晩秋の四国アルプス縦走【前編】剣山〜三嶺〜天狗塚
- GPS
- 46:30
- 距離
- 24.8km
- 登り
- 1,482m
- 下り
- 2,555m
コースタイム
【day2】0708坂出0714=0718宇多津0810=0920貞光1010=1115見ノ越1140=1150西島1155-1220剣山1250-1400次郎笈-1510丸石-1535丸石避難小屋(泊)
【day3】0630丸石避難小屋-0720高ノ瀬-0920白髪避難小屋1010-1105カヤハゲ-1205三嶺1220-1340西熊山-1405お亀岩避難小屋(泊)
【day4】0530お亀岩避難小屋-0605天狗峠-0620天狗塚-0645天狗峠-0805イザリ峠(西山林道)-1035久保=1100いやしの温泉郷1305-1320菅生1335=1415見ノ越1430=1630阿波池田1640=1740三豊市内友人邸(泊)
天候 | day1 晴れ時々曇り day2 晴れのち曇り day2 快晴 day3 快晴 |
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過去天気図(気象庁) | 2013年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
坂出〜宇多津 JR予讃線(片道200円) 宇多津〜見ノ越 オリックスレンタカー(軽車両5日間18000円+ガス代約2500円) 見ノ越〜西島 剣山リフト(片道1000円) 久保〜いやしの温泉郷 ヒッチハイク 菅生〜見ノ越 三好市営バス(片道1530円) 見ノ越〜三豊市内 レンタカー |
コース状況/ 危険箇所等 |
■道の状況 7月上旬の集中豪雨と9月末より5週連続でヒットした台風のせいで、もともと地盤のゆるい四国山地は土砂災害が多数出ています。国道も時間帯閉鎖したり通行止めがあったりであちこち工事中になっています。それに比べると縦走路はほとんど被害が出ていなかったのですが、増えすぎた鹿がやたらに立派な獣道を作るようで、三嶺から名頃集落への下山中の道迷い遭難がよく発生しているようです。私もイザリ峠から久保集落まで地図上の破線ルートをたどったのですが、林道から30分ほど下った所で杉檜の斜面ごと崩壊していて登山道がつぶれている場所があり、またややこしいことに、地勢調査の目印のピンクテープが沢沿いにそこいら中にぶら下がっていてミスガイドされ、たいへん脆弱な斜面を無理矢理へつったり高巻きしたりで何度かプチ滑落しながら命からがらバス通りに出ました。なので、時間がかかっても大人しく車道を下ったほうが安全です。もっとも通る人もまれなのでしょうが、それでも三好市には最低限、通行止めなどの注意喚起をしてほしいですね。。。 ■温泉・飲食店 いやしの温泉郷は温泉と食事処のどちらもセンスよく綺麗でサービスも洗練されているので、リゾートらしくとてもゆったり過ごせます。露天風呂から三嶺の稜線が見えますし、東祖谷で一番立派な施設なのではないでしょうか。そこから西祖谷経由で大歩危方面に行くにしろ、祖谷渓方面に行くにしろ、車道は綺麗に舗装はされていますが1車線の狭くてカーブが続くため、対向車すれ違いが緊張の連続のドライブになります。従っていったん東祖谷でリセット休憩が必要です。 ■アクセス 久保〜見ノ越間は20kmぐらい距離がありますが1日に午前と午後の各1便しかバスがなく、西山林道への自転車デポもかなりきついかと思います。ソロなら選択肢があまりないですが、いやしの温泉郷までは割とひんぱんに観光客が来るので、ヒッチハイクできるかもしれません。グループで縦走の場合はマイカー複数台で来るか、タクシーを予め手配するかしたほうが無難です。 ■物資調達 祖谷にはコンビニはおろか商店もないので、縦走のための買いだしは阿波池田か貞光あたりで済ませて来るしかないです。自分は往路で貞光に寄ったのは、マルナカとローソンがあったからです。 |
写真
装備
個人装備 |
免許証
保険証
クレジットカード
iPod Touch(地図)
携帯電話
充電器
カメラ
ナルゲン
サーモス
プラティパス
ストック
ヘッドランプ
タオル
洗面用具
GORETEXジャケット
ゲイター
防寒着
手袋
ニット帽
下着
着替え
レッグウォーマー
アルコールティッシュ
防水袋
セームタオル
時計
非常食
サブザック
|
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共同装備 |
テント
フットプリント
シュラフ
ウレタンマット
ストーブ
ガスカートリッジ
クッカー
カトラリー
食器
コップ
キャンドル
ライター
ナイフ
プラティパス
調味料
ゴミ袋
|
感想
ここ何年か、秋になると東北の山を縦走して紅葉を愛でつつ温泉に入る、というのがパターン化していて、今年はちょっと違ったところを歩きたいな、どうせならあまり行ったことのない西日本を目指すか、と半年前から考えていた。九州も中国地方も初夏に歩いてしまったので、四国がいいかな、と山のガイドをパラパラ見ていて、眼が釘付けになってしまった稜線、それがこの剣山〜三嶺〜天狗塚の笹原の道。赤いツツジの葉に彩られた頃にここを歩こう!四国遠征ついでに、石鎚山も行こう!私は百名山ハンターじゃないし、どうせだったら長い縦走にしよう!そう思って、サンライズ瀬戸号も10月中旬に一度は予約するも、あいにくの5週連続台風続きで延期、天候が安定したのは10月も末になってから。それでも運良く再びサンライズ号も取れて結果オーライ、全部で5日間の四国アルプス縦走のうちの最初の2泊3日がこのルート。
寝台特急とはいえ、サンライズにはのびのび座席というフェリーでいうと2等船室みたいな雑魚寝のクラスがあって、そんなの山小屋で慣れている自分は迷わず寝台料金を節約。人気があるみたいで、月曜の夜だったけど満員御礼。とはいえ仕切りがあって一人分のブースが確保されプライバシーもあり、寝袋に入って規則的なほどよい揺れに身を任せているうちに、ぐっすり。目が覚めたのは朝5時すぎで、ブラインドを上げてだんだんと明るくなっていく車窓をぼんやり眺めていると、すごく和む里山の風景と瓦屋根の古い民家が並ぶ美しい集落。岡山の手前だった。朝霧が農地からゆっくりと立ち上り、とても美しい朝。岡山でサンライズ出雲号を切り離して、いよいよ瀬戸大橋を渡り香川県に入る。ちょうど朝日が左手方向から海に浮かぶ島の間から昇るのが見えて、この鉄道の旅のハイライトにわくわく。坂出で特急を降りて予讃線の普通に乗り換え宇多津で降りて、手配しておいたレンタカー屋に直行。7時半過ぎについてしまったが、8時から営業開始のはずなのに、スタッフの女性が気をきかせて早く貸してくれた上に早朝営業をやっている近くのうどん屋「麺屋」さんを教えてくれた。いやー、気がきくなあ。
それにしても四国はもともと地盤がゆるいらしく、夏の集中豪雨とここ1ヶ月相次いでヒットした台風のせいで、登山口までの道路はあちこち通行止めやら工事規制などをやっている。それでも徳島県の貞光経由で縦走の食料買い出しをしつつ国道438号をまっすぐ上がって行くと、時々1車線のか細い道になったりしてすれ違いにヒヤヒヤはしたが、空いてて割とすんなり見ノ越に着いた。登山口ですでに標高1410mなんだから、たった標高差300mのためにリフトなんか使う予定なかったのだが、ザックを背負ってみて&空模様がどんどん曇って来たのを見て、あっさり作戦変更。今回はピークハントでなく縦走メインなんだからと自分を納得させ、リフトでさくっと稜線に出る。しかしたった30分の歩きで剣山に着いちゃうなんて、やっぱりインチキ登山だよな。。。
平日だったが、だだっぴろい山頂はたくさんのオシャレ山ガール&おじいちゃんおばあちゃんで賑わっていた。そしてお楽しみは、なんといっても次郎笈への美しい稜線。これを真正面に眺められるベンチを見つけてお弁当を広げる。そうそう、剣山に登るといったら、最低限この次郎笈への尾根の往復を含めてこそなんだと私は思う。コレなかったら、百名山にリストするのはちょっとねえ?久弥さん。
さてその夢のような美しい笹原の尾根をいったん下り鞍部で振り返ると、そこには全く違った表情を持った剣山の姿があった。山腹にカンバの白い幹と赤や黄色に色づいた木々をまとい、たっぷりとした尾根をギザギザさせてりりしく立っている剣山は、見ノ越から見上げたずんぐりまあるい姿とは大違いで、惚れ直したわ〜。そして自分はそのまま次郎笈に上がらず、いったん山腹をトラバースする巻き道で給水してから、次郎峠にザックをデポして山頂に上がる作戦で行くことにする。さて水場はどこだろうとキョロキョロしながら歩いていたら、つまんない石ころにつまづいておっとっと!ボトン、と音がする。はっ!ザックのポケットに突っ込んでた水筒がふっとんで笹の斜面に埋もれてしまったではないか!しかも運悪く緑色のナルゲンボトル、保護色過ぎて全然見つからない。。。orz 結局転んだポイントから10m四方の笹原をくまなくローリングして約20分後やっとリカバーしました。リフトで稼いだ時間とエネルギーを消費しちまいました。全く何をやってるんだ私。。。
気を取り直して次郎笈のピークを踏みに登り返す。山頂からはたくさんの山が帯のように何十にも重なって見えて、またそのひとつひとつがてっぺんを擦りむいたように笹原になっているのが面白く、四国の山の特徴なんだなと思った。そしてどれひとつとして山座同定できないところがまた、遠くへ来た!って感じでわくわくする。山深いな、四国。
次郎笈から先はぐっと人影もなくなり、丸山を超えて、樹林帯の中にひっそりと建つ避難小屋に到着。あたりは鹿のフンだらけで、夜中になると木の枝をミシミシ音をさせて歩き回っていたのはどうやら彼らのようだ。翌朝歩き出すと、ケーン!と鳴き声がして、黒い肢体にハート形の白いお尻のマークの生き物が跳ねて行ったのを見た。彼らは数が増えすぎてしまってそこいら中の木々の芽や幹まではいで食べてしまうので、地元の人も苦慮してネットをかけたり柵で囲ったりと対策をしているようだ。結局、その夜は小屋には私ひとりきりだった。
縦走2日目。
朝5時に起きたときにはまだ外には星が瞬き真っ暗で、風が轟々鳴っていたので、一度は寝袋に戻ったものの、6時にはちゃんと明るくなって来たのであわてて支度をして出発する。ガイドブックには、高ノ瀬山までの道が「やや薮漕ぎ」と書いてあり、地図には「年々良くはなっている」と書いてあったので、防滴対策で雨具を着て出たが、なんのことはない、すっかり綺麗に刈り払い整備されていてその快適さに驚いた。あまり人が通らないように感じた縦走路だったが、やはり黄金ルートなのかな。白く立ち枯れた木々が笹原の上にパラパラと立つ高ノ瀬には小鳥の群れが渡って行く。えも言われぬ清らかさに、後ろ髪をひかれつつ先を歩いていると、前から若い女子2人と男子1人の3人連れがやってくる。しばらくすると、今度は若い男の子がソロで歩いて来た。みんなこの時間に歩いているということは、前の晩に次の白髪避難小屋に泊まったということだ。平日だが、やっぱり人気のあるルートで、私の泊まった丸山小屋が不人気なだけか。そりゃそうだ、高ノ瀬から先だって、花崗岩がニョキニョキ立つ、アルペンムードたっぷりの景観だし、アップダウンは少ないし、水場は豊富だし小屋はあるし、こんな素晴らしい尾根歩きを山好きが放っておくわけがないか。さしずめ西の八幡平だな。そうやって久々に雲一つない秋空の晴天に見守られて、夢心地の笹原を3時間ほど歩いて、遠かった三嶺がだんだん近づいて現実的な距離になって来たと思ったら白髪避難小屋に到着。ここで10時のおやつ休憩とする。前の晩に鍋を食べ過ぎて朝あまりお腹が空かなかったので軽く済ませたから電池切れ寸前なのだ。せっかくピカピカお天気なので、小屋の外でパンケーキを焼いて、三嶺を眺めながらほおばった。美味しい!嬉しい!楽しい!
そこから先は、これまでのなだらかなルートとは打って変わって、ツツジの群落を激下り&激登りで、2時間たっぷりかかってやっと三嶺についた。途中、大きな岩をクサリにつかまって直登するような箇所もあったりで、汗水たらしてこの大きな山を登頂したときの充実感たるや。それにしてもカヤハゲから見上げる三嶺、かっこいいなあ。笹原の中に赤いツツジの木とゴツゴツした岩がアクセントを作っていて、両側に大きく裾野を広げ、特に西熊山の方へのびのびと続く稜線は永遠に歩いていたいような空中散歩だ。そして反対側の尾根の三嶺ヒュッテのまわりには、これまた広い広い笹原がゴルフでもサッカーでもしてくれといわんばかりに平らに広がり、ここに泊まるのも星がたくさん見えて綺麗だろうなあ。小屋の裏から続々と列をなしてハイカーたちが上がってくるのが見えた。三嶺は尾根の両側にあちこち登山口があるようだが、名頃から上がってきてピストンするか剣山へ向かうのがポピュラーみたいだ。数人の方とお話ししたが、私と同じ方向へ縦走する人はいなかった。
三嶺から西熊山への道もなだらかに見えて、結構距離があり、最後のゆるゆるとした登りの途中で力尽きて、ビスケットとスープでまた燃料補給をする。振り返ると三嶺がおかんのようにどこまでも見守ってくれている。西熊山から先はちょっと笹の背が伸びてて腿くらいまで来たけど、ほどなくしてお亀岩に到着。まだ2時過ぎで本当は天狗塚までピストンする予定だったが、朝から8時間行動してくたびれていたので、早いけどそのまま避難小屋に入って休むことにした。高知県が管理するらしいこのお亀岩避難小屋、別荘のような立派な造りでびっくり。だって丸石や白髪の小屋とは差がありすぎるだろ!この分だと、偵察しなかった三嶺ヒュッテも豪華なんだろな。。。何しろ、トイレ完備、水場完備、薪ストーブ完備、2階建て、築浅、庭付き!サンダルやハンガー、銀マなどもたくさん置いてあり、掃除も行き届き、よく利用されているのがわかる。お茶を飲んだら、水を汲みに行く。いや〜、岩手の避難小屋みたいだわ。こんなところを今夜も独り占めなんてラッキー♪♪♪ウキウキと鍋の支度をして、ありったけの水餃子とキノコ類と餅をぶちこんだチゲをハフハフやって、早々に寝袋に入ってキャンドルライトに音楽を聴きながらウトウトしていたら、「コンバンワー」と野太い声がして、おじさんが2人、真っ暗な闇の中から突然現れた。外は轟々と音を立てて風が鳴るなか、寒い寒いといって入って来たので、てっきり道迷いでもしたのかと思って聞いたら、高知の人で、「夜に小屋で寝入るまで時間を持て余すのが嫌だからわざと遅くに出発する」のを習慣としているらしい。年に7回も8回もこの山域を歩く地元の人だからこそ、そんな考え方もあるのか。感心するというか、多様性に驚くというか。自分は寝袋に入れば6時でも7時でも寝れてしまうもんな。。。結局その晩は、そのおじさま達の話す土佐弁が龍馬みたいだ〜と気になってしかたなく、彼らが飲んで食べて静かになるまで眠れなかったのだけど。
縦走3日目。
朝4時にそっと起きだし、まだ寝ているおじさま達を起こさないようになるべくそーっと荷物を土間の方に移動して、戸を閉めて朝食の支度をする。本日は予定通り下山して1日に2本しかない見ノ越行きのバスを何としてもつかまえなければならないため、ヘッドランプをつけて5時半に出発。小屋が東側に開けていて、まだ月が出ているが空の端っこが赤くなってきているのが見える。またしてもピカピカの晴天に恵まれそうだ。狙い通り、日の出前に天狗峠に到着、ザックをデポしてつん、ととんがった天狗塚までピストンする。ここの稜線も、写真で一目見てから気に入って、どうしても歩きたかった所だ。うまいこと、空の低いところに雲が折り重なっていてご来光の時間が少し遅れてくれたおかげで、天狗塚のピークから漆黒の空が紫になりだんだんとうろこ雲が真っ赤に染まっていく様子と輝く朝日をゆっくり眺めることができた。遠くには、剣山と次郎笈の2つのピーク、それに続く三嶺の尾根と、ここまで歩いて来た縦走路をすべて振り返ることができる。そして、天狗塚の先にも、四方八方に道は累々と続き、名前のわからないピークがいっぱいあることに感激する。聞きしに勝る、素晴らしい縦走路だったな。
さて、天狗峠に引き返しザックを背負い直して、西山林道へと下る。これがまた、どれが本来の登山道だかよくわからないほどに笹原にケモノ道がいくつも伸びているが、とにかく下る。本能に従い斜め右へ右へと降りて行くと、ようやくしっかりした(ヒトの)踏み跡に出た。そこからどんどんと下って紅葉ラインへ降りて行き、杉ひのきの樹林になり祖谷の集落がみえてきたと思ったら、人の声がして、車が停まっていた。鹿駆除作戦のグループと、これから天狗塚へ登ろうというハイカーが複数来ていたが、これから国道に降りる人は残念ながら皆無だった。。。ヒッチ作戦失敗。まあまだ時間も早いし、1時間半もあるけばバス停に出られるのだから、あとひとがんばり、と思ってまた山道に入ったのだったが、、、、これが悪夢の始まりだった。
そこから30分ぐらいは赤テープを目印に順調に歩けたのだが、途中で突然、杉の木ごと根こそぎ土砂崩れした斜面があり登山道がつぶれている。踏み跡も何もわからなくなっているが、倒木をくぐりつつトレイルとおぼしき方向へ歩いたが、その先はちょろちょろと水が流れる急な岩場になっていて、これがツルツルすべる上に崩れやすく、非常に危ない。仕方なく元来た道を引き返し、土砂崩れポイントの頭の所まで戻って、目を皿のようにして目印を探す。と、随分斜面の下の方、沢すれすれのところにピンクテープが揺れているのが見える。あんな下まで降りないといけないのか。地図を見ると、確かに最後は沢沿いに歩いて橋を渡って国道に出るようになっているが、、、。躊躇していても仕方がないので、危ないな、と思いつつもグズグズの斜面を恐る恐る降りて行く。怖いのが、見るからに柔らかそうな土の上を避けて、多少固そうな岩を選んで歩いているのに、この石がお皿のように薄く刺さっているだけのようで、足を乗せたとたんに崩れるのだ。浮き石地獄の剱の北方稜線を思い出す。木につかまりながら降りれば、その木がすっと抜けたりぼきっと折れたりして、見事に流される。ストックで何とか足場を作りながら降りるけれど、何度もプチ滑落を繰り返して、やっとのことでピンクテープに辿り着く。沢に沿って、次々とピンクテープを追って行くのだが、これがまたあり得ないような危ない水際をへつらされたり、そんなところ登ってなんの意味があるのだ?というような木の上についていたりする。ようやく、これが登山道の目印ではなくて、何らかの作業道の目印なんだということに気がついて、脱力する。すでにあちこち泥だらけだし、レギンスにはかぎ裂きを作ってしまったし、1便のバスの時間にはとうてい間に合いそうにもないが、幸いお天気はいいし、午前中の早い時間だ。沢沿いをなんとか高巻きして平行に歩いて行きさえすれば、最終的には集落に出れる。絶対出れる。そう自分を励まして、その後も何度かコケたり滑ったりしながら、時々目障りなピンクテープに悩まされながら、今まで歩いたどんなバリエーションルートよりも怖い思いをしながら、命からがら、アスファルトで舗装された道路が見えた時には、生還、、、という文字がよぎった。全く、この騙された?怒りや不満をどこにぶつけたらいいんだ!
久保の集落はほとんど人気がなく、さて次のバスまで2時間半余り、どうしようかと思っていたら、なんと下から上がってくる車と降りてくる車が近づいてくるではないか。細い道ですれ違おうとスピードをゆるめたところを狙い、ここで全力で手を挙げてアピール!上がって行く車はいかにも地元の人といった年配の女性の運転する軽車両で、手短にバスに乗り遅れた事情を話したら「途中までだけど」と言ってドアを開けてくれた。何でもこの先の温泉宿に勤めていて、ちょうどそのホテルへ向かうところらしい。聞けば、下山後、車を回収してから立寄りしようと思っていた、「いやしの温泉郷」というこぎれいなリゾートホテルではないか!何とラッキー。ちょっと順序が逆になっちゃったけど、ここでお風呂に入って泥を落として、優雅にランチをして、ゆったり癒されながら次のバスを待とうっと。
泥んこの登山者なのに、平日の午前中でまだのんびりムードのただようホテルの方には大変親切にしていただき、ホテルを出る頃には行き場のない怒りもすっかりおさまり、穏やかな気持ちでバスに乗って、スタート地点の見ノ越に戻ることができた。それにしても、最後はワイルドなフィニッシュの待ちうけている縦走だった。。。
そんなこんなで十分祖谷を冒険したので、もう平家の生き残り伝説だのかずら橋だの大歩危小歩危などの祖谷渓を観光する気はすっかり失せていて、宿の人お勧めの県道32号&国道32号でまっすぐ阿波池田方面に降りて、下界の文明社会へと戻ったのでした。
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