南アルプス南部縦走(上河内岳〜聖岳〜赤石岳〜荒川三山〜千枚岳)

- GPS
- 173:39
- 距離
- 85.1km
- 登り
- 7,551m
- 下り
- 7,549m
コースタイム
- 山行
- 6:23
- 休憩
- 1:22
- 合計
- 7:45
- 山行
- 6:48
- 休憩
- 2:03
- 合計
- 8:51
- 山行
- 7:57
- 休憩
- 1:37
- 合計
- 9:34
- 山行
- 5:03
- 休憩
- 2:15
- 合計
- 7:18
- 山行
- 7:07
- 休憩
- 0:58
- 合計
- 8:05
- 山行
- 5:27
- 休憩
- 1:14
- 合計
- 6:41
- 山行
- 5:46
- 休憩
- 2:08
- 合計
- 7:54
| 天候 | 12月27日:畑薙ダムゲート前→茶臼小屋 天気:晴れ 気温:-12℃ 風速:30m/s 12月28日:茶臼小屋→聖平小屋 天気:晴れ 気温:-14℃ 風速:23m/s 12月29日:聖平小屋→聖岳→兎平 天気:朝方曇り、日中は晴れ 気温:-16℃ 風速:21m/s 12月30日:兎平→百間洞山の家 天気:晴れ 気温:-15℃ 風速:17m/s 12月31日:百間洞山の家→赤石岳→荒川小屋 天気:午前中は曇り、午後から晴れ 気温:-14℃ 風速:22m/s 1月1日:荒川小屋→荒川岳(悪沢岳)→千枚小屋 天気:晴れ 気温:-19℃ 風速:16m/s 1月2日:千枚小屋→椹島+鳥森山 天気:晴れ 気温:-9℃ 風速:20m/s 1月3日:椹島→畑薙ダムゲート前 天気:晴れ 気温:-9℃ 風速:24m/s (※気温、風速は朝6時、赤石岳山頂の予測値) |
|---|---|
| 過去天気図(気象庁) | 2015年12月の天気図 |
| アクセス |
利用交通機関:
自家用車
新東名自動車道 静岡SAスマートICから車で約2時間。 道路に雪や凍結箇所は無かったが、狭路が延々と続くので対向車に注意。 また、路上には小さな落石が多く、パンクせぬよう運転には神経を使った。 畑薙第一ダムゲート前には広い駐車場有り。 ゲート前の南アルプス登山指導センターは年末年始に職員の方が駐在しておられ、 ここで登山届と下山届を提出する。 |
| コース状況/ 危険箇所等 |
難所となったのは以下の箇所。 ‐聖岳〜聖岳 ∪山戞租栃 赤石岳直下 ぢ臉算平〜荒川前岳(冬期ルート) ス喟鄰羈戞前沢岳へ続く細尾根 Π沢岳への登り Т飮魁狙號膤戮虜挌根 この中でも、∪山戞租栃燭特にハード。 急な登下降と急峻なトラバースが連続し、ナイフリッジも多い。 危険個所が続くので、確実なアイゼン&ピッケルワークが求められる。 基本的には岩稜上を進むが、場所によっては通過できないので、 そんな場所では北側を巻いて通過。 出来るだけ夏道を辿る様にしたが、雪が深くルートファインディングは困難だった。 P2796までは雪がクラストしており歩きやすい状態だが、それ以下は深いラッセル。 表面だけクラストしたモナカ状の雪で、常時膝までのラッセルが続く。 急登部では腰まで達する事も有り、体力面でもかなりハード。 特に聖兎のコルから兎平への登りに時間がかかり、夏だと1時間程度だが、 今回はそこの通過に3時間も要した。 今回の計画だと聖平小屋からのスタートなので、コースタイムが大きな問題となる。 まずは聖平から聖岳へ登らなければならないので、そこで時間を費やすと、 後に控える聖岳〜兎平の通過が厳しくなる。 (今回は聖平〜小聖岳までトレースがあったので、かなり時間短縮されている) ルート上でビバーク出来そうなのは「聖兎のコル」のみ。 テント一張り出来そうなスペースがあるが、南面が切れ落ちており、 安心できる幕場では無い。 ロープでしっかりテントを固定しないと悲惨なビバークになりそうなので、 出来れば1日で兎平まで到達出来るようにしたい。 ∪山戞租栃唇奮阿硫媾蠅砲弔い討蓮△修貭難易度は高くないので、 しっかりしたアイゼン&ピッケルワークが出来る人であれば問題無いだろう。 今回ルート上の山小屋は全て利用可能。 どの小屋も冬期用として開放されている区画があり、安心して休めるが、 兎岳避難小屋だけは状態が良くない。 入口には雪が堆積しており、利用する前には雪かきする必要が有りそう。 また、内部は風雪が吹きこんでくるような状態なので、テントを張らないと厳しい。 兎平はあまり風が吹かず、雪壁設営も可能な位に雪があるので、 小屋は当てにせず、そこで幕営した方が快適かもしれない。 尚、稜線上の山小屋は全てトイレ使用不可。 稜線以下の小屋(茶臼小屋、聖平小屋、千枚小屋、椹島冬期小屋)については、 外に冬期用トイレがあり使用可。 ●携帯電波状況(使用機種:au) ・茶臼小屋 電波入らず。茶臼小屋から少し登り森林限界を越えた辺りで電波が入った。 ・聖平小屋 電波入らず。聖岳方面へ少し登り薊畑分岐付近で電波が入った。 ・兎岳避難小屋 電波入らず。兎岳山頂へ向かって少し登ると電波が入った。 ・百瞭胸海硫 電波入らず。百諒進面へ少し登り、森林限界を越えた辺りで電波が入った。 ・荒川小屋 電波良好。ネットも快適で4G入ったので、ヤマレコ見て過ごした。 ・千枚小屋 微弱ながら電波が入った。 ・椹島 電波入らず。 |
| その他周辺情報 | 下山後の風呂は白樺荘が近い。 大人:510円 |
写真
バッチには南アルプスの山々を擬人化したキャラクターが描かれている。
茶臼ちゃんが可愛い。登っておけば良かったぜ。
聖ちゃんと赤石君はお似合いのカップルに見える。
千枚ちゃんは、悪沢君にだまされて色々と貢がされてそう。
と、勝手に想像してみる。
兎平以降の稜線上で、始めて人に会った。
屈強そうな2人パーティ。
この時は気が付かなかったが、下山後、ヤマレコで幾度か記録を拝見させて頂いたpamir88さん達である事を知った。
装備
| 個人装備 |
長袖シャツ
長袖インナー
ハードシェル
タイツ
ズボン
靴下
グローブ
アウター手袋
インナー手袋
防寒着
ゲイター
バラクラバ
ゴーグル
着替え
靴
テントシューズ
ザック
サブザック
アイゼン
ワカン
ピッケル
スコップ
行動食
非常食
調理用食材(9日分)
飲料
水筒(保温性)
ガスカートリッジ(1000g)
コンロ
コッヘル
食器
ライター
地図(地形図)
コンパス
笛
ヘッドランプ
予備電池
GPS
筆記用具
ファーストエイドキット
針金
常備薬
日焼け止め
ロールペーパー
保険証
携帯
時計
タオル
ナイフ
カメラ
ポール
テント
テントマット
シェラフ
ロープ(30m)
ハーネス
スリング
カラビナ
|
|---|---|
| 備考 | ガスは850g程使用。 乾燥用や暖房用としても使用したので、節約すれば750gでも間に合った。 ロープやハーネスは核心である聖岳〜兎平の通過用に持参したものだが、 使用はしなかった。 |
感想
今年は記録的な暖冬で、雪の少なさが危ぶまれましたが、
南アルプスの山々は依然として白く。
聖岳を越え、これから歩く縦走路を見渡した時、
そこには素晴らしき白銀の世界が広がっておりました。
今回の年末年始は驚くほどに天気が良く、この8日間、毎日快晴で停滞無し。
その天候に助けられ、念願であった南アルプス南部冬期縦走が達成出来ました。
また、東北のヤマレコユーザーとして尊敬している方との出会いも有り、
これまでの山行の中でも、最も思い出深い充実した山行となりました。
色々と語りつくせぬ事は多いですが、それはまた別途。
時間の有る時にでも追記していこうかと思います。
今はただ、南アルプスの山々に感謝。
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以下、追記。
行動記録みたいなものですが、無駄に長いのでブラウザバック推奨です^^;
【12月26日】(移動日)
午前10時に宮城を出発。
東北道に車を走らせ、入山前の前泊地である静岡SAに向かう。
まだ年末の帰省ラッシュには早く、高速道路は空いていた。
東北道、圏央道、東名道、新東名道、
いずれの自動車道も渋滞は発生しておらず、流れはスムーズ。
首都高を通っていれば多少の渋滞には巻き込まれたのかもしれないが、
圏央道のお陰でパス出来るのは有難い。
東北からは遠い南アルプスだが、この道路が開通したお陰で随分と近くなったように感じる。
明日からは食事が制限されるので、移動中の食事は奮発した。
昼食は羽生PAでうな重、夕食は静岡SAでステーキ定食、と。
普段はめったに食べないような豪勢な食事で明日からの鋭気を養う。
ついでに、足柄SAでは風呂に入ってと。
関東地方のSAは施設が充実しているのが嬉しい。
静岡SAには20時頃に到着した。
SA内の食堂にて夕食を済ませると、早速就寝。
ここから登山口となる畑薙ダムまでは、車で約2時間。
結構距離があるので、もっとダム近くまで行ってから前泊した方が良いかもしれないが…
入山前の朝食は、きちんとしたものを食べたいものである。
この静岡SAであれば、24時間営業している食堂があるし、コンビニもある。
前泊にはうってつけだ。
しかし、静岡SAのスマートICを出て、畑薙ダム方面へ北上してしまうと、
コンビニ1件すら無い山道が続いてしまうのである。
駐車場照明の灯りが少し気になったが、日中の長い運転で疲れたか。
すぐに眠りに落ちた。
【12月27日】(畑薙ダムゲート前→茶臼小屋)
朝3時には目が覚め、SA内の食堂で朝食。
コンビニで多少の物品を購入し、スマートICを出る。
一般道へ出た後は、狭路が続く県道を北上し、畑薙ダムへと向かう。
1車線の狭い道が続き、対向車が気になるところだが、早朝なので対向車は皆無。
擦れ違いの手間は無かったが、路上には小さな落石が多い。
尖った岩が多く、踏みつけてパンクでもしてしまったら大変だ。
実際、落石を踏んでパンクしてしまった、という方の山行記録を読んだ事がある。
その記録が頭をよぎり、慎重に石をかわしながら車を進める。
登山口となる畑薙ダムゲート前には7時前に到着。
駐車場には数台の車が駐車してあり、すでに入山者がいるようだった。
ゲート前の南アルプス登山センターには職員の方が駐在しており、
話を伺ったが、やはり今年は雪が少ないらしい。
東北もそうだが、今年は全国的に暖冬のようである。
もっとも、その雪の少なさだからこそ成功する、
そう思い、今回の山行を計画した訳だが。
12月に入ってからは毎日、赤石岳周辺の天候を調べていた。
その間、纏まった降雪は無く、年末年始の南アルプスは雪がかなり少ない事が判っていた。
“この雪量であれば、単独でも可能なはず。”
その判断から、今回、南アルプス南部縦走を決行する事にしたのだった。
だが、あまりにも雪が少ない。
畑薙ダムゲートを出発し、畑薙大吊橋を渡り、聖岳への登山道を進むも、
全く雪が見られない。
2年前に訪れた時は、すでにゲート前から積雪があったのだが・・・
雪が少ないからこそ成功する、
そう思って計画したのだが、この分では雪が少なすぎて失敗しそうな気がしてきた。
今日の宿となる茶臼小屋、はたしてそこに雪はあるのだろうか?
恐らく、水場はもう凍っているだろう。
もし雪が無かったら水調達が困難になる。
茶臼小屋までの行動分しか水を持参していない私にとって、雪の有無は死活問題だ。
不安に思いながら進むと、下山してくる単独の男性発見。
お話を伺うと、昨日は茶臼小屋に泊まったとの事で、
小屋の周辺は十分な積雪があり水の心配は必要無い、と教えてくれた。
それを聞いて一安心。
また、現在、茶臼小屋へ向かって進んでいるパーティがおり、トレースもあるとの事。
この登山道を始めて歩く私にとって、トレースの存在は有難い。
嬉しい情報を得て、単独の男性と別れて先へと進む。
男性の情報通り、横窪沢小屋付近から雪が見られるようになり、やがて雪道に。
雪道にはしっかりとしたトレースが続いている。
お陰でラッセルは無く、歩みは順調。
時間に余裕を持って、茶臼小屋へ到着する事が出来た。
この日の茶臼小屋のメンバーは、先頭を進んだ3人パーティと2人パーティ。
そして、私の計6名。
冬期の入山者が少ない、と言われる南アルプス南部としては賑やかな方かもしれない。
小屋に集う登山者達の話を聞いていると、どうやら3人パーティは山岳部の学生さん達らしい。
こりゃ、遅くまで騒がしくなるかな?
そんな事を思ってしまったが、19時を過ぎると話声はピタリと止み、皆就寝となった。
さすが、山岳部。若くても山のマナーは心得ている。
彼らに感心し、私も寝床についた。
【12月28日】(茶臼小屋→聖平小屋)
日の出と共に茶臼小屋の登山者達は小屋を発ち、私が最後の出発。
既に雪面に付けられているトレースを追う。
茶臼小屋から少し登り、途中で2人パーティを追い越す。
そして、茶臼岳〜上河内岳の稜線上へ上がると、風は一気に強くなった。
だが、強風という程では無く、十分な行動範囲内。
冷えるほどではない。
グローブのインナーは薄手のまま。
バラクラバは付けず、フードを被るだけとし、クラストして歩きやすくなった雪面を進む。
やがて前方には上河内岳が見えてくる。
2重山稜のような山容であるが、視界良好なこの天候では、ルートの間違えようがない。
登山道が通る稜線を伝って上河内岳の肩へと到達し、そこで本日最初の休憩をとる。
上河内岳の肩には、本日先頭を進んだ山岳部の3人パーティがおり、
もうすでに上河内岳へ登ってきた後だった。
彼らの目的地は、この上河内岳であり、この後は下山すると言う。
ここまでのトレースのお礼を良い、彼らと別れる。
そして、今回山行における最初のピークである上河内岳山頂へと向かう。
上河内岳の肩から山頂までは10分程度。
傾斜は緩く、雪がクラストしているので負荷は軽く、夏道時間で登頂出来た。
上河内岳からは雲海に包まれた富士山、そして、これから向かう聖岳が明瞭に見えた。
聖岳方面のルートを見ると、この先は下りが続き、森林限界まで下るようだ。
“せっかく稜線に出たのに勿体ない。”
ふと、そんな事を思ってしまう。
3人パーティは下山してしまったので、ここから先は自分がトップ。
一応、この先にもトレースは残っていたが、前日以前の古いトレースであり、
風雪で消えかけている。
これは、ラッセルになりそうだ。
実際、その通りとなり、上河内岳から先に進み、その先の南岳を越え、
森林限界以下になるとトレースは消え、ラッセルとなった。
それほど深い雪では無かったが、重い荷物を背負ってのラッセルはきつい。
傾斜は緩いので、アイゼンからワカンに履き替え、先を進む。
後続に2人パーティが続いていたが、彼らはワカンやスノーシューを所持していない。
ペースは遅く、あまり頼りには出来ない。
しかも、内1名は女性(重要)である。
ここは・・・
良いとこ見せないとな!
やる気が出てきた。
このまま聖平までラッセルが続くと思われたが、聖平の手前まで差し掛かると、
再びトレースが現れた。
そのお陰で、予想していたよりも早く、疲れも少なく、聖平小屋へ到達出来た。
少し遅れて2人パーティも聖平小屋へ到着。
女性の方からはねぎらいの言葉を頂く。
「お兄さんのお陰で助かった。」
「お兄さん」と呼ばれると嬉しく思う私、もはや立派なオジサンか。。。。
この日の宿である聖平小屋へ荷物を降ろし、周辺探索へ出かける。
トレースの進路を調べてみると、聖平小屋から聖沢登山口方面へ続いていた。
この登山道は沢沿いの道が続き、冬期は通れないと思っていたのだが、
今年は例外的な雪の少なさのせいか、まだ通る事が出来るようだった。
トレースの主達は、この登山道を歩き、聖岳へ登頂したようである。
聖平へ出て、聖岳方面のルートを見ると、そちらへもトレースが続いている。
これは有難い。
このトレースがあれば、明日の聖岳登頂がかなり楽になる。
この後、まだ時間があったのでトレースを更に踏み固める為、聖岳方面へ向かう。
明日が今回山行における山場。
最大の難所である聖岳〜兎平の通過が待っている。
その為には、最初の聖岳登頂を短時間で済ませる必要がある。
明日の負荷を少しでも軽くすべく、しっかりと雪を踏み固めながら聖岳への雪道を整備する。
樹林に囲まれた登山道を登って行くと次第に視界が開け、白き聖岳が見えてきた。
木々の間からは、かすかに兎岳も見えた。
そして、その間を繋ぐ稜線も見える。
歩みを止めて、しばらくその稜線を眺めてみた。
“果たして、あの稜線を越えられるだろうか?”
微かに見える険しい稜線の影を見て、そう思う。
眺めているうちに夕刻は近づき、聖岳の麓は急速に冷えてきた。
聖岳山頂方向からは、大きな風の音が聞こえてくる。
・・・今日は、ここまでにしよう。
一抹の不安を覚えつつ、聖平小屋へと帰った。
【12月29日】(聖平小屋→聖岳→兎平)
午前3時に起床。
聖平小屋の中は真っ暗闇で静まり返っており、同宿となった2人パーティは
まだ眠っている。
彼らを起こさぬよう、静かに朝食を摂り、荷物の撤収を行う。
彼らは聖岳には登らず、ここ聖平で引き返すそうだ。
ここまで来て聖岳に登らないのは勿体無いと思うが、昨日のルートは、
女性の方にかなり堪えたようである。
本日、聖平から聖岳へ登頂を試みる者は私一人だけとなった。
忍足で小屋を出て、ヘッドランプの明かりを付けると、キラキラと輝く無数の光が見える。
霧氷が舞っていた。
聖岳の方に視線を向けるも、そこに聖岳は見えない。
それは日の出前の暗闇だからでは無く、雲で覆われている為であった。
聖岳の登頂に、文字通り、暗雲立ち込める。
ヘッドランプの明かりを頼りにトレースを辿り、聖岳へと向かう。
薊畑分岐付近まで登っていくと、携帯電話のメール着信音が鳴った。
電波が入るようになったので、サーバーに蓄積されていたメールが送られてきたらしい。
送られてきたのは、契約しているヤマテンの赤石岳気象情報。
早速メールを読んでみると・・・
本日29日は強風となるが、山頂は晴れる。
明日30日は晴れが継続し、そして稜線の風はかなり弱まる。
という内容だった。
ヤマテンの気象情報サービスは、契約してから1年以上たつ。
2年前、年末年始の荒川岳にて、気象を読み違えて2日間停滞の憂き目に遭った反省から
導入したものだが、これまで使ってみた限りでは、精度は信頼できる。
東北の山は、飯豊・朝日しか対象としていないので、宮城県民の私には少し不便だが、
日本アルプス系のメジャーな山は殆ど網羅されている。
気象情報が生死にかかわる雪山登山においては、月額315円の価値はあるサービスだと思う。
今、山頂は雲で覆われているが、情報が確かならば、やがて雲は晴れるはず。
強風予報が気がかりだが、今日のルート上で強風に晒されるのは、聖岳登頂までだろう。
その後に続く聖岳〜兎岳の稜線については、標高が一気に下がる為、
風の影響はあまり受けない、と判断していた。
確かな情報に鼓舞され、聖岳へと足を進める。
日が昇り、次第に明るくなる空。
それと共に聖岳を覆っていた雲は取り払われてゆき、やがて真っ白な聖岳が再び姿を現す。
今回の山行、最初の3000m峰である聖岳。
これから始まる長い縦走における最初の関門だ。
今、その門は再び開かれた。
森林限界を越えると、そこから先は強風域となった。
小聖岳のピーク手前に風を凌げる場所があったので、そこで装備を整え先へと進む。
小聖岳から先は細尾根が続いており、細尾根の先には二重山稜の稜線が見える。
どちらの稜線を辿れば良いのか迷いそうだが、地図を見ると、夏道が通るのは右の稜線。
視界が良いので間違うことは無く、細尾根通過後は正確に右の稜線へと進んだ。
細尾根を通過すると強風の影響か、雪は少なくなり、急斜面の露岩帯が続く。
広い斜面の登りが続くが、所々で夏道を示すペンキで塗られた岩が見えており、
辿るルートは判り易い。
登るにつれて風は強くなり、次第に体感温度が低下する。
聖平小屋を出る際は十分な充電量があったはずのカメラだが、登りの途中で電池が死んだ。
強風の中での電池交換は大変で、その短時間の間だけグローブを外すと酷く手が凍えた。
長い露岩帯を登りきり、聖岳山頂へ出ると、一気に風は強まる。
さすがは3000m峰、立っているのがやっとのような強風である。
あまりに風が強いので長居は出来ず、晴天下であっても厳しい環境である。
だが、山頂からの眺めは絶景だ。
中央に鎮座するのは赤石岳、そして、そこへと続く白き稜線。
ここから先は、国内でも数少ない標高3000mの縦走路。
今年は雪が少ない為、白さがやや足りない感はあるが、そこには期待を裏切らない、
白銀のワィンディングロードが続いていた。
強風から逃げるように兎岳へ続く稜線へと進む。
少し標高を下げただけで風は収まり楽になったので、そこで一息入れる。
ここから先が、今回山行での最大の難所。
十分休憩し、ハーネス装着、ロープをいつでも使えるようタスキがけし、先へと進む。
最初はクラストした急斜面の下降が続き、アイゼンをしっかり効かせて下る。
傾斜は急だが、足だけでも下れる程度であり、まだピッケルを使うほどではない。
幅広の稜線なので、プレッシャーもあまり感じない。
楽に下る事は出来たが、ルートの先には凄味のある景観が続いている。
稜線の南面は「聖岳大崩壊地」と呼ばれる切れ落ちた断崖となっている。
片側が完全に切れ落ちた稜線であり、これは、キレットと呼ばれる地形だろうか。
東北ではあまり見ない地形だが、あえて言えば、岩手山の鬼ヶ城がこれに近い。
もう少し下った先で稜線が細まり、その後はナイフリッジ状が続くが、この切れ落ち様では
南面を巻く事は不可能だろう。
巻くのであれば全て北を巻くしかないが、北側の傾斜も相当なものだ。
覚悟を決めて更に下り続けると、やがて前方には尖ったピークが見えてくる。
地形図には標高2796mとして記載されている鋭いピーク。
小ぶりながらもそのピークには威圧感があり、それはまるで、
「命が惜しければ引き返せ。」とでも言っているように思えた。
このP2796は北側を巻いて通過するが、そこに続くのは急峻なトラバースであり、
一歩を踏み出すには勇気が必要だった。
P2796を境に、雪の状態が変わった。
ここまでは硬くクラストした雪で、歩行の妨げとはならなかったが、P2796以下は雪深い。
トラバースに一歩踏み出した途端、膝まで足が埋まった。
サラサラな状態の締まらない雪で、足場は不安定。
一歩一歩丁寧に、確実にピッケルでセルフビレイを取りつつ、トラバースを刻む。
雪は安定しないが、所々で潅木が見えており、それを支点に出来るのは助かった。
P2796を越えた後は一時的に稜線上に乗るが、すぐに再びトラバースに入る。
参考にした文献によれば、
「P2796から先は稜線通しでは進めないので、大きく北側を巻いて下降する。」
との事。
要は、夏道を辿れば良いワケだが、雪は深く、夏道だと判るのはその入口だけ。
その後のルートは自力で探さねばならない。
今度の巻きは、長くトラバースが続く。
所々で潅木が出ているので雪崩の心配は無いのだろうが、滑落危険箇所の通過が長く続くので緊張させられる。
この日の晴天は、幸いだった。
進路がハッキリ見えるので、傾斜が緩く潅木が出ていて安全な場所を探しながら
下降出来たが、もし、これが視界の効かないガスの中だったら、
相当厳しい行程になった事だろう。
厳しいトラバースが続いたが、無事通過し、聖兎のコルへ到着。
コル上は狭いものの平坦な地形であり、ザックを降ろして安心して休憩することが出来た。
現時点で時刻は12時。
日没まではあと4時間以上ある。
最悪の場合、聖兎のコルでビバークする事も考えていたが、これだけ時間があれば、
日没までに兎平へ到達出来るだろう。
今日の見通しが出来て安心するが、聖岳登頂、そしてその直後にハードな下降が続いたので、
疲労が激しい。
しばらくコルで休憩してから行く事にした。
約40分の休憩をとり、後半戦。
兎平への登り返しだ。
登りは下りよりもずっと難易度が下がる為、あとはもう容易だろう、
と楽観的に考えていたが、そう上手くは行かなかった。
出来るだけ稜線通しで進むが、稜線上にも関わらず雪が深い。
雪の状態は、表面だけクラストしており中はスカスカのモナカ状。
足場が安定しないので、なかなか登る事ができない状態だった。
まずは、両腕で雪を砕いて、雪を掻き分ける、
その後、膝である程度雪を固めて、安定したところで一歩を踏み出す。
ひたすら、その繰り返し。
ラッセルは厳しく、時々振り返ってみるが、ぜんぜん進んでいないのが見てわかる。
あまりにペースが悪いので、ワカンを使おうかとも考えたが、傾斜が急すぎるこの稜線で
ワカンを使用する事は危険に思える。
また、ワカン履いたところで、この締まらない雪に対しては効果を期待できなかっただろう。
ワカンは付けず、アイゼンとピッケルの装備でこの稜線は貫く事とした。
稜線通しで進めない場所は巻いて進むが、ルートを見誤ってしまうこともしばしば。
とにかく、ハードな登りが延々と続く。
足の疲労も相当なものだが、それ以上に腕の疲労が激しい。
両腕で掻き分ける雪は重く、それだけでも腕の筋力を消耗させるが、
途中でルートをロストしてしまい、稜線上に復帰する為、強引に潅木帯を突破していた。
さながら沢登りの悪場の如き登攀を行った為、腕はもうパンパン。
ピッケルを握る手が微かに痙攣しているが、これは寒さの為ではない。
なんとか、午後4時前には兎平に到達できたが・・・
もうその頃には、一歩前に進むだけでも億劫に感じるほどに疲れきっていた。
いやはや、過酷なルートであった。
このルート、確かに難ルートではあったが、ちょっと予想とは異なっていた。
アイゼン・ピッケルワーク等の技術的な面が試される難ルート、と最初は思っていたのだが、
それ以上に必要なのは、深雪のラッセルをやり抜くだけの体力、
そして「折れない心」であった。
“もう、ソロでこのルートは歩きたくねぇ。。。”
兎平に到達し、歩いてきたルートを眺めた時、つくづくそう思った。
今夜の寝床を探すべく、兎岳避難小屋を覗いてみると、そこには既に先客がいた。
お話を伺うと、東尾根から赤石岳に登頂し、その後、兎平まで縦走してきたそうだ。
そして、明日は今日私が歩いてきたルートを辿り、聖岳へ向かうらしい。
彼らは4人パーティで、今夜はこの小屋でテントをを張って過ごすとの事。
小屋内は狭く、ここで私を含めた5人が過ごすのは辛そうだ。
優しい方々で、「場所を空けるので、この小屋でテントを張りなさい。」
と、勧めて下さったのだが・・・
しかし、今日の私は、一つ問題を抱えており、出来れば人が集まる場所は遠慮したい。
お心使いはありがたいが、小屋泊まりは丁重に辞退し、兎平でテントを張ることにした。
実は、今の私、ものすご〜くニンニク臭いんだよな・・・
“明日からは主稜に出るので、誰にも会わないだろう。”
そう思いこみ、昨日の夕食と今日の朝食で、大量のニンニクを食べていたのである。
(ニンニクは風邪の予防に良い、と聞いたもので・・・)
その為、自分でもハッキリ判るくらいにニンニク臭がするのが困り事。
今日の聖兎のコルからの登りでは、緊張しながら必死でラッセルしている最中にも関わらず、
餃子の香ばしい匂いがしてくるので、そのシチュレーションのギャップに笑ってしまった。
自分にとっては笑い話でも、同宿する方々にしてみれば迷惑であろう。
(たぶん、皆さん気にはしないと思うけど・・・)
先程リーダーの方と話している最中も、餃子の匂いが漂わないか、
内心ハラハラしながら会話していたのである
つまらぬ理由ではあるが、そういうワケで、この日は兎平で幕営することにした。
この兎平は名前の通り平坦な地形で、強い風は吹き込まず、雪量豊富。
幕営には良い場所だった。
日没が近づき、紅に染まる山々を眺めながらテントを張る。
緊張が続いた日中とは打って変わって心穏やかな夕刻の時。
“あのルートを越えたんだなぁ〜”
心地よい疲労感に包まれながら、夕日に照らされ輝く聖岳西面を眺める。
最大の難所を越えた事、そして明日以降も晴天に恵まれそうな空模様なので、気分は上々。
気は早いが、もう縦走は成功したような気分になってくる。
温度計を見ると、気温は-16℃
風が吹いていないので、寒さはあまり感じなかったが、流石に稜線上は低温だ。
明日の早朝には、何℃まで低下することやら。
少し心配であるが、過去に-20℃近い環境下で幕営しても死ななかったので、
たぶん大丈夫なはず。
明日も天気は晴れ予報。
風はかなり弱まるので、絶好の稜線歩き日和だ。
この好天を利用し、明日は念願の赤石岳登頂、その後、もし可能であれば荒川小屋まで
一気に行ってしまおう。
そんな予定で早寝する。
明日、登頂するであろう赤石岳の事を考えながら、穏やかに夜は過ぎていった。
・・・しかし。
【12月30日】(兎平→百間洞山の家)
黄色い天井。
はて、ここはどこだろう?
寝起きで意識がハッキリしない。
ああ、そうか、
兎平で幕営していたんだった。
日差しが射して、冬用外張りの黄色が透過しているのだな。
・
・
・
日差し?
その時、Luskeに電流走る。
『寝坊したッッッ!!!』
時計を見ると7時前。
とっくに日の出の時刻は過ぎており、日は高々と登っていた。
何と言う事だ。
この日は終日晴天で風弱く、稜線上を歩くには絶好の天気。
その貴重なチャンスを2時間以上も失ってしまった。
急いで朝食をかきこみ、テント内の小道具を片付け始める。
すぐに出発せねば、と心は焦る。
右に左に、慌ただしく手を動かし、荷物の整理を行う。
コポコポコポ・・・
あら、コーヒー沸いたのね。
慌ただしい朝でもコーヒーの一杯は欠かせない。
テントから見える白銀の世界を眺めつつ、最高の一杯を楽しむ小生(オイ…)
さて・・・
コーヒー飲んだら、急ピッチで撤収だ!
テントを撤収!
忘れ物チェック!
よし、忘れ物は無いな!
そして!
兎岳へと駆け登る!
そして!
・
・
・
バテた。。。
この標高で大荷物担いで走ったら、バテるのも当然だろう(--;)
初っ端から、ぜぇぜぇと息を荒げて兎岳にて這いつくばるOTZ...
とりあえず、山頂板の脇に横たわり大休憩。
空を見上げて暫し時を過ごす。
予報通り、快晴の空で、風は穏やか。
気温は低いが、日差しは温かく寒さは感じない。
なんと穏やかな稜線だろうか。
ここが、標高3000m近い高地である事を忘れてしまいそうな天気である。
これから進む縦走路へ視線を移すと、そこに広がるのは白き峰々。
この素晴らしき縦走路を、急いで歩いては勿体ないでは無いか。
まぁ、今更急いだところで結果は変わらない。
昨日がハードだったので、今日は軽めの行程でも良いだろう。
兎岳にて、悟りを開く小生。
その結果、「赤石岳登頂は、明日でも構わない。」という結論に達した。
クールダウン後、稜線歩き再開。
赤石岳へと続く真っ白な縦走路を進む。
兎平以降の稜線歩きは、稜線を忠実になぞる。
稜線の幅は広すぎず狭すぎず、適度な幅であり、地形がハッキリしているので
進路が判り易い。
ルートファインディングに困るような箇所は無く、好天という事もあり、
気持ちの良い空中散歩が続く。
難所となる場所は特に無いので気は楽だが、アップダウンは激しい。
兎岳からの急下降、中盛丸山の急登、そして急下降。
大沢岳通過後のトラバースを経た後は、またも急下降となり、
今度は森林限界以下まで一気に下る。
稜線上は、概ね雪がクラストしており歩きやすいが、森林限界以下では
一部ラッセルとなり、体力的には厳しい稜線だ。
百間洞山の家の分岐に到着した時は、午後1時。
もう、この分では日没までに赤石岳避難小屋に到達する事は無理だろう。
せっかく好天なのに、あまり距離を伸ばせなかったのは悔しいところだが、
ここは安全策をとる。
時間は早いが、今日は百間洞山の家に泊まる事とした。
百間洞山の家は稜線から外れた谷部に位置する。
雪が深くなれば小屋が埋もれる事もあるかもしれないが、
雪の少なさのせいか、1階部分は殆ど埋もれておらず利用上の問題は全くなかった。
(冬期解放されているのは2階なので、雪が深くなっても問題ないと思われる)
小屋の周辺を探索してみると、どこからか水の流れる音がする。
その音を辿って行くと、雪に埋まった沢に出た。
試しに表面の氷を割ってみると・・・そこには豊富な水量の沢が現れる。
メイン飲料である融雪水に比べると、沢水はずっと美味しい。
沢水をそのまま飲むのは問題があるかもしれないが・・・
まぁ、この氷点下の環境では微生物も死滅しているだろう。
そのように都合良く考えて、沢水を大量に摂取する。
実に美味しい水だった。(尚、腹は壊さなかった。)
今夜の飲食用にも利用出来るので有難い。
山の家でしばらく休憩後、まだ時間があるので明日のルートの下見へ出かける。
百間平方面には、昨日、兎平で会った4人パーティのトレースが残っていたが、
風雪に晒されたせいで消えかけている。
再び雪道を構築する必要がありそうである。
百間平までの道を開通させるべく、小屋に荷物をデポし、空身でラッセル開始する。
夕方には百間平に到着。
そこには広い雪原が広がっていた。
雪原とは言っても、今年の雪の少なさのせいで所々で灌木や岩が出ており、
真っ白、という訳では無い。
だが、雪原の向こうには明瞭に赤石岳が見え、その雄大さには圧倒された。
今日、稜線上から何度も眺めた赤石岳。
どこから見ても雄大な山である。
聖岳、悪沢岳、といった百名山のスターが並ぶ中でもその存在は際立っている。
予定が変わって、登頂は明日になってしまったが、まぁそれも良かろう。
明日は大晦日。
2015年最後の日。
その最後を飾るのに、赤石岳ほど相応しい山は他に無い。
いささか大げさな表現ではあるが、
そう思わせるほど、百間平から眺める赤石岳は神々しかった。
日没が近づくが、中々その光景から目を離せず、
しばらく赤石岳を眺めてから、百間洞山の家へと帰った。
【12月31日】(百間洞山の家→赤石岳→荒川小屋)
朝3時に目を覚まし、百間洞山の家の前から外を眺める。
空に星は見えず、そこには深い闇が広がっている。
稜線が見えるはずの方向には何も見えず、どうやら上は雲で覆われているようである。
風が強い。
谷部に位置するこの周辺は穏やかであるが、稜線方向からは強い風の音が響いてくる。
この日の天気を調べてみると、
「引き続き高気圧に覆われて晴れるが、朝のうちは低い雲に覆われる。」との事。
雲が晴れるまで停滞するか、それとも行動するか、悩ましい。
しばし考えた結果、行動する事にした。
今日は、少なくとも荒川小屋までは到達しておきたい。
そうしないと、明日、悪沢岳を越えられなくなる。
最大の難所であった聖岳から兎平の区間を越えた今、最も警戒すべきは悪沢岳と考えていた。
悪沢岳は今回越えるピークの中でも最高峰で、風の強さも最高クラスとなるだろう。
2年前の同時期に悪沢岳に登った事があるが、その時は、体ごと飛ばされそうな
強風に苦労させられ、危険を感じたものだった。
エスケープが出来ない今回の計画では、下山するには悪沢岳は必ず越えなければならず、
悪沢岳越えが、この縦走での最後の関門になると考えていた。
だが、前途は明るい。
明日は晴れる。
そして、この8日間の中でも最弱、と言えるほどに風が弱まる。
悪沢岳を越える最大のチャンスが訪れようとしている。
その為には、今日中に荒川小屋(可能であれば中岳避難小屋)まで到達し、
悪沢岳登頂のベースを構えておきたい。
明日を逃してしまえば、再び稜線上は強風となり、悪沢岳越えは厳しくなるのだ。
日の出前に百間洞山の家を出発し、稜線へと進む。
標高を上げて行くにつれて、視界は段々白くなる。
やがて、雲の中に入った。
昨日は穏やかだった百間平であったが、この日は強風だった。
風を凌げるような場所は無く、風を影響をまともに受ける。
広い雪原で地形がハッキリしない百間平は、ガスになると厳しいが、
視界はそれほど悪く無く、50m程度は視界がある。
雪原は真っ白では無く、所々で岩や灌木が出ているので、ホワイトアウトの危険は低い。
夏道を示す杭が見えているので、それを忠実に辿り、百間平を抜けた。
百間平を抜けると、稜線は狭まってゆき、明瞭な尾根状になる。
これが「馬ノ背」と呼ばれる稜線だろう。
狭い稜線だが、細くは無く、視界がある状態では滑落危険は低い。
赤石岳へ向かって馬ノ背を進むも、未だに雲の中。
まだ雲は晴れず、赤石岳は見えてこなかった。
この先には、一つ難所がある。
赤石岳は稜線通しでは登れないので、その前に大きくトラバースし、
東側を回り込んで登頂しなければならない。
この視界の中、その大トラバース道を見つけられるか、が不安なところであった。
雲が晴れるまで待った方が良いだろうか?
時折、ビバークするべきか迷わされる。
だが、その不安は、すぐに払拭された。
馬ノ背を進むにつれて、空に雲の切れ間が見え始め、そこからは青空が顔を覗かせる。
やがて、強い風は赤石岳を覆う雲を連れ去り、そこ現れるは荘厳な岩の大伽藍。
赤石岳が、ついに全貌を現した。
その岩肌には登頂ルートである大トラバース道もハッキリ見える程に視界は回復した。
劇的なまでの状況変化。
まるで、赤石岳が歓迎しているように思えてくる。
もう、こうなれば迷う事は無い。
大トラバース道へと進み、そこを抜ける頃には、すっかり雲は無くなり快晴の空。
これまで雲に隠れていた美しき稜線が再び姿を現した。
しかし、依然として風は強い。
トラバース道は稜線の東側に位置するので、地形効果で風は弱まると見ていたが、
意外と風は強かった。
トラバース道を抜け、赤石岳直下に到着するも、そこから先は急な登りとなっている。
おそらく夏道は九十九折れになっているのであろうが、そこには雪が一面に張り付き、
登山道は見えない。
強風の影響で雪は硬くクラストしており、一旦取り付いたら登りきるまで
安心して休めるような場所は無さそうだ。
これは、聖岳以上に厳しそうな登りである。
風を凌げる大岩があったので、そこで十分に休憩をとってから登りにとりかかる。
赤石岳直下は、雪が硬くクラストしており、アイゼン・ピッケルの効きは良い。
だが、雪付きは一様では無く、油断は出来ない急登だ。
場所によっては雪が薄くアイゼン・ピッケルが効かない場所がある。
アイゼンの前爪、ピックで雪を捕えて登るも、支点の選択には慎重さが求められた。
背後を振り返ると、高度感とプレッシャーを感じ、背筋がざわつく。
“滑落したら、こりゃ下まで止まらないな・・・”
登りだからまだいいが、これを下るのは・・・ちょっと遠慮したい。
登るにつれて風は更に強まり、呼吸が辛い。
何度か、バラクラバを剥ぎ取りたくなったが、そこは我慢し登り続けた。
長い急登を登りきり、すり鉢状に窪んだ山頂の縁に立つ。
すると、その先には赤石岳避難小屋が見えた。
ようやくここまで来た。
あの小屋まで行けば一息つける。
強風に煽られてふら付きながら、赤石岳避難小屋へと向かう。
赤石岳避難小屋で休憩後、いよいよ念願の赤石岳登頂だ。
風が強いので、山頂を踏んだらさっさと次へ向かいたいところだが・・・
赤石岳は今回が初登頂、そして冬に登頂出来る機会は、極めて稀であり、
その頂きに立てる機会は、今後もあるかどうかわからない。
ここは、辛くても記念撮影すべきだろう。
そう思い、頑張ってセルフタイマーで撮影してみたが…
結果は、UPした写真の通りである(--;)
撮影後、きちんと確認しなかった私が悪いのだが、これは「また次回、撮りに来い。」
という赤石岳の御意志だったのだろう。
その御意志に従い、また次回、赤石岳には再訪せねばなるまい。
(できれば、夏季に・・・)
結果はどうあれ、今回一番の目的であった赤石岳登頂は果たされた。
意気揚々と赤石岳を後にし、次なる目的地である荒川三山へと向かう。
赤石岳以降は、再び稜線通しで進む。
荒川三山へ続く稜線は標高があまり変化しないので、山頂以降も強風域は続き、
午前中に歩いた百間平や馬ノ背稜線に比べるとずっと風は強い。
この荒川エリアは、今回歩いた稜線の中でも特に風が強いエリアの様である。
もし、防寒・防風装備に少しでも穴があると大変な事になるだろう。
強風の影響で稜線上の雪は少ないが、小赤石岳を過ぎた先には雪庇が出来ている。
一度、その亀裂を踏み抜きヒヤリとさせられた。
ルートファインディングは難しくないが、大聖寺平の手前で稜線が二俣に分かれる。
ここで誤った方向に進まぬよう注意が必要だが、晴天下で視界は良い。
大聖寺平はハッキリと見えていたので、ここは迷う事なく大聖寺平へ進む事ができた。
大聖寺平へ下って行くと、前方に人影が見えた。
2人パーティで、こちらへと向かって来ている。
兎岳避難小屋で4人パーティに会って以来、始めて会う人だ。
この2日間、無人の稜線歩きが続いたので、久々に人に会えるのは嬉しいもの。
お話を伺うと、荒川三山を越えてきたとの事で、今日は赤石岳避難小屋へ向かう途中だった。
つまり、これから先の私の進むルートには、御二人のトレースが残っている事になる。
ここから先も難所が続くが、御二人のトレースがあれば安全率は上がる。
更に、この先のルートについてアドバイスも頂けて有難い事この上ない。
御二人にお礼を言い、再び荒川小屋へと進む。
大聖寺平の先にて、ルート分岐。
荒川小屋へ続く谷沿いの夏道と、稜線通しの岩稜歩き(冬期ルート)の二つに分かれる。
一見、雪は少なく夏道を辿れるようにも思えるが・・・
止めておこう。
ここは無難に、冬期ルートの岩稜ルートへ。
御二人からアドバイス頂いた通り、岩稜へと進路をとり荒川小屋へ向かう。
岩稜上に雪が少なく、アイゼンを付けた状態では極めて歩きにくい。
その頃には長い行程による疲労を感じ始め、出来れば中岳避難小屋まで行きたかったが、
その体力はもう残されていない事を自覚する。
幾つか小高いピークを越え、荒川小屋へ続くコルへ到達するも、そこから先には、
ここまで以上に急な岩稜が続いている。
荒川前岳へ続く岩稜を目の当たりにし、その険しさにクラっと目眩がしてしまった。
今の体力では、この岩稜を越えられないのは明らか。
中岳避難小屋は諦めて、今日は荒川小屋に泊まる事に決めた。
コルから荒川小屋方面は森林限界以下となるので雪が深い。
ラッセルする気力はもう無かったが、そこには小屋まで続く明瞭なトレースが
残されていた。
大聖寺平で会った御二人のトレースである。
疲れきっている状態だったので、このトレースはホントありがたかった。
無事、荒川小屋に到着し、その日の行動を終える。
今日は大晦日。
あとは暮れゆく2015年に思いを馳せるのみ。
2015年、最後の山となった赤石岳の感動を反芻し、しばし思いに耽る。
そんな中、大聖寺平でお会いした2人パーティの事が思い出された。
厳冬期の南アルプスで出会う登山者は印象深い。
中途半端なハイカーは存在せず、そこで出会う登山者は、皆、屈強だ。
その中でも、今日お会いした御二人は特に印象的で、山のオーラ、と言うか
風格のようなものを感じさせられた。
きっと名の有る登山者なのだろう、と、その時は思っていたが、
実際、その御二人の事を私は知っていた。
一人は、これまで幾度かヤマレコで記録を拝見させて頂いた事があるpamir88さんであり、
多くのユーザーの中でも、最も尊敬する方である。
もう一人の方も、かつて名前を拝見した事がある、山のエキスパートであった。
初対面だったので、大聖寺平でお会いした時は気が付かなかったが・・・
下山後、その事を知り、胸が熱くなった。
御二人にお会い出来た事は、私にとって誠に光栄な出来事であり、
唯でさえ思い出深いこの山行が、より一層深いものとなった。
色々あった2015年だったが、終り良ければ全て良し。
この最高の大晦日をプレゼントしてくれた赤石岳、
そして、御二人には感謝を申し上げたく思う次第である。
【2016年1月1日】(荒川小屋→悪沢岳→千枚小屋)
謹賀新年。
あけましておめでとうございます。
予報通り、快晴の元旦。
富士山の麓には雲海が広がっており、その向こうから朝日が登る。
日の出方向に山(笊ヶ岳?)があり、日の出を邪魔しているように見えるのが
少し残念なところだが、これもまた良き景色。
誰も居ない荒川小屋にて、一人新年の挨拶を済ませ、日の出を眺める。
気温は低いが、風弱く、寒さはあまり感じない。
日が昇りきるまで朝日を鑑賞後、小屋に戻りのんびり朝食。
今日の行程は、千枚小屋までなので、行程は短い。
急いで出発する必要はなかろう。
それにしても・・・
朝食のインスタントラーメンを眺めてタメ息一つ。
いい加減、これも食い飽きた。。。
インスタントラーメンに、アルファ米。
そこそこ美味しいのだけれども、さすがにコレが6日も続くと飽きてくる。
食料不足でひもじい思いをするより、よっぽどマシだが、これはこれで辛い。
ま、贅沢は言わず、食っておかないと。
今日の行程は短いとは言え、難所続き。
しっかり食べないと体が持たぬ。
長かった縦走も、いよいよ終盤。
最後の稜線歩きとなる本日は、距離が短いとは言え難所が続く。
最後の3000m峰、悪沢岳を越えるべく、荒川小屋を出発する。
本日は、最初からハード。
荒川小屋から再び稜線上に上がり、冬期ルートである岩稜を進む。
岩稜上には雪が少なく、トレースが乏しい。
ある程度は自分でルートを探さなければならず、傾斜が緩そうで安全なルートを
探しながら荒川前岳へと登って行く。
ルートを探しつつ登って行くと、やがてその先にはトレースが見つかった。
上部はそこそこ雪が付いており、そこには昨日稜線上で擦れ違ったpamir88さん達の
トレースが続いている。
ルートは間違っていなかったようで一安心。
あとはそのトレースを辿り、一気に荒川前岳まで登り詰めた。
荒川前岳に到着し、そこで一息つく。
これから進む悪沢岳方面を眺めると、そこには2年前にも眺めた白い稜線が続いていた。
一度は歩いた稜線だが、何度見ても素晴らしい稜線である。
国内でも、この標高の稜線歩きは極めて稀だろう。
北アルプスに中央アルプス、そして白峰三山。
遠方には数々の名山の山岳風景。
稜線上には、何度でも歩きたくなるような絶景が広がっている。
稜線を進んで行くと、やがて見覚えのある屋根が見えてくる。
中岳避難小屋。
この小屋で2日間停滞した時の記憶が蘇る。
正月早々、天候悪化で身動きとれず。
物資も乏しくシェラフで凍えて過ごすハメになった最悪の正月だったが、
今となっては良い思い出、である。
今回は、あの時とは真逆の快晴の正月。
今年の南アルプスは、優しい。
進路の先に聳え立つは、今回の縦走での最後の3000m峰である悪沢岳。
進むにつれてその山容が迫ってくるが、雪は少なく夏道は明瞭。
2年前は雪が多く、その姿からは大岸壁のような威圧感を感じたものだが、
今は、その威圧感は無かった。
中岳避難小屋から悪沢岳に向かって細尾根の危険個所が続くが、
尾根上にはpamir88さん達のトレースが残っており、通過は容易。
トレースを忠実に辿り細尾根を通過し、悪沢岳へと取り付いた。
さて、縦走のクライマックスとなる悪沢岳。
夏道が見えている状態なので、難易度は高くないはず。
しかし、油断は出来ず。
このピークは、とにかく風が強い。
特に、登頂ルートである南面と山頂付近では強風に晒される。
予報では今日は風が弱い、との事だが、はたしてどれだけ弱まってくれる事か。
予報はあくまでも予報であり、確実ではない。
きっと、登って行くにつれて風は強まり、やがては強風の中を突っ切る事に
なるだろう。
強風を警戒しつつ登って行く。
だが、
しかし、
う〜ん、おかしいぞ?
風が、全然強まらないじゃないか・・・
むしろ弱まってるんじゃね?
頭に疑問符を浮かべつつ、悪沢岳登頂。
山頂は無風、であった。
これには驚いた。
2年前は、飛ばされそうな位の強風だったのに、今日はこの穏やかさ。
つくづく、山には色んな面があると思わせられる。
名前の印象と2年前の強烈なインパクトから、気性の激しい荒々しい山、
というイメージがあった悪沢岳であったが、これでイメージがすっかり変った。
普段は悪ぶっている不良が、ふと優しさを見せるような感じ。
聖岳、赤石岳、悪沢岳、
この3名山の中で最も厳しい山、と思っていた悪沢岳が最も優しい山になるとは、
この展開は予想できなかったよ^^;
まぁ、今回は極めて稀なケースであり、これは悪沢岳の慈悲であろう。
その御心に甘え、しばし鑑賞。
悪沢岳の山頂から、これまで歩いてきた縦走路を眺めつつ、
至福の時を過ごす。
その間も風が強まる事は無く、これまで誤解していた悪沢岳に深く謝罪と感謝を示し、
山頂を後にした。
ここまで多くのピークを越えてきた。
そして今、残るピークは、千枚岳のみ。
その頂きへ続く稜線上には、最後の難所である細尾根が続くが、
もう不安は無かった。
2年前に往復しているので、この稜線のルート状況は把握しており、
その時の記憶を辿れば通過は容易い。
急なギャップを乗り越えると、その先に見えるのは千枚岳山頂。
ここが縦走の終点となる。
長きに渡った縦走も、ここで終わり、である。
縦走の終わりは、嬉しさもあるが、そこには一抹の寂しさも。
山頂板の手前で足が止まる。
ゴールデンウィークの飯豊二王子縦走の時にも感じた事だが・・・
最後の一歩はせつない。
千枚岳からは夏道は辿らず、風上側の岩稜を辿って下山した。
風で雪が飛んだ岩稜上は負荷が少なく、ラッセル無し。
森林限界以下になると雪が深くなりラッセルとなったが、所々でトレースは残っており、
千枚小屋まで下るのは容易だった。
午後3時には千枚小屋に到着し、本日の行程は終了。
年始なので、千枚小屋には大勢登山者が訪れていると思っていたが、
2階の冬期小屋は無人で静か。
本日も、一人だけの小屋泊まりになりそうである。
相変わらず天気は良く、千枚小屋からは明瞭に富士山が見えた。
連日眺めた富士山であるが、ここが最後のビュースポット。
日没まで富士山を眺めて過ごす事にした。
小屋前でしばらく富士山を眺めていると、上の方から人の声。
千枚小屋方面から登山者が近づいているようだ。
しばらくするとトレースの向こうから人の影。
2人パーティの登山者であった。
稜線上では誰も見かけなかったので不思議に思い、どこから来たのか聞いてみると、
今日は赤石岳避難小屋から歩いてきたとの事。
若い御二人であったが、よくその距離を歩いたものだと感心させられた。
この日の千枚小屋は、私とこの2人パーティの計3名。
無人の小屋泊まりが続いたので、久々の人が居る山小屋はほっとする。
もう、この先は難所は無く、全天候で下山が可能。
これまでのように、明日の行程や天気を気にする事も無く、不安要素は皆無。
完全に下山の目途が立っているという事もあり、安心して小屋で時を過ごす。
だが・・・、最後の最後で一つ、困難があるんだよなぁ。
それは、椹島まで下山した後の林道歩き。
駐車場の沼平ゲートまで、約17kmも歩かなければならないんだよな・・・
その退屈な林道歩きの間、どうやって気を紛らわせるかが問題である。
“下山後に何を食べるか、でも考えながら歩こうか・・・”
そんな事を考えながら水作りをしていると、2人パーティの方からも同じような会話が。
私と同じ事を考えているようである(笑)
忍び笑いをする小生。
盗み聞きとは誠に失礼であるが、samoaさんとtentyoさん、
御二人の会話で随分と和ませて頂いた。
この場を借りて白状と、お礼をさせて頂きます。
【1月2日】(千枚小屋→椹島+鳥森山)
目的であった南アルプス南部縦走は達成し、あとは下山するだけ。
連日眺めた富士山とお別れし、千枚小屋を後にする。
消化試合のような単調な行程だが、登山道の雪は少なくトレースも残っている為、
ペースは良い。
淡々と登山道を下り、12時には椹島まで下山した。
さて、ここからが問題の林道歩き。
距離にして約17kmで、4〜5時間はかかるかな。
畑薙ダムの駐車場に到着する頃には、日が暮れてしまうだろうし、
今から林道歩くのは苦行となるだろう。
「明日出来る事を今日するな。」が座右の銘である小生。
山行可能な日数は、まだ2日残っているので、あえて今から林道を歩く必要もない。
林道歩きは明日にして、今日は椹島の冬期小屋に泊まる事にした。
だが、まだ時間は12時。
夜まで何をして過ごそうか・・・。
椹島の敷地内を見て回り時間を潰すが、30分も見回れば飽きてしまう。
一通り見回って小屋に戻り、さて、これからどうするか。
ふと壁を眺めてみると、そこに貼られてある椹島MAPに目が止まった。
その地図によると、近くに「鳥森山」という山があり、山頂まで遊歩道があるらしい。
手持ちの山渓地図にもこの山は記載されており、所要時間は往復2時間。
これは良い暇潰しになりそうだ。
林道を5時間歩く気力は無かったが、遊歩道2時間であれば歩く気になれる。
早速、鳥森山へ行ってみる事にした。
地図には「遊歩道」と記載されてあるので、整備された山道を想像していたが、
れっきとした登山道。
序盤から九十九折の急登が続き、意外と登り堪えの有る山道だった。
ようやく下山した直後に、また山に登る事になるとは…
自分は、つくづく山歩きが好きらしい。
苦笑いしつつ、山道を進む。
山道に雪は残っておらず、標高3000mの稜線を歩いた後としては、平凡な山歩きである。
だが、景観に変化があって面白い山だった。
序盤は葉が落ちた寒々とした森が続くが、道中には巨木が点在しており見応えがある。
更に登って行けば、針葉樹と広葉樹の混成林。
針葉樹の葉は落ちておらず青々と茂っており、春山のような雰囲気を醸し出す。
やがて、鳥森山の山頂に到着。
「ほう、これは・・・」
そこからの光景を見て、思わず一言呟いた。
山頂は東屋のある展望台となっており、そこからは南アルプスの山々が一望出来た。
上河内岳、聖岳、赤石岳、悪沢岳、丸山、千枚岳、
今回歩いた山々が、ずらりと並んでいる。
これは・・・、素晴らしい展望地だ。
せいぜい、赤石岳がちょこんと見えるだけ、そんな展望を予想していただけに、
これは嬉しい誤算。
歩いた山々が全て見えるので、縦走を終えた今、その余韻に浸るのに
絶好のシチュレーションである。
今回は山行後であるが、山行前に眺めるのも良さそうだ。
これから登る山々を眺めながら、明日から歩く長い行程に思いを馳せるのは、
きっと楽しい事だろう。
気分が昂ぶって、その夜、寝れなくなるかもしれないが・・・
この山域を訪れた際は、ぜひ御覧頂きたい光景であった。
【1月3日】(椹島→沼平ゲート前)
最終日は、ただひたすら林道を歩くのみ。
食料と燃料が減った事でザックはかなり軽くなり、体力的には大した負荷は無い。
だが、単調な林道歩きが延々と続くので、精神的にはかなりの苦行である。
赤石沢橋から眺める赤石岳や、赤石ダムの青い湖水は目の保養になるが、
それを過ぎると殆ど見所が無い。
危険個所と言えるような箇所は特に無いが、崖の傍を通る事が多く、
そこには小規模な土砂崩れ跡が見られる。
現在進行中で崩れている箇所もあり、まるで細い沢のように小石が絶えず流れ落ちて
いる様は不気味である。
あまり気の休まらない林道なので、早く抜けてしまいたい。
気を紛らわす為、「下山後に何を食べるか」を考えながら、黙々と林道を歩く。
昨日の夜、椹島の冬期小屋にて、ソースかつ丼を食べる夢を見た。
食べても食べても味がせず、空腹も満たされない。
実に虚しい夢であった・・・
アルファ米やインスタントラーメンの食事が連日続いたので、
かなり肉料理に飢えていたようだ。
縦走を終えた今、明日の天気や積雪状況は、もはやどうでも良く、
気掛かりなのは白樺荘食堂の営業時間のみ。
下山したら、即、食べに行きたいのだが、帰路上で営業してそうな食堂は殆ど無く、
白樺荘の食堂を逃してしまったら、静岡に行くまで肉にありつけなくなりそうだ。
食堂の営業時間を気にしつつ林道を歩き、ようやく沼平ゲートに帰還。
時間は午後1時。
営業時間に間に合うか微妙な時間であるが、下山届を提出後、
急いで車を走らせ白樺荘へと向かう。
白樺荘に到着後、食堂を覗いてみると・・・
「営業は午後3時まで」だとさ。
なんだ、ぜんぜん急ぐ必要なかったじゃないか。
事前に調べておけば良いものを・・・
なにはともあれ、飯にはありついた。
頼んだものは、カツ丼セット。
8日間も淡白な食生活が続いたせいか、やけに旨い。
これまで食べたカツ丼の中でも最高、と言えるほどに旨く感じた。
白樺荘は、カツ丼だけでは無く、風呂も良い。
(と言うより、風呂がメインだが・・・)
露天風呂からは南アルプスの白峰が見えており、つい先日まであの上を歩いていた、
と考えるのは、とても愉快だ。
実は、露天風呂から見えているのは、今回登らなかった茶臼岳なのだが…
まぁ、それは深く考えず。
山で過ごした長い日々を思い出しつつ、のんびり湯に浸かる。
おわり
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Luske


















千枚小屋でご一緒したうちの片割れです。
長い長い縦走、素晴らしいですね。
写真で見る山々はどれも大きく魅力的です。いつか我々も行ってみたいと思います。
Luskeさんの他の記録もいろいろと参考にさせてもらいます!
また、東北の山のどこかでお会いしたいものです。
その節はお世話になりました。
しばらく無人の小屋泊まりが続いたので、久々の人が居る山小屋は安心して過ごせました。
その安心感があってか、千枚小屋では朝まで熟睡できました
samoaさんとtentyoさんが歩いた赤石岳から荒川三山の稜線も素晴らしいですが、
赤石岳〜聖岳の稜線も素晴らしいです。
聖岳〜兎平の区間が大変ではありますが、ぜひいつか、
御二人にも歩いて頂きたい稜線だと思います。
拙い記録ですが、参考になれば嬉しく思います。
ぜひ、今度は御二人で東北の山へいらして下さい
めちゃくちゃかっこいいです!
ソロでこの長期縦走、すごすぎます!
夕日に染まる聖や上河内が素敵すぎます!
素敵な記録をありがとうございました(*^^*)
私も年末は同じく南アに入ってましたが(白峰南嶺の笹山)、比べるとヘナチョコすぎて恥ずかしいです…笑
いつかこんな縦走してみたいです♡
今回の年末年始は、雪は少なめでしたが晴天続き
連日のように素晴らしい景色が見られ、感動の連続でした。
その中でも、夕日に染まる聖岳と上河内岳の光景は、
今回の山行で最も印象に残った光景でした。
白峰南嶺の笹山、一度は行ってみたい山です。
以前、地図を眺めた時、“白峰三山縦走と繋げられるのでは?”と思った事がありました。
白峰三山と白峰南嶺を繋いだ大縦走、
いつかやってみたいものです
謹賀新年、今年もよろしくね〜
さすが鉄人さんの年越し、新年迎えはレベルが違いますね〜
天気に恵まれたとは言え
危険箇所も強風にも果敢に立ち向かいとてつもない周回ルートを歩かれたことに拍手喝采です
富士山きれい〜雲海に浮かぶ富士山を見ながら南アルプスの稜線を歩くのは贅沢の極みですよ
せめて荒川三山〜赤石岳のルートだけはいつか歩いてみたいです
Luskeさんの山筋力のほんの一部でも分けて欲しいと思います
今年の年末年始は驚くほど晴天続き。
南アルプスは晴天率が高い、とは言われてますが、
8日間、毎日晴天というのは奇跡に近いかも?
これで2016年の登山運を使いきった気がしますが、
今年も快晴の登山に恵まれる様、願いたいものです。
過去に色々な山行がありましたが、その中でも最も大きな山行で、
思い出に残る山行でした。
未だにその余韻を引きづってますので、それに浸りつつ、
のんびり行動記録を記載したく思います。
現在の進捗、3/8
完結はいつになることやら・・・
ご無沙汰しております。
入山直前にLuskeさんの記録を拝見し、ルートの状況を知る事ができました。
私辿ったルートはほぼ逆コースでした。
誰一人とも出会う事の無い、孤独な旅でしたが、また此処にもトレースがある、Luskeさんかもしれない、と、勇気付けられ、励まされました。
ありがとうございました。
雪は少かったですが、ガレ場を通過したり、安定しない雪を踏み抜いたりで、別の困難もあったと思います。
今、帰路のバスの中で、改めて記録を拝見しています。
素晴らしい縦走でしたね。
それにしても、食糧8日分!って、凄い重量ですね。(笑
おお、逆を行かれましたか
その場合ですと、千枚岳、悪沢岳、赤石岳の危険個所が下りになるので、
よりハードルが上がったのではないでしょうか。
年末年始を過ぎた今時点では入山者は殆どいないでしょうから、トレースは乏しく、
困難もあったことでしょう。
私が歩いてから、しばらく経ってますのでトレースは消えかけていたかと思いますが、
少しでも残っており、それがkiha58さんの道しるべとなったのであれば、嬉しく思います。
ちなみに、今回私が持参した食糧、少し多かったかもしれません。
自分としては、予備も含めて9日分持参しましたが、思ったよりも食が細く、
2日分も余ってしまいました。
万が一を考えますと、余らす位が丁度良いのでしょうが、
もう少し減らした方が楽だったかも^^;
いい山でしたね。
核心はやはり聖〜兎でしょうか。
厳しい状況でも冷静なLuskeさんを見習いたいです。
kiha58さん、お疲れ様でした。
今年の南アは晴天続きで、お互い印象に残る山行が出来ましたね
聖〜兎は、核心と呼ぶのに相応しい難所でした。
暖冬にも関わらず、この区間は雪が深く、ラッセルが大変。
日没までに兎平に到着できるか、内心焦りながら通過してました^^;
しかし、この山行の中でも、最も強く印象に残った区間であり、
越えた時の達成感は大きかったです。
文中では、「もう2度と歩きたくない。」なんて書いてますが、
あれから1月経ってみると、もう一度歩いてみたく思うのが不思議です。
喉元過ぎれば熱さ忘れる、てヤツかもしれません
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