雪山シーズンへの準備運動、早月剱‼
- GPS
- 14:25
- 距離
- 15.3km
- 登り
- 2,356m
- 下り
- 2,342m
コースタイム
- 山行
- 4:36
- 休憩
- 0:01
- 合計
- 4:37
- 山行
- 9:52
- 休憩
- 0:59
- 合計
- 10:51
天候 | 晴れ、上部は少し風が強かった。早月小屋は無風 |
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過去天気図(気象庁) | 2023年11月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
所々バックステップ、サイドステップ、岩場のクライムダウンあり。超危険な所はなし。早月小屋までがツボ足で行けたのは楽だった。 |
その他周辺情報 | 遠いので直帰 |
写真
装備
個人装備 |
ヘルメット
ピッケル
12本爪アイゼン(グリベルエアーテック・ニューマチック)
スポルティバエクイリビウム
目出棒
冬期グローブ
インナー手袋
|
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感想
1. 雪山シーズンスタート!
雪山シーズンが始まる。今年で4シーズン目だ。いつも最初が緊張するが、今年はどこから始めるか?
この9月から山岳会に入り、週一のジム練習、月2回の例会、会山行など楽しくも忙しく過ごしていた。11月3〜5日の3連休が迫り、そろそろ行き先を決めないとと思うも、なかなか決め手がない。昨シーズンから初級バリエーションルートを行くようになり、今年は更に難しいコースにもチャレンジしようと思っている。最初からがっつり雪山でインパクトのあるコースとなると、もうここしか思いつかなかった。「早月劔」だ。このルートには、一昨年の11月14日、21日と2週連続で日帰りチャレンジしている。14日は2550m近辺で撤退、21日はがっつりトレースに助けられ登頂することができた。あれからかなり雪山の経験を積んできたので、今回は余裕で登頂できるのかを確認してみたかった。
心が決まったのは山行週の火曜日だったので、急いで登山計画書を作成し山岳会に提出しなければならない。山岳会に入る前は、水曜日くらいからふつふつと行きたい山へのイメージが固まり始め、土曜日に出発するというパターンだった。登山は天気が全て、かつほぼ単独登山なので、どうしてもそういう時間軸になってしまっていた。しかし、もうそういうわけにはいかない。山岳会には山行管理担当者がいて、ありがたいことに山行計画をレビューし、基金への提出を取りまとめてくれている。また、会の山行計画書のひな型は、それを埋めることでしっかりと自分で持ち物・注意点などを意識できる優れものだった。
水曜日の夜に頑張って計画書を作成し、日付は変わってしまったが即提出した。しかし、積雪期の劔岳はバリエーションルート扱いとなり、その場合10日前までに計画書を提出するというルールを確認していなかった。いきなり会のルールを破ってしまう。その他にも色々記入の不備があり、結局木曜日に何とか正式に受理してもらった。早月劔は、ヤマレコでも10月の半ば以降撤退の山行記録しかなかったが、それは装備不足が原因だと思っていた。しかし、やはりそれほど簡単なチャレンジではないということを会のルールで再認識することになった。
2. 初日 またもや大失態 (早月小屋まで)
金曜日の午前2時半に起床し、3時頃自宅を出た。今回はジムニーで行くのは距離があり過ぎるので、久々に安定のマイカーを投入した。馬場島までは意外に道がよく、車高の低い車でも全く問題ない。また、この時期は道路に雪があることもまずない。グーグルではなく、車のナビで馬場島を目的地設定すると、松本で降りるルールを示してきた。できるだけ高速を使うなら、北陸自動車道の滑川ICまでだ。松本で降りるかぎりぎりまで悩んだが、試しに降りてみることにした。高速料金も半額ほどで済む。松本からは通り慣れた新穂高温泉までのルートを行き、栃尾をいつもと反対の左に曲がる。道の駅奥飛騨温泉郷上宝で休憩し、最後は富山ICから北陸自動車道で立山まで高速を使った。後は1時間弱車を走らせ、午前9時前に馬場島に到着した。前にも車が多数連なっていたので半ば諦めていたが、馬場島荘前の駐車場は満車だった。仕方がないので駐車場でUターンし、下部の駐車場に車を止めた。なぜかみんなすぐ下の駐車場にはあまり止めず、更にその下に止めていた。恐らく2番目の駐車場はアスファルト舗装されていないからか、あるいはその下の方が中山登山口に近いのかもしれない。この時期早月尾根を使う登山者はそう多くはない。
少し準備にもたつき、9時20分過ぎに駐車場をスタートした。馬場島の辺りは紅葉が盛りで、歩いていて気持ちがいい。しかし、強い太陽の日差しがまぶしく、すぐにザックを下ろしサングラスを取り出さないといけなかった。また、やはり富山も例にもれずかなり暑く、半袖でもいいくらいの陽気だった。馬場島荘を越えると、最初に大窓・池ノ谷・赤谷への登山道との分岐が来る。勝手な先入観だが中々に恐ろしい名前が並んでいる。「ほんまにそんなとこに繋がる登山道あるんか?」。そこを越えると、道路の左手にだだっ広い原っぱが出てきて、そこを斜めに突っ切るように奥に進むと、「試練と憧れ」がある。登山口は更にその奥だ。一昨年の11月21日に登頂できた時は、登頂出来たら「試練と憧れ」の前で写真を撮るというルールにした。なので今回もそのジンクスに従い、写真も撮らずに登山口に直行した。
北アルプス三大急登の早月尾根は、当然急登から始まる。標高1000mの松尾平(展望台)に来ると一旦平らな登山道になり、それがかなり長い間続く。そして、その後は基本早月小屋までずっと急登だ。確か松尾平の辺りで、年配の男性2人が下りてきた。キノコ採りでもしていそうな雰囲気だった。そのうちの1人が僕の装備を見て、「劔まで行くのかい?」と声を掛けて来た。「まあ、行ければ...?」と僕は控え目に答える。「さっき、若いあんちゃん2人が登って行ったよ。埼玉から来たって言ってたな」「じゃあ、少なくとも2人分のトレースがあるってことですね」と、この後すぐその2人を追い抜くことになるとは思ってもいなかった。
山岳会から「この計画はリスクがある」と注意を受けていたので、極めて慎重に登っていた。約18圓離競奪を背負いつつも、汗もあまり掻かないような超スローペースだ。なので、1400m手前でその埼玉の2人組に追い付いた時は少しびっくりした。彼らはそこで僕に先を譲ってくれそうにしたが、僕も疲れないように細心の注意を払っていたので、「僕もここで休憩させてもらっていいですか?」「もちろんです」。ここでザックを下ろし、水分を補給した。今日は久しぶりにハイドレーションを持ってこなかった。一昨年は上部でチューブが凍ってしまい、難儀したからだ。しかし、ハイドレーションは少しでも喉が渇いたらすぐに吸えるのに対し、ザックに入れた水筒だどついつい面倒で我慢してしまう。我慢を全くしないと15分に一回はザックを下ろす羽目になってしまうだろう。この時期は下部で凍ることはないだろうから、やはりハイドレーションを持ってくるべきだったと後悔した。
標高1700m辺りで、ソロの男性が下りて来た。出で立ち・雰囲気からして山頂から下りて来たと直感し、「山頂からですか?」と声を掛けた。「はい、そうです」。やはりか。「上は雪どうでした?」と聞くと、彼は親切に答えてくれた。「雪はしっかりですね。直登したりトラバースしたり考えながら行きました。獅子頭の所は完全に雪の斜面になってましたね。今朝は岩を直登しました」。「今朝?日帰りなんですか?」とかなり早い時間だったので驚いた。獅子頭がトラバースできないのか…それはアカンやつやな。確かその場合、クライムダウンは結構厳しいと何かに書いてあったぞ...。「鎖は出てなかったですか?」と聞くと、「帰りはトラバースで通ったんですが、鎖を掘りおこしました」と言う。なるほど…。何とかトラバースできそうな感じではあるが、この時期はすぐにトレースが消え、鎖が再度埋まってしまうリスクがある。「あ、後もう1人山頂行っているので、トレースが明日どうなるか…ですね」。「ありがとうございます!」
そして、恐らくお昼頃、軽荷の若い男性2人が下りて来た。どう見ても山頂帰りだ。さっきのもう1人山頂に向かっているというのはもう1組ってことだなと思い、「獅子頭トラバースできました?」とピンポイントで質問した。すぐに場所が分からなったようだが、鎖のある所と説明すると、「あー、鎖は出てなかったですが、引っ張って出しておきました。トラバースできますよ!」と答えてくれた。なるほど、3人分のトレースと、鎖も出てそうだな、と少し安心できた。すれ違いざま、2人も「あそこで鎖出てなかった時どうしようかと思ったんだよな!」言い合っているような気がした。
そこからも登山道に雪が所々付いていたが、ツボ足で全く問題なかった。小屋前の梯子の急登、スラブ岩の鎖場を越え、早月小屋を見下ろす小高い丘に到着した。丸山というようだ。一昨年はここに幕営しているカップルがいた。眺望が最高で、風さえなければ最高の幕営地だ。おまけに携帯の電波もあった。ここで幕営しようか悩んだが、今晩から西南西の風が強い予報だったのと、小屋前にはトイレが開放されているのを知っていたので、ここはスルーし小屋へと下りることにした。この丸山にも雪は全くなかった。
丸山からの少し急な坂を下り、小屋前にやって来た。小屋には恐らく2パーティーが大きめのテントをそれぞれ張っていて、かなりにぎやかな話声がしていた。驚いたが、小屋前にもあまり雪がなく、地面が露出している所が多く残っていた。今日は水作りをする前提で、水を1Lちょっとしか持って来ていなかった。登山道にあまりにも雪がなかったので、小屋前にも全く雪がないリスクを恐れていた。しかし、幸いそれくらいの雪は十分にあった。
最初は地面が露出している所にテントを張ろうかと思ったが、そこは風よけがあまりなかった。また、その賑やかなパーティーにも近かったので、小屋の東側の、敢えて雪がある上に場所を決めた。夜は西南西の風が強い予報だったのと、雪の上で寝る感覚を思い出したかったからだ。ただ、そこも地面に少し雪が乗っているだけだったので、冬用ペグは使えなかった。このリスクを恐れ、夏用ペグも念のため持って来ていたので、それを雪の上から打ち込んだ。
テントはこの時期の寒さの耐性を知るために、クロスオーバードーム2G を持ってきていた。レインフライのないシングルウォールなので、すぐに設営が終わり、テントの中でくつろぎ始めた。前方には北方稜線がキレイに見える場所だった。取り敢えず昼飯でも食うかと、ザックの中からDUGのPOT-M(コッヘル)を取り出した。中に入れてあるプリムスウルトラバーナーとULTRA GAS IP-250Uを出した。
「うん?なんか軽いな...」
ガス缶を振ってみる。「あ!しまった、中身確認すんの忘れた…」。またしてもやってしまった。ガス缶の裏を見ると、自分でマジックで書いた使用履歴があった。前回使ったのは今年の5月6日で、ガスの残量は32.7gしかなかった。その時には2泊3日で笠ヶ岳・双六岳の縦走をしたが、132.7gも使っていた。今回は1泊とはいえ、足りるはずもなかった。
「とりあえず、棒ラーメンは諦めリゾッタ食うか...」と、ナルゲンボトルから水を175ml量り取り沸騰させる。リゾッタは水の使用量が少なくて助かる。しかし、ナルゲンボトルはほぼ空になり、水の残量はエバニューのウォーターキャリーに入れてある500ml弱となってしまった。今日は暑さとハイドレーションを使っていないせいで、自分にしてはかなり水を消費してしまっていた。僕の場合、ハイドレーションを使うと水の消費量が格段に少なくて済む。恐らく、喉が渇く前にちょびちょび飲むのがいいんだと思われる。
リゾッタを食べ終わると、明日の行動用に水作りに取り掛かった。僕がテントを張った場所のすぐ横は土手のようになっていて、そこに雪がそれなりに積もっていた。しかも高さが地面からしっかりあるので、比較的きれいな雪に見えた。落葉などが付いている表面の雪をスノースコップで薄く削り、その下の雪をビニール袋に詰めた。テントに戻り集めた雪をPOT-Mに入れ、根気よく溶かしていく。溶けた水の中には小さい小虫やら草やらが大量に混じって、シリコンじょうごにコーヒーフィルターをセットし、こしながらプラティパスのクイックドローのリザーバーに入れた。その後クリックドロー(浄水器)をかけ、ナルゲンボトルを1L満タンにした。これで明日の山頂アタック時の水は十分だろう。後は元々500ml弱の水を入れて来たエバニューのウォーターキャリー 2Lをできるだけ満たそうとした。そして、ちょうど1.5L程水を満たしたところで、ガス缶は力なく燃え尽きた...。コーヒーやスープを飲めないのは残念だが、行動食と明日の朝食用のパンはあるのでまあOKだろう。アルファ米とイナバのグリーンカレーも持って来ていたので、水でアルファ米を戻し、常温で食べられるイナバのグリーンカレーを試してみることにした。アルファ米は水で戻す場合は60分もかかる。ウォーターキャリー から水をアルファ米のパッケージに入れ、少しでも暖かくなるようにシュラフの中に入れた。時刻は午後4時半頃だったので、約1時間昼寝することにした。ガーミンのFenix7XProのアラームをセットし、シュラフに潜り込んだ。
1時間後、アラームで目を覚ました。辺りはすっかり暗くなっていた。起き上がり、アルファ米を開けると、さすがにちゃんと出来上がっているように見える。かき混ぜ一口食べてみると、多少固いが問題なく食べられそうだった。イナバのグリーンカレーの封を切り、アルファ米のパッケージに注ぐ。これも常温なので、カレーがかなり固形化していて出しにくかったが、きれいに搾り取った。アルファ米のパッケージの中でカレーとご飯をよく混ぜ合わせ食べてみる。「うん、そんなにひどくない...」。ガスが切れて困ったら試してみてほしい。やはりこういう事態を避けるよう、収納時に必ず十分残量のあるガス缶をコッヘルの中に入れる習慣にした方がいいかもしれない。そうすれば今回のようミスが起きても、ダメージがが少ないだろう。
カレーを食べ終え、明日の行動予定を考えた。元々の計画では5時スタートだった。これは、早月小屋から上部は危険というイメージが強く、ブラックで行く時間をできるだけ少なくしようと思ってのことだった。しかし一方で、午後から天気が崩れる予報で、崩れるタイミングはそれほどはっきりしないとヤマテンは言っていた。10月の初旬に仙塩尾根をやった時は、午後6時頃から雨と言う予報だったのに、実際は1時から吹雪いて来た。また、これだけ気温が高いと、太陽が上がり雪がユルくなり、雪が崩れるリスクも増すかもしれない。どちらにしても危険なのなら、もう少し早く出ようと思い始めた。山岳会の通常ルールを破っての山行なので、今回は慎重かつ確実に、余裕を持って登頂しなればと思っていた。そして、3時に目覚ましを掛け、できるだけ速やかにスタートと決めた。この時期の早月尾根は3回目なので、かなりルートの記憶は残っていた。問題は、獅子岩をどう越えていくかと山頂直下のルンゼだろう。それ以外は慎重に行けば特段問題ないはずだ。6時半にはシュラフに再度潜り込んだ。
3. 劔岳アタック
予定通り、3時に目を覚ました。今回は更に2つの判断ミスがあった。一つは、クロスオーバードーム2Gで来たことだった。この時期は昼間が暑くても夜には急激に冷え込み、さすがにシングルウォールは無謀だった。モンベルのダウンハガー#1に、アルパインダウンパーカを着こみ、かつズボンはアルパインパンツを重ね履きして寝たのに寒かった。もう一つはテント内に敷く銀ギラマット(ライペンの ATマット)を持ってこなかったことだ。サーマレストのネオエアーXサーモ(R値6.9)の上でもお尻に冷気が伝わって来た。ということで、いつものことだが、あまり寝れなかった。そのうちテント内で熟睡できる日は来るのだろうか?
朝からコーヒーを飲めないのが堪えたが、あんパンを4つ食べ水を飲んだ。また、BCAA入りのアミノ酸5000mgのスティックも水で流し込む。これでとりあえず問題ないだろう。思ったよりも夜寒かったので外に出るのが億劫だったが、エクイリビウムをテントの外に出し、まずはトイレに行った。空を見上げると、少し雲が出ているように見えたが、満天の星空だった。テントに戻り、アタックザックに荷物を用意した。再びテントの外に出て、今季初のアイゼン(グリベルエアーテックニューマチック)を装着する。このアイゼンは、後ろのバックルの位置を3段階で調節できるのだが、なぜか右足のバックルだけしっかり溝に固定されず、アイゼンの装着に少しもたつく。午前4時20分頃、準備が整いテントを出発した。
序盤は特に問題はないが、びっくりしたことに雪がなくなった。「マジか...」と想定外の事態に一瞬アイゼンを外そうかなと思ったが、少し我慢していると雪が出て来た。まずは一昨年の11月14日に撤退の引き金になった2550m辺りの急登が最初の関門だ。その当時はバックステップもろくにやったことがなかったので、その下りに大変恐怖したことを思い出した。今日も雪の感じはそれほど良くなかったが、特に問題はなかった。その急登を登り切った所は少し平らになっており、休憩にちょうどいいスペースだ。ここからが、少し道がややこしい。トレースはあるものの、それを単に信用しては意味がない。最初は尾根をわざと外し、トラバースする方向にトレースがついていた。しばらくはそれでいいのだが、やはりそのままトラバースし続けると行き詰るので、途中から右上の尾根に向かって直登した。トレースは直登とそのままトラバースの両方に付いていたが、直登しないと駄目だ。
そこからも極論すると、トラバースか直登かの選択が全てだった。基本は尾根の方が確実だが、尾根の先は登ってみるまで見えないのが難点だ。地形図をよく見れば分かりそうだが、今日は地形図を家の玄関に落として来てしまった。4つ目の失態だ。6時前になり、空が明るくなってきた。右手にとにかくデカい薬師岳が視界に入る。予報通りだが、西風が強くなってきていた。喉が渇いていたので、本当はどこかでザックを下ろし、ナルゲンボトルの水を飲みたいのだが、中々風を避けられるいい場所がない。休憩場所を探しながら、「素直」に尾根を上がった。すると眼前に迫る劔岳の右肩から朝日が上がっていた!御来光ではないものの、あまりの神々しい眩しさに一瞬目がくらんだ。ちょうどそこはピークになっていて、ちょっとした大岩があった。その岩が風を避けてくれるのではと期待し、そこでザックを下ろした。しかし、風向きが変わったのか風は引き続き強いままだった。仕方がないので、強風を我慢しながらそこで小休止した。水を飲み、お腹がすいていたのでプロテインバーを食べる。そして、標高も2900に迫り山頂も目前だったので、ここでヘルメットにGoProを取り付けた。
小休止を終え、そのままやせ尾根を行く。しかし、この尾根の記憶が全くなかった。ここまではなんとなく覚えている道が多かったのに、「こんなとこ通ったっけ?」。そして、その尾根が突如深く落ちんでいる所にやって来た。ここまでもトレースはあったのだが、上から下を見下ろすとなかなかの崖だ。ちょっとこれはいくら何でもないんちゃう?と辺りをキョロキョロすると、遥か彼方下に、トラバースしている別のトレースが見つかった。「あ...、あれっぽいね…」。そのトレースは、目の前の崖を下りたところに合流していた。よっぽど引き返そうかと思ったが、そのトラバースも嫌らしい感じに見えたのと、目の前の崖は下りれなくもなさそうだったので、そのままクライムダウンすることを選択した。足場はしっかりあるものの、バランスを崩すと終わってしまうので、慎重にゆっくり下る。「これ、アカンやつやな...」と独り言を言いながらも、意外にそれほど苦労することなく、崖を下り切った。そして、後を振り返ると、足元の岩に赤矢印と鎖がしっかり付いているのに気が付いた。
「あれ、これもしかして、オレ、獅子頭直登した?」
知らず知らずのうちに厳冬期のセオリーの獅子頭直登をやってしまっていた。ちなみに、帰りは、ここを同じくクライムダウンしているパーティーがいたので、トラバースを選択したが、トラバースの方が少し怖く感じた。
ここから、岩尾根の際をどんどん登って行く。そして、岩から離れかなり急な登りにやってきた。ここでは、左手にトレースが見えるのだが、右手から尾根に上がった方が確実そうに見える。「これ、こっち(右)の方がええんちゃうかな?」と、トレースを無視し、右に登って行く。少し登ればかなり安定した尾根に乗るのだが、そこまでの急登の雪質が悪かった。ちょっと緩くて危険を感じる。そして、さっきのトレースを上がって行った方を見ると、夏道の赤矢印が出ているのに気が付いた。「あ〜、あっちやったか…」。仕方がないので、また苦労してビビりながらクライムダウンし、さっきのトレースとの分岐点まで戻った。やはり雪がユルく、自分が下りるたびにボロボロ雪が崩れていて、肝を冷やす。今日一番の痺れポイントだった。
今度はトレースを辿り、左から上がって行く。こっちも負けず劣らず急登だったが、雪が締まっていて安心感があった。少し行くと、さっき向こうから見えた赤矢印が出てきた。もの凄い急登だが、その上には鎖も見えている。鎖も掴みながら、どんどん高度を上げていく。トレースが階段状にできていたので、それほど踏ん張る必要はなかった。そして、その急登を終えると一旦尾根に戻った。目の前には、一旦下り登り返すルンゼが見えた。そして、その登り切った所には、見覚えのあるお助けロープがあった。そこを行けば確実なのだが、わざわざ危険な下りをして登り返すのがまどろっこしかった。一方でこの尾根から尾根伝いに岩峰を登ると、そのままルンゼを登り切った先に合流しているのは確実だった。岩が脆い可能性があるが、そこはリスクを取って尾根直登を選択した。案の定、少なくとも登りに関してはそれほど苦労することなく直登できた。ちなみに、帰りは行きに登って来たとは信じられないくらい急なクライムダウンに感じ、岩も少しぐらついたので、ルンゼを行くことを選択した。
ここを越えると、雄山方面の絶景ポイントが現れる。あまりに美しいビューにしばし立ち止まる。山頂方面を見ると、別山尾根との分岐を記す「早月尾根 頂上」の道標が目に入った。山頂は目前、ここからはビクトリーロードだ。昨日のものとおぼしきトレースが入り乱れる中、自分の好きな道を歩いて行く。ここまで誰ともすれ違わなかったので、恐らく今日は僕が最初の登頂者だろう。少しリスクを取ってブラックスタートした甲斐があった。一昨年の苦労を思い出しながら登って行くと、雪に埋まった祠が視界に入った。
「よっしゃー!」
久々に吠える。祠は豪快に埋まっていて、屋根の一部が辛うじて出ているだけだった。風は引き続き強いままだったが、最高の天気だった。前に来た時とは違い、かなり心の余裕があり、360度の景色を楽しむ。正面には鹿島槍ヶ岳の存在感が際立つ。左手には五龍岳から白馬三山もすっきり見えた。雄山方面の美しさと、北方稜線や源次郎尾根の険しさが対照的だ。その険しさに向けて何歩か踏み出してみる。先行者のトレースも僕と同じような数歩を刻んでいた。「軽い準備運動のつもりが、やはり劔は甘くはなかった」と思いながら、登頂できた喜びを素直に感じていた。
すいません!コメント頂いたのに、日帰りソロの方と勘違いしておりました 😅。感想を読むうちにハッとしました…(汗)
お疲れさまでした。獅子頭の独り言、とても共感できます。私も「これ懸垂下降することろだろ…」と思いながらクライムダウンしました🤣。
ルンゼの感想、気になっていたのでとても勉強になりました🤔✨
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