水晶岳
- GPS
- 18:40
- 距離
- 43.7km
- 登り
- 3,575m
- 下り
- 3,571m
コースタイム
- 山行
- 0:30
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 0:30
- 山行
- 16:25
- 休憩
- 1:27
- 合計
- 17:52
03:30 大ノマ乗越
06:00 双六岳
07:20 三俣蓮華岳
09:00 岩苔乗越
11:00 水晶岳
14:10 三俣蓮華岳
16:10 大ノマ乗越
18:00 双六・笠方面登山口
天候 | 快晴微風 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
ゲートから積雪あり |
その他周辺情報 | 下山後の温泉、食事はひらゆの森。ラストオーダー20:30 |
写真
感想
金曜はんどんで仕事を切り上げ新穂高へ。6時間ほどクルマの中で横になっていたが緊張と興奮のため2~3時間しか眠れなかった。23時にカタヤさん到着。パパッと支度をして23時半に出発した。空には無数の星が輝いている。素晴らしい一日になりそうだ。まずは小池新道まで6km弱の林道歩き。雪は締まって調子が良い。小池新道は暗闇でもわかるほど広くてスキーで滑ったら楽しそうな斜面だ。しかし左右からのデブリで埋まっていて歩きにくい。右に左にルートを切り替えながら大ノマ乗越を目指した。いつの間にか辺りはガスに包まれて小雪が舞っている。高度を上げれば抜けるに違いない。
出発から3時間で大ノマ乗越到着。シールを剥がして双六谷へ300m落とす。北面には一昨日降った雪がまだ生きている。かなり良い状態のパウダーだが暗闇なので楽しむどころではない。ここが暗闇のカチカチ滑降だったら最初の核心部だなと思っていたが杞憂だった。双六沢まで降りたらシールを貼り2,860m双六岳まで標高差700mを気合いで登る。ズブリと沈むラッセルが行く手を阻む。そのくらいじゃ僕らは止まらない。5時を過ぎると空は徐々に黒から青に変わり振り返ると槍と穂高の稜線がクッキリ見えてテンション急上昇。双六はなかなか風が強い。着込んでいたら僕のピラピラのジャケットが風に飛ばされて焦った。危ない危ない。ここでジャケットをロストしたら敗退だ。双六岳に着いたら岩陰に隠れてシールを剥がし三俣蓮華岳へ続く尾根へ滑り込んでゆく。双六-三俣蓮華間はアップダウンが激しいので下りはシールを剥がしたスキーでシャッと滑り、登りは板を担いでツボ足で。尾根には雪が乗っていてアイゼンを履くほどではなかった。去年の秋に双六岳-三俣蓮華岳の尾根を初めて歩いた。この尾根はとても良い眺めだったのを覚えている。まさか冬に訪れることができるとは。感無量。稜線でようやく朝を迎えた。長い夜だった。常念山脈、大天井岳のてっぺんから日が昇る。南には歩いてきた双六岳、遠くに笠や乗鞍御嶽。西には黒部五郎と薬師、遠くに白山。東は槍穂高と表銀座に裏銀座。そして正面に目指す鷲羽と水晶が見える。なんて贅沢な眺めだろう。生きててよかった。黒々した水晶岳はなるほど遠い。二人で気合を入れた。絶対にあそこまで辿りついてみせる。
三俣蓮華岳から三俣山荘を経由して黒部源流まで250mの滑り。雪も景色も良く本日最高の滑りだった。雪があるおかげで黒部源流まで高度を落とさず、予定より100m上に出た。ここからシールを貼り岩苔乗越までトラバースした。巻き職人の巧みなルートファインディングが唸る。帰りに板が滑るトラバースラインを確保しながら岩苔乗越に登り上げた。時刻は9時。水晶まであと1時間くらいだろうか、などと話していたがここからが長い。歩いても歩いても水晶岳がなかなか近づいてこない。水晶小屋を超えると尾根は岩と雪と氷でガタガタ。スキーはここまでか。板を担いで爪を履きラッセルに耐えてピークを目指す。もしもここがブルーアイスだったらかなりヤバいだろうから今日はピッケルを持ってきた。しかし一昨日の降雪のおかげでピッケルはタダの荷物で済んだ。
標高は2,900mを超えた。もう水晶岳はすぐそこだ。空気が薄くて脚が重たい。力を振り絞ってピークへ。行動開始から既に11時間半が経っていた。360度どこを見ても名峰だ。雲ひとつない青空。風もない。いつまでもここに居たいところだがハードな道のりを帰らなければならない。シールを剥がして東のプチカールに向かってテイクオフ。雪は太陽の光をたっぷり浴びてモナカと化していたがアイスバーンよりマシだ。滑りを楽しんだら板を担いでつぼ足で尾根に登り返し。再びスキーを履いて岩苔乗越まで尾根を滑ってゆく。岩苔乗越から黒部源流までは巻き職人の鬼トラバースのおかげで自動運転だった。この辺りは直前に降雪が無かったらカチカチになっていてかなり厳しかっただろう。岩苔乗越までアイゼンで歩くことになっていたかもしれない。
三俣山荘に着いたら双六までトラバースするか三俣蓮華に登り返すか。ずっとトラバースするのは脚への負担が大きいので三俣蓮華に登り返して尾根を行き、適当なところから双六小屋へトラバースをすることにした。僕は水晶の頂上直下まで緊張しっぱなしだった。気持ちの疲れは身体に出る。この辺でようやく「あとは歩いて帰るだけ、危ないところはもう出てこない」と思うと緊張の糸がぶちっと切れたせいか眠たくなって脚が重くなってきた。帰りはカタヤさんがガシガシトレースを伸ばしていくが追いつくのがやっと。とても前でラッセルなんて出来ない。羊羹を食べて水をガブガブ飲み気合を入れ直した。最後まで集中していこう。夏道の「中道分岐」の鞍部でシールを剥がして双六小屋へ。ここでシールを剥がせば双六小屋まで一気にいけるというカタヤさんの読みは大正解。ものすごいスピードで双六をトラバースして小屋のちょい上に出た。そのまま双六谷に吸い込まれてゆき大ノマ乗越登り返し地点まで一瞬だった。途中で白い雷鳥が驚いて逃げていった。すまん。
さあ本日最後の登り。大ノマ乗越まで300m登り返す。時刻は15時。太陽は低くなり気温も下がってきた。これを登ればあとは下りだけだ。本日最後の登りも大魔人カタヤさんは鬼のように強かった。この強さの源は一体なんなのか。重たい雪を払いのけ、ようやく300mの登り返しをやっつけた。ここでヘッドライトを点けることになるかもしれないと思っていたがまだ明るい。ナイター滑降にならなくて本当によかった。シールを剥がして小池新道の大斜面に飛び込む。試練のモナカ。旋回にも停止にも脚を使う。もう許してください。小池新道はパウダーかザラメなら快適だろう。いつか雪が良い時に小池新道に滑りを楽しみにきたい。ここを楽しむためだけに6kmの林道を歩く価値がある。モナカ&デブリと格闘してようやく林道にたどり着いた。林道は快適自動運転にはならない。何箇所も雪崩で埋まっていて、その度にデブリの上をガタガタ滑ってゆく。モナカに悪戦苦闘していた僕はカタヤさんとだいぶ距離が離れていた。帰りの林道は下りラッセルだったようでトレースを走っていた僕は最後の最後でカタヤさんに追いついた。新穂高まで残り1km. 行きは全然長いと思わなかった林道だが帰り道は無限に続くんじゃないかってほど長かった。あたりが真っ暗になってきた18時、ついに新穂高にたどり着いた。帰りにヘッドライトを使わなくてよかった。カタヤさんとがっちり握手してコーラで乾杯。わざわざ僕の分まで用意してくれていた。喉の奥に炭酸が染み渡る。美味すぎて悶絶。44km, 獲得標高+3,500m, 18時間半に渡る死闘だった。ありがとうございました。
カタヤさんと二人で行く山、いわゆる決戦は毎回本当に本当に厳しくてもう絶対に二度とやらんという荒行ばかりだ。今日も完全燃焼。終わった後は「しばらく山はいいかな」って気持ちになる。10年前に水晶日帰り滑降を成し遂げた先生の記録より抜粋。
「ようやく今シーズンの目玉山行が終わりました。
しばらく山スキーは遠慮したいと言う感じです。」
夢のような週末が終われば当たり前のように平日がやってくる。毎日せっせと仕事をしているとすぐに「また思いっきり山に潜りたい」という気持ちになり、また性懲りも無くハードな企画を立ててしまう。次は一体どんな荒行になるだろうか。
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