南アルプス南部縦走(池口岳〜三伏峠)
- GPS
- 126:00
- 距離
- 62.6km
- 登り
- 7,141m
- 下り
- 6,059m
コースタイム
7:50トサカ西尾根登山口〜10:05モノレール終点10:25〜10:50青薙山頂付近11:00〜12:10マナイタ平〜15:25鶏冠山北峰〜16:15笹ノ平
●8月14日(日)
5:30笹ノ平〜7:00池口岳南峰〜7:45池口岳北峰8:05〜10:25加加森山10:40〜13:45光石14:00〜14:15光岳〜14:30光小屋16:35〜16:50イザルヶ岳16:55〜17:15光小屋
●8月15日(月)
4:50光小屋〜5:00イザルヶ岳5:20〜6:05三吉平〜7:05易老岳7:15〜8:25希望峰9:15〜10:05茶臼岳10:35〜10:50横窪沢分岐点〜12:30上河内岳16:15〜17:05南岳〜18:20聖平小屋
●8月16日(火)
5:25聖平小屋〜5:45薊畑分岐〜6:30小聖岳6:35〜7:35前聖岳9:05〜11:15兎岳11:25〜12:15小兎岳〜13:11中盛丸山14:00〜14:35大沢岳〜15:55百間洞山の家
●8月17日(水)
3:20百間洞山の家〜4:15百間平〜6:05赤石岳避難小屋、赤石岳7:15〜7:35小赤石岳〜8:15大聖寺平〜8:45荒川小屋9:15〜10:50荒川前岳〜13:15高山裏避難小屋
●8月18日(木)
5:00高山裏避難小屋〜5:50板屋岳〜7:40小河内岳、避難小屋8:05〜8:30前河内岳〜9:10烏帽子岳〜9:50三伏峠小屋11:50〜13:55鳥倉登山口
天候 | 8月13日 : 晴れのち霧 8月14日 : 晴れ 8月15日 : 晴れのち霧 8月16日 : 晴れのち霧 8月17日 : 霧一時雨、一時晴れ 8月18日 : 霧のち晴れ |
---|---|
過去天気図(気象庁) | 2011年08月の天気図 |
アクセス |
利用交通機関:
電車 バス 自家用車
・鳥倉登山口〜 伊那大島駅 : 伊那バス ・伊那大島駅〜飯田駅 : JR飯田線 ・飯田駅〜大島バス停 : 信南交通のバス(遠山郷線) ・大島バス停〜家畜飼養管理施設 : 徒歩 |
コース状況/ 危険箇所等 |
特に歩きにくかった箇所を挙げます。 ・モノレール始点〜青薙 : 足場の脆さ、藪 ・池口岳南峰への登り : 倒木、藪 ・光岳への登り : 倒木、藪 |
写真
感想
●1日目(8月13日(土))
[トサカ西尾根登山口〜鶏冠山北峰〜笹ノ平]
7:30頃に池口川沿いの林道終点に車を着ける。
身支度をして歩き始め、5分ちょっとで道路沿いのモノレール始点に着く。登山口はここから20mくらいずれているらしいが、ここのコースはこのモノレール沿いに登って行くため、適当に斜面に入り込む。少し歩くと踏み跡にぶつかり、踏み跡とモノレールを頼りに尾根を進んで行く。この鍵となるモノレールは林業用のものなので、残念ながら僕が車両に乗って移動することはできない。ミカン畑にあるレールと言えば分かりやすいかな。
モノレールが「林業用」とあるだけあり、辺り一帯はスギかヒノキの植樹林だ。始めの辺りの顕著な尾根を歩いているときは良かったのだが、広い単調な斜面になると足場が脆くなり、一歩一歩がずり下がる。斜面に石や砂が崩れ落ちない角度で乗っているというイメージ。砂走りのコースを登って行くと言ったほうが早いか。
悪戦苦闘しながら斜面を進むと次第に低木や下草も増え始め、その藪を掻き分けてモノレールの終点に着く。激しい滑り出しに苦笑いしながら休憩を取る。
再び歩き始め、テープを頼りに少し登ると鹿除けネットの門に出くわし、さらに10分程度登ると青薙という不明瞭なピークに着く。ここからはトサカ西尾根をひたすら東へ進むのだが、尾根沿いには鹿除けネットが延々と続いている。僕が歩いて来た北側は途中でテープが切れているし藪藪、南側はサラッと開けていたので、ネットの下の穴を潜って南側に出て尾根を東に歩き始める。
この尾根の道、踏み跡も薄く良い道ではないが、急登がないので今までと比べるとずいぶん快適に歩け、スピードも上がる。マナイタ平という標板があるピークを過ぎ、広い尾根を行く。植樹林ではあるが、森としては静かで良いところだ。途中、この日唯一の登山者(下り)に会う。
尾根も次第に傾斜が増し、細くなってくると鶏冠山の登りだ。下笹が出始め、所々にバイケイソウも生えている。右前には鶏冠山南峰と思わしきピークが見えるが、ガスが出始めているので山頂に着くころにはおそらくダメだろう。
前半の苦戦による疲労でかなりキツい登りになったが、なんとか鶏冠山北峰に辿り着く。山頂から北東方向に池口岳南峰と思わしきこんもりとしたピークが見えたが、すぐにガスに包まれてしまった。
さて、この鶏冠山北峰から幕営地の笹ノ平へ向けて下りるのだが、探せど探せどそこへ下りる踏み跡もテープさえも見当たらないし、尾根と分かる地形が見えない。しばらく彷徨っていると「遭難」の二文字が頭をよぎったが、良く考えるとテントも食料もあるし、現在地は分かる。それに自分は救助を必要とする危機的状況でもなかった。
一息着いて、地図にある通りに山頂から忠実に北へ単調な斜面を下って行くと、左(西)側が下がっている尾根を見つける。また少し進むとガスの中ではあるが、一目でそれと分かる笹ノ平という広い笹原に入って行く。
適当な場所にテントを張り、水汲みに出る。地図には水マークがあるが、道標も何も無いのである意味探検だ。鹿道が歩きやすいので、それを頼りに進むが、笹原の谷のトラバース道からいきなり水がピューっと出ていることはほとんどないし、それを見つける可能性も少ないだろう。という理由で谷の中央に向けて下り始めると、少しずつ水の音が聞こえてきた。
見えない倒木につまずいたりしながらも水場に到着し、たっぷりと水を補給し汗を洗い流したり拭きとったりする。こういう水場は水道であることはもちろん、汗をかいた体には風呂と同様の価値があるので非常に嬉しい。すねには大きな血の塊が3つあり、ヒルに噛まれたようだが、その気持ち悪いヤツは見ていないので気にしないことにする。
テントに戻り、疲れ果てた体を休ませる。
夜中に起きると明るい月に綺麗な星空。外では鹿がキャンキャン鳴き叫んでいた。
●2日目(8月14日(日))
[笹ノ平〜池口岳南峰、北峰〜加加森山〜光岳〜光小屋]
夜露が大量なのでテントはビニール袋に入れて縛る。スカッとした晴れ空ではないがまずまずの天気で、北西には中央アルプスと御嶽山が見える。
少し出遅れて出発は5:30。目前に聳える池口岳の双耳峰を目指して笹を分け分け尾根を進む。笹の丈がスパッツの位置よりも高いため、ズボンが夜露に濡れて冷たい。次第にその水がズボンを伝って靴下を伝って靴底に到達し、靴自体もおそらく前のほうから水が浸みてきて完全に濡れてしまう。カッパを着ておけば良かったと思ったが、もう手遅れだった。
笹原を抜けて樹林帯に入ると所々に赤テープが見えて、途切れたりする。ここはひたすら高いほうへ登るのみだが、倒木が多く歩き易いとは言えない。鹿が作ったか、水の浸食作用でできたトラバース道につられて入り、滝のような沢の縁に出て尾根に戻ったりする。テープが無いところで歩き易いトラバース道に入るのは心理的な問題なので仕方がないと言えば仕方がないが、小ピークを迂回する訳ではないので、結局は同じ高度を登ることになる。南峰北の分岐に出る辺りでは再びトラバース道につられてガレ場の近くに来てしまうが、池口岳北峰が樹間から見えてテンションが上がる。
分岐の近くの二峰間の道に辿り着くと、ザックを置いて池口岳南峰を往復する。
南峰山頂は周囲を樹に覆われていて展望はほとんどないので、鶏冠山分岐の東にあるスペースから南アルプスの秀峰の展望を楽しむ。これから向かう加加森山〜光岳を前景に、聖岳〜大沢岳のライン、その奥に赤石岳と荒川岳、遠くには塩見岳と仙丈ヶ岳も見える。池口岳南峰は標高が2,376mとそれほど高くはないが、これだけの峰々が見えるのはお得だ。
再びザックを背負って高いほうの北峰へ向かう。分岐に出たときはやっと道らしい道になってきたなと思ったが、狭かったり足場自体が傾いていたりしてあまり良い道ではない。北峰もまた展望が良くないが、頂上手前では南側の展望が開け、南峰と笹ノ平、鶏冠山から南に連なる山並みが綺麗に見えた。
北峰山頂で少し休んだ後、北の分岐へ向けて下る。二百名山のガイドブックによるとこの辺りに日本南限のハイマツがあるのだが、「登山道からわずかに外れているため見逃す登山者が多いようだ」と書いてあった通りに見逃してしまった。ハイマツの南限が光岳周辺という記載が多いなかで、「池口岳が南限」という説を確かめたかったのだが、残念ながらそれは叶わなかった。
北の分岐から加加森山までは「山と高原地図」では破線さえも引かれていないが、地元の人が手入れしているのかテープがしっかりあって足場も良く、歩き易い道だ。ヤセ尾根を過ぎた辺りの狭い岩場からは正面に加加森山への稜線、光岳と光岩、信濃俣、その右手には大無間山と思わしきピークが見える。
東の鞍部へ下ると広い草地でバイケイソウとシダが多く茂っている。北のガレ場の縁からは下栗地区、しらびそ峠へ延びる林道、伊那山地が良く見える。目休めし、静かな樹林帯を緩く登って行くと意外に早く加加森山の分岐に着いた。ここから加加森山の山頂は往復5分ちょっと。
分岐で10分程度休んで光岳をターゲットにして再出発する。ここからもずっと静かな樹林帯が続く。何の樹かは分からないが、だいたいが針葉樹で、下草はカヤ、平坦部にはシダとバイケイソウが多い。
2,430mピークを過ぎると道は東に向き、2,381mピークからは南東へ折れる。が、トラバース気味に続いていたテープにつられて北東へ派生する尾根に少し入ってしまう。これは向きがおかしいので2,381mピークに戻って南東方向へ下るテープを見つける。何とも分かりにくい道だ。
南東へ少し下ると、光岳へ約300mの登り返しが始まる。ここに来てまた倒木が目立ち始め、テープも途切れ途切れになる。樹間が狭いところを通らなければならず、折れた枝にザックを擦ったり銀マットに穴を開けられたり。モミの樹の枝は良くしなるので突破しやすいが、顔や胸の高さにあるので面倒だ。こんな尾根直登コースを歩いていると、また歩きやすいトラバース道に誘われてしまう。これもおそらく水の浸食で出来た道だが、しばらく進んだところで行き詰まり、尾根へ向けて適当に登って行く。この域は登山者が少ないはずだが、この間違えルートに踏み跡らしきものがあった。この辺りで北に上河内岳と聖岳が見えたのはラッキーだったが。
やがて赤テープが見えてきたが、またすぐに消えてしまって適当に歩いていたのでガレ場を急登するはめになる。濡れた靴で急登を繰り返してきたせいか、左脚の踵が神経痛のような靴擦れを起こし、非常に痛い。このガレ場を登るとすぐに尾根道に合流し、またも狭い道を通過して行く。
体力的にも精神的にもへばっていたが、人の声が聞こえ始めてすぐ、光岩の分岐に出る。ここまで来ると後はそう長くないので一安心だ。
光岩へ下りて南から西の展望を堪能する。今日歩いた池口岳からの縦走路が見えて良い気分になる。
光岳山頂の展望所も南から西の展望が良く、右下には下のほうの光岩が見えた。光岳〜小屋の道は緩い道で、広葉樹と針葉樹に囲まれた乾いた平坦部にバイケイソウが咲く光景は今までみたことが無く、異様に感じる。所々にオトギリやハクサンフウロの花が咲いている。
14:30、ついに目的地の光小屋に到着し、光岩で会った夫婦と間食を取りながら休む。その後テント場に移動し、外に出した銀マットに横になっていると、後ろでおじさんが「クマだ」と言った。テント場横の草地に現れた大き目の小熊は倒木をボリボリ齧り始めた。距離にして僕の居るところから10mちょっとだったがクマは木齧りに夢中だったので、襲われる可能性はなさそうだ。なのでバッチリ写真を撮らせてもらった。
テントへ荷物を片づけた後、近くのイザルガ岳へ向かう。間のセンジガ原は木道が敷かれていて綺麗な花が咲きそうな素晴らしいところだ。イザルヶ岳への分岐から山頂へは、ハイマツとバイケイソウ、変なクネクネした広葉樹が織りなす風景が異様でまた面白い(あとでアルペンガイドを読み返していると、そのクネクネした樹はダケカンバの可能性が高い)。山頂では北側はガスで見えなかったが西の光岳のほうは良く見えた。
小屋の近くの水場で水を汲んだ後、夕日に照らされるイザルガ岳と富士山の姿にまったり。
●3日目(8月15日(月))
[光小屋〜イザルヶ岳〜易老岳〜茶臼岳〜上河内岳〜聖平小屋]
前日にイザルヶ岳から日の出を見るのが良いと聞いたので、急いで荷物をまとめてイザルヶ岳へ向かう。
居合わせた人たちの間では日の出は雲に隠れてダメかと思われていたが、5時5分、白峰南嶺の笊ヶ岳と富士山との中間辺りからちゃんと顔を出してくれた。スッキリとした晴れではないが、これから向かう北東部の稜線、大きな上河内岳と聖岳、その裏には赤石岳の稜線が見える。
イザルヶ岳を後にして、静高平という舟くぼ状の岩がゴロゴロしたところを下って行く。ここは平らではないが何故か静高平という名前。道の脇の草地にはバイケイソウ(既に枯れ)やトリカブト(花あり)が生えていて良いところだ。
道端の水場で冷たい水を飲んだあともしばらく下りが続き、やがて樹林帯に入って行く。
三吉平というところが最低鞍部で、ここから緩い登りになる。途中、左手が開けた崩壊地前の広場からは易老沢、奥茶臼山へと続く山並みが見える。ここでテント場で一緒だったグループに下山前の記念撮影を頼まれる。良い山旅だったようでこちらも良い気分になるが、僕の山旅はまだまだこれからだ。
易老岳は展望のないピークだったので、軽く間食を取りながら少し休んだらすぐに再出発する。ずっと緩い登りだったが前日の踵の靴擦れの痛みがひどかったので、仁田岳の分岐である希望峰で応急処置を施す。痛む部分の両サイドをガーゼとハンカチで盛ってテーピングで止め、位置や厚さを何回か調整していると何とか耐えられる程度になった。
仁田岳はガスガスだったので、パスして茶臼岳へ向かう。少し下って樹林間に広がる草地の中を進む。マルバダケブキの花やバイケイソウが多い。右手に現れた仁田池は晴れていれば茶臼岳を水面に映すらしいが、ガスだったのでただのため池程度にしか見えなかった。茶臼岳へ登りにかかると辺りはハイマツ、礫、岩場になり、強風を受けるようになる。しかしこの登りはさほど長くはなく、間もなく山頂に到着する。
南の空はまずまず晴れているので畑薙ダムが見えるが、北側はダメだ。それでも30分休憩して出ようとしたところで流れるガスの合間から上河内岳との鞍部、二重山稜部が少し見えた。
鞍部を過ぎ、稜線を左に巻いて平坦部に広がる花畑を歩く。この時期でも咲いているものは意外に多く、コゴメグサ、ウメバチソウ、ヤマハハコ、マツムシソウなどが見られる。前方には上河内岳のゴツゴツした山肌が見えるが、ガスで山頂まで見えないのが残念だ。道はやがて礫状になり、竹内門という自然のオブジェを通過する。この辺りで下りの人たちからライチョウ目撃情報が入り、それを期待しながら歩いていると2、3分で見つけることができた。親1羽に子4羽の家族は僕から少し離れて行ったが、ジグザグ道を一度折れるとまた近くから見ることができた。
上河内岳へは皆ザックを分岐に置いて上がるが、僕はザックを担いで上がる。ガスで何も見えないが、いつか晴れ間が現れることを期待して山頂に居座る。寝そべって休憩、ラーメン、コーヒー、谷川岳の“山と高原地図”...
相変わらずの強風とガスは全く好転せず、16時ごろに雨が降り出したので、諦めて4時間弱居座った山頂を後にする。
聖平小屋まではコースタイム通り1時間半と見ていたが、南岳までの斜面に花が沢山咲いていてなかなか進めない。タカネナデシコ、タカネヒゴタイ、ウスユキソウ、タイツリオウギ、トリカブト、マルバダケブキ、オトギリ、ミヤマアズマギクなど多くの花が咲き誇る。チングルマは花を落として実となったものが多いが、花がしぶとく残っているものもある。
南岳から聖平までは「これでもか!」と言うくらい長く下らされる。聖平小屋に書いてあった標高を見ると、2,260m。上河内岳からマイナス543m、聖岳までプラス753mの登り返しだ。これを日を分けて歩けるだけでも良しとしようか。
●4日目(8月16日(火))
[聖平小屋〜聖岳〜兎岳〜小兎岳〜中盛丸山〜大沢岳〜百間洞山の家]
前日寝入るのが遅かったために少し寝坊して出発は5:25。聖平まで出ると小聖岳と前聖岳の山体が現れる。前聖の山頂は少しガスがかかっているが、登頂時は大丈夫だろうか?
薊畑の分岐辺りではバイケイソウやミヤマトリカブト、マルバダケブキの群落がすごい。同じころ、朝日も射してきて明るい中を歩いて行く。
花畑と樹林帯を抜けると礫状の斜面になり、後ろの視界も開けてきて光岳周辺の稜線も薄らと見えてくる。まもなく着いた小ピークの小聖岳からは、ゴツゴツした山肌をハイマツが覆う前聖岳の山体を仰ぎ見ながら登って行く。道脇にはところどころにチシマギキョウが咲き、急峻にはタカネビランジという可憐な花がへばり付いている。
礫状のジグザグ道を何度も何度も折れながら登ると、やがて前聖岳の山頂に到着し、急いで赤石岳の展望を目に収められるところへ進む。西からガスが早いスピードで流れていて途切れ途切れではあったが、兎岳から赤石岳までのラインを何とかみることが出来た。一番見たかったものが見えるか見えないかは非常に大きく、心の中で「見たぞー!」と呟いた。奥聖岳も最初は見えていたが、写真を撮ろうとする頃にはガスに覆われていて、そこへの往復も諦めることにした。
光岩で会った夫婦と再開し、ハイマツの陰でガスと強風を凌いでおやつをもらいながら展望待ちの休憩をとる。1時間半待ってみたが(その間赤石岳の山頂が見えたのは登頂時を除いて1回だけ)、一向に天気が好転しないので前聖岳を離れて兎岳へ向かうことにする。
岩礫の斜面を大きく下って行く。ガスで遠望は利かないのでところどころに咲いている花々が心の支えになる。ウサギギク、ゴゼンタチバナ、ウスユキソウ、ミヤマダイモンジソウ、ミヤマシオガマ、ミヤママンネングサ、イブキジャコウソウなど。タカネビランジはやはり岩壁にへばり付き、その周りにイワオウギが広がっている。
鞍部を過ぎ長い登り返しを攻略すると、兎岳の山頂に着く。またもガスで何も見えないが、ここには今まで手の届かないところに生えていたタカネビランジの塊が3つほど根を張っていて、これを近くで見て撮れたのが嬉しかった。
兎岳を離れるとまたも岩礫斜面を下って小兎岳への登り返し。続けて下っての登り返しは中盛丸山。この日の目的地、百間洞山の家も近くなってきたのでここでチキンラーメンを食べながら大休憩をとる。この山頂の標柱はプレートが落ちていて大きく傾いているのが印象的だ。
また鞍部に下った後、百間洞山の家への近道を見送り、大沢岳へと登って行く。大沢渡の分岐を過ぎて斜面を登っていると、ガスが流れて後ろの視界が開けて久々に100m先が見える。たかが100mだが、これだけでもけっこう嬉しい。大沢岳の山頂付近は大岩がゴロゴロしていて西側が崩壊地となっているが、南北に通る道は高低差が少なくさほど体力を消耗しない。北の無名峰が見えてくると鞍部まで下りて少し登り返し、無名峰のハイマツの中のトラバース道を北東方向に進んで行く。
しばらく歩いているとガスが抜けてきて、百間洞から聖岳、正面の百間平への斜面が見えてきたので、大下りの前に聖岳の全景が見えるまで待ってみる。山頂付近にかかる雲はなかなか動かなかったが、薄らとしたシルエットは視認することができた。
テント場に下りてザックから体を解放し、小屋へと向かう。テント場は小屋で場所を決めてから張るシステムだったが、ザックを置いた場所が誰も関与しないところで良かった。テント場から小屋までの道は百間洞沿いに付いていて、脇にミヤマシシウド、ミヤマトリカブト、ミソガワソウ、ヨツバシオガマ、タカネグンナイフウロなどの花が咲いていた。
テントを張っていると聖岳のカクカクっとしたシルエットが見えてきたが、山頂だけは見せてくれず。
ガードが堅いなー。
●5日目(8月17日(水))
[百間洞山の家〜赤石岳〜小赤石岳〜荒川前岳〜高山裏避難小屋]
赤石岳での展望はもちろん、荒川三山から千枚岳の展望もできれば楽しみたい。そこでこの日は荒川岳の分岐から千枚岳までを往復して高山裏避難小屋、もしくは翌日の荒川三山の展望を求めて千枚小屋への縦走を狙い、3:20にテント場を出発する。3,4日目にはなかなか分からなかったが、5日目にしてようやく食糧が減ってザックが軽くなったことを実感する。
百間平までの登りは礫状斜面の中だがほとんど土のジグザグ道になっていて、月明かりがあれば問題なく進める。右手後ろには聖岳が暗い中でもしっかりと存在感を出している。
こんな時間でも登っていると暑いので上着を脱ぐが、何故か4時ごろからガスに包まれ、お馴染みの強風が吹いてくる。あの月明かりと星空で「今日は行ける」と思ったのだが...
百間平は暗くガスの中ではあったが、平原にハイマツが延々と広がっているのが分かった。晴れていれば素晴らしい景色が広がっていることだろう。
百間平を過ぎてからしばらくは馬の背という緩い傾斜の稜線、そして稜線を右手に巻くと赤石岳への急登が始まる。斜面は岩だらけで花も何もなかったが、比較的なだらかな山頂台地に入って行くと、礫地を好むチシマギキョウやタカネシオガマなどの花が見られる。
間もなく赤石岳避難小屋に着き、ベンチで休んでいると「寒いから中に入れ」と小屋のおじさんに入らせてもらう。小屋の玄関に付いていた温度計は10℃を示していたが、この温度で強風ガスでも登りなら半袖で行けてしまうようだ。小屋のおじさんに天気を聞いてみると「明日も今日と同じようで、下り坂」とのこと。悪沢岳が百名山とはいえガスの山頂は懲り懲りだし価値を見いだせないので、千枚岳往復or千枚小屋までの行程は諦めることにする。
小屋で1時間待ったが晴れないので仕方なく出発する。赤石岳から少し下ったあと小赤石岳へ登り返し、また礫状の斜面を下って行く。斜面を下りたところの大聖寺平は緩やかな鞍部にハイマツが広がり、ここからは稜線東のトラバース道を荒川小屋に下って行く。
荒川小屋からは荒川前岳のカールに広がるお花畑に入って行く。鹿の食害のため、ネットで仕切られた区域に出たり入ったりしながらジグザグに登る。広範囲に広がるお花畑には、ウスユキソウ、ミヤマシャジン(ヒメシャジン?)、オンダテ、ハクサンフウロ、イワギキョウ、タカネイブキボウフウなど沢山の花が咲いていた。
荒川前岳、中岳の分岐に着くと、雨が降り出したのでカッパに着替える。すぐ後ろを歩いていたお兄さんに別れを告げたかったが、彼も同じように雨具に着替えていたのかなかなか上がって来ないので分岐を離れることにした。彼は光小屋からほぼ同じ行程、テント泊で来ていて何度か顔を合わせて話していたのだが、千枚小屋までを往復して北へ進むので僕の行程が遅れない限りまた会うことはできない。
分岐から少し上がると荒川前岳の山頂に着く。話には聞いていたが、荒川前岳の南西斜面は大崩壊地で崩壊面が山頂まで迫っているため、標柱の土台が半分宙に浮いている。前岳の山頂からは300mほど稜線沿いに進む。1箇所だけ崩壊壁の縁を通過させられるが、その他は危険ということで「×マーク」で稜線の道は閉ざされ巻き道が付けられていた。
稜線を離れるとカールの中の岩礫斜面をずっと下って行く。そこを下ると草地、やがて低樹木間の狭い道になり、虫が大量に舞っていて木の葉から雫が落ちてくるのが非常に不快だ。
道はやがてトラバース道になり、これも狭くて歩きにくいが、木が次第に低木の広葉樹から針葉樹に変わっていき、歩き易い道になる。樹林間に花は少ないが、セリバシオガマ、それからハリブキという大きな葉で赤い実を付けた植物が印象に残る。
高山裏避難小屋まであと20分という辺りに水場があり、宿泊者はここで水を汲んでいけと書いてあったので給水する。2リットルだが、急に重くなったザックが疲れた体にのし掛かる。
小屋に着くと主人は水汲みに行っていたが暫くすると戻って来たので、反対方向から歩いてきた人と一緒に受付をして、説明を受ける。
主人は作業服を着た60代くらいのおじさんで、怒りっぽいというか、はっきりズバズバといった喋り方をする。
「そこの2段目のテント場、広いし今までも皆2つ張っているから張れるな。」とか。
居合わせた中年男性は最初、おつりが合っているかどうか聞かれたときの返事が小さかったので、「返事をはっきりしろ!」と怒られていた(笑)。
それでも水が足りなかったら自分で30分かけて汲んできた水をタダで分けると言っているし、優しい面もある。また別の人に聞いた話では、「この主人と17年来の付き合いで、目的地がここで酒を差し入れに行く」という人がいたそうだ。
個性的だが合う人は合うし、絡むと面白そうな人だ。
15時ごろから空が晴れて荒川岳の斜面や奥茶臼山周辺が見えたが、テントの中に居た17時か18ごろから雨が降り出した。
●6日目(8月18日(木))
[高山裏避難小屋〜板屋岳〜小河内岳〜烏帽子岳〜三伏峠〜鳥倉登山口]
5:00出発。針葉樹の中のなだらかな道を板屋岳へ向けて歩いて行く。道脇が少し開けた箇所では今旅ではお馴染みとなったマルバダケブキ、バイケイソウが多い。風車のようにクルッと紫色の花弁を付けたトモエシオガマもところどころに咲いている。
危険な崩壊斜面の縁を過ぎると展望のない板屋岳に着き、その先でも針葉樹間の道を歩いてときどき崩壊斜面の縁の道、といった繰り返し。樹林間は穏やかだが木の無い稜線に出ると強風が吹き荒ぶ。こんな中でもミヤマシャジンやトウヤクリンドウなどが風に耐えて咲いているのにはたくましさを感じる。
やがて道はハイマツの中に入り、小河内岳へと傾斜を増して行く。ガスのためかは分からないが、山頂が見えないために「その岩場、斜面を越えたら山頂だろう。」と思う箇所が沢山あって騙される。それでも暫く歩くと小河内岳の山頂に着き、近くの避難小屋に寄ってコーヒーを頂く。
小屋を出て、前小河内岳、烏帽子岳へと風の激しい稜線を進む。この風を受けるのはこの日が最後なので、手を広げて体じゅうで受けてみる。今旅を象徴するような思い出深い強風ガス。慣れてくれば、これが心地良くさえ感じる(というのはウソだが)。
烏帽子岳から少し下りるとダケカンバやナナカマドの樹林帯に入って行き、また少し下るとタカネマツムシソウが咲き乱れるお花畑に入って行く。ここも鹿の食害から逃れるためにネットが張られている。
お花畑を過ぎるとすぐに三伏峠、小屋に着く。翌19日の天気予報は元々悪いと言われていたので、20日に回復する可能性を少し期待して2泊+塩見岳ピストンも考えていたが、小屋の主人に天気を聞いてみるとやはり「20日もダメ」とのことであっさり諦めて下山することにする。
鳥倉からのバスの時間まで大分余裕があるので、ここでラーメン、コーンポタージュ、味噌汁、カフェオレなど残っていたものをいろいろ消化した。
2時間くらい休んで11:50ごろ下り始める。
途中、塩見岳から下りてきたおばさま2人と、中盛丸山から行程が一緒だったおじさんの即席パーティに混ぜてもらう。このおじさんは鳥倉から入って塩見岳を往復し、三伏峠から光岳までを往復で歩いているツワモノ。しかも所々で絵を描いて、GPSでとったログと合わせてブログにアップしている。他人のテントで寝させてもらい、その代わりに翌日別の小屋の晩飯をおごったことなど話していたし、何かと良く絡んできて面白い人だった。
道は綺麗な樹林間の道で、やがて空が晴れて光が射して来た。小河内岳〜板屋岳(?)辺りの稜線、大日影山が見え、「あそこを歩いてきたんだね」とおじさんと充実感に浸る。
バスが来る30分前くらいに鳥倉の登山口に着き、おばさま方にパンやミカンやウインナー、お菓子をいろいろと頂く。いつもと違うものが食べられるのが嬉しい。
バスに乗り込みいよいよ南アルプスに別れを告げる。
6日間でもガスのせいでまだまだ物足りなかったが、面白い山旅だった。
こんにちは。
あらためて、クマの姿を見ると生々しく思えてきますね。
その場にいなかったのが残念です。
長旅、ご苦労さまでした。
自分は4日以上のロングをしたことがないので羨ましい気もします。
ところで、光小屋のシャジン系の花、葉っぱがちょっと太い感じもしますが
ミヤマシャジンではないでしょうか。
こんばんは。
野生のクマをあれだけの距離で見られたのは貴重でした。
ほど良い仔グマで良かったです。
光小屋のシャジン系の花、やはりミヤマシャジンでしたか。
調べてみると、ツリガネニンジンは「変異が大きい」と書かれていたので納得できました。
ありがとうございます。
こんばんは。tomuyanです。
樹木なら任せて下さい。
すぐわかりましたよ。・・・夫が。
まず、星型に開いた白い花・・クサギ(臭木)
高山でなくても広島の低山でもありますね。
アジサイ系と書かれていた白い花・・・ノリウツギ
確かにアジサイ系です。(ユキノシタ科アジサイ属)
これも広島低山でもあります。
調べて分からなかったと書かれている白い花は
ミヤマホツツジ これは高山の花ですね。
で、草花は夫もわからなくて私が確認しましたよ。
yonoさんが言われているように葉がすこし幅広いような気もしたのですが北岳の花で確認しました。
ヒメシャジンですね。写真をよく見るとガク部分に特徴のある疎歯があります。
それにしても南アルプスをあんなに歩き続ける体力、若さ羨ましいですね。がんばってください。
ありがとうございます。
これで全部解決しました。
ミヤマホツツジは入念に調べたのですが、結果手持ちの高山植物ガイドブックに載っていたので悔しかったです(笑)。
光小屋付近のシャジンは確かにガクに尖りがありますね。yonoさんのミヤマシャジン案もありますが、ヒメシャジンとさせていただきます。
紛らわしい種は自分でも判別できるように特徴のある部分も撮るような習慣をつけないと。
広島ということで、近場の山でお会いするかもしれませんね。
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