知床 羅臼岳〜硫黄山《日本百名山》
- GPS
- 17:56
- 距離
- 26.2km
- 登り
- 2,811m
- 下り
- 2,613m
コースタイム
- 山行
- 9:17
- 休憩
- 1:09
- 合計
- 10:26
天候 | 1日目(8:21):霧雨のち晴れ 2日目(8/22):晴れ |
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過去天気図(気象庁) | 2011年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
飛行機
下山:カムイワッカ橋に下山、斜里バスをウトロで乗継羅臼でレンタカーをピックアップ |
写真
感想
1日目(8:21):霧雨のち晴れ
昨夜の雨は止んだが、山端に掛る雲は低く雨具が要りそうだ。宿から知床横断道路を熊の湯方向に歩き、湯の沢大橋を渡ると羅臼ビジターセンターがある。其の脇から羅臼間歇泉の表示に従って進むと小屋の傍に間歇泉の噴出口がある。昭和37年の群発地震以来噴出が始まり約1時間毎に数秒間噴出するというが過去に噴出しなくなった期間もあったようだ。見たかったが噴出するまで待っていられないので「この先は羅臼岳登山道」の表示が下がったロープを越えて進み暫く行くと熊の湯から来た道と合流した。此処が羅臼登山口で登山届に記帳して登山道へと入って行った。発電所川を遡り“木かげの滝”を見て谷筋から稜線に乗りあがる所は一息峠だが分らないままに過ぎてしまった。
雲に突入するとすぐにポツポツと雨が落ちだして早くも雨具のお世話になった。登山道に初めて表示のあったのは里見台で天気が良いと羅臼の里が見えるのだろうか。暫くは暗い稜線を歩き標高が500m辺りに達すると植生が這松に変わり、森林限界かと思わせられたが、また樹林帯となった。登山地図に“ハイ松原”と記された所だ。登山道は“登山川”の左岸を高巻くようになって来て、上の方は切立った絶壁なのだろう。登山地図に“第一の壁”と表示があるが樹林帯で其れらしいものは見えない。羅臼岳が眺望できると云うスズラン峠は、ガスの中で知らずに通過したようだ。
沢音が近づき清水沢の合流地点で登山川に下り立った。赤茶けた川は硫黄の匂いが漂い登山川はやがて真っ白になり異様だ、いや硫黄だ! これでは生物も棲めないだろう。岩が白いだけではなく最近沈んだような草の茎も真っ白になっている。暫くは白い川沿いに渡渉も交えて進み“泊場”に達した。此処はテント2張分の天場になっている。泊場を過ぎると登山川と分れ支流に入り更に枝沢に入ると最早白くなくなった。
樹林帯を進み海豊川源流部に入って行くと水は涸れ傾斜が恐ろしく急になり羅臼岳の核心部に近づいたことが知れる。右手に立ちはだかる岸壁、これが屏風岩だ。霧の中でよく分らないが2.5万図では500mほど続いているようだ。そしてその上部が見えて来た。上空の雲が切れ青空が覗きだしていたが、此れは本物のようでやがて雲の上に飛び出した。標高は1,100m、半分諦めていた羅臼岳が目の前に姿を現し期待は膨らんだ。
豊川源流域には雪渓が見える。雪渓を前にした岩場にはエゾコザクラが可憐に咲き誇っていた。雪渓部分は高巻いて通過、もう完全に樹林帯は抜け這松と高山植物のお花畑となった。羅臼平への道が右に分岐して行くが直登ルートを進んだ。次の雪渓は縦に突っ切る。傾斜は緩くアイゼンを付けるほどではない。ベタ足ではすべるのでステップを切って100m弱の雪渓歩きを楽しんだ。高原地帯になってくると羅臼平からの道と合流した。そこは岩清水の直下、岩尾別からの登山者は多い。登る人、下りる人が行き交っている。岩清水は岩の隙間に染み出した清水が上部から滴り落ちコッヘルで受け止め今夜の煮炊き用に4ℓ確保した。
重いザックは此処にデポしカメラだけ持って羅臼岳(1,660m)山頂を目指した。此処からは29年前に岩尾別YHのホステラーと歩いた道、あの時と同じ岩のゴツゴツした登山道は変わっていない。ただあの頃は日本百名山ブームもなく岩尾別からの往復で2パーティーほどに出会っただけの静かな登山だった・・・ 山頂には数人の先客があり青空の下三峰山、サシルイ岳までは見通せるが其の先は雲の中、そして半島付け根の方の羅臼湖、斜里岳などは全てガスに覆われていた。山頂には金属円盤の2等三角点「羅臼岳」があった。この山の標高は1,661mと記憶していたがどうしたことかと調べてみると平成16年度十勝沖など重なる地震の影響で山岳標高は1,660.4mとなり四捨五入で1m低くなったようだ。
岩清水で荷物をピックアップし羅臼平へと下り、大休止を取った。羅臼分岐点にはフードロッカー、岩尾別分岐点には木下弥三吉翁のレリーフがある。翁は昭和の初めに北大山岳部で活躍した人で羅臼岳の登山道を開いた人でもある。そして翁の名は岩尾別登山口にある木下小屋と岩尾別ルート途中にある弥三吉水に残り今に伝えている。
昼食が終わるといよいよ縦走路に踏み出した。入口に此処から先は危険が多く、十分な知識、装備のない者の立ち入り禁ずるみたいな事を書いた看板が立っていた。気持を引き締めて看板を越え先ずは三ッ峰に登る。その名の如く3つのピークを持ち登山道の岩尾別側に2つ、羅臼側に主峰(1,509m)がある。縦走路から主峰へ明瞭な登路があり荷物をデポし山頂に立った。山頂からは羅臼岳が真正面に鎮座し素晴らしい。“北峰”にも登路はあるようだがパス、“東峰”には登路は見いだせなかった。
サシルイ岳との鞍部(1,345m)に三ッ峰キャンプ指定地があり少し離れた所にフードロッカーも備え付けられていた。キャンプ地を過ぎると人の声がする! 数人の大学生が休憩中でヘルメットに沢靴、どうやら盤ノ川を遡行してきたらしい。カラフトマス遡上の始まったこの時期、羆は出ないのだろうか? 凄い人たちがいるものだ。
220mの標高差のあるサシルイ岳への登り返しは辛い。疲れた体では一気に上がれず休憩を入れて登り着いたのはツインピークの真ん中、サシルイ岳(1,564m)山頂も縦走路から分岐している。同行者はパスし留守番、荷物をデポして微かな踏跡を辿った。しかし途中で見失なってしまい這松の上を強引に乗り越えてひいひい言いながら山頂に到った。山頂標識があり、三ッ峰越しに見る羅臼岳はまだまだ大きい。北の方に目をやるとオッカバケ岳、南岳、知円別岳を望むことができた。下りは踏み跡を見つけていとも呆気なく下りることができた。
ミクリ沼への長い下りは這松のトンネルで腰を屈めて通り抜けなければならず流石に歩き難い。鞍部に下ると直角に左に向きを変えて湿原帯へ入る。中心部にミクリ沼がありコバノイチヤクソウが咲いていた。オッカバケ岳への登り返しも急登で這松は煩い。オッカバケ岳も縦走路から外れているので登路を探すが這松に覆われ岩もゴツゴツし人を寄せ付けない。登頂は諦めて眼下に見える今日の宿泊地二ッ池へと下ることにした。南側“地の池”の畔の天場にテントを張り終わった頃、後を追って一人の女性が到着した。知床林道(カムイワッカ橋から先)が5年ぶりに通れるようになったので待ち焦がれて旭川から来たと言う。しっかり林道通行許可も取って来たという。そう林道が土砂崩壊で不通の間は徒歩でも通れなかったのでカムイワッカ橋に出ることが出来なかったのだ。今日の宿泊客は3人、食事が住むと早々に食料をフードロッカーに預け、寝に付いた。
2日目(8/22):晴れ
羆に襲われることなく夜は明けた。よく晴れて5℃位に冷え込んだようで寒い。テントの中で朝食準備をし、いざ出発とフードロッカーの先の踏跡に惑わされ進んで行ったが、だんだん道が不明瞭になり、此れは違うと元に戻ると正しい道は池の先の方だった。15分もロスをしてしまった。二ッ池のもう一方天の池は既に干上がり池底が露出、何れ植生が進入して只の草原となってしまいそうだ。南岳の西稜線に上がると二ッ池が見え天場にまだいた旭川の女性に「ヤッホー」、彼女も応えて手を振ってくれた。稜線の這松は煩く朝露を警戒して穿いてきた雨具が大いに役に立ってしまった。
南岳への登りは朝一で辛い。知床連山縦走路で山頂を通っているのは実は南岳のみで他は全て山頂を通らない。山頂からは最高の風景で知床連山の全てが見える。北の方には硫黄山の荒々しい風景が広がり硫黄平に屹立するP1329は南アルプス地蔵岳のオベリスクのようだ。次に登る知円別岳の山容は結構険しそうだ。稜線をそのまま進まず羅臼側の知円別平を通って東から取り付くようだ。チングルマがまだ頑張っているが、夏の花もそろそろ終わりに近く、シレトコスミレやメアカンフスマは時期外れだった。知円別岳東の肩に乗り上がり、山頂を見上げるとまだまだ高く屹立していて人を寄せ付けない。登路はなく急斜面を這松が覆っている。登頂は諦めるしかないようだ。東岳に続く尾根が分岐し一寸した広場になっていた。砂礫地でコマクサの葉を確認した。
いよいよ硫黄山の山域に入ってきた。知円別岳の北東斜面のガレ場をトラバースして通過しなければならないが何時落石があるとも知れない危うさで足元も浮石だらけ、注意しながら歩を進め通過し終わると流石にホッとした。知円別岳の北側に出ると完全に硫黄山の領域、硫黄の匂いが漂い一木一草もないガレた稜線となった。黄色い硫黄の結晶が転がり将に地獄の様相だ。ニョキニョキと林立する岩の柱はコケシ岩(約1,500m)でとても登れそうにないと思っていたのに近づくと縦走路はその岩の隙間を登り詰め一番高い岩柱のすぐ3m程下を通る。ボロボロの岩だが普通に登れそうで、攀じ登って山頂を極めた。勿論同行者はパス、振り返ると今日歩いてきた南岳や知円別岳、更にサシルイ岳から羅臼岳も素晴らしい。
次に待ち構えているのは第2前衛峰(約1,550m)、険しいが這松に覆われた山で山頂に達すると目前に硫黄山と第1前衛峰の姿が立ちはだかっている。第1前衛峰は明らかに登頂不可能だが、その鞍部で、キャンプ指定地の第1火口へ分岐する。火口は100m以上も下でコケシ岩からフードロッカーがあるのも確認できた。這松の煩い急な斜面を下ると広漠とした広場に下り立った。硫黄山は此処から分岐して登路がある。正面を見る限りとても登れそうに見えないが裏側に回り込むように踏み跡が付いていた。完全に岩登りの世界で同行者は恐れを為し途中敗退、両手足を使って山頂に立つと其れは其れは素晴らしい眺め、昨日から歩いて来たルートやルシャの低地を隔て知床半島の奥地、それに海を隔てて国後島の爺爺岳(1,822m)が雲から頭を出している。不法占拠とは言え日本の山から ロシアが実効支配する“外国”を見た。第2前衛峰を見ると二ッ池のテント仲間、旭川の女性が乗越に立っている。「オーイ」とコールすると気づいて手を振り返してきた。頑張れ!
山頂を後に同行者の待つ分岐に戻った。下山後監視員に聞いた話だが、この夏この分岐に荷物をデポして硫黄山に登った男性が降りて来ると羆がウロウロしていて1時間ほど下りられなかったそうだ。やはり此処は羆の生息地、幸い8月も下旬になるとカラフトマスが知床の川に遡上してくるので、其れを狙って羆は河口付近に集まると云う。至近距離ではご免被りたいが、遠くの姿は見てみたいものだった。
分岐からは硫黄山を北へ巻き込むように進みウプシノッタ川左岸に連なる尾根上で稜線歩きは終わり、分岐して硫黄川の谷筋を下り始めた。急な涸れ沢で岩がゴツゴツ、水のないのが不思議な涸れた大滝を越える険しい道で標高差500mを只管下った。最初は広く眺めの良い涸れ沢だったが、徐々に狭まり樹木が谷に被さるようになり標高約945mで硫黄川の谷筋を離れ左岸の稜線に這い上がった。涸れ沢歩きを堪能した後は、また這松の煩さで、一筋縄では行かない。
標高差200m、這松を漕いで抜けると新噴火口の上部で開けた。此処までは観光客が稀に来ると見え、「これより上は十分な準備が必要です」との表示があった。チシマ笹の向うに噴気が見えるが、火口に近づく道は無いようだ。尾根筋を離れカムイワッカ川の谷との中腹を進みガレ場から再び樹林帯に入った。以前は硫黄鉱山があり、硫黄を採取していた名残のコンクリート基礎が残っている。左手下を流れるカムイワッカ川は最終的には海に直接流れ落ちるカムイワッカの滝で有名だがその上流域にも滝が点在する。温泉の湯が川に流れ込み滝壷が天然の浴槽となっている。秘境であったころは入浴できたが、観光客が押し寄せる昨今は、滝を登って見に行くだけのものに留まっている。それに湯温も30℃程度と入浴には一寸低すぎるようだ。登山道からは残念ながら険しすぎて直接カムイワッカ川に下りることは出来ないが展望できる所が1箇所だけある。但し湯滝は見えない。
原生林の深い林に入ると知床林道は近い。突然ラテン系の外国人夫妻に出合った。登山者ではなく散策しているようだ。それにしてもこの山域に鈴も付けずに入ってくるとはなんと無茶な人達だろう。やがて林道が見え出すと知床連峰縦走は終わりが近い。予め通行許可を取っていた林道をウトロ側へ600m戻るとカムイワッカ橋、番小屋があり警備員が通行許可書を確認していた。
此処まではマイカー規制期間で頻繁に運行されるシャトルバスが連絡しているので観光客が湯滝巡りにやって来る。沢靴があると好都合だが靴を脱いで靴下一枚で登る人が多い。裸足では滑りそうで滝壷2つ見ただけで引き返し、シャトルバスに乗り知床五湖で途中下車した。1湖畔の展望台から知床連山を一望して2日間の戦いの跡を振り返った。世界遺産に登録されてから立派な高架木道が設置され、羆を心配せず1湖、2湖を巡ることができる。5湖全部を巡るには有料でレクチャーを受けた後出発する1時間半のコースがある。知床五湖は稜線から十分見たので地上でわざわざ見に行く必要も無く1湖を展望しただけで40分後のバスで宇登呂に向った。
新鮮ネタで有名な料理屋“一休屋”でホッケ焼き定食を食べ、14:35バスで知床峠を越えて羅臼に戻った。ホテルに止めたままのレンタカーをピックアップして今日の宿泊地岩尾別YHへと再び知床峠を越えた。29年前の想い出の地、ペアレントは25年前に替わったそうだが建物は其の時のままだった。宿泊者の年齢層も其のまま持ち上がったようで、YH世代の気さくな人達で10数人の同宿者ともすぐに打ち解けた。夜になるとシマフクロウの泣き声鑑賞ツアーが催された。何処まで行くのだろうと思いきやYHの庭は十分奥地だったのだ。絶滅危惧種とは云え岩尾別には簡単に居るものだ。耳を澄ますと雄が低音で「ブッブ ボー」と鳴くと雌が「ボー」と鳴き交わすのを聞くことが出来た。そして空を見上げるとものすごい星の数、天の川もクッキリと見え、流れ星も見つけ、おまけに人工衛星が回るのまでも肉眼で捉えることが出来た。
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