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Yamareco

記録ID: 21147
全員に公開
積雪期ピークハント/縦走
白山

大門山→大笠山→笈ヶ岳→三方岩岳(白山北方スキー縦走)

2003年04月09日(水) ~ 2003年04月11日(金)
 - 拍手
GPS
56:00
距離
31.4km
登り
2,964m
下り
2,951m

コースタイム

4月9日美濃蕨生松原宅(5:30)→西赤尾(7:30)→打越トンネル出口車デポ発(8:40)→標高840林道に当たる(12:30)→ブナオ峠(13:30)→標高1500mイグルーC1(15:30)
4月10日イグルーC1発(6:00)→大門山(6:15)→大笠山(13:00-50)→笈ヶ岳北1740mのポコイグルーC2(15:30)
4月11日イグルーC2発(6:30)→笈ヶ岳(7:30-8:10))→最低コル(9:00)→仙人窟岳(10:10)→国見岳(12:30)→スーパー林道トンネルの上(13:30)→三方岩岳(14:30)→標高1640スーパー林道脇(17:00)→馬狩料金所脇(17:40)→馬狩トンネル出口で電話(18:15)
天候 1日目:雪
2日目:晴れ
3日目:晴れのち吹雪
過去天気図(気象庁) 2003年04月の天気図
アクセス
コース状況/
危険箇所等
白山北方・国境稜線スキー縦走

大門山だいもんざん(1572m)、赤摩木古山あかまっこやま(1501m),見越山みこしやま(1621m)、奈良岳ならだけ(1644m)、大笠山おおがさやま(1822m)、笈ヶ岳おいづるがたけ(1841m)、仙人窟岳せんにんいわやだけ(1747m)、国見山くにみやま(1680m)、瓢箪山ふくべやま(1637m)、三方岩岳さんぽういわだけ(1736m)
【ルート】
十の山頂を踏むスキー大縦走だけれどねらいはズバリ、笈(おいづる)ヶ岳だ。全国的にはほとんど知名度のない白山北方山域に燦然と名を馳せる笈ヶ岳だ。深田久弥が登り残した山として、また未だに道が無い名山として有名なのだそうだ。白山は広大で、多くの魅惑的な谷を持つが、魅惑的な山頂には恵まれていない。高まりはひとえに主峰白山の御前ヶ峰に集中するので、笈ヶ岳は白山山域では貴重な山頂に思える。延々30キロの縦走だが、一番の季節にスキーで向かった。

一日目:みぞれ雪・稜線まで
初日は雨、二日目高気圧、三日目後半吹雪という巡り。この季節、天気の回転は速いから、笈ヶ岳を超える日に好天を当てられて幸運だった。早朝、松っちゃんのドムネラス号(ただの軽自動車)で合掌造りの富山県五箇山へ。西赤尾からブナオ峠への林道は入り口でピシャーンと閉まっていたので、入山路を変えて、境川の桂湖ダムを試しに入ってみると思いがけず前進できた。打越トンネルの出口の山盛りの雪の前で停車。すぐ先のダムの脇から夏道を使ってタカンボウ山をトラバースするルートを行く。アスファルトの林道を延々登るより良い。

時折霧雨がショボ降る中、濡れて良くシールの効く雪を行きタカンボウ山もちょっと下で横着トラバースして下降し、林道に乗る。一帯は雪たっぷり、見事なブナ林だ。ブナオ峠では湿雪のうえガスで視界無し。最大傾斜方向にひたすら登る。ブナの幹を雨水がぬらぬらと流れ、標高が上がるとそれが凍っていく。ブナの新芽を蓄えた梢が見る見るエビのしっぽを伸ばしていき真っ白になるころ、標高は1500mを超えていた。気温マイナス4度。大門山も何も見えない緩斜面でイグルーを作る。湿雪に濡れた雪は踏み固める必要が無く、乗せればくっつくという最高のブロックで、建設にかかった時間は32分、これまでの最短だ。吹雪の中でのイグルー作りは早くできてくれるのが一番ありがたい。焚火するような木もなく天気でもなく、早々に入り込み、酒を飲んで眠る。体が濡れてしまい、朝までウトウトしていた。

二日目:高気圧の下、最深部へ
二日目は快晴のはず。しかし朝のうちはガスで何も見えない。熊本の五木製麺から箱買いした棒ラーメン「アベックラーメン」で調子を付け、支度をして大門山をアタック。その途中からガスが晴れ、一帯の風景が姿を見せた。真っ白に凍り付いた一面のブナが朝日に輝いている。山頂は広く、雲海の上になった。雲が斜面を逃げ、高いところから視界が利いてくる。凍った硬い雪面の上に冬型の気圧配置で降った粒状スチロールのような雪が数センチ乗っていて、よく滑るが適当な制動になり、安心してスキーを飛ばせる。赤摩木古山、見越山を超え奈良岳あたりまでは光が斜光で美しい。北アルプスの剣北方稜線から延々御岳山まで、真横から端から端まで見たのは初めて。富山や金沢の市街地もよく見える。日本海の水平線は山に登るほど高くなる。大笠山は風格がある。広く張った白い尾根がピリカヌプリのよう。笈ヶ岳がなかなか姿を見せない。飛騨側開津谷の仙人岩を見下ろす。青島さんたちがあのリッジを登り、脇のルンゼを滑った。

奈良岳の南斜面は広く安心の斜面だ。標高差100m足らずの斜面だが油断しきってターンができる。転んでも頭逆さに笑いながらずり落ちて行ける。地図の切れ目のすぐ南の1580mのポコあたりでは稜線の幅は狭くなる。飛騨側へは雪庇の付け根に割れ目が入り、クレバスだらけの惨状だ。ヒドゥンクレバスになっていてずいぶん何度も踏み抜いた。ウサギ君の足跡が的確なルートファインディングを示す。だいたい僕の判断と同じで共感を得る。カモシカ君にも遭遇した。10mほど先で、こちらに向けたお尻の脇から顔を覗かせている、あのトンズラ・スタンバイの構えでこちらを見ていたが、すぐに跳んでいってしまった。ここらあたりで時々スキーを脱いで担いだりしたが、大笠山の登りは遂にシールが効かなくなり担ぐ。結構なキックが要る斜面で僕はアイゼンを着け、松ちゃんはツボで苦労する。大笠山頂は広大な雪原で、南降り口の脇まで行ってやっと腰を下ろす。初めて笈ヶ岳が見えた。大笠山の重量感に比べて何か物足りない印象だ。遠くから目立つ山ではない。

大笠の下りは雪庇があるのか無いのかよく見えない出だしなので、ガスで視界が無かったりしたら往生するところだ。今日が良い巡りの天気で本当に良かった。右側、巨大なカール地形の千丈平をブナの林越しに見て滑降。あまりスキーは快適ではないがその風景が凄い。カールの底までどこまでも滑っていきたくなる。樹氷がバラリバラリ鉛筆大からスリコギ大まで氷の雨を降らせる。雪面はその細長い氷の落ちた模様で一面の幾何学模様だ。最低コルからアイゼンを付けて笈ヶ岳へ登りはじめる。今夜は笈ヶ岳が一番カッコ良く見えるところでイグルーを作ろう。どこにでも泊まれるのがイグルーの強みだ。登り出し間もなくの、標高1740mのポコで建設。振り向けば広大な千丈平、行く手には飛騨側に切れ落ちた鋭峰、笈ヶ岳だ。この距離で見ると笈も白山第二の名峰と呼ぶに値する容貌だ。イグルーを例によって短時間で作ってしまって、夕暮れの小ピークでブラックニッカを飲む。紅く染まりゆく白い山並と、まだ樹氷の落ちきらない、遥か稜線や谷に点在するブナの、光る木立がきれいだ。日が傾いて行くと、そこが広い海であることが分かってきた。日本海だ。線香花火の最後の一時のような紅い玉が沈んでいった。月は半月、ほぼ真上だ。

三日目:笈ヶ岳を超えて嵐の下山
夕べの天気図はこれまで描いた中で一番簡単だった。日本列島の上に高気圧一つ、富士山のようにその等圧線が同心円で低気圧が一つも無い。しかし予報では午後から悪天、なぜだろう。天気は、雲は多いが晴れ。良く凍り付いた急斜面を前爪効かせて笈へ。今回は新品のピッケルを持ってきた。三河のピッケル鍛冶の二村さんに鍛えてもらった特殊鋼のピッケルだ。これが氷を着く時にチーン、チーンと良い音をたてる。笈の山頂は、狭く四方が急で、高い見張り塔の上の様に居心地の良い場所だ。山頂にはカモシカ君とキツネ君の足跡があった。山頂から切れ落ちる笈東尾根は名古屋ACCの二人組が谷底を登り返して登った。この先左側には、二年前の夏松っちゃんと遡行した境川ボージョ谷、加須良川だ。遠い雲海の果てに先日登った御嶽山が聳えている。北の端、継子岳のスカイラインが雲海の海を行く戦艦の舳先のようで、摩利支天山が砲頭、剣が峰が艦橋といった感じか。やはり登ったばかりのせいだろうか御岳山が一番いい山だ。

笈、仙人窟岳間の最低コルでは細くて急な雪稜を降りて行き、最後に5mほどのギャップが超えられず、加賀側の垂直の薮を掴んで捲く。登り返しもスキーの雰囲気ではなく結構前爪の効く急斜面だ。仙人窟手前の緩斜面でやっとスキーをはき、なだらかな山頂をいつの間にか通り過ぎる。程なく急傾斜の細い稜線を前にスキーをザックに乗せる。ここから国見山までの右手加賀側の断崖絶壁、トウクズレは凄い高度感だ。標高差200m以上のすり鉢のような丸い大岩壁の上なのに、幅1mたらずの雪の廊下を残して左側は雪庇ブロックが稜線から分離してぶら下がっちゃっている。この細い雪の廊下をシールスキーでペタペタ登る気持ちの悪さよ。国見岳直下は雪も硬く凍り出し、もし滑落したら空中200m跳ぶのは嫌だなあとばかり考えていた。

天気は着実に悪化。南の方から高さ2000mほどに雲が忍び寄る。御岳を呑み、北アルプスに伸び、白山も、三方岩岳あたりまでガスが巻き込みはじめていた。国見岳の平らな稜線に出るとともに、大きなタンネの梢を揺らす強い風の音が響く。体が浮き上がるほどの強い風も時折。幸い視界は無限大だ。あまり傾斜の無い三方岩トンネル上のコルまでをシールをはずしてぶっとばす。行く手の三方岩を超えれば下界だ。天気が間に合って良かった、と一安心したが、最後にまたまた一山あった。強風雪つぶての中三方岩の山頂に立ってみれば、そこは名前の通り三方崖に囲まれ東尾根に下降できない。元来た方にもどり北側の岩壁帯の下をトラバースして東尾根に当てようとする。結構な急斜面のトラバースになったが、幸い雪崩れる雪質ではなさそうだ。だがガスが濃く、目潰し風が吹き、容易に東尾根が発見できない。5分か10分に一度、一瞬視界が50mほど効くのを答えあわせにして、慎重に尾根を探す。雪はみぞれに近く、体がどんどん濡れていく。頭を働かせ、理屈が通るよう地形図を読む。二十年も冬山登っても、視界の無い急斜面を下っていくのは勇気がいる。ついつい北へと寄ってしまい、標高も1400m辺りになるまで木が少ない。視界のある日ならスキーが快適そうな急斜面なのだが。後半、気持ちの良いブナ林になり白山スーパー林道を発見するにいたってようやく安堵する。前回同様体はずぶぬれだ。雪もシャビシャビで、もうスキーのターンも決まらない。料金所に明るいうちに着いた。最後の最後に極めて充実。

馬狩は無人集落のため、白川郷までの自動車道路をとぼとぼ歩く。トンネルを超えたところで電話が通じ、カメさん(妻)にタクシーを手配してもらう。ずぶぬれの体を暖かいタクシーに入れてほっとして境川ダムのドムネラス号を取りに向かうが、更にもう一撃トラブル。二日前には入れた林道の入り口に鎖が引っ張ってある。三桁番号の錠前は冷たい雨風の中いくらまわしても開かず途方に暮れる。しかし鎖のもう一方は、見れば直径15センチほどのニセアカシアに巻いてあるだけではないか。イグルー、焚火用のノコギリを出し、手際良く問題を解決した。林道脱出三大戦記の一つに殿堂入りだ。

すべてを暖かく見守ってくれていた寡黙で手際良いタクシー運転手に平瀬温泉共同浴場が9時まで入れることを調べてもらい、たっぷり9時まで浸かって、カツ丼を食べて美濃、松原宅に帰還する。
ファイル
(更新時刻:2018/09/10 13:13)
初日の登り。冷たい雨が降り、枝が凍り始めた。
初日の登り。冷たい雨が降り、枝が凍り始めた。
初日の登り
C1イグルー
C1イグルー
二日目の朝。晴れていく稜線。
2006年04月01日 19:59撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 19:59
二日目の朝。晴れていく稜線。
2006年04月01日 19:59撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 19:59
大笠山(北側より)
2006年04月01日 19:59撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 19:59
大笠山(北側より)
2006年04月01日 19:59撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 19:59
2010年04月21日 04:28撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/21 4:28
2010年04月21日 04:29撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
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笈ヶ岳の見えるところにイグルーを作る。C2
2006年04月01日 19:59撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
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笈ヶ岳の見えるところにイグルーを作る。C2
笈ヶ岳の見えるところにイグルーを作る。C2
2006年04月01日 20:27撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 20:27
笈ヶ岳の見えるところにイグルーを作る。C2
C2
イグルー
2006年04月01日 20:27撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 20:27
C2
イグルー
C2
2010年04月21日 04:29撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/21 4:29
C2
C2
2010年04月21日 04:29撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/21 4:29
C2
C2とオイヅル
2010年04月21日 04:25撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
1
4/21 4:25
C2とオイヅル
オイヅル
2006年04月01日 19:59撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 19:59
オイヅル
オイヅルとC2
C2とオイヅル
2006年04月01日 20:27撮影 by  CanoScan 9950F, Canon
4/1 20:27
C2とオイヅル

感想

白山 ・ブナオ峠〜大門山〜見越山〜奈良岳〜大笠山〜笈ヶ岳〜三方岩岳〜白川郷
                      パーティー;米山、松原
 4/9  蕨生発(530)打越トンネル発(840)ブナオ峠(1330)標高1500m泊(1530)
 4/10 発(840)大門山(615)大笠山(1300〜1350)笈ヶ岳手前泊(1530)
  /11 発(630)笈ヶ岳(730〜810)三方岩岳(1430)料金所着(1740)

 国境稜線歩き第二弾。長らく想い描いたライン・季節・方角からの、笈ヶ岳への登頂。三県境を成す零次元世界で、我らが見たは夢の山岳地帯。日本に四十四点有る(コレを書いている最中に一時間半掛けてリストアップしてみた)中の、それはきっと最もイカした点・ポイントの一つであろう。
 <米山氏に依る記録有り(きりぎりす11に掲載済み)>

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