槍ヶ岳
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- GPS
- 56:00
- 距離
- 32.6km
- 登り
- 2,612m
- 下り
- 2,605m
コースタイム
5/15 4:30双六小屋〜9:30千丈沢乗越〜11:00槍ヶ岳山荘11:10〜11:28槍ヶ岳頂上11:40〜11:55槍ヶ岳山荘12:05〜13:30槍平小屋〜14:30滝谷避難小屋〜19:00白出沢
5/16 6:30白出沢〜7:40白出小屋〜9:30新穂高温泉無料駐車場
天候 | 5/14 曇り、時々晴れ、30分位あられ 5/15 晴れ 5/16 曇り時々小雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2009年05月の天気図 |
アクセス | |
コース状況/ 危険箇所等 |
登山ポストは新穂高温泉入り口に有る新穂高登山指導センターに有ります。 双六冬季避難小屋使用料金1000円 登山路と下山路を変え、又右俣谷を歩くのが始めてといったこともあり、滝谷避難小屋を超えたデブリの辺りから登山道が解り難く3時間位ロスタイムが有りました。赤いリボンも非常に少なくこの時期はかなり解り難いと思います。 |
予約できる山小屋 |
槍平小屋
|
写真
感想
槍平小屋を越え藤木レリーフまでは絶好調だったが、ここからどたばた珍道中になってしまった。また長文になりそうです。
昨年のちょうど今頃は初めての南アルプスで過ごしていた。結構しんどかったが、それなりに充実した時間を過ごすことができた。
今年はどうやら北アルプスへ向かうチャンスが廻って来たようだ。休みと好天が重なっている。
好天が続けば間違いなく雪は安定しているだろうし、気温も最高に低くなって−5℃程度だろう。
何日かけてどういった行程をとろう?普通のラインで槍ヶ岳へ行くのでは今ひとつ気持ちが入らない。ネットで水晶岳までの日帰りというやつがあったが、そんなことが可能なのか?マウンテンバイクとスキーを使い往復40km累積標高差4000m以上。しかも50歳位。ありえない、、ちゅう房温泉から槍というのも有るが車だとピストンになるか下山してからバスと電車を乗り継いで車へ戻らなければいけないし、日帰りはやはりありえない、、
燕も絡めたいが車だと今ひとつ良いラインが解らないしヤマレコの聖地なので又今度ゆっくり考えよう。
槍の日帰りはありえそうだが、せっかく北アルプスまで車をとばすのだから久しぶりにテントへ泊まりたい。
とりあえず1日目穂高温泉から双六小屋へテント、2日目水晶ヶ岳ピストン、3日目双六小屋から西鎌尾根を通り槍ヶ岳を経由して新穂高温泉へもどるとしてみよう。
この時期としてはそこそこハードなスケジュールだろう。久しぶりのテントを背負っての山行で今ひとつ自分の体力も解らないが、この行程だと色々な所で端折る事が出来る。
しかし前日になり気圧配置の移動が早まり3日目が曇り後雨の予報になってしまった。天気図も3日目は微妙で怪しい。まあ、とりあえず双六をめざして出発しよう。
新穂高温泉にある無料駐車場に車を駐める。先客は2台有り。一人用のテントがその横に一つ張ってあり就寝中のようだ。まだ3時半だしここまで4時間運転しているので少し自分も寝ようと思いリクライニングをたおす。どうも気が立っているせいか熟睡できない。30分くらい横になってから準備を初めいざ出陣を決めた。
車のフロントガラスと登山指導センターへ登山届を出し、前回歩いた林道の入り口へ向かう。前回はちょっとしたハイキングだったが、それだけでも気分的に結構違うものだ。
歩きながら穂高連峰を右に見上げると雪はまばらに残っている程度だ。林道を3km位進むと雪崩れによって出来たデブリが道を塞いでいる。さほど大きくも無く乗り越えると、またデブリが現れた。今度は大きそうだ。上へ乗り上げて見渡すと、そこはさっきまでの景色とは打って変わり十分な冬の装いを呈している。いよいよ北アルプスが始まったようだ。しかしこの雪崩れを食らったら人間の力など何の意味も為さないだろう。
しばらく進むと徐々に斜面の傾斜が増してきた。弓折岳の稜線へ直接登るラインも有るようだが、鏡平も見てみたいし距離も大した違いが無さそうなので鏡平を目指してみる。
もう大分来ている筈だが鏡平小屋が見当たらない。GPSで確認するとなんと既に通り過ぎている。
振り返ると山影にほとんど雪に埋もれた鏡平小屋の屋根が見える。当然、鏡のように平らな池に映る逆さ槍どころか池も完全に雪に埋もれていた。
ここで軽く休みを取っていると急にガスが濃くなり風も強くなりながら空からはあられが降ってきた。
「え!ゴーグルなんて持ってきてないぞ」
天気予報では今日は晴れ時々曇りで明日は高気圧のど真ん中。明後日は日本の東側に大きな前線が出来て曇り後雨。しかし今日は今のところ空はほとんど雲に閉ざされ霰まで落ちてきた。北アルプスは余り天気予報をあてに出来ないのか?この調子で行くと3日目の天気が怖い、、
明日水晶岳までピストンして新穂高温泉へ直接帰るか、水晶ヶ岳をやめて槍ヶ岳へ直接行くことにするか。3日目に疲れた身体をひこずってガスによって視界の無い中、雨、風、霰に打たれ、初めての西鎌尾根を行くのはぞっとする。しかもその日のうちに新穂高温泉まで下りる予定でもあるし。
ここは晴れた中を初槍へ気持ち良く向かうことにするとしよう。その日のうちに新穂高温泉まで到達できなくても何箇所も非難小屋も有る事だし。
鏡平から傾斜30度位から40度位の支尾根を弓折岳へ登っていく。表面には10cm位の軟らかい雪が積もっていてその下は完全に凍りついた斜面のようだ。普通にアイゼンを蹴り込んだのでは全く効かないしつま先も痛くなる。所々ピッケルで足場とテラスを切り込みながら登っていくことにした。
最近読んだイタリアの超人クライマー、ヴァルテル・ボナッティーの「わが生涯の山々」によくこのアイスバーンの足場切が出ていた。
この悪所の為に数百メートルを登るだけで予想外に時間がかかり疲れた。ただ天気の方は霰も止んで好天に向かっているようだ。
稜線の手前、岩陰の平らになったテラスで行動食を取り十分に休憩をとることにする。
ここで某大手の登山用品専門店で買った海外製のスポーツ栄養補給食品をとるとこれがまずい。しかもそのまずさが尋常ではない。その味を例えるなら食感は今まで感じたことの無いボンド?味は工業用燃料?思わず身体の防衛本能が働いて吐くかと思った。これは本当に口に入れるものなのだろうか?実はデコに塗るとかでは?
しかし、これをよく商品化しようと思うものだ。当然テイスティングもやっているだろうに。これを考えると日本のスポーツ栄養補給食品などうますぎる。ただ最大のメリットは小さくて軽い。もし燃料としての効果が絶大なら良しとするか。
弓折岳から双六小屋への幅の広い稜線をとぼとぼと歩いていく。西には双六南峰、北には鷲羽山や水晶岳、東には槍ヶ岳や穂高連峰へ繋がる稜線、そして南には遠方に乗鞍岳を見渡すことができる。
明日向かう西鎌尾根から槍ヶ岳へ向かう稜線もはっきりと見渡すことができ、槍ヶ岳まで双六小屋からは5km位なのだがなぜか遠くに見えるようだ。
行動時間も10時間を越えてきたのでペースも落ちて、16:00になり、やっと双六小屋へ到着した。小屋は綺麗にしてあり本日の利用は私1人のようだ。中にテントを張り快適に過ごさせてもらうことができた。この小屋は小屋内に書いてある住所に利用料の千円を後日郵送するそうだ。添えつけのノートを見ると、この冬は数人しか利用していないよう。
ただ冬季の入り口がとても狭いので、初め入るときに変な体勢になってしまい身体が疲れているため筋肉がつりそうになった。
あとシュラフにもぐり込むと、外はそこそこの風が吹いていたので、どこかの扉がガタガタと永遠に鳴り続けていた。
オレンジ色の太陽は今日の仕事を終えて山陰に帰っていった。ひんやりと澄んだ空気の中、深い紺色の空には七分の月が銀白の強い光を放ち明日の好天を約束しているようだ。
風音で何度も起こされたが、それなりに眠ることができ3:00過ぎには起きることができた。できれば4:00位に出発し、始めの30分から1時間位はヘッデンで歩きたいと思っていたっが4:30出発になった。
西鎌尾根の取り付きはとても緩やかで徐々に身体を慣らしていくことができる。昨日から稜線上は適度にクラストして歩きやすかった。気温も−2℃位で無風。絵に描いたような快適さだ。
北アルプスの山々に囲まれながら、その深い懐を借りて槍へ向かい一歩一歩、歩みを進めていく。ただ本日の予定は、昼に槍まで到達し、その足で新穂高温泉まで下りて、あわよくば最終入場20:30の平湯温泉へ20:00までには入りたいという、ちょっとお馬鹿な予定を立てたので、あんまりのんびりもしていられない。
ただ地図上で見ると、この西鎌尾根の核心部はもっと先の岩稜地帯にあるのは間違いないだろう。
初めのうちは雪庇だけ気を付けていれば問題無かったが、徐々に凍結したトラバース斜面が出てきた。
1ヵ所上を巻くか、斜面を渡るか一瞬考え、10m位の完全に凍りついた40度強位の斜面をピッケルで足場を切りながら渡ったのが最大の核心だった。やはり雪や凍結、風、気温などの条件が変われば厳冬期は相当な覚悟が必要だろう。この10mのトラバースでもザイルで確保したいと思った。フリーでいくのは相当緊張する。
ボナッティーの「わが生涯の山々」にある写真を見ると、ほぼ垂直のガチガチに凍った壁を30m位トラバースし、そんな中で永遠と続く足場切を続けている。その間にもセラックの崩壊が爆音を立てているというぐあいだ。
槍の方までの最後の急斜面を迎える。ここは雪面の状態によって難度が全く変わってしまう。もう10時になり太陽は照りつけ気温も上がってきている。
とりあえず取り付く前に一度身体を休め、もう一つ残っている激マズ栄養剤と行動食をとる。
いざ取り付いてみると、斜面はクラストして非常に歩きやすい。これは思ったより早く肩まで到達できそうだ。
ただ斜面はそこそこ急な傾斜で、確実にアイゼンを蹴り込みピッケルを決めての一つ一つの作業なので、細かく小さな休みをとりつつ登り結構疲れた。
なだらかに盛り上がった槍の肩まで登り切ると、適度な充実感を感じつつ豪華な造りとうわさの槍ヶ岳山荘へ顔を出しに行ってみることにする。時間はちょうど11:00。ほぼ予定のベストだろう。山荘の横には小型のユンボが有り、奥ではスコップを使い除雪中だ。
アイゼンをはずし山荘の玄関へ入ると、いきなり右側にビールとジュースの販売機。奥のほうにはウィスキーのボトルが大量に並んでいる。左奥には少し薄暗い中、カウンターが有るようだ。
複雑な気持ちで眺めつつ、悩んだ末に300円のCCレモンを買う(笑)
頂上までの岸壁には雪は付いていないが、所々雪に足跡が付いているのが見える。山荘の方に今の状態でアイゼンとピッケルは必要なのか聞いてみると、無くても登ろうと思えば行けなくは無いが、一応ピッケルは足場を切るのに有った方が良いと仰るのでそのようにしてみることにする。
外に出て柔軟体操をし、疲れた筋肉をほぐし少し休めた後に槍の矛先へ胸を借りに行くことにした。夏場に撮った写真を見ると、登山者が数珠繋ぎに並んでいるが今日は貸切のよう。
今までに見た情報などによると頂上までは30分位のことが書いてあった。どの位かかるだろう。危なくない程度にキビキビと登ってみるか、と取り付くとすぐに足がスリップして安定しない。やはりアイゼンは必要、ともどり仕切りなおす。
鎖や梯子も有るので特に問題も無く17〜18分で登ることができた。ただこれらが雪に埋まり凍り付いて岩とのミックスになったら別世界だう。梯子の架かっている部分はほぼ垂直だ。
また山荘へ戻り300円のCCレモンをもう1本飲む(笑)日頃炭酸飲料は殆ど飲まないが、今妙に恋しかった。一応これから下まで降りる予定だし、使えるものは使ってしまおう。
山荘の方にこの時期、新穂高温泉までどの位かかるのか聞いてみると、ちょっと戸惑ったような顔をしたが、今朝7:00に出発した女性が先程到着したとの電話があったそうだ。という事は今12:00だから下まで5時間。ただ小屋泊りのため当然ザックは軽いはず。これは楽勝で平湯温泉へ入れ、その上飯まで食えるかもしれない。
12:00時を過ぎた位に山荘を経ち飛騨沢へ向かう。飛騨沢は表層雪崩の後も3ヶ所くらい有るが問題ないだろう。
一気に尻セードで下りまくる。快適快適、こんなに滑ってアウターは大丈夫かいな。
槍平小屋まで到着すると、とりあえず心で手を合わせ、気になっていた周りの景色を視まわして見る。
小屋周りはそれなりに樹齢の有りそうな木々に囲まれて、折れた形跡が無い。ここで2007年に大雪崩が起き4名の方が亡くなっている。
この状態から雪で2m上がったとするとどうだろう。沢の反対側からの大雪崩のようだが、かなり距離もある。安全圏を探すのに堆積区の見通し角度は山間性気候では雪崩発生地点から20度〜23度と有るが、そんな所は有ろうはずも無い。豪雪になると、もう出来るだけ確率を下げるしかないのか。雪洞を下に掘ると、上が埋まっても脱出できるというのはどうだろう。雪に空気が浸透する比率は高く、中の空間が広いと窒息しないようだ。4人のご冥福を祈り先へ進むことにする。
槍平小屋を越えた辺りから大デブリが1km以上つ続いている。1番深いところは何メートル位有るのだろう。10m位は十分有りそうだ。厳冬期などここでのビバークは有り得ない。
滝沢出合いの辺りでデブリの下から沢が流れ出している。地図では左岸を行くことになっているし、右岸へ行くと川幅はどんどん広がるので戻れなくなりそうだ。しかし消えかかっている踏み跡がどうも右岸へ行っているようだ。が左岸にも踏み跡がある。最終的に左岸へ行くのだから安全パイを取ってここは左岸を進んでみることにする。確かに踏み跡らしきものも有る。
しかし暫く行くと行き詰ってしまう。その先をこれまでの登山者が通ったとはとても思えない。上を巻くにしても同じくだ。
諦めて又もとの分岐点に戻って右岸を進んでみると、こちらが正解だった。暫く行くとすぐに川を渡り左岸へ戻り先へ進むことが出来た。ロスタイムは15分〜20分位だろうか。
ちび沢手前の200m位のデブリを越えていく。デブリを越えた対岸の森にある登山道の入り口は何所だろう。比較的はっきりした踏み跡が1つ、下のほうへ向かって進んでいる。しかし上にも古い踏み跡が進んだような跡が有った。地図上では夏道は上のほうに有る。
GPSも見ながら森の上のほうと下のほうを両方確認しがら、真ん中を進み近づいて行くと、河原に近い森の下のほうに樹が開けた場所が有り、赤リボンも確認できた。あれが冬道なのだろう。そちらの方へ向かって進み森の中へ入っていく。ここまで来ると雪もまばらにしか残っていない。赤いリボンもそれっきりで少し不安になってきた所で、誤って落としたらしいサングラスと、また暫く行くと空の栄養補給食の入れ物が落ちていた。ここを登山者が通っているのは間違いないようだ。
途中完全に河原まで降り、石の上を歩きながら河原を下っていると、どうも結構困難な悪路になってきた。ここを先行した登山者は通ったのだろうか。
ここを越えるには必ず足を置かなければいけないと思われる雪の上に踏み跡が無い。先行者もここで行き詰って引き返したのだろうか。地図やGPSで見ると夏道は70m〜80m位上を通っている。
ここで少し引き返し、上の歩きやすそうになっている森の中へ入ってみる。登山道ぽくなっているが雪の上に踏み跡が無さ過ぎる。
又、引き返してもう少し上の方を登ってみる。地図上の夏道も上の方だし、しばらく行けそうな森の中を上の方へ向かい進んでみるが、どんどん木々の密度も高くなり、倒木も増えて行き詰ってしまう。ここを無理やり突破していたら100m進むのに1時間位かかりそうだ。
とりあえず下には下り易そうなので進んで行くと斜度がかなり急になってきた。木々の陰から沢らしい様子もちらちら見えるがまだ大分下のよう。無理に下れば何とか為るかも知れないが、最悪崖っぷちに出て上り返すことになったら最悪だ。ザイルも荷物の軽量化優先で持ってこなかったし、ましてや河原がルートになっているとも限らない。少なくともこんな所誰も通っていないだろう。
泣く泣くもと来た道を登り返しながら戻ることにした。
GPSを見ると夏道も一度越えているようだが、それらしいものは見当たらなかった。
「どうなっているんだ〜こんな所で迷子?」(この辺りの写真は余裕が全く無くなったので撮っていません)
ボナッティーは進歩しすぎた装備を非常に嫌っていた。GPSなど以ての外だろう。無線すら冒険の要素を著しく下げると言っている。もっと時間と体力が有れば自分も準じたい所だが、今は全く無理無理、、
もう1時間半位は道探しに費やしている。ザックを背負ったままなので疲労がかさんできた。ある程度戻った所でザックを置き、GPSのバッテリーを変えてルート探しに、もとのデブリまで戻ることにした。赤いリボンが見えた森の入り口まで戻るが、赤いリボンが見当たらない。先程のは錯覚だったのだろうか。しかし踏み跡もこちらへ向かっていたし、サングラスもゴミも落ちていた。
その辺りをウロウロしていると、最初に遠目に見えた赤いリボンを発見することができた。少なくとも冬季ラインなのは間違いない。ザックまで戻り背負いなおして、又沢沿いを進み始めた。
しばらくすると上からデジカメが降ってきた。え、っと一瞬頭が真っ白になる。どこから?
そうだ、先程GPSのバッテリーを交換したときに、ザックの天上ポケットを開けて閉め忘れていたのだ。
時間もどんどん過ぎ、疲労も増して気持ちも追い詰められてきている。信じられないようなミスが出始めた。
ザックを降ろし天上ポケットの中身を調べると財布が無い。やられた!しかし、不幸中の幸いにチャックを閉め忘れた場所からは、それほど歩いていない。戻って探すか。意を決し、ザックを置いて又もと来た道を財布を探しながら戻ることにした。
もう既に5時前で、風呂どころの話では無くなった。明るいうちに降りることができれば十分だ。
記憶を辿り、色々な可能性を考え探していると、ほどなくして財布を見つけることができた。意外と早く見つけることができた。今、自分は運が良いのか悪いのか、どっちなんだ、、
少なくとも初心には帰れるか。いや、初心に帰れということか。
基本は同じ波長のエネルギーは呼び合う。440ヘルツの音叉の音を振動させると、同じ波長にチュ−ニングされた弦などは共鳴し鳴り始める。ポジティブなエネルギーにはポジティブなエネルギーが、ネガティブなエネルギーにはネガティブなエネルギーが、笑顔には笑顔が、怒りには怒りが、憎しみには憎しみが、愛には愛が。アッシジの聖フランシスコでは無いが憎しみに対して愛で返すことができたら本物なのだが。
ザックまで戻り背負いなおして出発する。一番最初に河原を下っているとき、不審に思い引き返した場所まで戻ってきた。その大きな岩へ登り、乗り越えて下の河原へ降りると直ぐ先にまた踏み跡が続いている。道が開けたということか。今までの時間は何だったんだ、、
この辺りからやたらと落とし穴に落ちるようになってきた。全く見えない樹の穴などはしょうがないにしても、大きな岩の淵辺りの岩熱で中が溶けて穴になっていそうなところ等、いつもなら避けて通る所で踏み抜いてしまう。それ程意識は濁っていないつもりだが、注意力が落ちているということか。ベストの状態では瞬時に多くのことを見つけ判断し行動しているのだろう。
しばらくしてストックに違和感を感じるのでよく見ると、片方の先が折れて5cm位無くなっている。
そういえば先程雪面を踏み抜いて派手に転倒した。バランスを崩したときにストックを雪面に刺したら、ストックまでもが落とし穴に入り、おそらくそこで折れたのだろう。
判断力が落ちているのを意識しつつ、ペースを落とし進んでいく。明るい内に解りやすい登山道か林道まで何とかたどり着けば、後はヘッデンでも歩くことができる。
河原を歩いていると行き詰まり山へ戻され、そのまま夏道を目指そうと思うと行き詰まり又河原へ戻される。たま〜に現れる、しかも変な位置についた、これまたふる〜い赤リボンなど殆ど気休めか返って混乱するだけだ。
河原へ下りようと、土に埋まっている比較的大きな石に手をかけると、動き出し地面から外れた。150kg位は有りそうだ。一瞬やばい、と思うが自分の体勢も悪く飛び退く事ができない。なんとか避けようとすると、石は左足に当たり河原へ落ちていった。緊張しているせいか、軽い痛みが有るだけだ。
「やっちまった、折れたか?」
恐る恐る動かしてみると大丈夫のようだ。より慎重になり一歩一歩進むことに。
河原へ降りて大きな石の上を一つ一つ越えていく。石はみな乾いているようだ。乾いているが河の流れに磨かれているからか、山の石より靴裏のフリクションの効きが甘いな、などと思いながら大きな岩の少し斜めになった所へ足を置くと滑って足が外れ、岩の下に身体ごと落ち始めた。とっさに下を見ると水、、まじで、、、ドップ〜ン、、、まじで、、、
だめだ、もう完全に「どたばた珍道中、お笑い万遊記」になってしまった。
始め身体に水が入ってこないので、ゴアテックス?と思っていると、ザーと一気に入り込んできた。行動中は厚いのでアウターの上も下も横チャックを全開にしていた。しかし以外に水は全く冷たくない。河から立ち上がり岸へ上がる。深さ50cm位の本流から外れた横の淀みに、尻から落ちたので腰から下がビッショリだが、靴の中は大丈夫のよう。
もうこれで今日中に下山するしかないのか。とりあえず寒くないのでこのまま行こうとも思うが、徐々に水が靴の方へ滴っている。
インナーの上下と靴下は予備が有り、中間着は今回薄手と厚手の2枚を持ってきていたので、着替えることにする。
インナーの着替えは今まで1度も使ったことが無かったが、今回は初めて大活躍となった。
ザックも下のシュラフを入れた所が水に浸かったが、防水の袋の入れていたので無事だった。
一応、周りを一通り見回してフル○ンになり着替えることにする。時計を見ると6:30。6:50分が日の入りだから、あと30分で暗くなる。
視界が良くても苦労しまくるルートファインディングなのに、ヘッデンで目の前だけ見えてもどうにもならない。とりあえず明るい内は歩いて前へ進もう。
19:00前、いよいよ薄暗くなり視界も悪く、河原もパット見ルートファインディングの必要な箇所が出てきた。
とりあえず座って一休み、、はぁ〜ぁ、、、とため息、、
本日終了〜!ここで撃沈ビバーク決定!
1ヵ所丁度テント分くらい比較的平らな所が有ったので、石を除けてとっととテントを立て潜り込む。水は目の前に死ぬほど流れているし。ちょうど水場らしく、登山者の降りた形跡もいくつか有るようだ。
ただ、とにかく水の流れる音がゴーっとうるさい。こんなんで寝れるんかいな、、
翌朝になり目を覚ますと外は薄明るくなっているようだ。自然に目が覚めたので気分がいい。
ぼーとしながらシュラフから頭を出すと、ゴーっと水の音が聞こえてきた。シュラフが案外耳栓の役目を果たしてくれていたらしい。
テントから顔を出し、外の空気を一杯に吸い込みながら辺りを見回すと、外の空気は薄い靄の中、神秘的に漂い、私の存在とは関係なく、ずっとそこに留まり続けていたようだ。
何時に出発しよう。新穂高温泉まであと2〜3時間ってところか。
平湯温泉がおそらく10:00に開くから、その辺の時間を目指して行き、ゆっくり温泉で長風呂して出た後にうまい昼飯でも頂くか、とあくまでも風呂優先。実はものすごい風呂好き。
荷物をまとめて出発する。夕方解り難かった所も、明るくなり元気が回復するとまた違って見える。
山の方へ登って行くと直ぐに又河原へ向かっているような形跡と、山へ向っているような形跡が有る。最後の最後までとことん解り難い。
しかしこの辺りは木々の密度も比較的低いから、それほど困難も無く進めそうなので斜面を登り白出沢の夏道の方へ直接目指す。
河原まで来ると河原に下りるには結構な斜面が高く聳えているので、いちばん楽そうな所を探し河原まで降りて、石がゴロゴロの上を上流に向って進むと、やっと堰堤が見えてきた。乗り越えると何かの建築物が現れ、やっと林道へたどり着き完全に先が見えたようだ。
穂高温泉側から対岸を見ると、夏道のマークがはっきりと付いている。きっともっと楽なコースが有ったのだろう。登りと下りのラインを変えると意外な所に困難が待ち構えていた。
ただ昨日のうちに、もし楽に新穂高温泉まで下りきり、ぬくぬくと平湯温泉に入っていたら、きっと自分に勘違いしていたであろう。実はこの予定外の行動にこそ非常に価値の有るものが隠されているに違いない。
河へ落ちた時に結構強く右足を挫いたので、ごまかしごまかし林道をゆっくりと下っていると、男女2人組のパーティーが登ってきた。そういえば今日は土曜日だ。しばらく立ち話に話が咲き分かれた後下山した。
登山ポストに少しねちねちと、この時期登山道が解り難かったと書いて駐車場に向った。
ただ確かに赤いリボンが街灯のように付いているのも興ざめだし、そもそもそんなもの当てにするようでは、こんな所にくるなという感じもするが。
前回もそうだったが平湯温泉の泉質は自分にとっては抜群に良いようだ。
右足を挫いて炎症を起こしているだろうから、高温に長くつけるのは良くないと思い、まず水風呂でしばらく足を冷やしてから温泉に浸かった。思わず「イェ〜イ」。
本当は身体中が痛いはずなのだろうが、嘘のように痛みが消えて感じない。身体に感じる感覚が普段と全く変わらない。
しかし温泉は気持ちよすぎる。露天風呂にある65℃の源泉が出ている湯船に入り、身体を伸ばしきってこの3日間の感慨にふけってみる。ぼーっとお湯を眺めていると、湯の花がゆらゆらとお湯の流れに身を任せ、北アルプスの自然の持つ長い歴史や情緒を感じさせながら漂っている。
ほっとくと永遠に居てしまうので、ほどほどに切り上げて
出た後、食堂へ行き前回食べそびれた定食と生豆腐を平らげ帰路に着いた。
丁度昨年の今頃は、南アルプスで北岳を目指し、登りの時点で道に迷い遥か手前で敗退した。
しかし今思うと、その予定外の展開に、いや予定外の展開になったからこそ自分のパワーの源になる部分が多く隠されていたような気がする。
今回は体力も判断力も一昨年に比べたら、遥かに上がっているだろう。しかし後半「どたばた珍道中、お笑い万遊記」になってしまったが、ここにも多くのことが隠されているのだろう。
最近読んだボナッティーや小西政継氏の登攀記に比べると、私の山行など旅館へ行って温泉に入っているようなものだ。しかし不思議なくらい共感を持って読むことができる部分が有る。
それぞれの立ち向かい方は色々有るのだろうが、全霊を持って謙虚な気持ちを忘れずに立ち向かっていくと、山は皆に平等に何かを与えてくれるのかもしれない。また次の機会が来たら謙虚に立ち向かわせて頂く事にしよう。
ゴールデンウィークも終わり山も静けさが戻ったのではないですか?
暖かいといっても、雪はしっかりあってきれいですね。
北アルプスは都会の喧騒を離れた抜群の静けさでした。
穂高温泉から双六小屋、、槍ヶ岳山荘までは1人も遇っていません。
槍ヶ岳山荘から白出小屋でも同じくです。
比較的安全な雪の有る北アへ行くのならこの時期は良いと思います。
ただ、やはり結構渋い箇所も有るので、それなりの装備や知識、経験、体力などは必要でしょう。
天気が崩れると当然別世界ですし。
riekoさんも機会があったらエンジョイしてください。
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