ユルタフ‼️秘境周回たまに髭 (折立から右回り)


- GPS
- 71:51
- 距離
- 57.3km
- 登り
- 4,630m
- 下り
- 4,616m
コースタイム
- 山行
- 7:41
- 休憩
- 1:14
- 合計
- 8:55
- 山行
- 8:07
- 休憩
- 1:46
- 合計
- 9:53
- 山行
- 10:10
- 休憩
- 2:27
- 合計
- 12:37
天候 | 晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2021年10月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
|
コース状況/ 危険箇所等 |
水晶岳近辺以外は特に危険個所ないが、歩きごたえあり |
感想
1.きっかけ
先日、北アルプス南部で震度4の地震発生時に、渦中でビバークしているという大失態を犯した。死ぬほど恐怖し、しばらくは「滑落」や「遭難」などとは無縁のユル登山にしようと思うに至った。
登山を始める少し前から登山雑誌を読み始めたのだが、その時期に読んだPEAKSに「テント泊に必要なモノとコト」と題して「雲ノ平」が特集されていた。「日本最後の秘境」というキャッチフレーズが妙に頭にこびりついた。それ以降、常にうっすらと「いつか行けたらいいなあ。」という存在として気になっていた。しかし、実際登山を始めると、住んでいる地域にもよるのだが、北アルプスの槍ヶ岳を北に超えると途端に敷居が上がる。黒部五郎岳とか水晶岳とか言われるとかなり遠い存在に感じる。なぜだか、正に秘境感が出てくるのだ。
ただ一方で、秘境感はあるものの、滑落感はない。ちょっと背伸びして行ってみるかなと思い始めた。YAMAPで雲ノ平と検索すると、新穂高から行くパターンと「折立」から行くパターンに二分される。今回、滑落リスクがないことプラス「ゆったりと秘境を味わう」も自分のテーマだったので、早歩きはしたくない。と同時にどうせ秘境に行くならその辺りの山はできるだけ多くピークを踏みたい。という観点からすると、折立からが最適なように思えた。ただ、折立のネックは有峰(ありみね)林道を通らないと行けず、その有峰林道は朝6時から夜8時の間しか通れないということ。そもそも有峰林道なんて知らなかったし、小見線、東谷線など色々あってよく分からない。そこでいつものごとく電話で「ありみネット」の問い合わせ先に電話をした。
Ttm:「あのー、ゆうほう林道っていうのはラインが3つくらいあってよく分からないのですが、折立に行くにはどれがいいんですか?」
ありみネット:「あ、ありみね林道ですね。どちらからお越しですか?」
Ttm:「松本インターから行こうとしているのですが。」
ありみネット:「そうすると東谷連絡所からの東谷線ですね。」
Ttm:「でも、グーグルマップで検索すると『かめや』からの『こみ』線が出てくるんですが?」
ありみネット:「『小見(おみ)線ですね、あと『かめがい』と読みますが、その場合は北陸道からになりますね、普通は。」
Ttm:「あー、そうなんですね。」
ありみネット:「あ、でも、折立までは亀谷からのほうが30分ほど早く着くので、折立に一番早く着くのは亀谷からですね。」
なるほど、でもこれ、亀谷まで行くのがえらい遠いな。しかも、林道が6時にならないと通れないとすると、早くても登山スタートは7時過ぎになるなあ。。
とさらに、YAMAPを検索していると、救世主となる登山口が存在することを知った。「飛越トンネル」登山口だ。ここは、台数は少なそうだが無料駐車場があり、家からも近く、かつ林道通行料(有峰林道は1900円で、行きだけ徴収される。)もかからない。これやん絶対。ただ、レコを複数読むと、かなり「ぬかるみ」がひどいらしい。まあ、でも端っこの方通ればええんちゃうのん?と思っていたが、レコからはそういうレベルではないような雰囲気がひしひし伝わってくる。でもここから5時スタートできれば、初日に黒部五郎小舎、二日目に雲ノ平キャンプ場、3日目に飛越に戻るというプランが成立する。で、まずはそれぞれの小屋に電話をして情報収集に乗り出した。便利なことに、10月号の「山と渓谷」に北アルプスの全山小屋の最終営業日と連絡先が載っていた。
まずは黒部五郎小舎に電話してみた。営業は9月30日までと知っていたのだが、テントを張ってもいいかどうかを確認したかった。すると、テントを張るのはOKと言ってくださった。山と高原地図に「水」マークが小舎の近くにあったので、「水場は近くにありますか?」と念のために聞くと、「小屋が管理している水場は使えませんが、近くには沢が流れてますから。飲むかどうかはその人次第ですが。ハハハ。」と言われる。まあ、ソーヤーミニ持っていけばOKだろう。
雲ノ平小屋に電話を掛けた後、薬師沢小屋に電話した。というのも、山と高原地図を見ると薬師沢小屋の辺りから黒部五郎岳側の中俣乗越にの間に赤木沢というのがあって、「沢登りルートとして有名。一般登者向きではない」と書かれてあったからだ。一般登山者向きではないっていうことは、裏を返せば道があって通れるということかな?ここをショートカットできれば雲ノ平からの帰りに大回りしなくて済む。実際に赤木沢は通れるものかを聞くと、どうやら山と渓谷に載っていた番号は連絡所の番号で、電話に出た人は道のことは分らないらしい。小屋に直接繋がる電話ないらしく、太郎平小屋に掛けてくれという。太郎平小屋がどうやらこの辺りの親分のようだ。
すぐさま太郎平小屋に電話してみると、小屋主のような声色の男性が出た。赤木沢のことを聞くと、「通れません。」と、きっぱりと即答される。このきっぱり感に僕は弱い。しかも、ありがたいことに、どういうルートを考えているのを聞いてくれた。
Ttm:「まずは、『とびこし』新道から黒部五郎小舎まで行こうと思います。」
多分小屋主:「『飛越(ひえつ)』新道ですね。結構きついですよ、それは。で、その次は?」
Ttm:「そこから雲ノ平まで行こうと思います。水晶岳に寄り道しながら。」
多分小屋主:「まあそれは、わりかし楽ですよ。でも水晶岳まで行けるかどうかだね。で、そこから?」
Ttm:「で、そこから飛越の登山口まで戻ります。」
多分小屋主:「それは着かないな。。太郎平小屋から北ノ俣岳への登り返しがかなりキツイですよ。まあ、太郎平小屋でもう1泊ですね。」
Ttm:「やっぱり無理ですか。。。まあ、それで赤木沢のことをお聞きしたんですが。あ、それと、飛越新道ではなくて、折立からの方がいいですか?」
多分小屋主:「まあ、普通は折立からだね。」
この「多分小屋主」の声のトーンには従わざるを得ない妙な説得力があった。やはり3泊4日しないと、外せない「雲ノ平」キャンプ場泊と、秘境オールスターズ登頂は実現できないな。飛越はぬかるみリアルに危なそうだし、「多分小屋主」もああ言ってたから、折立スタートにした方が無難だな。なんと言ってもそもそも今回は優雅に歩きたい。しかし、この場合、できるだけ早く登山を開始するには、亀谷連絡所からの小見線になる。折立スタートとなると、ルートも逆回りで、初日が雲ノ平キャンプ場だな。次の日が黒部五郎小舎で「ほぼ」野営。3日目に、黒部五郎岳を登って折立まで下りれなくもなさそうが、どうせなら、薬師峠キャンプ場(太郎平小屋のキャンプサイト)でもう一泊して、薬師岳にも登ってみよう。(どうも「多分小屋主」から、うちでテント張ってけよと無言の圧を受けたように感じた。。)
最後に黒部五郎小舎から一番近い三俣山荘に電話した。小屋で軽食を食べられる場合はそうしてできるだけ荷物を減らしたかったので、軽食の時間を確認するためだ。すると「8:30から15:30までご提供しています。」という。これはありがたい。昼飯はここで食べられる。当然水も調達できるとのこと。(三俣の湧き水というのが無料で利用できた😃)
最後は、今回の登山道の唯一のリスク「熊」対策だ。飛越トンネル登山口から行った人が「熊リスク」に言及していたし、山と高原地図の折立キャンプ場のところにも「熊出没注意」とある。おまけに高橋庄太郎氏の「北アルプス テントを背中に山の旅へ」でも黒部五郎岳山頂付近からカール内に熊を見たとある。。。
もし、黒部五郎小舎でテン泊するのが自分だけで、熊に襲われたらやばいな、と三俣山荘の人に聞いてみると、「まあ、熊の生息地に登山道作ってますからね〜」と恐怖心をあおる。
急いで、アマゾンでドイツ製のリキッド状の熊よけ「ペッパーマン」を購入した。練習用キットがついているのは売り切れだったので、ぶっつけ本番だ。
2.いざ折立へ
折立スタートのネックは異常な遠さだ。秘境だから仕方がないが、自宅から6時間半かかりそうだった。これはジムニーだと死ぬな。。安定のマイカーで行こう。また、最近よく帰りに渋滞にはまるので、ミッションリスクも怖かった。予想外に会社を早く出られず、自宅に着くと午後8時なっていた。亀谷連絡所までだと5時間半だと見積もり、6時ちょうどに有峰林道ゲートに到着するには自宅を午前0時半に出なければならない。。。「12時起きか…。どんどんスタート早くなるな。」3時間弱の仮眠を何とかとり、予定通り自宅を出た。安定のマイカーは燃料タンクが80Lなので残80%と表示されていたが、満タンにはせずにそのまま高速に入った。
今日はGoogle先生がおかしい。長考を繰り返し「より早いルートが見つかりました!」と頻繁にルートを変更する。車のナビにもそれっぽい住所(正確な亀谷連絡所の住所は登録がなかった。)を入れているも、いつもそれでとんでもない所に案内され、おおやられすることが多いのでGoogle先生を当てにしてただけに、かなり不安になる。で、とりあえず、ずーっとGoogleを無視して車のナビ通り行っていたのだが、最後にとうとうGoogleのいうことを聞いた。なぜだか松本ではなく塩尻で降りろと言う。そこからは車のナビよりGoogle主体で行ったのだが、なぜかGoogleが中部縦貫自動車道の中ノ湯ICから乗るのではなく、下道のぐにゃぐにゃ道を行けという。車のナビは高速を指示していたが無視してしまった。帰りは、「自宅に帰る」コマンドでどこからでも最適な道で帰れるので、この中部縦貫自動車道を使うのが正解だと後から分かったが、行きの段階ではわからなかった。(やはり、道路地図も頭にいれておくべきだという当たり前のことを痛感した。)
とんでもない山坂道を延々走らされた。途中、あかんだな駐車場待ちのものすごい車の行列を見て驚く。やっと普通の道に抜けたところ(平湯IC出た辺りか。。)で道の駅「奥飛騨温泉郷上宝」が目に入り、まだ一度も休憩をしておらず限界だったので、急ハンドルで駐車場に入った。自宅を出てから4時間も経っていた。
小休憩の後も延々と運転が続く。富山県に入り、富山県としては普通なのか、道路に鎮座したおさるさんを対向車線に大きくはみ出してかわし、亀谷連絡所に続く山坂道に入った時にはガソリンの残量が35%になっていた。やばいな。道中にガソリン入れようとも思ったが、富山市内のスタンドはまだオープンしていなかった。
午前6時10分にゲートまで500mの辺りまで来たが、その辺りまで渋滞の列が伸びていた。やはり現金払いなので仕方なしか。15分くらい待って自分の番に来て、料金所のおじさんが有峰林道のパンフレットを持って、ブースから降りて来てくれた。親切にも、「林道は工事もしていて道がよくないところがあり、あなたの車は車高が低いからくれぐれもゆっくり。」とジェスチャー付で忠告してくれた。
(帰りは小見線ではなく、ナビに導かれるまま東谷線で帰った。帰りもお金を払うもんだと思っていたので、ゲートでスローダウンして止まると、また、このおじさんだった😆僕のことを覚えていてくれて、「おー今山から降りてきたのか?」と挨拶してくれた。)
実際には道中の工事の影響はほぼなかったが、もう駐車場間際になった辺りから頻繁に出てくる川にかかっている橋と道路とのつなぎ目
の段差が気になった。その部分は、確かにそこそこゆっくり行かないと、車高が低い車は危険かもしれない。
3. 親分、太郎平小屋へ
駐車場に入ると、午前7時になっていた。車がびっしりで、なんとか入口近辺に空きスペースを見つけ、車を滑り込ませた。ガソリンの残は30%になっていて、かなり不安が募っていた。「まあ、いま考えてもしゃーない。取り敢えず帰りまで忘れよう。」(ちなみに、これには帰りの道中も暫く焦らされることになる。やっと出てきたガススタはハイオクは置いてなく、次に出て来たところは本日定休日。結局平湯IC手前のガススタでやっと入れることができた時には残は15%になっていた。秘境に行く時は必ず満タンスタートをお勧めする。)
車を降りて、左の若者グループに話しかけた。Ttm:「いやー、ここホントに遠いですね?」
若者:「遠いですよね☺️」
Ttm:「どちらからですか?」
若者:「富山市内からです🎵」
Ttm:「近いじゃないですか‼️ええなあ。」
失礼ながらここまで富山県民を羨ましいと思ったことは一度もなかった。
自分なりにてきぱき準備をして、でも、ストックを忘れて登山口から車に戻ったりしてもたつき、午前7時40分になんとかスタート。「えらい遅いスタートやな…。雲ノ平着くんかな😓」
薬師岳登山口と書かれた大きな柱の左を通り、よくわからない13重の塔をすぐ通過する。そこから、帰りも気付かなかった「あられちゃん」ポイントを知らずに通り過ぎ、どんどんみんなを抜きながら3角点ベンチまで到達。ハイドレーションなので、毎回あまりザックは降ろさない。ここも、休まずスルーしスタートから3時間強で太郎平小屋が見えてきた。今回の登山中ずーっと思っていたのだが、薬師岳ってかなり雄大で存在感がある。やはり、100名山だけのことはあるのか。
太郎平小屋はしっかり携帯の電波が入る。この先は、雲ノ平を少し過ぎるまで、雲ノ平山荘ですら入らない。ここで、家族にそう伝えておくべきだった。軽食は11時からで、まだ10分時間があったので、まずビール(モルツ)を小屋の受付で買う。冷蔵庫に入っていてキンキンに冷えているのが嬉しい。値段は恐らく北アルプス南部の100円増しの秘境プライスで、350mlで700円、500mlで900円。ビールを堪能しながら薬師岳や何の山か定かではない素晴らしい山並みを見ながら時間を潰す。数分前から、オーダーする窓の前に女性が並んでいたので僕も後ろに並び、雑談しながら待つ。
Ttm:「何時に出ました?」
女性:「有峰林道開いてからスタートだから7時半くらいかな?」
Ttm:「あ、じゃあだいたい同じですね。」同じルートみたいだったので、
Ttm:「雲ノ平辿り着きますかね?」
女性:「まあ、5時までには着くでしょう?」
名物のネパールカレーを注文し、(3日目に戻って来た時には11時50分の時点で売り切れだった。)ビールとカレーを薬師岳をバックにのんびり楽しんだ。十分休憩し、11時半前に太郎平小屋を後にした。
4.薬師沢小屋から雲ノ平、秘境の始まり
ここから、薬師沢小屋までは秘境感が一気に増す。立ち止まってばかりで全然進まない。後から撮った写真を見ても何がよかったのかわからない写真ばかりだったのだが、結局肉眼で感じた景色を写真で再現するのは不可能ということか。しかも、薬師沢小屋の直前まで不思議と誰にも会わなかった。どうしてだったんだろう?
思ったよりも時間がかかって薬師沢小屋に到着した。ここは、キンキンに冷えた水が楽しめるとどこかに書いていたが、小屋の入口に石の水槽がありそこに蛇口からなみなみと水が流れ出ている。その水槽にはやはりMALT'Sが冷やされていた。ザックを下ろし、コップを出して美味しくキンキンに冷えた水を2杯も頂いた。
休憩もそこそこに雲ノ平へと出発する。目の前に吊り橋があり、そこを行くに違いないのだが、道標は見当たらない。一応コンパスを合わせると、確かにそこを渡るようだ。で、手前の石段を登り、吊り橋の端に立つとビックリした。これ、足元スースーやな。ちょっと今までの吊り橋で一番恐怖かも。僕はウマノセよりもこういう方が高所恐怖症が出る。下を見ないように手すりのロープを掴んで、ソロリソロリと歩を進める。やっと渡りきり、フーッと安堵のため息。と、安心したのも束の間、今度は凄い崖のようなところを長い垂直鉄階段で下ろされる。慎重に降りきると、上から見たよりも、よりはっきりと沢が凄く澄んでキレイなことが分かる。そこから、ルートが増水時と平水時で別れ、平水時のルートを下る。その先を少し登り返したところに「薬師沢小屋水源、立ち入り禁止」という看板があり、ロープが張られていた。
地形図を見れば明らかだったのだろうが、ここからの大岩の登りがそれなりにキツイ。上からたまにくる登山者は悠々と下りているが、こっちは、「いつまで登らすねん?」といった感じ。気持ち、大門沢小屋から下降点までを彷彿とさせる。そんな中、きれいな熊鈴が聞こえ始めた。結構頑張ってるから、先に登ってる登山者に追いついてきたかな?と最初は思ったが、どうも僕が追い付かれているらしい。そうか、俺ちょっとちんたらペースなのか…と思っていると、ついに後ろからいかにも速そうな青年が現れた。
何故だか、彼にすぐ先を譲るタイミングを逸し、一緒に登っていく。「しかし、折立遠かったですよね?」と、相手がどこから来たかも確認しないで話すと、「そうですね。遠かったです。」と言う。「僕は神奈川からですけど、6時間半もかかりました。どちらからですか?」と聞くと、「香川からです。」「え⁉️」凄いな。「それ、車ですか?」「はい。」「一体何時間かかるんですか⁉️」「10時間くらいかかりましたね。」
「僕でもほぼ寝てないのに、全く寝てないんじゃないですか⁉️」「はい。」「朝、料金所渋滞ひどかったですね?」と言うと、「僕はゆうほう林道に4時過ぎに来たので、20台くらいでした。」という。「ありみね林道って読むらしいですよ、それ☺️」「そうなんですか⁉️」「僕もそう読んでました🎵」しかし、4時過ぎで20台かいな…。そりゃあ、6時10分の俺は全然アカンはずや。しかも驚いたことに、かなり先頭のスタートだったとは思うものの、もう薬師岳に登って来たという…。元々横浜にいて、転勤で香川県勤務になったらしく、横浜にいたときにはあまり登山はしておらず、後悔しているとのこと。やはり登山は圧倒的に関東が恵まれているという。今回も1泊2日という超タイトスケジュールで、ここから雲ノ平山荘に泊まって、翌日水晶岳に登り、折立まで戻るという。年齢はまだまだ30に届いていないと言っていたので、こちらとは体力が全然違うのだろうが、徹夜で10時間運転してきた後のスケジュールとは思えない😓。「ちょっとペース違うと思うんで、先どうぞ」とやっと前を譲り、話をしながら凄いペースに付いていくも、まだ登山は僕と同じく初級者のようで「あれ、こっちじゃないですね。」と立ち止まる。こちらもついて行くのが精一杯で全く道は見ていない。彼もYAMAPを取り出して見ているが、こういうミクロな迷いにはGPSはあまり役に立たない。僕はコンパスを合わせていたので、「こっちですね。」と誘導したのをきっかけにまたも前後を交代してしまった。その後も聞き上手の彼の才能か話がなかなかに弾み、ずっと話しているので息を切らしながらも、彼に突き上げられるように凄いハイペースで登って行く。あっという間に、先行の登山者を追い抜き雲ノ平の木道のところまでやってきた。実はかなり時間が押していて、雲ノ平キャンプ場に着くのは5時くらいになるかもと覚悟していただけに、本当に助かった。
木道に出て、視界が広がって来た頃から雲行きが怪しくなる。黒部五郎岳の辺りで雷鳴が轟き始めた。「やばい、これ…」萩原編集長危機一髪を読んで登山における落雷の恐ろしさを知っていたので、リアルに恐怖する。空も、一面雲というわけではないものの、いつ降りだしてもおかしくない雰囲気に。風も強くなりかなり肌寒い。彼は、雲ノ平山荘泊まりだが、こっちはテン泊で逃げ場がない。とにもかくにも、急いで山荘で受付をして、テン場に寝床を確保しないと大雨になったら寒さでやられる。
二人で引き続きかなり早足で歩き、駆け込むように4時過ぎに山荘に到着した。彼とは入口で別れ、こちらはテン場の受付のために書類に記入していく。「なんか雷鳴り始めましたね?怖いですね?」と受付の何故か凄い関西弁のお姉さんに話しかけても、たんたんと「危ないですよね。」と何の安心させる言葉もかけてくれない。記入を終え、ビールを買って、軽く水場?トイレの説明等を受け、急いで山荘を出た。
テン場までは約25分の道のりだか、半分くらい来たところで、もう危ないと思い、ザックを下ろしてレインウェアの上下を着こんだ。かなり寒いので、防寒の意味もあった。さらに、しばらく木道を歩いて右に曲がると、眼下に色とりどりのテントが見えてきた。やっと着いた。このテント場自体には意外にも秘境感があまりない。多分、寒さと雷鳴で気分がかなり落ち込んで、いつもの黄昏ブルーになっていたせいかもしれない。
午後4時半過ぎに祖父岳が目の前にそびえるテント場に下り立ち、場所を物色する。水場の位置を先行者に聞いて確認し、トイレと水場の位置関係からここかなというできるだけフラットそうな場所にザックをおろした。さあ、張っていこうというときについにパラパラ降り始めてきた。手がかじかむので手袋をはめ、必死に張っていく。ステラリッジは張るのも簡単なので、あまり濡れることなく設営完了し、急いでザックをテントの中に放り込んだ。いやー、危なかった…。あの青年が突き上げてくれなかったら、もっと雨に濡れてたかもしれない。「やはり、またソロなのに助けてもらったな。」と、感謝したがら、さっさと食事を済ませ、疲れた身体を休めた。
5.2日目スタート。水晶岳に寄り道し、鷲羽岳へ。
3時にセットした目覚ましで目が覚めた。雲ノ平は全く電波が入らないので、ガーミンの振動アラームの時間変更すらできず、スマホのバイブを利用した。昨晩寝る時にかなり寒くなりそうだったので、上はアルパインダウンパーカ、下は中厚手の登山パンツの上にレインウェアを履きっぱなしでシュラフに潜り込んだが、これが正解だった。シームレスダウンハガー 900FP#3で全く寒さを感じず快適に寝ることができた。が、インナーテントのチャックを開けると、見事にレインフライの内側が凍りついていた。テント内が2、3度だったので、外気温はもしかしたらギリギリ氷点下だったかもしれない。やはり、秋のテン泊はこれだから恐ろしい。太郎平小屋辺りでは中厚手のズボンを履いて来たのを後悔していたのに…。
テント内もかなりの寒さなので、ジェットボイルでさっとお湯を沸かしコーンスープを飲んであったまる。行きに買ったクリームパンを何個かつまみ、外に出た。空を見上げると、期待していた通り、月もなくまたもや満天の星空が広がっている。これって暗闇の中テントを撤収するご褒美だな、としばらく飽きるまで星空を見つめた後、まずはレインフライを片付けていく。レインフライは外側も全面びっしり凍りついていて、それを雑巾で擦りながら剥がしていく。なかなかに骨の折れる作業だが、ある程度剥がしておかないと、日中ザックの中で溶けて水浸しになる。かじかむ手を暖めながらインナーテントに引っかけるフックを合わせて畳んでいく。次に、サーマレストのネオエアーXライトレギュラーワイドのバルブのウィングをひねり空気を抜く。なんか朝起きると少し空気が抜けているのは普通なのか?少し不安になる。細々した片付けも済ませた頃、ラッキーなことにずっと行かねばと思っていた場所にいざなわれる。ちなみに、山でのトイレといえば、自分で紙を用意したり、使用済みの紙を自分で持ち帰ったりと、一般人にはなかなか精神的なハードルが高いが、今回は意外にそこまでは要求されなかった。雲ノ平キャンプ場ですら、トイレットペーパーは備え付けで、ペーパーだけは流してもオッケーだった。ただ、決して綺麗とは言えず、終わった後に自分で鉄の棒でお茶を濁さないといけない。まあ、行ってからのお楽しみである。
やるべきことを全部終え、お腹がスッキリしているおかげで、いつもにも増してポジティブな気持ちでキャンプ場を出発した。今日は水晶岳まで髭を伸ばしながら黒部五郎小舎までの道のりだ。まずは、祖父岳山頂を目指す。雲ノ平キャンプ場を出るとすぐに「スイス庭園」の道標があり何とはなしに寄り道してみる。すると、スイス庭園の奥から若者が小走りでこちらに向かって来た。「その奥がスイス庭園ですか?」と聞くと「はい、そうですよ。ちょっと僕がカメラ置いちゃってますが…」と言いながら何かを取りにテントサイトまで戻る様子。そのまま奥に進んでいくと、ピンクとブルーのグラデーションに壮大な山並みが広がっている。これは凄いな。テント場の雰囲気は少し期待外れだったが、これは当たりやわ?としばらく見とれていると、先ほどの若者が帰ってきた。「ここ、凄いですね‼️」と話しかける。あの立派な山は何て名前ですか?と、目の前の滑らかな山を指差して聞くと、「あれは赤牛岳ですね。」と教えてくれる。あれが赤牛岳かー。なんかみんなのレコで結構苦労して行ってるのが多かった印象があるなあ。「あと、その手前のシャープな山はなんですか?」「それは水晶岳ですね。実は、昨日折立から急いで雲ノ平にテント張って、行ってきたんですよ、水晶岳。」「え⁉️凄いスピードですね。何時に雲ノ平着いたんですか?」「2時くらいですね。もう、折立から凄い急ぎました。でも、正直、水晶岳遠すぎてやり過ぎました😃」しかし、薬師岳に登頂してから来た彼といい、雲ノ平に来てから水晶岳に行ってしまうこの若者といい、山好きは恐ろしいな😅。「あと、鷲羽岳ってのはどれですか?」「今は祖父岳に隠れて見えないですけど、祖父岳山頂から格好いい姿が見えますよ?」「僕はどうもなかなか地図見てもどれがどの山だかわからなくて…」というと、「登山を始めて4年目ですけど去年までは僕もわからなかったんです。でも有料ですがGPSで山を狙うと山座同定してくれるアプリがあって、それを使って色々見ているうちに段々わかってきました。」と教えてくれる。15分弱絶景を楽しんだ後、若者と別れ祖父岳山頂を目指して出発した。
下調べをしている時に、誰かが祖父岳からの絶景がこのコースの一番のおすすめと言っていたので、楽しみに登っていく。それなりに左側が切れ落ちた道をトラバース気味に登っていくと、ケルンのある山頂が見えてきた。時間的には比較的すぐだったが、体力的にはなかなかハード登りだった。おー、確かにこれエエわ〜? 水晶岳ドーン。槍ヶ岳ドーン。鷲羽岳ドーン。鷲羽岳はどっしりとしとるな〜。あのとんがりコーン何なんだろう?槍ヶ岳みたいに少し尖ってる山が槍ヶ岳の右手に見える。(これは実は笠ヶ岳だったらしい。西穂高岳から見たのと全く違う山に見えるのは何故だろう⁉️) 「すごいよ、結構これ。。ここで朝飯食いたかったね、寒いやろうけど。」
祖父岳山頂を堪能し、水晶岳を目指してどんどん下って行く。左手には本当に雄大な薬師岳、前方奥には槍ヶ岳、手前の鷲羽岳を見つめながら。もちろん水晶岳は中央に常に存在感を放っている。途中で、かなりのハイペースの熊鈴に迫られ先を譲る。実はこの方には後々大変お世話になることになる。ほどなく岩苔乗越に到着。この辺りに、山と高原地図によると水場があるのだが見つけられなかった。僕は、水晶小屋でザックをデポする予定だったのだが、みんなはその大分手前の岩苔乗越からすぐの「ワリモ北分岐」というところでザックをデポするらしい。確かに、水晶岳に行った後に結局ここまで戻ってくることになる。僕も本当はここでデポしたかったが、水がハイドレーションなので、ソフトボトルに移し替えるのが面倒くさかった。やはり少しハイドレーションの量を減らし、いつでもデポできるように、スタート時にソフトボトルにも少しは水を取っておくべきだと反省する。でもまた経験値上がったかな。。すると先ほど道を譲った方がそこでザックをデポして登山靴の靴紐を締めなおしているのが見えてきた。デポできないので彼をスルーして先を行く。ただ彼はかなりのハイペースなのですぐに追いつかれ、しばらくお話させていただきながら水晶岳を目指すことに。登山歴は3年で地元の石川県の山ばかり登っていたのだが2週間前に薬師岳に1泊2日のテン泊で登ったという。聞いていくうちに、最後の薬師岳以外は全く僕と同じルートを行くことが分かった。黒部五郎小舎で一人になるリスクを少し恐れていたので、彼も行くと分かって少しほっとする。しばらく一緒に登った後、彼はザックをデポして軽荷なので先に行ってもらう。
何度見ても飽きない景色を、立ち止まり振り返り、楽しみながら歩いていくとやっと水晶小屋が見えてきた。スイス庭園で会った青年が言ってたようにかなり遠かった。小屋は営業終了していたが、小屋番達が小屋締めの作業をしていた。もしかしたらと水を調達できるか聞いてみたが無理な模様。ここからは手前に野口五郎岳がよく見える。(一般人の僕は野口五郎がまさかこの山からとられた名前だとは知りもしなった。。)「邪魔にならないところにデポしていいですか?」と小屋番に聞くと、「はい、どうぞ」と言ってもらう。三角点のような石柱が建っているところにザックをデポして、シーツーサミットのウルトラシルデイパックにもろもろ詰め、水なしで水晶岳を目指す。
水晶小屋のすぐ近くにあるでかいケルンのような岩場に立ち、すこしGoPro遊び。今回は滑落リスクが全くないと思っていたが、この水晶岳までの道はそれなりに危険な岩場だった。しかも、山と高原地図にCT30分とあるが、かなり遠くに目指す水晶岳が見える。「ホンマに30分であんなところに着くんかいな。。?」槍ヶ岳をバックに、右手に野口五郎岳、左手前方に雄大な薬師岳を見ながら頑張って歩いていく。「ホンマこの折立周回ルートは贅沢やなあ。。」
やはり山と高原地図のいうように30分弱で水晶岳南峰に到着した。先ほどのハイペースのイシカワンも頂上にいた。なんか下から頂上に赤い目印あるなあと思っていたら、彼の登山ウェアだった。。かなり長いこといるんだなあ。頂上からはもちろん赤牛岳が目の前に。奥には立山と剱岳も小さいがよく見えた。三角点のある北峰に行こうか悩んだが、標高は南峰の方が高いし、北峰まではちょっと危険な道に見えたので、素直に水晶小屋に引き返し、ルートの先を急ぐことにした。
水晶小屋でデポしていたザックをピックアップする。そのザックの横に僕のウィンドブレーカーがぽつんと落ちていた。「あー!危ない。。。」さっきサブバックに荷物を入れるときに落ちてしまったのか。。「やはりザックの口は面倒でも一回一回すぐに閉める癖をつけなあかんなあ。」とまた反省ポイントを増やす。そこから来た道を引き返し、先ほどのワリモ北分岐を越え、鷲羽岳の稜線に入っていく。ほどなく、中途半端な位置に「ワリモ岳頂上」の黄色い山頂標識が建っているところに来た。「これ、、山頂には立てないのかなあ?」と思いよく上を見ると、初めの一歩だけ少し怖そうだが、そのあとは普通の道が山頂に続いているように見える。「まあ一応ピークを踏むか」とザックをそこにデポし、無事に山頂に立つ。なんで山頂標識あんなところに置いたんだろう。。全然普通に山頂まで行けるのに。。。
そこから比較的すぐ鷲羽岳に辿り着いた。山頂に座っていた同年代くらいの男性が元気に挨拶してくれる。その後ろに少し離れて座っていた女性にも挨拶する。またGoProを取り出し、鷲羽岳の立派な山頂標識を横に自撮りを楽しむ。二人は少し距離を置いて座っていたので、最初気付かなかったが夫婦の模様。話しかけるとすごい気さくな夫婦で、かつ、登山経験も豊富そうだ。今回は新穂高から入り、双六小屋にテントを張り、そこを拠点に水晶岳や鷲羽岳をめぐっているという。栃木県から来た夫婦で、「折立遠いですよね〜。」のお決まりの会話で盛り上がる。新穂高からがおすすめとはいうものの、確かに折立から周回すれば1泊少なく済むそうだ。奥さんが野口五郎岳が本当に眺望が最高でお勧めだと教えてくれた。次は行ってみよう。
6.三俣山荘から三俣蓮華岳
さあ、ここから鷲羽岳を降りていく。この下りがなかなかの急斜面でかつ最高の景色だった。左手に槍ヶ岳、右手にとにかくでかい黒部五郎岳を見ながら降りられる。登ってくる登山者はみんな相当辛そうにしていた。ある方は、今までの中で一番キツイとさえおっしゃっていた。この急斜面を下りきると、ハイマツの上に布団が大量に干されていた三俣山荘に到着する。
この三俣山荘はとても居心地がよかった。軽食を食べようと受付に尋ねると、外階段で2階に上がったところが食堂だという。お目当てのジビエ丼が売り切れだったので、仕方なくラーメン(1200円)を注文。350mlの一番搾りも700円でまた購入。水は一階の受付の前の無料の湧き水が利用できる。ただ、携帯の電波はソフトバンクしか入らない。テーブルの席に座ってラーメンができるのを待っていると、この食堂の入り口からなんとも素晴らしい槍ヶ岳が?入り口の外枠がまるで絵画の額縁のようになって、絵葉書のようにばっちり収まっているのに気が付いた。なんて贅沢な入り口なんや。。。思わず笑ってしまう。
本当はここでは水は調達せずに、サバイバルを楽しむために黒部五郎小舎近くで水を探しに行く予定だったが、そうはいっても最低限のリスクヘッジにと1Lだけ湧き水をソフトボトルに入れさせていただく。多分ハイドレーションにも相当残っているだろうから、もうサバイバルにはならないのだが、全くここで補給しない勇気はなかった。
小屋を出て、テン場を横切り、三俣蓮華岳を越えて、黒部五郎小舎を目指す。三俣蓮華岳を通らずに黒部五郎岳方面に行ける巻道もあるようだが、あえてピークを踏んでいくルートを選択した。おそらく今日が一番時間に余裕があるはずなので贅沢に時間を使っていく。どっしりとした鷲羽岳だけを背に、振り返り、振り返り登っていく。歩くにつれて、かるーく乗り越えていくイメージだった三俣蓮華岳が、意外にでかいことに気が付いた。「うわー!まさかあんなところまで登るんか。。。」と、どんな登山もイージーではないことを思い出す。ただ、かなりのお年寄りもゆっくりではあるが着実にこの急登を頑張っている。時間もそれなりだったので、このお年寄りはどこまで行くんだろうとと思い、「三俣蓮華岳の後はどちらに行かれるんですか?」と声をかけると、「双六岳に向かいます。」と、おっしゃる。地図を見ると確かに比較的にすぐだったので、なるほどと納得する。ただ、三俣山荘からは同じく三俣蓮華岳に登らずに巻道で双六小屋に行くルートもある中でこの方は頑張っている模様。
やっとの思いで、三俣蓮華岳の山頂に到達した。時間はほぼ午後2時になっていた。山頂からはとにかくデカイ黒部五郎岳がひときわ目立っている。この山頂で、70歳くらいのベテラン登山者の方と雑談。彼によれば、折立から一発で雲ノ平に行くのはそれなりにキツイ行程らしい。ザックも思ってもみなかったが「コンパクトだな」と言ってもらう。「黒部五郎小舎にこの後向かいます。」と言うと、もう一人の先ほどの方よりは少し若いベテラン登山者が、「小舎はもう閉まっているみたいですよ。」と親切にも声をかけてくれる。「あ、ありがとうございます。実は事前に電話してテントは張ってもいいと言ってもらっています。」「あ、そうでしたか。よかったです。」
7.黒部五郎小舎
結局時間もそれほど余裕がなくなってきていたので、早々に三俣蓮華岳を出発する。ここからはずーっと下りなものの、黒部五郎小舎が近づくにつれてさすがにゴローだけあってかなりのでかさの岩の急斜面が続く。慎重に一歩一歩降りていく。いつも下りは体力はあまり使わないが精神力がすり減ってしまう。去年のGWに浮き石でずっこけて寛骨臼骨折で緊急手術したのがトラウマになっている。下りで一番嬉しい瞬間は、眼下に赤茶色の山小屋の屋根が見える時だが、今回はなかなか見えない。道も意外に複雑で、ただ、意外な方向に曲がっていくところには非常に分かりやすい印があった。延々下って行くと、やっとちらっと小屋の屋根が見えた。そしてまたしばらく視界から消え、次に小屋が現れた時には、もう本当に小屋の目の前まで降りて来ていた。
小屋へと続く道を歩いていく。ここほんまに秘境感漂っている。少し背丈の高い枯れて濃い茶色になった花が先端に付いた高山植物が草原に広がっている。小屋の左側に回り込むと、小屋番たちが小屋締め作業中だった。「あのー、小屋はもう閉まっているのは知っているんですが、テントは張っていいと言われたので来たんですが。テントサイトはどの辺りなんでしょうか?」「あ、はい、皆さんが張っている辺りです。」と、誰も張っていない草原の辺りを指差して言う。どこやねん?「ちょっとどこか分からないのですが、どの辺なんですか?」と聞くと、丁度たまたま登山者が歩いて来たのでそちらを指差して「今、歩いている方がいる辺りまで行けば分かります。」と、どういうわけか少しつっけんどんな感じ。まあ、作業中の小屋番たちにとってみれば迷惑な存在だし、張らせてもらえるだけありがたいか、と言われた方向に歩いていく。すると、テントは全く見当たらなかったが、1区画が石で分かりやすく囲まれたテントサイトが現れた。「誰も張ってないやん?」と先を見ると、一段下がった所にももう一つサイトがあり、そこにテントが2張りあった。何でわざわざ下に張るんやろう?どう見ても上の方が便利そうなのに…。ただ、上の段には誰もいないし、草原の吹きさらしになるので、ついつい僕も下に降りて行く。下の段の一番手前に張っていた人がテントの中に見えたので、声をかける。「ここがテントサイトなんですね?」「はい、下の方が風がよけれそうだったので、ここにしました。」とおっしゃる。声をかけたときには印象が違って分からなかったが、この方がワリモ北分岐から暫く一緒に歩いたハイペース、イシカワンだった。彼は大岩の向かって右手に張っていて、反対側の左手に張ろうとするが、地面の傾斜がいまいち悪い。少し岩から離れ、イシカワンの視界に入ってしまうが、かなり平らな区画があったので、「せっかくの秘境感なのに、この視界に入る所に張ってもいいですか?どうもその岩の横は傾斜が悪くて。」「どうぞどうぞ。」テントサイトで本当に極めてフラットな区画を見つけるのはほぼ不可能で、結局ここも少し寝たときに左右に傾斜が出てしまう。まあ、かなり疲れているから問題なく寝れるだろうと、諦めて張っていく。
張り終わると、さあ、水は多分もう足りてるけど、水場を見つけに探検に行こう、と小屋の方へ歩いていく。小屋に着くと、先ほどとは違うかなり若い女性の小屋番が入口近辺で音楽をかけながら作業中。「あのー、地図を見ると小屋の先に水場のマークがあるんですが、どの辺りなんでしょうか?」聞くと、「あ、ちょっとお待ちください。」と、奥に行き仲間の小屋番に聞きに行っている気配。何か小屋番ってある意味登山のプロのように思っていたが、必ずしもそうではないのかな?とにかく印象としてはみんな凄い若い。するとその若い女性がヤカンを持って奥から戻ってきた。「よかったらお分けします。」おっと、そういうパターンか。ご厚意は非常にありがたいが、こっちは単純に探検がしたいのだが、まあ、仕方がない。「ありがとうございます‼️」と、すでに三俣山荘で調達した水が1L入っている2Lのmont-bellのソフトボトルを差し出す。前回、エバニューの3Lのソフトボトルの上部の開口部から水が漏れてシュラフがびしょ濡れになったので、すぐにmont-bellで新しく購入したものだ。それに、2Lを少し超えるまでなみなみとヤカンから水を継ぎ足してくれた。
ちょっと冒険の理由がなくなってしまったが、小屋の奥の方に、登山道を確認しにいく。ルートは稜線ルートとカールルートがあり、カールルートの入口が確認できた。水場のマークはその少し先についていたので、テン場からはかなりの距離がありそうだった。少しルートを歩き、また小屋の方に戻る。すると、同じくらいの世代の男性の小屋番の方がトイレから小屋の方に歩いている。次に来るときのために、テントサイトについて気になることを聞いてみた。「あのー、すみません。テントサイトって上下に2段ありますが、普段どちらが人気ありますか?」例えば景色も上段の方が薬師岳が眼前に広がり雄大さが上に感じていた。下のサイトからは笠ヶ岳がよく見える。すると、「上のサイトは水はけがいいですね。でも、下のサイトはより風がよけれます。」なるほど一長一短ということか。でも最後に僕の好きなキッパリアンサーが聞けた。「でも、皆さん上から張っていきますね☺️」やっぱりな。
もう設営完了していたので、誰も張っていない上の段のテントサイトを後悔しながら見つめつつ、自分のテントに戻ってきた。イシカワンに、「水、分けてもらっちゃいました。本当は自分で水場から水を汲むサバイバルしたかったんですが😅」と言うと、「そっちですか‼️」と、イシカワンは、少し関西弁が入ったツッコミができる。そういえば、富山出身の、学卒後すぐ就職した会社の同期が富山の辺りは実はイントネーションが関西弁に似てるって言ってたな。だから、僕と話しているとドンドン関西弁になっていくと…。そういえば、小屋番達もみんな親近感を感じるアクセントだった☺。この日も疲れていたので、リゾッタとスープの簡単な食事を済ませ、午後7時にはシュラフに潜り込んだ。
8.3日目スタート。秘境マックス、黒部五郎岳
午前2時にセットした携帯バイブで目を覚ました。初日、3時に起きたのではスタートが午前5時半になってしまったので、もう少し早く出発したかったからだ。初日ほどではないがかなり寒い。インナーテントの入口のジッパーを開けると、やはりレインフライの内側に霜がこびりついている。秋キャンプ恐るべしやな。しかし、また、レインウェアのパンツをズボンの上に履き、アルパインダウンパーカを着て寝たので、寒さを全く感じることなく眠ることができた。ただ、あまりにも普段と就寝、起床の時間が違うので夜中に一回は目が覚める。それでも昔に比べればかなり普通に寝れるようになるのだから慣れは恐ろしい。
朝御飯をゆっくり時間を使って済ませ、身体が暖まってきたので、外に出てみた。またもや満天の星空。流れ星も普通に何回も起こっている。「凄いな…地球まだまだ大丈夫ちゃう?」さあ、遅くとも5時には出たいので片付けていこう。まだ、同じサイトに張っている2張りにはヘッドライトの明かりは灯っていない。テン泊を始めた頃はヘッデンを点けて撤収するのが凄いストレスで少しでも明るくなるまで待っていたが、よくよく考えれば、片付け自体に全く危険要素がないことを考えると、登山自体をできるだけ太陽の光の下で行うには、片付けのヘッデンスタートは極めて合理的な行動だと感じるようになってきていた。片付けを始めて30分くらい経った3時頃、イシカワンのテントに火が灯り、行動を開始したようだった。みんなが寝ているなかで、片付けをするので静かにはやっていたが、どう考えてもみんなを起こしちゃうよね😅。イシカワンは、結構長い間テントの中でごそごそしていたが、僕がほぼ撤収を終える頃になって外に出てきてあっという間にテントを撤収していく、僕はいつも細々したものを先に片付けたいものの、結局テント、マット、レインフライ等をザックの一番下にいれたいので比較的早めにテントから出てしまう。どうやるのが一番効率的なのか未だに解を見つけられていない。
全てをザックに詰め終わり、ザックを担いでイシカワンの所に行くと、僕より一時間も遅く起きたはずなのに、もういつでも行ける態勢になっているように見える。時間は午前4時を少し回った頃だった。実は、カールをヘッデンで行くのがかなり恐ろしかった(本当に熊を恐れていた…)ので、イシカワンに、「もし、よかったら一緒に行きません?もう、行ける感じですか?」といい歳をして子供みたいな情けないことを言ってしまう。😅すると、彼も不安だったようで、「はい、もう行けます!」と快く同意して頂けた。しかし、ヘッデンを点けているのに、なんかやたらと暗い。マイルストーンのMS-H1というかなり明るいはずのヘッドライトなのに明らかにおかしい。もしかして…毎日充電するべきやったんか⁉️初日と2日目の2日間しか使っていないので、まだまだ大丈夫と全く充電していなかった。そこにイシカワンがヘッドライトを点灯させる。「なんじゃこの差は‼️」というほどの凄い明るさ。「めちゃくちゃ明るいですね?どこのですか⁉️」と聞くと「モンベルです。」なるほど…。モンベル一択主義からの脱却以降ちょこちょこ浮気していたが、さすがにモンベルやな。「昨日充電とかしたんですか?」と聞くと、「いや、これ電池です。」なるほど、結局はクラシックなのか、勝利するのは⁉️ 暫くほぼ10ルーメンほどの光の僕を先頭にイシカワンが400ルーメンほどの猛烈な光で背後から照らすというスタイルで進んでいたが、「多分僕の光暗すぎて危ないんで、前後交代しませんか?」と提案し、イシカワンを先頭に僕はひたすら着いていく。たまにイシカワンがロストすると、僕ももれなくロストする。僕のマイルストーンは電池も使えるハイブリッドで電池はザックにあったのだが、2人で行っているとなかなか自分のタイミングで止まれないし、まあ、イシカワンのライトで十分だった。しかし、またしても初歩的な大失敗に、まだまだ経験不足を実感する。
カール内の道は何回か前半に沢の渡渉があり、そこが多分、山と高原地図の水場のマークの地点なのだが、クリアに水が調達できそうな雰囲気はしなかった。その後はまた大きな岩岩を○に導かれて登っていく。こんな満天の星空の下で歩いたのは初めてだった。イシカワンのハイペースに導かれ、リズムよく登っていく。黒部五郎岳の肩が視界に入ったカール内の開けた絶景ポイントでちょうど日の出を迎えようとしていた。辺りも明るくなってきていたので、イシカワンに「本当にここまでありがとうございました。いいペースを作ってくれて本当に助かりました。」と、お礼を言って先に行ってもらう。彼は今日中に折立に降りる予定だし、どう考えても僕よりもハイペースだったので、早めに僕を気にかけることなく先を急いで欲しかった。
この開けたカール内の絶景ポイントで、もう1人の登山者がひたすら朝焼けに赤らんだ山を眺めていた。劇団ひとりに似てるな…。「黒部五郎小舎にいたんですか?」と聞くと、「いえ、新穂高から入って、昨日は三俣山荘に泊まってました。今日は雲ノ平に向かいます。」という。ちょっと混乱し、「ってことは黒部五郎岳行った後、戻るんですか⁉️」と聞くと、「はい、ちょっといやんなっちゃいますが☺️」結構みんな頑張るんだよな〜。よくこの時間に三俣山荘から来てここまでたどり着いたな…。まだ時間は5時半前だった。まあ、巻道を通ったかもしれないが、昨日三俣蓮華岳から黒部五郎小舎までの下りが結構キツかっただけにビックリした。装備は軽装だが、凄いことには違いない。
3人の中ではしんがりで、止まっては振り返り、朝焼けの多分、鷲羽岳、三俣蓮華岳、水晶岳等を眺めながら、急登をゆっくり登っていく。なかなか肩まで着かないが、ひんやりした空気の中、気持ちよく歩ける。このカールがもしかしたら秘境感マックスだったかもしれない。熊が出てもなんの不思議もない光景だった。
稜線に上がり、肩に向けてトラバース気味にデカイ岩の上を歩いていく。ほどなく肩に到達し、デポされたイシカワンのザックが見える。ここから山頂までは本当にすぐで、はっきり言って手ぶらで十分なのだが、サブバッグを広げ時間を使ってゆっくり必要なものを入れていく。面倒臭いことをいかに楽しめるかが登山なんだよな😃。ゆっくり岩道を山頂に向けて進んでいくと、先行者2人の話し声が聞こえてきた。山頂標識はなく、黒部五郎岳と書かれた木の板があるだけの簡素な山頂。ただ、劇団ひとりに教えてもらったのだが、この山頂からは、笠ヶ岳、乗鞍岳、御岳山が等しい間隔で見えるという。いつもの横長ではなくとんがりコーン状の笠ヶ岳がきれいに見える。また、前方には槍ヶ岳から、大キレット、ジャンダルムまでが実際の大きさに比較的近いバランスできれいに見えて、6月からの山行を思い出した。十分山頂を堪能した後、山頂から次の目的地の太郎平小屋へとスタートした。
9.偽ピークの連続の赤木岳
黒部五郎岳の肩まで戻り、サブバッグをしまい、ザックを担ぎ上げた。イシカワンはもう大分先まで降りていっている。ここからは、薬師岳が右斜め前によく見える。もしかしたら、薬師岳が主役なのかもこの折立周回は。どこにいてもいつでも、目を引く存在であり続けた。今からの行程は肩からよーく見える。あまりにもよく見えるので、すごく簡単で短いコースに見えるも、それは勘違いだった。
まず最初は、肩から一気に高度を下げる。ここを降りているときに、もう登ってくる登山者がいた。まだ午前7時過ぎだったので結構早い。「どこからだろう?」と思っていると、むこうから「飛越トンネル」から来たという。あー、やっぱりいるんだなと思い、「ぬかるみすごかったですか?」と聞くと、「はい、ゲーター履いて、ブーツカバーも着けて登って来ました。まあ、でも、くるぶしくらいのぬかるみでしたけどね☺️」いやいや、やはりそれはキツいでしょう…。折立からで正解だったようだ。
急斜面を降りきったところに不思議な奇岩がある。そこは巻いて行く登山道がつけられているのだが、記念に登ってみる。岩が刺々していて痛いのであまり手は使えない。誰も来ないのか小虫も大量に発生していた。ここらは何度か登ったり降りたりを繰り返し、中俣乗越へと降り、そこから赤木岳に向けて登りが始まった。この、登りがなかなか体力的にも精神的にも辛かった。それっぽいピークをいくら踏んでも赤木岳に来ない。挙げ句の果てに、赤木岳ではないところに山頂標識が建っていた。何故にこんなあからさまな間違いをするのかは分からなかったが、リアル赤木岳には山頂標識が立てられそうなスペースがないからなのかもしれない。
10.北ノ俣岳から、太郎平小屋再び
赤木岳を超えてから、それほど急ではない歩きやすい稜線を登っていく。10時半頃、北ノ俣岳に到着した。山頂にはちゃんとした立派な山頂標識が建っている。相変わらず天気は最高で、久々に行きに見た有峰湖がきれいに見えた。薬師岳の見える角度も大分変わり、ますます大きさが際立ってきた。あと少しだなと思うもかなり疲労感を感じてきた。
山頂からはほどなくして、例の飛越新道へと続く分岐があった。地面に小さい看板が置かれ、神岡新道と書かれていた。そこをスルーし、また、一気に高度を下げていく。時折木道があり、楽をさせてもらえるが、枯れ沢のような岩がゴロゴロした歩きにくい場所を通る時は本当にきつく感じた。頑張って歩いていると、眼下に小さく太郎平小屋の例の山小屋特有の赤茶色の屋根が一瞬目に入る。「おー😂、近づいてきたな。」今回、予想外に食料がぎりきで常に腹をすかせていた。山小屋で食べるご飯とビールが本当に待ち遠しかった。
一瞬、太郎平小屋が視界に入ったものの、まだなかなかに距離がある。すると、後ろからハイペースな少しだけ年上そうな人が追い付いてきた。「あれ?途中で会いましたか?」と言われ、僕も似たような人を見たかもだがあまり自信がない。「どういうルートなんですか?」と聞くと、4時台にヘッデンスタートで太郎平小屋から黒部五郎岳へピストンしたらしい。まだ、この時11時台だったから、中々のペースだ。前日に太郎平小屋入りして、僕のと色違いのアタックザックのみで、リベンジ黒部五郎岳らしい。名古屋からの方で話が面白い。かなりグロッキーだったが話しながらこの方のハイペースに引っ張って頂いた。雪山テン泊もやられる方ということで、気になるトイレ事情を聞いてみた。僕は雪山テン泊の経験はないが、日帰りでもトイレが全くないことが気になっていた。去年の12月に夏沢鉱泉を拠点に硫黄岳と天狗岳をそれぞれ日帰り登頂したときに「トイレはどうするんですか?」と夏沢鉱泉の方に聞くと「トイレはないですね。」と言われたからだ。1泊2日くらいのテン泊なら我慢できそうだがいつ何が起こるかわからない。この方に聞くと、「私はこんなとこでも余裕でしますよ。」と右手の草原を指差す。「まあ、ここなら僕も土に埋めれるからできますが、雪の場合はどうするんですか?」とたたみかけると、「それは、ビッケルとかで、雪に穴を掘ってやりますよ。でも、危険だからアイゼンも履かないといけないし、寒い中お尻を出すわけだから、まあ、大変ですが、我慢するのはよくないですから☺️」なるほど、やはりそれしかないよな😅。
楽しく話しながら歩いていたので、本当にあっという間に太郎平小屋に近づいて来た。「これから最後、薬師峠にテント張って薬師岳に登ってフィニッシュです。」と言うと、「こんなに夜までずーっと天気がいいのは本当に珍しいから、頑張って今日登っちゃって、明日は降りるだけにした方がいいですよ。」と目の前の薬師岳を指差して、「あの色が変わっているところからは余裕なんですけど、そこまでがえぐいですけどね。」「一方道だから、念のためにヘッデンだけ持って行けば大丈夫ですよ。」とアドバイスしてくれる。
この方は、この後太郎平小屋に預けている荷物をピックアップしてそのまま折立に降りるそうなので、小屋の前で挨拶をして別れた。楽に歩けたとは言うものの、やはり疲れはかなり溜まっている。ここは目一杯食べて元気をつけようと、ラーメンの大(1200円)を注文する。待っている間に小屋でテントの受付を済ませ、500mlのMALT'Sを900円で購入。350mlが700円なことを考えるとお得感を感じるのは神経が麻痺しているのか⁉️
小屋からビールを持って出て、小屋の前に置かれた木テーブルに座ってビールを堪能。なんか登山の時は、腹が減っているなかでビールをがぶ飲みしても悪酔いしないのはそれだけ身体が欲しているからなのか。ラーメンが出来上がり、窓口まで取り行く。あまり大を食べている人はいないようだ。薬師岳を見ながらあっという間に平らげた。で、もう一度小屋に入り夜用の350mlのビールを買って来た。
11.フィナーレ、薬師岳。感謝の念に包まれて。
休憩をバッチリ終え、またザックを担いで、薬師峠のキャンプ場に向かった。道は木道がキャンプ場のすぐ近くまで整備されていて歩きやすい。20分ほどで坂を降りきったところにあるキャンプ場に到着した。月曜日だというのに、かなりの数のテントが張られている。風避けがしっかりしてそうな区画に目星を付け、急いで張って行く。時間は午後1時になっていた。確か、雲ノ平山荘まで一緒だった青年が薬師岳往復3時間かかったと言ってたな。こっちはここで荷物を置いていくけど、まあ、3時間は無理として4時間くらいでは帰って来れるかな?と算段を付け、テントを途中まで張った所で、2日目の朝の雲ノ平以来の絶妙なタイミングで生理現象が訪れる。これ、完璧やなとトイレを探す。いかにもトイレっぽかった建物はそうではなく、地面に木の矢印看板が置いてあり、「トイレと水場は下にあります。」と書いてある。どこやねんと、その矢印の方へ行くと、右手に下に降りる水だらけの小道が続いている。これかと、そこを下っていくと、黒いホースから水がじゃぶじゃぶ出た水場に着いた。そこを左に曲がると、小綺麗なトイレが見つかった。中に入ると、かなりの清潔感に驚く。トイレットペーパーも備え付けられており、使用後のペーパーは備え付けの箱に捨てられる。念のため、ティッシュとジップロックもどきを持参していたが使う必要はなかった。
テント場に戻り、テントを仕上げ、サブバッグに小物と水を用意する。薬師岳へとスタートしたときには1時半を少し回っていた。さあ、日が暮れるまでに帰ってきたいなあ。僕より後に来て僕の横に張っていたイケメン君は、僕がトイレに行っている間に、テントを張り終えて薬師岳へとスタートしているようだった。登っていくと基本みんな降りてくる。ちょっとスタートが遅いのは分かっていたが、少し不安になる。一方で僕も次々と先行者を抜いていく。重そうなザックを背負っている人もそこそこいたのが不思議だったが、実はまだ薬師岳小屋が営業中だったことを山頂からの帰りに知る。すごくいい匂いが小屋から漏れてきていたからだ。
薬師岳と言えば冬期に有名な遭難事故があったなあと思い出しながら、晴れて視界のはっきりした薬師岳を前に見ながら、どうやってここで遭難するのか不思議に思うも、天候次第で山は突然全く別の顔を見せるものなのだろう。暫くそれなりの急登をこなし、薬師岳小屋を過ぎ、ケルンが連続する所までやって来た。かなりいいペースで来れている。ただ、太郎平小屋までご一緒させてもらった方の意見とは相反して、山肌の色が変わってからも、かなりの斜度かつ歩きにくいザレザレの道が続き、全く楽にならない。かなり登り、壊れた避難小屋が視界に入ってきた辺りで、降りてくる登山者に声をかけられる。「あ、確か薬師峠にテント張ってた方ですよね?1時くらいに入られましたよね?」と言われ「はい、ちょっとのんびりしてました。」と答える。この方も同じ頃テント場に入ったが、さっさと張って急いで登りに出たらしい。ちょうど少し前から、最終日のこの時間にして久しぶりに少し雲が出てきていて、水晶岳の方にかかり始めていた。また、自分が歩いているところにも薄いガスがモワーッと上がってきていた。しかしこの方によると、山頂方面にはまだガスがあまり来ておらず、「今ならギリギリ間に合いますよ?山頂、凄いよかったですよ🎵」と教えてくれた。
3時過ぎについに今回のクライマックスの薬師岳山頂にたどり着いた。この周回中常にその存在感を示し続けていた薬師岳。山頂には薬師如来像が祭られた祠が建っている。先ほどの方が教えてくれた通り、赤牛岳側には全くガスがかかっていない。赤牛もそうだが、鷲羽岳で教えてもらった烏帽子岳も並の山でない異彩を放っていた。奥には雲から劔岳と立山が顔を出している。水晶岳で見たより劔岳はかなり大きく見えた。また、雲が上がってきたことで逆に猛烈な雲海が有峰湖側に広がり、また違った趣を見せてくれる。時間は押していたが、山頂が混雑していたので、みんなが立ち去るまで粘り、静かになってから写真を思うように撮ることができた。
3時半を少し回り、さすがに帰路に着く。折角なので、行きにスルーした壊れた避難小屋を経由する。登山初級者の僕が、結局いろんな人に助けられて、計画通りの行程を完璧にこなすことができた。おそらく、本当に独りだったらここまでうまく事は運ばなかったに違いなかった。この「折立発、秘境周回たまに髭」本当にユル登山なんだろうか⁉️ いやー、結局また限界まで頑張っちゃった気がする。さあ、明日はもう折立に降りるだけだ。山旅で会った色んな人を思い出し感謝しながらテント場へと急いだ。
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