北ア半馬蹄形縦走(裏銀座〜黒部五郎/薬師〜立山)
- GPS
- 47:11
- 距離
- 70.9km
- 登り
- 7,072m
- 下り
- 5,904m
コースタイム
- 山行
- 5:45
- 休憩
- 2:40
- 合計
- 8:25
- 山行
- 6:56
- 休憩
- 1:56
- 合計
- 8:52
- 山行
- 7:39
- 休憩
- 0:40
- 合計
- 8:19
- 山行
- 9:06
- 休憩
- 1:49
- 合計
- 10:55
- 山行
- 7:30
- 休憩
- 2:53
- 合計
- 10:23
天候 | 1日目 晴れのちガス 2日目 晴れ 3日目 晴れのちガス 4日目 ガスのち雨 5日目 小雨〜ガス〜土砂降り |
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過去天気図(気象庁) | 2024年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス タクシー
/圭〜七倉 毎日アルペン号12800円 ⊆形〜高瀬ダム 乗り合いタクシー2300円 4人相乗りで一人575円 ※一部徒歩区間あり https://kanko-omachi.gr.jp/news/88838/ ■復路 ー柴〜美女平 バス 美女平〜立山駅 ケーブルカー N山駅〜電鉄富山駅 電車 →上記まとめて5320円(大人料金) https://www.alpen-route.com/access_new/fare/person/ |
コース状況/ 危険箇所等 |
・七倉山荘〜ブナ立尾根登山口 落石の影響で一部徒歩区間がある。七倉からタクシーに乗る場合は一旦降車し、1.4kmの徒歩区間を経て再度タクシーに乗る必要がある。 ・ブナ立尾根登山口〜烏帽子小屋 急登だがよく踏まれていて歩きやすい。小屋手前でようやく蓮華や針ノ木などの眺望がある。 ・烏帽子小屋〜烏帽子岳 白砂の稜線が美しい。薬師や赤牛の眺望が見事だった。山頂直下のトラバースは注意が必要だが、気を付けて歩けば問題ない。 ・烏帽子小屋〜野口五郎岳 広々とした歩きやすい尾根が続く。槍や表銀座、水晶、赤牛など360度の大展望が素晴らしい。 ・野口五郎岳〜水晶小屋 きついアップダウンが続く。遮るものがなく、快晴だったので暑さに苦しめられた。 ・水晶小屋〜鷲羽岳 水晶小屋からざれた下りが続くので注意。ワリモ岳直下にロープあり。とはいえ注意して下れば特に問題ない。 ・鷲羽岳〜三俣山荘 山頂からは薬師、黒部五郎、鷲場池と槍などの眺望が見事。山頂から三俣山荘まではザレた下りが続く。 ・三俣山荘〜黒部五郎小屋 三俣蓮華岳のわき道から尾根にとりつく手前で残雪あり(8/11時点)。とはいえ右側から巻けるので問題なし。 ・黒部五郎小屋〜黒部五郎岳 特に危険個所はなし。徐々に近づくカールの迫力が素晴らしい。カールから黒部五郎の肩までは結構な急登が続く。 ・黒部五郎岳〜薬師峠 特に危険個所はなし。広々として歩きやすく、たおやかで優美な尾根が続く。 ・薬師峠〜薬師岳 薬師峠から薬師平までは樹林帯の急登。薬師岳小屋から避難小屋まではつづら折りの急登が続く。 ・薬師岳〜スゴ乗越 ところどころザレた下りがあるので注意が必要。人も少なく静かだった。 ・スゴ乗越〜越中沢岳 スゴ乗越から一旦鞍部に下り、大きな岩をよじ登る場面もありつつ約250mアップの急登が続く。 2431ピークから再び鞍部に下り、山頂まで約300mの登り返し。本山行中で一番しんどい登りだった。 ・越中沢岳〜鳶山 2356の鞍部まで緩やかに下り、鳶山まで約300m登り返す。ここもなかなかしんどいが、スゴ乗越〜越中沢岳ほどではなかった。 ・鳶山〜五色ヶ原 歩きやすい木道が続く。危険個所はなし。 ・五色ヶ原〜獅子岳 ザラ峠まで緩やかに下り、つづら折りの急登を経て約400m登り返す。1か所梯子がある。 獅子岳山頂からの五色ヶ原の眺めが素晴らしい。 ・獅子岳〜龍王岳 鬼岳の東面を巻く形で歩く。鞍部から眺める龍王岳の眺めが素晴らしい。 ・龍王岳〜雄山 一の越山荘から雄山まで岩場の急登が続く。ところどころザレた箇所があり、人も多いので落石に注意した。 ・雄山〜別山 特に目立った危険個所はなし。 ・別山〜みくりが池温泉 剣御前小屋から雷鳥沢までの下りはところどころザレている。 |
その他周辺情報 | ■宿泊地  ̄帽子小屋 テント1張2000円 ∋伊鷸柿顱.謄鵐1張2000円 L師峠 テント1張り1500円 じ淇Д原山荘 テント1張り2000円 ■各宿泊地の水場  ̄帽子小屋 テント泊は2Lまでの給水制限あり。 小屋でミネラルウォーター500mlの購入可能。 ∋伊鷸柿顱.謄鷯譟⊂屋前ともに十分な水量 L師峠 トイレ近くに水場あり。十分な水量 じ淇Д原山荘 テン場近くの水場は枯渇寸前。 小屋で500mlのミネラルウォーター購入可能。 ■モバイルバッテリー ・20000mAh✕2本 計40000mAh →5日目で約10000mAh余った ■食料 ・カレー飯9食 →ジップロックに中身だけ移して携行。 ・インスタントラーメン9食 ・フリーズドライの味噌汁6食 ・乾燥豆腐 ・乾燥野菜 ・豆腐そぼろ ・行動食6日分 →日ごとにジップロックで小分けにして携行。 ・塩分タブレット →81g包装を2袋分。一粒ずつ袋から出して、ジップロックにまとめて携行。 ■温泉 ・みくりが池温泉 日帰り入浴1000円 レンタルバスタオル300円 ■後泊 ・富山マンテンホテル 素泊まり6825円 |
写真
感想
今年のお盆は9連休がとれたので、北ア半馬蹄型縦走と銘打ち、裏銀座〜黒部五郎/薬師〜立山を4泊5日で歩いてきました。
もともとは新穂高〜立山の予定だったのですが、せっかくなら裏銀座をもう一度歩きたいと欲張りました。結果、体力勝負のクレイジーな行程が出来上がりました。
ラストピークの予定だった劔を天候不順で諦めたのは残念でしたが、北アの絶景を思う存分堪能し、人との出会いにも恵まれた思い出深い山行になりました。
〜以下山行記録〜
8月9日(金)新宿〜七倉山荘
退勤後に横浜の「カメラのキタムラ」に向かい、昨日注文したオリンパスの中古のミラーレス一眼を受け取った。一年前から計画していた、一生の思い出になるかもしれない山行だから、写真はできる限り綺麗なものを残したかった。カメラは軽量モデルとはいえズシリと重く感じた。これを首からぶら下げるのは嫌だなあと思ったけれど、妥協はしたくなかった。
家の目の前で、緊急地震速報の耳障りなアラームが鳴り響いた。急いでいたので大して気に留めなかった(後で確認したら震度5弱あった)。約17kgのザックと入手したてのカメラを携えて最寄り駅に行くと、地震の影響で電車が運休していた。まずい、あるぺん号に間に合わないかもしれない。地震といい台風といい、どうしてお盆にまとめてやってくるのだろう。
ヒヤヒヤしながら待っていると、ようやく電車が運行を再開した。乗換駅で毎日旅行社に電話をかけ、乗車地を竹橋から新宿に変更してもらった(新宿は23時発なので少し余裕が生まれる。初めから新宿にすれば良かった)。それから快速急行で新宿に向かい、22時45分頃になんとか集合場所に到着。ほっと胸をなでおろした。まだ登山開始前なのにどっと疲れてしまった。
バスに乗車後は何回かSAで休憩を挟みながら、七倉山荘に向かった。寝心地は相変わらずいまいちだったけど、山行自体が台無しにならなくて本当に良かった。
8月10日(土)七倉山荘〜烏帽子小屋
七倉山荘前でバスを降りると、すでにタクシー待ちの長蛇の列が出来ていた。ざっと20〜30人、テント泊装備の人も多い。今日のテン場は激混みかなと思いながら、自分も急いで列に加わった。
5時にタクシーが運行を開始。30分以上待ってようやく乗車できた。とはいえ落石の影響で徒歩区間があるので、そこの手前で一旦タクシーを降り、相乗りしていた他の乗客達と一緒に、次の乗車地点まで歩いた。この徒歩区間が地味に長く、少し疲れてしまった。
乗車地点に到着し、ほどなくしてやって来たタクシーで高瀬ダムまで向かった。他の乗客3名は湯俣方面らしく、お互いお気をつけてと挨拶を交わした。
濁沢の丸太橋を通過し、昨年9月以来のブナ立尾根にとりつく。5泊6日分のテント泊装備できつくないはずがなく、ゆっくりとじわじわ標高を稼いでいった。重装備での急登はもちろんだけれど、首からぶら下げたカメラの重さ、快晴の暑さがきつさに拍車をかけた。
10時ごろ烏帽子小屋に到着。急いで受付を済ませテント場に向かう。さすがに10時台だからか、まだ6割程度の埋まり具合だった。小屋から少し離れた静かな場所にテントを張り、アタックザックとカメラだけ持って烏帽子岳に向かった。西方に薬師と赤牛を眺めながら白砂の稜線を歩く。山頂に着くと、晴れたりガスったり、目まぐるしく状況が変化した。時間もたっぷりあるので日傘をさしながらのんびり晴れを待った。最終ゴールの立山が見えないかと鎖を登ってみたけれど、あいにくガスに隠れていた。
烏帽子小屋方面の稜線が晴れてきたので、下からの眺めを期待してテント場に向かう。思った通り、下から烏帽子の雄姿が眺められ、ごつごつした男性的な山容にしばし魅入った。やっぱり烏帽子はカッコいい。
テント場に戻ると、張る隙間もないほどのすし詰め状態になっていた。お盆とはいえ裏銀座でここまで混むとは。来年のお盆は南アにしようかと本気で考えた。
その後は昼食のインスタントラーメンを食べたり、Xのフォロイーさんと少し話をしたり、夕飯はカレー飯を食べたりして過ごした。明日の三俣のテント場もかなり混みそうだったので、早めに床についた。
8月11日(日)烏帽子小屋〜三俣山荘
2時半に目が覚めた。テント場争奪戦を見越して3時には出る予定だったのに、30分近く寝坊してしまった。皆考えることは同じらしく、朝食を食べていると、準備を済ませた登山者達が続々と前を通り過ぎていく。これはまずいと急いで撤収を済ませ、3時半ごろに出発した。
三ツ岳の手前あたりで空がオレンジ色に染まり始めた。何度も味わってきたけど、日の出前の瞬間がたまらなく好きだ。カメラのシャッターを切ると、弱い光をうまく拾えたからか、スマホよりずっと綺麗に撮れた。思い切って購入して良かった。
野口五郎小屋で小休止を挟み、6時ごろ野口五郎岳に登頂。広々としたボリューム感のある尾根に、槍、鷲羽、水晶、表銀座方面までも見渡せる360度の大展望、やっぱり裏銀座はいいなと思った。
山頂からの眺望を楽しんだ後は水晶小屋に向かう。ここからのアップダウンは岩場が多く、さらに無風の中、照り付ける日差しの暑さに体力を吸い取られるような心地がした。
8時25分頃、水晶小屋に到着。小屋の前にはいくつものザックがデポしてある。野口五郎方面を振り返ると、これまで歩いた裏銀座の稜線が一望できた。岩々が日光を反射して、まるで竜の背みたいで惚れ惚れした。小休止の後はアタックザックに切り替え、途中に簡単な岩場もありつつ、水晶岳に登頂。水晶から鷲羽に至る稜線が見事だった。
水晶小屋に戻る途中、前方から一組の夫婦が登って来たので脇にそれると、先頭の女性が自分の顔をじっと見て「あっ!!」と声をあげた。なんだなんだと思っているうちに続けて「北岳の時の!」と言うので女性を改めて見ると、先々週の白根三山でお話しした方だった。こんなところで再会するとは。山世間も狭い。
せっかくなので色々話したかったけれど、あいにく後ろがつかえていたので軽い挨拶しかできなかった。今水晶を登っているとしたらお二人も三俣だろうか。お二人が到着する頃まで、テント場が空いているだろうかと少し心配になった。
水晶小屋に戻り、売店で買ったコーラを飲んだ。乾いた喉を炭酸が流れる感触が気持ちよかった。小屋前のザックはさっきの倍くらいに増えていた。こりゃあ三俣はとんでもないことになるぞと思ったので、早々に小屋を後にした。
25分ほど歩いてワリモ北分岐へ。相変わらず暑さと日差しが厳しいので、ザックのサイドポケットから塩分タブレットを取り出し、口に含んだ。じわじわと急登を進みワリモ岳、少し下ってから登り返しを経て鷲羽岳へ。山頂からは鷲羽池と槍、黒部五郎や薬師など黒部源流域の名峰が眺められた。先週の雲ノ平から1週間ぶりの登頂だったけど、ちっとも飽きは感じなかった。
山頂からの絶景もつかの間、ふと三俣山荘に目をやると、11時台だというのにテン場が8割程度は埋まっているように見えた。これはまずいと急いで下山を開始し、12時15分ごろ三俣山荘に到着。受付を済ませてテン場に行くも、小屋に近いエリアは案の定すし詰めだった。まじかよと思いながら雪渓近くまで歩き、沢沿いになんとか張れそうな場所を確保できた。少し斜めだけど張れないよりはましだ。
テント設営後は昼食を食べたり、寝そべりながら本を読んだりゆっくり過ごした。そうしているうちにテン場の混雑はますますひどくなり、どうしようもないからと幕営指定地以外に張る人も出てくる始末だった。植生保護地だからと申し訳なさそうにテントの移動をお願いする小屋番さんも、じゃあどこに張ればいいのかと困り果てる人達も、とにかく気の毒で仕方がなかった。そんな光景を見て、人の多い山はしばらくいいかなあ、お盆とはいえ南ア南部ならもう少しマシなのだろうかと、北アにいながら考えてしまった。
8月12日(月)三俣山荘〜薬師峠
3時半に起床。もともとは3時半に出発する予定だったので1時間以上も寝坊してしまった。急いで朝食と片付けを済ませる。
11日の夜から早朝にかけて、台風5号(マリア)が東北地方を横切る予報だったので荒天を心配していたけれど、どうやら少しずれたらしい。見上げると無数の星がきらめいていた。たまらずカメラのシャッターを切るも、モニターは真っ暗だった。星空写真の撮り方を勉強しておけば良かった。
トイレに行くついでに、黒部五郎方面の巻き道にある残雪の状況を小屋番さんに聞いた。一応残雪はあるものの、ステップが刻める人なら問題なく通過できるとのことだったので、巻き道を使うことに決めた。
テン場に戻ってザックを背負い、4時45分ごろに出発。黒部五郎への巻き道は人も少なく静かで、ようやく自分好みの山になってきたと嬉しくなる。ただ人が少ないせいか、ハイマツが道に張りだしている箇所がちらほらあり、外付けしてあるマットに引っかかって歩きづらかった。しばらく歩くと例の残雪があった。そこまで急でもなく、確かにツボ足のまま通過できそうに見える。とはいえ右側から巻けそうだったので、迷わずそちら側を選択した。
三俣蓮華岳の尾根に合流する頃には、前方に黒部五郎岳が良く見えた。大ボリュームの山体と、改めて近くで見るカールの迫力に息を呑んだ。黒部五郎小屋での小休止を挟み、7時50分頃、雷岩に着いた。まさにカールのど真ん中に立ち、写真には収まりきらないほどの雄大な景色に惚れ惚れした。
カールから急登を歩いて黒部五郎の肩にとりつき、ザックをデポして山頂へ。24座目の百名山になる。上から眺めるカールもまたいいもので、まさに楽園という言葉がぴったりだと思った。
黒部五郎の肩に戻ってザックを背負い、太郎平に向かう。太郎平に至るこのルートは人も少なく、たおやかな稜線美はどこか谷川連峰を連想させた。
登山道の脇で休憩しているテント泊装備の人がいたので挨拶をし、軽く雑談になった。聞くとお兄さんも七倉から入山したらしく、1日目は烏帽子、2日目は三俣と、自分と全く同じルートを歩いていた。さらに3日目は薬師峠、4日目は五色ヶ原、5日目は立山と、今後の予定もほぼ同じで心底驚いた。「まさかこんな行程をやる人が自分の他にもいるとは思わなかったです」とお兄さんは笑った。自分もこんな体力勝負のクレイジーな行程をやる人が他にいるとは思わなかったので、仲間を見つけたようで心強かった。
「ではお先です」とその場を後にし、緩やかなアップダウンを繰り返して12時45分頃、太郎平小屋に到着。さらに20分ほど歩いて薬師峠のテント場へ。さすがに三俣ほどは混んでなく、13時台で6割ほどの埋まり具合だった。受付を済ませ、静かな場所を確保できた。
テント設営後は昼食をとったり、ビールを飲んだりして過ごした。水場のホースからはジャバジャバ水が出ていたのでありがたかった。
夕飯は3回目のカレー飯を食べた。美味しくはあるけど、そろそろ炊き立てのご飯が食べたい。
8月13日(火)薬師峠〜五色ヶ原
2時ごろに起床。朝食と撤収を済ませて3時20分ごろに薬師峠を後にする。
ヘッデンを着けて樹林帯の急登をじわじわと登る。次第に高木がなくなり、なだらかな場所に出た。そろそろ薬師平かなと思ったけど、日の出前なのでヘッデンの範囲外は何も見えなかった。
4時20分頃、薬師岳山荘に到着。腹の調子が悪くなってきたので、300円払って小屋のトイレをお借りした。乾燥野菜で食物繊維は摂っているつもりだけど、食事内容を見直した方がいいかもしれない。その後はガスの中つづら折りを登る。避難小屋とは名ばかりの避難小屋(もはや石室)を横目に歩みを続け、5時半ごろ薬師岳に登頂した。あいにくのガスだったけど少し待つと北の空が晴れ始めた。ガス越しに光を放つ太陽が綺麗だった。
山頂を後にして北薬師岳に向かう。途中で写真を撮っていると、昨日太郎平への道中で話したお兄さんと再会した。また少し話をする。その後、数メートル先を歩いていたお兄さんが振り返り「カールがすごいよ!」と言うので自分も振り返ると、さっきまでのガスが晴れて、薬師のカールがバッチリ見えた。緑濃い黒部五郎のカールとは対照的に、灰白色の斜面が広がっている。薬師岳が「北アルプスの貴婦人」と呼ばれる理由が分かった気がした。
その後は再びガスが上り、北薬師岳以降は稜線が見えたり見えなかったりを繰り返した。この区間での展望を楽しみにしていただけあって、ガスってしまったのは残念だった。とはいえほとんど人と会わず、北アの中でも相当に山深いエリアを歩いているのだと嬉しくなった。
8時40分頃、スゴ乗越小屋に到着。ここから先はきつい登りが待ち構えているので、コーラを買って小休止する。お盆なのに静かで、同じ北アルプスとは思えなかった。ベンチに腰かけていると途中で追い越したお兄さんもやってきた。話しつつお互い休憩していると、レモンの砂糖漬けを分けていただいた。単独行を好んではいるけれど、グループならこういう楽しみもあるのかなとふと想像した。
五色ヶ原は水不足と聞いているので計4Lの水を背負い、まずは越中沢岳に向かう。小屋から一旦鞍部まで下り、そこからえげつない急登が始まった。大きな岩をよじ登る場面が連続し、水4Lの重さも手伝い、今回の行程中で一番しんどい登りだった。ガスで日差しがないのがせめてもの救いだった。
2431地点のピークを巻く形でもう一度鞍部に下り、越中沢岳までの最後の急登が始まる。はあはあと喘ぎながら登り続けていると、鎖場をグループが下っていて、2名の先行者がその通過を待っていた。どうやら学生の山岳部らしく、大型ザックにピッケルやロープを付けていて見るからに重そうだった。思わず「重そう、、」とつぶやくと前で待っている男性が「35kgはあるそうですよ」と教えてくれた。とんでもない。18kgで重さに喘いでいた自分が恥ずかしくなった。
山岳部が鎖場を通過し、前の2人がどうぞと先を譲ってくれたのでお言葉に甘えさせていただいた。鎖場の難易度は大したことはなかったけど、35kgも背負っていたら大変だろうなと感じた。さらに登った斜面の岩に石碑があったので見ると、何十年も前に落雷で亡くなった高校生に向けられたものだった。今は天候に恵まれているけど、少し判断を誤れば簡単に命を落としかねない行為をしているんだよなと、改めて気を引き締めた。
11時50分頃、ついに越中沢岳に到着。本当にしんどい登りだった。そこからは鞍部までゆるやかに下り、また短い登りを経て鳶山に到着。一瞬ガスが晴れ、宿泊地の五色ヶ原が見えたのでほっと息をついた。
鳶山から五色ヶ原への下りで小雨が降り始めた。本降りになる前にテントを張りたいと先を急いでいると、あちこちから「グエエ、グエエ」と声がする。雷鳥の群れだった。進行方向の木道に3匹乗っている。早くテン場に行きたいのに、可愛い通行止めをくらってしまった。せっかくなのでたくさん写真を撮らせてもらった。
雷鳥の通行止めも次第に解消し、14時ごろ五色ヶ原山荘に到着。受付を済ませて10分ほど木道を歩いてテント場へ。3割程度の埋まり具合だったので、トイレに行きやすい一等地を確保できた。テントを張って昼食のラーメンを啜っていると止んでいた雨が再び降り始め、みるみるうちに土砂降りになった。食べ終わっても外は土砂降りだし、電波が良く届いたのでスマホを見てだらだらした。
17時半頃には雨が止んだので、小屋で水を買うついでに散歩しようと外に出た。雨粒の付いたチングルマの群落が綺麗で、夕陽を浴びる獅子岳と鬼岳が勇ましかった。振り返ると草原の中に五色ヶ原山荘がぽつんと建っていて、まさに雲上の楽園という言葉がふさわしい場所だと思った。南東に目を向けるとひときわ目立つ鋭鋒があり、それが烏帽子岳だと気づいてたまらなく嬉しくなった。あんなところから歩いて来たのか、少しは自分を誇ってもいいんじゃないかと思えた。
テントに戻り、4日目のカレー飯を食べた。天気予報を確認すると木曜は午後から雷雨で、金曜も関東付近を台風7号が通過する影響で荒天になりそうだった。明日は雷鳥沢にテントを張ってから立山三山〜別山まで縦走し、明後日に雷鳥沢から劔にピストンする予定だったけど、大人しく室堂に下山したほうがいいかもしれない。
8月14日(水)五色ヶ原〜室堂
2時半に起床。パラパラと小雨が降っていた。朝食を摂り撤収をする。小雨が降っているからフライシートを拭いても大して意味がないので、大きめのごみ袋にテント一式をまとめて突っ込み、それをザックの上部にぎゅうと押し込んだ。雨の撤収は初めてだったけど、割とスムーズに対応できて良かった。
ガスと小雨の中を4時過ぎに出発。30分ほど下ってザラ峠へ。そこから獅子岳に向けてつづら折りのザレた急登を登る。途中に梯子もあり、縦走終盤にしてなかなかタフな道だった。
6時ごろ、獅子岳に登頂。北方には鬼岳と龍王岳の岩々しい山体、振り返って南方には、五色ヶ原と北側の崩壊した斜面が見えた。地図を読んで北側が崩壊していることは知っていたけど、改めて見ると、穏やかな草原と荒々しい斜面のコントラストに目を奪われた。
獅子岳山頂で小休止を済ませ、鬼岳東面を巻いて龍王岳に向かう。真下から見ると、ひとつひとつの岩が尖っていて巨大で、龍王岳という名前にふさわしい山体だと思った。名前も山体も文句なしにカッコいい。
鞍部から龍王岳に至る急登をじわじわと登り、なだらかな分岐に到着した。そこにザックをデポして、さらに10分ほど登って龍王岳に登頂。すぐ目の前に最終ゴールの立山が見えて、安心感でほっと息をついた。
龍王岳の分岐から一の越山荘まで一気に下り、売店で水を買って行動食をつまんだ。この辺りからどっと登山者が増え、先程までの静けさが噓みたいに思えた。それに多くの人が日帰り装備でどことなくキラキラしている(靴が綺麗、髪がべたついてないetc)。60Lの大型ザックを背負い、泥汚れの沁みついた登山靴を履いた自分が浮いているような気がした。
小休止をしながら、電波が繋がったので天気予報を確認する。今日の午後から崩れるのは変わらずだった。明日劔にアタックするかの判断は別山まで保留するとして、雨が降らないうちにこのまま立山〜別山まで縦走してしまおうと考えた。
一の越山荘から40分ほど登って雄山に登頂。テント泊装備ではきつい急登だった。山頂は多くの人で賑わっている。時間も押しているので、雄山神社での参拝はやめておいた。
続いて大汝山、富士ノ折立に登頂。これで立山三山はコンプリートになる。案外すぐに歩けてしまったので拍子抜けだった。富士ノ折立から真砂岳はあいにくのガスだったものの、灰白色の綺麗な稜線を眺められた。
真砂岳から100mほど下り、鞍部からは大ボリュームの別山が見えた。たまらずシャッターを何度も切る。そこから再び100mほど標高を上げ、12時10分頃、別山南峰に登頂。あいにく劔はガスの中だった。
改めて天気予報を確認した。今日の午後から雷雨は変わらずだったけど、台風の進路が太平洋側に少しずれたからか、明日早朝の天気はもちそうだった。
とはいえ台風の進路は変わるかもしれないし、到達も早まるかもしれない。新幹線が運休して富山から帰れなくなるかもしれない。今日は雷鳥沢に1泊したとしても、午後からの雷雨を安全にやり過ごせるだろうか?考え始めたらネガティブな想像が止まらなかった。
それに、さすがにロングルートをテント泊装備で歩き続けた疲れが出たのか、あと1日粘って劔にアタックするのがたまらなく面倒に感じてしまった。一刻も早く温泉に入って、ふかふかのマットレスで眠りたい。
そう考えたら、自然に足が室堂に向かっていた。1分でも早くみくりが池温泉に入ること以外考えられなかった。剣御前小舎から40分ほど下って浄土橋、雷鳥沢野営場を横目に見ながら歩いていると雨が降り始め、瞬く間に土砂降りになった。
14時半ごろにみくりが池温泉に到着。5日ぶりの風呂はたまらなく気持ちよかった。風呂を出た後はカフェスペースでバタートーストとビールを注文。ごくごくと喉を潤すビールが最高に美味しかった。
その後は室堂ターミナルでアルペンルートのチケットを購入し、バスとケーブルカーと電車を乗り継いで富山駅で降りた。
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