白山南北大縦走☆石徹白から白川郷へ
- GPS
- 25:02
- 距離
- 57.1km
- 登り
- 4,441m
- 下り
- 4,702m
コースタイム
- 山行
- 4:32
- 休憩
- 0:20
- 合計
- 4:52
- 山行
- 10:45
- 休憩
- 1:24
- 合計
- 12:09
- 山行
- 6:43
- 休憩
- 1:11
- 合計
- 7:54
過去天気図(気象庁) | 2020年09月の天気図 |
---|---|
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
下山は白川郷より濃飛バスにて飛騨高山へ |
コース状況/ 危険箇所等 |
良好に整備された一般登山道 |
その他周辺情報 | 一日目;晴れ 二日目:曇りときどき晴れ 三日目:曇りのち晴れ |
写真
感想
9月に連休は当初、南アルプスの縦走を予定し、木曜日から休暇を取得し6連休を用意していたのだがどうも天気予報が芳しくない。好天が期待出来そうな白山に山行先を変更するが、金曜日まで天候が優れないので結局、出発は連休に入ってからの土曜日となる。
真っ先にコースを決めたのは北縦走コース、白山から三方岩山に至る長大な尾根である。このコースを辿る人は非常に少ないというが、アプローチの困難さもあるだろう。当初、白川郷から入る可能性を検討してみたが、ゴマ平の避難小屋に距離が長く、白川郷に前泊して早朝に出発することが必要となる。18日は辛うじて数件の宿泊施設が空いてはいたが、連休中に白川郷に泊まるのは難しそうだ。
尾根を北上して白川郷へ抜けることに決めるとアプローチは加賀禅定道か美濃禅定道のいずれかを迷うが、以前よりこの白山の南北縦走に興味があったので
公共の交通機関を使うことが前提である以上、石徹白には美濃白鳥からの白鳥バスのオンデマンド・バスを使うことになる。このバスは日祝日は運休するが土曜日なので乗ることが出来る。前日に電話をかけて乗車の予約をする。上在所にバスが到着するのが13時過ぎと出発が遅くならざるを得ないが、致し方ない。
石徹白からの美濃禅定道の難点はバスの終点である上在所から登山口まで延々と歩くことになることだ。山と高原地図でのコースタイムは2時間ということになっているが、距離は7km少々なので、頑張れば1時間少々でたどり着けるかもしれない。地図でのコースタイムを考えるとこの日は神鳩避難小屋泊まりというのが妥当なところではあるが、おそらくは三ノ峰に18時頃には到着出来るだろう。
【一日目】
美濃白鳥からのバスに接続する長良川鉄道の列車には「ゆらーり眺めて渓流列車」という名前がつけられている。一日1往復らしく、特別仕様の列車なのかと期待したがどうやらそういうことでないらしい。列車が出発してから車内アナウンスでようやくその意味を知る。鉄橋などの長良川の景勝地点に差し掛かるたびに速度を落として運転するという企画らしい。郡上八幡が近づくと車掌が「本日は遠くに白山がすっきりと見えております」とアナウンスが入る。
列車は2両編成であったが、郡上八幡からは後ろの車両を切り離して一両のみとなる。美濃白鳥で降りると我々の他に二人、単独行の登山者が降りる。一人は若い女性、一人は初老の男性のようだ。まずは古い気品のある街並みを抜け、長良川の対岸の大きなスーパーに買い出しに行く。買い物を終わって橋の西詰のバス停に戻るとすぐにもバスがやってくる。やはり先ほどの二人もバスに乗っている。
上在所でバスを下車すると、いざ出発しようとしてGPSアプリに地図をダウンロードしていなかったことに気がつく。幸いスマホは辛うじて電波が一本立っている。しかし電波が弱いせいだろうか。ダウンロードするのに15分近く時間を要してしまった。たかが15分、されど15分、この時間は後に大きく影響することになる。
登山口への道路沿いにはトチノキ、桂、サワグルミの大樹が次と現れる。道の上には数多くの栃の実が散在している。登山口が近づくと、遠くに樹林のない草稜の尾根の山が見える。銚子ヶ峰だろうか。
予想通り、石徹白の大杉の登山口までは1時間10分程で到着する。登山口には10台ほどの車が停まっている。登山口には水を汲むと登山道に入る。最初の急登を登りきると、歩きやすいなだらかな尾根が続くようになる。上からは続々と登山者が降りてくる。尾根に乗るとまもなく山毛欅が現れる。山毛欅の樹林の中に秋の透明な日差しが差し込む。
神鳩避難小屋に到着するとまずはトマトと白葡萄をつまむ。水を汲みに50mほど下って水場に降りると、滾々と冷たい水が谷の源頭から湧き出ている。再び小屋に戻るとガラリと音がして、長良川鉄道から一緒だった女性が現れる。すぐにもう一人の男性も小屋に到着された。
避難小屋を過ぎるとまもなく樹林帯を抜け、パノラマが大きく広がり、右手には願教寺山、よも太郎山、薙刀山と越美国境の山々が連なる。眼下には辿ってきた尾根と避難小屋の赤い屋根が見える。尾根の北側には別山が峻険な岩肌を見せて聳え立つ。
銚子ヶ峰にかけて緩やかに波打つ笹原の草稜を辿る。ゆっくりと傾いてゆく夕方の西陽を浴びる笹原を辿るのは夢幻的な光景だ。銚子ヶ峰過ぎるといよいよ三ノ峰への尾根が目に入る。まずは最初のピーク、一の峰にかけて大きな登り返しがある。三ノ峰の上の方は急速にガスがかかり始める。
三ノ峰にかけての登りの途中で陽が落ちたものと思われる。山頂が近づくと急速に気温が低下してゆくのが感じられる。突然、片足が攣る。滅多に足が攣るということはないのだが、急速な気温の低下による影響もあろう。幸いにも急登はほとんど終わり小屋まではあとわずかに100mほどのところであった。最後はゆっくり歩いて、ヘッデンのライトを必要とするほど暗くなる前に避難小屋にたどり着くことが出来る。
小屋の中に入ると二組の単独行の男性の先客がいらした。早速にも夕食の調理を始めるが、かじかんだ手の感覚がなかなか戻らない。急激に気温が下降するのを感じた時点で手袋をするべきだったのだが、なんとか明るいうちに小屋にたどり着くことに気をとられて、手がかじかんでいることにすら気がつかなかった。手を見ると爪が真っ白くなっている。寒さによる血行不良のせいだ。一瞬、凍傷の可能性が頭を過るが、この三ノ峰で凍傷になったら笑い者だろう。
万願寺唐辛子と炭火焼き鶏肉、後半はソーセージをソテーする。小屋の外に出しておいたビールは既に相当に冷たくなっている。外気はかなり低いのだろう。カレーを温め、鍋から昇る湯気に手をかざすうちにようやく指先の感覚が少しずつ戻ってきた。
【二日目】
他の二人の方はいずれも5時半に出発の予定ということで目覚ましが4時に鳴る。ヘッデンのライトを必要としないほどに明るくなってから出発すればいいと思っていたので、のんびりと用意をするが、食事は紅茶とフライパンで温めたオムライスという簡単なものであったこともあり、5時前には出発の準備がと整う。他のお二方もほぼ同時に出発の用意を整えられたようだ。先客のうち、初老の男性はお一人は明日は七倉岳まで行って南竜山荘で泊まられる予定らしい。もう一人の若い男性は別山までの往復とのこと。
三ノ峰のピークにかけてわずかに登ると、山頂からは別山の大きな山容のシルエットが視界に飛び込んでくる。登山道周囲の笹は全く朝露に濡れていない。曇り空のせいで夜の間に気温が下がらなかったからだろう。それどころか昨夕よりもむしろ暖かく思われる。
三ノ峰から尾根を北側に下るとすぐにヘッデンのライトを必要としないほどに明るくなる。曇り空ではあるが、高曇りである。雲の下で赤く染まった空を背景に御嶽山のシルエットが浮かび上がっている。
明るくなるにつれて徐々に尾根の両側にパノラマが広がり、遠くの山々のシルエットが明瞭になってゆく。御嶽山の左手には乗鞍岳、北アルプスの稜線が綺麗に見えている。この日も天空の尾根が期待出来そうだ。登山道脇には名残りの夏の花も数多く咲いている。
別山への登りにさしかかると、東の空に朝焼けが広がる。わずかな間、燃えるようなローズピンクを見せたかと思うと、すぐに朝やけは消えていった。
別山の手前、草原が広がる台地状の別山平も美しいところだ。別山平の奥には御手洗池がある。登山道からは池は見えないが、池に寄るための踏み跡がある。池の写真を撮って登山道に戻ると、若い男性の方が到着される。池への踏み跡を教えて差し上げる。池がこのあたりだろうかと思ってGPSを確認しようとしておられたところらしい。
池からは別山までは一息だ。登りにさしかかると、稜線の北側にはドーム状の白山が姿を見せる。振り返ると眼下に別山平と御手洗池を望み、三ノ峰から辿ってきた尾根に朝の光が当たる。
尾根の彼方には経ヶ岳、荒島岳、願教寺山などの白山周辺の山々が霞の中から浮かび上がっている。
別山の山頂には避難小屋でご一緒であった若い男性の方とほぼ同時に到着する。三重からいらしたという男性はこの別山で引き返されるそうだ。銚子ヶ峰から三ノ峰を経て別山に至る南縦走路の尾根の光景はここで見納めとなる。
北西の空に大きな雲の切れ目がありそこだけ淡い水色の空が広がっている。あと2時間ほどするとこの雲の切れ目が白山の上に到来し、青空が広がることが期待出来そうだ。
別山からは白山への稜線は小刻みにアップダウンを繰り返しながら南竜山荘のある南竜ヶ馬場に向かって下ってゆく。別山から下り始めると早速にも単独行の男性とすれ違う。早朝に南竜山荘を出てこられた方のようだ。
草紅葉が尾根の斜面を柔らかな緑褐色に彩っている。別山と白山という二つの雄大なピークの間を広大なパノラマを眺めながら辿るこの天空の尾根はなんとも贅沢なところだ。途中にいくつかの小さな草原や池が現れるのも嬉しい。
南竜ヶ馬場が近づき、尾根を外れて西側の谷に向かって下ると、数多くの登山者とすれ違うようになる。パノラマはとはしばしの間お別れではあるが、広々とした谷の景色を眺めながら降ってゆくのも悪くない。
南竜ヶ馬場の湿原に入ると数多くの小さな池塘の周りを草紅葉の黄色い葉が彩っており、あたかも黄色い花が咲いているかのようだ。
南竜山荘で小休憩すると室堂を目指す。前回は展望歩道を辿ったのだが、今回は石徹白道、すなわち美濃禅定道の最終部分を辿る。南竜山荘の左手から登山道に入る。この道は南竜山荘と室堂を結ぶ道の中では最もポピュラーなルートなのだろう。上からも続々と人が降ってくる。おそらく前日に室堂に泊まられた人達だろう。
登山道からは随所で南竜ヶ馬場から別山の展望が広がる。畸形のトンビ岩を回るとまもなく、なだらかな室堂の平原の一角に出て、久しぶりになだらかな御前峰の山頂部の姿を拝むことが出来る。予想通り、御前峰の上には急速に青空が広がってゆく。
室堂の小屋の前は大勢の人で賑わっている。空いているテーブルやベンチが簡単に見当たらなかったが丁度、男女3人のパーティーが出発されようとしているところであり、席を見つけることが出来た。マフインの間にハムとチーズんだものと、胡瓜での行動食をとる。
時刻は10時をわずかに過ぎたところだ。このまま本日の北縦走を辿ると本日の宿泊予定地には15時前に到着してしまうだろう。行程に七倉山への往復を追加することにする。
室堂から見上げると御前峰への登りは数多くの人が連なっている。柔らかい秋の日差しが降り注ぐ中を我々も御前峰の山頂を目指す。確かに登山道には人は多いが、幅の広い快適な道なので歩きにくいことはない。
山頂にたどり着くと山名標の記念写真を撮る人が20名ほど順番待ちをしておられる。すぐに山頂を後に、山頂の北側に向かう。山頂を過ぎると急に人影は少なくなる。
大汝峰の手前の北縦走路との分岐にリュックをテポすると大汝峰に登る。急登ではあるが道はあくまでも登りやすい。上から高校生と思われる若者たちが続々と降りてくる。大汝峰の山頂にも数多くの若者達がいる。どこかの高校のワンゲル部のようだ。
大汝峰の山頂の北側の展望地からは荒涼とした?の光景が眼下に広がっている。その左手にはこれから辿る七倉山が優美な山容を広げている。
北に登山道を辿ると途端に人の気配はなく、静寂の支配する別世界に踏み込む。眼下にはハイマツが覆うなだらかな台地の中を一筋の登山道が伸びてゆくのが見える。
七倉山への鞍部が近づくと大きな岩に水が溜まっている。御手水鉢と呼ばれるものらしい。果たして自然のものなのかあるいは誰かが岩をくり抜いたのだろうか。それにしても今年の異常な夏の暑さにも関わらず水が干上がらなかったのだろうかと不思議に思える。
七倉山にかけては広い湯の谷と大汝峰を見ながら山の南斜面をトラバース気味に緩やかに登ってゆく。七倉の辻と呼ばれるコルに到達すると、ここは釈迦新道、加賀禅定道、岩間道との分岐点となっており、すぐ近くには四塚山が目に入る。七倉山の山頂を目指し、岩間道に入ってみると、清浄ヶ原と呼ばれるなだらかな台地の中を登山道が伸びてゆくのが見える。七倉山の山頂に至る踏み跡があるものかと期待したがあるのはハイマツの樹林のみ。山頂と思しきあたりを目指してハイマツの樹林の中を藪漕ぎしてみるが、長男が厳しいという。山頂を踏むことは諦めて戻ることにする。
大汝峰の北斜面に戻ると帰りは西側の巻道を辿って北縦走路の分岐に帰り着く。縦走路に入ると最初はかなりの急下降である。お花松原と呼ばれる草原状の広い谷に至る。振り返ると山の上の方は瞬く間に雲の中に
P2349に登り返すとしばらくは広くなだらかな尾根が続く。尾根には小さな草原や湿原が次々と現れては草紅葉が目を楽しませてくれる。湿原には小さな池塘も現れる。
北弥陀ヶ原と呼ばれる場所は最大の草原が広がるところのようだ。草紅葉と常緑の灌木が美しいコントラストを見せてくれる。晴れていたら、背後に白山の稜線の展望が広がっているのだろうが、霧の立ち込める景色も悪くない。
尾根上には笹原が広がるようになる。この笹原はいわゆる風衝草原と呼ばれるものだろう。荒天時の強風の通り道となっているために樹木が育たない可能性が高い。
間名古の頭が近づくと壁のように聳え立つように思われるが、有難いことに登山道はこの間名古の頭のピークを避けて西側斜面をトラバースしてゆく。登り返しに入ると周囲は白樺の大樹の樹林となる。あたりには急速に霧が立ち込めるが、霧の白樺の樹林には幻想的な雰囲気が漂う。
トラバースを終了し再び尾根に出るとやはりここでも笹原が広がっている。小さな鞍部を登り返すと霧の中からピークが現れる。そろそろゴマ平への下りにさしかかる筈だと思い、これが最後かと思い笹原の尾根を登る。しかし、ピークを登ったところで目に入ったのは次なるピークであった。尾根の傾斜が緩いのが救いではある。
熊笹の風衝草原のピークを過ぎて急下降が始まると、それまでの登山道とは一転、苔むした岩が多く、滑りやすい悪路となる。しかし、ついにゴマ平の避難小屋にたどり着くことが出来るという期待を抱きながら黙々と下る。
まもなく樹林の中から忽然と小屋が現れると、中から人の笑い声が聞こえる。さすがにこの四連休の中日は他にもこのアプローチの困難な小屋に来られる方がいらしたようだ。小屋の扉を開けると若い女性が「あっ」と声を上げる。先ほど白山の室堂で我々が到着した時にベンチを譲って下さったパーティーであった。
どこからどのような行程でここに来られたのか、お互いに興味津々だ。三人組の方々は我々と同じ石徹白からであり、前日は南竜山荘でテン泊だったらしい。登山口には車で入られたとのことで、車の回収のためにどこからタクシーを使うか悩んでおられるようであった。
小屋は二階建てで、上の階を使わせて頂くことにする。靴を脱ぐ前にまずは水場に水を汲みに行く。登山道を少し先に進むと冷たい水が流れる小さな沢があった。水場で冷やすビールを忘れたので小屋に戻り、外に出ると先ほどまでの霧が晴れ上がり、西の空は晴れ空が広がっている。薬師山と思われる岩間道の尾根の肩に夕陽が落ちてゆくところであった。落日後の西の空には一面に茜色の夕焼けが広がったかと思うと瞬く間に空が赤く燃え上がってゆく。
小屋の二階は広々としており、奥にはガスコンロやマット、それから毛布が一枚用意されている。早速にも食事の用意する。この日はドライ・フードのパスタとグリーンカレーで簡単に夕食を済ます。食後は焼酎のミニカップが一本余ってしまったので、階下の三人の若い方達と共に焼酎を開ける。軽量化のために酒類は持参されなかったらしく、私の焼酎の差し入れを非常に喜んでくれたようだった。
翌日の出発時間は決めてはいなかったが、「何時に出発の予定ですか?」と若い三人のパーティーにお伺いしたところ「道がとても滑りやすくて危ないので十分に明るくなってからにしようと思います」とのことでお互い、4時半起床の5時半出発の予定とする。
【三日目】
明け方が近くなったところで屋根を激しく叩く雨の音で目がさめる。時計を見ると起床予定の時間が近かった。ほどなくして雨脚は弱まる。この日は晴天が期待される予報と思っていたが、
朝食を済ませて、外に出ると雨は上がったようだ。5時半よりわずかに前であったが、パーティーに「また後ほどお会い出来れば・・・」とご挨拶して先に出発する。外はヘッデンがなくとも十分な明るさである。
苔むした岩の滑りやすい道は笹原の中の急下降となる。道は広く刈り払いがされており、整備が行き届いているようだ。広々とした谷に下降して鉄製の橋を渡るとオオシラビソの疎林が広がるようになる。
念仏尾根へと登り返しを登ると周囲の雲がみるみるうちに晴れてゆく。南東には雲の中から三方崩山が姿を表す。ここから眺める三方崩山は斜面の崩壊地が全く見えないので、その名前が違和感を感じる。この念仏尾根も風衝草原なのだろうか、笹原が広る。周囲には雲海が広がるのでまさに天空の尾根を辿る感じだ。
やがて背後には白山の山頂部が顔を出す。そして霞がかった尾根の先には大きなピークが見える。どうやら妙法山のようだが、その手前にはどうやらきついアップダウンがありそうだ。妙法山の手前の鞍部にたどり着くと地図には記載されていないが、尾根の西側に広い池がある。
妙法山の山頂は本来は好展望が広がり、北アルプスの展望地らしいが、目の前には雲が広がっているばかりである。妙法山を過ぎて野谷荘司山に向かうと、稜線上はすっかり晴れて、オオシラビソの樹林の中に美しい湿原が広がっているのが見える。もうせん平と呼ばれるところのようだ。もうせん平に到着したところで後ろから避難小屋で一緒だった三人のパーティーが追いつく。
彼らはテン泊の重装備であり、しかも個人がそれぞれソロ・テントを担いでいるらしいが、それにしては相当にスピードが速いようだ。まずは皆で一様に湿原の美しさに感嘆する。いくつかの池塘を通り過ぎてもうせん平の標識がある広地で荷物を下ろすと、男性の一人が「何かいますね」と仰る。耳をすますとすぐ近くの笹原でガサゴソとおもむろに移動する大型の動物の音がする。リュックにつけた熊鈴をリンリンと鳴らしてみるが、動物の音は近づいてくるように聞こえる。「ここは急いで去りましょう」と男性の一人が言うと、三人はすぐにも出発する。湿原のモウセンゴケを一枚、写真に収めると我々も慌てて彼らの後を追う。
野谷荘司山にかけてもシラビソの疎林と紅葉した灌木が美しい好展望の尾根が続く。山頂に到着すると三人組の若者達とお互いに写真を撮り、しばし休憩する。彼らは鶴平新道を下って白川郷に下る予定なので分岐まで一緒に歩かせて頂く。
分岐で別れを告げて我々は三方岩岳に向かうと、途端に尾根では多くの人に出遭う。何組かの登山者が我々の装備を見て、一様に「白山から縦走して来られたんや!」と感心して声をかけられる。やはり、この尾根を縦走する登山者が珍しいということなのだろうか。
分岐から最初のピーク、馬狩荘司山までは晴天が広がり、秋の日差しを浴びる灌木の紅葉が美しい。馬狩荘司山をすぎると再び稜線は雲の中に入ってゆく。三方岩岳の狭い山頂広場に到着すると我々の到着を歓迎するかのように再び雲が晴れて、白山から辿ってきた縦走路が姿を表す。
これが最後かと思われる好展望を見ながらマフィンと胡瓜の行動食をとる。山頂から少し北に向かうと多くの人が集まっているピークが見える。白川郷への分岐を見送り、その広場にたどり着いてみるとここにも三方岩岳の山名標があった。正面には白山からの尾根の展望が大きく広がる好展望地だ。
我々は山頂と思っていたところは勘違いだったのかとも思ったが、確かに山頂と記されていたのと、明らかに先ほどのピークの方が標高が高かった。後で確認するとここは三方岩岳展望台らしい。
ここからはいよいよ白川郷にかけての最後の下りとなる。尾根は随所に樹林が切れて、灌木帯からは眼下に白川郷を見下ろし、正面には有家ヶ原、右手に猿ヶ馬場山の好展望が広がる。尾根を下るにつれて、地図に山毛欅林と書いてある箇所があるので果たしてどのような樹林なのかと期待していたが、ホワイトロードが近づくあたりで樹高の高い山毛欅の大樹が立ち並ぶ壮麗な森となる。
登山道は山毛欅林の中を九十九折でジグザグと下るようになる。やがて登山道は尾根を離れて右手の谷に急下降する。谷に出た途端に尾根を辿っている時には小さなピークに思われた馬狩荘司山が谷奥に大きく聳えているのだった。
谷沿いを歩いて白山ホワイトロードの馬狩料金所に出ると最後は延々と車道を歩いて白川郷に到着する。予想してはいたことではあったが、go to キャンペーンのせいか白川郷は大勢の人で賑わっている。白川郷へのバスはかなり本数が制限されているが、多くの人が車で訪れるのだろう。白川郷の中を走る国道は大渋滞である。
バスターミナルの近くの郷土料理の食事処を訪ねるが、10組近くが食事待ちのリストに名を連ねているので、先に近くの温泉「白川郷の湯」に入る。温泉から上がって再び食事処を訪ねるとラストオーダーの14時を過ぎた後であった。その隣の郷土料理の店は空いてはいたが、こちらは入店待ちのリストが20組近くであった。バスの時間があるので食事は諦めるしかないようだ。
食事にありつけないままに白川郷を散策するが、白川郷のあまりの人の多さに異次元の世界に入ってしまったかのような違和感を覚える。白川郷から出発するバスに先ほどの三人の若者たちも現れるかと期待していたが、乗り込んだ登山者は我々だけであった。高山駅で特急に乗り込むと多くのアルプス帰りと思われる登山者の姿を見かけ、なんとなく安心する。
京都に帰るりつくと翌日は久しぶりに筋肉痛に見舞われる。長かったが、またいつの日か再び辿ってみたいと思う縦走路であった。
コメント
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yamaneko0922さん
はじめまして
多分三方岩岳と馬狩荘司の間でお声掛けさせてもらったものです。
とにかく大汗かいてしっかりとした足取りで歩かれていたので覚えております。
とにかく石徹白から歩かれているとお聞きしてビックリするしかなかったのですがヘタレの私としては超人としか思いませんでした。 またガッツリと歩いて下さいね😃
kazu97さん コメント有難うございます。
三方岩岳への稜線でお声がけ頂きましたこと、鮮明に覚えております。
石徹白からの縦走は二泊三日であれば全く無理のない行程になると思うのですが、車を二台使わない限り、車の回収が大変ですね。
尾根は最後の三方岩岳に至るので展望と個性的なピークがあり、極めて魅力的なところだと思います。
奥美濃にも足を伸ばしたいと思いますので、またどこかのお山でお会い出来ますことを期待しております。
石徹白から白川郷への大縦走、凄いですね!大変お疲れ様でした。
ヤマネコさんが筋肉痛にみまわれる程のタフなルート。しかし、恐らく疲れなど感じさせないぐらい素晴らしい、大満足の山行だったのではないかと想像します。
今年は私も6月に石徹白から別山、8月には加賀禅定道より白山という山行を経験し、別当出合からの最もポピュラーな白山とは違う別の顔のスケールの大きな白山連峰の魅力を味わったのですが、今回ヤマネコさんのレコを拝見して改めて思い出すと同時に、未だ踏んでいない別山〜南竜間やお花松原〜白川郷に至るルートに想いを馳せては是非ぜひ歩いてみたくなっている次第です。
これから紅葉が進むとまた更に魅力的な風景を楽しむことが出来るでしょうね。
七倉山のピークは私も行ってみようと思いましたが断念しました😅四塚山のピークも気になってましたが、いずれも登山道は通っていないのですよね。
ゴマ平から分岐する中宮道はやはり通行止めだったでしょうか?8月の山行の際、当初下山路として考えていたルートでしたが断念したのでした。中宮温泉や混浴露天風呂がある岩間温泉も気になるところです😁
白山北部には湿原や池が多いですね。モウセン平という湿原には本当にモウセンゴケが沢山なのですね!
そしてガサゴソ音は、やはり熊だったのでしょうか?😨
ウリさん
コメント有難うございます。レスが遅くなり失礼しました。昨日は大峰の山に入っておりました。
七倉山からの岩間道方面の壮大な光景を眺めながら、ウリさんはこの景色を二日にわたって眺めたのかと思っておりました。ウリさんのレコにも書かれているように白山の本当の魅力は人のいないこの北部の山域にあるでしょうね。
レコに情報を記載すればよかったのですが、ゴマ平から先、中宮道は通行止めとなっています。それからホワイトロードの崩落のため一里野から先で通行止めとなっており、中宮温泉まで入れないそうです。登山道が復旧されれば一里野か岩間温泉から周回することが出来ますね。しかしゴマ平から先の尾根も湿原あり、展望あり、なかなか魅力的なところだと思います。
もうせん平が果たしてその名前が毛氈に由来するのかモウセンゴケに由来するのか由来するのかわかりませんが、とても綺麗なところでしたが、笹原の中でガサゴソしていた大型動物のお陰でゆっくりと湿原を鑑賞することが出来なかったのが残念です。その動物はクマ以外に思いつきませんでした。
白山から白川郷に抜けるルートを歩きたいと思っていましたが…車の回収をどうするのか悩んでいました。
なるほど…交通機関を使ったのですね…。
石徹白から入るとは…なかなかロングコースだ…
nagaさんとお会いされたんですね…いつもレコを拝見していますが、nagaさんもヘンタイ級のロング縦走をされています
こんなところで繋がるなんて…ヤマレコのおもしろいところですね。
親子で山を歩けるなんてyamanekoさんは幸せですね…うらやましい…
akakiriusagiさん
お久しぶりです。コメントどうも有難うございます。
車二台を使えば容易でしょうが、単独であれば平瀬〜白川郷をバスで移動するという方法も考えられますよね。しかし、今年は白川郷に入るバスのかなりの便がコロナで運休しており、さらにgo toキャンペーンに呼応するかのように9月からさらに本数を減らすという有り様。白川郷は観光客は非歓迎ムードです。
三ノ峰でご一緒させていただいたnagaさんのお陰でakakiriusagiさんと再び繋がるというのは嬉しい限りです。nagaさんはとても気さくでお話ししやすい方でした。惜しむらくは私たちが山小屋にかなり遅くに到着したので、あまりお話しが出来なかったことでした。山のご趣味やお料理など色々と共感するところがあるので、お話させていただく時間があれば盛り上がったことかと思います。
この北縦走路は非常に素晴らしいところで、私もまた縦走したいと思うところです。熊さんがいる可能性は高そうですが💦
akakiriusagiさんも歩荷の御従者さん達を連れて羨ましがられるのではないでしょうか😁
なんかくしゃみが出るなと思ってたら、ここで噂されてたんですね。
でも悪い噂でなくて良かった(笑)。
そう、僕は縦走好きです。日帰りは嫌い。最近は1泊では満足できなくなって2泊以上が基本になってます。
ヤマネコさん、あかきりさんと何処でお会いできればいいですね。
nagaさん コメント有難うございます。
二泊以上が基本とは何とも羨ましい。先日、南アルプスで二泊の山行をして参りましたが、今年はこれが最後かなと思います。
nagaさんのレコの美味しそうなフライバン料理もとてもそそられます。三ノ峰小屋で私達が料理していた京都の万願寺唐辛子の料理を少し味見していただければ良かったかと思っていたのでした。nagaさんともまたお会いできることを願っています。出来ればまた避難小屋で
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