記録ID: 4800765
全員に公開
無雪期ピークハント/縦走
剱・立山
剣沢野営場でダラダラ目指すも何故か着かぬ!!立山三山と劔岳
2022年10月15日(土) ~
2022年10月16日(日)
体力度
7
1~2泊以上が適当
- GPS
- 16:57
- 距離
- 23.0km
- 登り
- 2,392m
- 下り
- 2,393m
コースタイム
1日目
- 山行
- 6:46
- 休憩
- 1:18
- 合計
- 8:04
距離 11.6km
登り 1,170m
下り 1,057m
17:06
2日目
- 山行
- 8:58
- 休憩
- 1:36
- 合計
- 10:34
距離 11.4km
登り 1,251m
下り 1,353m
14:42
ゴール地点
天候 | 最高の秋晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
コース状況/ 危険箇所等 |
1.黒部アルペンルートという悪魔 「昨日、剣沢警備派出所を閉鎖しました。剣沢野営場の水場、公衆トイレも使用できませんのでご注意ください」 10月11日、富山県警察山岳警備隊のツイッターが流れてきた。遂に、本当のキャンプシーズンの到来だ。これを待っていた。 立山はずっと行ってみたかったが、黒部アルペンルート(英語のアナウンスではちゃんとクロベアルパインルートと発音されていた)というとんでもない障害が立ちはだかっていた。そもそも扇沢に行くだけでも大変なのに、そこからよく分からない乗り物に乗り換え続けるようだ。公共交通機関での山行への免疫ができていない上に、頻繁な乗り換えと高額な通行料は、僕を室堂から遠ざけるには十分だった。 しかし一方で、剣沢キャンプ場から見えるドデカイ劔岳の景色をいろんな人のレコで見るにつけ、沸々とマグマが溜まってきてもいた。「あそこでダラダラしたい??」。少し前に立山黒部アルペンルートの会員登録は済ませ、いつでもWEBキップを購入できる体勢は作っていた。いわゆるマグマ噴火待ちだ。小屋締めが始まり剣沢キャンプ場に適期が到来した。紅葉も終盤だがまだ楽しめるはずだ。3連休は今ひとつな天気だったが、この週末は中々の好天が予想されている。まさに「いつ行くの?今でしょ!」の好条件に我慢が限界を超えた。木曜日の朝イチに扇沢から室堂までの往復チケットを購入した。いろんなキャンペーンを絶妙にかいくぐり、結局定価の9,470円のままだった。秘境への往復チケットだから仕方がないと自分に言い聞かせた。(ちなみに、WEBキップは、乗車日前日の午後2時59分まではキャンセル料なしでウェブサイトからキャンセルできる) 2.黒部アルペンルートの実際 金曜日にちょっとした仕事のトラブルで定時には退社できず、自宅に着くと午後9時前になっていた。食事をさっと済ませパッキングを始める。今回は持っていく物のレビューは終わっていたので、それをモンベルのアルパインパック60に詰め込んでいく。最近は北鎌尾根対策で導入したライトアルパインパック40の山行が続いていたが、今回はダラダラが主目的なのでガッツリ担ぎ上げることにしていた。しかし、さすがにこの時期だけに、エクスペディションパック80を使用することは自粛した。ザックの巨大化に歯止めがかからなくなる恐怖を感じていたからだ。 今回の問題は「水」だった。去年、しっかり調べた感じでは、剣沢キャンプ場が閉まった後も、水場は凍るまで使用可能なはずだった。しかし、冒頭の富山県警察山岳警備隊のツイッターでは、はっきりと水場は使用できないとある。悩んだが、もし本当に水場が使えないと窮地に陥るので、4L(正確には3.9L)持っていくことにした。ハイドレーションに2L、ナルゲンボトルに1L、テルモスの山専用ボトルに熱湯を900mlだ。 夜に気温がどれくらい低下するかも悩みどころだった。先週の3連休は登山道が一部凍結していてチェーンスパイクがあった方が安心という意見もあったくらいだ。どのみちアルパインダウンパーカは持っていくので、シームレス ダウンハガー900 #3 で十分かなと最初は考えた。しかし、ダラダラしに行って寒さで凍えるのは避けたかったので、悩みに悩んで真冬に使うドライ シームレス ダウンハガー900 #1 をチョイスした。シーツーサミットのウルトラSIL eVENT コンプレッションドライサック M に詰め込み締め上げるも、#1 は中々のダウン量で#3 対比かなりのボリュームになってしまった。その他、チェーンスパイク、普段は着ないトレールアクションパーカ(フリース)、フライパン、 COCO壱番屋監修 尾西のカレーライス(意外に重い)等々、好きなだけ詰め込んだ。 最後に、ダラダラにはビールが不可欠だ。まだ剣御前小屋は開いているとのことだったので、剣沢キャンプ場の前に寄り道して買っていこうかとも思った。しかし、少し遠回りになるし一本700円もするので、安曇野インターを降りてからコンビニで買って担ぎ上げることにした。もう外気がひんやりしているだろうし、モンベルのロールアップクーラーバッグに入れれば大丈夫だと思った。(結果サイコー過ぎる陽気のせいで、剣沢キャンプ場に着いた頃には農鳥小屋温度になってしまっていた) ここまでやりたい放題をした結果、かなりのザック重量になっているはずだった。しかし、なぜか剣沢キャンプ場まで余裕で行けるとの思い込みから、すっかり夏場でなまった今の自分の力量を超えていることに全く気付かなかった。これが当然仇となる。 扇沢までは意外に近かった。最近やたらと来ている気がする安曇野インターを降り、すぐのセブンイレブンに寄った。予定通り350mlの缶ビール2本とチョリソーを買って、モンベルの保冷バッグにしまいこんだ。徐々に明るくなる中、鹿島槍ヶ岳を見ながら北アルプスパノラマロードを走る。この時間で既に天気は良さそうだった。 「大町市の底力はすごいな」と思いながらナビに従い市営無料駐車場を目指す。結局自宅から3時間ちょっとの6時過ぎに無料駐車場に到着すると、入口に「満車」の看板が立っていた。「マジか…」。とりあえず左に曲がり駐車場に降りて行くと、係員のおじさんが手をバツにしながら駆け寄ってきた。「すみません、もう満車です!」。確かに駐車場を見渡すと、キレイに車が整理されてびっしりだった。「上の有料駐車場は多分空いてますので。1日1000円なので、そちらにお願いします!」とおじさんもヘトヘトのようだった。「やはり、扇沢恐るべしやな…」。そこでUターンさせてもらい、仕方なく有料駐車場へと向かう。 おじさんの言った通り、有料駐車場はまだガラガラだった。しかし、1日1000円ではなく、12時間1000円だった。「まあ、3000円ってとこだな…」と、もう黒部アルペンルートの悪魔の言いなりで、投げやりになってくる。しかし、何でもポジティブに考える癖のある僕は、「まあ、こっちに止めた方が、トラブル回避できるかな…。3000円で安心を買ったと思おう」 この有料駐車場も7時頃にかけて結構埋まってきた。安定のマイカーのドアを開けっ放しにして準備していると、「隣に一台入りますので、ドアを閉めて下さい」と、係員に注意される。途中で買ったビールが入った保冷バッグやハイドレーションをザックにいれると、かなりザックがパンパンになってしまった。無理やり押さえつけてザックのロールアップを辛うじて一巻きする。何とか7時過ぎに準備が整い、ザックを背負った。「うん??ちょっと重いぞ、これ…」とあまりの重さに、やりたい放題の当然の帰結を思い知る。 階段を上り、WEBキップの発券所まで歩いていく。すると、当日券売場には長蛇の列ができていた。それに引き替え3台の発券機があるWEBキップの発券所はガラガラだった。「何でみんなWEBキップにせえへんねやろう?」と不思議に思いながら、発券機にQRコードをかざし、かなり小さい紙のチケットを受け取った。「しかし、この紙のチケットを出す必要があるんかいな?」とQRコードで全て乗車できるようにしなかった理由がわからない。 秘境へはまず関西電力の電気バスから始まる。チケット化した流れで、7時半の始発にはまだ30分弱あったが、既にできていた列に並ぶ。「何故に関西電力?」と、大阪出身の僕は不思議に思ったが、富山出身の友達に「富山は意外に関西のイントネーション」と昔聞いたことを思い出した。あっという間に列は伸び、早めに並んで正解だった。僕は室堂に行くという意識しかなかったので、係員が「黒部ダムに行く人は左の壁沿いに並んでください」と言うのを耳にし、後ろに並んでいた人に「これ、室堂行きますよね??」と、小学生以下の質問を投げ掛ける。「はい、行きますよ😃」と聞きいちいち安心した。 この電気バスは中々の拷問だった。目一杯乗客を詰め込むので、僕のデカザックも膝の上に置かなくてはいけなかった。巨大なザックを膝に置くと、目の前の視界は全部潰れ、必死にバランスを保たないといけなかった。16分で黒部ダムに着いたが、我慢できるギリギリだった。 ここからは、一旦外に出てダムの上にある遊歩道を歩く。四方を山に囲まれ、雄大な黒部湖を見ながらのウォーキングはそれ自体十分に楽しめる。左手奥には何やら見たことのあるような立派な山が見える。「なんやろうな、あれ…」と思いながら歩いていると、前を行く若者のパーティーが、「あれ、赤牛岳ね」と仲間で話していたのが耳に入った。「あー!あれ、赤牛か、確かに🎵」とあれだけ烏帽子小屋で目に焼き付けたのに、すぐに出てこない。まだまだ経験不足なことを思い知る。 観光放水を手すりから身を乗り出して見たりしながら気持ちよく歩き、トンネルをくぐりケーブルカー乗り場にやって来た。いきなりじめっとした昭和の雰囲気になる。係員に誘導されるがまま、列の最後尾に並ぶ。よくわからず、ここでかなり待たされた。やっと列が動き始め、どうやら僕は2台目のケーブルカーに乗るようだった。1台目に乗る人達は、前にある階段を上りケーブルカーを待っている。かなりレトロな雰囲気を醸し出しながら、ケーブルカーがゆっくりと上から降りてきた。科学進歩から取り残された感が半端ない。一斉にみんなが写真を撮りまくる。「秘境感丸出しやな…」 このケーブルカーでは、さすがに膝の上に僕クラスのザックを置くと、そもそも4人掛けのボックス席には4人は絶対に座れない。なのでそこに、2人で座ることができ、電気バスより幾分拷問度合いは減った。また乗車時間も5分なのであっという間に黒部平駅に到着した。 次は黒部平駅からロープウェイになる。ここに着く前、ケーブルカー乗り場でロープウェイの乗車整理券を配られていた。その整理券順に、ロープウェイに案内される。僕は4番の札だったので、まずは3番の人達からの案内になる。それまでの間、「階段を上がった先のパノラマテラスで景色を楽しんで下さい」と言われたので、デカザックを背負って喜んで上っていく。展望デッキからはの眺望は素晴らしく、角度的に双耳峰に見えない鹿島槍ヶ岳が印象的だった。しかし、ゆっくりと楽しむ暇もなくすぐに4番のコールがかかり、急いで階段を戻り乗り場の列に並んだ。 ここからはロープウェイで大観峰駅まで7分だ。このロープウェイからは眼下に広がるスケールの大きい紅葉を楽しむことができた。隣のシニア男性は狂ったようにシャッターを切りまくっていた。こんなに素晴らしい眺望なのに、ロープウェイのバイトとおぼしき若い係員は、当然見飽きた景色に気だるそうにお決まりのアナウンスをしていたのが面白かった。 ここからが、最後のトロリーバスだ。大観峰では景色を楽しみながらゆっくりもできるとアナウンスがあったが、「どうせ室堂からの景色の方がいいに決まってる」と、すぐ出発のトロリーバスに急いで乗り込んだ。このトロリーバスは少し罰当たりだ。というのも、ちょうど雄山の下をくりぬいたトンネルをくぐるからだ。「よう、そんな大それたことしたな…」と、山頂直下を指し示す黄色い標識を見ながら、「もしこれが劔岳だったとしても同じ事したんかな…?」と、トンネルを掘るなんて当たり前の事なのに、柄にもなく信心深い気持ちになった。 3.まだ着かないの?剣沢が遠かった?? 〜 立山三山 こうして長い乗り継ぎを経て、遂に室堂に到着した。まさか自分がこんな所にこんなに苦労して来るようになるとは、去年ですら想像できなかった。まずは外に出て、立山玉殿の湧水の写真を撮る。しかし、もっと有名な立山の石碑の写真は撮り損ねてしまった。この後の大変さをこの時知っていればすぐに浄土山に向かったのだが、しばし観光客になる。左手からみくりが池の方へ歩いていく。あまりにもベタだが、池に移る雄山から富士ノ折立までの稜線を写真に収める。ドンドン先に行き、少しずつ角度の違う似たような写真を撮りまくった。完全に観光客だが、見る景色全てが新鮮で飽きない。 分岐まで少し引き返し、今度は日本最古の山小屋「室堂山荘」に向かう。キレイな大きな現在の室堂山荘に奥に、記念館のようになった古い小さい小屋があり、そこに「立山室堂 日本最古の山小屋」とある。これは、加藤文太郎が剣沢小屋が雪崩で流される幻覚を見た後に逃げ帰ってきた、あの室堂小屋なんだろうか?中に入り、さらに時間を使ってよくわからない出土品などを見て回った。 ここからやっと普通の登山を開始した。時刻はもう10時になろうとしていた。この時点では、時間が押しているような危機感は全くなかった。折角訪れた秘境を味わい尽くしたい一心で、できるだけ時間をゆったり使っていた。ここから浄土山登山口までは、少し急だが歩きやすい石畳の階段になっていた。途中、大日岳、奥大日岳などを指し示す「北アルプスの眺望」地図があってありがたい。よくわからないが、大日岳の方が奥大日岳より奥の感覚がするのは僕だけだろうか? 程なく浄土山登山口にやって来た。今回の立山秘境巡りは「全部行き」を目指していたので、ここにザックをデポして、その先の室堂山展望台へと歩いて行く。軽荷で歩くと本当にあっという間に、広々とした展望台に出た。前には何やら双耳峰のような立派な山が目立つ。その左手にはどこから見ても分かりやすい笠ヶ岳、さらにその左には槍ヶ岳も遠く見えていた。しかし、この一番目立つ双耳峰が何かわからない。AR山ナビで確認すると、何と薬師岳と北薬師岳が角度的に双耳峰に見えていたことが判明した。また、その左手の笠ヶ岳との間にある山は黒部五郎岳だった。山を色んな角度から判別できるようになるには、かなりの経験値が必要なことを改めて感じる。 まだ序盤だというのに、これでもかという絶景尽くしに大満足だった。浄土山登山口まで戻り、ザックを背負い直す。ここからは小一時間の登りだが、それなりにきつい。ザックの重さがぼちぼち影響を及ぼし始めていた。何とか稜線に上がると、進路は右なのだが、明らかに左に行かざるを得ない目立つ石垣があった。しかし、なぜかそこに行くなと言わんばかりに足元の岩には「?行き止まり」と書いてある。まだまだ時間を全く気にしていなかったので、行き止まりの左に行ってみた。その石垣の前に立つと、中には「軍人霊碑」と書かれた太い木の柱が置かれていた。さらにその奥にもケルンのようなものが見えたのだが、そこにはさらに行くなと言わんばかりに、今度は緑のロープが張られていた。今だにどこが浄土山の北峰だったか定かではないが、おそらくそこが浄土山の北峰だった可能性もあるので、無理してでも行っておくべきだった。軍人霊碑の辺りはそのロープに沿うようにして一周ぐるっと歩けるようになっていて、ちょうど中間地点が雄山を望める展望台になっていた。キリスト教のよくある柱が少し興ざめだったが、景色は申し分なかった。 登山道に復帰し、浄土山の北峰を過ぎているかどうかもあまり気にせず、気持ちのいい稜線に足が自然と出る。少し小高い丘のような所に何とはなしに寄り道した。浄土山の北峰はここの可能性もある。振り返ると雄山、その右手に今回やたらと存在感のあった針ノ木岳、名前が面白いズバリ岳が見える。ズバリ岳と蓮華岳が重なり少しズバリ岳の山容が分かりにくい。前方を見るとちょこっと頭を出した龍王岳、その右手には槍ヶ岳、笠ヶ岳、黒部五郎岳、薬師岳と続く蒼い稜線が爽快だ。 程なく「登って下さい」と言わんばかりの梯子付き櫓が現れた。注意書を見ると、富山大学の気象観測施設で立ち入り禁止と書いてある。「そういえば…、そんなことが山と高原地図の冊子に書いてたな。ってことは…」とYAMAPを取り出すと、いつの間にやら浄土山をハッキリ認識することなく通り過ぎていた。この時は、浄土山が双耳峰だということもころっと忘れ、今自分がいるのも浄土山(南峰)ということは意識していなかった。「やられたな…、どこやったん?浄土山?やっぱりあの軍人霊碑の先のケルンやったんかな。しまった!」と後悔しても後の祭りだ。やはり登山道を歩いていて少しでも気になったら寄り道することをお勧めする。 今回は「全部行き」なので、広々とした浄土山南峰に置かれた丸太ベンチの所にザックを下ろし、龍王岳を目指す。そこにいた女性ソロ登山者にも、「浄土山ってどこだったんでしょうね?」と話しかけられ、「軍人霊碑の先のケルンみたいな所だったかもですね😅」と、やはりみんな意識せずスルーするんだなと思いながら苦笑い。南峰から見る龍王岳は、その「そそりだちっぷり」が印象的だ。烏帽子岳から見た立山の右手に見えたミニ劔岳のようなピラミダルな山は龍王岳だったのだろうか、それとも浄土山だったのか。 一旦コルにかけて下ると、小屋跡のようなしっかりした石垣の土台がある。そこからは気持ちのいい岩登りだ。ストレスなくあっという間に登りきった。山頂には「龍王岳」のまな板山頂標識が横たえられている。真正面には雄山の重量感がすごい。右に視線を移せば、だんだん行ってみたくなってきた針ノ木岳、さらに前方には槍ヶ岳から薬師岳がサイコーだ。少しずつ自分が何の山を見ているのか分かってきているのが嬉しい。十分山頂を堪能し、ザックのデポ地点の浄土山南峰に戻った。 時刻は昼の12時を少し回った頃だった。この頃から「ちょっと時間が経つの早いな…」と疲れも意外にあるのを意識し始めた。ザックが重すぎるのと、寄り道のしすぎだったかも知れない。この立山三山縦走はとにかくアップダウンがきつい。龍王岳は2872mだが、ここから一ノ越(2705m)まで急激に下り、そこから雄山まで300m標高を上げる。 デカザックに振らされるバランスに気を付けながら一ノ越山荘まで降りてきた。山荘は開いていて、登山者で賑わっていた。トイレもあり、そこには「この先トイレはありません」とあった。この時期のもう一つの問題はトイレだ。雪山でもそうだが、2泊以上のテント泊をトイレに行かずにやりきることは中々に難しい。雪山の場合、雪を掘ってそこにするらしいが、雪が溶けたあとのことを考えると恐ろしい。「八甲田山 消された真実」によると、昔の自衛隊の雪中訓練では、まず雪を地面が出てくるまで延々と掘り、さらに地面から十分に掘り下げてそこに便をしたらしい。しかし、あまりにも大変なので、その後は一斗缶などを携行し便を回収するようになったという。恐ろしいがやはり携帯トイレに慣れ親しむ必要があるのだろうか? この一ノ越からが思ったよりきつい。登り(赤矢印)と下り(黄色矢印)で登山道が分けられており、すれ違いのストレスはない。この立山は、劔岳に至るまで極めてよく登山道が整備されている。追い抜かれることもないが、あまり追い抜くこともないほどほどのペースでしか歩けない。まさに老若男女、たくさんの登山者が思い思いのペースで登っていた。お年寄りの女性の登山者が休憩を適宜入れながらも、物凄く安定感のある登り方をしているのが印象的だった。あまりにもチンタラウォークだった僕は、追い抜かれるんではないかと恐怖したほどだ。少し前には、お母さんと小学生の男の子(低学年)と女の子(高学年)の3人が登っていた。子供たちは手ぶらで、お母さんが比較的大きめのザックを背負っている。女の子の方が辛いらしく、途中で道を譲ってもらった。しかし、この低学年の男の子が手ぶらとはいえ速い。ドンドン先に行っては、お母さんとお姉ちゃんを待つを繰り返していた。何とか追い付いてやろうという僕の気迫を感じたのか、僕が彼に近づいてくると、また物凄いスピードで逃げるように先に進んで行った。悔しいが山頂まで追い付けなかった😅。 ヘロヘロになりながら山頂への稜線に到達した。すぐに一等三角点「立山」と山頂方位盤(何と呼ぶのか?石丸謙二郎氏)がある。進行方向にはやっと近くに感じられる雄山の山頂の祠が見える。立山雄山神社本宮の前を通り、大汝山への分岐を分ける。ここからは劔岳をしっかり目にすることができる。思ったより苦労してやっと雄山の山頂に到着した。山頂からは針ノ木岳とその下にコバルトブルーの黒部ダムが見える。後立山方面は、双耳峰ではない鹿島槍ヶ岳、五竜岳が雲海から頭を出す。劔岳方面はほとんど雲がなくすっきりと晴れ渡っていた。今回の山行を通じて、日中はほぼ無風・快晴で全く寒さを感じなかった。もちろんチェーンスパイクも全く必要ではなかった。この季節の必要装備は日替わりで変わり、リスクを考慮すれば何でも担ぎ上げざるを得ないかもしれない。 雄山山頂からは、しばらくはアップダウンが減り楽になると期待したが、なぜかそうでもなかった。大汝山への分岐を右に曲がり一旦下る。少し平坦な道を歩き、あまり道がハッキリしないガレ場を登り、大汝山山頂直下の平地に来た。当然ザックを下ろす。普段なら背負ったまま山頂に行ったかも知れないが、今回は隙ある毎にザックをデポした。そこからちょっとした岩場を登り、山頂標識のある狭いスペースに到着した。立山最高地点の割には地味な山頂だった。山頂標識の手前に少し危ないが上に立てる大岩があり、もちろんそこに上がってGoProを回す。すると、後から到着したかなり軽装の男女カップルが、さも当然のように山頂標識のある岩に登り始める。自分もよく似たことをやるが、さすがに三大霊山だけに「ちょっと罰当たりちゃうか…?」と軽く引く。それを見ていた他の登山者もドンドン岩に登る連鎖が起こってしまった。 次は、富士ノ折立だが、ここは地図を見ると少し登山道から奥に入った場所が山頂のようだった。明らかな外国人2人を案内している、日本人にしては異常に流暢な英語を話す若い男性が、Do you guys really want to climb the last one? Cuz I'm a bit worried about the time. みたいなことを言っているのが聞こえてきた。「そうか、ここはスキップする人も多いんだな…」。しばらく歩くと山頂への分岐があるコルに到着した。また、ここでデカザックをデポする。少し前から腰ベルトを限界まで締め付けているにもかかわらず、肩もだるくなってきていた。デポして行動する時間が肩休めになってちょうどよかった。ここから山頂までは左から巻きながら少し高度感のある岩場を行く。難易度はここまでで初めて少し高めか。山頂に着くと、僕より少し若そうな軽装の男性が立っていた。少し会話を交わし、山頂から見える山荘を指差しながら、「あの山荘はなんでしょうね?」というと「剣御前小屋ですかね?」と、聞いている僕も何も分かっていないが、答える彼も僕と大して変わらないレベルのようだった(本当は内蔵助山荘)。山頂からの景色は相変わらず最高で、さっきまで雲が多くてよく見えなかった後立山連邦の鑓ヶ岳や白馬岳も雲海から頭を覗かせていた。時刻は午後2時半を回っていた。さすがに時間の事が少し気になり始めていた。その男性に、「ここ何回目ですか?」と聞くと「2回目です」という。ここで、まだ先程の小屋間違いにこの時は気づいていない僕は、僕と似たり寄ったりの登山経験の彼に無意味な質問をしてしまう。「この後、剣沢キャンプ場まで行くんですが、後3時間くらいで着きますかね?」。すると彼は「着かないんじゃないですか??」。マジか…。「確か知り合いが室堂から10時間かかったって言ってました」。なに?? おれチンタラしてたから10時前まで室堂におったぞ…。8時か?剣沢キャンプ場…。「いや〜。ヘッデン設営になりそうですね😅」「お気をつけて…」 YAMAPで登山計画を作る時はいつもコースタイム通りの休憩なしで設定する。すると、大体休憩をいれても少し余裕を持って山行を終了できた。今回はそれで行くと4時50分に剣沢に着く予定だった。しかし、今回はもう滅多に来れないと思って立ち止まりが多かったのかもしれない。後は詰め込み過ぎのザックが重すぎてかなり疲れ切っていた。「まあ、別にヘッデンでもええか…」と開き直り気味に富士ノ折立の山頂を後にした。 時間は押しているが、全部行きを継続しようと歩いていた。すると、富士ノ折立をスタートしてすぐに、明るいベテラン登山者のような男性に「劔行くんですか?」と話し掛けられた。デカザックにヘルメットを付けていたからだろうか。「はい、でもその前にここから剣沢キャンプ場に日があるうちに着けるかどうか…」。また同じ質問を口にした。「ここから3時間くらいで着きますかね?」。するとこの男性は「3時間もあれば十分着きますよ!」と、一気に気持ちを晴らしてくれた。「でも、水場が怪しいかもですね」と親切に教えてくれるので、「はい、富山県山岳警備隊によると水場使えないらしいんで、水を大量に担ぎ上げて、それで遅くなっちゃいました😅」と答えた。彼は「お気をつけて」と元気に送り出してくれた。 次は巻き道もあるようだが、当然の真砂岳のピークを踏んでいく。すると、先程富士ノ折立から見えた山荘が見えてきた。そこへ続くカールには少し雪渓が残っている。地図を取り出して見ると、どうやらその小屋は「内蔵助山荘」で、その雪渓は2018年認定の内蔵助雪渓(氷河)だった。「なんや、剣御前小屋ちゃうやん😅」。これで、むしろ剣沢にヘッデンもなさそうやなと安堵した。物凄い急なカールなのに、雪渓の先からは小屋に向けてトレースが付いているように見えた。「小屋からこっちにカール通って来れるんかな、物凄いすり鉢状やけど、こっち側…」と不思議に思った。 大走りとの分岐に来た。めっきり登山者を見なくなっていた。やはりみんな富士ノ折立まで行ったら引き返すのだろうか?大走りへと向かう登山者も全く見かけなかった。真砂岳への直登ルートを選択し、山頂に到着した。時刻は3時20分だった。山頂には小振りな「立山 真砂岳」の山頂標識がある。「野口五郎岳の近くにも真砂岳あったな、どっちが有名なんやろ」と思いながら景色を眺める。相変わらず後立山連峰は雲が多めだったが、鹿島槍ヶ岳から旭岳までの頭を確認できた。この山行中によく思ったのは「やっぱり鹿島槍ヶ岳スゲーな」だった。後立山連峰で群を抜いた存在感だと思うのは僕だけだろうか? ここから別山(べっさん)までは中々に登りごたえがある。しかも誰もいない。こんなサイコーの秋晴れに、しかも憧れの立山三山縦走中、登山道に誰もいないなんてあり得るのだろうか?単に僕が遅すぎたのかもしれない。剣御前小屋への分岐を分け、別山南峰に直登していく。この稜線歩きは思いの外サイコーだった。美しい別山へと続く曲線を堪能した。左手には奥大日岳へと続く綺麗な紅葉模様も楽しめる。疲れを忘れ気持ちよく歩き、午後4時頃、祠のある別山南峰に到達した。さすがにこの時間になると少し肌寒く感じてきた。風も少しは出始めた。祠の壁にぴったり付けるようにザックをおろす。「さあ!北峰行くかな」とあくまで全部行きにこだわる。 この別山南峰から北峰の稜線歩きは、とてつもなくお勧めだ。これでもかと言う劔岳を堪能できる。「スゲーな、これ…。まさにバカ劔やな」と感動する。ここにきて、前方に結構大人数のパーティーが視界に入ってきた。「ブーン」という虫のような音もする。ドローンを飛ばしているようだ。北峰に登頂すると、そのうちの2人がかなりゴツいカメラで写真を撮りあっていた。「すごいですね、このバカ劔!」と言うと、「そうですね!」と同意するような風情だが、僕の「バカ」のニュアンスがよくなかったのか、今一反応が弱かった。その理由がすぐ分かる。彼らは突然よく分からないスペイン語のような言葉で仲間に呼び掛け始めたからだ。「あー…、日本人じゃあなかったのか」と、バカの意味が分からなかったに違いなかった。典型的な日本人の僕と、ヒスパニック系の彼らしかいない不思議な別山北峰でしばらく劔岳を堪能する。劔岳へと突き上げる稜線は、北鎌尾根によく似ていた。角度的にその険しさがよく分かる。この稜線は本当に素晴らしい。 かなり寒くなってきたので、彼らより先に北峰を後にし、南峰に戻った。しかし彼らも寒かったのか同じようなタイミングで南峰に戻ってきた。僕がザックを背負ったりしてチンタラしている隙に、僕より先に歩き始めた。僕より大分若いのと、南国系の雰囲気でかなりにぎやかな楽し気なパーティーだった。同じ方向なので彼らの後を着いていく。彼らはザックも持たず手ぶらだった。服装だけはちゃんとハードシェルのようなフード付きのカラフルなアウターを着ていた。「荷物も持たずにどこに泊まるんだろう?剣御前小屋かな?」と思っていると、グループの一番後ろを歩いてた「カルロス」のような出で立ちの彼が、僕の様子をうかがっている気がした。先を譲ってくれそうな雰囲気を見せてくれる。僕も英語なら自信があるが、スペイン語はちょっと勉強したことがあるくらいなので、恥ずかしげに「サンキュー」とだけ声を掛けた。すると意外なことに、カルロスの口から「どちらに行かれるんですか?」と完璧な日本語が飛び出した。「あー!日本語話すんですね!よかった。剣沢キャンプ場に向かってます」と何が良かったか分からないが一気にほっとする。「僕も英語ならちょっとしゃべるんだけど、スペイン語みたいな言葉話していたから…」と言うと、「あ、これポルトガル語です」とまた完璧な日本語で答えてくれる。「あー、そうでしたか!じゃあポルトガル人なんですか?」と聞くと、「僕はブラジル人です。お母さんが日本人の血を引いています」という。「なるほど、じゃあクオーターですね」「はいそうです」「どちらに行かれるんですか?手ぶらですよね?」と聞くと、「僕らも剣沢キャンプ場です。ザックは剣御前小屋に置いてきました」。あー、なるほど。そこから別山に行ってみんなで楽しんでしたのか…。「日本語ものすごい自然ですね!やっぱりお母さんが日本人の血を引いているからかな?」と聞くと、「いや〜、ものすごく日本語勉強しました」という。「日本語は本当に難しいです」。日本語をそんなに必死に勉強してくれるなんて今時ありがたいなと思いながら、剣沢への分岐が来たので、「では、また後程!」と言いながら彼とそこで別れた。縦走路に誰もいないと思いきや、ポルトガル人のパーティーと遭遇するとは、さすが秘境だけのことはある。 ここからの下りが中々に長く苦しい。ザレもきつめで、しっかり足元を確認しながらゆっくり下って行く。別山でゆっくり剱岳を楽しんだとはいうものの、やはり体力は限界に近かった。「テントから、ビールを飲みながら剱岳をぼーっと眺める」ことだけを頭に思い浮かべ、黙々と下って行く。すでに張られているテントはもう大分前から視界に入っているが、なかなか距離が近づいてこなかった。やっとの思いでキャンプ場に到着し、ザックを下ろした時には少し5時を回ってしまっていた。「ハー…、これキツイわ…」。立山三山縦走をなめてはいけないと思い知った。 キャンプ場に着くと、劔岳をいい角度で仰ぎ見られる少し手前側のスペースを確保した。左の方にいた同じ頃着いたようなソロの男性に、「水場って使えそうですか?」と声を掛けた。彼は「使えそうです!あそこに水が出ているの見えますか?」と、前方の建物の辺りを指差した。そっちを見ると、確かに水が流れているのが辛うじて見える。「おー!使えないって言ってたから、大量に担ぎ上げちゃいました😅」。「トイレはどうでしょうね?」と聞くと、「僕もまだ行ってませんが、トイレも使えそうらしいです」とトイレの場所も教えてくれた。富山県警察山岳警備隊は嘘つきのようだ。多分できるだけシーズンオフに来ようとする登山者を未然に潰す使命を帯びているのだろう。劔岳の山頂でお話しした大阪から来た男女のカップルは、室堂で登山届けを出しに行った時ですら、「剣沢キャンプ場の水場は使えない」と念を押されたそうだ。 とにもかくにも、今回の一番の目的、「劔を見ながらダラダラ」を早くせねば、と高速でテントを張って行く。インナーテントをポールで立ち上げ四隅をペクダウンすると、もうレインフライは後回しにして先にビールにすることにした。ぼやぼやしていると日が暮れてしまう。テントを引っ張り出すために上にあった荷物を地面に散乱させていたので、それを適当にテントに投げ入れた。ザックも適当に奥に投げ入れる。とにかく早く座りたいので、サーマレストのネオエアーXライトレギュラーワイドをザックから引っ張り出した。スタッフバックからマットを出し、同じくスタッフバックに入れていたFLEXTAILGEARのTINY PUMP Xで一気に膨らましにかかる。すると、不幸なことに充電するのを忘れていたようで、すぐにパワー切れになってしまった。仕方がないので息で膨らませる。今回は前回の反省からモバイルバッテリーを3つ(40200mA、 13800mA、 5000mA)持ってきていたので、後で充電しようと余裕を持って考えることができた。ちなみに、このPUMP Xは空気を入れるだけではく、照明にもなるので非常に便利だ。「あ!YAMAPとヤマレコ一時停止にせな!」とスマホを取り出すと、いつの間にやらバッテリーがゼロになり電源が落ちていた。「やっぱり、山アプリ2つ上げると全く一日持たんな…」。てんやわんやになりながら、暮れかける空に焦りながら、保冷バックからビールを取り出す。急いでエバニューのAl Table Fireを広げ、シェラカップにピーナツを入れる。ビールのプルトップを開けた。「プシューッ」っと泡が出る。やっぱりザックでかなり揺れるので仕方がない。温度は常温になってしまっていたが、多分なんでもうまいはずだ。やっとビールに口を付けた。目の間に信じられない大きさで聳える劔岳に夕日が当たり始めていた。それを見ながら飲むビールは何とも言えず贅沢だった。「これがやりたかったんだ!」と一番の目的を達成できた満足感に浸る。あっという間に一本を飲み切り、2本目に手を付けた。「さぁー、チョリソー焼くかな…」。プリムスウルトラバーナーで焼いたチョリソーをつまみながら、あっと言う間に2本目のビールも飲み干してしまった。 やはり季節がら、かなり日の入りが早くなり、あっと言う間に薄暗くなってきた。COCO壱番屋監修の尾西のカレーライスを食べた後、知らないうちにウトウトしてしまっていた。目を覚ますと、時間は7時半頃だった。「あかん、これ寝ちゃうな…ちゃんとシュラフに入って寝な風邪引くわ…」。空を見上げると、満天の星空が広がっていた。月が出ていなかったので、びっくりするような輝きだ。眠くて寒かったが、たまらず外に出て空を見上げた。「すごいな…これ。明日の劔も期待できそうやな…」。あまりにも寒かったのですぐにテントに逃げ込み、ダウンハガー#1に潜り込んだ。余りの疲れにあっという間に意識を失った。 4.劔岳アタック 翌日、2時45分にセットしたSunntoで目を覚ました。いつになくぐっすり寝ることができた。昨日、ザックを下ろした後、肩を触ってみると、右肩が異常な腫れ方をしていてかなり焦っていた。やはり相当な負荷だったようだ。朝起きてまた触ってみると、張りは少し残っているもののかなり良くなっていた。今日は、ここから剱岳をピストンする間、しばらく肩を休めることができる。あんデニッシュを少しつまみ、甘いコーヒーで目を覚ましていく。4時にスタートする予定だったので少し時間があった。昨日はあまりの疲れに、ほとんどテントから動かなったので、少し外に出てテント場を歩いてみた。月が出てしまってはいたが、それでもまだスゴイ星空だった。昨日、富山県警察山岳警備隊のツイッターに反して、水場から水が出ていることは遠目に確認していたので、トイレを見に行ってみた。すると、トイレの周りにはロープが張られていて、「バイオトイレは閉鎖しました。下のトイレを使用してください」と張り紙がされていた。「下のトイレってどこやろう…?」と思いながらも、水場の辺りにある建物までは距離があったので見には行かなかった。(帰りにしっかり確認したが、トイレのドアにはしっかり鍵がかかっていた) ちょうど午前4時に準備が整い、テントの外に出た。モンベルのバランスライト20にレインウェアやハイドレーションなどの必要最低限のものを詰め込んでのスタートだ。テントには所々明かりはついていたが、なんとなく僕が一番最初のスタートのように感じた(実際は例のポルトガル人パーティはもっと早くに劔に登頂していた)。のっけが分からない症候群は今日は出ず、水場の方に素直に歩いて行くと、そこから下に登山道が続いているのがすぐに確認できた。朝、地図で確認して意外だったが、ここからかなり下る。ちょうど剣澤小屋が一番低い標高のようだ。結構な下りをどんどん下りて行くと、剣澤小屋に到着した。ここで少し道が分かりにくくなり、いったん剣澤小屋の奥に歩いて行ってしまう。しかし、すぐに道が途切れていたので、いったん引き返し剣山荘へと続く登山道を発見した。ここから剣山荘までは標高がほとんど変わらない岩々の道を行く。すぐに剣山荘に到着し、小屋の左手にある大きい剱岳への案内図を眺める。時刻は4時半を少し回った頃だった。ここからやっと登山が始まるようだ。 まずは一服剱までの約150mの登りだ。鎖も頻繁に出てくる。特に難しい登りではないが、まだ真っ暗なので足元には注意していく。5時前に一服剱に到着した。ここからは、富山県の町なのか、きれいな夜景を見ることができる。また前方には十分でかい前剱がそびえ立つ。山頂にはちょっとした棒のようなものがあるくらいで、標識はないように見えた。ここからはいったん少し下り、前剱向けて200mちょっと標高を上げていく。前剱からは剱岳がどでかく見えるとのことだったので、そこでご来光を迎える計画でスタートしていた。少し予定より早く5時半頃に前剱に登頂した。この時間になるとかなり明るくなり、後立山連峰方面の空がオレンジ色に染まっていた。前剱の眺望はかなり素晴らしく、前には大迫力の剱岳、振り返ればすがすがしい立山、東には双耳峰の角度になった鹿島槍ヶ岳が凛々しい。日の出まで30分近くもあったので、せっかちな僕は先に行ってしまおうかとも思ったが、あまりの景色の素晴らしさに動けなかった。中途半端な所ではなく、ここで日の出を迎えるのがベストだろうと、初めてのご来光待ちを経験してみる。いつも目的を達成することに追われているのとは対照的な時間だった。東の空に浮かんだ雲が黄金色に輝き始め、その下にある鹿島槍ヶ岳と爺ヶ岳が神々しさを増していく。ちょうどそのコルの少し右から真っ赤な太陽が上がり始めた。雲を照らしている色とも全く違う何とも言えない深い赤色に、静かに見とれていた。 さあ、ここからが本格的な劔岳登山だ。登りのカニのたてばい、下りのカニのよこばいはどれくらい恐ろしいのだろうか?多分この時期だけに大したことはないのだろうが、あまり前評判は当てにならない。去年の11月のどか雪の後に早月尾根から劔岳に登った時は、カニのハサミでみんなが言う以上に恐怖した。前剱からも相変わらずアップダウンが続く。登りと下りのルートが分けられているが、そのアップダウンのせいで、「登り」に下向きの矢印、「下り」に上向きの矢印が付けられていて面白い。てつさんのレコの写真で見ただけでは全く意味が分からなかったが、実際行ってみるとすぐ納得した。これは「登り」ではなく「劔岳へ」と書けばいいだけだよなと、と思いながら登りを下っていく。 このコースには剣山荘からの鎖場に番号が振られている。9番目が「カニのたてばい」だった。他の鎖場は鎖を使わずとも簡単に登れる所も多かったが、さすがにここは鎖のお世話になった。岩に打ち付けられた鉄の棒の足掛けもあり、特別な恐怖や難しさはなかった。至れり尽くせりの登山道整備の前は別山尾根はもっと難度が高かったのだろうか? しばらく景色を楽しみながら岩場を登っていくと、目線の先に見覚えのある古い黄色が目立つ道標が現れた。「早月尾根」との分岐だ。去年の11月下旬、必死に早月尾根を登ってきてこれを見た時の感動が甦ってきた。思わず「早月尾根分岐来たで〜?」と大きな声を出していた。ちょうどそこに男性ソロ登山者が立っていて、「はい!」と僕の叫びに呼応した挨拶をしてくれる。そこまで登っていき、「剱で御来光ですか?」と話しかけると、「間に合いませんでした😅」と彼は残念そうだった。「見てください、前に影剱できてますよ😃」。前を見ると、毛勝三山の方に大きなピラミダルな影ができていた。「おー!初めて見ました🎵」「今日はホントに天気いいですよ。こんなにいいのは滅多にない」と彼も興奮気味だった。富山の方で何度もここへは来ていると言う。僕が「関東からここに来るのは本当に大変です😅」と言うと、「高いですよね、まず。うちらは県民割とかありますから」「そうですよね!羨ましいです。僕は近隣割りも使えないので…」。しばらくそこで心地のよい会話を楽しんだ。「じゃあ、そろそろ剱行ってきます」「はい、お気をつけて😊」と送り出される。 ここから劔岳は本当にすぐだ。岩尾根の横に付けられたトラバースを行ってもいいし、尾根の上を歩いても大丈夫だろう。祠が見えてきた。今回初めて気づいたが、これは祠の裏側だった。初冬に来たときは、そんなことにも気付かなかった。今回は右から表に回る。みんなが抱えて写真を撮る諸々のまな板山頂標識が置かれた祠の正面にやって来た。前剱の少し先で僕が道間違いをした時に抜いていった若者が景色を見ながらパンを食べている。山頂はもちろん申し分なかった。全方位丸見えだ。壮大な立山、また富士ノ折立の上からは槍ヶ岳から前穂高岳がしっかり顔を出す。写真を撮っている登山者までが何とも絵になる素晴らしい絶景だった。昨日剣沢キャンプ場に中々に着かず、肩に異常な腫れができた時はどうなる事かと思った。しかし、劔岳の山頂に立ってみて、やっぱり思い切って来てよかったと満足感に満たされる。人一倍長く山頂に留まり、心ゆくまで秘境のクライマックスを味わっていた。 |
予約できる山小屋 |
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写真
感想
清水の舞台から飛び降りる気持ちで、黒部アルペンルートの扇沢〜室堂の往復WEBチケットを購入した。扇沢までは自宅から3時間で比較的楽に着いたが、やはりそこからの乗り換え地獄は予想通り大変だった。やっとの思いで室堂に到着すると、雑誌やビデオで見た景色が自分の目の前に広がった。時間を気にせず、まずは観光客になり、みくりが池や室堂山荘等を楽しんだ。10時前になり、やっと登山を開始、まずは浄土山を目指すが、途中で浄土山登山口にザックをデポし、室堂山展望台に寄り道する。一事が万事こんな感じで、全く時間を気にせず「全部行き」をやっていく。あまりの重ザックに、まずは一ノ越から雄山への登り返しにヘロヘロになる。その後、大汝山、富士ノ折立へと登頂した頃になって、時間が思ったより押していることにやっと気が付いた。しかし、開きなおって、真砂岳、別山南峰、北峰と全部行きを継続。剣沢にテントを設営した頃には夕方5時を回ってしまい、疲労も半端なかった。何とか日が暮れる前の剱を見ながら、ビール2本を楽しんだ。翌朝、4時スタートで劔岳をピストン。アタックザックだったので、初日に比べればかなりど楽チンだった。天気は終始、秋晴れのサイコーの陽気。こころゆくまで秘境を楽しめた。
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