ドデカさに思わず息を飲む‼️ バスなし周回 赤石岳と荒川三山
- GPS
- 32:30
- 距離
- 57.8km
- 登り
- 3,876m
- 下り
- 3,883m
コースタイム
- 山行
- 9:24
- 休憩
- 1:12
- 合計
- 10:36
- 山行
- 9:53
- 休憩
- 1:24
- 合計
- 11:17
天候 | 晴れ(曇りの時間帯も) |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2022年07月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
自家用車
自転車
|
写真
感想
1.赤石山脈
飛騨、木曽、赤石。三男の中学受験を看ていた時、恥ずかしながら息子と勉強しながらそれぞれの位置関係を思い出した。その当時は全く登山をしておらず、興味もなかったので、リズムで覚えた。登山を始めてから、自宅からアクセスがいい百名山には殆んど登ったが、南アルプスでは赤石岳と悪沢岳が残っていた。今年のGW前半、塩見岳に登頂した。その時に、東峰からみた悪沢岳の長大な稜線に目を奪われた。角度的にこの時は赤石岳をしっかり見れなかったが、GW後半に空木岳に登った時、遠くに見える赤石岳の巨大さをしっかり確認できた。そもそも、赤石山脈の最高峰は言うまでもなく北岳だ。にも拘わらず、何故に北山脈ではなく赤石山脈なのか?赤石岳をもっと近くで見れば納得するのかも知れない。
赤石岳登山を意識し始めてから、アクセスが物凄く悪いことに気が付いた。共に読めなかったが、畑薙(はたなぎ)第一ダムという所に巨大な登山者用駐車場があり、その少し先の沼平ゲートから登山口の椹島(さわらじま)まではマイカー規制らしい。(駐車場は、ゲートのすぐ手前と、その少し前の臨時駐車場(畑薙第一ダムではない)と合わせてイメージ30台はいける)。しかし、地図では、沼平から椹島まで気の遠くなるほど長く見えた(17キロ弱)。1つの救世主は、椹島ロッヂを含め、特殊東海フォレストが管理する山小屋で最低1泊すれば、畑薙第一ダム臨時駐車場〜椹島ロッジ間のバスの送迎サービスを受けられる。条件を満たすのは小屋泊のみで、テント泊は対象外だ。しかし、どうしてもテン泊がいい僕には受け入れがたい条件だった。後はシンプルに歩く(4時間)か自転車(2時間)だ。ネット検索すると、自転車もアップダウンが随所にあり、行きも帰りもキツそうだった。「なるほど…。後回しになるのは必然やったわけか…」
やはり、土日しか使えそうにないので1泊2日の行程でやる必要があった。テン泊装備で、片道2時間の自転車漕ぎをし、赤石岳と荒川三山を周遊する。「1泊でやれるのか⁉️」。あまり自信がなかった。山と高原地図の「椹島から赤石岳・荒川岳周遊」のページを読むと、時計回りと荒川小屋泊を推奨していた。それに従い、椹島8時スタート、休憩無しのコースタイムで登山計画を作ると荒川小屋着が午後5時25分と出た。「この時期だけにまだまだ明るいが、若干非常識な時間になるな…」。これ以上早いスタートは、睡眠時間を最低4時間程度確保するには不可能だった。「これで行くしかない」
月曜日から1週間休暇を取り、沖縄に家族旅行で、金曜日は会社を定時退社できなかった。自宅に着くともう午後8時になっていた。一切パッキングしていなかったので、急ピッチでガンガン突っ込み、何とか午後10時半にベッドに潜り込んだ。
2.椹島へ
午前2時にSUUNTOで目を覚ました。結局3時間半睡眠だった。沼平ゲートまで、Google先生によると4時間弱と出ていたが、恐らく夜中なので3時間半には短縮可能だろう。しかし、赤石岳登山口を午前8時にスタートするには、2時間の自転車漕ぎを考慮すると、2時半には自宅を出なければならない。4時間睡眠を割り込むも、2時に起きざるを得なかった。沼平ゲートまで道がよくないという情報をなおにゃんから得ていたので、今回はJimnyをチョイスした。2時半に出るつもりが、いつも通り用意に手こずり、何とか最寄りのインターから2時57分に高速に乗った。今回はいつもとルートが違い新東名を利用する。知らなかったが、新東名は制限速度が120キロのようだ。しかし、その120の表示の下に「xxxは除く」と書かれているが、動体視力が悪すぎて読めない。「xxxが『軽』」だと俺捕まるな」と恐怖しながらも120キロまでアクセルを踏み込む。Jimnyはクルーズコントロールを使うと最高時速105キロまでしか出せないので、マニュアルでアクセルを踏み込み続けた。
午前4時17分、新東名をあっという間に新静岡ICで降りた。1時間20分しか高速に乗っていなかった。しかし、ここからが地獄だった。下道がかなり長いんだなぁと思いながらも、普通に走っていると、前方が通行止めのようになっている。そこに立っていた見張りの男性の方がこちらに歩いてきた。「この先は午前6時まで通行止めですよ」「え!」。時刻はぜいぜい5時だった。「どうしたらいいですかね?」と聞くと、「車のナンバーからして、畑薙かな?」と言われたので、「はいそうです」と答えた。ちょうどそこにあった道路標識を指差しながら、「なら、ここを口坂本温泉の方に右に曲がって、6〜7キロ行くと三差路のような所に来るから、そこを左に曲がると、ここ行った道と合流しますから。そっち行ってもあんまり時間変わらないですよ」と親切に教えてくれた。「しかし、こういう細かい精度はGoogle先生いまいちだな…」
右に曲がると、Googleのナビはすぐにそちらへ自動修正された。しかし、7キロ行っても、10キロ行っても結局三差路のような所は出てこなかった。仕方なく単純にGoogle先生に従ったが、道が狭く傾斜が結構あり、なんといっても長い。結局2時間以上も緊張を強いられる道を運転し、疲れ果ててしまった。
限界が近づいて来た頃、やっと畑薙第一ダム駐車場に到着した。前を走っていた車はドンドン右のスロープを降り、駐車場に入っていく。上から駐車場の方を見下ろすと、ものすごい数の車が止まっていた。道路にはバスを待っている登山者が列をなしている。「すごい人やな…。こんなけの登山者をこの週末、この山域が吸収するんか…」。予定よりかなり遅れ、時刻はもう6時をしっかり回っていた。こんな時間に沼平ゲート前駐車場が空いているかどうか自信がなかったが、とりあえずここはスルーして先に進んだ。ここから沼平ゲートまではかなり近いと思っていたが、実際に走ってみると「意外にあるな」と感じた。しかもかなり登っている。これを自転車で行くのは、かなりのダメージ増になるだろう。沼平に駐車できるかできないかは大きい。
沼平に着くと、ここも臨時駐車場のように区画整理されていて、車がびっしり止まっていた。「うゎ〜、いっぱいか…?」。諦め気味に、とりあえず中に入っていった。すると、幸運なことに一番ゲート側の一角が、ギリギリJimnyサイズだけ空いていた‼️「やっぱりこういう時は軽に限るな😃」。こうして、辛うじてスペースを確保できた。押している時間を気にしながら、ハイドレーションを準備し、急いでRENAULT LIGHT10を展開した。結局6時40分頃、沼平のゲートの前に来た。ゲートの手前にも5台ほど置くスペースがあり、そこにまだスペースが2台ほど残っていた。僕がスペースを臨時の方に確保してからも、数台車が来てはそのまま先に進んで行った。基本みんな先に進んで帰って来なかった。もしかしたら、ゲート前は最後まで空いていることが多いのかも知れない。
通りにくいゲートの脇を何とかすり抜け、自転車スタートした。この時点でYAMAPを開始させる。序盤は、傾斜も緩く舗装もされていて走りやすい。意外だったのは、始めから下る所が何ヵ所もあったことだ。横の畑薙湖越しに見える南アルプスらしい山並みを見ながら気持ちよく自転車を漕いだ。しかし、程なく砂利道が頻発し始める。赤い鉄橋を渡り、涸沢を下に見ながら凸凹道を行く。やはり、ネットで下調べした通り、目立って標高を上げることなく、アップダウンを繰り返す。しばらく行くと、赤石ダムのゲートが望める登りのヘアピンカーブに来た。そこからは、ダムゲートの上に上河内岳がきれいに見える。そこからすぐにかなり暗い赤石トンネルをくぐる。地面が見えなくて少し危なかったが、この為だけにヘッデンを着けるのも億劫だったで、暗いまま渡る。赤石トンネルを抜けると、赤石ダム湖を眼下に望むことができる。色が異常にきれいなエメラルドグリーンだった。
ここまで来ればもう一息だ。「熊出没注意」の聖沢登山口を越え、「赤石沢川」という青い看板の奥にちょこっと見える赤石岳を眺める。最後に少し下りながら、あまり意識せずに、右に折れて坂を降りて行きそうになる。ちょっと違和感がした。「この坂降りて間違いやったらダメージでかいな」。坂を降りずに立ち止まり、よく看板を見た。すると、「おつかれさまでした 椹島ロッヂ入口」と書かれている。「そういえば登山口ってどこにあるんやろ?椹島ロッヂに行く必要はないよな…」。と、そこに、ちょうどその椹島ロッヂへの分岐に続く登山道を、男女の2人組が下から上がってきた。椹島ロッヂへの下りを指差し、「赤石岳への登山口に行きたいんですが、椹島ロッヂへ行っちゃあダメですよね?」と質問した。「そっち行ってもダメだね。すぐ手前に登山口あるんじゃないかな?」と教えてくれる。YAMAPを取り出して、来た道を確認すると、確かに少し通りすぎていた。自転車を押しながら、下った坂を少し戻ると、長い梯子から始まる登山口を発見した。「これか…」。登山ポストもそこに設置されていて、自転車も山の斜面に立て掛けるように何台かデポされていた。
3.赤石小屋
自転車を同じようにデポし、少し身支度をし、午前8時40分にスタートした。結局、比較的ゆっくり漕いで、沼平から椹島登山口まで1時間50分かかった。長い階段を登り、まず出てくる「赤石岳」の道標に従う。ここからは、意外なほど歩きやすい登山だった。椹島から赤石小屋までを5つに分け、1/5終了毎に目印の道標が出てくる。おかげで睡眠不足でも快調に進めた。しかし、終盤、その名の通り厳しい、最後の関門「歩荷返し」からその終了時点(小屋まであと30分だよ)までは、なかなかにタフな登りだった。終了地点の「あと30分だよ」を見た時は正直「まだ?」と強く感じた。
根気よく登って行くと、左手下に小屋のような建物か出てきた。しかし、人の気配はなかった。そこを過ぎ少し行くと、頭上に別の小屋が見え始めた。これが、赤石小屋のようだった。ただ、ここから上にも道があるし、この地点から左に折れる道も同じく小屋に繋がっているように見えた。「どっちから行くねん?」。すると、その下の方の登山道を歩いている登山者が見えた。「これ、小屋に行くには、そこですか?それともこのまま後少し登りますか?」と質問すると「多分上じゃあないんですか?私も初めてなんでよく分かりません」。なるほど…。「まあ、自然に考えれば上だろうな…」と上に登っていく。すると、普通に賑わっている小屋に繋がった。「おー!これで、ちょっと腹ごしらえできるな😃」。
ザックを下ろし、テーブルのベンチに置いた。早速小屋の入口に向かった。中では、かなり若く関西弁がキツい、それでいておっとりした雰囲気の女性の小屋番がテンテコマイだった。どうやら、他の小屋番が出払っているようだった。彼女が他の登山者の相手をし終わった頃合いを見計らって、「軽食やってますか?」と聞いた。「はい、やってます」と言いながらも、なんだかいっぱいいっぱいにそうに見える。でも、一応メニューを持って来て「この中からお選び頂けます」という。選択肢はいたってありきたりだったが、「牛丼お願いします」と言い、すぐに「あ、ゴメン、やっぱりラーメン」と言い直した。大抵、カレー、ラーメン、牛丼のどれかになる。さらに、まだ今日の行程は終わっていなかったが、汗がだくだくで我慢できなかった。「後、小さい方のビール」と注文した。「おいくらですか?」と聞くと、「1600円(1000+600)」です。ここまでの会話は、小屋に入ってすぐの土間で立ちながら行われた。「ここで、お支払してもいいですか?」と聞くと、「はい」というので財布を出すも細かいのがなく、1万円札を出した。すると、お釣りを取りに行き、「すみません、今お釣りがないので、後で小屋番の方が帰って来てからお支払して頂けますか?」と泣きそうな顔で言う。「あ、僕は全然いいですよ」と言いながら、「あんたは小屋番じゃなかったん?」と少し不思議ちゃんの雰囲気を感じとる。ビールは小屋の前の天然の冷蔵庫からセルフで取り出すシステムに見えたので、「じゃあ、ビールは勝手に取っちゃってもいいですか?」と聞くと、「はい、どうぞ」という。何だか、こっちが不安になってくる便りなさだった。
とりあえずビールを水を張った木箱から取り出し、ザックを置いたベンチに戻った。その時、何やらこちらを伺ってそうなシニアのソロ男性登山者と目が合ったので、ご挨拶し、しばらく会話した。「こんにちは☺」。小屋からは赤石岳、小赤石岳がよく見えたので、そちらを指差しながら「あれが赤石岳ですよね?」。「そうですね。で、その横のピコンとしてるのが小赤石岳ですね」。聞くと、彼は広島から来て、贅沢に4泊の行程で、基本午前中しか行動せずに回っているらしい。昨日などは午後、雷雨だったらしく、でもその頃には小屋に入って、悠々とビールを飲んでいたらしい。僕がビールを飲んでいたので、「今日ここまでですか?」と聞かれたので、「いや、予定では荒川小屋までです」と答えた。「大丈夫?」と聞かれたので、「なので、小さい方にしておきました😅」と言いながら、確かつい最近滑落事故あったって言ってたな…と思い出した。彼のしゃべり方に何となく親近感を感じていたが、今は広島にいるが、やはり大阪出身だという。登山は圧倒的に関東が有利だと言うことで一致したものの、広島からは意外に四国、九州が近いらしい。九重連山に行ったことがあると言うと、特に九州の山は雄大でいいとおっしゃっていたのが印象に残った。
完全に自分が軽食を注文したことを忘れかけていた頃、例のテンテコマイちゃんが牛丼を持ってきた。「お待たせしました」。「あれ、結局ラーメンにしたはずなんですけど、これは僕の牛丼で間違いないですか?」と言うと、「あ!すみません😢」とちょっとまた上の空みたいな感じ。「僕は牛丼も食べたかったので、もし他の人のでなければ、僕がいただきます」と、別にどちらでも構わなかったので、そう答えた。その時に料金を1万円札で支払った。その後も、このソロの男性の方と、午後の天気の話や、赤石岳避難小屋は天候急変時の受け入れキャパが十分あることなどを教えてもらいつつ、楽しく会話していた。そして、お釣りを貰うのをすっかり忘れた頃、彼女はちゃんと8400円を持ってきてくれた。普段のマルチタスク中毒な日常を忘れさせてくれる時差に、逆に嬉しくなった。
昨日の雷雨の話を聞き、もともと今日の午後は雷雨の可能性をヤマテンが警告し恐怖していたので、もう赤石小屋にテントを張ってしまおうかと悩んだ。荒川小屋に払ったお金は無駄になってしまうが、6月中旬、芝沢ゲートからぐるっと時計回り周回した時、茶臼岳あたりからポツリと始まった雨が勢い増し、三吉平から静高平までの登りで地獄を見たことを思い出していた。その時も茶臼小屋でテントを張っていれば、苦しまなくて済んだかもしれないのにと後から後悔した。しかし、まだ12時半を過ぎたばかりで、さすがに1日の行程を終えるには早すぎる。また、この男性に教えてもらったように、本当に雷雨で危ない場合は、最悪、赤石岳避難小屋で受け入れてもらえる。なので、結局、荒川小屋を目指すことにした。まだ疲れはあまりなかったし、稜線まではすぐに到達すると思っていたからだ。
4.赤石岳登頂
たっぷり休息を取り、12時45分頃、赤石小屋を出発した。スタートしてすぐ、「赤石岳3時間」の道標がある。それを見た時、「そんなにかかるか〜?」と思ってしまう。というのも、赤石小屋の標高は2560mで、赤石岳は3120mだから、たった550m標高を上げるだけだと思ってしまったからだ。完全なる間違いだった。当然ながらそれは単純に標高を上げるだけの場合で、実際にはその間に、どれだけ停滞や下ってからの登り返しがあるかによって全く必要時間は異なる。先ほどの男性に「頑張って何とか4時くらいには荒川小屋に着きたい」と言った時に、「う〜ん…。まあ、でも荒川小屋までは下りるだけだから」と言われたことも、後から考えればもっともだった。
実際、赤石小屋まではかなり楽な登山道だったが、ここから急に道が厳しくなった。左側が切れ落ちている危なげな岩場のトラバースが続く。桟橋も頻繁に出てきた。危険地帯が過ぎた後は、沢筋のガレ場のキツイ登りがしばらく続く。お花畑が目を楽しませてくれたり、リアル南アルプスの天然水の水場を通ったりと楽しみは多いものの、椹島下降点の手前もまた一段と厳しい登りになった。
ヒーヒー言いながら下降点に到達した。今にも雨が降りそうな中、赤石岳も小赤石岳もガッスガスだった。半ば予想していたものの、ショックが大きい。ヤマテンは、「午後は大気が不安定で、大井川流域、釜無川流域からから積乱雲が発達する恐れ。早出早着を心掛けたい」と連日のように予想していたが、限られた日程で移動時間を考えると、初日を早出にするのは難しい。赤石岳に登頂した後、反対側の小赤石岳方面に縦走路は続くので、ここにザックをデポすることにした。雨が降るリスクが高そうだったので、ハイマツの足元に空洞があるところを探し、そこに押し込むようにザックをデポした。アタックザック(SEA TO SUMMIT ウルトラシルデイパック)を展開して、そこにナルゲンボトルに入れた水やレインウェアを入れたりして少し身支度に時間を使い、さぁ行くかなと腰を上げた。そして、ふと前方を見ると、さっきまでのガスがいきなり晴れとる❗「なんちゅう目まぐるしさや🎵」。目の前の赤石岳と背後の小赤石岳、さらにその先の稜線までくっきりと見えていて、急いで写真に収めた。
しかし、赤石岳に登り始めてすぐ、またガッスガスに戻ってしまった。時折若干南西側に晴れ間が覗くも、眺望がほとんどない中、赤石岳に登頂した。時刻は午後3時半だった。やはり赤石小屋から、2時間45分もかかっており、道標はかなり僕のペースには正確だった。恐らく、ゆっくり歩く人にとっては3時間すら厳しいのではないだろうか。頂上の奥に避難小屋がガス越しに辛うじて見える。時間は押してはいるものの、ガスがまた切れる可能性もあるので、できるだけ山頂で粘ってみた。しかし、ガスは切れそうになく、諦めてまた下降点へと下りていった。かなり残念だが、明日の午前中に期待するしかない。
ザックのデポ地点まで戻ると、少しガスが切れてきた。小赤石岳の山頂部はきれいに見える。雨は一瞬ポツリと頬に当たったが、その一回キリだった。レインを着ようか悩んだが、もう少し継続的にポツポツきてからにしようと、ザックの上部の隙間にぐしゃぐしゃっと突っ込んだ。すぐに小赤石岳に登頂した。午後4時8分だった。振り返ると、またガスがきれいに晴れ、赤石岳がスッキリ見えていた。青空もかなり見えていたので、後10分粘っていれば、南側の眺望も楽しめたかも知れなかったが、仕方がない。
5.荒川小屋
ここからは、最初は少し狭いトラバースだったが、すぐに広いザレ場の下りになった。危険度は低く、赤石小屋でお話しした男性の言う通り、下るだけだった。時間は4時半を超え、「えらい遅い時間になってもうたな…」と思って歩いていると、遥か下に一人の登山者がこちらに向かって登っているのが視界に入った。「俺以外にもこんな時間にまだ頑張っている人おるんやな」と思いながら、彼とすれ違うところに来た。挨拶し、どちらからともなく会話を始めた。お互い人に飢えていたのかも知れない。
Ttm 「避難小屋までですか?」
大阪男子「はい」
この時間だからそれが限界だろう…。
Ttm 「椹島からですよね?」
大阪男子「はいそうです」「同じく椹島ですよね?」
Ttm 「はい」
大阪男子「で、荒川小屋ですよね?」
Ttm 「はい」
大阪出身の彼は、「お互いちょっと頭おかしいということですね😃」と、馴染みのあるイントネーションでニヤリと笑いながら言った。僕もそれに応じ、笑いながら「頭おかしいですか?でもこれくらいしないと、このコース1泊2日で周回できないですよね😂」。「まあ、そうですね😃」。で、「実は僕は避難小屋泊の後、カミコウチの方に行って抜ける予定なんです」と言う。一瞬カミコウチが上高地と頭の中で変換されて混乱したが、「あー、上河内岳のことか」とすぐに彼の言っている意味が分かった。「え⁉️それをどれくらいの行程でやるんですか?」と聞くと、「明日1日です」という。「茶臼岳越えると樹林帯に入るから何とか行けるんじゃないかと思ってるんですよね」。頭おかしいのはあんただけやな…😅と思いながら、「ちょっと前にその辺り周回しましたが、結構エグいですよ😓」。彼はバスを利用したので軽荷ではあるものの、なかなかのコースだろう。「大阪出身ですか?」と分かりきったことを聞かれ、「はい」と言うと、「僕も大阪なんですけど、やっぱり大阪人というのは欲張りですね」と決め台詞を残し、彼は去っていった。
ザレ場を過ぎるとガスるとロストしそうな「大聖寺平」に来た。時刻は4時50分頃だった。だだっ広い尾根で、やはり道迷い防止のケルンがあった。ここから尾根を外れ、トラバースになる。かなり歩き安い道になり、もう荒川小屋もすぐなので、気楽に歩いていく。右手はカール地形なのか、下まで深くえぐれた谷のようになっていて爽快だ。そんな中、左手前方に思わず息を飲む巨大な山が見え始めた。自分が近くにいるのと、山が足元から全部見えるので、経験したことない「ドデカさ」を感じる。「なんや…このデカイ山は…」。地図を見ると、恐らく前岳だった。しかも、その左手には山肌の色が一段黒いトゲトゲの山並みが続いていた。「なんやあれ…?」。荒川岳の威容に衝撃を受けながら、何度も立ち止まり、感嘆した。
しばらくして、荒川小屋への最後の樹林帯の急な下りになった。少し歩きにくい。足に疲れがきている筈なので、慎重にゆっくりと下りていった。午後5時15分頃、やっと荒川小屋に到着した。4時台に着けると思ったが、やはり立ち止まりが増え、5時を回ってしまった。小屋前を通ると眼下にテントが見えた。大天荘ではテントを張ってから受付をしたが、ここはテン場がちょっと遠く下にあるし、時間も遅いので先に受付をすることにした。来た道を少し引き返し、素泊まり小屋を越えて、本館の方に来た。歯磨きをしていたり、1日の締めに入っている登山者もチラホラいる時間だった。小屋の中に入り、名前を言い、予約時に受け取った予約番号を伝えようとした。すると、「まぁ、これに記入してください」。予約時に既に伝えている内容を含め、びっしりと埋めないといけないキャンプ届だった。「予約をして、料金もお支払しているのですが、それでもこれを書くんでいいんですよね?」と念のため確認すると、「はい」という。仕方なく全部キッチリ埋め、小屋番に用紙を手渡した。「では、予約をされて、料金も支払っていただいていますので、空いている所に自由に張ってください」。予約番号聞かへんの?いつ俺が金払ったってチェックしたん?と思ったが、「なんかテントに付ける札のようなものはないんですか?」と聞くと、微笑みながら「ないです」。そうか、ここは南アルプスだった…。畑薙第一ダム駐車場に大量に止まっている車を見て、「あんな人数を山が吸収できるんか?」と思ったが、北アルプスの比ではないんだろう。
トイレの角を左に曲がり、テント場に下りていった。テン場は基本、二段になっており、上に3、4張り、下にも同じだけ張られていた。中段に1張りだけいける踊場のような所があり、水場にも近く便利そうだったので、そこにザックを下ろした。ちなみに水場はテント場の奥にベンチのような物があり、その先をさらに下に下るとじゃぶじゃぶだった。1リットル200円等と、ケチ臭いことは言わない。この踊場スペースはこじんまりしてよかったのだが、傾斜が微妙にあり、足元が下がるように設営するには少しスペースが足りなかった。残念だったが、下の段の一番小屋側に空いていた広いスペースにテントを張った。
大聖寺平で会った大阪男子にも聞いていたが、荒川小屋では午後雨が降ったらしい。近くにソロなのに巨大なテントを張っていた、僕より少し若そうな男性に聞くと、かなりしっかりとした雨だったらしい。僕が回っていたルートでは全く降っていなかったので驚いた。荒川小屋に到着するのが遅くなってしまったが、まだこの時期は日も高く、逆に雨をうまい具合に避けられたので、結果オーライだった。今日は風は全くなかったので、楽に張っていく。地面も土でよくペグが刺さる。このテン場はかなり心地よかった。確かどこかに30張りいけるようなことが書かれていたが、それだけ張るには、かなりきちきちに張らないと無理だろう。こんな一番いいシーズンでも10張り程度だったので、そんな混雑することにはならなさそうだ。
午後6時過ぎにやっと設営が終わり、エバニューのアルテーブルファイアを広げ、担ぎ上げた500mlのPSBとピザポテトを置いた。やはりこの季節だけあって、モンベルのロールアップクーラーバック3Lに凍らせて入れたペットボトルは、ほぼ常温に戻っていた。PSBも冷えているのかいないのか分からない。正に農鳥小屋温度だった。一口ぐいっと飲む。初日のハードな行程をやり切れた満足感と疲労感から、冷えていようがいまいが旨かった。荒川小屋へ向けてトラバースを歩いていた時は、ガスが晴れて巨大な前岳を見ながら歩けた。しかし、この時間になって、またガスが多くなってきていた。テントの入口から辛うじて見える、恐らく前岳のてっぺんを見ながらビールを飲む。ピザポテトをつまみながら、最大限のダラダラを楽しんだ。
今回は痛恨の極みだが、フライパンを忘れてしまった。これからは、最近買ったDUGのPOTーMと常に一緒にしておかないといけない。仕方がないので、そのPOTーMの上蓋をフライパン代わりに使うしかなかった。プリムスウルトラバーナーP153を広げ、ガス缶にねじ込んだ。アルテーブルの上に置き、ライターなしのカチカチで火をつけた。そして、五徳の上に上蓋を置き、モヤシを投入した。普通に炒められたが、モヤシをこぼしまくってしまった。そこにコンビーフを投入するも、少しこびりついてしまう。モヤシはしっかり炒まっていなかったが、火を止めた。やはり、しっかりかつ簡単に炒めるにはフライパンがマストのようだ。次にフォールディングトースターを広げ、ウルトラバーナーの上に置き、食パンをトーストしていく。絶妙な塩梅とはいかないものの、十分満足のいく仕上がりになった。そこに、先ほど炒めたコンビーフモヤシをはさみ、かじりついた。やはり、十分うまい。リゾッタより大分ましだった。ここから、ひたすら焼きまくる。アルトバイエルンを2回に分けて上蓋に入れ、そこに残っているモヤシを投入する。なるべくモヤシを使いきりたかった。最後に、フォールディングトースターの上にオイルサーディンを置いてグツグツいわせる。これは思いの外危険だった。自分はテントに入り、前室部分にウルトラバーナーを置いてグツグツいわせていたのだが、しばらくすると、缶詰めからオイルがこぼれ始めた。それが、その下にあるウルトラバーナーに落ちると、引火してテントに燃え移ってしまうかもと恐怖した。本当はテントからしっかり出て、グツグツいわせればいいのだが、テントから半分身体を出すスタイルが、何とも言えず気持ちいいと感じるのは僕だけだろうか?仕方がないので、こびりつきのあるPOTーMの上蓋に、オイルサーディンの缶の中身をオイルごと移し、もう少し火を入れた。オイルサーディンはやはり醤油がないとちょっといまいちだった。次回は100均のミニ液体ボトルに入れて、醤油を持ってこよう。
辺りが暗くなってきた。今日は昼寝もせずにひたすら食べていた。そろそろ明日の行程を考えねば。昨日は深く考えず悪沢岳でモルゲンを迎えようと思っていた。それをを赤石小屋でお話しした男性に言った時、彼が「それは、えらい早く出ないと行けないんじゃない?」と言った。改めて地図を見ると、やはり遠すぎするようだ。コースタイムだと荒川小屋から悪沢岳まで4時間弱かかりそうだった。また、赤石岳山頂が残念だったので、周回しないプランも考えた。荒川小屋にテントをデポし、朝イチ、アタックザックで悪沢岳まで行く。そこから、荒川小屋まで引き返し、テントを撤収する。そして、もう一度赤石岳に登頂し、椹島に戻る。しかし、これもアタックザックでの行動中どれだけまくれるかにもよるが、行程時間が2時間ほど長くなりそうだった。月曜日は朝5時に自宅を出て、沖縄に家族旅行に行くことを考えると、なるべく早く下山し、帰路につきたかった。「現実的には前岳辺りでモルゲンか…」。しかし、これも悪沢岳の高さを分かっていなかったのだが…。
6.荒川三山
翌日、いつも通り午前2時に起きた。結局、スタート前に撤収して、周回を継続することにしたので時間がタイトだ。テントを張った場所が、ちょうどトイレへと向かう最短道に沿っていたので、夜の10時台に誰かが頭の後ろを通った音で一度目が覚めた。自分なら遠慮して、少し大回りしてもテントを横切らないように歩くものだが、意外にそういうことを気にしない人も多い。レインフライのファスナーを上から開け、顔を外に出してみた。すると、満天の星空が広がっていた。今年の山行で一番だった。「お〜。ブラック撤収が少しは楽しみになるな…」
食事を終え、テント内の物を片付け終わり、外に出た。先ほど見た通りの満天の星空だ。例によってなぜかレインフライがびっしょりだったので、雑巾で満遍なく拭き取った。この時間も風がなかったので簡単にレインフライを畳めた。いつもより少し手際がよかったのか、3時半頃には大体撤収が終わった。若干もよおしている気がしないでもなかったので、通り道のトイレに寄るかと思いながら、坂道を上がった。驚いたことに、こんな時間なのに、3、4個あるトイレのボックスの前に列ができていた。もよおしている気がしないでもない程度だったので、千枚小屋まで持つかな?と先を急ぐ。
ブラックスタートなので道が不安だったが、荒川小屋からの道は特に難しい所はなかった。受付をした本館の奥に荒川三山の矢印がある。そこから樹林帯を行き、少し高度を上げると、右の空にブラック富士山が浮かび上がっているのが見えた。「あ…、ここからこんなにキレイに富士山見えるんや」と、今までずっとガスっていたので、こんなに富士山が見える場所だという意識がなかった。そのまま右に右にとトラバース気味に登っていく。そして、後ろを振り返ると、まだ暗さでハッキリとした山容は露にはなっていないが、今まで見たことのないようなスケールの山がでん!と控えていた。「なんやあの山は…」。この時点では何の山か分かっていなかった。
トラバースが終わり、左に方向転換して、つづらに登り始めた。途中何度か鹿避け扉を開け閉めして進む。空は大分明るくなり、雲海に浮かぶ富士山のシルエットが朝焼けに染まり始めた。先ほどの巨大な山塊も、ピンク色を帯びて何ともいい色合いの姿に変わってきた。しかし、惚れ惚れするほどのドデカさだ。しばらく進むと、前岳と中岳のコルにつながる尾根に乗ったところに小高い岩場があった。そこは、前に富士山、左前方に悪沢岳、右手にあの巨大な山塊が見える絶好のビューポイントになっていた。時刻も午前4時40分を回り、ここから先に進んでも、モルゲンまでに前岳の頂上には到達できそうにない。ここにザックを下ろした。岩場に登り、日の出までのゆったり流れる時間を楽しむ。雲海に浮かぶ富士山の背後の赤みがどんどん増している。ビーナスベルトを背後に従えたあの巨大な山にPeakLensを当てる。その一番てっぺんに「赤石岳」と出た。「あー、アイツが赤石岳やったんか❗道理でデカイわけや…」。正確には小赤石岳か手前にあり、赤石岳と重なりあっていた。「これ見たら…、確かに赤石山脈にしたくなるなぁ…」と妙に納得した。そういえば、日の出の時刻を過ぎても太陽は上がって来ない。「あ、そうか!悪沢岳の向こう側に上がっとるな」と当たり前のことに今更気付いた。「悪沢もデカイなぁ〜😃」。三つ巴の絶景ショーに日の出の時刻を過ぎてもしばらく先に行く気になれなかった。朝なので、スタートからずっとウィンドブレーカーを着ていたが、風も少し強く吹いており、手が冷たくかじかんできた。上から登山者が下りてきた。「サイコーですね❗」と彼も興奮していた。彼は中岳避難小屋に泊まっていたらしい。彼に聞くと、やはり、悪沢岳の頂上にいないと日の出は見えないようだ。僕は、赤石岳と小赤石岳を指差して、「これ、めちゃくちゃデカイですけど、実は手前は小赤石岳なんですね!」と言うと、「そうそう、何回来ても勘違いしちゃいます」と、やはりみんな2つの山をひっくるめて「赤石岳」と見なす感じなんだなぁと納得した。
手が冷たくなり過ぎたので、前岳と中岳のコルに向けて再スタートした。登っている間もまだまだモルゲンチックな美しさが継続していた。そして、コルに来る少し前に悪沢岳のてっぺんから太陽が顔を出し始めた。正にダイヤモンド悪沢。富士山との斜めの構図がたまらない。先ほどの岩場から30分ほとでコルに到達した。コルにザックをデポし、前岳に向かう。前岳まではあっという間だ。恐らくこいつを荒川小屋に向かっている最中に、あまりに巨大な山と見上げていた。山頂は平たくかなり広々している。右奥の方には何やら尖った面白い形の岩峰が続いている。岩峰の右に道が付けられたいるように見えたので取り敢えず行ってみた。しかし、すぐに足元が危うくなったので、諦めて引き返した。
コルに戻り、ザックを拾って中岳に向かう。中岳から悪沢岳に続く稜線の曲線美を眺める。悪沢岳の上に高く上がった太陽が眩しい。ここから中岳までは非常に歩きやすい稜線だった。左手には見覚えのある山々が並ぶ。一番目立っていたのは勿論、塩見岳だ。しかし、今回ばかりは漆黒の鉄兜も赤石岳、悪沢岳との比較でいくと「小ぶり」に見えてしまう。塩見岳の左奥には仙丈ヶ岳。右奥には、ちょこっと男前が頭を覗かせる。白峰三山は間ノ岳の陰で北岳は見えないのか。5時50分頃、中岳に登頂した。コルから約20分だった。中岳山頂からは北アルプスもくっきり見えていることに気が付いた。先週も見た槍穂高連峰をズームする。進行方向には、少し下った先には中岳避難小屋が、その先に巨大な悪沢岳が聳えている。
中岳から悪沢岳がもしかしたらこのコースの核心かもしれない。まずは一旦かなり下る。そこから少し危険な小ピークのような岩峰を登り、またコルに下る。そして約200m登りが始まる。中岳から悪沢岳を見た時は、太陽が逆光になり、むちゃくちゃ眩しかった。コルに来ると太陽が悪沢岳に隠れ、悪沢岳の綺麗な山肌が露になり、斜めに登山道が付けられているのが見えた。遠目にそそり立った山を見ると、「あんな急な斜面の山登れんのか?」といつも思ってしまうが、今回もやはり先人達の苦労に感謝する。しかし、いざ登ってみると中々の急な岩場の登りもあり、あまりイージーとは言えない。実際、1ヶ所登山道を間違え、危険な登りをやってしまう。かなりザレザレ、かつ、うまく三点支持しないと滑り落ちそうだった。少し恐怖しながら登り切り、無事に登山道に復帰した。「どこで道を見失ったんや…」。また、しばらくして上から下りてきていたシニアのパーティーのリーダーの男性は、「まだ下りるよ❗」と、メンバーにぼやきながら注意喚起していた。「まだまだ登るということか…」
一度ひやっとしたので、その後は特に慎重に登り、午前7時10分頃悪沢岳に登頂した。中岳山頂を出発してから1時間10分もかかっていた。前岳と中岳には登山者は誰もいなかったが、時間が遅いのか、やはり悪沢岳だからなのか、狭い頂上部分にかなりの数の登山者が滞在していた。確かにここからの眺望も贅沢だった。「東岳」の山頂標識には、「悪沢岳」板が打ち付けられていた。人が多いとは言うものの、やはりここでザックを下ろし、小休止。南アルプス、富士山、赤石岳の絶景をゆったりと味わい尽くす。山頂標識の近辺にザックを置く登山者が多く残念だったが、後でオブジェクトイレイサーで消してしまおう。このシーズンの至れり尽くせりの恩恵に自分も預かりながら、「やはり小屋開け前の静かな山行には敵わないかな…」
7.千枚尾根
たっぷり40分ほど山頂を堪能し、悪沢岳を後にした。その頃には、早くもガスが出ていて、赤石岳と塩見岳はかなり 残念な状態になっていた。「まだ、8時前やで…」とやはり登山は日の出から数時間がゴールデンタイムなことを思い知った。悪沢岳からしばらくは大岩がゴロゴロしていて歩きにくい。しかし、丸山に近づくにつれて、その名の通り丸みを帯びたなだらかな道になる。丸山までは悪沢岳から20分弱だった。富士山はまだ綺麗だったが、やはり赤石岳は残念なままだ。
ここからつづらに標高を下げ、千枚岳に向かう。この道が意外に少し険しい。前に鬱蒼とした岩峰が見える。道も狭いトラバース道だった。途中真新しい長いアルミ梯子も取り付けられていた。梯子を登り切った後も、少し大股気味に足を上げて岩場を登る。小柄な女性やお年寄りには結構厳しいのではないだろうか。悪沢岳から1時間程で千枚岳の山頂標識がある開けた平らなスペースに出た。山頂標識は縦走路から外れ、少し左に行く。意外に立派な山頂標識と三角点らしき石柱があった。山頂標識の後ろには、丸山と悪沢が重なって綺麗に見える。反対側には標高は低そうだが、山頂部がハサミのようになった山が面白い。
縦走路に戻り、千枚小屋を目指す。時刻はまだ8時40分過ぎで、小屋に着いても恐らくまだ軽食は始まっていないだろう。残念だ。木々でできた木陰の遊歩道を通り、かなりの傾斜の壮大なお花畑を横切り、30分程で千枚小屋に到着した。時刻は9時過ぎだった。登山者は誰もおらず、ひっそりとしていた。誰もいないテーブルのベンチにザックを下ろした。多分無理だとは思いながらも、念のため小屋の入口に行き、扉を開けた。何故かポップなマイケル・ジャクソンのBadがかかっている。登山者がみんな出払って、小屋番がリラックスしながら作業をしていたのか。受付近辺にいた小屋番の男性に、「軽食ってまだやってないですよね?」と聞くと、「あ…、やってないですね…」と当たり前なのに申し訳なさそうにしてくれる。「じゃあ…、カップラーメンとかは…?」と言うと、「あ、それはあります」。カウンターにある棚に、カップヌードルやどん兵衛など数種類用意されていた。「ビールはありますかね?ちっちゃい方」と聞くと、「勿論、ありますよ❗」と言いながら冷蔵庫を開け、「良かった、冷えてる☺」と言いながらカウンターに出してくれた。「カップラーメンは適当に自分で取るんですか?」と聞くと、「はい、ここからお湯も取ってください」と、カウンターの隅にあったポットを指差した。「ゴミは全部いただきますので」。お箸もポットの横に用意されていた。「おいくらですか?」と言うと「えーっと、600円と500円で1100円です」と、これを安いなと感じる危ない病気に侵され始めていた。パッケージを破り、ゴミを手のひらに握ってお湯をいれていると、「ゴミも適当にこの辺に置いといてください」とカウンターの中央くらいを指差した。かなり気配りができる小屋番さんだった。お言葉に甘え、ビニールのゴミをカウンターに置き、蓋止めシールがなくなり、その代わりに蓋に2ヶ所用意された開け口をつまんでカップに固定する。ビールとカップヌードルを持ってベンチに戻った。また、ハサミ頭の山を見ながらカップヌードルをすする。こんな時間だけど、やはり冷えたビールがうまい。実は千枚小屋の標高は2600mとまだまだ先は長い。恐らく最後のちゃんとした休憩になるので30分ほどゆっくりくつろいだ。
ボチボチ行くかと、ザックを背負う。ボーッと小屋の奥へと歩いて行くと。登山道らしくない。「…あれ…?」と思っていると、先ほどの小屋番が、「トイレですか?」とまた、目ざとく声を掛けてくれる。「いえ、下山道です😅」と言うと、「あ、向こうです」と反対側だと教えてくれた。「あ、ありがとうございます」。小屋に入ってくる時に通ったの分岐に戻ると、そこに「椹島4時間」の道標があり、右下に登山道が続いていた。また、例によって頭の中で暗算する。下りだと1時間あたり最低でも500は標高下げれるよな。すると、登山口の標高が1100mくらいだったから、2600引く1100で1500mか…。「4時間はかからんのんちゃうか?さすがに」
登山道はしばらくずーっと極めて歩きやすい緩やかな下りだった。そこを歩きながら、「なるほどそれでみんな反時計回りで歩くんやな?」思っていた。完全な間違いと後で思い知ることになる。行きと同様に、登山口までを7分割し、1/7毎にプチ解説付きの道標が木にくくりつけられている。しばらく行くと「見晴らし台」と道標が出てきた。登山道から外れ、左上の方へ登るようだ。それなりに疲れていたし、少し悩んだが恐らく最後の眺望なんだろうと、登っていく。すると、そこには既に男女の登山者が休憩していた。男性はシニアだが奥さんらしき女性は若く見えた。少し会話をすると、全部山小屋で3、4泊しながらゆったりと登る予定らしい。羨ましい限りだ。このコースは初めてと言うが、なかなか詳しい。前に見えている手前の山が赤石岳ではなく小赤石岳だと分かっていたり、自転車で椹島から帰ると言うと、「徒歩なら4時間はかかる」と奥さんに説明したりしていた。
登山道に戻り、淡々と歩いてく。幾分か勾配はきつくなった気もしたが、まだまだ普通の登山道だった。登山道が左にくにゅっと曲がる所に清水平の水場があった。ここも登山道から少し外れ、右に少し行く。グレイのパイプから水がそれなりに流れ出ていた。しかし、そのパイプはそこにある水棚に沈められていただけの物だった。かなり疲れてはいたが、「流石にこの下りは流しだな」と決めつけて歩いていたが、突然それは始まった。標高は1400m地点だった。まず道が不明瞭になる。何度も今までとは全く違う難度の岩場を登る。「おいおい、何でいきなり…」と思わざるを得なかった。よく分からない鉄塔も分かりにくく、2回通り抜けた。結論、僕が行きに登った時計回りルートの方がトータルで素直な道に感じた。行きには追い越しは殆んどなかったし、すれ違いばかりだったので、殆んどみんな反時計回りなんだろうが、信じられなかった。1400mから1450mにそんな感じで標高を上げさせられた後、やっと安定的に下降に戻ったが、下りも嫌らしい急な下りだった。精神的にやられつつも、やっと登山道のゴールが近づいてきた。木々の合間から、少し下に吊り橋が見えた‼️。勿論、力の限り吠えていた。吊り橋の辺りに作業中らしき男性がいて、こちらを振り返った気がした。吊り橋の渡り口まで下りきって、その男性に思わず話しかけた。「この千枚尾根、最後かなりキツいですね!最初はなだらかなのに」。彼は笑いなから「確かにそうですね😃」。この吊り橋は、中々の恐ろしさだ。下を見ながら歩けばかなり楽しめるだろう。僕にはその余裕はなかった。微妙に揺れ続ける長い吊り橋を慎重に渡って行った。
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ちなみに、帰りの自転車はそれほど地獄ではなかった。登りは多かったが、下りが続く部分では1キロずつくらい距離を稼げる。100m毎に出てくる道標がありがたい。
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昨年行かれたんですね。私も昨年7月中旬にに反時計回りで行きました。
実は来週の日・月で時計回りする予定でして、あまりにドンピシャで大変参考になりました!
ありがとうございます♪
あー!そんなタイムリーだったとは😃 YAMAPからヤマレコにデータを移行しているので、昔のレコをあげまくっていて恐縮してましたが、少しでもお役に立てたのなら幸いです!
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