(過去レコ)農鳥岳⇒間ノ岳⇒塩見岳⇒仙丈ヶ岳【仙塩尾根縦走】
- GPS
- 56:00
- 距離
- 50.3km
- 登り
- 5,743m
- 下り
- 4,564m
コースタイム
- 山行
- 9:50
- 休憩
- 1:00
- 合計
- 10:50
- 山行
- 10:40
- 休憩
- 1:15
- 合計
- 11:55
天候 | 14日=曇り 15日=晴れ 16日=快晴 |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2009年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
バス 自家用車
|
予約できる山小屋 |
北沢峠 こもれび山荘
|
写真
感想
【山行記録投稿=2017年9月11日】
仙丈ヶ岳へは北沢峠からと地蔵尾根経由で、塩見岳は塩見新道、鳥倉林道、そして悪沢岳〜三伏峠〜蝙蝠(こうもり)尾根を周回するルートで行ったが、仙丈ヶ岳〜塩見岳を結ぶ仙塩尾根はまだ歩いてなかった。
深田久弥氏はその著書の中で、『山の好きな人はその胸の中に、幾つかの未登の山を秘めているものだ。その期間が永ければ永いほど憧れはますます熱くなってくる。』と書いている。
全くそのとおりであり、仙塩尾根を歩く憧れは、私の心の中で高まるばかりだった。
仙塩尾根をどのように歩くか・・・・・・
北沢峠から上り、三伏峠へ下るのが一般的ではあるが、マイカー一辺倒の私は公共交通機関乗り継ぎの不便さが苦手。しかも、なるべく短い日数でこなしたい。
登山地図を眺め、これなら二泊三日で行けそうだと結論付けたのが、奈良田側から上がり、北沢峠へ下ってバスで奈良田へ戻るというもの。
13日から勤務先が盆休みとなり、当日は午後から寝て深夜に家を出る。
【初日】奈良田第一発電所→間ノ岳→熊の平小屋
奈良田第一発電所手前の広河内橋のたもとに駐車場があり、2台分の空きスペースがある。1台は東京ナンバーのが停めてあり、その脇に止める。
夜中の1時半。少し早過ぎるかなとは思ったが、眠くもないので、おにぎり一個を食べ、ウーロン茶500ミリ1本を飲んで、ボチボチ歩き出す。農鳥岳頂上までの標高差は約2100mほどある。
大門沢小屋の上方で夜が明ける。
今日は小屋のずっと上の最終水場で給水するつもりで、ザックには500ミリ1本と空のPB1本を入れていた。河原に出てどんどん上へ上がる。過去3回、この付近は歩いたことがあるが、今回はどうも水量が多い。最終水場はもっと上だろうと思っているうちに、行き過ぎて樹林帯へ入ってしまった。
まぁいいか、まだザックの500ミリは丸々あるし・・・
5時半ごろ、樹林帯の中で、水を節約して食事。
樹林帯からハイマツ帯に変わり、大門沢下降点へ上がる。
日差しは時々あるが、ガスが濃くて山々は何も見えない。
今朝農鳥小屋を出て下って来る人に次々と会うようになる。
温厚そうな高年の単独行の方と挨拶をした後、
私の方から「農鳥小屋はどうでしたか?」と聞いてみた。
「大変混んでました」
「建物が古く、特にトイレはとても・・・・」
私、「親爺さんは? 怒鳴ってはいませんでした?」
「アハハ、怒鳴ってましたよ、遅く来る人には。安全の面では厳しい方ですね」と。
7時50分、農鳥岳頂上に着く。十数人が休んでいた。
展望はないが、白峰三山の最後のピークに立ち、皆さんヤレヤレと言った表情だ。
西農鳥岳へ向かう。 登山道から右の尾根上へ踏み跡があり、頂上には半畳ほどの平らな岩場があった。ここが西農鳥岳と思われたが、表示類は何もない。
農鳥小屋へ下り、売店で水2本を買った際、「西農鳥のピークはどこがそうですか?」と聞くと、以前は表示があったが、今は取り払っているとのこと。
矢張り私が立ったピークがそうだった。
小屋で30分近く休みながら、時折、強烈なトイレ臭が風に運ばれる広場で食事。 買った水丸々1本を飲む。
7時間半の間、水はザックの1本だけだったが、大汗もかかず、何とか持ちこたえた。
売店から建物の間を通って、偵察?しながら広場へ出る。黒っぽいまだらの犬がいた。結構、可愛い顔つきだ。
母屋内の窓も全開にしていて、まるで大広間の空気を入れ替えているみたいだった。
ここから熊の平小屋へは、間ノ岳の南面を巻く近道がある。
ガスで展望はないが、時間が早いので、間ノ岳経由で行く。
三峰岳へは標高差190m、歩きにくいガレ場の下り。
下り切った鞍部から僅か20〜30m上り返して、三峰岳へ。
長野・山梨・静岡、三県の分岐点だが、〇〇岳という感じは全くなく、遠くから見ると小さく尖ったピナクルだ。
12時20分、熊の平小屋へ着いて宿泊手続きをする。
夕食まで、5時間余りある。持参のつまみで缶ビールを飲みながら、私より先に小屋へ着き、小屋前のベンチで横になっていたおばさんと山の話で盛り上がる。
さすがは女性、花には詳しい。一般的に、男性より女性の方が花には造詣が深い。 性差による感性の違いだろうか。
正面には西農鳥岳が大きいが、頂上にはガスが掛かり続けていた。
小屋の脇で、豊富な湧水がとうとうと山腹から湧き出している。
一口飲んでみる。美味い!
味音痴の私でも水道水と、〇〇天然水や〇〇のおいしい水等のミネラルウォーターとの違いは分かる。
手を浸してみる。冷たくて、長くは浸してはいられない。
黒部川に倣い、‘大井川の一滴はここに始まる’の源流碑があっても良さそうな雰囲気である。
【二日目】熊の平小屋→塩見岳往復→両俣小屋
夜中、トイレへ行く人のドアを開ける音で目を覚ます。
時計を見ると丁度3時。 起きられるかどうか分からなかったが、3時には出ようと思っていた。
ライトを点け、靴を履いて即スタート。
今日泊まる両俣小屋は、15時までに入らなければならないので、できるだけ早く塩見岳までピストンして来ないといけない。
雨の心配がないので、雨具やザックカバーは小屋へ残し、できるだけ軽荷で行く。
北荒川岳5時半、夜明け直後の群青色の空に、塩見岳の峨々たる山容が映える。
唐松岳から眺める五竜岳に似ている。
この山は本谷山方向から見ると、天狗岩と東峰南部の2941mPを左右に従え、誠に力強い男性的な山である。
北俣岳分岐北方の水場を眼下に見下ろす付近まではアップダウンが少なく、大変歩き易い。
登山道沿いの高山植物はシカの食害で減っていると言われるが、それでも場所によっては密生している。
シカが食べないマルバダケブキは、所々に大きな群落がある。
7時05分、塩見岳東峰着。 意外にも先行者は3〜4人だけ。
雲海上の富士が左右パーフェクトな均整で、その神々しさに圧倒される。
南アの高峰から見る富士には、どこから見ても広闊な雲海が広がっていることが多く、その美しさに言葉も出ない。
中アの奥には御嶽山、南端の恵那山も見える。
加賀の白山は、まだ雲のしとねの中にいるようだ。
北アは乗鞍〜穂高がよく見える。槍の華奢な山体は今一よく見えない。
もう一つのピーク、西峰までは1分半ほど。こちらは誰もいない。
写真を撮ったり、食事をしたりして、東峰から20分後に下り始める。
天はそれを待っていてくれたかのように、急速に雲とガスが広がった。
地図には展望良好とある竜尾見晴も、大きく開けた安部荒倉岳も真っ白い空間であった。
10時半、熊の平小屋に戻る。朝・昼用二つの弁当を貰い、一つを食べる。西農鳥岳に掛かるガスは昨日より多い。
10時55分、小屋にデポしていた雨具をザックに詰め、三峰岳へ向かう。
両俣小屋までのコースタイムは4時間40分。 途中での小休憩を考えればギリギリだろうと見込む。
三峰岳はあの剱岳と同じ2999m。山頂直下は南側も歩きにくいガレ場だ。小屋からの標高差は約400m余り。
三峰岳から北は仙丈ヶ岳へのルートとなる。
三峰岳北側には非常に急な下りがあり、仙塩尾根で唯一の鎖場がある。
13時前、2699mピークで小屋の弁当を食べる。下から三峰岳を見上げると、中腹から上が急激に反り上がり、ガスの中へ消えている。
両俣小屋へは、野呂川越という三峰〜仙丈間の最低鞍部から下るのだが、尾根がなだらかになってからが長かった。
行けども行けども野呂川越へ着かない。 15時を過ぎるのじゃないか、野呂川越は気付かずに通り過ぎたんじゃないかと不安になる。
途中、『野呂川越、この北600m』の表示あり、ホッとする。
やっとの思いで、14時20分、小屋への下降地点に着く。
山小屋の門限までの時間は、コースタイムと同じ。急坂を下り切ったら小屋だろうと思いきや、野呂川に沿って平坦な道を更に下流へ続く。
対岸の左俣沢がV字型に切れ込み、北岳が見上げられる右俣沢左岸に祠がある。北岳はガスの中であった。
14時53分、小屋へ着いた時には腰が砕けそうになった。
暗い中、熊の平小屋から塩見へ向かって、12時間。
まるで飛脚のような、少々忙しくてハードな一日であった。
自分が立てたスケジュール故、15時に間に合った時の達成感も強烈だった。
両俣小屋の星美智子さんは、山岳雑誌で存じ上げていた。
雑誌の写真で拝見するより色白で、お元気そうである。
早く着いても、夕食は他の小屋と同じで5時頃から。
ベンチに腰を下ろし、ビールでのどを潤す。
気になっていた沢音も小屋の中へは届かず、ぐっすり眠れそう。
猫が3〜4匹いて、登山者が腰かけているベンチに上がり、愛嬌をふりまいている。 しかし、決して人が食べてる物には手を出そうとしない。 結構太っているので、多くの人から差し入れを貰うのだろう。
小屋は俗世と隔絶したような辺境の谷間にあるが、広く開けた河原であり、地形による圧迫感はない。
夕方、霧雨となり、対岸の山の中腹にはガスが掛かる。
小屋の煙突から上がる煙を眺めながら物思いに耽り、高い所から見下ろせば山水画の風景だろうと想像する。
命の洗濯には最高の環境だが、長く逗留していると、余りの静けさ・寂しさに発狂しはしないだろうか・・・・・(笑)
この時季なので、星さん以外に3人ほどいた。
食事も行き届いており、とっても美味しくてお代わりする。
お盆を過ぎれば、星さん一人になると、この小屋に詳しい登山者の話。
愛猫と癒し癒されの日々であろう。
【三日目】両俣小屋→仙丈ヶ岳→北沢峠……バスで奈良田第一発電所へ
夜中、屋根を打つ激しい雨音で目を覚ますが、またすぐ眠ったようだ。
両俣小屋〜仙丈ヶ岳〜北沢峠間のコースタイムは9時間半。
小屋で朝食を済ませて出ても、北沢峠発の最終便(15:30)には間に合いそう。
当初、朝食は5時か5時半だろうと思っていたが、実際は4時半からであり、足元がやっと見えるようになった5時前に出発する。
雨はやんでいたが、木から雫が落ちているので、ザックカバーを付ける。
野呂川越にはテントが2張あった。
雨上がりの為、下界は霧が峡谷を埋め尽くしていたが、天気は良さそうだ。
地図の独標北の南北に長い露岩帯は360度の素晴らしい展望。
写真を撮るだけで10分いた。
その時は、自分が今いるのは独標北だとは分からなかったので、高望池でテン泊したという単独の若人に、「ここは伊那荒倉岳ですか?」と聞く。
伊那荒倉岳は、まだ二つ先の山だった。
苳(ふき)ノ平には見慣れない苔が密生している。
この辺りから次第に展望のいい所が多くなり、前方には仙丈ヶ岳を構成する幾つかのピーク群や、大きく口を開けた大仙丈沢カール、背後には塩見岳から延々と続く尾根が、大蛇の如くくねっているのがよく見え出す。
西側は逆光だが小太郎山越しに鳳凰三山がよく見え、オベリスクがペン先のように鋭い。
アサヨ峰の彼方には、金峰山〜国師ヶ岳も見えている。
最初は下から見上げるようだった北岳〜間ノ岳が次第に低くなるが、富士山は北岳の中腹に隠されてまだ見えない。
仙丈ヶ岳と指呼の間の大仙丈ヶ岳に着く。
ここには誰もいないが、仙丈ヶ岳には大勢いるのが見え、賑やかそうだ。
このまま行けば、かなり早く北沢峠へ下れる。もしやもしや、奈良田行きの臨時便が出ないかどうか、山交タクシーへ電話すると、あっさり 「出る予定はありません」 とのこと。
ならば、少し急いで終発より一便前の12時55分に間に合わせよう。
少し急ぎ、10時15分、仙丈ヶ岳へ登頂す。
北沢峠への下りを急ぐことにして、山頂では弁当を食べたり写真を撮ったりして、25分間、まったりと過ごす。
この快晴下、山岳展望も楽しまないのは勿体ないではないか!
甲斐駒の‘コブ’が何とも奇妙奇天烈だ。鋸岳は南アでは珍しい峻険な岩場の尾根だ。背後には八ヶ岳が軒を連ねている。
南に目を転じれば、西農鳥岳から聖岳までの3000m峰が全て見える。
大井川の左岸にある南ア全山の展望台である笊ヶ岳もよく見えている。
富士山は、大仙丈ヶ岳〜仙丈ヶ岳間で見え始める。
惜しむらくは、7〜8合目の右側(南側)に雲が少し掛かっていることだ。
仙丈ヶ岳に暇(いとま)乞いをして北沢峠へ急ぐ。
途中、小仙丈ヶ岳でも3分ほどいて写真を撮る。
眼前には甲斐駒、鋸岳が大きなスケールでそびえている。
背後には、小仙丈沢カールが白砂青松の美景だ。
この日は見られなかったが、もう一つ藪沢カールがあり、仙丈ヶ岳は、訪う者を慈母のような大きな愛(=カール)で包み込む、女性的な素晴らしい山だ。
正面の甲斐駒を眺めながらゆっくり下りたいのだが、予定のバスに乗り遅れると2時間35分待ちとなる。
前のめりで転ばないよう、足元には十分注意する。
12時半に北沢峠へ下り、一休みしてバスに乗る。
広河原から奈良田行きのバスは、7人だけ。
これでは臨時便が出る訳がない。
白峰三山を縦走して、奈良田から広河原へ戻るのだろう、反対方向のバスの方が客は多い。
広河内橋(奈良田第一発電所)で途中下車し、車へ戻ったのは14時10分だった。
穏やかな山容で花が多く、優美で女性的な仙丈ヶ岳、鉄の兜をまとったようで男性的な塩見岳、この二つの3000m峰を結ぶ仙塩尾根は、縦走者は決して多くないが、誠に魅力あふれる天空の稜線であった。
帰路、知る人ぞ知る天下の名湯、山梨市のほったらかし温泉へ入って三日間の汗を流す。
午後4時半でも、雲の全く掛からない富士山を露天風呂から眺め、激しかった山旅の達成感に浸り、至福のひと時を過ごす。
★ あれから一週間が過ぎた。今回に限らないが、帰宅後1〜2日は激しい疲労感に打ちのめされながらも、充実感や達成感で気持ちが高ぶっている。
やがて、日にちの経過とともに、静かに引く潮のように平常心を取り戻す。
今、静かにまぶたを閉じれば、世間のしがらみも仕事のことも一切を忘れ、山にのめり込んだ三日間が脳裏をよぎる。
そして、つくづく思う==「山っていいなぁ」と。
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