地震落石死の恐怖、ウマノセ越えて男泣き‼?
- GPS
- 33:40
- 距離
- 26.5km
- 登り
- 2,284m
- 下り
- 2,273m
コースタイム
- 山行
- 5:59
- 休憩
- 1:39
- 合計
- 7:38
- 山行
- 8:06
- 休憩
- 1:48
- 合計
- 9:54
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年09月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
ケーブルカー(ロープウェイ/リフト)
|
コース状況/ 危険箇所等 |
言わずとしれた国内一般道最難関ルート。間ノ岳近辺の岩場が不安定で落石注意。一歩一歩慎重に行けば特別難しい所はないが、重荷だと振らされないように注意 |
写真
感想
今まで登山の日程を決めるのに全く想像だにしていないファクターがあった。地震。登山において地震イコール落石だということを嫌というほど思い知らされた。初めてのレベルの恐怖登山経験だった。
7月に大キレットをやってから、いつかは西穂-奥穂をやりたいなあと思い始めた。いつかでは実現しないのが世の常なので、すぐにやろうとするも、なかなか休みと天気が噛み合わない。2泊3日が常識的な日程も、なんかちょっと時間もったいないし、会社をいつ休むかを前日に決めれない限り、さらに噛み合わない度合いが増してしまう。やはり、1泊2日の禁断のプランしかないのか⁉? まさかこの思い切りが自分を恐怖のドン底に陥れようとは思いもしなかった。
登山の日程を決めるときに、特にテン泊かつ危険なルートの場合、風を一番気にしている。そういう目でWindy等を見ると、台風明けの日月がパーフェクト。ここしかない。これ以上先延ばしにすると今度は雪リスクがちらついて来て、来年まで待たなければならなくなる。1泊2日で予備日なしの不安が大きかったが、強行することにした。そうは言っても、奥穂高岳を抜けて穂高岳山荘テン泊が理想なので、ずーっと空き室カレンダーをチェックしていると、いつもの如く直前で空きが出たので、急いで予約した。今回少し自分の気持ちを楽にしたのは、土曜日にゆっくり体力温存できること。いつもの極端な睡眠不足でのスタートではない。田代橋から西穂山荘までまくれれば、穂高岳山荘に到達できる可能性は五分五分だと見ていた。しかし、体力以外にも集中力というファクターを見落としていた。
日曜日の午後8時半ごろ自宅を出た。ジムニーは40Lしかガソリンが入らないので、必ず満タンスタートじゃないと不安になる。道中はまだ台風の影響で猛烈な雨が降っていたが、八ヶ岳PA辺りで上がったように見えた。しかし、松本インターを下りてもしとしとしつこく降り続いていた。「明日大丈夫かな?濡れた岩をトランゴタワーで行くのは自殺行為やぞ😓」
まずは沢渡第3駐車場が空いているか不安だったが、下の段の宿泊者用の方は2、3割空いているように見えた。さすがに行きにあれだけ降ってれば、スタート遅らせる人もいるのかな?と思いながら、到着後すぐに助手席側をフルフラットにし、枕を持ってきたお陰か、すぐに眠りに落ちた。
翌朝、4時15分にガーミンの振動で起き、昨日道中買った甘くないサンドイッチを食べる。登山中は山小屋でもない限り、殆ど甘いものしか食べれないので、朝はできるだけ甘くないものをチョイスする。水等もろもろ用意して、4時45分くらいにチケット売場に向かうと、列の最後尾が券売機から右斜後ろ45度まで到達していた。えらい人やな…、まさにリアルピークやな。前にいた人に聞いて恐怖したのは、去年のシルバーウィークは、バスの最終に乗るのに3時間かかったとのこと。小梨平キャンプ場まで列ができていたらしい。尋常じゃないな😅絶対に最終の数本前に帰ってこないと!と思うも、結局帰りの中央自動車の大渋滞で大差なかったのかも。(現地から行きの倍の時間がかかった。)
チケットを珍しくスムーズに購入し、おそらく始発から2本目のバスに乗り込んだ。5時15分の発車。座席は7月とうってかわって補助席まで満帆。密対策は結局需要次第だと知る。今日は上高地バスターミナルの一つ手前で降りないといけないので、ボーッとできない。そもそも、これ、降車ボタンないな…大声で降ります!って叫ぶんかな?と、よーく天井を見ると分かりにくいくすんだ黄色の降車ボタンがあるのに気が付いた。帰りのバスで、途中で降りた人たちはこれにやはり気付かず、全員叫んでいた😃
終点の一つ手前の帝国ホテル前で降りた。手前で降りたのは意外にも僕だけで、「誰もこのルートで西穂行かないのかな?」とモンベルの兄ちゃんが行っていたようにルートが荒れているんじゃないかと不安になる。帝国ホテルの左の角を田代橋の方へ進み、橋を渡ると分かりやすい西穂高岳登山道のゲートが見えてきた。写真をとり早速ゲートをくぐってスタート!ここから西穂山荘までのコースタイムはかなりいい加減。山と高原地図は4時間だが、ヤマレコは2時間。YAMAPはその中間か。ここをどれくらいで行けるかで大分変わってくるが、ここまでまちまちだと計画が立たない。事前に、上記3つのコースタイムから最短、最長の通過タイムを各ポイントごとに穂高岳山荘まで書き出してみたが、かなり開きが出る。メモを持参し、天狗のコルを12時台で超えれれば、そのまま穂高岳山荘まで行き、そうでなければ天狗のコルでビバークの予定を立てた。
登り始めると、意外にいい登山道で無理なくペースがあげられる。水も西穂山荘で補給する予定で、2.5Lと少なめなのでザックも15キロ強くらいには収まっている。しばらくすると、微かな熊鈴が後ろから迫ってきた。この道は上高地からの槍沢ルートに比べてかなりひっそりしていたので意外に思って後ろを見るとトレラン風の男性。どうぞと言って道を譲ろうしたが、礼儀正しい方で直ぐには抜かずに色々お話に付き合って下さる。「どこまでですか?」と聞かれたので、「西穂、奥穂縦走しますが今日は行けるところまでです。どこまでかは今のところ未定です。」と答えると、「え⁉?泊まるところ押さえてないんですか?」と少し驚かれたので、「いや、一応穂高岳山荘のテン場押さえてますが、そこまで行けるかどうか…」と答えると、「そうですか?まだ早いし十分可能性あるでしょう。」と励まし気味に答えて頂く。この方は、1日で同じルートを奥穂高岳まで言って、ザイテンか吊尾根で周回するか悩んでいるご様子。軽装備とはいえすごいな。僕が天狗のコルでビバークする可能性もかなりありますと言うと、「困ったらあとでノックするかもしれません。」となかなかユーモアのセンスもあるナイスガイだった。
彼に先に行ってもらいしばらくすると、同じような軽装の方がまた追い付いてきた。聞くと、僕が予定している西穂奥穂高岳縦走の後、ザイテングラートで上高地に戻るコースをやはり1日でやるという。行動時間11時間を予定しているという。「強者多いな、このコース行く人は‼?」と思いながら、こちらもいいペースで登っていく。
さらにしばらく行くと、水場の少し前なのか、聞き覚えのある熊鈴が後ろから聞こえてきた。振り返ると、最初に僕を抜いた筈のトレラン風のナイスガイが❗「あれ?どうしたんですか⁉?水場ってもう過ぎましたっけ?」と聞くと、「イヤー…滑落しました。20メートルくらい。よそ見してたら岩で滑って‼?」「え⁉?大丈夫ですか❔怪我は?」「幸い大丈夫です。イヤー舐めてたら駄目ですね❗よそ見しないで行かないと😅」また、僕を追い抜く彼の後ろ姿を見ながら、凄いな…俺も気をつけてよう。
結局西穂山荘まではかなりいいペースで来ることができた。5時45分に帝国ホテルをスタートして8時15分の到着。ヤマレコには及ばないが、疲れもないしいい感じだ。ラーメンを食べたかったが、軽食はまだまだ始まらないので残念だが水だけ調達することに。ソフトボトルは使用後になかなか乾かないのが難点だが、エバニューの3Lのものは、キャップの口以外に上部がガバッと開き、プラスチックの棒で封をするスタイル。乾きも早く気に入っていたが、恐らく水を入れてザックに入れたことはなかったかもしれない。これに、重さとビバーク時の必要量を考慮した結果、1.5Lが最適かなと判断する。お金を払って水を蛇口をひねって目分量で1.5L入れる。小屋番の女性に「水はどうやって調達しているんですか?」と聞くと「沢からです。」とのこと。あんな上まで沢から引けるんだなと思い、なんか天水より沢水の方が好きなので得した気分になる。しかし、ここで、重大な間違いを犯し、ビバーク時に絶望にも似た状況に叩き落とされることになろうとはこの時は知る由もなかった。
休憩もそこそこに、山荘を後にする。残雪期に一度西穂高岳までは行っているので、リラックスして登っていく。でも、見た目の印象が随分違う。ある意味雪道の方が楽なこともままある。丸山までがあんなに岩岩で歩きにくいとは思わなかった。今回は先を急ぐので、GoPro遊びは殆どせずにどんどん歩を進る。みんなほぼ西穂高岳までのピストンなのでザックも小さめな方が多いなか、テン泊でもおかしくないようなサイズのザックを背負ったカップルが目についた。この時間だと普通は穂高岳山荘まではたどり着かないからこの人たちもビバークかな?ビバークの一番のリスクは先客がいることなので少し焦る。話しかけると、今日は西穂高岳までのピストンの模様。少し安堵する。二人が話しているのを盗み聞きしていると、「ウマノセなんかより間ノ岳の浮き石の方がよっぽど怖いよ〜」と話している。思わず「そんなに間ノ岳怖いんですか?」と振り返り聞いてしまう。聞くと、本当に浮き石だらけで歩く度に恐怖するという。この時はこの方の言っている感覚がリアル恐怖として感じられなかったが後から嫌というほど意味が分かることになる。そうこうしているうちに、あっという間に9時15分に独標到達。事前に書いたメモのほぼ最短ペースで来れている。独標は相変わらずの人だかり。写真をみんなで撮り合っていた。ここで、ヘルメットを装着し、ストックもザックにしまい込む。
ここから先も特に一度来ているので問題ない。前も思ったが、10峰か9峰のトラバースだけ大股で一歩で行かないと取っ掛かりがない。ピラミッドピーク、チャンピオンピークとずんずん進み、10時半に西穂高岳に到達。まだ、いいペースを維持できている。このまま行けば、ビバークしなくてもいいかもしれない。
ここから先は未踏の道。残雪期に見たようにジャンダルムと奥穂高岳が重なってよく分からない前方を見ながら下って行く。10時55分にP1に到達。この辺りまでは、西穂高岳が混んでいるからここまで来たという感じの人も多い気がした。
このP1からぐんとキツくなる。振らされて危ないので鎖が嫌いで出来るだけ使わないようにしているが、使わないと危なくて行けない。まだそれほど高度感はないが、かなり慎重にならざるを得ず、ペースがガクンと落ちる。ルートもそうは言っても一般登山道のはしくれなので◯が要所にあるが分かりにくいところも多々ある。ポイントは怖すぎるところに来たら間違っているというところか。
問題の間ノ岳の登りにやってきた。岩壁を右手に見ながらルンゼ状の岩場を登るらしい。その岩壁に上向きの矢印がくっきりある。「え⁉?、この岩を登れということか、それともまっすぐこのまま上に進めということか?」常識的に後者だと判断し進むもなかなか◯が出てこない。でも、どうみてもこの進め方で合っていると思ったので登って行くと、考えられないような大岩がグラッと来る。背筋が凍る。これが落ちてきたら俺死ぬぞ…慎重にその大岩から離れ、恐怖しながらそろりそろりと登っていく。これが独標前で彼が言ってたことか‼?これは浮き石ちゃうで浮き岩やで‼?ますますペースが落ち、一番大事な精神力が削り取られていく。
とにかく一手一手慎重に行く。普通の一般道なら間違っているだろうルートも◯があれば正解だ。理想的には次の次の◯まで目視できればいいのだが、次の◯をこなして初めて次の◯が目に入ることもしばしば。とにかくあまりに浮き石が多かったり◯がなければ間違っているとは言うものの、それほどたやすい判断ではない部分もちらほらあった。意外に、岩が乾いているのもあって、逆層スラブは簡単にこなし(もちろん鎖はフル活用)、Kei Fujimoto氏が直登しつつ、横の登山者には危ないからそっち行って下さいと言っていた鎖がついているところをもちろん僕も選択。なんとかかんとか天狗岳に到達した(これは天狗岩とは違うのかな?)。時間は1時になってしまっていた。実はこの時点ではまだビバークするか決めきれておらず、天狗のコルへ向けて岩場をどんどん降りていく。
ビバークすることを決意したのは、体力というよりも注意力の低下が原因だった。天狗岳からどんどん降りしばらくして登りに転じる。しばらく登り、「あれ、おかしいな。まだ、天狗のコル着かないの?」と時計を見ると1時40分。これはおかしいと、YAMAPを見ると、通りすぎとる‼?この時、あかんわ、これ。このまま続行したら、時間もそうやけど、滑落の危険性すらあるわ。と、天狗のコルに戻り、ビバークすることに。
天狗のコルに戻ってきた。確かに岳沢側(ビバーク側)は少しルートから天狗沢の方へ行かないといけないので分かりにくい。が、ちゃんとデカイ古木の道標もあるのにスルーしていた。相当疲れとるな… 岳沢側に回り込むと…先客がおる😰避難小屋の壊れた岩壁の内側に2張り行けるのだが、そこにデカイタープが張られていた。あかん…今から他を探しに行く気力がない。で、ふと見ると登山道を一部潰してしまうが、避難小屋の岩壁跡の一段下にギリギリステラリッジ2型が張れるスペースがあることに気付いた。ここに張るしかないな…一応、タープの下にいるであろう主に「ここに張らせてもらいます❗」と声をかけるも返事はない。寝てるのかな?ザックがタープから見えているも、その奥は見えない。
時間は2時前で逆に普段より少し余裕がある。「さぁ〜、明日に備えてさっさと張ってゆっくりしよう。」ザックを開ける。なんかおかしい。湿っている。おかしい‼?西穂山荘で水を入れたエバニューのソフトボトルを出すと、水が殆ど入ってない😱ザックの中に全部漏れてしまっていた。「あー…やっちまった‼?」絶句するしかない。シュラフが水浸しになっていた。頭がくらくらしてきた。水がないのにどうやって今からやっていくんや…。ハイドレーションいくら残ってるやろう⁉? 今日は途中からかなりグロッキーだったから、最初の2Lからかなり減ってるやろうな…。そもそもシュラフなしでどうやって寝るんや…毎回俺何やってんねん。絶望の縁に立たされ、しばらく呆然とする。
とりあえず、ザックからものを全部出し、アクアバリアサックをひっくり返して水を捨てる。雑巾で拭いて乾かす。微かにエバニューに残っていた水を飲み干す。シュラフをカバーから引っ張り出し、絞ってみる。アホみたいに水が出る。笑うしかない。レインフライも、テントもびっしょり。唯一の救いは、アルパインダウンパーカと着替えがシーツーサミットの防水スタッフバックに入っていたこと。今後はもう一枚大きいのを買ってシュラフもそれに入れなあかん。ますます重量増になってしまうが、もう少し寒いと取り返しがつかんぞ。
絞ったシュラフをその辺の岩にかけ、気を取り直して張っていく。思いの外スペースが狭い。グラウンドシートがかなりギリギリ。とりあえずギリギリに敷き、インナーフライを上に置きポールをクロスさせ、クロス部分のフックをまず引っ掛ける。こうすると、設営時にポールの末端が、インナーフライのポールホールから抜けにくくなるらしい。あまりに狭いので、ポールを目一杯しならせる。すると、「ポキッ‼?」マジか…、これはほんまにアカンやつや。あわてて繋ぎ目を見ると折れてはいないが、外れた連結部分が少し歪んでしまった😵💧今日は風ないから大丈夫だけど、帰ったらモンベル直行やな…。びびりながらもう一度しならせ、なんとか4隅をポールホールに差し込んだ。かなりギリギリやな。ポールの4隅の内、一ヶ所が地面に乗りきらず浮いてしまう。なんとか工夫してインナーフライのペグループにペグを入れ土手に根本まで打ち込んだ。まあ、風なければ問題ないだろう。レインフライもなんとか被せるも、前後と右が岩に覆われていて、8ヶ所の内半分くらいか地面に留めれない。特に、入り口部分に巨大な岩があり、レインフライの入口の片側は岩が邪魔して下の3分の1が閉まらない。まあ、雨降らんかったらオッケーやろう。とにかく不安要素だらけの設営となった。
と、そこへ二人のクライマーがやってきた。あー、設営した後出かけてたんだ❗向こうも少しびっくりした様子。「こんにちは。ここに、僕も張らせて頂きました。」と挨拶する。なるほど。二人ならあのスペース全部使ってもしゃーないわな。どうやら二人は明日が本番で、今日は偵察に行っていた模様。いわゆるガチャガチャ系で、ジャンダルムに連なる尾根に取り付くらしい。駄目元で水に余裕があるかどうか聞いてみたが、当たり前だがギリギリとのこと。実はポカリスエットを500ml持っているので、これでなんとか穂高岳山荘まで持たせられるかも知れない。ハイドレーションの残りはまだ怖くて見れていないが、夕食はチョコレートやな。水は使えない。
見た感じ山岳会の先輩後輩のようで、特に先輩の方が山屋のかっこいい雰囲気を醸し出している。馴れ合いの雰囲気は微塵もなく、あまり会話は弾まない。天狗のコルの岳沢側は日陰になっていてシュラフが乾かないので(どうせ乾かないが…)、コルの稜線に出て少し岩に上がりシュラフを日にさらす。コルから見ると、天狗岳側の絶壁とジャンダルム側の45度ほどの傾斜の岩壁から落石リスクがある。天狗岳側の絶壁から小粒の落石があり、渋い山屋は反射的に「ラクラクラク」と声に出していた。しばらくそこで3人でボーッとしていると、今度はジャンダルム側の岩滑り台の上部から、高齢の登山者が来て、かなりの大きさの落石を発生させた‼?今度は渋山屋は大きな声で「ラーク‼?」と叫んだ。発生した複数の大きな落石は、山屋達のテントの上に凄い勢いで落ちていく。上を見て「そこ、ルートじゃないですよ❗その下に印ありますよ‼?」とはっきりと注意する。高齢者は謝るも、もしテントの中で休憩してたら大怪我だったかもしれない。この時初めて落石の危険性を肌で感じた。その後、「落石怖いですね❗」というと、渋山屋は、ポツリと「殆どが人工ですよ。」と言ったのが印象に残った。
二人がテントに戻った後もしばらく岩坂に腰かけていた。常に行動を真似しているような感じが情けなかったから。一人だと逆にいいのだが、周りに人がいると独りが寂しいのは不思議だ。しかし、日も陰ってきて寒くなってきた。シュラフも全く乾かないので、俺もそろそろテントにもどるかなと、落石させないように注意深く坂を降りる。飛騨側を見ると雲は多めだが、綺麗な夕焼けになっていた。水がないのでお湯を使う食事はできないし、シュラフなしで寝ないといけない不安を抱えながらテントに入った。
アルパインダウンパーカが濡れなかったのは不幸中の幸いだった、と思いながらテントで横になり、チョコをかじっていた。このコルは稜線に出ないと全く電波が入らずLINEもできない。キンドルで"The CLIMB"でも読むかなと思ったその時だった。突然、地面がグラッと揺れた。地震だ❗かなりデカイ。慌てて、テントから飛び出た。山屋達も同じくテントから出て、取り敢えず落石の危険の少ない稜線に3人で出た。稜線に上がるか上がらないかのタイミングで「ゴーー‼?」という音と共に天狗沢で岩雪崩が発生した。ヤバい。怖い。天狗沢だけでなく、ザイテングラートの方なのか前ホの方なのか凄い地響きがする。自然の脅威の前にどうしていいか分からず3人でただ、ただ稜線で立ち尽くした。登山をやってなかった去年はここいらで群発地震が起こっていたなんて気にも留めていなかったが、渋山屋に言われて思い知った。「穂高の岩は脆いんだよ…」
かなり冷え込みが厳しくなるなか、取り敢えず地震も落ち着いたのでテントに戻る。二人の山屋は明日は諦めて朝イチ天狗沢から下山するという。それで、明日用に取っておいた水を僕にどうぞと差し出してくれた‼?涙が出るほど嬉しかった。これで、ちょっと暖かいものが食える。なんかソロをやりつつ、いつも人に助けられるという所に、ぼちぼちソロの限界が近づいているような気もしてきた。
しかし、テントに戻ってからも余震は続いた。
揺れる度にヘルメットにヘッデンを付けてテントから飛び出た。毎回、岩雪崩の轟音が聞こえてくる。これはリアル恐怖だ。まだ、プロ山屋が近くにいるだけでも心強かった。余震が落ち着いていた7時半前頃、渋山屋がしばらく姿を消した。その間、若山屋と二人で「どうしたらいいかわからないですね〜。そうは言っても寝るしかないし。」等と言い合っていた。すると、渋山屋が、帰ってきた。開口一番、「ちょっとテント移すぞ。」マジか…。少し上にここよりは落石の危険性がないビバークサイトがあるという。やはり経験者は違う。ここからテントを移す苦労も、もちろん死ぬことに比べればなんでもない。ここで、「僕も❗」とは言えなかったし、言わなくてよかった。翌朝ルート上にあったそのビバークサイトを見るとホントに独り分のスペースしかなかったから。二人できゅうきゅうで寝たんだな。
結局、独りで天狗のコルに取り残され、冷静になって自分のできることを考えた。一番短時間で上高地に戻れるのは天狗沢を下る事だが、あの道はただでさえザレザレで危険な上に余震があるともっと危険だ。ただ、どう考えてもロバの耳のトラバース中やウマノセ通過中に余震があるよりはマシだろう。俺もやはり明日縦走諦めて逃げるかな。取り敢えず、何にしても一晩中起きているのは難しい。やれることは全部やろう。幸か不幸かシュラフは使えない。まずは寒さ対策で、レインウェアの上下を着て、靴下を2枚重ねにした。すぐに行動できるように靴も履いたままテントに入った。ヘルメットを装着し、少しでも岩に当たる部分が小さくなるように膝を曲げてマットに横になった。頭の方にはザックも防御になるように置いた。これで少しづつ仮眠を取ろう。明日、続ける場合は少しは寝ないと体力がもたない。そんな感じで、うたた寝を繰り返し、何時だったか、渋山屋らしき「ラクー!」の声を微かに聞いた意外は、何事もなく3時にセットしたガーミンで目覚め、無事に睡眠を確保できた。
起きてすぐに外に出てみた。昨日の轟音が嘘のように完全な静寂が広がっていた。満月に近い月も沈んでいて、農鳥小屋で見たのと負けず劣らず凄い星空が広がっていた。「取り敢えず、生きとる‼?」テントに戻り、いただいた貴重な水でクリームシチューとリゾッタ用に310mlをできうる限り無駄がでないようにはかりとる。ジェットボイルをカチカチ言わせるも、着かないのでライターで火をつける。リゾッタは不味かったが、クリームシチューはうまかった。何にしても食わないと、力が出ない。まだ暗かったが、ヘッデンを付けて撤収を開始する。凄い狭い通路に張っているので、段から落ちて怪我しないように細心の注意を払って撤収していった。
5時過ぎにあらかた撤収が完了し、5時半にはスタートできる態勢になった。なぜだか分からないが、縦走を継続することで腹は決まっていた。ルート上を少し上がると、二人も撤収を行っていた。挨拶して喜びを分かち合い(少なくとも僕は分かち合いたかった‼?)に行くと、渋山屋が「ホントにお気をつけて。」と、本当に心配そうにしてくれていて、嬉しい反面、少し怖くなった。朝のポジティブな気分でなかったら辞めてたかも知れない。当然二人とも、ルート経験者なのでアドバイスをもらい、二人と別れた。本当にありがとうございました。
ここからも、凄い道の連続で、ここ行かせるんや😓の連続。コブ尾根の頭辺りで、男女のクライマーが前からやって来た。年配の男性の方が、「大分早いですね?」と声をかけてくれる。「はい、実は天狗のコルでビバークしてました。」「大丈夫でしたか、地震?」と聞かれたので、「はい、幸い落石はありませんでした、僕のテントには。」と答える。凄いガチャガチャ装備をしているのに「奥穂からですよね?」ととんちんかんな質問をすると、「いえいえ、違います。昨日コブ尾根に取り付いて、ビバークしてました。後、地震が1、2時間早かったら、死んでました😂」とおっしゃる。今日も同じくジャンに繋がる尾根攻めする予定だったが、キャンセルして帰るという。ジャン方面は、意外に地震の後も道が安定しているらしく、ジェスチャー付で「オッケーです‼?」と励ましてもらった。渋山屋とはまた違ったキャラの山屋だな。でも、こっちのキャラも好きかも、と思いお互いにお気をつけてと言い合いながら別れる。
しかし、二人と別れてからすぐに、◯を見失い右往左往してしまう。要所で◯を見つけるも、そこから先が続かない。しばらく危なげな細いバンドを信州側からトラバースし、少し上がると、前方から一般登山者がやってきて、同時に◯も再発見して安堵のため息。やはり、この時間に西穂側から来る人はいないらしく、ここからの道を聞かれ、天狗のコルまでは大丈夫ですよ、と答える。奥穂高岳までの道も極めて安定しているらしい。同じ質問を毎回登山者と会う度にされ、みんな心底「よかったー」と安堵していた。ただ、間ノ岳は大丈夫なんだろうか…?
このコブ尾根がジャンダルムまでの最後の難所だった。しばらく行くと、天使が山の頂上にあるのが見えて来た。「まさか、あれがジャンダルム?」と前から来た登山者に聞く。少し笑いながら「そうですよ❗」こんなにもう近くに迫ってたんか。ここからジャンダルムの頂上までは今までの道からすればかなりよく踏み固められた安全な道。←と◯に導かれあっという間にジャンの頂上に辿り着いた。あんなに登山者がいたのに、頂上にいたかなり長い時間ずーっと独りだった。ご褒美なのか。天使を持って久々にGoPro遊び。今までの苦労を考えればジャンはオマケ程度とは言うものの、やはりジャンダルムサイコー❕飽きるまでゆっくりし、降りている途中でザックをデポしなかったことに気付き、少し損した気分になる。
降りきってから、オクホの矢印に従い、そこそこの壁を鎖を使って直登する。そこからロバの耳のトラバースが始まる。かなり怖い。特に下りで、重要な足掛けが見えにくい箇所があり、動画で見ていたが、やはり見えなくて少し焦る。そこから少し行ったところで、登山者が壮大な落石を引き起こし、誰もいない場所そうだったが、あまりの規模に凍りついた。
ロバの耳をなんとかクリアすると、意外に何のアップダウンもなく、突然そいつは現れた。ウマノセ。何回ビデオであの細い足場を見たことだろう。本当にあんな所に足掛けられるんだろうか?目の前にウマノセを見ても全く自信がなかった。やるしかない。まさにラスボス。少し立ち止まり、水を飲み、気分を引き締める。観念して一歩を踏み出した。結果…、思いの外しっかりと教科書通りに身体を動かすことができた。安定しているとみんなが言うも、渡っているときに余震が来たらどうなるかわからないし、我ながらパーフェクトな動きだったと思う。こいつを抜けた後、自然に涙がわき上がって来た。まだ終わってないけど、辛かった‼?ここまで無事に来れたなんて、大袈裟だけど奇跡のようだった。
ここからも、気を緩めないようにすすみ、オクホの祠に上がり縦走をコンプリートさせた。正直、しばらくは来たくない、と思ってしまうほど辛い山行だったが、感動も言葉では表せないものになった。
さて、取り敢えず穂高岳山荘によってお金を払おう。それで、水だけ調達させてもらおう、と思い、今までの道に比べれば遥かに安全な道を山荘まで急ぐ。7月に来たときは少し苦労した取り付きも、下りでもすいすいと降りる事ができた。山荘に着くと、まだ、登山者も少なく、小屋の掃除中だった。前にもいたお姉さんに、「昨日来る予定が来れなくなったので、お金を払いに来ました。」と言うと、昨日に連絡をもらってるので、お金は要らないという。でもと言って払おうとするのも、お気遣いしていただいてありがとうございますと言って受け取ってもらえなかった。なんだか申し訳ないので、逆に忙しい中、迷惑だったかもだが、おしるこを注文して美味しくいただいた。ここからはザイテングラートで上高地に降りるので、道の事を聞くと、もう登って来た人もいるようで、道は問題ないとのこと。小屋のこういう情報網ってホントにありがたい。逆に僕も自分が歩いたルートの情報共有をさせて頂いた。
おしるこを食べていると、そのお姉さんが、入り口にいる男性に登山者から得た情報を全て報告していたので、偉い人なのかなあと思い話しかけた。すると、「天狗のコルでビバークしたんでしょ?」と聞かれ、「はい、でもあそこは落石のリスクが少ないのか、幸運にも落石ありませんでした。」というと、「あそこは脆いよ…、だって岩の避難小屋が壊れちゃうんだから…」と渋山屋の見立て通りのことを言われドッキリ。(おい!モンベルの兄ちゃん、聞いたか⁉?)「少し上がったとこに、もっと安全な場所あったでしょ?」と渋山屋達が移動した場所のことをおっしゃった。さすがやな、渋山屋…。やはり、俺は一歩間違えれば死んどったな…
ここからは、意外に歩きやすいザイテングラートをかっ飛ばす。バスに間に合うかが不安だった。涸沢パノラマコースにくると、意外に結構紅葉始まってる‼?なんか得した気分。この時間に降りてくる人は珍しいらしく、何度も話かけられ、恐怖体験を今となっては笑い話のように話すことができた。でも、やはりビバークは決してお勧めしない。自分で安全な場所にいつでも移動できる気力と経験がない限り…
山の神様は数々の試練をお与えになったようですね。
水がなくなり、地震で眠れずとは。凄い経験です。
ともあれ、ご無事で何よりでした。
私も岩場を渡っているとき、ここで地震が来たらどうしようとか、思ったりします。
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