口元ノタル沢《赤牛岳、水晶岳》黒部川上ノ廊下を下降
- GPS
- 104:00
- 距離
- 65.0km
- 登り
- 3,340m
- 下り
- 3,344m
コースタイム
- 山行
- 5:50
- 休憩
- 1:40
- 合計
- 7:30
- 山行
- 8:05
- 休憩
- 0:00
- 合計
- 8:05
- 山行
- 8:50
- 休憩
- 0:50
- 合計
- 9:40
- 山行
- 9:10
- 休憩
- 0:40
- 合計
- 9:50
- 山行
- 8:35
- 休憩
- 1:10
- 合計
- 9:45
8/11米氏宅発(510)扇沢着(610)発(700)黒部ダム(720)御前谷(8■0)中ノ谷(950-1005)平ノ小屋(1020-1200)対岸(1212)奥黒部ヒュッテ(1350)東沢谷出合(1400)熊ノ沢(1420-30)右岸水線支沢出合泊(1450)
8/12発(630)口元ノタル沢出合(815)右支流出合(840-900)25m滝下(1010)滝上(1040-1115)大崩壊下rest(1245-1310)標高2040m泊(1435)
8/13発(630)2300m二股(715-725)赤牛岳(930-1000)温泉沢ノ頭(1130)水晶岳(1220-40)水晶小屋(1305-10)ワリモ北分岐(1335)岩苔乗越(1340)黒部源流碑?(1420-1435)祖父平2100m泊(1615)
8/14発(600)祖父沢出合(610)祖母沢出合(615)赤木沢出合(720)薬師沢出合(815-30)b沢出合(930)立石奇岩(1050-1115)立石(1200)赤牛沢出合(1210-20)金作谷出合(1400-@)スゴ沢中ノタル沢出合泊(1550)
8/15発(620)口元ノタル沢出合(740-800) 奥黒部ヒュッテ(935-40)平ノ渡(1140-1220)対岸(1225)御山谷(1500)ロッジくろよん(1530)黒部ダム(1605)扇沢(1615)豊科駅(1830)自宅着(2230)
天候 | 晴れ時々雨 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2018年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
船
|
ファイル |
(更新時刻:2018/08/23 22:59)
(更新時刻:2018/08/18 11:59)
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写真
装備
MYアイテム |
イグルスキー米山
重量:-kg
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個人装備 |
ハーネス+メット
フェルト地下足袋
シュリンゲ+ビナ+ 確保器
防寒具下着+目出帽
カッパ
シュラフカバー
マット
水筒
その他沢個人基本装備(ナイフや灯り地図磁石)
バイルハンマー
|
共同装備 |
タープ
鍋
ハーケン×3
カム一個
焚き付け+ライター
ロープ40m×1
|
感想
5日間の日程を両者ぴたりと合わせたのは出発三日前のこと。「5日使えるんなら、行きたい沢があるんよ」と、松の秘蔵の一本を出してきた。赤牛岳北面直登沢・口元ノタル沢から未踏の赤牛、水晶を登って、黒部源流から上ノ廊下を下るというもの。いよいよ名にし負う上の廊下か。
【一日目】 (上ノ廊下手前まで・小雨時々晴れ→晴れ)
松本に前夜泊で松がネコジャケのフラナガンとコルトレーン持って来た。朝トロリー一便にと、五時に家を出て6時過ぎには扇沢に着いたが、無料駐車場満車、切符買いの長蛇行列に唖然。切符を手にしたときは7時発の便だった。30年前はスキー担いでひたすら歩いたこともあるこの関電トロリバストンネル、来年からはガソリンエンジンバスに替わるとのこと。
10時半の渡し船に間に合うかとスピード出して3時間で平の渡しまで急いだが微妙に間に合わず。平の渡し小屋で薪割り人と世間話などして船を待つ。「いやあ今年の湖水は少ない」など。
船には上ノ廊下突撃隊と思しきチームが数組。渇水の夏、お盆休み初日土曜日だから。ボートで湖上を走ると、何かパタゴニアの山麓湖水地帯を思い出す。
右岸側は、ダム湖に落ちる急斜面の横切り道とあって、上り下りの多い、しかもかなりヤバイところに組んだ丸木のハシゴだらけのタイヘンなルートだ。毎春雪崩あとに整備し直すのだろうか。エラいことだ。湖水はかなり少ない。最後のハシゴ登りをサボろうと、バックウオーターの砂浜に降り、勇んで黒部本流沿いを行こうとしたが、詰まって到底渡渉できない。少なくて尚この水量なのかと思い知る。通常は湖底と思われる岩壁のへつりをして、また次の支流で丸木のハシゴ道に戻る。あこがれの黒部本流、勇み足過ぎた。東沢谷を分けるまでは、遡行対象の水量ではなかった。
奥黒部ヒュッテ前のテント地から踏み跡を下って本流へ。渡渉を繰り返して奥へ進む。渡渉の際には自然にどすこいの四股踏み歩きになるのが納得。標高1500mの砂地と流木の豊富な所でタープ張ってC1。先に3人組3パーティーばかり進んでいった。
【二日目】(口元ノタル沢遡行・曇時々晴れ)
下ノ黒ビンガが見えると、渡渉不可な淀み。一発目でもあり、泳いで遡る自信持てず、松が右岸ヘツって前進した先からザイルの先にハンマー付けて、狭い6m先の対岸の岩の重なりの間に向けてハンマー投げ。5分ほど奮闘して成功、引っ掛かり、これを掴んで渡渉する。その脇を、ライジャケ付けて浮き綱持った二人組がガガッと泳いで先へ行った。
程なく口元ノタル沢出会いで我らは左折。
数mの滝がバンバン連続する。ほとんどはノーザイルで行けるが、左岸のルンゼ脇を登ってヤブに入り、草付きバンドをトラバースして巻き、懸垂する滝が序盤にあり。25m滝あり。ザイル出しハーケン二発打って左岸開脚の滝、10m逆層は左岸。二段8mは途中に釜あり。延々出るので滝登りに集中する。岩盤が続いて渓相はなべて明るく、太陽に向かって登る北面沢。
標高2030mの二股で、デブリの作った土石流の盛り上がりがあり、幕営する。少し上にはもう雪渓が見える。薪とささやかな砂地あり。谷の向かいには木挽山がカムエクのように端正に見える。猛暑の夏というに、涼しく眠る。
【三日目】(口元ノタル沢〜赤牛岳、水晶岳、黒部源流下降・霧時々雨風)
すぐ雪渓ブリッジが連発。巻いて滝もついでに小さく巻く。その後も段差5mほどの堰堤のようなのが連発し、なかなか滝も雪渓も終わらない。そして全てが不安定なガレが続く。ガレか凍った雪渓かの二択。詰めは長く急な雪渓で、フェルト地下足袋と軍手の四足で、痛い冷たさをこらえながら登る。滑ったらアウト、100m止まらない傾斜。
唐突に、浮いてない岩のところに出ると傾斜が弱まり、夏道に合流し、すぐ山頂だった。レッド・ブル。北アルプスで最も奥深い場所にある秘峰といえよう。水晶までの稜線に登降差はあまりないが、赤牛はこの長い山稜の最高点であり、うれしい山頂だ。固く山頂握手し、背の高めのハイマツで風雨をよけ燃料補給、視界100mほどで時折風雨強い稜線を水晶岳目指す。縦走登山者に何人も会う。
小雨続く視界ない中を寒さに震え、腰を下ろす機会もなく水晶岳山頂へ。こんな天気ながら次々に縦走者が訪れる。岩陰で燃料補給して、水晶小屋へ。稜線縦走だから喉乾くかも、と水を4リットルも運んだのは徒労だった。水晶小屋は人でぎっしりなのが見えたので通過する。
岩苔のっこしは、黒部川の源流として、特別な場所と目指してきた。あの劇的な特異な渓谷群の最深部の、始まりの一滴。ここから本流を下って行くのだ。谷に入ると風は弱まり、霧も上り視界も開けた。ウサギギクやトリカブトの色彩も華やかで、牧歌的な感情に包まれる。2400mで道と離れてからは樹林帯に入り、浅い谷を埋めるドロノキ、ドロヤナギ?親水性の巨木が河岸に立ち、心躍る。この広さ、自由さは他では無い。祖父沢二股の少し上の、巨木の下で宿りする。先頭切って上ノ廊下を登ってきた名古屋の三人組とすれ違い、話する。
【4日目】(黒部源流から上ノ廊下を下る)
いよいよ上ノ廊下中枢部への朝。緩い山嶺と広い河原に刺す朝日と朝霧が幻想を誘う。広い河原歩きだが、遠景が美しく、飽きない。赤木沢出会い付近で飛び込みポイントが出る。20年ほど前にウマ沢への遡行で、ここを通ったことを思い出した。ここから薬師沢までの間は、赤木沢を登る大勢のパーティーとすれ違う。
薬師沢小屋の吊橋の下を通って、そのまま下へ。B沢出会いからは縦走者とも合わず静かになる。ここでも飛び込み泳ぐ。
立石奇岩は鉛筆のような岩峰だ、水晶小屋付近ですれ違った菅笠瓢六の男によれば、これを登っている男を見た、とのことだった。これを登る者がいるのだなあ。
この付近ですれ違った二人組と、上ノ廊下のこれまでの上と下との情報交換をする。彼から最後に、「その格好でよくまあ上ノ廊下に」とお褒めの言葉をいただき、「僕たち、普段着の登山愛好家なんです」と返答した。
上ノ廊下で会う面々は誰もウェット服に救命胴衣を付け、腰には一揃いのカムを並べ下げている。こちら二人はシャツとジャージのみの30年前と変わらぬ地下足袋スタイルだ。松のシャツに至っては使い込みすぎて両肩の生地が剥げ、見るからに乞食風だ。泳ぎの度に寒さに震え、歯を食いしばっている。20年ほど前、ゴルジュ登りの前衛派がウェット着やライジャケを沢に持ち込んだ。冷たい雪渓の沢でも確かに快適だし楽だった。しかし、便利で格好いい様々な道具を持ち込むと、それだけ天然の沢が遊園地のように汚れてしまう虚しさを確かに感じた。自らの浮力、泳力と、自らの皮膚の耐寒能力と、現場に転がっている岩や流木、それに水の力だけを借りて、この天然世界を通り抜けたい、というのが我らの願いだ。
ハーケン3つ、カム一つ、ザイル一本、クタクタハーネス、ペラペラマット一枚、薄々寝袋カバー一枚、薄々タープ一枚、穴あきフェルト地下足袋での今山行である。
薬師岳東面のカール群から流れ下る沢をあわせる度、水はますます冷たくなり泳ぎ突破箇所は増え、花崗岩の大きな造形の迷路の中を進んでいく。寝覚の床かと思うほどの美しい場所もあり。
金作谷出会い手前あたりも狭まる高い側壁に囲まれ、赤一色の景観に圧倒される。上ノ廊下の醍醐味は、足元のゴルジュのみではなく、見上げる景観の豊かさだと思う。角を曲がる度に異世界が現れるところ。上の黒ビンガの大岸壁も、惚れ惚れするような造形だ。写真に収めたくらいでは足りない。見るほどに口が開く。
9回飛び込み、長距離を歩いた。渇水の夏なのか、水面下の黄色くなった花崗岩がやけに滑り、なんでもない所でふたりともコケまくる。指先を打つ、スネを打つ、胸を打つ。痛え!と孤独に声をあげ、叩きのめされ、足が棒になったところで、中ノタル沢出会い。サハラのように寝心地よさそうな砂地と、流木豊富な天場を見つける。火をおこし、服を乾かし、冷えた体を温めると虹の祝福もあり。レインボウの歌を口ずさむ。久しぶりに見る完全な七色だ。その後も時折強い雨。完全には服が乾かずにタープでごろ寝。夜半星が出るほど晴れ、寒くて眠れず、馭者座のカペラを見ていた。
【5日目】(中ノタル沢出会いからダムまで下山)
体中がギシギシ言うが広い河原を出発。口元ノタル沢出会いの上の淵で二発泳ぐ。下りだから飛び込んで流芯に押され流されれば良いが、登りならどう突破するのか、と思う場面も多い。懐かしの口元ノタル沢出会いを通過、ハンマー投げをした下の黒ビンガの淵は、下りでは深みを歩いて行き、首まで浸かったが泳がず歩き抜けた。
奥黒部ヒュッテでお会いした山小屋のご主人とルートや沢やシミテツの話をひとしきり。あの丸木ハシゴ道を土踏まず押ししながら渡し場まで。ブナ巨木や紫の小さな花多し。渡し船で同船した同志社大山岳部の3人組と話すと、入山8日目、上ノ廊下登って薬師岳鳶沢、戻って赤牛沢登って来たという。知り合いの名を出すと互いに知った山仲間がぞろぞろ出た。世代を超えたクラブの楽しいところだ。拙書も読んでいてくれて、嬉しい限り。
左岸登山道3時間、雨にも降られ、ずぶ濡れになってブナやネズコのトンネルを歩く。対岸に針ノ木岳西稜なんかを見ながら。トロリバス発車時間ぎりぎりとなり、ダムの上を駆け抜け、ラスト乗客としてステップに駆けあがる。ずぶ濡れの体に、ドアの隙間からくるトンネルの冷気がこたえた。
帰りに豊科駅近くのひさりな食堂(田中さん推薦の)に寄って、ラーメンととんかつで打ち上げ。5日間、朝・棒ラーメン、昼・柿の種、晩・カレー雑炊の修行から解かれる。この店も前回の池松食堂と同じく、夕方5時台からファミリー客で栄えていた。カフェっぽいのに主力はラーメン。焼きそばぎょうざナポリタンまで揃える実力を持ち、店員ねーさんの雰囲気も和やか。今回も豊科駅にて別れる。雲渦巻く安曇山地に、有明山だけが映えていた。
松本駅からバスで、自宅ではなくじじばばの実家に帰ると、姉夫婦とその息子夫婦とその息子がお盆で来ていてうちの妻子二人も来ていてタイヘン賑やか。お盆の実家親戚集会にかろうじて間に合った。また食事。足がパンパンに腫れている。むくみがつよい。お仏壇にチーンして、4歳児囲んで花火。ご先祖様、この夏も満足しました。
口元ノタル沢と黒部上ノ廊下とをジョイントして更には赤牛岳水晶岳登頂を獲得する“欲の皮を突っ張らかした”本計画を、天候に恵まれた甲斐あってヨレヨレになりつつもオジサン二人で何とか無事に完遂へと持ち込んだ。
これだけの清潔な広大空間が無垢のまま温存されているのが黒部川上ノ廊下の他所にはない価値だろう。それを心底満喫した今回の山行だった。
【遡行図アリ】
やっぱね、次元が違うね!すご〜い!
ていうか、私ね、 低山専門です
奥山には奥山、低山には低山のふかーい世界がありますわね。
米さん、足袋すり減りましたね、今回自分もハ久和中俣S字 核心で滑って泣かされました。
自分も還暦です最後の沢にします。これからは沢歩きかな。
はじめ少し剥げてはいたのですが、5日の山行にうっかり行ってしまったのでここまで進んでしまいました。1日や2日の山行なら、もうやめどきもわかったのですが。でも案外ハゲはじめても使えるんだということもわかりました。最後の買い置きがありますんでまだ買わずにすみます。
やっぱ沢はやめないんですね。
水晶小屋過ぎてすれ違いました、菅笠飄六マンです。
ロマン溢れる旅路の記録、楽しませていただきました!
菅笠飄六マンさん、ご挨拶ありがとうございます。ワリモ沢、あんまり人に会わない沢のチョイスがいいですね。物置にある菅笠、おかげでゴソゴソ探して来てしまいました。次回これで行くかも。
日本中、猛暑の夏ですが、黒部の沢登りの涼しげ(寒そう?)な記録を拝見して、気分だけですが涼しくなりました。
それにしても、さすが黒部渓谷、迫力ありますね。ヨネヤマさんと相棒さんの実力も凄い!
感想ありがとうございます。
入山前までは酷暑で、山はやっぱり涼しいなあ、というか寒いゼと思っていたのですが、下山したらめっきり涼しくなっていて、酷暑も永遠ではなかったのだと思いました。薬師沢東面のカール群からの雪渓水が殊の外冷たく、唇紫の泳ぎでした。
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