赤樽山〜徳平山☆大展望と大樹の稜線へ
- GPS
- 09:32
- 距離
- 11.1km
- 登り
- 799m
- 下り
- 793m
コースタイム
天候 | 晴れのち曇り |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年03月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
その他周辺情報 | 詳細と写真は後日追加します。 |
写真
感想
この日は私の所属するやぶこぎネットの雪山のオフ会である。本来は1月の上旬に予定されていたのだが、その直前に緊急事態宣言が再発令され延期されることとなる。主催の山日和さんは苦渋のご判断だったことと思われるが、晴れてこの日を迎えることが出来る参加者の喜びはひとしおだろう。
美濃白鳥の古い旅館を薄暗い早朝に出発すると凛とした空気の中に春風の気配を感じる。長良川にかかる橋を渡ると集合場所の道の駅「清流の里しろとり」まではわずか10分とかからない距離だ。白鳥の古い街並みを歩き始めた時はまだ薄暗かったが、道の駅が近づくにつれ急速に夜の帳が上がってゆく。
空には刷毛で掃いたような巻雲がわずかに見られるばかり、今日は絶好の好天が期待されそうだ。振り返ると街の北側には大日ヶ岳がすっきりと姿を見せている。六時前になるとCLの山日和さんを中心にメンバーの輪が出来ていた。
私は山日和さんの車に乗せて頂き登山口に向かう。県境の下、越美トンネルを潜って福井県側に入ると、途端に低い雲の下に入り、周囲の山々の上の方は雲の中だ。
林道に入り、橋のたもとでスノーシューを装着すると全員揃っていざ出発である。九頭竜川を見下ろす林道の脇には我々を歓迎するかのように大きく枝ぶりを広げるトチノキの大樹が現れる。
林道は九十九折に急斜面を登ってゆくが、ショートカットで雪の斜面を登ってゆく。
雪が緩んでざれていたら登りにくかったかもしれないが、十分に締まっている。この日はトレースの跡を追って歩くことが出来るのがとても有難い。というのも昨日の山行で両側のゲイターがズタズタに敗れてしまい、この日はゲイターなしでの登山になるのであった。
どうやら雲が上がり始めたようだ。九頭竜川の対岸の斜面では雲が上がったばかりの斜面に霧氷が付いているのが見える。斜面の上部にはひときわ大きな樹が現れる。皆、樹の下で立ち止まってはその大きさに驚嘆する。山日和さんにお伺いするとミズナラの樹であることを教えて下さる。樹が大きくて普段見慣れているヒビ割れ状のナラの樹肌とまるで様相が異なる。
尾根に乗ると、ブナの樹林となる。わずかに登るとすぐに南側に展望が開け、蒼穹の下に霧氷を纏った稜線が視界に入ると皆一様に驚嘆の声を上げる。標高わずかに1200m前後の山とは思えぬ壮麗な雰囲気だ。東側にはわずかに雲を纏った徳平山も朝陽に輝いている。
広々とした尾根にはいく筋もの襞が広がる。雪の上に朝の光が落とす樹々のシルエットが斜面の緩やかな起伏を示している。
やがて尾根が一本に収束すると早くも霧氷の樹林が始まる。雪庇の反対側に霧氷を纏った樹々が整列する様はまるで霧氷の並木道だ。登るにつれて、霧氷は暑さを増し、朝陽に照らされた尾根周囲の樹々が悉く白銀に輝いている。「こんなに素晴らしい霧氷に出会えるとは!」と次々に感嘆の聲が聞こえる。
霧氷の回廊を越えて尾根に立つと、真っ先に視界に飛び込んできたのは霧氷越しに青碧色の水を讃える九頭竜湖の彼方に荒島岳とそのすぐ左手に縫いヶ原山、銀杏峰が雲薄い雲に浮かぶ光景だ。そして振り返った瞬間、クリームをかけたかのような限りない純白の白山の姿に皆一様に歓声を上げることになる。右手には朝陽に煌めく徳平山の左手で御嶽山が雲海の上に浮かび上がっている。
鷲ヶ岳、昨日は朝を除いていは1日中、雲が取れることがなかったのだが、この赤樽山から見ると山頂部が意外に長く、縦走意欲のかき立てられるところだ。そして左の肩からは穂高岳が覗き、北アルプスの槍ヶ岳、笠ヶ岳、薬師岳へと銀嶺が続いている。白い山脈の中で槍ヶ岳のみは鏃のような黒々とした色合いを見せている。
赤樽山の山頂に向かって尾根を登り詰めると霧氷のクライマックスを迎える。雲一つない蒼穹を背景に煌めく霧氷の枝を見上げる。風もほとんどないが、はらりとはらりと霧氷が落ち始める。しかし、山頂にたどり着く瞬間、歓声と共に眺めることになるのは霧氷よりも南側に広がる滝波山から平家岳へと続く越美国境稜線の山々だ。「こんなに眺望がいいとは!」と喜びの聲が各所から聞こえる。少し尾根を西側に辿ると平家岳の右手に能郷白山が見える。
山頂に戻ると見慣れたタイプの真新しい山名標が架けられているのに気がつく。その山名標はまるで以前からそこにあって我々の到着を歓迎してくれているかのようにも思われた。山頂の周囲では霧氷の落下する速度が急激に加速し始める。樹々からはバサバサと音を立てて、まさに雨霰のごとく一気に落下してゆく。
いよいよ徳平山にかけての縦走路へと入る。赤樽山に到着した時点では霧氷の回廊が続いているように見えたが、降り注ぐ陽光に照らされた稜線上はどこでも同じ現象が起こっているのだろう。尾根上の霧氷は瞬く間に姿を消してゆく。北側には北アルプス、大日ヶ岳、白山から経ヶ岳へと至る稜線、南には先述の越美国境の山々という贅沢な眺望を望みながら尾根を東へと進む。
尾根上にはいくつもの小ピークが連綿と続いているが、ピークに達する度に主のように大きな異形の檜の樹が現れる。芦生杉のよう横に大きく広がった幹からは垂直に支幹が何本も出ている。京都の北山では芦生杉の大樹はよく見かけるが、台杉ならぬ台檜と呼ぶのか、このような檜の樹は見たことがなく、その存在感に圧倒される。ピーク毎に檜の大樹が立っているのは偶然ではなく、長い歳月における人々の記憶を残そうと先人の願いを込めた結果なのかもしれない。通常は茶褐色一色であるはずの檜の樹肌は陽光に照らされて印象派の絵画のような流麗かつ豊潤な色彩を放つのだった。
尾根の中間のピークp1156へと登ると、荒島岳、縫いヶ原山、部子山と山並みが続くようになる。東の方角には徳平山の山頂が見えるが、尾根は一度、大きく南に迂回することになる。鞍部に下ると繊細な樹影のブナの林が広がった。
徳平山の手前のピークp1184が当初のランチの予定だったらしい。縦走路ではしばらく北側の展望に恵まれなかったが、再び正面に白山の展望が広がっている。
山頂から少し降った台地状のなだらかなピークがランチ場に決定される。樹間から望む北アルプスは赤樽山から見えていた槍、穂高や笠ヶ岳は鷲ヶ岳の左肩に姿を隠し、その代わりに薬師岳から立山に至る稜線の先に鋭い剱岳が見える。槍ヶ岳と同様に白くないのは急峻な斜面に雪が積もらないからであろう。鷲ヶ岳の右肩にはいつしか純白の乗鞍岳が顔を覗かせる。
スコップを持参している人が意外にも多く、瞬く間にテーブルが出来あがる。早速にも雪のテーブルを囲んでランチの時間が始まる。幸いにも風もなく、相変わらずの好天が続く。
空ではいつしか急に南から流れてきた雲が広がり始め、太陽が雲に隠れる。まさしく春風と呼ぶべき穏やかな南風が吹いているが、南の方角は雲が多く、急速に空気が湿ってきているようだ。
瞬く間に楽しい時は過ぎる。下山の準備が整うと徳平山に向かっていざ出発である。徳平山からは白山から赤兎山への稜線の展望は拝むことが出来る。北東側にも鷲ヶ岳と北アルプスの展望が広がり、北アルプスの上空では依然として全く雲は見られない。
好展望はここで終わり、下山はブナの立ち並ぶ尾根を下降してゆく。やがて遠目にもそれとわかる大樹が尾根の中央に現れる。これが噂のミズナラの大樹のようだ。樹の中には洞が形成されており、その中を覗き込むとまるで祠の中のお地蔵様のように氷荀が鎮座しているのだった。長い氷荀の一本が折れてしまっていたので、立て直してみる。
尾根を下ると自然林が続く尾根では随所に均整のとれたブナの樹が随所に現れる。ミズナラの樹を目にした後で樹影のインパクトがないように思われるかもしれないが、目を楽しませてくれるには十分に思われた。
細尾根では早くも雪が切れて地面が露出し、スノーシューを脱ぐことになる。細尾根が終わると尾根が広がり、再び雪が現れるが、ここでも頻繁に踏み抜きが生じる。
尾根の末端ではすぐ左手に植林を見ながら自然林の中を下降し、まもなく林道に出る。林道からは車を停めた除雪広場まではすぐである。続々と駐車場に帰着すると「いいところだったな〜」「・・・でしたね〜」という満悦の聲が聞こえる。自然林の広々とした尾根、霧氷の回廊、パノラマの稜線、そしてミズナラや檜を初めとした大樹の数々に充足感を憶えぬ者はいなかっただろう。
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