったです。
ちょうど夕食と片づけが終わった頃、空木岳の西稜線の向こうに広がる雲海に夕日が沈んでいきました。管理人さん曰く「本当ならちょうど日が沈む辺りに御嶽山が見えるのだけれど・・・」と。お客の皆さんに見てもらいたかったようでしたが、私的にはゆったりした時間の中で見る夕日はそれだけで充分美しいので満足しました。
日が沈んだら急に寒くなってきましたので、ヒュッテの2階に上がり、寝床でエアマットを膨らませて寝袋に入りました。既に全員が寝袋に入っていましたし、いびきをかいている方もいらっしゃいました。
私が2年前に訪れた時は、気温も低く、他の人の体温も無かったのでとにかく寒かったです。イスカの450というダウン寝袋の中にダウンジャケット上下を着込んで入っても寒くて寝付けなかったのに、今回は現時点で暑くて寝付けそうもありませんでした。私はこの時期のテント泊の基本スタイルであるダウンの寝袋+厚手のウールの股引+薄手のジッパー付きウールの肌着+パタゴニアのR1フーディーというやや薄手のフリースを着て寝るのですが、とりあえずフリースは暑くて脱いでしまいました。でも、そのうち寒くなるだろうと寝袋の中に忍ばせておいたのですが、結局朝まで出番はありませんでした。この時点でダウンジャケットの上下は確実に出番は無いと思ったのでスタッフサックに入れて枕にしました。寝袋も薄手のモンベルの♯4だったのに、寝汗をかくぐらい暑かったので何度も何度も起きてしまいました。その度に寝袋のジッパーを開けて温度調整したのですが、最終的には寝袋から全身を出していました。私にとっては初めての経験です。おそらく駒峰ヒュッテの2階の空気に対して、寝ている人から排出される吐息や体温が勝っていたのでしょう。息苦しいほどでしたので一酸化炭素中毒にならないかどうか心配になったほどでした。
8月21日(2日目)
4:00
携帯電話のアラームで目覚めた時、長時間寝床にいたわりにはぜんぜん寝ていた気がしませんでした。駒峰ヒュッテのトイレのキャパは1名なので、混雑する前に行きたくてヒュッテの外に出ました。トイレは外からしか入れないので・・・。そしたら空には満天の星空が・・・。駒ケ根の街が近いのであまり期待していなかったのですが、この時は新月から3日ほどしか経っていなかったので月の光が弱かったからだと思います。流れ星は見れませんでした。
トイレを済ませると、お湯の入ったテルモスとカメラとメモ帳と貴重品だけをズボンのポケットにつっ込んで、空木岳の山頂まで登り返しました。ヒュッテから山頂へは10分弱程度で登ることができます。この点も私がこのヒュッテを選ぶ理由のひとつです。
山頂に着いた時はまだ日の出前だったので、肉眼では360℃の絶景が見えていましたが、私のカメラではボケてしまうと分かっていたので、岩に腰掛けて太陽が出てくる方向を凝視していました。太陽は八ヶ岳連峰と南アルプスの間の雲海から浮かんできました。南アルプスのスカイラインもくっきり見えましたし、塩見岳の背後に富士山も見えました。昨日歩いてきた極楽平からの稜線もその奥の宝剣岳も良く見えました。昨日管理人さんがイチ押ししていた御嶽山も乗鞍も北アルプスもくっきり見えました。空木岳から見る穂高連峰の内、槍ケ岳は確実に認識できましたが、2週間前に向こうからここを見ていたはずの笠ヶ岳のピークはよく分かりませんでした。おそらく西穂高あたりと重なっていたので山容が変わって見えていたのでしょう。この絶景の中でも、一番楽しみだったのは空木の隣の山狷邏陬嘘扠當名離潺淵潺灰泙任后I缶昌海鯀定したかの深田久弥翁も数ある名峰から100座を選ぶにあたり、この空木岳と南駒ケ岳のどちらにするか悩んだ挙句、空木(ウツギ)という音だけでこちらを選んだという・・・。
大抵の山は見る角度によってシルエットを変えます。見た人の感性や嗜好によっても印象は異なるでしょう。私は南アルプスから見る南駒ケ岳の爛妊さ瓩好きですし、何より秋から春にかけて毎年登っている松川・烏帽子ヶ岳から見上げるミナミコマに憧れさえ抱いています。
ですから個人的には南駒ケ岳に軍配を挙げるのですが、いかんせん未踏です。近いうちにその頂に立ち、向こうからこちらを見た時に最終的な答えが出るだろうと思っています。
この日も、日の出時間の山頂に立っていた人は私を含めて3人だけでした。他の方は下山の支度をしているのでしょう。私は勿体無い気がしてなりません。
ヒュッテに戻ると、2階の寝床周辺の私物をかき集めて撤収準備を整え、1階に下りて自炊用テーブルでお湯を作ってインスタントスープを作り、残りのフランスパンを流し込みました。
6:18
お世話になった管理人さんにお礼を言って、大好きなウッドデッキから最後の景色を楽しんだ後、ようやく下山を開始しました。先ほどは「南駒ケ岳の方が好き」と書きましたが、親近感のあるのはやはりこの空木岳です。2度も登った百名山はここだけなのですから。
<駒峰ヒュッテ〜菅の台バスセンター>
6:18
今日は麓の菅の台バスセンターまで下るだけです。よく「長大な池山尾根」とは言いますが、私の記憶ですと苦労しなかったような気がしていたので安気でした。回訪れた2010年10月は牴爾蠅鷲痛瓩凌燭炭巴罎世辰燭茲Δ糞いしますが、それでも嫌な思い出としてはインプットされていません。むしろ、
「山の紅葉って、こんなに綺麗なんだな・・・」
と新境地を見たような記憶すらあります。特に空木平カールの素晴らしかったですし、サクサクと小気味良い音を立てながら落ち葉の上を歩くも趣深かったですし、駒峰ヒュッテから樹林帯までの間のなだらかな森林限界の稜線の美しさと駒ヶ根の街がジオラマのように見える高度感などが鮮明に記憶に残っています。
下り始めてすぐに犇霎亅瓩箸いΦ霏腓粉笋硫瑤あり簡単に攀じ登る事も出来るのですが、前回登ったので今回はスルーしました。
6:51
空木平の分岐を通過しました。
この日もバンテリンサポーターのおかげなのか調子が良さそうだったのでノンストップでズンズン下りました。
大地獄の手前辺りで無理やり休憩をしました。あまり調子に乗って下り続けると突然膝や靴擦れなどのトラブルが発生するリスクが増えるので、疲れてもいないしどこも痛むわけではありませんが1時間前後おきにこのように休憩しながら歩きました。
大地獄の辺りで先行の何組かのパーティーに追いついてしまいました。皆さん慎重に通過していました。写真を何枚か撮影したのですが、暗かったからか全てピンボケだったのでとてもお見せできません。
大地獄と小地獄は名前ほど恐ろしい場所とは思いませんが、実際滑落死亡事故も起きていますので、鎖が頑丈に取り付けられているものの気を抜くと危険な区間ではあります。特に10m近いほぼ垂直の鎖場は雨などで濡れていると危険度がグンと上がると思いますので注意が必要です。幸いこの時はドライな状態だったので何も問題ありませんでした。
小地獄が終わると、休憩に適したちょっとした広場があり爐海寮萃鵡埣躇奸陛个辰討い人向け)瓩箸いΥ波弔あります。私は今回スルーしました。
ここからは良くあるアルプス山域の樹林帯の雰囲気が漂う登山道です。傾斜はキツい方だと思いますが、危険箇所には頑丈な金属製の階段などが設置されていますので安心して通過することができます。
8:30
木々に囲まれた樹林帯の広場に踏み込めばそこは爛泪札淵瓩箸いκ岐点です。
ここから池山小屋の分岐まで「登山道コース」と「散策道コース」に分かれ、表示さている距離は同じですが、皆さん登山道の方を選択されるようで散策道の結構荒れ始めています。2年前は往路として登りで使いましたが、草や笹が膝上から背の高さまで伸びており、道を覆っていますので大部分足元が見づらかった記憶があります。それに人が歩かない道では獣の類や蛇などとエンカウントする確立が高いですし、何より蜘蛛の巣をストックで払いながら進むのは快適ではありません。私は今回も下りは登山道を選択しました。良くあるような普通の登山道です。足元の見通しは良いので歩きやすいですし、登ってくる何組かの登山者とすれ違ったのでひとりでも心細くはなりません。
8:51
池山小屋の分岐に到着しました。
ここには水場とベンチがあるので格好の休憩地です。冷たくて美味しい天然水をシェラカップで2.3杯おかわりしながら10分程度休憩しました。ここでの写真もピンボケでした。
この分岐からは狠啝貝瓩箸い小山のピークと展望台を散策できる道も選択できるのですが、これも前回通ったので今回はスルーです。この池山コースを入り口と出口から観察した感じでは随分草も伸びて荒れていました。あまり利用されないのでしょう。
タカ打ち場登山道に直接下りてい行く道をハイペースで下りました。この区間は非常に傾斜が緩く道も広いので、私的には逆に辛いです。無駄に長い九十九折の林道も苦痛でしかありません。ここは一気に通過しました。
9:46
タカ打ち場登山口まで下りてきました。
登山道と散策路の案内看板や登山ポストが設置されています。
ここは砂利の大きな駐車場になっており東屋とトイレもあるのですが、1台も車が止まっていなかったので未だに林道工事が終わってないようです。2年前も通行できませんでした。数十台の車を停める事ができる広場なので勿体無いです。
ここからは九十九折の自動車も通れる林道を串刺しにするように登山道が麓まで作られています。比較的急な登山道を歩いていると何度か自動車用の林道を横切ります。
ここから菅の台バスセンターまでコースタイム2時間ですが。結構長く感じました。
「ここまで車で乗り入れて来ていたら歩かなくて良いのに・・・」
と思ってしまうから余計にイヤになります。つまらない林道ではいつもこういう気持ちになります。
「歩きに来ているのに?」
と、我ながら矛盾しているとは思うのですが・・・性格でしょうかね・・・。
気だるい登山道を無心に下り続けると、スキー場の駐車場に面した登山道に着きました。
夏のスキー場の廃墟感が印象的でした。
数十メートルの最後の登山道区間を通り抜けるとアスファルトの車道にでました。
車道を数百メートル下ると菅の台バスセンターが見えてきました。
昼間は誘導員の方が大勢いました。駐車場の入り口にも「満車」の表示が掲げられていました。
10:45
予定より早く菅の台バスセンター駐車場においてある自家用車まで戻って来ることが出来ました。
登山靴と靴下を脱ぎ、短パンに履き替えて温泉に向かいました。この日は牴搬歌更埖辞瓩涼罎砲△覘猩天 こぶしの湯瓩帽圓ました。総合アウトドア施設のような場所です。
こぶしの湯の温泉は極めて特徴の無いお湯でしたが、施設は新しくて清潔なので汗を流すには好都合です。個人的にはわざわざ温泉に入りには来ないでしょう。
帰りに高速に乗る前に名物の爛宗璽好ツ丼瓩鮨べました。
初日は怪我をして苦労しましたが、翌日は一気に下ってきたので拍子抜けした感が残りました。空木岳から南駒ケ岳まで往復してから下っても良かったかな・・・と。
あとは雪が積もる前に伊那川ダムから南駒ケ岳と越百山まで縦走すれば中央アルプスのメジャルートを歩いた事になります。しかし、その後もいろんな登山口から何度もこの山域に踏み込んでいきたいと思います。高速道路を使えば自宅から2時間強ですし。思っていたよりロープウェイも駐車場も混んでいなかったですし。何より駒峰ヒュッテのウッドデッキが好きなんです私。
おわり
全て読んで頂けたのなら光栄です。有難うございました。
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