遥かなる仙塩尾根、秋山の恐ろしさを知る‼️


- GPS
- 27:31
- 距離
- 67.5km
- 登り
- 4,620m
- 下り
- 4,591m
コースタイム
- 山行
- 10:14
- 休憩
- 0:52
- 合計
- 11:06
- 山行
- 13:19
- 休憩
- 0:38
- 合計
- 13:57
天候 | 1日目 晴れ 2日目 昼頃までは高曇りでまずまずも、 1時過ぎから結構しっかり降雪 3日目 しとしと降り続く雨 |
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過去天気図(気象庁) | 2023年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
自転車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
秋山の恐ろしさを身をもって知った。おまけに、久々にチョンボもしでかし、危うく間抜けな遭難劇を演じるところだった。 北アルプス南北全踏破後、リハビリ登山として「伊奈川ダムからの空木岳、南駒ヶ岳、越百山周回」、「荒沢岳登山口からの裏越後三山周回」を余裕を持って楽しんだ。また山岳会にも加入し、本格的にクライミングも練習し始めた。しかし、張りきり過ぎたのか、会の岩登り訓練で下手くそなフォールをしたせいで、脇腹と膝を痛めてしまった。体を完治させるため、登山も会のジム練習もお休みし、しばらく静かにせざるをえなかった。そんな中、3連休が近付くにつれ、まだ膝に痛みが残るものの「そろそろ、ガッツリとした縦走をしたい」とマグマがふつふつと溜まっていた。 「どこを歩くか?」 2泊3日で歩き応え十分、かつ、行ったことがないとなると、かなり選択肢が狭められる。しかし、頭の中にずっと燻っている尾根があった。「仙塩尾根」だ。ヒカリモノさんが2021年6月にやった時は、まだ登山経験が浅く、その凄さが分からなかった。ただ、彼の驚速を持ってしても、テン泊装備では1泊では難しかった所に、ただならぬ壮大さを感じた。仙丈ヶ岳と塩見岳は、雪のある時期にそれぞれ地蔵尾根と三伏峠から登ったことがある。共に、半泣き撤退の末のリベンジでの登頂だった。南アルプスの巨大山塊を縫う長大な仙塩尾根は、溜まったマグマを解消するには十分なチャレンジだ。 しかし、3連休の天気を見ていると、2日目の日曜日の夕方から天気が崩れる予報になってきた。また、北アルプスでは、一気に雪山の様相を呈してきて、季節の急激な進行に驚いた。南アルプスはさすがに大丈夫だろうが、何とか1泊2日でやらないと、冷たい雨に打たれることになりそうだ。思慮深い山岳会の仲間たちは、次々と3連休の山行の行き先を変更したり、計画自体を中止し始めた。少しびびりながらも、「軽荷で1泊2日で行くしかないよな...」と、当初のヒカリモノさんの丸パクリ行程(雪投沢源頭と苳ノ平でそれぞれビバーク)から、熊ノ平小屋で1泊(テントか冬期小屋)へと行程を変更した。しかし、そもそも2泊でもチャレンジングなのに、1泊でやりきれる自信はあまりなかった。修正行程はこうだ。 • 自宅から柏木駐車場(地蔵尾根駐車)に前入りし、車中泊 • 翌早朝、そこから折り畳み自転車で、三峰川林道杉島ゲートまで行き、自転車をデポ • 杉島ゲートから長い林道歩きを経て、塩見新道で塩見岳 • 仙塩尾根に入り熊ノ平小屋まで行き、1泊 • 翌日、仙塩尾根を踏破し、仙丈ヶ岳 • そのまま地蔵尾根を下り、柏木駐車場 2日とも最低でも12時間行程にはなりそうだ。テントはクロスオーバードーム2G、ビールもフライパンも担がず、パックウェイトは13kg程度と、僕の中では超軽量に仕上げた。 前入りすることにしたのは、柏木駐車場は狭くせいぜい10台程度しか止められないからだった。自転車をジムニーに積み込むのに手こずり、自宅を出たのは午後9時半頃だった。ガソリンを満タンにし、最寄りのインターから高速に乗った。盲点だったのは、こんな普通の時間だと、高速道路が渋滞していることだった。思ったよりも時間がかかり、1時10分頃に柏木駐車場に着いた。驚くべきことに、3連休前の夜だというのに、メインの広い駐車スペースには誰も止めていなかった。「え?そんなにこの駐車場人気ないのか...」。まだバスの運行があるなかで、地蔵尾根から仙丈ヶ岳に登るドMはあまりいないということだろう。一段上の駐車スペースには、同じくジムニーが止まっていて、僕が到着するとそのジムニーの同世代の男性が話しかけてきた。彼は地蔵尾根ピストンのようで、もう出発するとのことだった。しばらくすると1台やって来て、僕の車の奥に止めた。彼はジムニーの脇に止めた僕の自転車を見ながら話し掛けてきた。驚くべきことに、彼は僕と全く同じ行程を同じく1泊で行くという。大きな違いは、彼は今からスタートするが、僕はこれから寝るということだった。「え!これから寝るんですか?」と、それじゃ着かないでしょうという言わんばかりに、彼は驚いた。「でも、寝ないと動けないんで。なので自転車です」と僕は答えた。少ししてから、「でも、自転車って杉島ゲートまでですよね⁉️」と、やはり着かないでしょうというトーンで再び彼は質問してきた。「はい。でも、最悪僕は2泊しようと思っています」と言うと、「でも、日曜日の夕方から天気崩れますよね...」と、考えていることはみんな同じだなぁと思いながら、「まあ、そうですよね...」。彼は、その後すぐにスタートして行った。結局彼が正しかったことになる。 この車中泊でまず最初の失敗を犯す。この時期の寒さを舐めてしまい、寒さでほとんど寝ることができなかったのだ。ザックにダウンがあるにも関わらず、普通の夏の登山服に薄手の毛布を掛けただけで寝に入ってしまった。やたらと寒くて全く寝れず、たまらず起き上がりダウンをザックから引っ張り出した。その後1時間程は寝れたが、完全に寝不足でのスタートになってしまった。僕の場合、睡眠時間が4時間を切ると、後半急速に失速することが多いので、先が思いやられた。 ダウンを着た後もあまりしっかりとは寝れなかったので、予定の4時半より少し早めに起き上がった。朝飯を食べ、荷物を片付けて、ジムニーの外に出た。もう1、2台ほど車が増えていたが、結局この時間でも駐車スペースには空きがあった。 自転車に股がると、またしても自転車の積み方に失敗したようで、ブレーキが片側しか効かなくなっていた。駐車場からまず結構急な坂を下るので、かなり慎重に運転した。「何とか運転できるだけラッキーだと思おう」。以前、自宅に着いてからだが、逆にブレーキがかかりすぎて、完全に進めない状態になったこともある。 杉島ゲートまでは、最初に猛烈に下り、橋を渡ってすぐ左に曲がり、しばらくフラットな道を行く。杉島の青い標識が出てきたら、橋を左に渡って、しばらくまたフラットな道をまっすぐだ。最後に軽い上りになり、ゲートに到着する。やはり、自転車を使える距離はそれほど長くはなかったが、歩くのに比べ30分ほど時間を節約できる感じだった。杉島ゲートの前に自転車をデポした。ここに車を止めることもできるとどこかで読んだが、あまり明確に駐車スペースは設けられていなかった。 三峰川林道の杉島ゲートから大曲ゲートまでは、ひたすら長い林道歩き。杉島ゲートに「小瀬戸第2堰堤まで18辧廚箸いΥ波弔出ていて、以降3劼瓦箸貌瑛佑隆波弔ある。小瀬戸第2堰堤は大曲ゲートにある堰堤のようだ。今まさに池田建設により工事されている。大曲ゲートを越えても大黒沢登山口まで同じような林道を行く。途中に巫女渕の霊泉延命水という水場がありジャブジャブだった。この季節ならあまり水を飲まないので、500mlくらいで杉島ゲートを出発し、ここで補給するなどして、できるだけ体力を温存する必要があるかもしれない。 大黒沢登山口からの塩見新道取付きが猛烈に難しい。やたらと工事車両が入っているせいかもしれない。まずは登山口の看板を素直に川沿いに上がって行くと「ルートを外れています」警告が出る。地図を見ると、その登山口の看板をすぐに左に行くようだったが、工事中で行けなかったように記憶している。仕方がないのでショベルカーが止まっている辺りまで引き返すと、右下に指導標が視界に入った。しかし、そこに行くのは工事中の部分があって素直には行けない。そっちに渡れそうな堰堤があり、参照したレコでは「洗い越しを裸足で渡った」とあったが、裸足になりたくなかった。よく見ると、ショベルカーが止まっている所から何とかその指導標まで下りることができそうだったので、慎重にざれた斜面を下り何とかそこまでたどり着いた。 ほとんど誰も歩いていないのか、そこから先も全く登山道がはっきりしない。微妙な踏み跡をトレースするも、ものすごく危ない斜面になって行き詰ってしまう。ふと遠くを見るとピンクテープが見えたので、そこまで危ないザレザレ斜面を慎重にトラバースし、何とかピンクテープに合流する。どこからそのピンクテープに行くのが正解なのか未だに分からない。そこからも微妙な踏み跡、朽ちかけ土から微妙に出ている木階段の「跡」を頼りに必死に道を定めながら登って行く。道が完全にはっきりするのは、かなり登った後だった。 登山道がはっきりしてからは、やたらとつづらに道が付けられているのが気になったものの、特に難しさはなく、むしろピンク(オレンジ)テープがはっきりだった。最後に権右衛門山の巻道ルートと合流する所(塩見新道分岐)には、反対側から塩見新道に入れないようにロープが厳重に張られていて、こちらから抜けるのに苦労した。 そこから塩見小屋はすぐだった。小屋の前からは、猛烈にデカイ塩見岳を仰ぎ見ることができる。小屋は結構賑わっていたが、また中国人のようだった。せっかくなので、僕もここで休憩し、おはぎセットを400円で注文した。お茶の種類を選べるということで、面白そうなそば茶にした。奥にいたご主人に、「熊ノ平小屋の水場出てるかご存じですか?」と質問すると、「この時期は出てると思いますよ」と答えてくれた。ちなみに、おはぎはセットを待つのに10分も無駄にしてしまった。他の宿泊者の受付でてんやわんやだったせいで、なかなか準備してくれなかったからだ。おはぎは10秒ほどで片付けた。 小屋から先も塩見岳までこの時期だけに特に難所はない。塩見岳から先も初めて行くルートだったが難しさはなかった。下りながら北俣岳分岐と道を分け、雪投沢源頭の道標にやって来た。予定では熊ノ平小屋まで行く予定だったが、午後4時に迫り、ここから3時間歩く体力が残っているかあやしかった。やむなくここでビバークを決断する。この道標を越え少し行った所に、ハイマツが切れた所があり、そこから下り幕営適地へ下りられる。かなり急なざれた斜面なので注意が必要だ。ここは基本ハイマツ帯だが、所々ハイマツのない部分があり、そこにテントを張るようだ。一番手前に一番平らないいスペースがあり、そこに幕営した。今日はここでビバークするのは僕だけだった。何人かいるとこの場所を確保するのは難しいので、もっと下まで下りないといけないだろう。 クロスオーバードーム2Gをさっと設営し、水を確保しに行った。ここが幕営適地なのは雪投沢の水があるからだが、これがかなりサバイバルだった。先程も言った通り、ここは基本ハイマツ帯なので、右手の沢に行くにはハイマツを避けながら道を探さなければならない。飛び石状にある幕営適地をつないでいき、ハイマツが切れている通路が右に伸びているところがあり、それを横切った。その先は灌木帯になっている。どこが沢かは定かではないが、その灌木帯の奥から沢水の音が聞こえてくる。灌木帯を下りながら右にずんずん進んで行き、土手の様になっている所を乗り越えると沢が出て来た。水が流れているのが見える。そこから水が流れている一番上まで少し登り、比較的しっかりした流れから3Lを調達した。ここまで来る途中、「これ、帰りの道分かるかな...」と若干不安に思ったが、「まあ、来た道を引き返すだけだから大丈夫か...」と気軽に考えてしまった。 完全に間違っていた。 2Lと1Lのソフトボトルを持ち、両手が塞がった状態で「適当に」右に歩いて行く。ここに来るまでにかなり下って、沢の源頭に向けて結構登ったのをすっかり忘れていた。灌木帯を越えると、ハイマツが切れたところがすぐに見つかると思っていたが、どこにも見当たらなかった。「ハイマツを適当に突っ切れば、切れ目が見えてくるかな...」と、不用意に恐ろしいハイマツの中に足を踏み入れてしまった。途中まで猛烈なハイマツを足で踏みつけながら進んで行く。しかし、このハイマツは簡単に抜けられるような規模のものではなかった。まるで新雪に不用意に突っ込んだ時と同様、人間の力では如何ともできない沼にはまり込んでしまったようだった。日没が迫り、焦りが出てくる。スマホを見るとバッテリーも25%しか残っていなかった。ヘッデンは持っているが、このままここから抜け出せず闇になってしまったら正気でいられるだろうか? 間違ったときの登山の鉄則「元居た場所に戻る」に従い、苦労して進んで来たハイマツ帯を、また猛烈に苦労しながら引き返した。冷静になろうと努めながらGPSを見ると、テントを張った場所より自分がかなり上の方にいることに気が付いた。「もっと下らないと」と灌木帯を左にトラバースしながら高度を下げって行った。この「下る」行為もさらなる深みにはまり込みそうで不安になったが、GPSを見ながら根気よく下りていくと、行きに通った記憶がある木がないぽっかり空いたスペースに辿り着いた。「これ、なんか見たことあるな…」。小さくガッツポーズする。しかし、まだ明確にそこからどう行くのが分からない。先程までより高度を下げるペースをゆっくりにしながら、ハイマツ帯を注意深く見て歩いていると、ハイマツが切れている通路のようなものが見つかった!それを抜けると、少し上に自分のテントが視界に入った。「よし!」。こういう不確かなルートを辿って進む場合は自分でピンクテープを目印に付けて行かなければならないと心底思った瞬間だった。 水探しで更に疲れ切ってしまい、この先の行程にも不安感が漂ってくる。そもそもこの行程は2泊3日で計画したが、2日目の夕方から雨予報だったので、無理やり1泊2日の行程を目論んでいた。その場合セオリーは、初日に熊ノ平小屋まで行き避難小屋泊だが、いきなり躓いている。それでも、明日15時間行動すれば柏木駐車場にゴールできると思っていた。ただし、それに耐えられる体力が残っていればの条件付きだ。1日15時間行程は何度かやったことがあるが、僕の場合、しっかりとした睡眠がとれていないと難しい。しかし、冒頭でも触れたが、その点でも既に失敗していた。 テントの中で思いを巡らし、15時間行動して午後6時柏木駐車場ゴールを想定した。すると、午前3時くらいにスタートしなければならない。睡眠不足だが1時半に起床し、1時間半で急いで準備し3時スタートを目論んだ。しかし更に同じ間違いを今日も犯してしまった。今日はシュラフ(モンベルの#3)でダウンを着て寝るので防寒対策は十分だと思ってしまったのだ。しかし、標高2670m地点の寒さを考慮に入れるべきだった。疲れ切っていたために起き上がることもできず、眠りに落ちては寒さで目が覚めるのをほぼ一晩中繰り返した。12時半くらいに寒さにたまらず起き上がり、ダウンの下にウィンドブレーカー、ズボンの上にレインウェアのパンツを履いてシュラフに入ると、やっとぐっすり寝ることができた。 予定通り1時半に起き、クロスオーバードーム2Gなので結露の状況をまず確認した。当たり前だが結露がバリバリに凍りついていた。雑巾で拭き取ると、ぞうきんにびっしりと霜がこびりついた。「通りで寒い訳や...」。昨日の夜はハイマツサバイバルのせいで食欲がなく、ラーメンだけを食べてすぐ横になったので、朝からカレーを作って食べる。水は潤沢にあるので、贅沢に湯せんでイナバのグリーンカレーを温めた。こんな誰もいないところにテントを張るのはやはり少し不気味だった。風が時折強めに吹くと、華奢なクロスオーバードーム2Gは結構派手に揺れた。 テント内を粗方片付け、ダウンを来て外に出た。風に少し苦労しながらも、ガイライン4本とテントの四隅だけのペグダウンで、レインフライもないので、やはり撤収は楽だった。少し予定よりも遅れたが、午前3時半頃、出発の準備が整った。水はハイドレーションに1.5L、ナルゲンボトルに500mlだけにし、余った分はもったいないがここで捨てた。今日は長丁場になるので、できるだけ荷物を軽くしたかった。「熊ノ平小屋でまた補給できるしな...」 ここから初見のルートをブラックで行く。しかし、特に問題のない道だった。電池の残量が少ないのかヘッデンがやたらと暗かったが、何となくどこを歩くべきかは分かった。程なくして前方が崖になったが、冷静に少し手前に右にトラバースする道を発見できた。その後も野生の勘を働かせながら、あまり暗がりで迷うことなく進んで行く。しばらくして、また十山のでっぷりとした道標がある少し開けた所に来た。道標には「幕営禁止」とあった。広い尾根同様、少しここからどう行くか分かりにくかったが、そういう所には決まってピンクテープがあった。ピンクに導かれ少し歩くと、そこが北荒川岳の山頂だった。まだ真っ暗だったが、ヘッドランプで山頂標識と三角点を照らし、写真に収めた。 その後、新蛇抜山の道標が出てきたので、登山道から外れ山頂まで往復した。道はここまでと同様、野生の勘を働かせれば問題なく見つかるレベルだ。山頂では、まだ夜明け前の完全ブラックだったので、仙丈ヶ岳や塩見岳のシルエットのみを楽しむ。百高山をゲットできたのでよしとした。日があれば360度の眺望のようだ。 この先、ほんの少しルートを見失い登山道を右に外す。明らかに危ない道になったので、元に戻り左に起動修正した。その後、夜明けが迫り明るくなってきた辺りで、結構唐突に岩山の様相を呈してくる。眺望もよく、この辺りが竜尾見晴(りゅうびみはらし?)だろう。そして、安倍荒倉岳に全く気付かすスルーして、少し下りながらやっと「熊ノ平小屋」にやってきた。ちなみに、道中やたらと岩に黄色いペンキで「クマ」と書かれていたが、それが熊ノ平小屋のことだと分かるのに少し時間を要した。時刻は6時半になっていて、やはり雪投沢源頭から3時間もかかっている。昨日、熊ノ平小屋まで行くか悩んだが、やはりビバークして正解だった。 小屋の前のベンチでザックを下ろし、水場の様子を見に行く。塩見小屋のご主人が言っていたように、大きな樽のようなものに沢から水が溜められ、そこからじゃぶじゃぶと水が出ていた。半分くらいだった1Lのナルゲンボトルを満タンに満たした。小屋の外階段を登り、避難小屋として開放されているスペースを見に行く。扉を開けると、とてもきれいなスペースで、広さも十分だった。さすがにこの時間だけに誰もいなかったが、なぜかザックが複数デポされていた。 熊ノ平小屋をスタートした。ここから三峰岳までが400mの登り返しになる。熊ノ平小屋を越えてすぐは、随所に水が溢れていて、至るところにパイプがあり水が出ていた。知らないうちに井川越を通り過ぎ、三国平に向けてしっかり登って行く。三国平は眺望抜群で、間ノ岳、西農鳥岳、振り返って塩見岳がバッチリ見える。悪沢岳も塩見の横にはっきり見えた。ここから農鳥小屋に続く登山道が分岐している。 ここから、250mほどしっかり登っていく。三峰岳はさすがにほぼ3000mだけあって、下から見ると「あれ登れるんか?」と思ってしまうほど険しい。近づいてくると、道もリアル岩場になってきたので、ここでヘルメットを装着した。この辺りが歩いていて一番気持ちよかった気がする。岩場も楽しく、天気もまずまず、眺望も最高だった。 三峰岳に登頂した。山頂は狭いが、眺望は抜群。でかいケルンもあって、3000mへの1mを埋めようとしているようだった。三峰岳から見る間ノ岳と西農鳥岳は本当に雄大で、見ていて惚れ惚れする。ここから間ノ岳は本当に目と鼻の先に見えるのだが、行きは1時間もかかるようだ。本当は行きたいところだが、今日は絶対的に時間が足りないので断念した。 三峰岳からは野呂川越まで700mも下る。ただ勾配があまりきつくないのか、あまり苦しくは感じなかった。野呂川越が仙塩尾根の最低鞍部で、標高は2290mしかない。山行計画中に、この野呂川越から北東へ登山道が続いていて、それを下ると比較的すぐに両俣小屋というのがあるのを知った。ネット検索すると、NPO法人が運営していて、この時期でもまだ営業しているようだった。仙塩尾根にチャレンジするに当たりビビりまくっていたので、エスケープルートも考えていた。体力がいよいよヤバくなって来たら、この両俣小屋に逃げるか、仙丈ヶ岳から北沢峠に下り、バスで仙流荘と想定した。ちなみに仙流荘と柏木駐車場は比較的近い。 野呂川越に近づくにつれ、仙塩尾根上にはないも関わらず、「両俣小屋まであと1h40min」などの両俣小屋への道標が出てくる。やはり重要な拠点なのだろう。基本樹林帯を歩き、野呂川越にやって来た。当然ここにも、両俣小屋を示す道標、黄色い看板、もうひとつ茶色の看板と両俣小屋のオンパレード。 ここから当たり前だが、最終的には仙丈ヶ岳まで同じだけ登り返す。まずは横川岳へと200m弱の軽い登り返し。山頂に来た時、山頂標識の前に熊のような男性がどかっと座っていた。イヤホンを付けながら、スマホを食い入るように見ていた。「おー!人いたよ」。というのも、仙塩尾根の序盤で何人かとすれ違った他は人を見ていなかったからだ。同じ方向に歩いている人は皆無だった。僕が来ると、彼はイヤホンを外し、お互いに挨拶した。山頂標識の写真を撮りたいのだが、彼はどかっと座ったままどいてくれる気はないようだった。「どこからですか?」と聞かれたので、「今日は、雪投沢源頭から...」と言うと、彼は笑いながら「それは遠いところから!」とよくルートが分かっているようだった。「今日は下からですか?」と逆に質問すると、「いえ、両俣小屋からで、小屋の者です」。「あー!」「ここは電波があるので、天気予報チェックしたり、家族に連絡したりしに来るんですよ」という。「わざわざここまで来るんですか⁉️」と驚いて聞くと、「まあ、ここが両俣小屋から一番近い電波が入る場所なんで😅」。しかし、いい加減、全国山の中だろうが電波が繋がる時代にならないものだろうか? 彼は天気予報をチェックしながら、「今日は雪になるみたいですね」と教えてくれた。「今日はどこまで行くんですか?」と聞かれ、「天気が崩れる予報なので、何とか最低でも樹林帯まで下りたいです。松峰小屋辺りまでは」と答えた。彼は、「松峰小屋って言うと...」と怪訝そうな表情を浮かべたので、「地蔵尾根に下ります」と言うと、「あー、そっちに行くんですか!」と納得したようだった。「できれば下山します」と言うと、もっと怪訝そうな顔をされたので「あわよくば!ですが...、8時頃には着くと思うんですよね...」。彼は「それは着かないな」という表情を浮かべながら、「まあ、でも速そうだし、そのザックの中にも色々入ってるんでしょ?」と心配してくれた。「はい、テント入ってます!」「まあ、だったら大丈夫だね...」「でも、雪も降るんだったら尚更下山したいですね」と言うと、「でも、雪の方がいい場合もあるんですよ」。言われてみればそうかもな...。「この時期の雨に打たれ濡れると本当に危ないですよ」。彼は「お気をつけて!」と送り出してくれた。 ここからどこにでもある「独標」への登りが険しい。かなり足を高く上げないといけない岩場を越えていく。その甲斐あり、山頂は眺望がいい。ただ、あまり広い山頂ではなく、なんとなく殺伐としていた。仙塩尾根は人気がないので、特にそう感じたのかも知れない。目立たない「独標」という木の山頂看板がハイマツの枝にくくりつけられていた。 ここからゆっくり下りながら、水場がある高望池(こうぼういけ)にやって来た。ちゃんと水場であることを示す道標があった。道標には「涸れることあり」という日本語の下に、何故か英語で 'Water is sometimes dry up' と書かれ、インターナショナルな香りを醸し出している。「そこは、Water sometimes dries up. やな...」 時間がないので水場をチェックしようか悩んだ。しかし、せっかくここまで来て、この時期の水場の状況という貴重なデータを取らないわけにはいかない。道標の足元にザックをデポし、道標の矢印が指し示す方向に歩いて行った。しかし、結構歩いても全く水場の気配が感じられない。「おかしいなぁ...」と、また道標近くまで戻ると、矢印よりもっと崖の方向にある木にオレンジテープがくくりつけられているのに気が付いた。そこまで歩いて行くと、少し険しい下りだが、踏み跡ができていた。「これやな」。水はまだ十分あったので、手ぶらで慎重に下ると、比較的すぐに真ん中が折り曲げられた鉄板が置かれている水場が見付かった。意外にも水量は十分で、ソフトボトルで直接補給できそうだった。時間がないので、様子を写真に収め、すぐに道標まで戻った。ここは水もあり、平らなスペースもあるので、時間があればここでのんびり幕営するのもいいかもしれない。 先を急ぐ。まだ比較的ゆっくり高度をあげていく。伊那荒倉岳を越え、当初の予定では幕営しようとしていた苳ノ平は気付くこともなく通り過ぎた。この辺りから徐々にきつい登りに変わっていった気がする。仙丈ヶ岳の姿がしっかり見え始て、次のピーク「大仙丈ヶ岳」がやたらとでかい。そもそも仙丈ヶ岳に大が付いた名前ってどういう意味?と思っていたが、近くで見て合点がいった。前衛峰とはいえ、筋骨隆々な三角筋を思わせる山容で、やはり大仙丈ヶ岳だ。こいつにもう少し高さがあり、真ん中に位置していたら、仙丈ヶ岳の印象はかなり違っただろう。 徐々に尾根が細くなり、岩岩しくなってきた午後1時頃、ショックなことに雨がぱらつき始めた。予報よりもえらい早い。風も少し強くなってきた。一旦止むことを期待して登り続けていたが、もともとかなり寒かったので、ザックを下ろしレインウェアを上下とも装着した。今回失敗だったのは、フリースを持って来なかったことだった。やはり、この時期にウィンドブレーカーだけでは寒すぎた。そして、登りを再開してすぐ、パラパラと雪が舞い始めた。「マジか...、あの人の言った通りやん」。その後も止むどころか、どんどん降雪度合いが増して行った。地面にはうっすら雪が積もり始めた。幸いまだ岩が滑るような感じではなかったが、もともと人っ子一人いない尾根で、さらに吹雪の様相まで呈してきたことにビビり始めた。「大丈夫か、これ?」 横殴りの雪の中、なんの眺望もない大仙丈ヶ岳に登頂した。山頂標識を写真に収める以外、やることはなかった。すぐに、仙丈ヶ岳に向かう。ここからしばらく岩場の痩せ尾根が続く。ずっと雪が降り続いていたものの、まだ岩が滑るような感じではなかったが、さすがにゆっくり、慎重に歩かざるをえなかった。せっかくの仙丈ヶ岳なのに、登頂して地蔵尾根でいち早く帰ることしか頭になかった。どうせ何も見えないし、そこを通らないと帰れないというだけだ。30分程で仙丈ヶ岳に登頂した。前回、2022年の1月3日に地蔵尾根ノンストップピストンで来た時も、たどり着くことに必死で、山頂を味わい尽くすことはできなかった。残念ながら今回は更に前回よりも悲惨な山頂になってしまった。 さっと写真を撮り、地蔵尾根に向かおうとする。しかし、ちょっと山頂からの道が分かりにくく、若干戸惑い、仙丈小屋への分岐に無駄に戻ってしまう。GPSを見ながら、山頂標識の奥から地蔵尾根に繋がる登山道が続いているのを思い出した。水の心配が多少あったが、この時は今日中に下山するつもりでいたので、水を調達する為に仙丈小屋に寄ることはしなかった。 感想に続く... |
写真
感想
コース状況/危険箇所等からの続き...
地蔵尾根分岐からも、しばらくそれなりに危ない登山道が続く。冬に来た時は、風もあり結構緊張したのを覚えている。雪が降り続き、かなり体が冷えていた。頑張って歩いて体温を上げたかったが、下りなのでなかなかそうもいかない。黙々と地蔵尾根を下りていく。樹林帯に入る直前にある悪名高き道標にやって来た。柏木駐車場まで6時間とある。(悪名高いのは、ここから山頂までの時間。1時間20分と手書きで上書きされているが、元々30分と書かれていて、多くの登山者を騙してきたとのこと。冬は1時間20分でもまず着かないもよう)。コースタイム通りなら9時下山になりそうだ。かつ、地蔵尾根の道標にあるコースタイムは、山と高原地図のそれと違い、結構リアル(厳しめ)だ。取り敢えず、何とか早めにしっかりと樹林帯に入りたかった。一昨年のクリスマスと去年の1月2から3日に連続で地蔵尾根を歩いたので、辛さはよく覚えていた。クリスマスに歩いた時は、悪名高き道標の辺りで新雪にはまりこみ、危うく抜け出せない所だった。「無雪期は単純なトラバース」と思って舐めていると、また少し道迷いをしてしまった。
ずっと雨に打たれながら歩いていたので、さすがに疲れが限界に近付いてきていた。治りたての左膝も少し痛みが出てきている。多分無理をすれば下山できるだろうが、しょーゆ君から「下山口に近い安全な樹林帯でテン泊もありですよ」と、アドバイスを受けていたことが頭にずっとあった。「無理はなさらぬよう...」という彼の最後のアドバイスが頭にこだました。「確か冬に松峰小屋で泊まっていた男女のペアがいたなぁ...」。松峰小屋は、登山道から10分ほど下るが、避難小屋として使えそうだ。途中から、取り敢えず松峰小屋上の登山道まで頑張ろうと思いながら歩いていた。
地蔵尾根は停滞区間がある。上から下る場合、まず2400m台だ。微妙な登り返しが続き、なかなか標高が下がらない。鬱蒼としたカラマツ林の嫌らしいトラバースが続く区間もある。つまり、松峰小屋までが中々に遠かったのを、歩きながら思い出していた。
そして、停滞を抜けた後、松峰小屋上の登山道まで、怒濤の下りが続く。その頃には日がどっぷり暮れ、ヘッデンを装着していた。そして、やっとの思いで松峰小屋上登山道に近付いてきた時、物凄く意外なことにヘッデンの明かりが見え始めた。「こんな時間に俺以外にこんなところに人いるんか⁉️」。小屋への下り口に来ると、その光は少し僕より年長そうな女性登山者のものだった。挨拶をすると、少し緊張した声で女性は僕にいきなり質問した。「この小屋使ったことありますか?」。唐突やなと思いながら、「使ったことないけど、使えると思いますよ。僕もこれから行こうかなと思ってます」。「遅いですね?」と聞くと、「仙丈ヶ岳山頂でガスが出て、道が分からなくなって...」。え?どういうこと? 「なんとか峠に下りるつもりだったのに、間違えてこっちに来てしまったんです」。なぬ⁉️北沢峠に下りるのを間違えて、こんなとこまで来たんか?唖然として声も出なかった。女性は疲れきっているように見えた。連れがいるらしく、その人が下に小屋があるかを見に行っているらしい。「ここから登山口まで、どれくらいかかりますか?」と、素人がしがちな無意味な質問をしてくる。僕はヤマレコを見ながら、「僕の足でも3時間はかかりそうですね」。何時間かかるかは、かなり人によって違うだろう。「もう、下りるのは止めた方がいいと思いますよ。だってものすごく疲れてるでしょう?」と僕が言うと、彼女は大きく頷いた。北沢峠からの日帰りのつもりが、危険な地蔵尾根をここまで無事に下りれただけでも大したもんだった。
松峰小屋が案外遠かっただけに、柏木駐車場までもう少しなことを考えると、僕も下山しようかなと少し悩んだ。その時午後5時半くらいだったので、うまく行けば8時には下山できるかもしれなかった。しかし、体は冷えきり、疲れもピークを越えている。ブラックで足元が滑りやすい登山道を行くのはあまりにも無謀だろう。松峰小屋泊を決断した。小屋に向けて下り始めると、「ついて行っていいですか?」と言われ、「はい、どうぞ。その方がいいですよ」
下りている途中で、彼女の連れの男性登山者と出くわした。小屋があるのを確認したらしいが、「登山道からは100m以上ありそうですね」と言っていた。確かにその後も結構下り、やっと小屋の屋根が見えてきた。その男女は何か相談しているのか、すぐに僕には着いて来なかった。
小屋の扉を開けると、驚いたことに僕より少し若そうな男性が、音楽を掛けながら寝っ転がっていた。「あ...」と言いながら、彼はすぐに音楽を止めた。向こうもまさか登山者が来るとは予想していなかったことだろう。彼は早川尾根小屋の方から縦走して、予定通りここに来たという。「いやぁ、死ぬかと思いました...」と言いながら中に入り、板間にザックを下ろした。小屋は真ん中が土間になっていて、左右に板間が作られていた。最初彼が寝ているのと反対側(向かって右側)の板間にザックを下ろしたが、そっちは板間がかなり派手に斜めっていて、寝れそうにないので、彼と同じサイドの奥に移動した。最近きれいな避難小屋が多い中で、それなりに汚い板間だったが、雨の中テントを張ることに比べれば、天国のようだった。寒さも格段にましだろう。
しばらくすると、例の男女も小屋にやって来た。自分達のせいとはいえ、今日はかなり大変だったはずだ。寝る準備をする様子なども手際が悪かったので、そんなに頻繁には泊まりの登山はやっていないのだろう。シュラフも持っていなかったようで、サバイバルシートのようなものにくるまって、2人で寝ていた。2人なので十分暖かそうには見えた。僕もかなり疲れていたので、雨の中水を補給しに行くことはせず(先に小屋にいた彼によると、小屋からかなり遠いらしい)、熊ノ平小屋で満タン近くに満たしたナルゲンボトル1Lで何とかやりくりした。ハイドレーションにもまだ500ml以上残っていたので、明日の行動時の水分にも十分余裕があるだろう。
翌朝、4時に起きた。朝飯用のパンを食べ、コーヒーを飲み、5時には出発の準備が整った。例の2人はまだ爆睡中で、先にいた彼はゆっくり準備をしていた。不運なことに、スタートする時には少し雨足が強まっていた。しかし、疲れもかなり解消し、残りの行程もわずかなので、多少強めに雨に降られてもどうということもない。日が出てから行動を開始しようかとも思ったが、今は一刻も早く下山したかった。「お互いにお気をつけて...」と、先にいた彼に声を掛け小屋を出た。
小屋から登山道への登りは道が分かりにくく、傾斜がそれなりに急なので、慎重に歩いた。それ以降も30分ほどはブラックで歩いたが、地面をよく見て歩くと、どこを歩くべきかは自信を持って判断できた。極めて順調に歩き切り、結局小屋から2時間ほどで柏木駐車場に戻ってきた。ここから杉島ゲートまで自転車を拾いに行かなければならない。ゲートまではかなり強い雨になってしまったが、僕が自転車を折り畳み、車に積み込む間は何故か雨が殆ど止んでくれた。久々に痺れた山行も、何とか無事に終了した。今回得た色んな収穫を頭で反芻しながらジムニーを走らせた。
コメント
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この連休は天候が難しかったですよね。
私も同じような連休だったので勝手に共感してコメントしてしまいました。
これからのアルプスは空いていて好きですが、コンディションで紙一重の側面もあり
装備やら行程がテクニカルですよね
私も仙塩尾根をどう歩くか考えている時にこちらの記録を拝見し、水場なのどの情報も含め参考にさせて頂きます、ありがとうございました。
RaVie
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