三ノ沢岳 そして遭難者を見送った宝剣岳<合掌>
- GPS
- --:--
- 距離
- 5.9km
- 登り
- 657m
- 下り
- 659m
コースタイム
天候 | 快晴のち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2013年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
コース状況/ 危険箇所等 |
三ノ沢岳の危険個所は極楽平から下降してすぐ始まるリッジのあたり。雪庇の出方が左右一定しないので慎重なコース取りが必要。その他はこの時期特に危険個所なし。 宝剣岳については感想欄に記載。 |
写真
感想
このレコを書くにあたりまだ遭難者の身元も判明していないのに不謹慎ではないかという指摘があるかもしれない。がしかし、彼の遭難直前の行動を最も近くで目撃した者として、遭難の起きた宝剣岳の状況を知ってもらうことが今後の遭難防止に役立つのではないかとの思いから敢えて記録に残すことにした。
昨シーズンより雪山に熱を上げてきた私に、細君より、保険の加入なしでの山登り禁止令が発令され、今年度の山岳保険に加入したのだが、4/1より有効ということで、満足に雪山に登れずにいた。GW前半の3連休で笈ヶ岳、後半に三ノ沢岳をもって今季の雪上登山を満喫する計画を立てた。余裕があれば宝剣にでもという甘い考えもあった。どうやら宝剣岳は北側の宝剣山荘側から登るより、南側の極楽平方面からの方が距離は長いが鎖が充実して登りやすいのではないかとの感触があったからだ。
三ノ沢の登山日は後半4連休のうち最も天気が期待でき、休養もできる5/5とした。前日夜のうちに駐車場で前泊し、朝1番のバス、2番のロープウェーに乗ることができた。千畳敷に降り立ち、登山計画書を提出した。計画書には三ノ沢、宝剣岳と書いた。案の定、持ち物チェックが行われた。
「アイゼン、ピッケル、ヘルメット、ハーネス、カラビナ、スリングあります。」
「爪は?」
「12本です。」
「ザイルは?」
「細いものですが、10Mほど」
「ちょっと短いな。ま、三ノ沢、宝剣とも、今季滑落事故がおきているから十分注意して行ってください」
単独登山禁止といわれるかと思ったが、通ってしまった。
屋根しか見えない神社に手を合わせ、8時過ぎ勇躍三ノ沢へ向けて登り始めた。先行の方が一人。この方も三ノ沢が目的だった。
リッジ稜線を超えたあたりで追いつき、先に行かせてもらった。雪質はクラストしていたり、パウダーだったりと、さまざま。恐らくこのパウダーは4/27に降雪した際のものだろう。トレースはほとんど消えかけている。前日は登山者がいなかったのだろうか。千畳敷からきっちり2時間で三ノ沢岳到着。360度の展望に満足した。行動食をとってすぐに出発。ほとんど同標高間の釣り尾根だから行きが2時間なら戻りも2時間だ。
12:35主稜線に戻り、宝剣に向かう。主稜線から見る宝剣岳は三ノ沢岳や千畳敷から眺めた山容とまったく異なり、左右が絶壁近く切り立っていた。取付に到着したとき、数分前に出発したと思われる単独行者が指呼の距離にいた。声をかける間もなく、すいすい先に行ってしまう。熟練者とみた。自分と同じ境遇ですぐ近くに先行者がいるというのはアンザイレンしていなくとも気持ち的には助けられる。ピッケルをしまい、ゴム手袋に替える。雪はところどころに張り付いているが、全体的な行程としては露出した岩の方が多い。アイゼンをはずそうか迷ったが先行者の足跡に爪跡があったので装着したままにする。鎖もあるにはあったが手に届かなかったりで心もとない。最初の岩場を乗り越えるとき、アイゼンよりはグリップのきくゴム底がよいと感じ、アイゼンを外した。それで最初の岩稜帯は問題なく通過できたが、今度キレットに木曽側の斜面を下りて降下しなければならなくなった。降下するにはどうしても薄くシャーベット状の雪が載る急斜面の上を歩かなくてはならない。コースが間違っていない証拠にペンキの丸と先行者の足跡はある。再びのアイゼン装着は必須だろうがこれだけ気温が高くなりぐしゃぐしゃの雪で踏みとどまることができるだろうか。自信がない。なぜこれほどの斜面(滑落したらおしまい)に1本の鎖もロープもぶら下がっていないのだろうかと半ば憤りすら感じる。恐らくはこんな手前でちゃんと持参のロープでロープワークして降りられない人は宝剣に登る資格はありませんよ、というメッセージなのだろう。頂上から降りるときはもっと怖い思いを覚悟しなければなるまい。13:00引き返すことにした。先行者はもう頂上近くの雪渓まで登っている。ピッケルを出して登っている様子だった。あの調子でなら確実に頂上に到達できたはずだ。
千畳敷まで降りてきたのが14時過ぎ。登山届を提出した窓口に行ってみると、はたして下山届を書いている人がいるので私も続く。下山届には名前のほか、登った山と登山道の状況を書く欄があり、「三ノ沢;特に危険なし、宝剣;岩と雪のミックスで現在の技量では無理と判断し、引き返した」と記入した。窓口の人は私の提出した下山届を受け取ると何やら驚きを隠せず緊張した面持ちで登山届との照合を始めた。
「何か問題でも?」
「実はあなたは遭難者として認識されています!もう自宅や警察にも連絡がいっています!」
「なぜ?]
「宝剣岳を極楽平方面から登っていた単独行の方が滑落されたとの目撃情報がありました。本日提出された登山届で極楽平から宝剣岳に登る計画が出されていたのはあなた一人だったのでそう断定されました。警察にはあなたの無事を連絡しますから、あなたも自宅に連絡を入れてください!」
「遭難された方はどうなったんですか?」
「残念ながら・・」
私は誤報であったとしても家族の嘆き悲しむ姿を想像すると胸が痛んだ。家の電話も細君の携帯に電話してもつながらない。そのうち携帯の電源が切れてしまった。食堂で電話を借りてとりあえず実家に無事を知らせた。(後で、自宅には連絡が行っていなかったことがわかり嘆き悲しまれずに済んだことを知った)
今回の事件で一番ショックを受けているのは他ならぬ私自身だ。私よりも数段山慣れした感じで登っていたその人の姿が目に焼き付いている。私などが無謀に突っ込んでいたらどうなっていたことか。ヤマレコ愛好者、特に私と同類の単独行者に強く訴えたい。こんな晴天無風のおよそ遭難という言葉が似つかわしくない日においてでですら遭難事故が発生するほど、宝剣岳は危険な山である。単独行、コンテは冗談抜きで自重すべきである。
5/6新聞記事より
午後1時20分頃、長野県上松町の中央アルプス・宝剣岳(2931メートル)北陵付近で、登山中の男性が滑落。男性は県警ヘリで病院に搬送され、死亡が確認された。木曽署が身元を調べている。
亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。
昨日、宝剣岳からの滑落事故で命を落とした者の娘です。
父がどのような所に行き、どのような所から滑落したのか知りたいと思い、色々と検索していたらこちらのサイトが見つかりました。
父の最後の姿を見られた方だとお見受けいたします。
写真に写っているリュックは水色と黒のリュックだと思うので、おそらく父の後姿です。
最後の勇姿を見れた事、とても嬉しく思います。
父は20歳の頃から登山をしています。
装備も心構えも、しっかりあった人です。
体力も身体作りも、しっかりありました。
私は山のことは無知ですが、主さんの言うように、危険な山なんですね。
そんな危険だと分かっていても挑んだのは、覚悟があってだったと思います。
山が好きで、山が恋人で、山で死ぬ事を本望としていた父でした。
本日父と対面をしましたが、不幸中の幸いなのか、ほぼキレイな顔でした。
山で最期を迎え、幸せだったのかもと思います。
私は子供の頃に道なき道の登山に付き合わされていたせいか、登山が嫌いです…。
ですが、登山の魅力や楽しみが父には大きいものだったと思います。
山は強く美しく、そして残酷でもありますね。
これ以上、同じように命を落とす方がいないよう、心から願うばかりです。
正直、実感もいまだになく、受け入れられてはいませんが、見送る次第です。
主さんもくれぐれもお気をつけて、登山を楽しんで下さい。
長文、失礼しました。
このたびはお父様を亡くされ、本当にお気の毒でした。 遭難時のヤマレコを書いたことを許していただけますか。無謀?勇敢?人はいろいろな評価をお父様の行動に与えるかもしれませんが、最期の様子を記録に残すということが私には何よりも大切で、本人への手向けになることだと私には思えてならないのです。
身元がすぐにわかって、ご家族の元に帰られたのがせめての救いです。私など単独行をしていると、ここで遭難したら、誰も助けに来ないで遺体は山で朽ち果てるのだろうなと覚悟することもたびたびですから。
お父様は宝剣岳山頂を極めて北側に抜けようとされたのだと思います。遭難時の目撃者が遭対協の方ということはきっと北側の宝剣小屋からの目撃だったのたと思います。
私もお父様と同じ横浜の者です。今更もしをいってもはじまりませんが、もう少し早く私が取付に来ていたら、会話ができてお友達になれたかもしれません。
お安らかに。
許さないはずはありません。
むしろ、感謝しているくらいです。
最期の勇姿に会えたのは、あなたが書いてくれたおかげなのです。
偶然とはいえ、父の姿を写してくれて、ありがとうございました。
また、このレコを書く事に勇気が必要だったと思います。
勇気を出して書いていただけた事にも感謝します。
きっとnatoshiさんもまた山に行くのでしょうね。
自然、風景、山を楽しんできて下さい。
でも、無理をせず、必ず無事に帰って下さい。
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