静岡駅-親不知
- GPS
- 122:18
- 距離
- 429km
- 登り
- 28,456m
- 下り
- 28,464m
コースタイム
00:00 静岡駅
06:00 富士見峠
11:00 白樺荘
12:40 畑薙大吊橋
15:50 茶臼小屋
17:40 聖平小屋
■2日目 8/10(土) 16時間50分 48.5km D+4,400m CT0.50
01:00 聖平小屋
04:50 百間洞山の家
07:30 荒川小屋
12:00 小河内岳避難小屋
14:50 塩見小屋
17:50 熊の平小屋
■3日目 8/11(日) 15時間40分 56.5km D+2,300m CT0.54
02:00 熊の平小屋
04:15 野呂川超
07:00 仙丈ヶ岳
11:00 地蔵尾根柏木駐車場
17:40 菅野台バスセンター駐車場(ODSK)
■4日目 8/12(月) 14時間 48km D+3,300m CT0.50
01:00 菅野台バスセンター駐車場(ODSK)
04:30 空木岳避難小屋
05:10 木曽殿山荘
09:30 宝剣山荘
11:10 七合目避難小屋
13:00 大原上バス停
14:00 清雲荘
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17:00 清雲荘
19:00 スーパーまると
■5日目 8/13(火) 12時間 60km D+2,300m
01:00 スーパーまると
02:50 境峠
06:00 国道158
07:10 沢渡バス乗り場の足湯
10:20 小梨の湯
13:00 横尾キャンプ場
■6日目 8/14(水) 15時間 46km D+4,250m CT0.50
00:20 横尾キャンプ場
03:40 槍ヶ岳山荘
05:50 双六小屋
07:10 三俣山荘
08:30 水晶小屋
10:00 野口五郎小屋
11:45 烏帽子小屋
15:30 船窪小屋
■7日目 8/15(木) 9時間 21km D+2,000m CT0.58
02:00 船窪小屋
05:25 針ノ木小屋
08:40 新越山荘
10:00 種池山荘
11:00 冷池山荘
■8目 8/16(金) 6時間20分 10km D+1,200m CT0.55
08:30 冷池山荘
10:30 キレット小屋
12:40 五竜山荘
14:50 唐松山荘
■9日目 8/17(土) 8時間 22.5km D+2,000m CT0.53
04:40 唐松山荘
06:40 天狗山荘
08:40 白馬山荘
12:40 朝日小屋
■10日目 8/18(日) 11時間 28km D+1,300m CT0.60
01:00 朝日小屋
03:50 黒岩平
06:30 栂海山荘
08:50 白鳥山避難小屋
12:00 親不知
過去天気図(気象庁) | 2019年08月の天気図 |
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アクセス |
写真
感想
去年の夏に敗退した太平洋-親不知をやる。あの敗退から一年間、鍛え直して再び静岡駅に帰ってきた。体力、技術、装備。去年の僕とは違う。この目で日本海を見るまで絶対にあきらめない。
■0日目 8/8(木)
仕事を早めに切り上げ自宅を出て名古屋へ。こだま号は余裕の自由席。明るいうちに静岡駅に到着し予約していたホテルにチェックイン。18時には寝た。去年は出発の前日に大浜海岸で野宿したところ全然眠れなくて初日は一日中眠たくて本当に辛かった。今回はホテルで快適に眠った。おかげで初日は眠たくなることなく気持ちよく走れた。これは大正解だった。
■1日目 8/9(金) 晴れ
23時半に目覚めたらおにぎりを1つ食べて出発。大浜まで逆走して駅まで戻ってくるのが面倒なので静岡駅スタート。大浜スタートに比べて畑薙まで5km短くなるがこの5kmが今日の行程にかなり効くことになる。静岡駅の温度計は29度を指していた。走ると暑くて汗が止まらない。早々に全身びしょ濡れで大雨に打たれた後のようになった。牛妻のファミマで食料と飲み物を調達したら徐々に街灯が減り山の中へ入ってゆく。去年に比べて荷物は軽量化し脂肪は削ぎ落としロードの走力は冬の間にコツコツ鍛えてきた。脚への負荷を軽くする走りを身につけて弱点のロードは克服した。畑薙大吊り橋まで延々と続く90km近いロードは7km/hで刻む。息を吸い、腕を振り、足を前に出すだけのマシンになる。富士見峠の登りも下りも止まらず走り続けた
白樺温泉の手前で前から走ってくる若者が一人。先週富山湾から馬場島に入り北中南アルプスを抜けて8日目。ゴールの太平洋を目指して残り70kmということだ。日付が変わる前にはこの旅が終わると言っていた。この一週間はずっと天候に恵まれ、富山湾を出発してから一度も雨に打たれず一度も雨具を着なかったらしい。旅を終えつつある彼とこれから旅が始まる僕。対照的な二人だった。白樺温泉ではお風呂に入らずカレーだけ食べた。これから山に入れば嫌でもカレーやカレーヌードルを口にすることになるのに、どうして下界でカレーを頼んじゃうの?馬鹿なの?満腹になったら再び走り出す。登山口まで小一時間。ダムを超えて砂利道に入りようやく長い長いロードから解放された。畑薙大吊橋を渡れば時刻は13時。速い。去年よりだいぶ余裕がある。去年の初日はウソッコ小屋までだったが、これなら聖平を狙えそうだ。
90km走った脚で山が登れるのか。登れる。ロードはたっぷり脚を温存してきた。ここまで13時間ずっと我慢してきた。大好きなの南アルプス南部。会いたかった思い出の茶臼岳。さあ行こう。お楽しみの時間だ。森の空気を思いっきり吸い込んで、ストックに体重を預けて、滝のように汗をかきながら山を登る。心臓が苦しい。やっぱり脚が重たい。だけど山は最高だ。ウソッコ小屋を越え、横窪沢小屋を越え、茶臼小屋を越えてもまだ進む。無限に力が湧いてくる。尾根はガスガスだが涼しくて気持ちいい。山に入れば時間が過ぎるのはあっという間。明るいうちに聖平に着いた。ウェルカムポンチにありつけた。テン場の受付を済ませたらテキパキテントを張り水をたくさん飲んでバタリと眠った。初日から18時間行動となった。長い1日だった。
■2日目 8/10(土) 晴れ
初日に聖平まで行けたのはデカい。なぜなら今日は熊の平を狙えるからだ。2日目の目標は三伏峠だったが三伏峠に泊まると翌日は出発して早々にハイマツの夜露で全身びしょ濡れになり、真っ暗闇の塩見を超えたりとハードな1日になる。三伏峠は今日中に抜けたい。聖平-熊の平は標準CT32時間40分。昨日100km歩いてきた僕にこの行程を一日で抜けることが出来るのか。出来る。やるしかない。
満点の星空の下でテントを撤収し最初の3,000m峰、聖岳へ向かう。夜の聖岳は初めてだ。風は弱く気温も低い。視界良好。ぐいぐい進む。聖-兎-子兎-中盛丸山を一気に突破した。百間洞で美味しい水を腹一杯飲んだら次は赤石へ。ここで東の空が明るくなってきた。ようやく闇から解放される。赤石岳は楽しい。スケールのでかいガレ山に圧倒される。赤石の山頂に立てば次は荒川岳の登りが相手だ。山を越えればその先にまた山が現れる。この山を越えれば次はどんな山が、どんな景色が待っているのだろう。この感じがたまらなく好きだ。まだまだやれる。いつも素通りしてしまう小河内小屋が気になったので今日は寄ってみた。世間は夏休みに入ったので三伏峠は混雑しているだろうから補給は小河内小屋でしようと考えた。小屋のお姉さん(管理人ではなくお客さんだが常連すぎて雰囲気が関係者にしか見えない)が食べ物をたくさんくれた。荷揚げしすぎて余りそうなので小屋に寄った人に配っているらしい。ありがたい。大盛りミートソースとポテチとチーカマで満腹になったら再び歩き出す。三伏峠はスルーして塩見岳を目指す。塩見小屋では田中陽希さんがまったり休憩していた。お気をつけて、と声をかけてもらった。急いでいたので立ち止まらずに先へ進んでしまったが握手してもらえばよかった。
塩見岳の岩場を全身でよじ登ればあとは熊の平まで大きな登りは無い。フラットな山道をのんびり歩いて暗くなる前に熊の平に到着した。時刻は18時。土曜日なのでテン場はほとんど埋まっていてヘリポートのさらに上の方まで行くことになった。水場もトイレも遠くて不便だがテントの扉を開ければ農鳥がドーンと見渡せる。まさにタワマンだった。今日も長い一日だった。
■3日目 8/11(日) 晴れ
核心部の南アルプスを晴天続きで抜けることができて幸運だ。今日はなんと、駒ヶ根でお風呂に入れます!!初日聖平、2日目熊の平を突破することができたのはただただ「3日目こまくさの湯に入りたい」というモチベーションのおかげだった。やればできるじゃないか。今日は岩さんが仙丈ヶ岳まで応援に来てくれるらしい。7時に待ち合わせしているので今日は遅くまで寝ていることができる。2時に熊の平を出た。平坦な仙塩尾根をぺたぺた歩いてゆく。今日は急がなくてよい。昨日と一昨日頑張った貯金があるので気が楽だ。さすがに"ガンガンいこうぜ"は3日間も続かない。僕の方が先に仙丈ヶ岳についた。気温は高く、そよ風が気持ち良い。足のマッサージをしたり駒ヶ根へのロードに備えて足にテーピングを施して岩さんを待った。真っ赤なウェアの岩さんは下から登ってくるとすぐにわかった。5月の富士山以来っすなぁ。岩さんは戸台から入って地蔵尾根を下りるという渋い周回ルート。一緒におしゃべりしながら涼しい樹林帯の地蔵尾根を楽しく下りてきた。地蔵尾根は日が昇って暑くなる前に下りで使うなら気持ち良い尾根だ。柏木登山口に着くと岩さんはデポした自転車で戸台まで走っていった。
濡れたテントを乾かして水場で服と体を綺麗にした。リフレッシュしたら駒ヶ根まで28km, 灼熱のデスロードが始まる。中沢峠は日が当たって暑すぎる。こんなコンディションで走れば一瞬でノックダウンだ。日陰をつないでちびちび水を飲みながらゆっくり峠を登ってゆく。大丈夫。ここの登りはそんなに長くない。富士見峠に比べたら大したことない。すぐに終わるさ。下りは涼しいので走る。里に入ると自販機が出てくるので冷たいドリンクで気持ちを繋いで駒ヶ根を目指した。それにしても暑い。何度あるんだ。暑すぎて逆に寒くなってきた。これはヤバい奴じゃないか。こんなに水分を補給しても真夏の日中にロードを走るとこんな短時間で熱中症になるのか。舗装の熱が靴底を伝って足の裏が熱くて痛い。もうやめたい。この旅で唯一「もうやめたい」と思った瞬間だった。日陰に入って一休みして少し復活した。フラフラと駒ヶ根の街を歩いて気がつくとココイチに吸い込まれていた。だからなんで下界でカレーを選ぶかな!?冷房の効いたココイチでたらふくカレーを食べたら元気復活。30分歩いてこまくさの湯にたどり着いた。水風呂最高…
ストックのゴムキャップを失くしたのでODSKで補充した。バスの待合所は屋根付きのベンチがあっていい感じの野宿ポイントだ。店の人に聞くと「泊まってもいいよ」とのこと。ありがとうございます。許可を得ての野宿ほど安心できるものはない。駒ヶ根の街は涼しくてシュラフカバー1枚で気持ちよく眠れた。今日も長い1日だった。昨年敗退した駒ヶ根より先へ行くことができた。この先には一体どんな困難が、いや、楽しい旅が待っているのか。
■4日目 8/12(月) 晴れ
寝ている間に蚊に顔をボコボコに刺されて酷い目にあった。下界での野宿でも横着せずにテントは張りましょう、ということを学んだ。今日は木曽山脈を超えたら上高地を目指して行けるところまで行こう。池山尾根-福島Bはもう何度も歩いている。何も問題はない。池山小屋の水場でたっぷり水を汲んだら空木岳へ。振り返ると昨日まで歩いていた南アルプスから太陽が昇ってきた。美しい。目指す宝剣岳が遠くにチョコンと見えている。歩いてりゃすぐに着くさ。そう。目視できる山へは歩けばその日のうちに着くのだ。歩き慣れた木曽の尾根をスイスイ進む。草木は乾いて歩きやすい。ここまで3日間、靴の中が濡れていないなんて奇跡に近い。宝剣山荘でお腹がすいてきたのでカレーを食べたら福島Bへ降りる。ここまで観光客がわんさかいて賑やかな山だったが木曽側に下り始めると誰もいない。たまに登ってくる登山者はみんな気合が入っている。ロープウェーを使えば楽に登れるのにあえて、あえて木曽側から標高差1,700m、標準CT7時間をかけて登ってくるなんてハッキリ言って変態(失礼)以外の何者でもない。僕は木曽側から登ってくる登山者を愛している。
大原上の名水で一服したら今日も怒りのデスロードが始まる。時刻は13時。既にアスファルトはチンチンに熱い。目玉焼きが作れるんじゃねーの。これはもう日が傾くまで休むしかない。別荘地を抜けて日陰を繋いで前回もお世話になった温泉"清雲荘"へ。ここで日が傾くまで休む作戦。お風呂に入って牛丼(500円、うまい!!)を食べて冷たい麦茶を飲んで柔らかいソファで一休み。贅沢な時間だった。温泉では僕と同じく静岡から南アと中アを超えてきた男性が休んでいた。彼は今日で15日目。登山靴で歩いてここまできたという。静岡から畑薙までのロードは4日間かかったらしい。すごい。一ヶ月かけて富山湾を目指すという。お歳は72歳。お風呂で見た身体はとても72歳には見えないくらいキレがあった。僕が70歳になっても元気に山を登り続けていたいものだ。17時、日が傾いて涼しくなってきたので温泉を出た。上高地へ向かって60kmのロードを進めるだけ進む。今日は暗くなったらやめよう。2時間ほどジョグって薮原の町で本日終了。上高地までの最終補給ポイントである薮原のスーパーまるとで食料を補給したら適当なパーキングにテントを張って寝た。
■5日目 8/13(火) 晴れ
さあ行くぜ上高地。今日も星空と満月に見送られて出発。ロードは残り50km. とんでもない距離だが静岡-畑薙を抜けてきた僕にはどうってことない。足を前に出していれば着くさ。ゆるい登り坂をジョグってゆく。夜風が涼しい。車通りは少なく快適だった。薮原から上高地の間はクルマでも一度も通ったことがない。知らない道を走るのは楽しい。奈川に入ると眠たくなってきたのでベンチにマットを敷いてシートをかぶって1時間寝た。頭がスッキリしたところで再出発。程なくして辺りも明るくなってきた。梓湖畔を走りダムを横切ると国道に合流する。時刻は8時。長野から大勢の車が上高地目指してビュンビュン走っている。恐怖のトンネル地帯。よりによって最も交通量の多い時間帯に来てしまったが行くしかない。
ここで前方からランナーが一人。日曜0時に富山湾を出発して太平洋を目指している。そんな人たちが続々と通過していった。一人、また一人とランナーがやってくる。一言二言挨拶を交わし、時には握手をしてお互いの健闘を祈った。みんな似た者同士だ。ルートは違ってもこんなに仲間がいるなんて、なんだか勇気が湧いてくる。まだゴールしていないのに急に感極まって涙が止まらなかった。トンネルが暗くて、泣き顔が見えなくて助かった。さあ頑張ろう。上高地まであと15km. 少しだけ軽くなった足取りで僕は最後のロードを駆け抜けた。
上高地には10時に着いた。これでようやく舗装路はすべて終了。北アルプスに入ればあとは親不知まで山岳のみだ。小梨の食堂でカレーを…だからなんでカレーを頼んじゃうかなぁ。お腹いっぱいになったら行動食を補給し小梨の湯で最後のお風呂に入った。観光客に混じりながら横尾まで。のんびり森林浴を楽しみ早めにテントを張って梓川の湖畔でのほほんと過ごした。槍の途中まで登るには暑いし人が多いし、双六へ抜けるには時間が足りないので今日は横尾まで。休息日となった。横尾のテン場は混むかと思いきや空いていて快適だった。日が山の向こうに隠れてからものすごい夕立が降ってきたがクロスオーバードームは雨でも全く問題なかった。去年使っていたストックシェルターやツェルト2ロングだったら辛い思いをしていただろう。
■6日目 8/14(水) 晴れ→くもり
飛騨山脈初日。ここから先はノープラン。どこに泊まるかは考えていない。歩けるだけ歩いてイイ時間になったら最寄りのテン場に早めに入る。北アのテン場は南アに比べて密度が高い。16時以降に到着してはまともな場所に張れない。傾いていたりデコボコした場所では疲れが取れず翌日のパフォーマンスが落ちる。なので北アでの行動は15時までに切り上げることに決めている。ただし行動中はシャキシャキ歩く。疲れてヘロヘロ歩くのは気持ちよくないし危険である。行動と休息のメリハリをつける。これが今回の縦走を成功させるポイントだった。無理してプラス1~2時間歩くなら、さっさと休んで翌日1~2時間速く歩けばいい。
槍沢は登り一辺倒。昨日しっかり休んだので足はよく回る。西鎌尾根に入って樅沢岳の手前で朝が来た。槍に掛かっていた雲が溶けてゆく。表銀座の向こうから日が昇る。なんて美しい光景だろう。この度で一番感動した景色だった。心が震えて涙が止まらなかった。山に登らない人に"なぜ山に登るのか"と聞かれて答えに窮することがよくあるが、これだ。この心の震えを味わいたくて僕は山に登っているのだ。双六小屋は大盛況。トイレ待ちの行列がえらいことになっていた。三俣目指して今日は下道を歩いてみたがハイマツの下や滑る岩の上を歩かされて快適ではなかった。やはり双六は中道一択。双六でカレーを食べたかったが開店7時に対して現在6時。三俣でカレーを食べたかったが開店8時半に対して現在7時。うーん噛み合わない。仕方ないので大休憩は無しでパンをかじり先へ進む。素晴らしい天気はここまで。辺りはガスに包まれた。台風が近づいている。このペースなら烏帽子より先へは行けるが針ノ木は厳しい。今日の目的地は船窪小屋になりそうだ。
水晶を過ぎて野口五郎へ向かうと登山者は一気に減る。双六から100人入山したとして水晶から先に進むのは1人くらいなんじゃないか。静かな山域だった。野口五郎小屋は営業中に通過したのは初めて。小屋に入って少し休ませてもらった。ロケーションも小屋の雰囲気も良い。南アルプスの小屋みたいだ。いつか泊まりにこよう。烏帽子小屋で水を補給したら船窪小屋を目指す。ここで船窪小屋に電話して夕食を頼めるか聞いてみた。15時半に小屋に到着するようにと言われた。現在12時。烏帽子から船窪まで3時間半。CTアンダー50%という門限を課せられた。あの有名な船窪ディナーがかかっているのだ。やるしかないだろう。烏帽子小屋から船窪小屋までのことは必死過ぎて覚えていない。急な登りと急な下りしかない烏帽子-船窪間の難所を全速全開フルスロットルで駆け抜けた。ここまで横尾から相当飛ばしてきたので脚は疲れている。しかし人間は目の前に人参がぶら下がっていれば信じられない力が出るもので船窪小屋には予定通り15時半に着いた。この旅で一番キツい区間だった。テントを張ってコーラで一服したら夕食の時間。揚げたての天ぷらに鶏団子。そして白飯ビーフシチューはおかわり自由。もうお腹が破裂しそうなほどたらふく食べた。牛肉がゴロゴロ入っていて最高!確かに船窪小屋のディナーは素晴らしかった。皆さんも是非。烏帽子からの縦走はお勧めできない。七倉ダムから行きましょう。
テン場では単独の女性がストックシェルター を張っていた。今朝双六を出て船窪まで来たそうだ。ずっと僕の前を歩いていたということか。夏はシュラフカバーだけで寝るんだって。すごい。来年のTJAR出場を目指して練習中だという。こんなに強い女性は初めてみた。どうかお気をつけて、頑張ってください。色々と面白い話ができて楽しいディナーだった。ありがとうございました。
■7日目 8/15(木) 雨風強い
風ヤバ。船窪のテン場は尾根に守られているが、上の方の木々はゴウゴウ揺れている。台風は確実に近づいている。今晩の野営は無理だ。雨風が強まってきたら新越、種池、冷池のどれかに逃げ込もう。カッバを着込んで完全武装したらテントの外に飛び出してパパッと撤収。木陰でパンをかじって出発。雨風に耐えながら鎖やハシゴ混じりの岩尾根を登って下る。レンゲの大下り(登りだけど)をせっせと登って針ノ木小屋が見えたところでようやく明るくなりヘッドライトを消した。一休みしたら今日は冷池まで頑張る決意をして先へ進む。尾根の西側は風が強くてつらいが東側は無風。寒くはない。じゃぶじゃぶ雨に打たれるだけなのでだいぶマシだ。新越山荘、種池山荘と順調に歩みを進めて冷池山荘でフィニッシュ。今日は5~6人しか会わなかった。冷池山荘の宿泊客は僕だけ。かと思いきや16時頃に仲良し3人組の若者が転がり込んできた。みんな大学の山岳部。離れ離れの土地に就職したが年に数回は3人で集まって山に入るという。いいなぁ、ああいうの。楽しそうだなあ。小屋では随分時間があったので漫画版「神々のいただき」を全巻読んでしまった。冷池山荘の美味しい夕食と暖かい布団で今晩はぐっすり休めた。明日は台風が近づいている。丸一日小屋停滞か先へ進むか悩みながらウトウト眠りについた。
■8日目 8/16(金) 雨風強い
風で小屋の壁がガタガタ揺れている。木々は風で傾いて今にも折れそうだ。今日は停滞か。布団の中で休んでいた。しかし8時頃にいてもたってもいられなくなり出発した。この雨風で八峰キレットをを歩きたくはないが、これを越えないと先に進めない。慎重に行こう。岩は雨で滑る。ここまで300km以上走ってきたおかげで靴底がすり減ってグリップしない。かなり気をつけながら岩場を抜けて五竜山荘に到着した。五竜山荘はガラガラ。出来立てアツアツのチャーハンを食べて元気になった。今日は唐松まで頑張ろうか。風は強いが雨は止んだ。唐松山荘まで1時間歩いて今日は終了。不帰嶮は明日にしよう。風が強くてテントが張れないので今日も小屋泊。台風のおかげでいつも激混みの唐松山荘には20人くらいしかいなかった、布団は一人一つ当たった。枕が3つ置いてある。やばい時はこの布団に3人寝るらしい。マジか。夕食ではお腹いっぱいごはんを食べた。おかずが無くなったので醤油をかけてご飯を食べていたら見かねたご夫婦がおかずを分けてくれた。ありがとうございます、ありがとうございます。
■9日目 8/17(土) くもり→晴れ
明日親不知に抜けるためには今日は朝日小屋まで行かなければならない。もし昨日冷池で停滞していたら今日は冷池-朝日の15時間コースで厳しい一日になっていただろう。昨日頑張って唐松まで前進してよかった。今日は唐松から朝日まで9時間コース。もうウイニングランのようなものだ。前半の南アルプスで飛ばしに飛ばしてきた貯金がたっぷりある。台風はだいぶ遠くへ行ったがまだ風は強い。あたりはガスで真っ白け。不帰嶮に入ると明るくなるように4時半に唐松山荘を出た。岩は濡れているので今日も慎重にキレットを越えて天狗山荘には2時間で着いた。おやつを食べて一休みしたらもうこの先に危険なところはない。朝日小屋には食料が売っていないことは電話で確認済みなので白馬の売店で親不知までの食料を買い込んだ。パンが売っていないのでここから先の行動食はお菓子のみ。お菓子で行動するなんてお姫様みたいだ。白馬の小屋に営業中に寄ったのは初めてだった。レストランでホットケーキとコーヒーを注文した。優雅なひとときを過ごした。話には聞いていたが白馬の小屋は本当に下界と同じくらい立派だった。北アルプスに入ってから随分のんびりしている。前半とのギャップが激しすぎる。
白馬からガンガン標高を落とすとガスを抜けて視界良好。白馬-雪倉-朝日の区間はお花が多くて癒される。朝日小屋への水平道分岐で朝日岳山頂から降りてきた女性ランナーに話しかけられた。なんと、先週南アルプスの小河内避難小屋で色々と食べ物を恵んでくれた女性じゃないか。小河内小屋で会ったときと随分印象が違うので全く気付かなかった。こんな偶然、あるんだな。どこまで行くのか聞くと「上高地まで」と言っていた。サラッと言っていたがここから上高地は3~4日はかかる。あなたもチャレンジャーだったのですね。これを書いているときは双六あたりまで来ているだろうか。頑張ってください。
昼過ぎに朝日小屋に到着し受付を済ませてテン場へ向かうと小川温泉から登ってきた岩さんと再会した。一週間ぶりですな。テントを張ったら暗くなるまで外で昼寝したりお喋りしたりのんびり過ごした。楽しい…これは念願のユルテン泊じゃないか。あとは温かいコーヒーと「夕焼けを見ていられる時間の余裕」があれば最高なのだが。明日でこの旅が終わってしまう。既に寝袋の中では「月曜日に出勤したらあれとこれとそれをやらないとなあ」などと考えていた。
■10日目 8/18(日) 晴れ
今日が最終日。静岡駅を出発したのがつい昨日のようだ。今日は朝日小屋から海抜0mの親不知まで2,100m下り日本海へ。予想行動時間は11時間。明日は仕事なので今日中に伊賀の自宅まで帰る必要がある。そのためには20時に京都に着かねばならず、そのためには17時に金沢駅発のサンダーバードに乗らなければならず、そのためには14時には親不知に着いていたい。ということで朝日小屋を出たのは気合の深夜1時。最終日も甘くはない。家に帰るまでが登山だ。真っ暗闇の黒岩平を駆け抜ける。夜の池塘は月を反射して美しい。出発して3~4時間。サワガニ山で朝を迎えた。今日も素晴らしい天気だが天気が良すぎると暑さが心配だ。なにせ日本海側の海抜0mへ近づいてゆくのである。暑くないわけがない。栂海新道はハードな縦走路なのにとてもよく整備されていて歩きやすい。順調に高度を下げてゆく。途中いくつもの登り返しがあるが昨日は全然登っていないので脚は満タンに近い。どうってことない。標高1,000mより下まで降りてくると暑い。日向に出ると地獄だがブナの木々に守られていて尾根の9割は日陰だった。尾根の西側に道がついていることも多い。よく考えられた登山道だ。ありがたい。
予定通り朝日小屋を出て11時間。ついに親不知の登山口に着いた。80mの急な階段を下りて海に出た。もうちょい砂浜の海水浴場的なところをイメージしていたが岩ごろんごろんの殺風景な場所だ。白波を背景に記念撮影。涙の一つでも出るかと思ったが沢渡と樅沢岳で涙は出尽くしたのでもう出ない。早く風呂入って吉野家の牛丼を食いてえなあ…くらいしか考えられなかった。岩さんのクルマに乗せてもらい泊のスーパー銭湯で汗を流したら金沢駅まで送ってもらった。岩さん、遠くから応援に来てくれてありがとう。地蔵尾根の下りと栂海新道は話し相手になってくれたおかげで独りで歩くよりとても楽しかったです。スカスカの特急サンダーバード自由席に乗って京都まで2時間。京都から公共交通機関を駆使して伊賀に22時帰宅。ウェアを洗剤に漬け置きして10日ぶりの自宅のベッドでぐっすり。翌朝は元気に出勤した。
無事親不知まで辿りつくことができて嬉しい。何が嬉しいって、もしも今回途中で断念したら来年もまた静岡-畑薙ロード80kmを走らなければならないところだった。もうロード80kmを走らなくていいんだ。これが一番嬉しい。もしまたアルプスを思いっきり歩くことになったら電車とバスを駆使してユルくやりたい。
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ここからは僕がこの縦走をやるために考えたことを書くので参考になれば。
■行動計画について
「山は標準CTの60%, ロードは5km/h. 1日15時間行動して9時間休む。」
これを守れば9日間で余裕を持って完走できる。台風が来ることを考慮して予備日を1日用意して10日間たっぷり使った。7月は何度もアルプスに通って地力を上げつつ自分の力を測った。自分の力を知るというのは重要だ。今の僕は調子が良い時はCT50%, 調子が悪くてもCT60%は割らない。なので計画は調子が悪いときの60%で組み「貯金」を作りながら進む計画を立てた。これからも山を縦走するときはこういう計画の立て方をするだろう。「あとXX時間余裕があるから小屋でゆっくりカレーを食べて昼寝できるな」という余裕を常に持つことで結果的に50~55%で目的地に着く。貯金を溜めていくのは楽しい。50-55%で計画を立てても行けないことはないが常に時間に追われている気がして楽しくない。焦りは事故にも繋がる。余裕を持った登山計画を。山登りの基本だ。
■装備について
「クロスオーバードームとモンベル800FP#5」
幕営具はストックシェルターとツェルト2ロングなど色々試したがクロスオーバードームに落ち着いた。設営が簡単で雨に強く居住性は素晴らしく良い。猛者達は2,500m超えの稜線でもシュラフカバーで寝る。僕は「寒くて眠れなかったどうしよう」という心配を排除するためにシュラフは持つ。おかげで寝ている間に寒いと感じることは一度も無かった。クロスオーバードームとシュラフで1.2kgくらいになる。このくらいの重量増が歩く速度にどのくらい影響するかはよくわかっていない。しかしこれらの装備を担いでも最低ラインのCT60%を割らないこと、ぐっすり快適に眠ることで翌日も高いパフォーマンスを維持して気持ちよく歩けることを確認したのでこれらの装備を採用した。幕営具が快適だと幕営が、寝るのが、テン場に着くのが楽しみになる。
まとめると「どうすれば毎日楽しく気持ち良く歩けるか」ということを一番に考えて装備を選定した。快適さを削って装備を軽くして速度を上げるアプローチはどこかで破綻する。快適な装備を担いでも速度が落ちないようにトレーニングをするしかない。おかげで毎日楽しく山を歩くことができて本当によかった。後遺症も特に無く翌週からも元気に山へ行っている。やっぱり山は楽しくないと。
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