初夏トラバースに喉カラカラ😨赤岩尾根から鹿島槍ヶ岳‼
- GPS
- 33:10
- 距離
- 20.5km
- 登り
- 2,247m
- 下り
- 2,235m
コースタイム
- 山行
- 6:08
- 休憩
- 0:19
- 合計
- 6:27
- 山行
- 8:46
- 休憩
- 3:51
- 合計
- 12:37
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年05月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
冷乗越の手前のトラバースの連続地点が中々に痺れる。厳冬期は尾根伝いに直登だが、この時は雪がなく直登はザレザレで無理だった。 |
写真
感想
1. 季節外れのお買い物
アイゼンの調子がおかしい。恐怖心に駆られて雪壁を蹴り込み過ぎたせいか?モンベルに持っていくと、原因究明も含めて冬靴とアイゼンを1ヶ月以上預けないといけないという。一方で、季節的に雪山から夏山への移行期に入り、ギア選びが難しい。もう保温材の入った冬靴は不要なものの、山域によってはいやらしいトラバースは残るので、アイゼンはまだまだ必携だ。しかし、僕はワンタッチアイゼンしか持っていない。なので後ろにしかコバのない夏靴のトランゴタワーには使えない。それで、昨年の夏山から冬山への移行期にもセミワンタッチ式アイゼンを購入しようとしていたが、なかなか靴にあうアイゼンが見つからなかった。その当時の好日山荘の副店長によると、グリベルのエアーテックニューマチックは合いそうだが、まだ入荷待ちだった。そうこうしているうちにリアル雪山期に突入し、セミワンタッチ式のアイゼンのことはすっかり忘れていた。
ワカンをデポして見失って知ったのだが、季節外れには雪山ギアは完売になっているのが普通のようだ。倉庫に入れてしまって取り出せないというケースもあるようだが、どこのサイトで検索しても4月にワカンを買うことはできなかった。同じく、5月にエアーテックニューマチックを買おうとしても、なかなか在庫がなかった。そんな時、Snowinnというサイトで在庫ありとヒットした。このサイトは前から検索でよく出てきて知っていたのだが、根拠もなく少しいかがわしい気がしていた。今回も至る所で在庫がない中、いくらでも在庫がありそうだった。アイゼンを靴に合わせずに買うのに少しためらいながらも、時間がないので、クリックしてカートに入れた。次に支払いのページに行き、クレジットカードの番号を入れる。なぜかリジェクトされる。恐怖を感じながら何度もやってみるも、毎回はじかれた。「やはり、いかがわしいのか?」。支払い方法を見ると、クレカ以外にもペイパルがあったので、一度も使ったことのないペイパルをトライした。すると…、すんなり受け付けられた。「う〜ん。さすがイーロンマスクやな。ほんまに大丈夫か、これ⁉?」
SnowinnのWebサイトから荷物のトラッキングをするなかで、AfterShipというアプリがあるのを知った。Gmailへのアクセスを許可しないといけないが、このアプリはかなり便利で、待っている荷物が今どういう状態かをリアルタイムで確認できる。僕が5月7日(現地時間)にペイパルで購入してから、10日ほどオランダでスタックしているように表示されていたが、17日に日本に入り、若干通関でもたついていたものの、5月20日に自宅に配達された。物もちゃんとしていて、Snowinnは日本になくても世界中の在庫から探し出してくる優れた通販サイトだと判明した。箱から取り出し、靴を履かずに装着すると、爪先部分にかなり空きが出てしまい「失敗したかな?」と思ったが、靴を履いて装着すると、自分の体重が重しになってうまく装着できると、ひできちさんから教えてもらい安心した。
さて、無事に季節外れの買い物を済ませた。悪天候や法事で3週間ほど山行(最近「さんこう」と読むと知った)から遠ざかっている。悩みながらも行き先は決まっていた。五龍岳から見たスケールの大きさが目に焼き付いている鹿島槍ヶ岳だ。「入門&ガイド雪山登山」の鹿島槍ヶ岳のページを見ると、「赤岩尾根」が冬山の一般道らしい。もう、残雪期ですらなさそうなものの、「一般道」という響きに弱い。一方でYAMAPで鹿島槍ヶ岳を検索すると、なぜか扇沢スタートで柏原新道の1917から爺ヶ岳南尾根直登しか出てこない。この南尾根は「雪山登山」にも別ルートの選択肢として紹介されていたが、山と高原地図にはルートが表示されないバリエーションルートのようだった。「まあ、みんな行ってるから、問題ないんやろうけど…」。しかし、やはり最初は正攻法で行きたい。「雪山登山」によれば、赤岩尾根は急登なこと、テント場は2000メートル近辺の高千穂平なこと、冷乗越に上がる直前のトラバースは雪崩の危険があれば使わず尾根を直登する事などが分かった。しかし、直近のレコがないのは痛い。そもそも高千穂平に雪があるのかもわからない。雪がないのなら、水を多めに持ったり、夏用ペグを持たないといけない。また、平均行程は、雪山時の2泊3日に対して夏山時は1泊2日のようだった。この中途半端な時期はどうなんだろう?ギリギリ1泊2日でやれるんだろうか?と悩みは尽きないが、何度も「雪山登山」を読み込みこんだ。にゃーおさんに教えていただいたレコの写真を見ながら、所々予期せぬ雪壁登りもある可能性があると心づもりをしたが、少し楽観的だった。
2. 赤岩尾根手強し
後立山連峰の山(といっても、鹿島槍ヶ岳と五龍岳しか知らない)は思ったよりアクセスがいい。自宅のすぐそばに高速のインターがあるおかげだが、湘南エリアから夜間なら3時間半程で着く。安曇野インターを降り、気持ちのいい北アルプスパノラマロードを通り、ストレスなく大谷原の駐車場に到着した。時刻は7時10分頃だった。久々の好天に駐車場が満車のリスクを恐れていたが、杞憂に終わった。それどころか、僕以外には誰もいなかった。正確には1台止まっていたが、その車の主はなぜが登山口へとかかる橋の辺りをうろちょろしているお年寄りで、登山の格好はしていなかった。「ヤバイな…。やはり赤岩尾根はアカンかったか?踏み抜き地獄になったらどうしよう😓」
駐車場の前の林道の向かい側にトイレがあった。小の方はいたって普通だったが、試しに大の方の扉を開けると、便器に蓋が被されていた。怖くて開けられなかった。携帯の電波はほとんど入らないが、登山口から少し歩くとDOCOMOがつながる「ケイタイポイント ※ドコモつながります」がある。
しばらくチンタラ準備をしていると、大きなオフロード車がやってきた。「お!さすがに来るよね🎵」と少し心強く思う。年の頃同世代の男性が降りてきて、「ここは爺ヶ岳の登山口ですか?」と質問された。「いや、ここは赤岩尾根で、鹿島槍ヶ岳の登山口ですね。あ、でも、冷乗越から爺ヶ岳にも行けますね、確かに!」と答える。「ホントは唐松岳行こうと思ってたんですけど、途中道路が通行止めだったんで、適当に急遽ここに来たんです」とおっしゃる。「最近も普通に唐松岳登っている登山者いそうなのに、通行止めって変ですね」と答えた。「あと、爺ヶ岳行くなら扇沢から行くか、あるいは東尾根から登る方が普通じゃないでしょうか?」と自分も最近知ったことを披露する。「東尾根の場合は、多分ここよりも少し南に行ったところに、別の駐車場ありますよ」とみんなのレコで学習したことを伝えた。しかし、彼は「日帰りでかるーく」登るつもりだったようで、「ここからだと、多分往復12時間くらいはかかるんじゃないですか?」とほぼ午前8時になりそうな時間を見ながら伝えた。「あ、そんなにかかるんですね?」と、少しのほほんとした軽い感じに焦りながら、「もしかしたら、速い人なら10時間くらいで行っちゃうかもですが…」と付け加えた。結局彼はそのまま車で帰っていった。完ソロ確定の瞬間だった。
7時50分頃、駐車場をスタートした。駐車場のすぐ右斜め前にかかった橋を渡る。橋の下にはキャンプをしたくなるような綺麗な沢が流れていた。橋を渡ってすぐに登山口があり、車輌通行止めのゲートの脇をくぐって先に進む。まさに新緑満開の気持ちのいい林道を歩いて行った。今日も最近手を出したEXPEDITION PACK80で来たが、からびなさんが予想されたように、前回の塩見岳の時と違ってかなり満帆状態になってしまった。思いの外トップリッドの収まりがよかった。
暫く歩くと、水力発電用の取水堰のような構造物があり、そこから下を眺めると、まるで上高地のような雰囲気のエメラルドグリーンの綺麗な沢の流れが見えた。「つべたそうやな😃」「つべた」なのか?あるいは「つめた」なのか?それが問題だ。僕は、つべたが好きだ。なので、冷乗越はつべたのっこし、冷池山荘はつべたいけさんそうと読みたい。
冬期の赤岩尾根のレコを見ると、西俣出合いのトンネルをくぐる部分の「くにゅっ」とした林道をショートカットしているレコが多い。僕も実際その場所に来るまでは、「どっちにするかな?」と、とんちんかんなことを考えていた。というのも、そのショートカットする場所は、この時期はもう完全に単なる沢と化していて、とても通れるような状態ではなかったからだ。多分冬期は全部雪に埋まっているのだろう。
おとなしく「くにゅっと」し、トンネルをくぐる。壁の穴から水が内部に少しふきこんでいた。トンネルをくぐり左に曲がると、そこに赤岩尾根登山口(西俣出合)と道標が出てくる。ここまでは、単なる林道歩きだったものの、新緑と清流を眺めながら歩けるのでほとんど疲れなかった。
ここからも、そこまで急登なのは気にならない。花には全く詳しくないが、キレイな花が3種類くらい出てきて気持ちがいい。ただ、トレイルに明らかに鹿とは形の違う、どちらかというと人間のとそっくりのうんちが落ちていた。ハエがたかっていて結構ほやほやに見える。「これは、アカンやつか⁉?」。ここから、暫くは熊鈴を必要以上に鳴らしていく。
標高1700メートルから、登山道に残雪が出てくる。まだ、坪足で問題ないレベルだった。今日はスタート直後だけ風が強く寒かったので、モンベルのストリームパーカをウィンドシェル代わりに使っていた。しかし、すぐに初夏の陽気に汗だくになってきたので、モンベルのクールライトロングスリーブジップシャツで登っていた。また、中厚手のマウンテンガイドパンツに、ノー手袋、ノースパッツだった。この時期の登山は、臨機応変に服装や装備をトレイル中に変更していかないといけないが、これにはなかなかの経験値が必要で、まだうまくできなくて失敗してしまう。
今回は、プランでは高千穂平でテントを張るつもりだった。冷池山荘まで行けば時間の配分的にはベストなのだが、重荷で稜線まで出るコストの方が大きいと感じていた。山荘近辺は、携帯の電波がかなり入るという情報も得ていて、かなり惹かれたが、悩みに悩んでの決断だった。
順調に標高2000メートルに近づき、高千穂平目前のことだった。いきなり、目の前にガッツリとした雪渓トラバースが出現した。「これはアカンやつやな😓」。この後、さらに恐怖トラバースが出てくるとはこの時は予想していなかった。迷わずザックを下ろし、今回初投入のグリベルのエアーテックニューマチックを装着する事を決めた。装着はひできちさんが言っていた通り、かなりスムーズにいった。ただ、余った紐の処理がかなり面倒だった。バックカントリー穂高のYouTubeで、紐はできるだけ切らない方がいいと言っていたので、全く切らずに使っていた。厚手のアルパイングローブをはめているとかなり難しいだろう。今後工夫しないといけない。今日はアイゼンの付け外しをこの後ヒステリックに繰り返すことになる。
雪渓を恐る恐るトラバースし始めた。今日は不思議だが、なぜがツボ足のトレースが残っていた。完ソロなはずなのに、「いつのトレースだろう⁉?」と思いながら登っていた。このトラバースにもトレースが残っていた。慎重に一歩一歩アイゼンの歯を雪面に踏みつけ、牛歩した。渡りきった後、緊張でかなり喉がカラカラになっていた。今日はおそらくザックの重量が20キロを超えている。この重量でこのレベルのトラバースをしたことは今までなかった。去年の7月に大キレットに行った時に、天狗原分岐から南岳に向かう途中に同じような規模のトラバースがあった。その時は20キロ弱のザックを背負っていたが、南岳山荘の方が雪切りをしてくれていたので、楽に通過することができた。ものすごく感謝したのをよく覚えている。コロナ前なら、この時期、このトラバースも、もしかしたら雪切りされていたかもしれない。
このトラバースを越えると、すぐに高千穂平だった。鹿島槍ヶ岳がしっかり見える気持ちのいいテント場…、だが…、雪が全くない…。「マジか…😓」。これは予定外だった。雪がないと、水が作れないし、土の地面に使えるペグも持ってきていなかった。雪がないからなのか、テントを張れるスペースも殆ど無いように見えた。「せいぜい2、3張りしか無理ちゃうか⁉?」。冷池山荘行きが決定した瞬間だった。
高千穂平のテント場を越えると「すぐに尾根が細くなるので適当なところでテントを張ろう」と雪山登山にあった。しかし、今日は登山道がなくなった。明らかなトレイルを行くと、ノートレースのかなりの斜度の雪壁登りになる。ここで、先行3人パーティーに追い付いた!「やっぱりいたんだ、あのトレースの主が」。彼らは高速バスで来たらしい。本格的な冬期赤岩尾根攻略のために、下見に来たという。大学の山岳部のように見えた。重そうなザイルを抱え、色んな可能性を探りながら登っているので、かなりのスローペースだったようだ。僕は、にゃーおさんに教えていただいたレコで、ここは雪壁登りを覚悟していたので、高千穂平前のトラバース以降履き続けていたアイゼンを有効活用すべく、雪壁を直登した。しかし、この3人は藪まみれに見える尾根を進んで行った。雪壁登りは体力は必要だったが、恐怖感はそれほどでもなかった。
ここから、暫く雪が消える。でも、「また、すぐ出てくるかも?」と思い、なかなかアイゼンを外せずにいた。しかし、あまりに雪がないので、意を決してアイゼンを外した。すると、「なんて歩きやすいんや‼?」と当たり前のことに感動する。雪がないだけなく、結構なザレ道だったからだ。
暫く、アイゼン無しの快適さを味わいながら登っていく。しかし、比較的すぐにまた緩い雪壁登りになった。緩い坂なので、ツボ足にピッケルで行く。例の3人パーティーもピッケルは使っていたが、足はツボ足だった。ここで、もう少し雪の登りで行けばより安全だったかもしれないが、ツボ足なのを嫌気して、雪のないザレ坂にシフトした。が、これが大失敗だった。ザレザレで滑りまくる。ピッケルを土の斜面に引っかけ、無理やり登っていく。足が何度か滑り、リアルに恐怖した。やっとそこを登り切り、「これは、失敗したな…。」と、ふとピッケルを見ると血が付いている。「あちゃー、久々に擦りむいたか😅」と、どこから血が出てるかを探すと、右手の中指の第2関節が少し深めに切れていた。「やっぱり、雪出てきたら手袋いるな…」と、反省する。登り切った所に少しスペースがあったので、ザックを下ろし、絆創膏を取り出して血が出ている部分に貼った。例の3人組も僕とは違った行き方で登りつつも、「ここ、危ないね」と、声を掛け合っていた。
しかし、ここからが冷乗越への真の恐怖ポイントの始まりだった。「雪山登山」によると、「冷乗越に近づいてきたところで、夏道だと北俣側の斜面をトラバースして冷池山荘方向へ向かう場所がある。ここは積雪状況を見て、雪崩の危険があると判断したときは雪稜通しに爺ヶ岳北峰寄りに登り、冷乗越に出る」とある。実際にその場所に来てみると、尾根上には全く雪がない。一方で、トラバースは雪崩の危険性というよりも、単純に下までトコトン切れ落ちているので、できれば通りたくなかった。先行する3人パーティーは、一番後輩と思しき人が、まず尾根を少し直登した。続いて、先輩と思しき人が、その後輩君に「XXX、直登大丈夫なのか?無理せず、危なかったらロープ出せよ!」と言いながら、トラバースに行く。それを聞きながら、「一人でロープを出して、どうやって確保するのか興味あるなぁ…」と、ソロでのロープの使い方が想像もつかない僕は興味津々だった。結局後輩君は、そこからトラバースに移行していった。この3人は大学生だから仕方がないかもしれないが、あまり話しかけても「つれない」感じだった。しかし、一人だけ比較的よく受け答えしてくれ、僕が「雪山登山」の説明を言うと、直登とトラバースを見比べながら、「まあ、今回はトラバースですね」とはっきりと意見を言ってくれた。彼もそのままトラバースで攻めていった。3人はツボ足だったが、僕はここで再び、エアーテックニューマチックを装着した。まずはアイゼンのまま尾根を少し登ってみた。序盤はそれなりにとっかかりが多く、問題なく登れた。しかし、それ以降はザレザレになってしまい、あまり安全ではなかった。結局、後輩君と同じパターンで、少し直登したところからトラバースに移る。幸い、先行3人のトレースがあったので、それをさらにアイゼンで少し山側を崩しながら踏み固め、万全に足場を作り一歩を踏み出す。20キロ超えのザックを背負っているので、極端に慎重に行った。
いったんトラバースを終えると、ほんの足置場程度の雪のない中継地点があり、そこからトラバース2が始まる。このトラバース2は先ほどよりも長い。同じく下まで猛烈に切れ落ちている。また、同じように、基本3人がつけたツボ足トレースを強化しながらものすごく慎重に行った。実は、今回の山行で、スキがあれば爺ヶ岳の中峰まで狙っていたのだが、このトラバースをやりながら、「それどころじゃないな… まずは足元を固めよう。鹿島槍ヶ岳北峰まで行ければ御の字ちゃうか?」と完全に欲を捨てた。「十分に体力を残しておかないと、帰りに下りでこのトラバースはできんぞ…」
かなり精神的に限界に近かったが、足元だけに全集中していた。「これ完ソロでなくてよかった〜😂」と思いながら一歩一歩エアーテックニューマチックを何度も同じ場所に突く。「全くの独りだったら行けただろうか?」と、この時期でも「赤岩尾根手強し」という認識を強く持った。トラバース2を何とか終え、最後に短い登りトラバースで、遂に冷乗越に到着した。こんなにしびれるとは全く想定していなかった。
3.冷池山荘
ここからは所々雪が出てくるものの、特に難所はなかった。歩きながら左手に立山方面が見え始める。残念ながら劔岳の上方には雲がかかっていた。「明日のお楽しみやな…」。程なくして、前方に冷池山荘の屋根が見えてきた。登山で最も嬉しい瞬間のうちの1つだ。今日は予報通りだが、立山方面からの西風がずっと強く、山荘を風避けにしてテントを張らないといけない。さすがに山荘前はまだ雪がたっぷりだった。小屋前の一番手前側は雪量が多く小山のように盛り上がり、そこから奥に向けて滑り台のようになっていた。そのスロープを下がりきった平らな場所に、例の3人が3人用のテントを張り終えていた。整地をしなくてもよさそうな場所とはいえ、僕の来る少し前に到着したはずなのに仕事が速い。その他には誰もいなかったので、できるだけ彼らから離れる場所を物色する。「よくたっぷりと場所が空いているのに、なぜか既に張っているテントのすぐ近くにテントを張る人がいるがNGだ」とどこかの雪山テント泊説明サイトで読んだことがある。しかし、この山荘前のスペースは正規のテント場ではないらしく、登山道の一部なので、あまりに「ここ!」みないな場所がない。彼らが張った場所が確かにベストだった。なるべく離れて、かつ、雪が豊富な場所がよかったので、小屋前の盛り上がった小山のてっぺんの平たいスペースに場所を決めた。
重いザックを下ろした。急いでザックから何はともあれビールを取り出す。また今回はお湯だけの料理ではなく、アウトレットで買ったモンベルの「アルパインクッカー 14+16 パンセット」のフライパンをどうしても使いたかった。まだ、買ってから未使用だった。なので、家の近くのコンビニで要冷蔵のウィンナーを買ってきた。豊富な雪面に穴を掘り、ビール2缶とウインナーを放り込んだ。
整地を開始してまもなく、爺ヶ岳南尾根から登山者がやってきた。聞くと、もうアイゼンは必要ないくらい雪はなかったらしい。また、そこから暫くしてもう一人かなり若い男性登山者が来て話をすると、彼は無理やり柏原新道を最後まで種池山荘に向けて行こうとしたらしい。しかし、やはりこの時期まだどうしてもトラバースできなかったらしく、途中で強引に南尾根に合流して来たそうだ。「どうしても無理なトラバースってどんなんだろう?」と少し興味を持った。
前回遠見尾根の大遠見山で雪山テン泊した時は、整地とスノーブロック作りが楽しかった。しかし、それは雪質がよかったからだということが判明した。今回はなかなかに拷問だった。というのも、雪面にスノースコップをいれると、至る所で氷の層にぶち当たり、全く雪を切り出せなかったからだ。そうなると、毎回ピッケルでその氷の層を壊してから、スコップですくわなければならなかった。かなり、太ももがプルプルいうトラバースをしてきた後だけに、早くテントを張ってゆっくりしたかったが、結局1時間以上もかけて整地をし、それでも切り出せたスノーブロックの量は前回よりもかなり少なかった。「まあ、基本今日は西風だし、小屋が風避けになってくれるだろう」と、東側に貧弱に積み上げた雪壁を見ながら思った。が、やはり考えは甘く、夜には風が北東からもかなり強く吹き始め、一晩中猛烈にテントが揺すられてあまり寝れなかった。少なくとも耳栓をすればよかったが、聞こえないリスクを睡眠に優先させた。
何とかテントを張り終え、十分すぎるほど雪の穴の中で冷やされたビールとウィンナーを取り出す。午後2時に山荘に到着し、鹿島槍を見ながらビールとおつまみにありつけた頃には午後4時になっていた。ちなみに、整地中、ビールとウィンナーを入れた穴を見失った。ちょっと周囲の雪をかき分けただけで、簡単にどこかわからなくなる。要注意だ。ピッケルか何かを立てて目印にしておくべきだった。テントの中に入り、マットに腰掛け、テント前の一段掘り下げたスペースにテーブルを置いた。足もその掘り下げたスペースに広げる。ビールとジェットボイルの計量カップに入れたピーナツをテーブルに乗せた。サイコーの鹿島槍を目の間に見ながらビールを楽しむ。これも、最も好きな瞬間のうちの1つだ。「さぁー、ウィンナー焼いてみるかな」と、パッケージを見ると、「油をしかずに中火で炒める」とある。当たり前だが、超簡単だ。水作りをする前は全く使わなかったジェットボイルの五徳を取り付けた。ライターで火をつけるも、風が強く火が手前に流れて手を火傷しそうになる。相変わらず不器用だ。太陽の下で炎があまり見えないが、音で点いていることを確認し、フライパンを五徳に乗せる。ウィンナーを全部フライパンに入れ、じっくり炒めた。焼き上がったウィンナーをつまむ。かなり旨い。小学生以下の作業で、食事の満足度がここまで上がるとは!早くリゾッタから卒業せねばという思いを強くした。萩原編集長の「秒速!山ごはん」を買ったものの、まだ殆んど開けていない。
水を作ろうか悩みながら、とりあえず外に出てみた。強めに吹いていた風のせいで、貧弱な雪壁が倒壊していた。「あー、また積み直しか…」。今日は保温ボトルに1L、ソフトボトルに1.5Lで来ていた。ギリギリ足りるかなとも思ったが、「念のため1Lだけ水を作るかな…」。雪を集める前に、もう一度倒壊した雪壁を直すために、雪の切り出しをし、補強しながら積み上げ直した。
レジ袋に集めた雪をテント前の掘に置いた。水作りは暗くなってからでもできるので、明日のルート確認をして来ようと思った。いつも、小屋からのスタートが難しくて不安になるからだ。今回も案の定、かなり苦労した。みんなのレコの軌跡を見ると、小屋の東側を進み、シンプルに尾根通しに行っている。しかし、小屋の東側には簡単に通れる道はない。少し余計に東側に逸れて前進すると、雪庇のような部分に出て行き詰まった。また、小屋の東側キワキワを行き、急な雪坂を下りて小屋の壁沿いに進めるが、そうすると小屋の西側に出るだけだった。何度か右往左往するもよくわからない。「下調べして正解やったな。明日の朝、ブラックスタートでこれやったら、かなりパニクってな…」。結局、小屋の東側キワキワの雪坂を慎重におり、一旦西側に行き、そこから180度回れ右をすると無理なく尾根に乗れるようなだらかな雪坂になっていた。
4. 鹿島槍ヶ岳アタック
2時半にセットしたBaroの音振動で起きた。昨日は水作りに意外に時間を費やし、夜の9時頃にやっとシュラフに潜り込めた。なので、もう少し遅く起きようかとも思ったが、悩んだ挙げ句この時間にした。帰りの赤岩尾根にかなりてこずると思ったので、時間に余裕を持ちたかったからだ。ちなみに冷池山荘前は、稜線のコルにあるからか、事前の情報通り、携帯の電波がバッチリ入った。ドコモとAUが入ることは確認したが、AUの方が安定しているようだった。
午前3時前に、お湯を沸かしながらパンを食べていると、外から「すみません、ここから鹿島槍ヶ岳にどうやって行くんですか?」と声をかけられる。ステラリッジのフロントジッパーを上から開けると、昨日一番最後に到着した若者だった。「あー、結構難しいでしょう❗僕も昨日下見した時、分からずに焦りました」と言いながら、自分が確認したルートを説明した。彼は「ありがとうございます」と言いながらスタートして行った。「しかし、まだ3時前やなのに早いな…」。
僕は相変わらずきびきびできず、4時前にやっと出発の準備が整った。のっけから、この時期なのにリアル厳冬期装備で行く。アイゼン、ピッケル、ヘルメット、アルパイングローブにアウターシェル。唯一、来週の笠ヶ岳へのテストも兼ねて、スパッツは付けずに行く。
小屋の東側キワキワのちょっとした急坂を、アイゼンありなので軽く下りる。また、そこから小屋の西側には出ずに、右手の雪壁を直登して尾根に出た。しかし、すぐに早くも雪がなくなってしまう。アイゼンを外して「しまった❗」と思った。クランポンラップ(アイゼンケース)をテントに置いてきてしまった…。よっぽどここにアイゼンをデポして行こうかとも思ったが、ワカンをデポして見失った苦い経験を猛烈に思い出した。かといって、これをこのままザックに入れると色んなものに傷をつけそうだった。思案した挙げ句、「しゃーない、取りに帰るか」とテントまで戻った。おまけにアイゼンを外してしまったので、アイゼンを手に持ちながら慎重に雪の上を歩いた。小屋のキワキワの危なげな雪壁の手前でアイゼンをデポし、テントに戻り奥の方にあったクランポンラップを手に取った。「無駄に時間ロスしたが、まあ、まだまだ時間あるし、ゆっくり行こう」と相変わらずスマートに行動できない自分に腹が立つ。結局、ここから一度もアイゼンを付けることはなかった。
先ほどの引き返した場所から少し行くと、昨日は雲がかかっていた劔岳がバッチリ見えた。「これこれ❗」といきなりテンションが跳ね上がった。そして、すぐに、冷池山荘のテント場に来た。このテント場にも高千穂平同様一切雪がなかった。少し先から雪が出てくるので、そこまで雪を取りに行けば水は作れるが、夏用ペグは必要だ。このテント場は、前方に劔岳がこれでもかというほど見える。むちゃくちゃサイコーなテント場だが、風を遮るものが何もない。昨日の強風だとかなり大変だったろう。もちろん、まだこの場所にテントを張っている登山者はいなかった。やはり雪上テン泊は、整地で地面の傾きを調整できたり、風避けの雪壁や水を作れたりと、手間はかかるが便利なことが多い。
この先から、暫く気持ちのいい雪稜歩きになった。ずーっと立山連峰を見ながら歩く。あまりにもスッキリ見えるので、やたらと立ち止まってしまう。また、前方には鹿島槍ヶ岳がでかい。三伏山から見えたデカイ塩見岳と見え方の雰囲気がよく似ていた。どちらも見間違えようのない特徴的な山容だ。右から太陽が上がり始めた。「おー、赤いね😃」。暫く立ち止まり、東の空を見つめた。
今日は予報に反して引き続き西風が強かった。雪稜歩きから、程なく夏道がはっきり現れるが、そこを歩くとかなり大ダルミチックな西風が吹いてくる。アウターシェルを着てはいるものの、少し肌寒かった。夏道を一段下に降りた所にまだ雪稜は続いていて、そこを歩けばハイマツが風避けになってかなり楽に歩けそうだった。おっかなびっくり下りて少し歩いて見たが、実際かなり楽だった。しかし、先がどうなってくるかよく分からない不安から、すぐに夏道に戻り、風に耐えながら歩いた。
みんなのレコによく雷鳥が登場していたので、期待しながら歩いていたが、今回は残念ながら姿を見かけなかった。少しザレた坂をつづらに登って行く。振り返ると、分かりやすい爺ヶ岳の3つの峰が見える。その爺ヶ岳からぐるっと稜線が続き、横広の目立つ山に繋がっていた。種池山荘のちょうど目の前にある山だった。左手の劔岳を眺め、劔岳から北に続く稜線のエグい「えぐれ」が印象に残った。立ち止まり・振り返りを繰り返しながら登っていくと、左に傾いた古びた山頂標識に辿り着いた。よーく見ると、「布引山 二六八三」書いてあった。布引山は、遠見に見ると鹿島槍ヶ岳の一部のように、同じような曲線を描いていた。
ここからは、もう鹿島槍ヶ岳南峰はすぐだ。一旦下り、同じように登り返す。昨日は重荷を背負っていたのに対し、今日はバランスライト20のアタックザックなので、足が軽い。あまり登り返しは苦にならなかった。あっさりと南峰に登頂した。やはりこの時期の登山は混雑がなくてありがたい。超メジャーな鹿島槍ヶ岳ですら、誰もいない。山頂で気兼ねなくゆっくりできた。もちろん装備の難しさ等はあるものの、この時期の登山のお得感は否めないと思う。北峰に行った後でまた戻ってくるものの、ゆっくりと時間を使う。山頂から南方向をじっくり眺めた。先程まではかなりの強風だったが、幸運にも南峰に到着してから風が穏やかになった。さっきも気になった爺ヶ岳から続く稜線の終点は、蓮華岳のようだった。もしかして、これがみんなか言っている「針ノ木サーキット」なのか?さらにその奥に、今日ははっきりと槍ヶ岳が見えた🎵山と高原地図を広げ、鹿島槍ヶ岳からの展望(南方向)のイラストを見ながら、確認できる山を潰していく。「燕岳ってこんな形なのか」や「前穂高岳は尖っとるな〜😃」と、イラストと実際の山を見比べながら山を観察すると、とても分かりやすかった。また、劔岳は文句なく分かりやすいが、立山はのっぺりしていて難しい。どこまでが雄山で、どこからが大汝山なんだろうか。
南峰から北峰を眺めると、「あれ、ホンマに行けるんか⁉?」というほどそそり立って見える。山頂は平らな感じだ。GWに五龍岳から鹿島槍ヶ岳に縦走した方から、「北峰までの下りはくれぐれも慎重に!」とアドバイスをいただいていた。実際行ってみると、雪がほぼないので、それほど危険さはなかったが、序盤に少しザレた下りがあった。そこを慎重に下りきったところで、後ろから例の3人パーティーが現れた。僕が下で止まっていると、彼らは無造作に下りようとして、少し落石させた。特に謝るでもなく、ラーク!と言うわけでもなく、ちょっとよく分からない。もしかしてまだそれほど山経験はなかったのかも知れない。(大学生っぽかったのでそもそもあまり生きてもいないが…)
暫くして、明らかに彼らの方が速いので、先を譲った。やはり、3人の中の一人だけが気持ちよく挨拶していく。「彼がリーダーなのかな」と思う。程なく、「吊尾根」の道標が出てきた。拡大地図を見れば明らかなのだが、ここで五龍岳方面のキレット越えと分岐する。五龍方向を指し示す矢印は、奥側に付いていて気付かなかった。なので、あまり意識することなく、北峰方向に進んだ。南峰から北峰までずーっとGoProを回しながら進んでいた。この南峰・北峰間のノーカット映像は多少需要があるんだろうか?
結局、大キレットがそうであったように、登山道というのは、本当にうまい具合につけられている。南峰から眺めた印象とは全く違い、無理なく歩けた。もっと経験値が増してくれば、リアル冬期にチャレンジしたいルートなので、「夏道を歩いておくのも役立つかなぁ」と思いながら歩いてきた。例の3人と入れ違いに、北峰に登頂した。やはり、たったと行動している彼らは、山頂での滞在時間も短い。平らな山頂の向こう側に五龍岳へのカッコいい稜線が続いていた。奥には白馬三山もちょこっと頭を覗かせていたのか?劔岳の北側に続く稜線がエグく、さらにその先にも立派な山が続いていた。振り返ると、たどってきた吊尾根越しに南峰がデカイ。なぜか北峰の山頂標識は倒されていた。それを上から写真に撮るのもどうかなぁと思い、担いで立たせてみた。岩に立て掛け、南峰方向と劔岳方向の写真に収めた。この時はこの北峰から五龍岳へと続いていると思っていたので、「どこから行くんだろう?」とそれっぽい所を覗き込むが、どこもかしこも、びっくりするような崖だった。山と高原地図の拡大地図を見ると、先ほどの「吊尾根」から分岐することが分かって納得した。
5.本当の核心
今回はもちろん北峰に到達できて嬉しかったのだが、核心はまだ終わっていないと感じていた。やはり行きに恐怖したトラバースのことが気がかりだった。北峰を十分楽しみ、南峰へと再び向かった。すぐに南峰に到着し、飽きもせずに北アルプス南部方面を眺めた。今回は本当に剱岳を何度も何度も見つめることができた。それでいて、なおかつ登山者の振り返させるその魅力はどこから来るのか?そんなことを考えながらテント場へと戻ってきた。時刻は午前9時半頃だった。少しびっくりしたが、もう誰もいなくなっていて、僕のテントだけがポツンと残されていた。行きの布引山の手前くらいで、朝、道を聞いてきた若者と、柏原新道から南尾根に力業で復帰した青年と相次いですれ違っていた。彼らは昼御飯も食べずにすぐ撤収したのだろうか?もっと驚いたのは、例の3人パーティーもテントを撤収して姿を消していたことだった。さらに、もう一人いた同世代くらいの男性は、僕がテント場を出発した時は、テント脇から登山靴が見えていたので、まだテントにいたはずなのに、撤収していなくなっていた。アタックしなかったんだろうか⁉?
「みんなテキパキしてるな〜」と思いながら、僕は全く急ぐ気にはなれなかった。明日も会社を休んでここでダラダラしたいなぁと思いながらテントに入った。まずは腹が減っていたので、行きにセブンイレブンで買ったもちもちチョコブレッドを全部たいらげた。また、持ってきていたアマノフーズのクリームシチューを作ろうとジェットボイルで湯を沸かす。こういう作業が徐々に面倒臭くなくなってきている。今回はウィンナーを焼いただけなのに、普通に旨く満足度が高まった事が収穫だった。
暫く休憩し、いやいやながら撤収に取りかかった。急いではいないが、チンタラでもなく片付けていく。11時半にスタートできる準備が整った。最初に使った時はあれだけ容量に余裕のあったEXPEDITION PACK80は、もうすっかりパンパンだった。担ぐと、ビールを平らげ、水の量も減っているはずなのにずっしり重い。アイゼンはギアホルダーに留めて、履かずに行った。行きにも通った道なのに、すっかり忘れていたが、山荘からすぐは少し危険な雪の下りだった。アイゼンをつけりゃあよかったと思いながらも、面倒臭くてピッケル頼りで行く。すぐに冷乗越に着いた。「ここからが今日の核心だな…」と、ここでアイゼンを装着した。行きには登りのトラバースだったので、比較的余裕があった最初のトラバースも、下りだとかなり怖い。バランスを崩さないように細心の注意を払いながらアイゼンを刻んで行く。何とかやりきり、ハイマツ帯で小休止。すぐ次のトラバースが始まる。緊張で、喉がカラカラになっていた。水を飲み一呼吸入れた。第2トラバースは、一旦少し上に上がり、緩やかな上に凸の放物線状にトレースが付けられていた。最初、その登りを5、6步行ったところで、グローブをはめていないことを思い出した。「アカン、アカン。また、手がつべたくなってまう😣」と、折角登った道をバックステップでハイマツ帯に戻る。ザックを下ろし、グローブを取り出ししっかりはめる。気を取り直して再スタートした。しっかり足を雪面に踏みしめると、恐怖なのか、単純にザックの負荷が大き過ぎるのか、太ももが震える。たまに足が少しでも流れるとチビりそうだった。足元と前方に全集中で、気の遠くなる道を牛歩して、何とかまたハイマツ帯に到達した。「よし、あと一つ…」。行きは、今やったトラバースより、これからのトラバースの方が楽だった。しかし、それは登りだったのと、かつ、行きの方がルート取りがよかったおかげだったようだ。例の3人のトレースをたどったのが失敗だった。行きはもっと上から攻めていたのに、帰りはなぜが下からトレースが伸びていた。そこを行くと、途中から右の斜面がピッケルのスピッツェではつけないくらい急になってしまった。仕方がないので、ピックを雪面に突き刺しながら行く。やはり、ピックだけだと緊張度は3割増しになった。また、途中からトラバースできない斜度になり、サイドステップとクライムダウンをくりかえす。「おい、おい、何でこんなルート取ったんや⁉?」。やはり、自分でしっかりルートを決めなかったツケが回ってきた。今さら仕方ないので、最後の精神力を振り絞り、目の前に近づいてくる岩場に向けて焦らずに迫っていった。最後にワイヤーのある岩に辿り着き足場を確保した時、我を忘れ誰もいない山中で「よっしゃー‼?」と絶叫していた。明らかに山頂で吠えたよりもデカイ声だった。「今までで一番怖いよ、これ…」
ここからは、難所は3ヶ所あることははっきり覚えていた。特に、行きに手を負傷した部分は、ルート選択が難しい。そこに来たとき、思っていたルートはザレ岩を直登だったので、ザックを下ろし一旦アイゼンを外した。そのままザックを背負い、先に進もうとしたが、「いや、ちょっと待てよ。これ登って行き詰まったら、やはり降りて、この足元の雪壁をクライムダウンだよな…。ちょっと軽荷で偵察に行くか…」とザックを置いたまま、岩を登ってみた。すると、完全に行き詰まる事が分かった。「やっぱりか😅」。また、岩を降りて、いま外したばっかりのアイゼンを付け直した。ザックを背負い、最初は前向きで、途中から安全のためバックステップで降りた。途中からお助けロープが出てきてとても助かった。
次は、高千穂平を越えて直ぐの雪壁だった。ここに来るまでに、一旦アイゼンはまた外していた。行きの登りでも結構思い切って登る必要があったので、できれば下りで使いたくはない。しかし、普通に登山道を行くと、その雪壁に誘われてしまう。しかし、行きに例の3人が藪尾根を強引に直登したいたのを覚えていた。先程、偵察が、殊の外上手く行いったのに味をしめ、今回もザックを下ろし、軽荷でその藪尾根のに入っていった。すると、意外にも藪は大したことなく、むしろ通って下さいと言わんばかりに、若干登山道のようになっていた。「お!これは絶対こっちやん😃」と、ザックを背負った状態でも悠々と通る事ができた。
頭の中で、「あと一つ‼?」と思いながら、高千穂平のテント場を通る。高千穂平の道標まで来た時に、ふと、「このテント場ホンマに狭いな…。一体何張りいけるん?」と気になってしまう。時間もないのに、一旦来た道を戻り、注意を払いながらもう一度歩いてみる。やはり、僕にはどう頑張っても2、3張りしか無理に見えた。恐らく雪が積もれば、スペースが広がるのだろう。
高千穂平を越え、登山道にじゃまっけな2本の木の枝が前を塞いでいた。それを足で踏みつけ、デカザックに引っ掛からないように工夫して通り抜ける。すると、目の前に最後のトラバースが待ち受けていた。「あ、忘れてた。これやん最後の砦」。これで最後になるだろうアイゼンを着けた。一歩一歩慎重に行けばここは特に問題ではなかった。向こう岸に渡りきり、やっと終わったと思った。まだまだ先は長いのだが、とりあえず「一発アウト」はもう出てこない。アイゼンを外し、アルパインパンツを脱いだ。ピッケルもストックに交換し、ヘルメットを外す。「いや〜。赤岩尾根ホンマ大概やわ…。無事にやれてよかった…」最後まで気を抜かないように、デカザックを担いで先を進んでいった。
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