前人未踏!?の大滝 日光 稲荷川アカナ沢支沢 鉄鉱泉滝登攀


- GPS
- 11:20
- 距離
- 7.0km
- 登り
- 1,294m
- 下り
- 1,270m
コースタイム
天候 | 曇り〜雨〜小雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2020年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
アカナ滝上流二俣は右俣を詰め奥社跡〜霧降高原に下山。 |
コース状況/ 危険箇所等 |
※2020年8月22日の状況 ・アカナ沢は基本ゴルジュであるが沢床はガレとCSで覆いつくされていて淵や泳ぎは一切なし。歩くところを選べば膝より深いところはありませんでした。 気を付けるべきところは落石と土石流。 全般的にヌメリはなし。 靴はラバー推奨、鉄鉱泉滝上部リードはクライミングシューズを使用。 ハンマーは鉄鉱泉滝登攀後アカナ滝上流部に下りれば大鹿落し通過は無いのでミニバイル系じゃなくても大丈夫です。 ・遡行図は大西さん作成のものを携帯。 コース状況 ・日向(ひなた)砂防堰堤を左岸高巻き〜ゴーロ歩き〜 ・最初の堰堤(小米平砂防堰堤)左岸巻き〜 ・次の堰堤を右岸巻き(残置ロープあり)〜登ると洞門分岐。 ・洞門分岐から稲荷川に下りて建設中の堰堤を通過して直ぐ左岸枝沢ガレから尾根に取りつく(この辺りは最新の氷瀑鑑賞用アプローチルートと一緒) ・一度沢床に下りて渡渉後対岸を登ると早川谷上流砂防堰堤工事道路に合流〜早川谷上流砂防堰堤広場に至る。 ・左岸雲竜瀑を通過すると胎内岩(と自分は呼んでいます) ●胎内岩右CS右(水流なし)6m 突っ張りで突破。 ●大岩滝4m 右から 次の4m滝はそのまま右を通過 ●4m滝 右のリッジから取付きスラブ状を登る。 ・Y字峡、左俣に七滝沢出合の黒岩滝10m、右俣からアカナ沢のゴルジュ帯が始まる。 ●3mCS滝 左から ●4mCS滝 右から ・ゴルジュを抜けて大崩壊地帯、2m位の滝を左から巻くと大鹿滝の連瀑帯。 ●大鹿滝の連瀑帯 下段2mと次の5mは右から。 中段ヒョングリ15mはロープ使用、左を登る。基本逆層だがしっかり順層もある。斜度は寝ているのと途中テラスもあり摂理ありでハーケン打ち放題だが衝撃で岩が剥がれやすい。カムで1ヶ所中間支点を取る。 落ち口手前左の側壁はガバカチ豊富だが剥がれやすい。 上段 3m滝、8m滝は斜度が寝ているので左をフリーで ●2段6mCS、下段は右から上段CSは左から ●4mCS滝は右岸から巻く。 ここの右壁を更に登ると立ち木のあるビバーク地帯。そこから対岸に懸垂過酷+ガレを下れば大鹿滝下に下りられる。 ●10m斜瀑 左から2足歩行で。位置的に鉱泉滝らしいが確証なし。 ・右岸に強烈な支沢(ゴルジュ)出合の小滝周辺の岩は水の成分で白い。 ・ここから奥ノ曲り廊下で土壁主体のゴルジュ地帯。 ●鉄鉱泉滝100m〜120m アカナ滝手前の女峰山方面に詰めあがる右岸支沢出合にかかる滝で下部は1枚岩のナメではない多段スラブ状60m滝、上部は約50m垂壁の断崖から直瀑、分岐瀑でかけ落ちる。 ・下部多段スラブ状60m滝 ヌメリは一切なくフリクションは抜群で傾斜は緩い、ホールドも豊富でロープ無しで上部滝の基部まで登る。 ・上部50m直瀑分岐瀑 岩盤は脆く水流沿いは断念して左壁を巻きながら登る。途中にテラスが2ヶ所ありました。 ダブルロープ登攀で3ピッチに分ける。 ・鉄鉱泉滝落口から左岸尾根に取りつき少し歩きアカナ滝上流部で懸垂下降 50mと47mロープ連結して丁度良い長さでした。 ・アカナ滝上流部二俣は右俣を遡行。そのまま詰めると奥社跡北側鞍部に至るが手前で左岸尾根に脱渓して大鹿落しを尾根から眺める。 ・奥社跡〜霧降高原までは一般登山道を歩く。 jaian37 |
写真
お助けロープで引っ張ってもらう。
(b)右のスラブ状フリクションすげぇ利くので行けました。
(b)この谷でビバークしたら高確率で落石被害になるので、そこの高台が本当に唯一ですね。
(b)小心者の自分は、ガチャ類をなるべく雷鳴と反対側の腰に付け直しました(笑)
sato6とsoraさんのお迎えが神!暖かいコーヒーが冷えた身体に沁み渡りました。
バイさん、今日1日ありがとうございました。
(b)こちらこそ、無事にお手伝いでき、そして目標を果たせて感無量です!!
サポート隊のお二人には感謝です。
装備
共同装備 |
50mダイナミックロープ
47mダイナミックロープ
10mスタティックロープ
カム
ボールナッツ
ツェルト
|
---|
感想
鉄鉱泉滝と私。
2016年02月14日 曇り
氷瀑で賑わう雲竜渓谷はこの日午後から崩れる予報で早川谷広場にはアイスで来ているであろうテントひと張のみで他に登山者は無し。
雲竜沢手前の左岸山椒魚沢から取付き大高巻きして雲竜瀑上流を渡渉して赤薙山奥社南西稜(バットレス)基部に至る。
このルートは赤薙バットレス・トナカイルートと呼ばれたバリエーションルートで昔は南西稜と大鹿落しの間を歩き奥社跡まで歩けたが大鹿落し崩落が南西稜に達しルート消失と資料に書かれていた。
バットレス基部から後々登であろう南西稜と大鹿落しを眺める。
大鹿落しは時折落石の音が鳴り響きその左にはアカナ滝の姿が伺えた。
アカナ滝のその更に左の断崖から落ちる滝も見えたが尾根に遮られて滝の全容は確認できず。
(参考画像1)
この日は午後から崩れる予報なので切り上げて内ノ外山尾根を使い下山。
下山後調べてみたら書籍『日光四十八滝を歩く』に右岸支沢の鉄鉱泉滝と知る。
『鉄鉱泉滝』は、女峰山の壁から湧き水を落とす滝で、『黒岩遙拝石』から、また赤薙山奥社跡近く、あるいは日光市街からも望むことができる。滝名は、火山性の鉄分を含んだ赤い微粒子が水に混じり、赤茶色の水として流れることから付いたようだ。
『日光四十八滝を歩く』より抜粋
2016年04月15日 晴れ
赤薙バットレス・トナカイルートを歩くため再び雲竜渓谷に訪れる。
前回と同じく奥社跡南西稜基部まで歩き今回は時間もタップリあるので鉄鉱泉滝全容を確認するため南西稜基部から尾根を下りアカナ沢を観察。
(参考画像2)
画像の右に写る土壁直瀑直登不可能と言われるアカナ滝35m
画像の左に写る断崖から降り注ぎ下部はナメでアカナ沢本流と出合う鉄鉱泉滝。滝のスケールはアカナ滝35mの3、4倍120mはありそう。
とても登れる代物ではない。
そのときの印象でした。
2016年11月13日 快晴
アカナ沢単独遡行。
沢床と滝と言う滝は土石流発生直後なのか土砂まみれであった。
奥ノ曲リ廊下と呼ばれる土壁ゴルジュの右岸出合に滑滝と対面。
ナメ滝を見上げると滝上部は断崖から降り注ぐ大滝で滝周辺には本流と違い立ち木も確認できる。砂漠の中にオアシスを見た様な光景が広がる。
(参考画像3)
それが鉄鉱泉滝なのは直ぐ分かった。
防水コンデジで鉄鉱泉滝を何枚も撮影するが上手く撮影できず。
滑滝下部出合は半分雪とベルクラに覆われていた。
この後本流を遡行して大鹿落しの絶え間ない落石で左腕を負傷。
大鹿落しの中央リッジで凄い落石をさせながら命辛々詰めて脱渓し霧降高原に下山する。
この頃からsato6と一般登山道歩きを始める。
クライミングは色々あって嫌になってしまい止めてしまった。
sato6とは縦走をメインに歩き物凄い勢いで成長するのを感じた。
sato6がアルプス岩稜帯歩きを難なくこなせる位になってきたので沢登りも挑戦させてみる。
とても気に入った様子だ。
sato6からアルパインやフリークライミングに連れて行ってと頼まれたが行くならば他の人と行ってくれと断った。
クライミングはやる気が全く起きなかったが沢登りは自由な雰囲気が好きでsato6と細々と続けた。
もうアカナ沢のことは忘れかけていた。
あれは過去のことで再び行くことも無い。
2019年初夏
そんな中bicycleさんから利根川本谷のお誘いが自分に来た(驚)
実は利根本谷遡行2週間前まで日帰り遡行の経験しかなく全く自信はありませんでした。
利根本谷の前週に釜川ヤド沢で初沢泊をして9月14日〜16日二人で無事遡行を遂げた。
バイさんの夢を遂げた遡行に同行出来た自分も感動に浸った。
(参考画像4)
自分にも目標があったはずだ。
2019年09月29日
利根本谷遡行の興奮が冷め止まぬままsato6と向かったのは雲竜渓谷Y字峡。
胎内滝〜Y字峡は程良い難易度小滝があり滝登攀練習に良さで何よりもY字峡から脱渓して上部廃道からの眺めが好き。
無雪期の雲竜渓谷に訪れたのは3年振りで胎内滝の流れは大きく変わっていた。
(参考画像5)
シャワーの胎内滝をsato6が登れず敗退。
パーティとして一から修行し直しと言う事でクライミングを再開する。
2020年07月05日 曇り時々小雨
アカナ沢遡行 パートナーはsato6
過去のアカナ沢記録と自身の胎内滝敗退で遡行をためらっていたsato6であるが登攀力体力的にも行けると自分は判断。
大鹿滝登攀を終え鉄鉱泉滝を見上げる。
アカナ沢と言えば唯一の登攀対象の大鹿滝で成瀬陽一さんの『俺は沢ヤだ!』、大西良治さんの『渓谷登攀』にも大鹿滝画像が載せられている。
だがアカナ沢で一番sato6に見せたかったのは眺めるだけの鉄鉱泉滝。
この日は残念ながら鉄鉱泉滝上部はガスで良く見えず。
それでも滝の雰囲気は伝わったも思う。
(参考画像6)
4年前11月には雪とベルクラに覆われていた下部スラブ状もこの日見た感じでは登れそう。
sato6にもそのまま『下部スラブ状は登れるかも』と冗談半分で話した。
アカナ沢遡行を終えて早速鉄鉱泉滝上部が登れそうか調べに取り掛かる(笑)
自分の撮影した鉄鉱泉滝は数十枚ありましたが決定的なのは本流遡行の参考にした山登魂さんの2007年記録にありました。
https://yama-to-damashii.outdoor.cc/20050814%20akana/imgp021.jpg
後日日光市図書館で山岳会資料などを一通り調べ栃木山岳連盟の方にも伺ったが鉄鉱泉滝の資料は見当たらず・・・
沢登りには『篤志家』という言葉が時折遣われます。
篤志・・・志のあついこと。特に、社会事業や公共の福祉などに熱心に協力すること。(Wikipediaより転記)
ヤマケイ登山技術全書沢登りに『6級の沢は篤志家向』と記載されているし『きのぽん』のブログには『篤志家のための登れる大滝一覧』のページまで用意されています。
自分から見て篤志家の沢屋さんが過去にアカナ沢遡行記録を残していますが
何という幸運、そして強運。
この大滝は前人未踏であろう。
大鹿落し乗越を体験したsato6はもう二度とアカナ沢は遡行しないし女峰山にも登らないと言っています(笑)
2020年7月9日
baicycleさんに鉄鉱泉滝登攀の話を持ち掛ける。
『前人未踏の大滝』の口説き文句を添えて(笑)
2020年8月22日 予報は10時から小雨
今回のパートナーであるbicycleさんの表情は少し暗め(soraさん証言)
鉄鉱泉滝登攀に的を絞り小滝群は勝手の知った自分が突破。大鹿滝リードはbaicycleさんにお願いしました。
体重を絞り朝練に励むbicycleさんの遡行は素晴らしいものがありました。
遡行は順調に進み8:40頃には支沢出合鉄鉱泉滝基部に到着。
軽快に下部スラブ状滝を登りいざ滝上部へ。
1445段の階段を下りて営業時間を終え静まり返った霧降高原レストハウス前駐車場に1台の車と2人の影。
今回サポートメンバーとして登山口までの送迎を引き受けてくれたsoraさんとsato6。
脱渓前のツェルト休憩のときバイさんと下山したら暖かいもの飲みたいね。と話していたのを知っていたのか着替えを済ませたタイミングで暖かいコーヒーが出てきました。
神過ぎます(笑)
暖かさが冷えた身体に沁み渡る。
この感覚に生きている事を実感。
soraさんsato6ありがとう。
バイさん、夢が叶いました。
今回の遡行で危険は多々ありましたが
『もう駄目かもしれない。』
という気持ちは一切無かったのはパートナーであるBicycleさんの存在があってこそ。
自分の中でのアカナ沢は無事完結。
もう歯軋りしなくて済みそうです。
※25分の長い動画です。
9分02秒あたりからが、鉄鉱泉滝の取り付きになります。
稲荷川は、栃木県日光市を流れる利根川水系大谷川支流の一級河川で、やがては鬼怒川へと水を落とす。上流部にある雲竜渓谷の知名度は高く、冬季のヤマレコで氷瀑がお馴染みの場所だ。
その稲荷川はさらに上流にむかうと、七滝沢とアカナ沢に分かれる。
この2つの支沢は、女峰山/赤薙山の間を水源とするが、火山堆積物による脆弱な地質の谷は崩壊が進み、その姿を日々変え続けている悲壮悪絶な渓谷である―
■まさか自分がここを遡行する日がくるとは思ってもみなかった----
アカナ沢同行のお誘いを受けたときは驚いた。
なんせ、jaianさんは2020年7月5日、つまり先月にパートナーのsato6さんとアカナ沢から女峰山までの完全遡行を果たしていたばかりだったからだ。
どうやら、目を付けてきたのは支沢にある鉄鉱泉滝という大滝。
数年前から独自で調査していたjaianさんは、この滝に登攀の可能性を感じていた様子だ。
図書館の資料や、地元の山岳連盟の方に聞いたりして調べても、この大滝は登攀記録が見当たらないとのこと。
もし登れれば初登記録となると誘われたのだった。(そんな事言われたら…ねぇ。)
僕も山岳会に所属してる知人を数人あたって聞いてみたが、その滝の登攀記録はおろか、名前すらあまり知られていない。
この時代に、まだ登られていない滝なんてあるのか!?っと思ったが、よく考えたら場所があの悪絶渓谷のアカナ沢だ。
本流遡行だけでもそれなりの場所なので、その支流に100m以上の大滝があっても、なかなか狙う人がいなかったのかも!?
これは、もしかしたら初登攀の可能性もワンチャンあると思い、大きな挑戦へのパートナーとして声を掛けてもらった喜びと、まだ見ぬ大滝への期待が胸を膨らませた。
とはいえ、資料としては遠目で撮られた写真が数枚程度しかなく、情報的には皆無といっていい。
おまけに明らかに脆そうな壁は、下部で土砂が堆積しているのも見える。
勢いで受けたのはいいが、その写真を眺め、日が経つごとに「これは...さすがにヤバそうだ」と、安直に受けたことを後悔しはじめたが、執念が憑りついたjaianさんの決意は固く、今更断る訳にもいかない雰囲気だ。(参ったな)
そしてとうとう、その日はやってきてしまった。
気になる天気は、午前中は持ちこたえてくれそうだ。
今回のこれは、いわゆるグラウンドアップ(懸垂下降によるボルト設置などのルート整備をすることなく、面から未知のルートに挑むこと。 開拓、初登のスタイルについて呼ばれる)計画なので、どれくらいの道具を持っていくかはかなり慎重になったが、これまで積んできた山行の経験から、なんとなく必要・不要なものの選択をしてきた。(結果幸いなことにほぼ適正だった)
登攀において気になることは、支点がちゃんととれるかという事と、落石を免れるポジショニングをとれるかの2つだけ。
jaiさんの登攀力やルーファイ力に不安は無かった。が、逆にそれが上記2つの不安をより浮き彫りにしてしまう。
なまじ登れるからこそ、一線を越えてしまうのでは!?
本当に危険な領域になったら恨まれてでも止めるのがパートナーとしての責務なので、今になって振り返って考えると、このときの僕はものすごい精神状態になっていたと思う。
それほど、jaianさんがこの滝へ情熱を注いでいると知っているからだ。
けど、心強かったのは、利根川本谷のときと同様にsato6さんとgreen_soraさんが入渓と下山時の送迎をサポートしてくれたことだ。
「万が一の際」にも、このサポート隊が通報係も兼ねてくれるので、僕らは滝の登攀だけに集中することができた。
■想像以上...アカナ沢
いざ入渓すると、不安な気持ちの僕とは反対に、嬉々としてアカナ沢を案内しながら歩くjaianさん。
これが本当に前人未踏の滝をこれから登る人の表情なのか、と思うほどだ。
V字状の渓を歩くと、崩壊により山体が変化していっているのが良くわかる。
その崩壊地の中心に自分がいると考えただけでも怖い。
やがて大きな滝が現れると、少年のような眼をして「これが大鹿滝です!」っとにこやかに紹介してくれた。(やれやれだぜ)
しかしなるほど、見上げてみるとこの滝は本当に素晴らしい。
あの大西 良治さんが登攀対象にしただけのことはある。このレコを読まれた人も、時間があれば動画でもぜひこの滝を見てほしい。
遡行始めは心配な気持ちのほうが大きかった自分が、高揚するjaianさんと共にしていると、不思議と恐怖心は消え、逆に闘争心が湧いてきた。
その気持ちのタイミングで、斜めに水を落とす黒々とした支沢が右岸から流れ込んでいるところに着いた。
それが今回の獲物・鉄鉱泉滝であった。
■脆い...脆すぎる…鉄鉱泉滝
取り付きの下部スラブ状滝は、写真で見て想像していたより、意外と傾斜も緩くて困難なく登れた。
それなりの高さはあるもののザイルは出さず、落石にだけ注意しながらサクサクと登った。
動画で僕は「1段目は...2段目は...」と言っているが、きっと土砂崩れにより段々に見えているだけで、本来は40m〜50mくらいの1枚岩なのだろうと思う。
そして、傾斜がきつくなってきたところからがいよいよ本番だ。
見上げると、垂直に水を落とす鉄鉱泉滝の上部が立ちはだかる。
落ち口まで、ここからゆうに50mはありそうだ。しかしここでガスが濃くなってきて、ルートが見えずらくなる。
水流の左が弱点に見え、試しに近づいてみると、土壁のような岩は次々に剥がれていく。
「これはとても水流は無理だ」と悟り、別ルートを探す僕に対し、普通に水流に向かって取り付こうとするjaianさん。
「な、なにやってるんですか?水流を登るつもりなんですか?」と聞くと
「え?なんで??」っと、登らないのが不思議そうな表情だ(マジかぁ)
「そこ一段だけ登って、危険を感じたら絶対やめてくださいよぉ」っと念押しし、嫌々ビレー態勢をとってjaianさんが取り付く。
水流のクラック状にハーケンを1枚打ち込む。思ったよりもハーケンは効いている音がする…
しかし、いざ1歩立ちこむと、大きなホールドが奈落へとガラガラ落っこちていった。
「マジかぁ!」っと叫ぶjaianさん。なんとか比較的頑丈なホールドはないかと探してみるものの、あざ笑うかの如く次々に岩は崩れていく。
ハーケンの支点も、効いてるんだかなんだか不明なので、水流は諦めほかの弱点を探してみることにした。
左壁は弱そうながらも灌木が見えており、なんとか行けそうに見える。
崩落帯を微妙なバランスでトラバースしていき、灌木をうまく利用して登る。
やはり岩盤は脆く、頭くらいの大きさの石がガラガラと落ちてくるため、ザイルに当たらないかドキドキしながら見守る。
いつ岩と一緒にjaianさんが降ってくるかも知れない状況で、ビレーする手に力が入るが、決して自分もセーフゾーンでは無いためかなり緊張した。
灌木があるとはいえ、雪深い山域のものとは違い、全体重を預ける訳にはいかないものが多く、また足下の岩も次々に落ちてゆく。
傾斜も強まっていき、垂直〜ハング状を交えながら2ピッチ目で展望のあるテラス状にでた。
すぐ横は鉄鉱泉滝の落ち口3m下で、ここを登れば終わりというところまできた。
ジェンガのように不安定に積まれた岩盤は、カムやハーケンがどこまでの荷重に耐えられるのか全く未知の領域で、しかもラストは被っている。
ピナクル、ハーケン、ボールナッツ、カムなどあらゆる場所から分散支点を取り、取り付いてみるが、あと3mがどうしても登れない。
左を見ると、10mほどトラバースすれば、その先はリッジのようにみえる。
ここもかなり弱く剥がれる岩盤で恐ろしく、カムで支点をとりながら慎重にトラバースしていき、そこから右上へと斜上して登り、落ち口10m上に出ることができた。
このリッジから落ち口上までの区間が核心部と言っていいだろう。
ここから懸垂下降で沢床へ復帰し、見事に鉄鉱泉滝の落ち口へ立つことができた。
この瞬間の為に用意された記念プレートを掲げ、2人で喜びを分かち合った。
ドラマみたいだが、ここまで1度も降られることのなかった空から、お祝いとばかりに大粒の水を激しく落としてきた。
まだ完全に安全な場所では無いとはいえ、尾根に乗ってしまえばもう安心だ。
スマホを見ると、ここで電波が入ったので、心配をしているであろうサポート隊に「なんとか登攀終了」と連絡をつけた。
あとは適当な場所から懸垂下降で本流にあるアカナ大滝の上へ降り立ち、二俣を右に入って沢を詰めていく。
かなり冷たい雨に濡らされ、雷鳴も響くのでツエルトをタープ状に張り小休止。
お菓子を食べながら、生きている実感を深く味わった。
先程まで目をギラギラさせていたjaianさんは、まるで憑き物が取れたような表情で、達成感に浸っているのか、それとも緊張感からの解放なのか...
珍しくゆっくりと休んでいた。
■サポート隊、ありがとう
登攀では決してミスが許されないシーンが多く、特にトラバースではセカンドでも落下すれば支点が間違いなく飛ぶので、非常に危険でした。
先がどうなっているのか全く分からない状況で、あの脆さが加わっても完登したjaianさんのハートは本当に強かった。
このアカナ沢をここまで探求した人もそうはいないだろう。むしろ、その気持ちがなければこの滝を登りたいという気持ちにはなれないだろう。
本当に完登おめでとうございます。
その後、一般登山道に合流して下山していくと、小雨になっていったが、まだ稲妻が走る景色を眺めつつ尾根を下り、最後の1,500段近い階段を下っていると、うす暗くなりガランとした駐車場にポツンと残るサポート隊の送迎車が見えた。
車の脇で傘を指し、二人がこちらに手を降っている姿を確認したとき、本当に「やっと無事に終わったんだな」と実感が込み上げた。
くす玉でお祝いをしてもらい、拍手。
冷えきった体に、染み渡る淹れたてのコーヒーを貰い、ペコペコの腹にパンを流し込む。マジで涙が出そうになるほどうまい。
「こんな経験、なかなか出来ないよな」
と、この計画が実現できたサポートに深く感謝。
jaianさんは最後に「もう、これでアカナ沢は、完です」と言って、暗闇の駐車場に笑いがこだました。
コメント
この記録に関連する登山ルート
この場所を通る登山ルートは、まだ登録されていません。
ルートを登録する
jaiさんカッコいい 前々から思っていましたが、jaiさん米津玄師に似ていますね 歌も上手そうです
iroiro57さん
jaiさんは、本当に心も強いイイ男ですよ
大願成就ってヤツですかね、素晴らしい会心の登攀でした。
コメントありがとうございます。
歌を歌わせたら自分敗退(自滅)です(笑)
本日倉見川行ってきました。
が間違えて本流を遡行してダム湖?行き着いてそこから林道を歩いて高場沢を下降しました^^;
しばらくは癒しの沢歩きを楽しもうと思います。
初登?かもしれない滝!
やばそうなのがひしひしと伝わってきました。
大鹿滝、順層逆層が絡み合っているようで、
地質的に珍しい場所な気がしますし、
見事なもんですね。
メインの滝よりそっちの方が興味津々になってしまいました。
このテの登攀は生で見てみたい気がしますが、
ビール片手にレコと動画で楽しむのが
一番であります。
人の苦労は蜜の味、的な
登り切った充実感は格別であったことでしょう。
たいへんお疲れさまでした!
SM100Cさん
図書館、地元山岳会など当たりましたが、登攀記録は無いので初登だと思います。
というか、アカナ沢自体が簡単に入渓できる場所ではないので、その深部にさらにこんな悪絶な大滝があっても、なかなか対象にならなかったのでしょう。
大鹿滝も、本当に見事でしたが、この渓谷は火山性堆積物で構成されている谷なので、崩落が著しく、年々姿を変え続けています。
そういう意味では、現存する間に遡行できた事も、とても幸運だったのかもしれませんね。
鉄鉱泉滝は、情報未知の登攀で予想はしていたものの困難なピッチもあり、極めて緊張しましたが、無事に登り終えた時の充実感は、なによりも得難い最高の一瞬でした。
jaianさんの執念が成せた大業といっていい記録になっていると思います。
コメントありがとうございます。
アカナ沢のゴルジュは土壁主体なのですが大鹿滝周辺は柱状節理の岩盤であります。
ゴルジュ主体のアカナ沢の中で大鹿滝周辺は開けていてその周辺は爆裂火口だった可能性があります。
その昔噴火前は女峰山と赤薙山は一つの山だったと言われています。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する