クラックとアカン連続トラバース😨その甲斐ある山頂 五龍岳‼
![情報量の目安: S](https://yamareco.org/themes/bootstrap3/img/detail_level_S2.png)
![都道府県](/modules/yamainfo/images/icon_japan_white.png)
- GPS
- 29:52
- 距離
- 15.0km
- 登り
- 1,563m
- 下り
- 1,658m
コースタイム
- 山行
- 3:10
- 休憩
- 0:03
- 合計
- 3:13
- 山行
- 10:07
- 休憩
- 1:16
- 合計
- 11:23
天候 | 初日の序盤はかなり天気が悪くホワイトアウト気味だったが、徐々に回復。夕方から最高の天気に。翌日も風は強いが文句なしの好天 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年04月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
コース状況/ 危険箇所等 |
幕営地の大遠見山までは危険個所なし。しかし、ブラックスタートなのもあったが、そこからはかなり危ない急登を登り、白岳に登頂。そこからヤバイクラックが入り乱れた山頂を歩き、五竜山荘に下りる。山頂に着くまでは西風がかなり強かった。五竜山荘から上部は予想通りのアカン連続トラバース! |
感想
1. なんちゅうスケール感なんや⁉?
ワカンを失くし傷心だった頃、タイムラインに流れる圧倒的なスケール感に目を奪われた。遠見尾根というのがあり、途中までならお気軽ハイクらしい。「この壮大さがお気軽ハイクで手に入るのか?」とかなり驚いた。どうやらゴンドラ(テレキャビンという名前にまず混乱する😅)があるようだ。しかも、主峰「五龍岳」は八ヶ岳から眺めた時、後立山連峰の中で群を抜いて厳しく凛とした雰囲気を醸し出していた。「なんか白虎みたいやな雰囲気やな」。いつものように|厳選|雪山登山ルート集を開き、五龍岳のページをめくってみた。壮大な鹿島槍ヶ岳の写真の下にアカントラバースの写真が出ていた。技術評価は星4つ(最高難度)が付けられている。説明文を何度も熟読する。どうやら五竜山荘を越えた後のトラバースから試練が始まるようだった。今シーズンは劔岳で覚えたフロントポインティングを何度も実戦で投入した。先週の権現岳の登頂で「雪質が問題なければ」かなり痺れるルートも行けるようになってきたと感じている。しかし、一方でほとんどの説明文には「雪質次第では緊張する」という表現があった。「これはチビるの確実だな…」
天気予報を見ると、週末は土曜日が夕方まで天気が悪いものの、そこから日曜日の日中にかけて最高のコンディションなるもよう。ただ、土曜日は風もそれなりで軽い降雪がありそうだった。「オレに、風雪の中テン泊できる能力あるんかな。。」何とか日曜日に日帰りで五龍岳アタックできないかと、最近大遠見山まで日帰りした山ちゃんに質問した。彼は相当ハイスピードなのでそのまま自分に当てはめることはできないが、彼が無理と言えば僕には絶対に無理だ。すると、「五龍岳だけ狙った本気の登山でもちょっと厳しく、行けて白岳まで」とのことだった。「やはりか…」。テン泊はマストだと観念した。
2. いきなりの低空マインド
テレキャビンの始発は8時15分なので、北アルプス北部にしてはゆっくりスタートできるのがある意味嬉しかった。朝の2時半に起き(ゆっくりか⁉?)、3時15分頃自宅を出た。エスカルプラザ辺りは雨予報だったが、現地の人もまだスタッドレスを履いていると言っていたのでジムニーをチョイスした。(結果、ノーマルタイヤで全く問題なかった)。安曇野インターを降り、気持ちのいい北アルプスパノラマロードを走る。梓川なのか綺麗な清流が右手に見えた。途中、穂高神社や穂高市街の標識が見え、「穂高(ほたか)市っちゅうのもあるんか⁉?」と穂高は山のイメージしかないので少し驚く。
7時過ぎに予定通りエスカルプラザに到着し、意外に誰も行かない第一駐車場(テレキャビン乗場前駐車場)に直行する。7時を過ぎているが、天候が冴えないためか駐車場に空きは十分あった。いつも初めての場所に来ると不安でオロオロしまう。まずは車を降り、辺りを見回す。左前方にテレキャビン乗場へと続く細い通路があった。そこを奥に渡ると右にトレイがあり、左に乗場へと続く階段があった。すでに何人かのスキーヤーが列を作っていた。「とりあえずトイレにでも行くか」と中に入る。登山者のチケットの買い方がスキーヤーと違うのはたの字さんのレコで学習していたのだが、一つ飛ばして左隣にいた人に、「確かここってゴンドラのチケットは乗場で買うんですよね?」と彼は完全スキーヤーのいで立ちなのに、全員が登山者のような錯覚で質問する。すると、「登山ですか?」と逆に聞いていただき、「あ、登山です」と答えると、「そうですね、階段上がった先の乗場で買いますよ」と親切に教えていただいた。
車に戻り身支度を整えザックを抱えて列に戻ると、さっきよりも列が伸びていた。その最後尾にザックを置く。ここは競技スキーの練習場として使われることが多いのか、ちびっ子スキーヤーとそのお父さんという組み合わせをよく見かけた。実は僕も京都の大学の一年生だったとき、競技スキーサークルに入っていて、定例合宿の場所は「五竜とおみ」だった。実はここにも来たことがあるはずだったが、当時テレキャビンがあったかどうかは覚えていない。まさか変わった名前だなぁと思った「とおみ」が遠見尾根のことだったとは。登山に何の興味もなかったので気にもしなかった。乗場からエスカルプラザの方に少し下ったところにチケットブースが見えた。時間もあるのでGoPro片手に少し歩いて下ってみる。チケット購入者がいなくなった時に、さらに念押しで「登山者の場合は乗場でチケット買うんですよね?」と聞くと、「はい、乗場でお買い求めお願いします」。このブースで買うのは一日券やシーズン券のみのようだ。列に戻ると、僕の後ろにもさらに列が「まっすぐ」伸びており、近くにいた人が「なんでみんなこっち側に列作るんだろうね。まあいいけど」と言っていた。確かに、トイレの側に列を曲げればアスファルトの地面に荷物を置くことができたが、まっすぐだと土の地面だった。運転開始前にも動いていたゴンドラが上がっていく空を見上げた。凄まじくどんよりした空だった。
午前8時15分、時間ぴったりに列が動き始めた。そのまま階段を2階に上がっていく。上がって90度左に曲がりその先に売り場ブースがあった。登山者が順番に列から外れ、そのブース前に並ぶ。僕の順番が来た。「ゴンドラの往復券とアルプス平駅からリフトも乗りたいんですが?」と伝えると、そのセット券が2400円で販売されていた。「クレジットカード使えますか?」と聞くと、「はい、使えます」と川場スキー場と違って登山者に親切だった。当然ココヘリも登山届も売り場では必要ない。僕はココヘリも携帯しているし登山届も提出してはいるが、それを売り場でやる必要はないのではないか?チケットを購入すると、その横の列に割り込む形で復帰できる。8人乗りのテレキャビンはぴったり8人詰め込むのかと思いきや、グループごとに2人で乗ったり、僕のように1人で乗ったりとまちまちだった。やはりロープウェイとは違って台数に余裕があるからなのだろう。ただ、1人で相乗り希望の人用の待合場所が別途あった。しかし、そこに並ぶと逆に乗り込むのが遅くなりそうだった。人格者が1人そこに並んでいた。
アルプス平駅に降り立ち、階段を降りるとそこはホワイトアウトだった。「やばない⁉?」。ここからリフトに乗るには、少し歩いてゲレンデを下るのだが、前が見えなくてあまり方向に自信がなかった。おっかなびっくり歩いていくと、比較的すぐにリフト乗場がうっすら見えてきて、女性の係員が声をかけてくれた。ロープを外して、登山者用の入り口を開けてくれる。「今日は天気結構悪いですね?こんな時でもみんな普通に登山してますか?」と不安でたまらなくて意味不明な質問をする。すると、かなり若いかわいらしい係員は、「えー?やったことないから分からないです〜😆」と、かわいいが突き放すような返事だった。「まあ、今日来る決断をしたのは自分だからしゃーないな」と観念してリフトに乗った。リフト降り場では無線で連絡を取り合っているのか、僕が来るのを待ち受けていた年配の男性係員が降りるのを「よいしょっ!」と手伝ってくれた。ホワイトアウト度合は一層深まっている。その係員の方に、「ここら辺では、こんな感じに視界が悪いのは普通ですか?」と、またしても意味不明な質問を投げかける。「まあ、昨日もこんな感じだったね」。さらに、「明日は天気がいい予報なんですが、どうですかね?」と聞くと、「このあたりの北アルプス北部は天気予報当てにならないからね〜」と不安を煽る。僕の方がおそらく天気予報をガン見しているに違いないのに、彼の発言に一気に「ホワイトアウト遭難」が頭をよぎる。すると、「あ、ちょっとまた登山者が来ますので、もう少し前に進んで準備していただけますか?」と言われ、かなり沈んだ気持ちで前に進んだ。準備をしながら、「最初の地蔵の頭にさえ、どっちに行っていいか分らんな…」。係員に地蔵の頭の話をすると、「今はよく見えないんですが、地蔵の頭ってホントすぐそこなんですよ」と前方を指さす。まあ、地図で見ればそれはそうなんだが、「どこから行くねん⁉?」と、どんどんブルーになってくる。すると、3人の登山者パーティーが上がってきた。僕とは正反対でみんなテンションアゲアゲだった。「ホワイトアウトですよね。。最初からどっちへ行ったらわからないですね?」と話しかけると、「え、そこにトレースありますよ」と、地蔵の頭に続く急登を指さしてくれた。確かに薄っすら雪が凹んでいるのが見えた。「ありがとうございます」。かなりの急登なのでのっけからアイゼンを付けるかなとザックをまさぐる。彼らはそのままツボ足で行くようだ。またしても無意味な質問を投げかけた。「アイゼンは付けずに行くんですか?」。すると、「アイゼンは要らないでしょう。ツルツルなわけでもないし」と、弱いものを見るような視線を全身に浴びた。最後に出発する前に、大遠見山でテン泊予定なことを係員に伝えた。すると、「もし何かトラブルがあって下りてくる場合は、アルプス平4時半がゴンドラの最終です。気を付けてください」と親切で言ってくれているのに、「オレ、トラブルに遭いそうに見えるんかな?」と、のっけから気分的にどん底スタートになった。
3. スタートしたら天気とともに回復
アイゼンをすんなり装着し、地蔵の頭に向けて急登を登り始めた。道にはステップができていたが、ぐさぐさの腐れ雪だった。ところどころにクラックが入り、ホワイトアウトも相まって非常に気分も重い。午前9時頃、すぐに地蔵の頭と思しきケルンのようなものが視界に入ってきた。いつの間にやら若干コースを外れていたようで、草むらを分けいる形でケルンがある方向に歩いていく。そこは完全に雪が溶けて岩混じりの土の地面が露出していた。ケルンの前には、眺望があれば見えるであろう火打山や妙高山などの絵が書かれたボードが置かれていたが、眺望はゼロだった。ここからは、尾根伝いに進んでいける。ボード道のようになっていた。少し進むと、左手に何やら石の建造物があった。反対側が正面のようにも見えたので、また左に出で回り込んでみた。すると、地蔵の頭だけにお地蔵さんが祀られていた。
先行者たちは地蔵の頭には来ずに左から巻いて行ったのか、暫く誰も視界に入らない状態で歩いて行く。地蔵の頭を下り、やや急な樹林帯の登りになった。意外にトレースがない。あるいは、トレースを外していたのかもしれない。踏み抜きはなく、単純に重いテン泊装備を背負いながら、そこそこ辛い登りを牛歩した。登りの中盤くらいで、後ろから複数人のパーティーが僕の後を付いて来ている話し声が聞こえ始めた。その後もひーこら言いながら牛歩を続け、やっと恐らく遠見尾根の稜線に乗った。まだ視界はほぼゼロだが、微かに青空が雲の合間から覗き始めようとしていた。少し行った所で、後ろの3人組(男性2・女性1)の前の2人が「先に行きます❗」と声をかけながら抜いて行ってくれる。彼らも晴れ間が覗き始めていることに興奮しているようだった。3人の最後尾を歩いていた男性が追い付いてきて少しお話する。今日は日帰りで西遠見山辺りまでを目指しているという。「日帰りだったら今日しかないので、晴れてきてよかったですね。」と言うと、「ええ、久しぶりの雪山で、天気は諦めてたけど、晴れてくるとは❗」と嬉しそうだった。暫くお話しした後、「僕は遅いので、お先にどうぞ」と先を譲ると、「重荷なのに足跡まで付けていただいてありがとうございました」と、とてもナイスで礼儀正しい方だった。
ここから小遠見山までが意外に遠い。ここかな?と思ったところは「一ノ背髪」で、やっと来たか?と思ったところは「二ノ背髪」だった。しかも、地面にかなり危なげな巨大なクラックが入り乱れ、歩く場所を決めるのすら苦心する。ホワイトアウトしたらクラックに落ちてしまいそうで恐ろしかった。一ノ背の辺りで先ほどの3人を追い抜き、また1人で歩いていたが、後ろから同じ青いアウターを着た男女のカップルが少しずつ僕との差を詰めて来ていた。午前10時半前に、やっとのことで最初のメインピーク「小遠見山2007m」に到着した。山頂標識の方へ行こうとするとかなりずぼる。ずぼらないようにうまく地面を確かめながら歩き、木の丸太椅子の上に立った。前方はかなり晴れて雲が取れ始めていたが、まだ鹿島槍ヶ岳がその巨大な姿をはっきりとは現していなかった。何枚か写真を撮った後、例のブルーアウターズがやってきた。女性の方が先に来て、やはり僕と同じく激しくずぼる。「ここ結構ずぼるんですよ。だから僕は丸太椅子に立ってます」。すると、「写真撮りましょうか?」と言ってくださった。「あ!お願いしてもいいですか?こっちに来るの気を付けてくださいね」。彼女はうまく雪面をとらえ、ちょうど山頂標識の正面まで移動してくれた。何も言わなくても何枚も写真を撮ってくれ、とても親切な方だった。僕が「よかったら写真お撮りしましょうか?」と言うと、「え!いいんですか?」とリアクションも大きめで少し面白い。スマホを受け取り、「このスマホは、『はい、チーズ』とか言うと音声で写真を撮ってくれますか?」と、モンベルのタッチ操作可能のメリノウール手袋が、何回か洗濯したらタッチ操作できなくなってしまっていたので聞いてみた。「あー、そういうのあるんですね?」とおっしゃるので、「はい。さっきから僕が写真撮るとき『はい、チーズ』って連呼してたでしょう?あれです。ちょっと頭おかしいのかな?と思ったでしょう(笑)?」「いや〜、ちょっと変わった人なんだなって…(苦笑)」。結局手袋を外し、何枚か写真を撮りスマホをお返しした。しばらくすると、例の3人組が追いついてきた。
みんなより一足先に、小遠見山を再出発した。ここから折角上げた標高を一旦下げる。遠見尾根は、西遠見山の手前まで上下を繰り返すだけで、2000m前後から一向に標高が上がらない。いったん下がった後、何度かアップダウンをやり、午前11時頃、中遠見山に来た。ここも、一番通ってくださいという登山道のど真ん中でずぼった。ここまで来ると、かなり雲も取れてきていて前に何やらかっこよさげな山が見える。恥ずかしながらこの時点ではこのかっこいい鹿島槍ヶ岳が角度的に双耳峰に見えず、こいつが五龍岳だと思っていた。ここで、ブルーアウターズの男性が去年大遠見山まで行った時に五龍岳のかっこよさに痺れたと熱く語り始めた。僕も、「かっこいいですよね!」と同調する。恥ずかしながら鹿島槍ヶ岳を指さしながら。「なので、今日大遠見山にテン泊して、明日の朝一アタックするんです」と話した。「すごいですね」と言われたので、「ちょっと危険なので行けるところまでですが」と、安全に登頂して下山しなければ意味がないので断りを入れた。
ここからまた下り、そこからの登り返しがそれなりに危なげなトラバースになる。雪が腐っているし、重荷なので慎重に登っていく。引き続きブルーアウターズにしっかりマークされながら登っていく。聞き耳を立てていると、どうやら同じ山岳サークルのメンバーのようだ。女性の方が男性に雲ノ平山荘の予約が始まったと話している。男性の方が、雲ノ平までの険しい道について女性に説明していた。僕も、去年の10月の初めに薬師沢小屋から雲ノ平キャンプ場に向けてかなり苦労したので、彼の言っていることが手に取るようによく分かった。ただ時折、雲ノ平までを「日帰り」と言っているのがとても気になった。「あれを日帰りは無理ちゃう⁉?」。僕がキャンプ場に辿り着いた時には、夕方4時30分くらいになっていた。有峰林道は午前6時から午後8時までしか通行できないので、いくら軽荷であっても厳しいのではないか?少し話しかけるタイミングがあったので、気になって質問してみると、「あ、当日は無理です。前入りで折立で早朝スタートする場合です。」「あー、それを聞いて納得です。」
日差しが出てきて風もないので、汗が滴り落ちてきた。ザックがパンパン過ぎて収納スペースがなく、アウターを上下とも脱がずに行動していたのがよくなかった。あまりにハーハー言っていたので、男性の方に「前代わりましょうか?」言っていただく。あまりに急斜面のトラバース中だったので、「ちょっとここは危ないので、登り切った所でお願します」と言ったところで、汗が目に入り染みて悶絶する。堪らず「ちょっと止まっていいですか?目に汗が入ったので拭かせてください」。その後、やっと上部までトラバースをし終え、尾根に乗っかった所で前後を交代してもらった。ここで、僕はザックを下ろして小休止。何人かのテン泊登山者が通過していった。みんな負けず劣らずデカイザックを背負っているが、しっかりとした足取りでシーズンドテン泊者のようだ。思えば、山小屋付属のテン場以外での雪山テン泊は今回が初めてだった。やはり、いきなりこういうリアル山野宿をするはずもなく、僕が恐らく今日の遠見尾根テン泊者一番の初心者なんだろう。
行動を再開してすぐに、ブルーアウターズが座ってお昼を食べているところにやって来た。目線を合わせ、「お疲れ様です」と声をかける。「ここって大遠見山ですか?」「ええ、そうですよ。山頂標識も何もないですが」と聞いて、意外にあっけなく着いて一安心。時間は12時少し前だった。確か厳選雪山ルート集によると、大遠見山ピークを少し先に進んだ所に幕営適地のテントマークが付いていた。少し前にダブルアックスをザックにさした年配のクライマーの方に幕営地について質問すると、「行けば、『いかにも』って感じの所がありますよ」と言われていた。しかし、実際に着いて見ると僕にはあまり「いかにもさ」がわからない。ただひとつ言えるのは、自分が今いる場所はあまりにのっぺりしていて風を遮るものが無いということだった。一旦ザックをここかなという場所に下ろし、もう少し進んでみるもあまり雰囲気は変わらなかった。既に近くにザックを下ろして休憩している登山者が1人だけいたので、「幕営地ってこの辺なんですかね?」と聞くと、「よくわからないけど、この辺かなと思って」とあまり当てにならなそうな感じ。すると先ほどの「いかにも」クライマーが追い付いて来た。「この辺がいかにもな場所ですか?」とド素人丸出しの質問をすると、「もうちょっと先じゃないかな?」「そうですよね、ここだと風を避けようがないし…」。同行の女性クライマーもやって来て「普通は幕営跡あるでしょ、ここには全くないよね。まあ、かといって先に行ってもあんまり風避けは無いけどね。単純に明日のアタックへのアプローチが楽になるからもっと先に張るんじゃない?」とクライマーらしい切れ味のあるしゃべり口だった。彼らはそのまま先へと行ってしまった。
4. ブルーにならない黄昏時
「もうちょっと先じゃないかな?」を信じ、ザックを再び背負い歩いて行く。すると、少し木々が生えているところにやって来た。しかし、ここに来るまでに、散々登山道の端っこが危なげな雪庇やクラックになっているのを見てきた。その木々に囲まれた場所がかなり崖側にあったので躊躇する。後知恵だが、素人特有の安全過ぎを選択して逆に危険状態だった。結局一本だけ木がある、かなり登山道のトレースの近くのフラットな場所を幕営地とすることを決断した。自分を追い抜いて行った多くのテン泊者は1人もいなかったが、大遠見山が一番の幕営地との雪山ルート集の言葉を信じた。あまりにも風避けがないので、「よし!スノーブロック積むかな」とザックからアルパインスノーショベルの柄を取り出し、ブレードを取りつけた。始めての作業なのでいまいちやり方が不明だが、ブレードの長さを目安に、4方向からなるたけ垂直に雪面に差し込んだ。テントを設営する場所から深さを均等に切り出せば、整地も同時に完了して一石二鳥だ。ブレードの長さの深さのスノーブロックは重くて切り出せないので、深さが半分の位置で雪面と平行に切り取った。不思議なことに、予め切れてあったようにスパッと切り取れる。よく見てみると、積雪した時期が違ったようで、そもそもそこに断層面のようなものができていた。「なるほどな。。勉強になるな」
約一時間ほど、一心不乱にスノーブロックを切り出し続けた。なんでもすぐ楽しくなって夢中になってしまう質だ。ブロックを切り出し低くなった雪面に張るテントのトップよりも雪壁が高くなった。予想した通り、整地もほぼ自動的に完了した。少し表面を削り、踏みつけるだけで済んだ。早速インナーテントを組み立てた。今日はカラビナさんのアドバイスに従い、スノーフライではなくレインフライを持ってきていた。なので、グラウンドシートとインナーテントの四角のループを重ね合わせ、あまり「キマラナイ」ローカスギアのEastonGold24で留めた。今日は風がそれなりにあり、とりあえず何かで留めないと危ない。前日にレインフライに付け替えたガイロープの先端のループと、竹ペグに取り付けた捨て綱のループを「カラビナ」で連結するのだが、そのカラビナを持ってくるのを忘れてしまった。テレキャビンに乗る前に気付いたのだが、キャンプでロープワークを少し勉強したのでどうにでもなると思った。案の定適当にわっかどうしを固定でき、竹ペグでビシビシにテンションをかけた。
初めてにしてはかなりスムーズに、午後2時前には設営が完了した。荷揚げしたSpringValleyを雪を掘って、天然の冷蔵庫に入れた。シュラフを広げたり、ネオエアーXサーモを膨らましたりしながらキンキンになるのを待つ。2時半前にやっと、疲れた身体に染みるビールにありついた。いつものチーズインスナックをつまむ。今回は大好きなバターピーナッツも持ってきた。しかし、500ml缶はあっという間に終わってしまう。やはり、苦しくても次は2缶担ぎ上げるべしか。例によって、アマノフーズのビーフシチューとカレーリゾッタの簡単な昼食をジェットボイルでさっと用意して平らげた。結局、まだプリムスウルトラバーナーP-153は面倒くさくて一度も実戦投入していない。さあー、ここからはもう明日に備えてゆっくりするだけだ。しかし、一番の幕営適地に僕以外誰もいない。前方には、まだこの時点では100%自信はなかったが、鹿島槍ヶ岳の双耳峰の雄姿があまりにもデカく見える。贅沢すぎる空間と時間に酔いしれた。風は強かったがテントの中に入ると暖かかった。
しばらくテントでダラダラし、ほんの少しだけうたた寝をしたようだった。相変わらず回復する一方の天気が嬉しくて外に出た。すると、バックカントリースキーヤーの男性2・女性1の3人のパーティーがやって来た。そのうちの若い方の男性が僕の目の間にあるスペースを指さし、「ここに幕営跡ありますよ」と少し先輩っぽいもう一人の男性に伝えていた。目の間にあったのに、言われるまで幕営跡だと気が付かなかった自分の観察力の低さに我ながら驚いた。すると、先輩スキーヤーは、「ダメダメ、そこは風の吹きさらしになるから、こっちにしよう」と僕が怖くて行けなかった木に囲まれたスペースに向かっていった。「あそこ、全然危険じゃないんや…」。その、ダメダメの場所はまさに僕が張った場所と同じような条件だった。「やはり自分でも思ったが、ここあまりに風よけなさすぎるよね。厳選雪山ルート集が言っていた絶好の幕営地は彼らが張る場所やったんか!」。居ても立っても居られず、お得意の質問をしに、彼らがテントを張るだろうスペースに歩いて行った。「こんにちは!」と柄にもなく元気に挨拶した。すると、さすが山屋、向こうからも元気な挨拶が返って来た。自分の幕営スペースを指さし、「僕はあそこに張ったんですが、あそこの場所はあまりよくないんでしょうか?」。何ちゅう質問するんやと我ながら思ったが、経験を得るため、「聞くは一時の恥、知らぬはそのうち遭難」の精神で聞いてみた。すると、ものすごく親切なリーダーで、「あそこは、吹き曝しで風を避けれないですが、ちゃんとスノーブロック積んでますよね。しかも雪壁がテントの天井よりも高くできているので、大丈夫だと思いますよ。よく一人であれだけご苦労様でした」と、言ってくださった。しかも、「そういえば、ちゃんとペグ止めしてますか?」と心配してくださった。「はい、雪面にバチ効きするというローカスギアのEastonGold24っていうすごい長いペグで差し込みました」。あまりEastonGold24は有名ではないようで、「それって、平たいこういうスノーピケットみたいなやつですか?」と聞かれた。「いや、平べったくはなくて丸い棒なんですが、めちゃくちゃ長いです」と答えたが、確かにあんまり留まらないんだよね。。「本当は、ペグを横にして埋め込むのがいいですよ」と教えてくれたので、「あ、そういう意味では、四角のガイロープは竹ペグを雪中に埋めて、ビシビシにテンションかけてます」というと、「あー、それなら飛ばされないですね」ととても親身になってくれた。「ありがとうございます」と心からお礼を言った。それで、前の山を指さし、95%くらい鹿島槍ヶ岳だと思っていたが、「ちなみに、あの前の立派な山はなんて山ですか?」と聞くと、女性スキーヤーが「あれは鹿島槍ヶ岳ですよ〜(笑)」と山への愛情たっぷり答えてくれた。「そうですよね、双耳峰ですもんね!」と俺もトコトン恥ずかしい質問するなと思いながら、もう一つ、「で、前のあのかっこいい山は何ですか?」と五竜岳を指さし、これはあまり自信がなかったのでリアルに質問した。すると、「あれはホンポウ(本峰)ですよ(笑)」と言われ、「え?ホンポウ?」と子供か!という受け答えに、「五龍岳ですよ」と、また山への愛情たっぷりに答えてくれた。
「恥ずかしがらずに聞いてよかった!」と満足しなが自分のテントに戻った。天気はもう最高の状態になっていたが、引き続き風が強かった。Windyでも今日は五竜岳頂上は風速15mほどの風の予報だったし、多少の風は覚悟していた。テントの中に入っていれば音以外は特に気にならなかった。いつの間にやら夏至まであと2か月となり、いつまでも日は高かった。今日は満足度が思いのほか高く、全くブルーにならない。ゴアテックス裏地のテントシューズのまま外に出て、鹿島槍ヶ岳、五龍岳、火打山方面などを眺め続けた。テントの中ではあまり電波が入らなかったが、登山道に出るとよく電波が入った。黄昏時の澄んだ空気と美しい山々の姿を見ながら、ゆっくり流れる時間を楽しんだ。気が付くと、五龍岳と反対側から月が登っていた。満月のようだった。「満月か。残念ながら夜中じゅう空を照らしよるな。星空は次回のお楽しみかな」と呟いた。それからも飽きるまで外で一人、景色を眺め、午後6時半前にテントに戻った。
5. 五龍岳アタック
午前2時半にセットしたSunnto9Baroで目覚めた。予報通り夜中には風は止んでいて、とても静かな夜だった。しかし、やはり少し寒さを感じあまり熟睡はできなかった。ちょうど午後7時にシュラフに潜り込んだが、正味3時間ほどは眠れたのだろうか。前回の反省からアルパインダウンパーカを着てシュラフに入ったのに、この時期でさえシームレスドライダウンハガー#1で寒さを感じるとは。もしかしたら、日常が暖かすぎて逆に寒さへの耐性が下がっているんだろうか?それでも、寝不足なこと以外は頭痛もなく、昨日の夕方の状態そのままに非常に気分がよかった。
3時にスタートするつもりが、少し手間取り、3時15分頃テント場からヘッデンスタートした。起きてすぐ、風が再び強くなってきていた。まずは、特に問題のない登山道を歩き、西遠見山の幕営適地にやって来た。寂しかった大遠見山とは打って変わってたくさんのテントが張られていた。テント場は尾根から南側に下った緩い傾斜地になっていて、やはり大遠見山の方が地面がフラットで風よけの木々もあり(僕は使わなかったが🤣)条件がいいように感じた。やはり、みんなアタック時の距離を優先しているのだろうか。テント場の端の方までみんなのスノーブロックの積み方を見学しながら歩いて行った。そこから、低い木々の間を分け入り尾根筋に乗った。そこもかなりクラックが入り、ずぼりリスクが高かったが、うまく避けながら前進した。すると、西遠見山の頂上部分に到着する。驚くべきことに、ここに複数の幕営跡が残されていた。確かに、360度の絶景には違いないが、強風時にはまさに何も風よけになるものがない。かなりしっかりスノーブロックを積むんだろうと想像した。
この西遠見山から下りていく登山道がブラックのせいではっきりしなかった。とりあえず下りて、コルのような場所に行くことは地図からわかるが、トレースが見つからない。しかも右手には恐ろしいクラックが口を開けているので、かなり急な左下がりの斜面をトラバースして歩いて行った。何とかコルまで下り、そこからはかなりうっすらとした、おそらく先週末のものと思われるトレースが続いていた。なかなかの急登を右斜め方向に延々登って行く。尾根筋に乗るまでにかなり時間を要した。暗いのであまり恐怖は感じなかったが、滑ったら止まらないだろうものすごい斜面だった。やっと尾根に乗った後は、しばらく気持ちのいい緩い斜度の稜線歩きになった。まだブラックなので眺望は楽しめない。気持ちのいい稜線歩きはすぐに終わり、白岳までの最後の急登が始まった。なかなかの斜度で、しかも所々大きなクラックがあり、慎重にアイゼンとピッケルを効かせて登って行った。ブラックかつ強風の中何とか登り切ると、平らな丘のような場所に出た。地図をみると、ここを左に曲がって尾根を行けば白岳の頂上のようだ。時間は午前4時40分頃で、東の地平線が赤く染まり始めていた。かなりの強風だが、ここでバランスライト20(アタックザック)を下ろし、GoProをチェストマウントに取り付けた。五竜山荘に行くには、この白岳を登って下る方法が、雪山時はより安全だとされていた。白岳に直登せずにトラバースして行く方法もあるが、「雪山登山」には、「シラタケ沢源頭の雪原には五竜山荘をめざすトレースが延びているが、雪がゆるんでいるときは危険なので入らないこと」とあった。厳選雪山ルート集にも同じような趣旨の説明が書かれていた。時間はたっぷりあるので、できるだけ危険度の少ないルートを選択しようと思っていた僕は、当然白岳直登を選んでいた。しかし、この丘で少し休憩した後、左に曲がり山頂への稜線を半分くらい進んだところで、「え⁉?何これ…🥶」という状況に直面した。突如山頂にクラックが入り乱れている。「え😱ちょっと待って…これアカンやん。こんなん落ちたら死ぬぞ…」。パニックになる。意味不明に元来た道を引き返す。クラックから少しでも離れたかった。YAMAPを取り出し、ルートを再確認する。ルートは間違いなくまっすぐ行くだけだった。「これ…まっすぐ行くしかないよね」。しかも、ずっと続いている強風が恐怖心に拍車をかける。行くしかないので、ピッケルで自分の踏み出す一歩先をつつきながら歩く。何回か突きしっかり底を確認できると、一歩をそこに乗っける。たまに、ピッケルは「ずぼっ!」と奥まで刺さる。血の気が引いた。「これ、トラバースの方がマシちゃうか…?」。空がかなり明るくなってきて、前方に五竜山荘とその先の稜線が綺麗に見え始めるも、自分の足元に全集中だった。「これ、コワっ‼?」。進むにつれて、山頂中央部のクラックがどんどん左に寄ってきて、左の崖とそのクラックの間の細い足場をピッケルテストをしながら進んで行った。あまりの緊張に息づかいがかなり荒くなっていた。何とか渡り切り、しっかりとした足場が確認できる所まで来ることができて一安心。緊張の糸が切れそうだった。そこからは雪からハイマツが出ていて、そこを念のためピッケルを刺しなが進んで行ったが、核心は抜けたようだった。前方に、少しピンクがかった空に、立山連峰の美しい山並みが見えた。「しかし、これ美しいな…」。先程までの極度の興奮状態から抜け出し、ほっとリラックスした気持ちでしばらく山並みを見つめ、気持ちを鎮めた。
ここから、五竜山荘までは普通の登山道で、雪もかなり少なかった。ハイマツ帯を進むと、登山者を時に安心させる道標が現れた。五竜山荘に向けて下るにはそっちに行く必要はなかったのだが、安心が欲しくて歩いて行った。白岳の山頂からはかなり下りた場所にあった道標だったが、「白岳 Mt. Shiratake」とあり道標兼山頂標識のようだった。唐松岳、五龍岳、遠見尾根の3方向を指し示している。自分が下りてきたルートとは少し違った方向を「遠見尾根」の矢印は指し示していた。前方に唐松岳が美しく見えた。「さあー、行くか…」
五竜山荘の赤い屋根を見ながら下って行く。雪はほとんどなく、かなり地面が露出していた。前方に、五竜山荘から先の序盤のユルいトラバースがはっきりと見える。しかし、ここまで誰にも会わない。天気予報に反して、風は一向に弱まる気配を見せず、むしろどんどん強くなっていた。「これ、バラクラバ着けなあかんな」と、五竜山荘の手前でザックを下ろし、バラクラバとゴーグルにチェンジした。時刻は5時を少し回った辺りで、辺りはすっかり明るかった。屋根まで雪で埋まった五竜山荘の脇を通り、雪が風で飛ばされるのか雪が付いていない登山道に降り立った。強風で雪煙が舞い上がる中、東の空から太陽が顔を出し始めた。美しさもそうだが、こんな場所にたった一人でいることの非日常さが新鮮だった。五竜山荘から先は完全にトレースがなくなった。最初ストックの跡のようなものがあったので、先行者がいると思ったが、足跡がなかった。獣の足跡だったかもしれない。序盤は雪がなかったトラバースにも雪が付き始め、ノートレースなので若干沈み込む。それでも、道は極めて平坦な緩い登りだったので、当たり前だが全く危険はなかった。しかし、ここからが本当の五龍岳アタックスタートなのは学習済みだった。まるで、ゆっくりとレールを登って落ちる直前のジェットコースターに乗っている気分で歩いて行った。
風はもう爆風と言ってもいいくらいの強さだった。斜面も徐々に急になっていく。黒部側がかなりの角度で切れ落ち始めてきた。岩の露出も目立ったきたので、躓かないように慎重に歩いて行く。雪煙の舞い上がりが凄まじい。やはり一般登山道なのか、要所要所にピンクテープが岩に巻き付けられていた。そして、遂に最初のアカントラバースが目の前に現れた。ジェットコースターが速度を速めて落ち始めたようだ。一度立ち止まり、YAMAPを取り出しルートを再確認する。紺碧の空ノムコウさんの軌跡をダウンロードしてきていた。観念してトラバースに突入した。最初行こうと思っていたトラバースよりも、少し下の方がいい感じの岩が露出していて危険が少なそうに見えた。所々岩を掴みながら慎重に雪面にピッケルを刺し、渡って行った。何とか最初のトラバースをクリアした。
次のトラバースはより難関だった。途中、岩が黄色ペンキで塗られ、ルートは指し示されてはいる。今回はトラバースを少しした後に、雪にまみれた岩壁を登らないといけない。前方にピンクテープがヒラヒラしているのが見えるので、そこを目印にトラバースした。そして、その直下から岩壁を直登する。たまに、フロントポインティングしたアイゼンの前爪が浅く岩にコツンと当たって恐怖したが、岩を掴みながら必死で登る。しかし、岩壁に登ったところにあるピンクテープを見て愕然とした。それは、そこにあるべきものではなく、木の棒に括りつけらえたピンクテープが、木の棒ごと風で飛ばされて、そこに引っ掛かっていただけだったからだ。自分がまたがっている岩壁の頂上の少し下に、岩に括りつけられた別のピンクテープがあった…。「なるほど…。そっちやったわけね。道理でちょっと恐怖すぎると思ったわ…」。ここが本日の核心だった。
そこから、比較的易しめの岩と雪のミックスを行く。そして、最後の小トップを越えると、ラスボスの雪壁直登の基部に辿り着いた。この辺りは雪が飛ばされ、岩のざれ場になっている。小さいケルンのようなものがあり、近づいていくと、それは24、5才で亡くなったクライマー2人の慰霊碑だった。ぐっと気持ちが引き締まる。時間は6時半頃で、アタック開始から3時間強経っていた。「やはり、(コースタイムの)3時間では(頂上には)着けまへんな…」。ここは厳選雪山ルート集では完全なる雪壁の直登のような説明だったが、左手はかなり岩場が見えており、時折雪壁をフロントポインティングで登る必要がある程度だった。それなりに恐怖感はあったが、今まで経験してきた登山対比特別に難易度が高い登りでなかった。正直にいうと、かなりトップに近くなるまでは、この先にもう一つ完全なる雪壁が待ち受けていると思っていた。基本岩場主体で登って行く。どんどん残りが少なって来た。気を緩めずに慎重な足さばきを心掛けた。最後は少し雪壁使用率が増えながら、遂に稜線に乗ったようだった。クラックもなく歩き易い稜線だ。気のせいか、風も弱くなってきた。「もしや、これがビクトリーロードなのか⁉?」。あまりの360度の絶景に興奮した。その稜線を緩やかに登って行き右に曲がると、前方にもっこり盛り上がったピークが見えた‼? 山頂標識のような物も見える。左手には剱岳が目に飛び込んできた。立山連峰の稜線がこんなに近いなんて😂 振り返ると、どでかい双耳峰の鹿島槍ヶ岳のスケール感が半端なかった。「間違いない…。これ、ビクトリーロードやん?さすがにもう勘弁してくれるよね😂」。遂に登頂したという実感を高めつつ、ビクトリーロードを歩いた。
「よっしゃー❗よっしゃー‼?」
思わず、思い切り吠えていた。登頂は午前6時50分だった。恐らく、「五龍岳」今週末の一番乗りの贅沢を味わうことができた。今回は痺れを通り越して、すこしちびっているかもしれない。強風、ノートレース、背伸びをした挑戦、そのどれ一つとっても精神的にかなり堪えたが、その「甲斐」ある山頂だった。約45分もの間、山頂で一人だけの五龍岳を味わい尽くす。ここまで長く山頂で飽きずに過ごしたのは初めてだった。山頂にいるこの時間が、今山行一番の青空である幸運に感謝しながら、いつまでも山並みを見つめていた。
いいねした人
コメントを書く
ヤマレコにユーザー登録いただき、ログインしていただくことによって、コメントが書けるようになります。ヤマレコにユーザ登録する