薬師岳〜立山室堂テン泊縦走☆好展望と灼熱のロングトレイル
- GPS
- 26:12
- 距離
- 35.0km
- 登り
- 3,530m
- 下り
- 2,459m
コースタイム
- 山行
- 3:26
- 休憩
- 0:11
- 合計
- 3:37
- 山行
- 12:54
- 休憩
- 0:53
- 合計
- 13:47
天候 | 一日目;晴れのち曇り、一時雨 二日目;晴れのち曇り、一時雨 三日目;曇りのち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2019年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス
下山は室堂より |
写真
感想
普段、ひと気のない静かな山を志向することが多いこともあり、北アルプスからは長いことご無沙汰してしまっている。しかし、連日の猛暑、アルプスの涼しい稜線歩きへの憧憬が否応なく膨らむ。気がついてみれば登山歴の短い家内は3000mを越えたことはなく、森林限界を越えた稜線歩きは白山でわずかに経験したくらいである。それならばと今年の夏休みは久しぶりに北アルプスの稜線に足を運ふことを決める。
北アルプスの中では以前より最も気になっていたのが、この薬師岳から立山との間を結ぶ長い縦走路である。薬師岳はまだ未踏の山ではあるが、薬師岳を訪れるなら立山までのこの縦走路を辿ろうと心に決めていた。問題はコース取りである。途中のスゴ乗越と五色ヶ原で一泊ずつすれば穏健な山行となろうが、三泊四日の余裕はない。二泊三日の行程を考えると薬師峠から五色ヶ原まで一日でたどり着きたいところだが、かなりの長丁場を覚悟しなければならない。
8/12~14の三日間。当初は台風10号の影響が天候が悪いことが心配されたが、極度に遅い速度のお陰と西寄りの進路のお陰で立山のあたりは三日間、晴天の予報となる。お盆休みの真っ只中なので、折立から太郎平を経て薬師岳まではかなりの賑わいであろうが、薬師岳からは立山までは人は少ないことが期待される。
【1日目】
朝に京都を出発すると、電鉄富山から特急に乗り継いで、有峰口折立に到着するのは12:05分。有峰口の駅で特急を下車してバスに乗り込んだのは我々の他には5人ほど、4人組の男女のパーティーと単独行のテント泊の男性のみ。しかし、折立の終点が近づくにつれて驚くほど多くの車が止められている。
最初は樹林の中を登って行く。ところどころに見事な山毛欅の大樹が目をひく。それよりも登り始めるとすぐにも大勢の登山客達と間断なくすれ違う。急登がひとしきり終わり、三角ベンチと書かれているところ。バスの中でご一緒であった単独行の男性とペースはほぼ同じようだ。
ここからは森林限界を越えて、ハイマツと草原の尾根道となる。いつしか晴れ間は消えて、曇り空が広がる。晴れていれば左手には薬師岳の大きな山容が見える筈なのだが山の上の方は雲の中である。太郎平小屋にたどり着いたところで雨が降り始める。少しでも早くテント場にたどり着きたいところであったので、薬師峠まで先を急ぐことにする。テント場に到着すると小さな小屋があり、そこでテントの受付をする。一人¥1000らしい。
テントの受付をしている間に有難いことに雨が上がったようだ。我々の受付の番号が128だったので既にそれだけの数のテントが張られているということだが、ここまでですれ違った人の話によると昨日は300張りというから、前日に比べればかなりマシなのだろう。
なんとかテントを張るスペースを見つけることが出来る。後からも続々と登山者達が到着する。テントを張ると早速、ビールで乾杯である。伏見唐辛子とソーセージを炒める。ついでブロッコリーと牛肉の炒め蒸しにペットボトルに入れてきた赤ワインがメインである。
食事をしていると空気が急に澄んできて、空が晴れ上がってゆく。夕陽を見に行くことにする。先程は霧の中でほとんど景色を見ることが出来なかったのだが、太郎平小屋までの木道が続く広くなだらかな尾根が霧の中から姿を現す。西の空では雲の彼方で黄金色の光がこぼれ落ちている。太郎平小屋に着くと紅い夕陽が雲の下から姿を現した。
テント場へと戻りかけると雲の中から一瞬、薬師岳のなだらかな山容が朧げに姿を現す。西の空では薄紫色の空を背景に雲が真紅に染まっている。翌日の好天を祈りつつ残照を後にテントに戻って、早々に就寝するのだった。
【2日目】
深夜に一度、目が覚めると月が煌々と輝いている。再び眠りについて、朝2時前に起床すると月は沈んだようで満点の星空が広がっている。朝は携行食とスープのみで簡単に済ませると、3時半前にテント場を後にする。薬師岳へは樹林の中の急登から始まるが、まもなく森林限界を越えると、広大でなだらかな尾根となる。徐々に星の明かりが消えて行く。
残念ながらまだ薄暗くて、周囲の様子はわからない。すぐ前をゆくカップルの女性の声が聞こえる。「明るかったらとても綺麗なんだろうな〜」。カップルのリュックの様子からすると、薬師峠からのピストンであろうから、下山時にこのあたりの景色を堪能することが出来るだろうが、縦走となると残念ながらそうはいかない。
薬師岳山荘にたどり着くと小屋の前はこれから出発しようとする登山客で賑わっている。あたりは徐々に明るくなってくる。ここからはほとんど砂礫の岩綾を緩やかに登ってゆく。周囲は雲がほとんどなく、槍・穂高蓮峰に至るまでの大パノラマが展開する。
丁度、日の出の方角が稜線の方向と一致しているようだ。空が急速に明るくなり、目の前のピークの彼方でご来光の時を迎えているようだ。登っていた稜線上のピークは薬師岳の手前の小ピークであったが、それでもピークにたどり着いた瞬間、水晶岳、鷲羽岳などの後立山連峰から続く稜線と、その上に登ってゆく朝の太陽が視界に飛び込んできた。
薬師岳山頂は予想通り多くの人で賑わっているが、ご来光の瞬間が過ぎたところだったので続々と山頂から人が下りてくる。山頂からは文句なしに360度の好展望である。黒部五郎岳をはじめ裏銀座の稜線に朝日があたって輝きはじめる。西の雲海の果てに目を凝らすとピンクローズのパステルカラーに染まる雲海の彼方に白山が浮かび上がっている。
薬師岳からはまずは峻険な北薬師岳を越えなければならない。北薬師岳へは金作谷カールの縁をを辿ってゆく。薬師岳の南尾根のなだらかな様相とは異なり、北薬師岳への吊尾根は突然、荒々しい様相を呈している。
期待通り、薬師岳から北は急に人が少なくなる。薬師岳の北尾根は当然ながら、ガレた岩綾の尾根歩きとなる。森林限界より上をほとんど歩いたことがない家内は当然ながらこうした岩綾歩きに全く慣れていない。
北薬師岳の山頂にたどり着くと、いよいよ立山へと続くこの長いトレイルの全貌が一望のもとである。とはいえ、越中沢岳の手前のスゴ乗越のあたりで、尾根が大きく下降しているのはわかるが、果たして最低鞍部までどのくらい下降しなければならないのかよく見えない。
北薬師岳を越えると荒々しい岩綾帯はまもなく終わり、ハイマツの中の見晴らしの良い低木帯の中を緩やかに下っていゆく。振り返ると北薬師岳とその左手に薬師岳が迫力ある山容を見せているのだが、薬師岳は南稜から望むのと、この北薬師岳から北に延びる尾根から望むのとではまるで山容の印象がまるで異なる。南側ではきわめて優美で女性的とでも形容したくなるが、北側から望む山容はあくまでも荒々しく男性的である。
登山路の周囲には随所にお花畑が広がり、緑の中に点在する色とりどりの花々が目を楽しませる。ふと立ち止まると登山路脇に赤い木苺の実がなっている。口に運ぶと甘酸っぱい味が口腔に広がる。
数組のパーティとすれ違う。昨夜、スゴ乗越に泊まられた人達のようだ。すれ違った人達の情報にらよると、スゴ乗越のテント場が狭いこともあり、昨夜はかなりの混雑だったらしい。
スゴ乗越の小屋に到着したのは9時過ぎ。行程のほぼ半分の地点である。この分でま行くと夕方の16時まえには到着出来るだろうかと期待したのだが、それはとんだ皮算用であった。
まず、ここから目の前にそびえるスゴノ頭にかけて、強烈な登りが視界に入る。家内は兎角登りが苦手である。スゴノ頭の登りに差し掛かると風はほとんどなく、暑さが押し寄せてくる。かなり登ったつもりでも、急登のせいで背後に見えるスゴノ乗越の山小屋との距離がほとんど変わらない。このスゴノ頭への登りではかなり多くのパーティとすれ違う。朝に五色ヶ原を出て来られた人達だろう。ということは皆、薬師岳山荘か薬師峠のテン場まで行かれるのだろう。
コースタイムよりも時間を要してスゴノ頭にたどり着く。今度は越中沢岳のピークにかけて、ほぼ同様の急登が目に入る。越中沢岳への登りは灌木帯であり、見晴らしは良いが、背後からジリジリと照りつける陽光を遮るものはなく、暑さがさらにスピードを鈍らせる。
ここへ来て、急速に水を消費することになる。スゴ乗越まではさほど水を消費してこなかったこともあり、スゴ乗越でそれほど水を補給しておかなかったことが非常に悔やまれる。さらに状況を悪くするのはエネルギー不足、いわゆるシャリバテである。時折、見かけるキイチゴの甘酸っぱさが疲弊した体には有難く感じられる。
越中沢岳のピークに私が先に到着しランチを調理することにするが、料理に水を使う余裕がない。ソーセージを炒めて、パンに挟むが、当然のことながら、更なる渇きを促進する。しかし、山頂からの眺望は絶佳である。そして、北側にはなだらかな北尾根と越中沢乗越を挟んで、次のピーク、鳶岳が視界に入る。
我々が山頂で長い休止をしている間に二人ほと単独行の男性が通過して行かれたが越中沢岳の登りに差し掛かってからは他にはすれ違う人達もほとんどなく、静かな山行となった。
鳶岳の登りに差し掛かる、東側の斜面に入ると黒部湖の方から涼しい風が吹き上がってくるが、登山路が西側斜面に入ると、途端に熱気が感じられる。日がな続いていた好天のせいで陽光に焼かれた岩石が熱を放射しているようだ。
鳶岳の山頂からは多くの池塘を抱くなだらかな五色ヶ原を望む。その先には、ついに目指すこの日のゴール、五色ヶ原のテント場が目に飛び込んでくる。広いテント場にはテントは疎らであり、空いているようだ。
五色ヶ原の山荘でテントの受付を済ませるとキャンプ場までは五色ヶ原のお花畑の中を10分ほど下る。キャンプ場でテントを張ると、立山の前衛、獅子岳と龍王岳に丁度、雲がかかってゆく。東側の後立山連峰の稜線には重苦しい雲がかかっており、遠雷の音が聞こえる。
早速食事の用意に取りかかる。ところが先ほどまで晴れていたのが急に霧が立ち込めたかと思うと、にわかに雨が降り出した。先程、後立山連峰にかかっていた雨雲が東風に流されて急速にこちらに移動してきたのだろう。大型の台風10号に向かって吹き込む風がもたらした雲だろう。すぐに止むことを期待したが雨の勢いはますます強くなる。
テントの中でビールで乾杯すると、ズッキーニとトマト、シメジとベーコンの炒め蒸しを作るも家内が気分が悪いと云って全く口に入らない。重たい思いをして運んできた日本酒にもほとんど口をつけることなく、早々に眠りについた。
【3日目】
テントを撤収して出発したのは4時。テント場の水は沢水で飲用するには煮沸が必要とのことなので、五色ヶ原の山荘に水を頂きに行く。水道では多くの方が歯磨きをしておられ、まもなく出発されるのだろう。
霧の中をザラ峠に向かって歩き始めると、急速に霧が晴れてゆく。ザラ峠に下る前で、目の前には雲の中から獅子岳がその峻険な姿を現わすのだった。ザラ峠から見上げるとまるで壁のような斜面にジグザグのトレイルが刻み込まれている。
獅子岳を登るにつれ、まもなく五色ヶ原を見下ろすようになる。その上には相変わらず雲がかかっているが、雲の上から五色ヶ原の西端の山、鷲岳が顔をだす。やがて雲の上には彼方に昨日、越えてきた薬師岳を望む。
獅子岳の山頂に立つと、目の前にはさらに峻険な龍王岳が荒々しい岩肌を見せている。まずは手前の鬼岳を越える。登りに差し掛かるといくつかの雪渓を横切ることになる。登山道は鬼岳のピークをトラバースするように上手くつけられている。
いよいよ龍王岳の登りにさしかかると急に雲がかかり、ガスの中を歩くことになる。登山路は龍王岳の西の肩を目指して斜面を斜めに登ってゆく。相変わらず家内の歩みは牛歩のごとくである。
富山大学の小屋がある西の肩にたどり着くと、室堂から登ってこられた大勢の登山客で賑わっている。ガスの中から龍王岳の山頂が姿を現すが、雄山、大汝峰といった立山の山頂部にはガスがかかっていく。家内がもうこれ以上は登れないというので、浄土山から室堂に下ることにする。一の乗越から下るという方法も考えられるが、浄土山経由の方がはるかに展望が良さそうである。
浄土山を下ると親子連れ、それからテン泊装備の人、トレラン・スタイルの人とすれ違う。浄土山の山頂から下はガレ場が続いており、およそ初心者やファミリー・ハイクに適した道とは言い難い。室堂から南側の展望台へと続く道に合流するとさらに多くの人である。おそらく登山以外で室堂を訪れた人のほとんどがこの展望台を目指すのではないだろうか。
展望台からの道を下ると、最後はミクリガ池のほとりを巡ってミクリガ池温泉に浸る。剣岳や別山など、他の山々の頂はすっかり晴れているのに立山の山頂部だけはすっかり雲に覆われている。間断なく東から雲が流れているのは、台風に向かって東側から吹き込む風の通り道になっているのだろう。
温泉から上がり高原バスからケーブルカーへと乗り継いで、立山駅にたどり着くと室堂のあたりとの温度差に驚く。富山駅への富山地鉄のクラシカルな車両は鉄道ファンには嬉しいかもしれないが、冷房の効きが極端に悪い。この日、台風に伴うフェーン現象により新潟では40度以上の記録的な猛暑となったらしいが、その状況は富山でも全く同じであろう。
今回のトレイルが気になっていたのは父親がかつて50代の頃、同じコースを歩き、さらに立山を越えて劔岳まで登っているのもあった。我々とは違う山小屋泊山行であり、最後は剱岳の手前の山小屋であったと聞いているが、相当過酷な山行だったであろうことがよくわかった。
いいルートを歩きに行かれたんですね。薬師岳までは人も多い人気ルートでしょうけど縦走路は静かな絶景ルートを堪能できるものかと。
薬師岳へ上がった時、北薬師岳まで足を延ばしたかったのですが、翌日の黒部五郎への歩きと私の亀足を考えると無理でして断念しました。カール地形を綺麗に見るには、やはり薬師岳の北側へ行かないとダメかな。
京都から朝一便で行けば、折立に正午に着けるなんて知りませんでした。縦走の場合なんかは有効ですね。新穂へ下るのもいいかと。
日本語というか漢字とひらがなで意味が違うのが解りますね。「ひと気」と「人気」。わたしもこの「ひと気」って使ったりしますが、漢字に変換すると「にんき」と読んでしまう様で「にんきのないルートが好きで…」は、違った印象を与えてしまう気がしました。文才の無い私の場合ですけどね。
ののさん コメント有難うございます。
ののさんも太郎平〜薬師〜黒部五郎という人気コー側から見るのとではまるで山の印象が違っていて、そのことを書きたいと思いながら感想に書くのをすっかり失念していたので、追記しました。
>京都から朝一便で行けば
サンダーバードは次発で行ったのですが、富山地鉄の乗換にほとんど時間がなく、乗り場の下にかなり大きなスーパーがあるので、始発で行けば乗換の時間に食品を買い出し出来るかと思いました。といっても用意周到なののさんはそんな場当たり的なことはしないかもしれませんが
>新穂へ
確かに、次に気になるのが、笠ヶ岳〜黒部五郎です。しかし、薬師峠のテン場の混雑を考えると時期を慎重に選ぶ必要がありそうです。
>「ひと気」と「人気」
御意です。文才の問題ではないでしょう。文脈からすぐに理解される場合ならばいいですが、どちらでも意味が通じてしまう場合には困りますよね。
p.s. この山行の後、台風をやり過ごしてから、仙塩尾根縦走をして参りました。明日にはレコをアップしたいと思っているので、宜しければご来訪お願いします😄
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